俺は/私は死にたくない!~死亡√は断固拒否です~   作:黒三葉サンダー

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残念ながら少しだけシリアスが続くんじゃ。

そして今回ヤベー長いです。


魔王の剣と呼ばれてしまうもの

何故だろうか。何か嫌な予感がする。

 

まるで選択肢を間違ってしまったかのような、じわじわと背中から鳥肌が立つような焦燥感と呼ぶべきか。

 

「大丈夫だアリシア。父上はとても強い。魔狼の一匹や二匹なんて父上の敵にもならないさ」

「お姉様……。そうですね。お父様ならすぐに片付けて帰ってきてくださりますよね」

 

俺の底知れぬ不安が顔に出てしまっていたのだろう。お姉様は俺の頭を優しく撫でると、ニッコリと微笑んでくれた。

ティオも何も言わないけれど、その顔にはありありと此方を心配している様子が見られる。

 

「……よし!アリシア、今日はアリシアの召喚魔法を研究しようよ!」

「召喚魔法、ですの?」

「うん。アリシアの得意な動物型の魔法」

 

ティオは少しだけ頭を悩ませた後、名案を思い付いたとばかりに瞳を輝かせて提案してきた。

うーむ。まさかティオにまでバレるとは。そんなに分かりやすかったか。

 

にしても召喚魔法とな?別に召喚してる訳じゃ無くて作ってるだけなんだけども、それも召喚扱いにしちまうのかいお嬢さん!

 

「でもあれは魔法で動物型にしてるだけですわよ?」

「それはそうなんだけど。でも動物魔法よりも召喚魔法の方がかっこいいと思うけど、どう?」

「むむ……」

 

た、確かにティオの言い分には納得出来る。

動物魔法だ!と呼ばれるか召喚魔法だ!と呼ばれるか考えると個人的にも後者が一番かっこいい。

こう、折角ファンタジーゲームの世界にいるのだから多少なりともカッコつけたって良いよね?

 

「……召喚魔法にしますわ!」

「チョロい……」

「チョロい妹も可愛い過ぎて辛い……!」

「あらあら~」

 

な、なんだよ!皆してそんな幼い子供を見るような目で見るなよ!チョロいっていうな!

確かにまだ幼女だけどさぁ!?

ティオもお姉様も似たような年だろぉぉ!?!?

 

 

 

 

 

────────

─────

───

 

 

 

 

 

 

 

━━━━魔狼討伐隊

 

 

 

「しっ!!」

『グルァァウ!』

 

 

襲い来る魔狼へと剣を薙ぎ切り払うと、シグムッドたちを囲んでいた魔狼たちが低い唸り声を発しながらもギラギラと照りつくような瞳を此方へと向け続けている。

彼の近くでは腕に覚えのある村の男たちが同様に魔狼たちへと剣や槍を向けているが、その姿は幾度とない魔狼の攻撃によってボロボロになってしまっている。

シグムッドも仲間を助けようと動こうとするが、その尽くを十数匹の魔狼に妨害されていた。

 

「くっそ!どんだけいやがんだ!倒しても倒してもどんどん出てきやがる!」

「無駄口叩いてる暇はねぇ、ぞ!」

「うぉりやぁぁ!!」

『Kyan!?』

 

斧を持った男が飛び掛かってきた魔狼の頭を斧でかち割ると、その隙を狙ってもう一匹が彼の隙だらけな背中へと食らいつく。

 

「デヴィッド!後ろだ!」

「なに───」

『GURaaaaa!!』

 

槍を持った男がそう叫ぶも、デヴィッドは斧を振り下ろした反動で動きが遅れ魔狼の鋭い牙が振り向いたデヴィッドの喉笛を勢いよく噛み切り、デヴィッドは呆気なく絶命した。誰が見ても即死であった。

 

「てんめぇぇぇぇぇ!!」

「よせっ!!ダム!!」

 

魔狼がシグムッドたちへと見せつけるようにデヴィッドの死体を前足で押さえつけると、その首をブチブチと強引に噛み千切った。その魔狼の顔はシグムッドたちを、否人間たちを嘲笑っているかのように見える。

 

デヴィッドは村一番の働き者であった。己の子供が結婚して村を去った後も、デヴィッドは妻と共に村の為に働き続け、己の子供とは関係なく村の子供たちを我が子のように可愛がってくれていたし、老いて辛くなってきた畑仕事を老人の代わりに行ったりしてきた。彼に感謝する村人は沢山いる。間違いなく村人の皆を支えてきた頼もしい男であった。

 

