川崎大志の初恋の人がブラコンだった件   作:ヒラメもち

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第34話 雪乃さん結衣さん流出阻止大作戦(前編)

 

 あれこれ考えていたが、これといった解決策が出てこないまま、寝落ちして朝を迎えた。

 精神的・体力的にも多少は無茶できていたはずだが、成長期のこの身体は睡眠を欲しているらしい。

 

 時間がない。

 情報が足りない。

 

 受験が近づくにつれて、相変わらず作業量の多い授業を受けている最中には名案が思いつくはずもなく、あっという間に放課後を迎えた。

 

「……川崎、悩み事か?」

 

 ちょんちょんと肩をつついて話しかけてきたのは、重そうなスポーツバッグを肩にかけた秋葉だ。受験対策用の参考書も含んでいて、受験を前に程よい緊張を感じているのだろう。

 

「あー、まあ、俺自身のことじゃない」

「な、なるほど?」

 

 彼はちらりと、スマホ片手に談笑を始めている女子グループに目を向けた。聞き手に回ることの多い神田さんも、ムードメーカーの小町も、今は自然に笑みを浮かべていた。

 

「小町の兄さんの方でちょっとした問題、いや、依頼か」

「ああ。先輩の方か」

 

 先週、小町の気分転換には秋葉や神田さんも付き合ってくれた。文化祭の時に1度会ったきりとはいえ、小町からいろいろと聞かされているから、2人も兄妹喧嘩のことをとても心配していた。

 

「なんかすごいな。誰かのために部活やるってのは」

「生徒会も、一種の部活みたいなものだっただろ、第〇期生徒会長」

 

 放課後に生徒会役員が集まり、定期的に変わっていく目標に対して、みんなでやり遂げる。奉仕部が個人向けであることに対して、生徒会が集団向けであるから、どちらも誰かのための働く集団だ。

 

「いや、俺なんか。最初は、ほら、あれだったしさ」

「小町が仕切っていたな、確かに」

 

 秋葉は周囲に流されるままに生徒会長になった。モチベーションが低かったというより、むしろ張り切りすぎて、空回りしていた。しかし、1年間休むことなく、生徒会長を務め上げた彼は間違いなく成長した。

 

 思い出を振り返るように、彼は自分の黒髪をがしがしとする。

 

「なになに、小町がなんだって?」

 

 紺色の上着をすでに羽織っている小町が、机の前からグイッと身を乗り出しながら話しかけてきた。たぶんPコートかダッフルコートのどっちかだ。同じく黒色のコートを羽織っている神田さんは、感心した表情を見せた。

 

「少し、生徒会のことでな」

「あー、そのことねー」

 

 いやはや、スキンシップとまではいかないが、最近はいろいろと距離が近くなっている。女子が言うような『かわいい』だとかで、おもしろがっている節もあるし。

 

 荷物を手早く片付けた俺が席を立つと、あれこれ挨拶を残しながら、いつメン4人組で教室を出た。

 

 喧騒の絶えない靴箱から、外に出ると、寒さに身を少し縮める。

 教室に残って自習するクラスメイトもいるが、だんだん暗くなる時間が早くなっているので、30分もすれば完全下校時間となる。遅くまで学校に残るのは、野球部や吹奏楽部といった熱心な部活動か、または生徒会かといったところだろう。

 

「で、何の話だったのー?」

「生徒会長よく頑張りました、って話だな」

 

 高校の生徒会選挙の件かと思っていた小町は目をパチクリさせたが、話を理解すると大きく頷いた。

 

「うんうん。俊哉君も立派になったよ。ねー」

 

 まるでお母さんポジションのように褒めつつ、小町は、歩調を合わせていた神田さんに顔を寄せる。

 

「うん、そう思う」

「か、神田さんまで……」

 

 年相応な、中学生らしい距離感だ。

 

 いわゆるステレオタイプなデートより、こういった帰り道だけで、お互いドギマギしてしまうものらしい。こっちの場合は、ほら、俺が小町にドキドキしちゃうのが顕著すぎるし。

 

 あれこれと思い出を振り返りながら、小町が褒め褒め。

 きっかけはともかく、充実した日々だっただろう。

 

 だから、件の依頼者に、生徒会長になってもらうという選択肢が、解決策として再び思い浮かぶが、こればかりは本人のやる気の問題だ。そう簡単には、やめようにもやめられないし、最低1年は耐えなければならない。

 

「ばいばーい!」

 

 これから予備校に向かうためバスに乗る、秋葉と神田さんとは別れた。バスに向かって声を出して、手を振っている小町だったが、やがてこちらへ振り向いて、顎をくいくいし、まさしく『面を貸せ』って感じだ。その仕草すら、可愛いのだけれど。

 

 少し早歩きで、道草を食うことにする。

 

「やー、難しい顔してるなって」

「そんなにわかりやすかったか?」

 

 秋葉にもお悩みを聞かれたし、授業中だってアイコンタクトを交わすことのある、小町にはお見通しだったようだ。

 

「うん、わかりやすいよ。だれかのことになると特に」

 

