川崎大志の初恋の人がブラコンだった件   作:ヒラメもち

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第35話 雪乃さん結衣さん流出阻止大作戦(後編)

 

 雪乃先輩は、まあ、一度決めたことは譲らないというか、意志が強いほうだけれど。たぶん、結衣先輩も今回は2人のためだから、彼女自身が考えた解決策について、譲らないだろう。

 

「なんかもう、まじヤバいじゃん」

「それある。まじヤバい」

 

 比企谷兄妹が、真顔で『ヤバいヤバい』言い始めた。姉さんたちも、内心思っていたようで、時間も人脈も足りない状態だ。そして、正式に立候補するまでが期日として、だから今日のうちに解決策を見つけなければならない。

 

 「他の候補者は、やっぱり無理そうですか?」

 

 先輩個人としては、何度も聞いた内容だろうが、確認のためにも聞いてみる。姉さんや材木座先輩たちも、まず提示する方法ではあるだろう。

 

 「ああ。そこらのやつじゃあ、あいつらには勝てない」

 

 人気という意味でも、女子という話題性でも、確かにそうだ。普通科の結衣先輩、国際科の雪乃先輩って感じで、えーと、たぶん三浦先輩や葉山先輩くらいじゃないと、対抗馬にはなれないだろう。それに、この方法だと、生徒会選挙という本番に、問題を持ち越ししているにすぎないし。

 

 かぐや様は告らせたい、とかでも、裏でいろいろ描写はあったけど、最終的には演説における正統なアピールだった。ともかく、雪乃先輩や結衣先輩が、生徒会長になりたいかはともかくとして、強い意志を持って立候補しているということだ。そういう意味を含めて、彼女たちに勝てる人を擁立する必要がある。

 

「かてなくても、みんなでたたかお?」

 

 どんよりした空気に、川崎家の天使が助言をしてくれた。

 確かに、そのために集まったのだ。

 

「そうだな。プリキュアはあきらめない」

「けーちゃん、トロピカってるな」

 

 1人では勝てなくとも、複数人で。

 時には、ミラクルライトを振ってみんなで。

 

 生徒会選挙について、ほとんど話が飲み込めてはいないだろうが、勝つための方法としては、けーちゃんの思いつきはナイスアイデアだ。

 

「候補を、もっと増やす、とか?」

「いや、それだと、票が割れるだけだな」

 

 俺のつぶやきに対して、先輩が首を振った。

 1人あたりの票は抑えることはできるが、結局は得票率の高い立候補者が勝つこととなる。

 

「えっと、1年の人たちに立候補してもらうよう働きかけて……」

「俺や材木座ができるとでも?」

「待て。我を同列に語るな」

 

「で。雪ノ下も由比ヶ浜がやらないんなら、誰がやるの?」

「今からじゃ間に合わないかもしれないよね……?」

 

 話が逸れていたか。

 姉さんや戸塚先輩の言う通り、根本的な解決ができない。誰かが生徒会長になる意思を見せなければ、それは秋葉のケースのような、押しつけにすぎない。それに、誰かを犠牲にする解決策は、もう望まないだろう。

 

「そもそも、あの2人に勝てるのか? 戦力差を考えてみよ」

「えっと、僕のほうは、部活で声をかけてみるけど」

 

 材木座先輩に言われ、先輩は俺たちを見回したが、肝心の総武高生が4人しかいない。

 テニス部員といっても、それは全校生徒の割合からすれば、足りない。

 

「前も生徒会だった人や、副会長に立候補してる人がいれば、どうにか……」

「いや、それがな、あいつら生徒会長は遠慮したいってな。めぐりんパワーすごくてな」

 

 めぐりん、先輩か?