そんな男が犬畜生に足蹴にされ、あまつさえ魔狼は彼の死を冒涜するかの如く首を噛み千切ったのだ。

魔狼のその行いに、デヴィッドと旧知の仲であったダムと呼ばれた槍を持った男が耐えられる訳がなかった。

 

シグムッドはダムの様子に危機感を覚え、止めようとするもダムの行動が一足先だった。

しかしそれは誰が見ても悪手だ。現在彼らが戦っている魔狼たちは今までシグムッドたちが戦ってきた個体の中で最も統率がとれている。ダムがシグムッドよりも戦闘経験があり、また腕が立つのであれば話は変わったかもしれない。

 

ダムは怒りに我を忘れ魔狼の群れへと単身で攻め入り、粗末な槍を振るうも、冷静さを失った槍は軽々と魔狼たちに避けられる。

体勢を崩したダムは我に返り慌てて体勢を立て直そうとするが、それを魔狼たちが見逃す筈もない。

 

「ぐっ!?やめ、離せ!くそ───ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

それぞれがダムの槍へと食い付き、ダムが武器を取られまいと手に力を入れる。しかし魔狼たちの力は強く、振り払うことも出来ず引き倒されると、あっという間に複数の魔狼に飛び掛かられて食い殺されてしまった。

 

「ダムぅぅぅぅ!!」

「っ!!全員これ以上離れるな!!常に背後に警戒しろ!フラッド!俺たちが時間を稼ぐ!すぐに村の皆を避難させろ!女子供を優先的にだ!」

「シグムッドさん!?そりゃ村を放棄するってのかい!?」

 

シグムッドの思わぬ指示にフラッドと呼ばれた男は反発する。

自分たちがずっと暮らしてきた故郷だ。それを捨てろと言われれば少なからず反発も出てくるのは当たり前だ。

無論シグムッドとて生まれ故郷を放棄することなど良しとはしない。それでも今回は退かねばならないとシグムッドは判断した。

 

現在彼が交戦している魔狼達は一般的な魔狼と比べて明らかに特出した個体であり、彼が戦ってきた魔物とは比べ物にならない。いわば異常個体と呼べる魔狼達の標的が自分に向いているうちに村人達を避難させることがベストだと判断したのだ。

 

「そうだ!!皆の命と故郷、どっちを優先させるべきかは分かっているだろう!!」

「っ……くそ!分かったよ!!」

「悪いな……フラッド」

 

頭をかきむしりながらも何を優先させるべきか正しく判断したフラッドはシグムッドの言葉を了承した。

シグムッドはフラッドに感謝すると、一人だけ素早く前に出ると魔狼たちを瞬時に斬り捨てて、道を切り開いた。だが道が開いたままでいられるのは長くない。それこそ魔狼達が彼らが何をしようとしているのか把握しているのか、すぐに穴埋めに回っているからだ。

 

「いけ!フラッド!……妻と娘たちをよろしく頼む」

「あぁもう!縁起でもないこというんじゃねぇ!さっさと逃げてこいよお前ら!」

「分かってるからいけよフラッド!お前が一番逃げ足速いんだしよ!」

 

フラッドは剣を納刀すると、一目散に山道をかけ降りていった。それを数匹の魔狼が追いかけようとするが、その尽くをシグムッドは斬り払った。

魔狼たちはシグムッドを最大の脅威を再認識し、フラッドを追いかけるのを止めた。

そして何度目か分からない殺し合いが始まろうとしたその時。

 

「おや?まだ生きてたのですか。流石は元王国最強の騎士といったところでしょうか。てっきり貴方以外魔狼たちの餌になったと思っていたのですが」

「誰だ!?」

 

自分達と魔狼しかいないと思っていたこの場に、似つかわしくないほど落ち着いた声が聞こえてくる。

シグムッドは勿論のこと、他の男たちも困惑していた。

魔狼たちは先程までシグムッド達に牙を向けていた筈が、先程の声が聞こえてからは嘘のように静かになっている。

いくら魔物に成り果てようとも、獣としての本能はそのまま残っていることが大半だ。それは魔狼達も例外ではない。

ではこの場での本能は何が当てはまるか。

多くは逃走本能だろうか。己よりも格上の相手に挑まず、生き残る為に逃げ出す。なるほどその可能性もあっただろう。

しかしこの魔狼達の様子はそれには当てはまらない。それは一重に逃走しても無駄だと悟っているからか、はたまた己の主からの指示を待っているだけか。

シグムッドはそんな魔狼達の様子を見て、誰よりもいち早く現状を理解した。

 

つまり魔狼達よりも遥かに格上の存在がいるということに他ならない。

 