 そして小町は、安心させるがごとく、キリッとした顔になる。

 

「小町は、作戦を思いつきました!」

 

 えっへん、と胸を張った。

 あざとかわいいな、ほんと。

 

「まずは大志君のお姉さんでしょー、あと戸塚さん、でもって、材……あの大きい人ね」

「材木座先輩のことか」

 

 『そうそう』と言いつつ、携帯を取り出した。

 まあ、歩きスマホというやつだが、そこは俺が気をつければいいし。

 

「それで、話し合いってことか?」

「そ。ほら、猫を借りたいときってあるじゃん?」

 

 どうやら、うちの姉さんにも連絡をしているようだし、一応俺経由で知っている材木座先輩にも、連絡を入れたらしい。まあ、俺は強制参加だし、姉さんもけーちゃんを迎えにいく帰りに来るだろう。

 

「猫の手ねぇ……」

「うん? 背中かくやつ?」

 

 『それは孫の手じゃなかろうか』というツッコミはさておき、どうやら、先輩たち3人を集めるわけではないらしい。いや、まあ、今がかなりデリケートな状態なのは分かる。

 

 

「ともかく、雪乃さん結衣さん流出阻止大作戦だよ!」

 

 

 そんなこんなで、話し合いの場には、総武高付近のサイゼが選ばれた。しかし、想像していたよりは、お子様ランチというものが充実していなかったので、俺たち姉弟はけーちゃんとシェアしながらの夕食だ。

 

 さて、戸塚先輩に直接会うのは夏休み以来だが、材木座先輩とは『小説家になろう』談義で、何度か連絡を取っているため、久しぶりというわけでもない。彼の『フォッカチオにガムシロップ』は、けーちゃんが真似したら困るなと姉弟で思いつつ、司会の様子を窺う。

 

「由比ヶ浜殿か、雪ノ下殿か、どちらかが生徒会長になるんだったな」

「まあな。あいつらが生徒会長になったらどんな学校になると思う?」

 

 材木座先輩の発言に対しての、先輩の言葉通りに受け取ったとしても、そこまで大きく変わる気はしない。

 

「我には優しくない世界になりそうだな、うむ」

「なんか楽しい学校になりそうだね、お兄ちゃん」

 

 小町が楽しそうで、けーちゃんも楽しそうだ。材木座先輩は懐柔されたわけだが、それで納得できるほど、表面上は笑顔の小町も、甘くはない。いまだこの3人にだって、完全には気を許しているわけではないらしい。

 

「雪乃先輩も結衣先輩も当選させないという話ですが」

「それで、今更、何かできるの?」

「うん、2人とも話題だよね」

 

 姉さんも戸塚先輩からしても、学校の有名人及び生徒会選挙については、耳に入っているようであり、2人のどちらかが当選すると思っていたらしい。俺からすれば、別々に立候補していることが悩みの種であり、奉仕部が想像以上に拗れている気がする。

 

「やっぱり、キツいか?」

「そこをなんとかするんでしょ。あんたはあの部活でやってるほうが合ってるし」

 

 先輩本人は半信半疑で首を傾げているが、姉さんの言う通りだ。材木座先輩は腕を組んで大きく頷いていて、戸塚先輩なんて女子店員さんが立ち止まって見惚れるくらいの笑顔だし。

 

 『関係性を守りたい』、それくらい分かるくらいには、時間を共にしている。

 

「小町、そういやお前らはどうやって選挙に勝ったんだ?」

「小町たち? うーん、うちの場合もなー」

 

 確か、文化祭の時に、先輩には似た状況だったと説明した。違いとしては、解決のために動く人がいなかったことと、あくまで秋葉は好意で持ち上げられたことだ。

 

「いちおー、信任投票だったんだけど」

「それでもいい、選挙戦略とかないか?」

 

 信任投票になるように仕向けた、のは確かだ。

 俺も小町も、アフターケアに回るためとはいえ。

 

「立候補する前に、小町たちがやるよーって宣言したくらいかな。そうすれば、よほどのことがない限り、対立なんかしてこないからね」

「先に役職まで定めて言いふらしておけば、迷っている人は、できるだけ空いている役職を選ぼうとしますから」

 

 学校によっては、立候補者同士、裏で話し合いで決めたりもありそうだ。

 それに、足りなければ、どうにか教師陣で説得して、人数を補填したり。

 

「でも。雪乃さんも結衣さんも、生徒会長狙いでしょ?」

「そうなんだよなぁ……」

 

 生徒会長の立候補者が3人以上いるって、事情を知らなければ、すごくいい学校に見える。いや、受験生だから、いろいろ調べてるけれど、普通にいい学校っぽいけれど。

 

「学校側として、対応は?」

「いや、雪ノ下が自分の意志で立候補するのなら、教師陣はむしろ協力的になるだろうな。今はどうにか、平塚先生が時間稼ぎしてくれているが」

 

 いまだ解決策は、先輩も見つけられていないようだ。

 

 心配そうなけーちゃんを安心させるためにも、今日の話し合いで解決策まで導かないとならない。

 

 

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