 たぶん去年の生徒会長のことだろう。

 

 姉さんたちも『それな』って表情をしているし、さぞ人気だったのだろう。つまり、生徒会長に立候補するハードルが上がっているということだろう。そこに現れたのが1年女子であり、もしかすると雪乃先輩や結衣先輩も立候補しそうで、次期生徒会長に対する期待は大きくなっていそうだ。

 

 さて、隣の彼女さんが浮かない顔をしているが。

 もしかして、他の女子のことを思い浮かべたせいだろうか。こんなにかわいくて、引く手あまたな小町だから、むしろ俺のがちょっとした浮気すらしちゃダメな側だから、浮気ダメ絶対なのだけれど。

 

「小町は、別にお兄ちゃんに勝ってほしいわけじゃないよ」

「ていうか、あんた選挙にも出てないよね」

「まあ、たしかに……」

 

 俺含めて、どうやら2人に勝つにはどうするかを考えてしまっていたらしい。今のままでは、その目的は好意的であるとはいえ、部外者として特定の派閥に対する反対派としての立場でしかない。

 

 まあ、戦うのは悪者じゃないし、むしろ、『本当はすっごくかわいいんだよ』って、さんごさんも言ってくれそうな2人だ。ていうか、3人はチームだからこそいいのだし、そのために今の状況をどうにかしたい。

 

「お兄ちゃんって、依頼と部活、どっちが大切なの?」

「いやー、それはだな」

 

 まるで、妻が夫に聞かれると弱る、ランキング上位な質問のようだ。先輩はろくろを回して、どうにか答えを言おうとしている。

 

「じゃあさ、その依頼してきた人って大事なの?」

「いや、まったく」

 

 重ねられた質問に対して、即答する。

 まあ、だからといって、誰も彼も構わず、切り捨てるような人じゃないのは、わかっている。むしろ、少ない手札で、自分を真っ先にカードとして扱うような人だし。

 

「なら。小町は思うんだけど、別にその人」

「お前のいいたいことはわかる。だが、一色を無理やり生徒会長にさせる気はない」

 

 そう、言い切った。

 

「ん、わかった。だって、小町のお兄ちゃんだもんねー!」

「ねー! こまちのおにーちゃん!」

 

 小町は呆れたように微笑み、気難しい顔をしていたけーちゃんをギューッとしてスキンシップを始めた。解決策の1つとして、言いたいことは言い終えたので、小町にとってはちょっとした休憩時間だろう。

 

 いやな役回りになろうとするところ、小町にも少なからずあるらしい。

 

「……こうなったら、一色と交渉するしかない、か」

「交渉できそうなんですか?」

「女子と話せるのか、八幡?」

 

 その人のことをほとんど知らないが、依頼してきた本人としては、生徒会長になりたくない意思を見せているのだろう。いや、材木座先輩の話は、先輩個人の問題なのだが。

 

「一色って、確か1年のやつ?」

「それなりに有名らしいな。あれだ、全然可愛くないし可愛げもない小町」

「だいたいわかりました」

 

「おにーちゃん? たいしくん?」

 

 相槌を打ったら、俺まで巻き込まれた件。

 

「あれだな、小町は可愛いってことだ」

「はい、小町は可愛いです」

「わわっ、大志君が珍しくストレートに言ってくれた。これはこれで、まあまあいいね」

 

 一体、何を納得したのだろう。

 ごめん、いざ言おうとしたら、『す……』で止まるんだ。

 

「えっと、普段から言ったほうがいい?」

「それはそれでなんか違うかな」

 

 というと?

 

「ほら、大志君は、顔に出るのが可愛いんだよ。服を褒めようって、がんばってるとことか、小町的にめちゃめちゃポイント高いのです」

「……はい」

 

 これは、あれだな、完全に尻に敷かれている。

 言った小町自身も照れているから、ますます照れる。

 

「「けっ」」

「2人とも仲良いんだね」

 

 先輩からは最近はマシになったはずなのに、一気に出会った初期くらい目が腐り始めている。

 やだなーもう、お義兄さんってば、小町のことを任せてくれる流れだったじゃないですか。

 

 戸塚先輩は、心からの祝福をしてくれるし、ほんといい人だ。

 姉さんに至っては、親の顔だし。

 