「おっと、自己紹介がまだでしたか。ワタシの名前はバアル。魔王様の第一の剣。此度は魔王様のお迎えに上がったのです」

 

そんな声と共に空から舞い降りたのは、一人の男であった。真っ黒なコウモリのような翼に額から大きく伸びた二角、縦に割れた瞳孔は真っ赤に染まっており、妖しく光っている。

それはまさに悪魔の特徴そのものであり、魔族と魔物を統べる上位の存在だという確証を得るには充分な要素であることに間違いはない。

 

「バアルだと!?大悪魔バアルは我が父が討ち取った筈!それが何故生きている!?」

「討ち取った?あれで?ク、クハハ!まさか神聖の無いアーティファクト擬きで本当にワタシを討ち取れたと思っていたとは!つくづく人間という種は愚かなものですね!……あんな模造品で我々大悪魔を屠れるとは、思い上がるなよ人間!!」

 

バアルはシグムッドの言葉に呆れ、思わず笑ってしまうとその怒りをぶちまけた。

そう、嘗て魔王の討伐に貢献したシグムッドの父、グリフレッドは男でありなからもアーティファクトに選ばれ、その剣で数多の魔物や魔族を討っていた。

大悪魔であるバアル相手にもそれは変わらず、その時には確かにグリフレッドは死闘の末にバアルを討ち取っていたのだ。

 

しかしそれには見落としがあった。

グリフレッドの持つアーティファクトには神聖が無かったのである。

神聖とは聖属性の上位に当たる。魔族や魔物、中級の悪魔相手であれば聖属性は充分にその力を発揮出来る。

だがそれよりも上位の存在、すなわち大悪魔や魔王を滅ぼす為には神聖属性でなければならないのだ。

 

つまりグリフレッドはバアルを討ち取ることが出来たが、本当の意味で滅ぼすことは出来ていなかったのだ。

だがバアルは自身がさも本当に滅ぼされたかのように姿を消した為、最後まで誰もグリフレッドのアーティファクトがただの聖属性であることに気付けなかったということだ。

 

その真実を知った男達は絶望した。この場には聖属性どころかアーティファクトすら所持していない者達しかおらず、今この場にいる魔狼達にすら押されているのだ。

そんな状況下で大悪魔を相手にするなど不可能としか言えなかった。

 

「ど、どうしてこんな辺境に大悪魔が……」

「クドいですよ人間。魔王様のお迎えに上がったと言ったでしょう。あぁ!魔王様!再びそのお美しい御姿を拝見出来る時が待ち遠しゅうございます!魂まで永久に凍てつかせるような銀の御手で再び触れて頂きたく!」

「銀の手、だと……!?」

 

嘗ての魔王の姿を思い出しているのか恍惚な表情を浮かべるバアルだが、シグムッドの心は平穏ではいられなかった。

バアルが発した銀の御手。それに心当たりがありすぎたのだ。彼の脳裏に浮かぶのは愛らしく笑う娘の顔。

己のことをお父様と呼び慕う、かけがえのない存在だ。

 

(まさか……まさかそんなことがあるわけが!!違う!違う!あの子は、アリシアは俺とレリィの愛する娘だ!!この悪魔が言うような魔王などではない!!)

 

「───ない」

「む?恐れでも為しましたか人間。元王国最強の騎士とはいえ所詮は人間───」

「いかせはしない!!絶対にだ!!!」

 

今までにない程の強い光がシグムッドの目に灯る。それは命を賭してでも愛娘を護ると覚悟を決めた父親の顔であった。

そしてそんなシグムッドの様子に、バアルはニヤリと口を歪めた。

 

「あぁ!あぁ!なるほど、そういうことですか!ならばよりいっそう早くお迎えせねばなりません!貴方に感謝しましょう、勇敢なる騎士よ!我らの魔王様を育てて頂きありがとうございます。そのお礼とは言いませんが、せめて貴方だけはワタシの手で直々に殺して差し上げましょう。クハ!クハハハ!!」

 

バアルが高笑いを上げながら剣を抜き放つと、高速で接近して剣を振りかざした。

シグムッドはそれを冷静に受け止めるが、人間と悪魔ではそもそもの身体能力が違いすぎる。剣を受け止めたシグムッドの足元がひび割れ、その威力を物語る。

バアルの一撃を受け止めたシグムッドから彼らが今まで聞いたことのない苦悶の声が漏れる。だがシグムッドは倒れることはなく、むしろ正面からバアルの剣を徐々に押し返している。

 

「シグムッドさん!!いくぞお前ら!!」

「「「「応!!」」」」

 

