川崎大志の初恋の人がブラコンだった件   作:ヒラメもち

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第27話 祭りの後に

 文化祭後、学校近くのお好み焼き屋にいる。

 

 才色兼備な雪乃先輩、派手な茶髪女子の結衣先輩、とにかく美人な姉さん、あどけない笑顔が超かわいい小町、超天使なけーちゃん、そこに平塚先生や雪ノ下さん、そんな絶世の美女美少女が揃っている場所だ。

 

「そろそろいいと思います」

「ありがとうね、大志君」

「いざ!」

「まあ、待て、材木座。こうやるんだ」

 

 他のメンバーが、八幡先輩、戸塚先輩、材木座先輩、俺なので、女子率が高い。

 だから、長机の真ん中で男子メンバーが固まっていた。誰もがお腹が空いていたこともあって、一気に小さなヘラを持ってもんじゃ焼きに群がり始める。

 

「先輩は何度か食べたことがあるんですか?」

「ああ、外に食べに行くときに何度かだな」

 

 もんじゃ焼きを鉄板に押しつけ、掬い取るようにヘラに絡まらせる。何人かは見様見真似で食べているが、先輩や小町は元から上手だ。

 

「うますぎるぞ!」

「うん。初めて食べたけど、美味しい」

 

 目の前の材木座先輩や戸塚先輩が言っているように、女子メンバーたちからも各自『美味しい』というコメントが聞こえてくる。なんかよくわかんないけど、美味しい料理なのだ。

 

 あと、平塚先生がまたハイボールを頼んでいることがよく目立っている。なんて早いペースだよ。

 

「もう次を準備しているとは、流石だな」

「そりゃあ食べ放題ですからね。それに、中学の打ち上げでやることが多かったですから」

 

 焼肉食べ放題へ行くには、お財布事情が問題。

 

 ここは男子が揃っているテーブルなので、もんじゃ焼きの消費量が数倍以上だ。だから、空いているスペースでもう一度作り始める。今回はキムチもトッピングとして入っているので、ますます食欲が増すことだろう。

 

「比企谷くん、こっちのチーズも食べてみてよ。はい、あーん」

 

 雪ノ下さんがヘラをそっと差し出すとともに、八幡先輩に身体を密着させてきた。先輩の隣を誰よりも先にキープしていたことはそういう目的があったのだろうか。先輩の身体がこちらへ寄り掛かってくる。

 

 待って、逆側に小町いるから。

 だから、先輩の背中を支えて押しとどめる。

 

「ほら、比企谷くん、頑張ってたんだし、ご褒美だって~」

「ひとりでたべれましゅから」

 

 雪ノ下さんが残念そうな表情を見せて、そのヘラを引っ込めたと同時に、八幡先輩は大きく安堵の息を吐いた。戸塚先輩は少し顔が赤く、材木座先輩はぐぬぬという表情で、女性メンバーが3人、明らかに動揺した。

 

 小町はキョロキョロとして、ニヤニヤした。

 なお、平塚先生はぐびぐびと飲んでいる。

 

「姉さん。その男を甘やかすのをやめなさい」

「そ、そうです。そういうのはちょっと……」

 

 対面から、雪乃先輩がはっきりと声をかけている。

 続いて、隣にいる結衣先輩も静止にかかった。

 

「ありゃ、ガハマちゃんまで。ほほう?」

 

 よほどの鈍感じゃなければ気づくだろうけれど、いつの間にかそうなっていたとは予想外だった。しかも、恐らく同時期ということが、思わず頭を抱えたくなるくらいだ。

 

 俺や小町の予想だと、どちらの『線』ももっと時間がかかるものだと思っていた。その真意までは読めないとはいえ、雪ノ下さんもかなり気に入っているし、先輩なんで急にモテ期来てるの。

 

「しかし、打ち上げってこんなんでいいのか?