「はい、それで。一色さんって人には、先輩から?」

「ん、ああ。これが意外と話が通じるやつでな」

 

 おっと、これは新たなタイプの女子が出現なのだろうか。先輩がある程度その人のことを、『小町のようだ』って断言するくらいには、ちょっとしたシンパシーを感じているのだ。

 

お兄ちゃんにまだ伏兵がいたなんて

「ふーん」

 

 気が合う関係というのは、次第にその距離が近づいていくものだ。

 がんばれ、姉さんも。

 

「さてと。生徒会長にいいかもってやつ、上げていってくれ」

 

 先輩は鞄から、ルーズリーフを1枚取り出して、シャーペンであれこれと書き始める。考えをまとめることにもなり、それだけ先輩が本気になっている証拠だろう。

 

「これは実際に立候補するかはともかく、な」

「じゃあ、三浦さんや葉山君とか?」

「ふむ。先日の体育祭を考えると、相模姉もではないか?」

 

 雪乃先輩と結衣先輩はもちろんだが、三浦先輩や葉山先輩、戸部先輩、そして相模先輩、どうやら俺や小町でも知っている名前が、綺麗な字で、箇条書きされていく。

 

「その、あんた、とかどう……?」

「そりゃ面白い。けど、30人も推薦人は無理なんでな」

 

 姉さんが絞り出した言葉に対して、ケロッとした顔で返事をする。いや、まあ、それなりに気を許しているけれど、たぶん異性としてほとんど意識してないな。前途多難だ。

 

「あれ、一色って人にやってもらうんじゃないの?」

「ああ。最終的にはな。これは一色に対する、当て馬とか噛ませ犬だ」

 

 小町の疑問は、俺も抱いており、そうは言われても納得とまではいかない。

 

「戸塚、お前の名前も借りていいか」

「えっと、よくわからないけど、変なことしないなら、いいよ」

 

 戸塚先輩を書き加えつつ、口元がニヤニヤしている。

 材木座先輩は『見事だ』というようなグッジョブをした。

 

「これ、みんなに、お兄ちゃん頼んでいくの?」

「ああ、無理だな。だから戸塚以外、勝手に借りる」

 

 いろいろと斜め方向に行くことが、得意だよな、この先輩。

 あとから、問題にならなければいいけれど。

 

「さっき話にちょっと出たが、立候補者を乱立させるためだ。いや、立候補者の候補ってところだな」

「お兄ちゃん、どういうこと?」

 

 俺の出した机上の案とは違って、実際に立候補させることはない。

 たぶんSNS前提の方法だろう。

 

「例えばTwitterを利用した、『選挙の予想』ってところですかね」

「方法は詰めていくが、そんなところだろうな」

 

 雪乃先輩も結衣先輩も、生徒会長に立候補しようとしているのは、一色さんの代わりということだ。だから、一色さん自身が生徒会長になる意思を見せれば、2人は立候補する必要がなくなる。

 

「つまり、信任投票に持ち込むって感じで、結局のところは一色さんを生徒会長にする?」

「ああ。一色が生徒会長になれば、そもそも依頼がなくなる」

 

 相槌を打ってから、先輩はペンを置いた。

 

 そもそもの依頼を撤回させるといっても、これが成功すれば、一色さんにとってもプラスになるかもしれない。無理やり立候補させられて落選したということは、それはいじめに加担した人たちの思い通りになってしまう。いくら平塚先生あたりからの教育的指導が入ったとしても、内心がすぐに変わるかは分からない。

 

「えーと、そんなにうまいいくの?」

「いや、これは、時間稼ぎや牽制の意味合いが大きい。署名である以上、推薦は一度きりだから、雪ノ下たちが推薦人を集める際に、署名を求められても少しは悩む」

「有利なのは、良くも悪くもすでに立候補できている、一色さんというわけですね」

 

 重要なのが先輩の交渉だけどな。

 一色さんと、そして、2人それぞれに。

 