初めはバアルの登場に震えていた男達だが、バアルの剣を受け止めたシグムッドを見て正気に戻り、一斉にバアルへと己の武器を繰り出すが、バアルはそれを左手に出現させた剣で同時に凪払うと空へと舞い上がった。

 

「ちっ。チョロチョロと鬱陶しい。貴様らはこいつらと遊んでいなさい!」

 

そう言ってバアルが指示を出すと、木々をなぎ倒して魔物が姿を現した。

その体は男達よりもふた回り以上大きく、口からは2本の長く鋭い牙が伸びており、その手には巨大な棍棒を携えている。それは足元の人間を見つけると、高らかに遠吠えを上げた。

 

「う、嘘だろ………」

「大鬼……!!」

 

大鬼。それは小鬼たちを統べる親玉であり、魔物の中でも強力な個体である。その力は大木を一撃でへし折ることが可能であり、人間が直撃すればどうなるかなど考えるまでも無いだろう。

そして何より厄介なのは、大鬼は己よりも弱い魔物を従えることが出来るという点だ。それは小鬼だけには飽きたらず、魔狼たちも例外ではない。

 

『GURooooooooo!!!』

『『『kuoooooon!!』』』

 

大鬼の指示が魔狼たちへと伝わり、魔狼たちもそれに答えるかのように遠吠えを上げると群れを為して男達へと襲いかかる。その動きは見事なまでに連携が取れており、一人、また一人と動きを止められ引き裂かれ、また棍棒に潰されていく。その様はただの蹂躙であった。

 

「テッド!ラグー!トゥネ!」

「他人の心配をしている場合ですか?」

「がぁっ!!」

 

仲間がどんどん殺されていく中、シグムッドは咄嗟に大鬼へと斬りかかろうとするが、そうはさせまいとバアルが横から剣を振るい吹き飛ばす。

シグムッドもそれに気付き同時に横一閃に剣を振るうも、衝撃までは殺せず大木と体が叩きつけられ、カヒュっと声が漏れた。

久しぶりの強烈な痛みにシグムッドは意識が飛びそうになるが、自らの唇を噛みきり痛みで意識を覚醒させると追撃してきたバアルに強く踏み込んでその剣を振るう。

バアルは脅威的な速度で迫る剣を同じく速度の乗った剣で受けるが、今度は逆にバアルは後方へと吹き飛ばされる。

 

「ぬぅ、まだこれほどの力が残っていたとは。ならばこちらも少し本気を出すとしよう!」

 

「ぐっ!がっ!」

 

バアルは魔法剣を消すと、腰に納刀していたもう一本の剣を抜き、再びシグムッドへと衝突した。

バアルから繰り出される流れるように繰り出される連撃は徐々に速度が上がっていき、シグムッドの体に生傷を増やしていく。

バアルはかつてシグムッドが戦ってきたどの相手よりも強いと彼は実感していた。同時に、この化け物と打ち合えるのは自分だけだとも。

 

(流石に限界が近い……剣が重いな……だが、こいつは。こいつだけはここで殺さねば!!)

 

何よりこの化け物を生かしておくわけには行かない理由がシグムッドにはある。

バアルの目的は魔王の回収。それと過去の魔王の特徴は銀色の腕と言った。

この近くにいる、銀色の腕を持つ存在はたったの一人。

自分の命よりも大切な愛する娘(アリシア)を悪魔などに奪われるなど許せない。許してはいけない。

 

我が子を守れずして何が父親か!!!!

 

彼の消えかけていた気力が沸々と沸き上がり、体の奥底から光が溢れ出て、シグムッドの体を、剣を包み込む。

それはシグムッドも見たことのある優しい光。彼の父と共にあり、そしてルクシアへと継がれた闇を照らす光だ。本来ならそれはアーティファクトに備わった属性。

即ち、聖属性が彼の体と剣を包み込んでいるのだ。

 

『属性とは目に見えぬもの。しかしそれはアーティファクトのみならず、人の心の中にも確かに存在している。アーティファクトはそれに引き寄せられ、それを存分に引き出しているだけなのだ。時としてそれはアーティファクトすら凌駕する。聖なる光も、魔に染まった闇も人の心の中に存在しているのだ』

 

これはかつてシグムッドの父、グリフレッドが遺した言葉だった。この言葉は残念ながらシグムッドやレリィ以外誰にも届かなかった言葉だが、それを二人が忘れたことなど一度たりともない。故に、シグムッドの体が光に包まれようが驚くことはなく、寧ろ神の祝福だと言わんばかりに感謝を捧げた。

恐らくこれはこの一撃のみだろう。だが、それでいい。

 

「これはっ!!何故アーティファクトすら持たない人間風情が!?」

「お前はっ!ここで討つっ!!!」

 

その一撃で敵を討つ!!