 もんじゃ食ってるだけだけど」

 

 先輩はそう呟いた。

 

 俺は食べながらも手を休めることなく焼いていて、材木座先輩の食べる手も止まることはない。小町、姉さん、けーちゃんの組み合わせでは、完全に家族団欒している。けーちゃんにとってもんじゃ焼きは、少し栄養価的に優れているとは言い難いので、普通のお好み焼きも食べている。

 

 平塚先生はおつまみにして、ぐびぐびビールを飲んでいる。

 

「そういや、後夜祭って何やるんだ?」

「去年だと、ライブハウスで歌ったり踊ったりしてた。なんかアゲアゲな感じ?」

「僕も行ったけど、ちょっと顔見せたくらいだったよ」

 

 楽しげに語る結衣先輩はともかく、苦笑いを浮かべている戸塚先輩がそのノリに付いていけないとなると、八幡先輩や雪乃先輩は行ってもすぐに帰りそうな雰囲気のようだ。

 

「健全でよろしい。大人になると、打ち上げっていうとすぐお酒の席になってきちゃうからね」

 

 雪ノ下さんは現役女子大学生ということもあって、女子メンバーがその意見に特に感心を見せた。でも、小町は『そうなの?』という視線を、この場の俺に向けてくれないでほしい。

 

 俺も何度か経験したことはあるけれど、どんなサークルに入るかでかなり変わってくる。新歓でお酒の強要のトラブルが起こったことを何度も小耳に挟みすぎて、オフレコじゃなくて有名な話になっていた。しかし、俺の所属したサークルでは飲みたい人が好き勝手に飲んでいた。

 

「同窓会とかもすごそうだよねー」

「そうそう。成人式の時とか凄かったね~」

 

「結婚しただとか、すでに子供が産まれただとか……うぅ」

「平塚先生、律儀に参加しているんですね」

 

 平塚先生がダウンした。

 若いのに生徒指導やってて、良い人だと思うけれど。

 

「静ちゃんを元気づけるためにも、何かゲームやろっか♪」

「ふっ、それは腕の見せ所だな」

「おー、なんかおもしろそうです!」

「ゲームだー!」

 

 さすが、お酒の席を乗りきってきた猛者だな。

 小町やけーちゃんはワクワクしてるが、闇のゲームだから。

 

「山手線、総武線、どっち?」

「待て。定番なのは王様ゲームだろう」

「先生、なんかおっさんくさい」

 

 再び項垂れた。

 結衣先輩、平塚先生に優しくしてあげて。

 

 

「ほう、女子と、戸塚殿と王様ゲームとな!」

「材木座、おおおおち着け」

「よくわからないけど、八幡も落ち着いて」

 

「王位を争うというのなら、負ける気はしないわ」

「おっ、雪乃ちゃんやる気だな~?」

「ゆきのんたち、なんか怖いよ!?」

 

「おーさまゲームって?」

「大志、よろしく」

「くじ引きで決まった王様はなんでもお願いできる」

「素敵なゲームだよっ! ワクワク」

 

 

 結局、けーちゃんの教育上、お互いのことを話すだけとなった。今のところ、自己紹介したのも名前くらいで、知らないことが多いこともある。

 

「まずは無難に、趣味にしておこうか。ちなみに私はドライブだな」

 

 大人ならではの趣味を述べた平塚先生から、順に趣味を述べていった。テニス、原稿執筆、旅行、料理、折り紙、カラオケ、乗馬、そういうメジャーどころが語られていく。

 

 ……雪乃先輩って乗馬が趣味!?

 

 趣味で定期的にやるものなのか、あれ。

 動物園や牧場くらいだろう。

 

「あたしも料理かなー」

「あれからどうなんだ?」

 

「ヒッキーはなんでゆきのんに聞いたの!? これでもママの料理してるとこよく見てるんだからね! この前だって卵焼き味見してもらったじゃん!」

「ええ。味は問題ないレベルに近づいているわよ」

 

 噂に聞いたレベルから、少しずつ上達しているようだ。

 

「それで、後輩君は?」

「普段はけーちゃんや小町と遊んでいますね。

 あとサブカルもにわか程度には」

 

「あー、大志君たち仲良いもんねー」

 

