俺は/私は死にたくない!~死亡√は断固拒否です~ 作:黒三葉サンダー
魔王アリスだと?それはおかしい。
先程も言ったように魔王の名前はヴィルヘルムの筈だ。散々苦しめられてきたのだから、その名前を忘れる筈はない。
魔王ヴィルヘルム。【princess knight】のストーリーにおいて正真正銘のラスボスであり、かつて世界を滅ぼしかけた最恐の存在だ。
その戦闘力は規格外。主力キャラ達の強みをまとめて得たようなスキルに高すぎる属性耐性、一ターンの間アーティファクトを使用不可にする【封印】や強制的にアーティファクトのレベルを1下げる【レベルダウン】。アーティファクトの制御を奪う【凶奪】等をあわせ持つイカれた性能をしており、初見で戦った時はあまりのイカれ性能っぷりに天を仰いだこともある。あの戦いがヴィルヘルムだけじゃ無かったらマジで難易度キチってたぞ。
そんな相手を見間違えるなんてあり得ない。ましてや性別すら違うじゃないか!ヴィルヘルムは紛れもなく男性であり、決して目の前にいる偉そうにふんぞり返ってる銀髪美少女ではないのだ!
「と言うわけで断じて君が魔王などとは信じられんのだよ。ラム君」
「いや、どういうキャラよそれ。それにあたしは嘘なんて言ってないわ。むしろこんなことで嘘ついても何もメリットがないじゃない」
「む、むぅ……」
馬鹿を見るかのような目で諌められ、ぐうの音も出ない俺。まぁでも確かに、あれほど強力な召喚獣がいて、しかも的確に制御出来てるなら強いのにも頷ける。
え、じゃ、じゃあマジでラム……ってかアリステルが魔王だって言うことか?
そう納得しかけた時、俺の頭の中で鈴のような音が聞こえた気がした。そして頭に走る鋭い痛みに顔をしかめた。
「だから何度もそう言ってるでしょ。それと名前呼びは止めて。ラムで良いわ」
「……っ!お、おう。わかった」
「……なに?どうしたのよ?」
怪訝な顔をするラムに何でもないと誤魔化すと、ふと下から視線を感じ顔を向ける。するとチィが綺麗な蒼い瞳で俺をガン見していた。その瞳は俺に何かを訴えかけようとしてるようだ。
しばらくチィとにらめっこしてみたが、やがてチィは飽きたのか「にゃあん」と一鳴きした後にまた膝の上で丸まってしまった。
「チィのことそんなに見つめて、そんなに気に入ったの?」
「……チィってさ……」
俺はチィを撫でると、真剣な顔でラムに向き合い胸の内を露にした。
「めちゃくちゃ可愛いよなぁ」
「ってなによ!そんなに溜めるから何かと思って身構えたあたしが馬鹿みたいじゃない!」
バン!と強くテーブルを叩くラムについと目をそらしつつ、ラムとこれからの事を話し始めた。
現状はラムが魔王だという話で進めつつ、今後の目的の擦り合わせも必要だろう。
なにより俺が知らない情報が出てきてしまった以上、これを放置しておくわけにはいかない。
「とにかく、あんたはこれから先はあたしの召喚獣達に認められるように励むことが必要よ。前のファクターは召喚獣と全く相性が合わなかったから、氷精霊を少しでも動かせたあんたには期待してるわ」
足を組ながら優雅に紅茶を飲む様は実にお嬢様らしいが、言ってることはスパルタである。そもそも相性とかあんの?あの巨人とか?無理だろ。俺に懐いてんのチィくらいだぞ。
「動かしたって言っても、あれはラムが表層?ってとこにいたからだろ?」
「それもあるわ。でもそれだけじゃリオは従わないのよ。だってあくまでもバアルを投げるよう誘導したのはあたしの意思じゃなくてあんたの意思だから」
「??」
つまりなんだ?あれは俺の意思に従ってくれたってことか?でもなんで?従う理由がなくないか?
「はぁ……いい?理由はあるわ。それはあんたも言ったように、あたしが本心ではバアルを殺したくないと思ってたからよ。リオはそんなあたしの心情を分かってた。でもあたしが止めようとしなかったから続行してたの。でもあんたがあたしを止めようとしたから、あんたの意思にリオが従ったってわけ」
「ラム……お前、めんどくさい奴だな……」
「うっさいわね!あんたにだけは言われたくないわ!」
「あいだぁ!?」
ラムからの強烈なチョップを食らい、頭を押さえてテーブルに倒れ伏す俺。
こんな美少女ボディになんて事を……傷が付いたらどうしてくれる!?