 

「無速抜剣───」

「しまっ───」

 

シグムッドは剣を納刀し、構えを取る。それは遥か遠くの島国、火国と呼ばれるところの剣士が得意とする剣術。ここにアリシアがいたならば、その目を見開くような型。抜刀術と呼ばれる特殊な型であった。

過去にグリフレッドが火国から訪れてきた剣士に偶々教わった剣術は子に継がれ、長き時を経てシグムッドの奥義へと昇華していた。

まるで速度という概念を無くしてしまったかのような、剣を抜き振るう瞬間すら見えないそれはバアルへと牙を剥く。

風を切る音も、剣風も何も感じないそれは確実にバアルへと迫っていた。

 

「───八岐斬り!!!!」

「───かはっ……!!」

 

 

シグムッドが振り抜いた剣を鞘へと納刀した瞬間、バアルの体に八つの裂傷が刻まれ、傷口からおびただしい量の血が吹き溢れていく。やがてバアルは白目を剥きながら血の池へと倒れ伏した、

シグムッドも限界を越えて技を放った為に、膝が笑い立つのも辛いが、まだ終わってはいない。大鬼達が残っている。

シグムッドが視線を向けた先では既に戦闘が終わっており、そこには凄惨な状況が出来上がってしまっていた。

 

自分がバアルと戦っている間、彼らは一度たりともシグムッドに助けを求めず己の力だけで魔物達へと立ち向かっていたのだ。助けを求めればシグムッドなら何が何でも助けようとしてくれる。だがそれではバアルを倒すことは出来ない。バアルを倒せる可能性があったのはシグムッド一人だけ。だからこそ彼らはシグムッドが戦闘に集中出来るように必死に抗ったのだ。

その結果、シグムッドはバアルを倒すことが出来たが、その代償は彼らの命だった。

 

魔狼や大鬼が彼らだったものを貪る中、シグムッドは剣を抜き放ち幽鬼のように歩き出した。

自分が彼らを殺したのだと、その罪を背負いながら。

背後でピクリと動いた悪魔の様子にも気付かずに。

 

「……クハ。最後の最後でつまらない油断をしましたねぇ?」

「がっ……げほっ……」

 

バアルの剣がシグムッドの胸を貫き、もう一本の剣を背に突き刺すと左右に手を広げるように剣を振るう。

腹と胸を斬り裂かれたシグムッドは力無く膝から崩れ落ちると、顔から倒れてしまった。

ドクドクと流れ出る血がシグムッドに死を感じさせる。

頭上では高らかに声を上げて笑う悪魔がいた。

 

「クハハハハ!!先程の一撃は驚きましたが、所詮は聖属性!あなたがやったことはグリフレッドと同じなのですよ!ワタシが倒れた後にすぐにでも逃げればこうはならなかったでしょう。何せ再生にも体力は使いますからねぇ。それなのに逃げるどころかもう死んだ仲間の弔い合戦をしようだなんて、殺してくださいと言ってるようなものですよ?」

「…う……あ……」

 

何か言おうにも、もう彼の口は上手く動かずただ悪魔の言葉に耳を傾けることしか出来なかった。

その様子にバアルはニンマリと微笑むと、シグムッドの首へと切っ先を添えた。

 

「さぁて、あなたの首を手土産に魔王様の元に向かいましょうか。ふふ、あぁ見えて魔王様はこういったものが大好きでしてねぇ。可愛らしい御方ですよね?」

「…あ……りし……」

「それではさようなら、シグムッド。せめてこのワタシに傷をつけた人間として、グリフレッド同様名前だけは覚えておいてあげましょう。クハ!クハハハハ!」

 

笑いながら剣を振りかぶったバアルの姿を眺めながら、シグムッドは一人心の中で愛する家族達へと謝罪を残した。

 

(すまない……レリィ、ルクシア、アリシア……お前達を心の底から愛しているよ……。神よ、どうか家族に神の御加護を………)

 

シグムッドの願いが届いたかは神にしか分からない。

だが彼の首が斬られる寸前に見えたのは、今ここにいるはずの無い愛する妻と可愛い娘達の笑顔であった。

 

 

 

 

 




不覚にも書きながら涙が出そうだった……(メンタルくそ雑魚)

早めに学園編を書くべき?

  • ササッとゲーム本編にいこう
  • ゆっくり幼少編やってこう
  • お前の信じたシナリオを行け!
  • アリシアちゃんのイチャイチャはよ!
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