 羨ましい、という視線が結衣先輩から向けられるが、それはどういう意味なのだろうか。兄弟姉妹がいないことなのか、付き合っている人がいることなのか。

 

「じゃ、最後は比企谷くんかな?」

「趣味……、に、人間観察、とか?」

 

 結衣先輩や雪乃先輩が、身を守るように腕を組んだ。

 雪ノ下さんは面白い答えに腹を抱えて笑っている。

 

「お兄ちゃん、小町は恥ずかしいよ」

「先輩のそれは、特技というか習性というか」

 

 フォローできるわけがない。

 

「そういえば八幡って、家で何しているの?」

「えっ、いや別に……」

 

 恥ずかしがるお年頃なのか、先輩。

 

「小町ちゃん? お姉さんたちに教えて?」

「えーと、帰ってくるとソファでだらだらテレビ見て、その後は部屋で勉強か読書かゲームかですね」

「へぇー」

「我も似たようなものだぞ、八幡」

 

 まあ、普通の生活だな。

 はっきりと趣味とは言い難いけれど。

 

「じゃあ、休日は?」

「えっと、まず朝からプリキュア観て泣いて、その後はスーパーヒーロータイム見て……で、録画したプリキュアもう一度観て泣いてますよ」

 

「プリキュアかー、そう言えば、大志君もだっけ」

 

 夏祭りの時に、綿菓子を買っていた時のことか。

 

「そうですよ。姉さんとけーちゃんと一緒に見てます」

「ちょっ、大志!?」

「うん。プリキュアすきだよ!」

 

 生きてるって感じがするのだから、毎週の楽しみだ。

 視聴後に、LINEで先輩と感想を語り合うまである。

 

「わぁー、ほんと仲いいね」

「千葉の兄弟姉妹だからな」

「まー、そういうわけで小町もいっしょに見てますよ」

 

「雪乃ちゃん、姉妹一緒にだって~?」

「どうせ見るなら1人で見るわ」

 

 雪ノ下さんの肩をぐいぐいと押し返す先輩。

 この2人もなんだかんだ仲が良いな。

 

「そんな雪乃ちゃんはねー、自分の部屋でパンダのパンさんクッション抱えながら、ネットで猫動画漁ったりとかねー、これがまた超真剣な顔なの」

「姉さん!!」

 

 恥ずかしさで赤くなっている顔を両手で隠し、雪乃先輩の肩はぷるぷると震えている。

 

「わるい……?」

「おっ、開き直った」

「でもでも、兄もよく家では猫と遊んでますね。だから、雪乃さんと同じく、趣味は猫かもです」

 

 カマクラか。

 おままごとでよく、赤ちゃん役をやっている。

 

「ヒッキー、犬もいいと思うよっ!ねっ!」

「ああ。夏にちょっとの間、預かったな」

 

 どうやら話題は、猫派と犬派のことになったようだ。

 それにしては、修羅場な感じだけれど。

 

「八幡、ウサギも可愛いよ」

「おう、それもそうだな、戸塚」

 

「第三勢力!?」

「お兄ちゃん、ちゃんと選んでよ!」

「これは面白いことになってきたね~」

 

 いや、ほんと、修羅場なんだけれど。

 姉さんも参戦しそうだし。

 

 

 

*****

 

 もんじゃ焼きやお好み焼き、そして会話でお腹いっぱいになって、各自解散していく。雪ノ下さんは二次会をやるということで、少しフラフラな平塚先生と歩いていった。

先生は、明日仕事のはずなんだけど。

 

 雪乃先輩たちは、駅に向かって行った。少し遠いとはいえ総武高まで歩いていける範囲の比企谷家や川崎家と違って、他のメンバーは電車で帰ることになる。

 

「はぁー、帰るか」

 

 八幡先輩は欠伸をこらえながらも、帰ることを伝えてきた。

 

「たーちゃん、おんぶ」

「はいよ」

 