「安心なさい。ここは精神世界みたいなものだから、現実の体には何も支障は無いわ。それよりそろそろ戻った方が良いわよ」
「へ?」
「あら?気付いてないの?あんた、魔力欠乏症で死にかけてるのよ。今はティオって娘が泣きながらあんたの看病してるわ」
「はぁ!?!?それを早く言えよ!?!?どう戻れば良いんだ!!?」
「はいはーい、近くで騒がないでちょうだい。チィ、任せたわよ」
「にゃあ~♪」
ラムの指示に緩い返答を返したチィがピョコッと膝上から飛び降りると、真っ白い尻尾を左右にユラユラと振りながら歩き始めた。
どうやらチィが道案内をしてくれるらしい。
「あっ、そうそう。最後にひとつだけ」
「えっ?なんだよ」
「あんたは運動が出来なくなった訳じゃないわよ。アガートラームは可能性を引き出す記録媒体、とだけ教えてあげる」
「はぁ??」
唐突に出された訳の分からないヒントに首を傾げるが、しっしっと犬を払うように追い出された俺は仕方なくチィの小さな足跡を追う。
見ればさっき俺が歩いてきた跡は既に雪で覆われてしまっていた。
小さな足跡が消えないうちに急いでチィに合流し、ちょこちょこと軽快な足取りで歩くチィに着いていくと、ちょっとした広間のような場所に出た。
チィはその手前で止まると、俺を促すように鳴くと視線をその場所に戻した。
どうやら俺にここにいけと言ってるらしい。
「ここか?んー?なにもないけ───ど!?」
少し訝しげに近づくと、突如踏み込んだ右足から雪がハラハラと消えていき、ポッカリと大穴が現れる。
そしてその大穴は見事に俺の足元まで広がっていた。
「もうちょっとマトモな起こし方はねぇのかよぉぉぉぉぉ!!」
「にゃああん♪」
そんな俺の叫びも楽しそうに笑うチィの鳴き声に上書きされるかのように消えていき、俺の意識は落ちていった。
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──
「う、うーん……あれ?ここは……」
閉じた目蓋からでも感じる光に、うっすらと目を開けると、見慣れたライトが天井に下げられている。
どうやら意識が戻ってこれたみたいだ。
とりあえず起き上がろうと腕を動かそうとしたら、ふと
右手に違和感を感じる。
やれやれまた右手ねはいはい、と視界をそちらに向ければあら不思議。青髪の美少女が俺の右手をガッチリと握って眠っているではありませんか。
もしかしてこれがラムの言ってた状況??
幸いにも手袋越しだから凍傷にはなってないだろうけど、それでも冷たい筈だ。
自由に動かせる左手でティオの手に重ねてやれば、やはりティオの手もすっかり冷たくなってしまっていた。
体だって冷えるだろうに、ティオはそれでもお構い無しに心配で手を握っていてくれたのか。
「…ありがとう、ティオ」
「ん、んぅ……はれ?アリシア?」
「クスッ。えぇ。おはよう、ティオ」
「……っ!アリシアっ!良かった!起きてくれて、本当に良かったよぉ……!」
寝起きで呂律の回ってないティオが可愛くてにこりと微笑んで見せれば、少しポケーっとした後すぐにくしゃりと顔を歪めて、ティオが抱きついてくる。
「心配させてごめんなさい。待たせたわね」
「ほんとだよぉ……!うぁぁぁ……!」
「あら……困りましたわ……よしよし」
「ティオちゃん、どうしたの──アリシア!!起きたのね!!」
「お母様!」
ティオの声を聞き付けたお母様が扉を開けると、俺の姿を見たお母様が一瞬止まったかと思いきや、一目散に俺の所まで走ってくる。
そこから俺が起きた事に気付いたお姉さまやお父様、ティオのお母様も駆けつけてきて、泣きながらもみくちゃにされたのだった。
色々な衝動があった……暑さがダルい……雨がダルい……マスクが嫌い……ロボットもの書きてぇ……
そんな衝動を全てねじ伏せて俺はここに帰ってきたぜ(白目)