「うまくいくかどうかともかくさ、これヤバいんじゃない?」

「そうだよ、お兄ちゃん?」

「ああ。だから、バレないようにやるんだ」

 

 姉さんや小町に早速心配されたが、先輩は自分の携帯を振りながら見せる。

 

「材木座、Twitterのアカウントいくつ持ってる?」

「裏垢、鍵垢、別垢、規制垢まで持っておるぞ?」

 

「あー、そうやってやるのかー」

 

 普段からTwitterをよく使っている、小町は理解したようだ。

 

 世界的なSNSではあるが、高校という範囲においては、いわゆる表垢というもので繋がっている。誰かがリツイートをしてくれれば、こちらの提示したツイートは、チェーンメールのように広がっていく。ただ、ちゃんとFFが多い人まで行き着く前提なのだが。

 

「これで、架空の応援アカウントをつくるんだ。ただし、中の人がいるようにそれっぽく」

「だが、ただ作ってもそう簡単には広まらんぞ」

「芋づる式に、片っ端からフォローしていくことになるでしょうね」

 

 ソースは、『春から〇〇(大学)』や、新歓の勧誘。

 

 フォロー・フォロワーという機能があり、表垢において、総武高生同志がある程度は繋がっている。もちろん、鍵垢にしている人もいるが、フォローリクエストを送ることはできるし、情報自体はリツイートで目に入る可能性も高い。

 

「でもさ。これ、一色さん本人が見たら、どうなるの?」

 

 小町がそんな疑問を抱いたようだが、確かにそうだ。雪乃先輩はともかく、結衣先輩や一色って人は普段からTwitterをやっていそうだ。ほかにも、三浦先輩なんて、友達まで巻き込まれたら、首謀者を探し出すかもしれない。

 

 危ない橋を渡っているが、他に方法がないし、時間もない。

 そう自分に言い聞かせる。

 

「それはあれだ、『まだ本人にも秘密にしてるんだ♪ きゃぴるん♪』とか入れときゃいいさ。それに、勝手に応援する分にはいいだろ」

 

 ああ、一色さんって、そういうキャラなのね。

 『きゃぴるん♪』なんて初めて聞いた。

 

「ん-、そうかもだけどさ」

「そこはアドリブだな。材木座、半分いけるか?」

「よかろう」

「俺も手伝いますよ。インスタとTikTokのほうでアカウント1つ作って、Twitterとリンクを繋げます」

 

 さて、アカウントは『自称選挙委員会』でいいか。あと、さすがにディスコまでいくと、そこは総武生としての表垢じゃなければ、厳しそうだ。

 

「ああ、そっちはよくわからんから助かる。ただ、2人も正体の露見だけは避けてくれ。3日間でいいからなんとか誤魔化してほしい」

 

「任せろ。伊達に昔、IPをぶっこぬかれてビビったりしておらん」

「掲示板、匿名でもそういうのありますからね」

 

 さすがに長期間ならともかく、3日間程度の垢の運営ならば、そこまでヘマはしない。それに昔、周囲の悪ノリで、大学の新入生に紛れさせられた経験があるし。だがあれは個人的にだが、気の進まない文化だ。

 

 帰宅してからは少し忙しくなるが、これで一息つける。

 まあ、小町は浮かない表情だけれど。

 

「小町、どうした?」

「ほんとにだいじょうぶかなって」

 

 交渉材料を作ることが、ここまでの話し合いで決まったことだ。だから、正式に立候補させるための一色さんとの交渉、そして立候補阻止のために2人との仲直りは、先輩次第のままだ。

 

「ちゃんと、雪乃さんと結衣さんと話してね?」

「ああ。大丈夫、なんとかするさ」

 

 どれだけ上手く誤魔化しても、これからやることについて、雪乃先輩も結衣先輩も薄々気づくのだろう。姉さんや小町が心配している『バレる』というのは、特にこの2人に対してのリスクだ。

 

 それでも。

 

 このまま、生徒会選挙という場で、3人が対立する結末を見たくはない。

 争わないために、策を弄するしかなかった。

 

 

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