川崎大志の初恋の人がブラコンだった件   作:ヒラメもち

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第24話 文化祭前編

 再び、姉さんの帰りが遅くなった。

 

 それは文化祭の準備をしているためであり、裁縫の腕を見込まれて海老名先輩にスカウトされたからだ。そのため、家のことはけーちゃんと俺がある程度引き受けるようになり、俺は受験時期なので申し訳なさそうにしていた。実際のところ、俺は『知識チート』をしているから余裕がある。

 

 話が逸れたが、姉さんが作った衣装は、戸塚先輩のボーイッシュな可愛さを引き立てることに十分役立っていた。

 

 

「ね……ヒツジの絵を描いて」

 

 サハラ砂漠で遭難したパイロットの「ぼく」(葉山先輩)は、星の王子様と出会った。

 

 元々「ぼく」は絵描きになることが夢だった。しかし現実を見るようにと、大人たちは役に立つ勉強をしろと言われてきた。「ぼく」の作風が『シュレディンガーの猫』のような絵だったということも影響しているだろう。万人に理解される芸術とは言い難いものだった。

 ともかく、「ぼく」は夢を捨てて飛行機パイロットとなった。

 

「うん。こんなのが、ボクはほしくてたまらなかったんだ」

 

 上目遣いで美青年を見つめる美少年に、女性の観客がキャーキャーし始める。

 どこか不思議な雰囲気を持つ星の王子様は、「ぼく」の作風を理解してくれた。

 

 そして場面は移り変わり、星の王子様の自己語りが始まる。

 

「ボクは、あの花のおかげで、いい香りにつつまれていた。明るい光の中にいた。だから、ボクは、どんなことになっても、花から逃げたりしちゃいけなかったんだ」

 

 王子は別の小さな星からやってきたらしく、かつていた星に飛んできた種を育てていたら、美しくも、かまってちゃんな『薔薇』が育ったらしい。

 

 ていうか、先程から登場人物が『薔薇』だな。

 『薔薇』すら男子が演じている。

 

「ずるそうな振る舞いはしているけど、根は、やさしいんだということを汲み取らなけりゃいけなかったんだ」

 

 実は我儘な姿は照れ隠しだったらしく、それに気づくことのできなかった王子様は不信感を募らせていった。すれ違いはどんどん大きくなり、とうとう王子様は旅に出ることにした。

 小さな星に『薔薇』を残して、たった1人で学びの旅に出た。

 

 王子様はまだまだ子どもで、純粋だった。

 

 様々な星を巡り。

 様々な人と出会い。

 

 やがて、地球へやってくる。

 

「ボクと一緒に遊ぼうよ。今、すごく悲しいんだ」

「俺、あんたと遊べないよ。飼いならされちゃいないんだから」

 

 星の王子様は、1匹のキツネと出会った。

 

「飼いならすってなんのことだい?」

 

「よく忘れられてることだがね。

 仲良くなるってことさ」

 

 野生のキツネからすれば、人と仲良くなることは、飼い慣らされることらしい。たとえ親しい人との間であっても、何かしら妥協をし、何度も我慢し、人に合わせる。周りに溶け込むことができれば、過ごしやすい。

 やはり、『うまくやる』ことが『友達100人』の秘訣なのだろう。

 

「あんたの目から見ると、俺は、十万ものキツネとおんなじなんだ。だけど、あんたが、俺を飼いならすと、俺たちは、もう、お互いに、離れちゃいられなくなるよ」

 

 親しくなるほど、仲良くしなければならなくなる。

 時には嘘をついてまで、『ぬるま湯』に浸かる。

 それが馴れ合いであっても、大切にしたくなる。

 

 もしくは、初めからどんな関係性も一期一会で済ませてしまう選択肢もある。つまり『野生』でいるということだ。

 たとえそれが、ボッチにしろ、孤高にしろ。

 

「お前が見てきた薔薇は、普通だっただろ?」

「うん。ボクの『薔薇』の花とは、まるっきりちがうね」

 

 地球にたくさんの薔薇があって特別ではなかったことに気づかされた王子様だったが、キツネからは深く関係性を築いた薔薇だったからこそ、特別な『薔薇』になったのだと教えられる。

 

 自分の時間を無駄にするほど、大切になっていく。

 離れられなくなる。

 

「心で見なくちゃ、物事はよく見えないってことさ。

 肝心なことは、目に見えないんだよ」

 

 王子様にとって特別な『薔薇』の花は、決して表面上の美しさだけではなかった。過ごした時間と、その期間で知った内面が、ありふれた綺麗な花を特別なものにした。

 いわゆる『世界で一つだけの花』なのだろう。

 

「めんどうみた相手にはいつまでも責任があるんだ。

 君は、君の『薔薇』の花に責任があるんだ」

 

 そして、関係性を築き上げた人に対して、責任があると伝える。それを聞いた星の王子様は、ほんの少し仲良くなってしまったキツネと別れて、『薔薇』のところへ帰るために、最後の旅に出る。

 

 場面は移り変わり、ようやく「ぼく」が現れる。

 星の王子様の長い自己語りは、遭難した「ぼく」との時間で共有されたものだ。

 

「砂漠が綺麗なのは、どこかに井戸を1つ隠しているからだよ」

 

 遭難した砂漠は過酷だと思っている「ぼく」に対して、星の王子様は砂漠が綺麗だと告げる。少しでも素敵な何かを知ることができたなら、そこに惹かれ、やがて特別となる。

 

 王子様は旅を終えて、『薔薇』のところへ帰ると告げる。

 数日間、苦楽を共にした「ぼく」と王子様の別れである。

 

「王子様、ぼくは君の笑う声が好きだ……」

「ボクたちはずっと一緒だ……」

 

