川崎大志の初恋の人がブラコンだった件   作:狩る雄

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第2話 シスコンとブラコン

 『受験生だからな、ほれ』と渡された課題を、今年のゴールデンウイークを使って消化している。そういったセリフを複数人の教師が別々に言ってくるだなんて、もっと教科横断的なことをしてください。新学習指導要領をちゃんと読んでいるかどうか、確認してやろうか。

 

「ゴールデンウィークの間に学校かぁ……」

「明日もだよな。」

 

 宿題をサボるという手もあり、取捨選択もできる。

 だがしかし、俺たちは生徒会役員なのだ。

 

 生徒会の癖にサボるなんて風紀に関わるよね、だなんて生徒会顧問が忠告してくる。俺たちの課された宿題の量も知らない。多くの中学生が塾に通っている現状を考えていない。期待と責任で雁字搦めにして、それが義務なのだと称して優等生という肩書きの模範とする。

 

「なんで勉強なんてするのかなー?」

 

 ファミレスで中学生がやることと言えば、何か。

 放課後デートと答えたやつは恋愛脳だろう。

 

 中間試験も近いのだから、放課後の時間は多くの中高生がここに集まっている。

 

「勉強する意味を考える材料にするため。」

「じゃあさ。なんで勉強するの?」

 

 シャーペンの先をくるくるしながら、尋ねてきた。

 堂々巡りになることを示しているのかも。

 

「俺にとっては。進学や就職、これから学び続けるための基礎知識や忍耐力。それに個人的な事情としてスカラシップ」

「あー、うん。大志君ってたまにむずかしいこと言うよね。うんうん、すからなんとかだよね!知ってるよ!」

 

 私語をしながらの勉強のためだ。決して教え合うためではない。誰かと苦しみを分かち合い、少しでも進んでいれば優越感に浸り、遅れていれば焦りをくれる。最終的にみんなで提出しなかったらだいじょーぶ、だなんて言い始める。

 

「ほれ。勉強に戻りな。」

 

 だからって、たった30分でゲーセン行くなよ。

 さっきまで俺たちの他に4人いたということだ。

 

 これなら、生徒会役員たちと一緒に生徒会室に行けばよかった。

 

「ジュース持って来るけど、何が良い?」

「甘いやつー」

 

 どうやら、かなり疲れているらしい。

 

 だから、砂糖ましましコーヒーでも淹れようかと思って、千葉特産のマックスコーヒーを作ってみる。ドリンクバーでホットカフェオレに砂糖と練乳を混ぜる。試しに一口飲んでみるが、あの味とはならない。

 

 首を傾げて、諦めた。

 

 さっき飲んでいたオレンジジュースでいいだろうと思って、新しいコップに氷と一緒に注いだ。ここで調子に乗ってコーラやお茶をブレンドするやつもたまにいるが、俺はそのようなことはしたことはない。そもそも、好意的に思っている女子にそんなこと決してしない。

 

「うん。ありがとー」

 

 開いた2冊のワークブックかからないよう、中央に置く。

 

「んー?どったのー?」

 

「……いや、どういたしまして。」

「疲れた頭にはいい甘さだなぁー、いつも飲むのはどうかしてるねどね」

 

 ずいぶん甘酸っぱいじゃねぇか。このオレンジジュース。

 

「そうそう、お兄ちゃんってさ。すっごいマッ缶好きなんだよ?」

「へぇー」

 

 挨拶に行くときに持って行けばいいかな。

 

「いつも冷蔵庫にはあるんだよ。1日1本は絶対じゃないかなー」

 

「ペットボトルじゃ駄目なんだな。」

「うーん。そこは、こだわりなんじゃないかなー?」

 

 コーヒーを口に含めながら、片手でワークブックをこちらへ向けた。該当部分をペンで差してくるので、その解説を書き込んでいく。あくまでヒントになるように薄い字で、今回は穴埋め形式を選んだ。

 

 うむむ、とワークブックを返された比企谷さんは唸る。やがて、表情が明るく晴れたのなら理解するまでたどり着けたということだ。

 

「いやー助かるなー」

「数学ならできると自負しているからな。」

 

「じふ……あー、えっとさ。苦手なのは、国語や社会だっけ?」

「まあな。年代とかごちゃごちゃになる。」

 

「お兄ちゃんとは真逆だなー」

 

 文系についてはトップレベルであるらしい。

 全教科トップレベルの猛者には勝てないらしい。

 