 けーちゃんも疲れているようで、両手をこちらへ差し出してきた。

 背中を向いてしゃがむと、ギュっと首に小さな手が回され、背中に確かな重みを感じる。隣にいる姉さんが変わろうかという視線を向けてきたが、大丈夫だと表情で伝える。

 

 けーちゃんは、こっくりこっくりしているようで、そのうち寝息を立て始めるだろう。

 

「ここ来るまでに、大志君に聞いたけど。

 またお兄ちゃん、なんかやったんだって?」

 

「ん……まあな」

 

 先輩は自分のこととなると、親しい相手にすらほとんど話さないし、むしろ親しい人に関係する時こそ自分で問題を抱え込む癖がある。

 

 雪乃先輩も結衣先輩も、他にも戸塚先輩も材木座先輩も、噂として耳にしているようだった。たぶん、八幡先輩にとっては、決して良い結果をもたらすものではないだろう。

 

「で? どうかしたか?」

「ううん。お兄ちゃんが奉仕部がんばってるんだなーって思っただけ」

 

 そして、来年度入学する小町にとっても、かもしれない。

 

「小町は大丈夫だから」

「だな。俺と違って上手くやってるし、それに」

 

 先輩は、ちらりと俺の方を見た。

 

 シスコンの先輩が、俺を頼りにするだなんて。

 決して平気ではなく『痛み』を隠している。

 

「相模先輩、あれで成長できたんでしょうか」

「いや、特に変わらんだろ。人間そんな簡単にはな」

 

 人気者になりたい、目立ちたい、誰かに見てほしい、そういう漠然とした『承認欲求』があったのだろう。

 もちろん、変わるきっかけを与える場所と機会、そして与えてくれる人たちもいただろうけれど、相模先輩はそれを受け入れることを拒んだ。ここで重要なのは取り繕った言葉ではなく、主観的に感じる充足感だ。

 

「その人、文化祭の委員長だったの?」

「ああ。一応な」

 

 たぶん1年前の秋葉のように、人の上に立って責任者になることに慣れていなかった。自分よりも優秀なリーダーシップを取れる人が周りにいたことも、劣等感を芽生えさせるには十分な要素だ。もちろんそれは恥ではないし、学校は学ぶ場である。しかしコミュニティとして考えるのなら、『失敗』はしたくはないだろうけれど。

 

 ともかく、最後には、八幡先輩がその対局的な存在となって、無理に行動を起こさせた。八幡先輩が代わりにダメージを負った結果が残っている。

 

「今度の体育祭で、相模先輩に代表者をさせて、とか」

「荒療治だな、そりゃ。ていうか、え、俺また委員やんの」

 

 働きたくないでござる、そんなオーラが滲み出ている。

 

「あくまで、例えばですよ」

「でもでも、お兄ちゃんがかけっこで速かったら、みんな褒めてくれたり!」

「そんなの小学生までだろ。しかも俺が目立ってどうする」

 

 体育祭があることは知っていても、まだ中学生の俺や小町は深く関わることはできない。この文化祭で先輩は、悪目立ちしてしまった。どういった範囲に広まり、どういう期間、それが続くかは分からない。

 

「今度なんかやる時は私たちに頼みな。

 ……その、友達なんだから」

 

 そういう姉さんも頼まれたら弱いからな。

 最近は演劇の裁縫で寝不足だったし。

 

「ほら。戸塚先輩は優しいし、材木座先輩は暇でしょうし」

「ああ、あいつは暇だろうな」

 

 文化祭が過ぎ去り、再び日々に戻っていく。

 本当に、日々に戻ればいいのだが。

 

「まあ、今度頼る時が来たらな」

「言質、取りましたから」

「ゲンチだからね、お兄ちゃん!」

 

 こうやって軽口を叩き合っていることは、楽しいと感じる。だが、たとえ伝わっていたとしても、再び先輩は効率よく1人で、あれこれこなしてしまうのだろう。そういうことに慣れすぎている。

 

 今回も俺や小町はほとんど関わることができなくて。

 せめてあと1年遅ければ、なんて思ってしまった。

 

 

 

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