 美青年と美少年が見つめ合い、その別れを惜しむ。

 そして、星の王子様は『薔薇』のところへ帰っていった、らしい。

 

 らしいというのは、その描写がないからだ。

 本当に会えたかどうか、確証はない。

 

「ぼくは夜になると、宙に光っている星たちに、耳をすますのが好きです。まるで五億の鈴が、鳴りわたっているようです」

 

 「ぼく」はそう呟いた。

 お互い別れた後、今でも「ぼく」が見上げる星空は、他の人が見る星空よりもずっと、特別で美しいものとして認識されている。それは、星を見る度に、星の王子様のことを思い出すからだろう。

 

 これで、『めでたし』ということだ。

 万雷の拍手とともに、劇は締めくくられた。

 

 たぶん、俺たちのような一般客とは違って、家族や同じ学校に通う人たちの方が、この劇が特別に見えるのだろう。演技とはいえ、普段と違った『キャラクター』を見れるということは、ますます面白さを感じることだろう。

 舞台袖で『おつかれー』の声が漏れていることも、高校生ならではなのだろう。

 

 まさしくハッピーエンドだった。

 だけど、俺は『続き』を期待してしまっている。

 

 星の王子様の物語を読んだことがあるからこそ。

 創作してくれるのではないかと。

 

「……星の王子様、また『薔薇』に会えたのだろうか」

 

「うん。

 じゃないと、悲しすぎるよ」

 

 小町は、俺の肩に頭を乗せてくる。

 

 

『めでたしなんてたった四つ文字で 全てをハッピーエンドにして 1人また1人席を立つ

 エンドロールの先は いつまでたっても望んだ 続きを写さない』

 

 

****

 

 土曜日で学校が休みとはいえ、俺たち4人は制服で文化祭に来ていた。志望校である総武校の受験を見据えて、リハーサルだったり、イメージ戦略だったり。他にも、小町的にも俺的にもセーラー服が可愛いからだったり。

 

「戸塚先輩かわいかったなぁ~」

 

 映画や演劇というのは、感想を共有する時間まで楽しい。

 1粒で2度美味しい。

 

「あの星の王子様の先輩のことか。まあ、確かに」

 

 秋葉は、戸塚先輩が男の娘だと気づいているのだろうか。確かにプリキュアやってそうなくらい、高くて綺麗な声なのだけれど。

 神田さんが少し目を細めた。

 

「……星の王子様ってあんなだっけ」

「まあ、そこは脚本家の影響も大きそうだな」

 

 ふーん、と呟いてコーヒーカップに口をつける。

 

 神田さんはもう十分お腹いっぱいのようだ。

 俺ももう、この食パンは飽きてきた。

 

 文化祭でハニトーやタピオカという女子ウケの良さそうな喫茶をしている教室まで、休憩がてらやってきている。市販の食パンに対して、生クリームとチョコソースとカラフルなチョコを軽くかけただけの、食パンだ。

 偽ハニトーだ。

 

「あっ!

 後輩ちゃんたちも葉山先輩たちの劇、見たんですね!」

 

 亜麻色の髪の先輩が、小町に声をかけてくる。

 

 カフェのエプロンを着ていて。

 たぶん、接客のサボりというところか。

 

「ですです~!」

「葉山先輩すごかったよねー」

 

 ねー♪と言い合っている。

 もっと内容を述べろし。

 

「葉山先輩ってば、モテモテだから今日も満員だったでしょ~? 私もまた行きたかったのに、仕事がねー」

「またまたー そういう先輩もモテるんじゃないんですか~?」

 

「私がモテるって、まさかまさか全然ないって~」

「ほんとかわいいって罪ですよね~」

 

 ねー♪って言い合っている。

 仲良いな、表面上。

 

「まあ、そんな小町も無事に彼氏と付き合うことができたので、もう一安心ですよ」

「え、小町、なに、お米?」

「名前ですよ」

 

 俺の補足に対して。

 へぇーって興味なさげに、先輩は呟いた。

 

「で、お米ちゃん相手は?

 どういう人?」

 

「うーん。草食なとこはキュートだし、口数少ないとこはクールだし、でもかっこいいところあるのがパッションと言いますか~ あとあと、弱気になると甘えてくるの、小町的にギャップ萌えです」

 

 三属性ましましの、偽ハニトーみたいなやつだ。

 中身がただの食パンっぽい。

 

「へぇー、童貞おとぼけブッ飛び野郎ってことですねー。すごーい。そっちの子?」

「ち、違いますって」

 

 手を前に出して、慌てて訂正した秋葉から、次に俺に対してその『観察』が向けられる。

 

「後輩くん、お米ちゃんと付き合えて良かったね~!」

「いや、ほんと。そう思います」

 

 今思うと、ほんと運がいい出会いだった。

 

「あれ、なんかふわっと淡泊な反応。つまんな」

「そこはほら、小町の魅力にメロメロってやつですよ~」

 

 私の、が強かったな。

 小町に対して、先輩は余裕の笑みを浮かべた。

 

「お米ちゃんたちいつから付き合ってるの? 夏?」

「この夏ですね」

 

「あっ、じゃー、付き合って3ヶ月には気をつけなきゃじゃん?」

「余計なお世話ですよぉーだ」

 

 こんなに小町が取り乱すのも珍しい。

 あれこれ言い合いが始まったけれど、この先輩とはむしろ気が合うからかもしれない。同族というか。

 

 そして俺は、偽ハニトーに再び手を伸ばした。

 もはや食パンだな。

 やっぱり、もう少しトッピング増やすべきだろう。

 

 

 






歌詞利用コード253-7894-5
(俺ガイル3期op, 芽ぐみの雨short ver.)
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