「じゃあさ、八幡製鉄所の操業開始はいつ?」

「1901年だろ。」

 

「よくできましたー!」

 

 去年、授業で出た時に大はしゃぎだったからな。

 あれから1週間、毎日クイズを出題された。

 

「そういえば……そろそろ時間だろ?」

「そだね。」

 

 楽しい時間はあっという間だ。

 

 文房具やワークブックを片付け、かなり重い荷物を担ぐ。いわゆる置き勉をできない学級。

 

「お会計はご一緒にされますか?」

「「別で。」」

 

 おそらく女子大生のアルバイトの人だ。

 いわゆる放課後デートに見えたから、尋ねてきたのだろう。しかしお金について比企谷さんはきっちりしているので、もし同時会計限定なのだとしても、割り勘をする。

 

「ありがとうございましたー」

 

 女子大生の人は『もっとお前は見栄を晴れよ』みたいな目線を向けてくる。草食系男子はそんな度胸はない。そんなにお小遣いもない。

 

「この後はどうする?」

「お買い物して帰ろうかなって?」

 

 かばん重いなー、なんてアピールしてくる。草食系男子にアピールポイント作らせるとか、なんだこの小悪魔な女の子。一瞬で惑わされて、『毎日味噌汁作ってくれ』と思わず口に出してしまいそうだ。

 

「ちょうどいい。俺も姉さんに買い出しを頼まれていたんだ。」

「よろしくねー」

 

 

 いわゆる荷物持ち。

 自然と御用達のスーパーへ向いて、歩き始める。

 

 それにしても、姉さんか。

 得意料理が里芋の煮っころがしなあの家庭的女子が夜に出かけることが多くなった。それは今年度に入ってからだ。共働きの父母は遅くまで残業をしていてはぐらかすし、姉本人も言わない。

 

「……なあ。」

「うん?」

 

 俺は周囲をキョロキョロして、比企谷さんにしか聞こえない程度の声を選ぶ。

 

「女子高生がさ。別におしゃれに目覚めたわけでもない。むしろ落ち着いた感じで、黒が大好き。」

「う、うんうん。」

 

 なんだか少し顔が赤くて不安そうな表情なのは気になるが、話を続ける。

 

「それでいて帰りが朝になることもあるって……やっぱり、さ……」

 

「不良かー、そういう年上の人が好みなんだね……」

「不良って……まあ、それが俺の姉の話なんだよ。」

 

 目をぱちくりしている。

 

「あっ、うん。お姉さんのことだよね?」

「まあな。けーちゃんを俺に任せた後は、朝まで帰ってこないからな。だからけーちゃんもすっげー心配しているんだ。初めは……そうそう、けーちゃんってプリキュアが好きなんだけど、初めのうちは姉さんが宇宙に行ってプリキュアになって戦ってるって思っていたんだけどな。」

 

 いやはや饒舌になってしまった。

 

「えっと。大志君もプリキュア見てるんだ。」

「妹と一緒にな。まあ、最近うちの姉さんがいきなり不良になってしまった、という話だ。」

 

「うーん。会ったことないからわかんないけど、いつも大志君が言ってる通りなら何か理由があるんじゃないかなー?」

 

 そう、たぶん何か理由があるのだ。

 ぶっちゃけ不良になったとしても、否定はしない。

 

「何かしら、トラブルに巻き込まれていなければいいんだけどな。姉さんって綺麗だし、ちょっと抜けているところがあるし。」

「う、うん。そうだねー」

 

「最悪の場合の事態を、想定しないとな。」

 

 ふと気づけば、彼女は微笑んでいるがどこか寂しそうで。

 

「えっとさ。お姉さんって総武高なんでしょ?」

「まあ、一応。」

 

 努力家であって、すぐに背負い込む。

 勉強のことも家庭のことも、記憶の欠けた俺のことも。

 

「だったらさ、お兄ちゃんに任せてみるといいよ!」

「姉さんと知り合いなのか?」

 

「うーん。ボッチだからたぶん違うんだけど。ほーし部って言うのをやってるって言ってた!」

「ほーし部って?」

 

「なんかさ。いろいろ相談に乗ってくれるらしいよ!」

「……まあ。高校の方で孤立してないか心配だし、それとなく聞いておいてくれるか。」

 

「うん!」

 

 1人で悩むよりは、誰かに相談した方が少し気が楽になるな。

 


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