俺は/私は死にたくない!~死亡√は断固拒否です~ 作:黒三葉サンダー
その少女は、平凡だった。
黒い髪と赤い瞳が珍しい子供だった。
何て事はない小さな村で生まれ、両親の愛を受けて、やがて愛する人と共に家族を作り幸せな人生を歩む。
────その筈だった。
場面が変わる。
少女の眼前に広がるのは燃え広がる赤と、決して見慣れる事の無い血、そしてまるでゴミのように転がっている見慣れた人々の骸。
何故、と少女は眼前の地獄絵図に問う。
家は燃やされ、骸は魔物に食い荒らされ、死の匂いが溢れかえっている。
少女は声を上げた。自分の家が魔物に壊され、自分の愛する家族は原型も無くグチャグチャにされていた。
少女は吼えた。真っ赤に染まった視界で少女はそれを手に取った。その行動は少女の破滅の始まりであり、またその行動は決して誰にも語られることはない。
ただ、それに記録される。
得物を握ったその手は、汚れる事の無い銀色に染まっていた。
──────
───
─
少女は平凡の筈だった。
少女はとある王国では知らぬ者がいないとされる程の逸話を残した。
迫る魔物の大群を一人で制圧した、不死と呼ばれた竜を殺した、得物を振るえば空を断った、最強と吟われた敵国の騎士団長を下した。
誰もが少女に羨望し、畏怖した。
彼女こそが最強である。
彼女こそが人を越えた者である。
彼女こそが人類の希望である。
人々は少女を讃えた。少女に希望を見出だしていた。
魔王が現れた時も、人々は少女が魔王を打ち倒すだろうと信じていた。
──しかし、その想いのどれもが少女には届いてはいなかった。
少女に残されたものは魔物への殺意であり、強さへの執着であり、命を削る戦いへの渇望だった。
そして彼女はまるで大きな流れに導かれるように、その時を迎えた。
───────
────
──
再び映り変わる場面。
そこでは2mは越えるだろう魔物と少女が対峙していた。
魔物の左腕は切断され、翼ももがれ、しかしギラついた瞳で少女を睨み付けている。
少女も傷だらけの体でありながら、右腕だけで剣を構える。その左腕はだらんと力無く垂れ下がっており、もう動かすことは叶わないだろう。
お互いに体力は限界。それを感じ取っていた魔物と少女は同時に踏み込んだ。
魔物が突き出した槍を少女は体を反らすも完全に避けることは出来ず、脇腹を大きく削られながらも魔物に肉薄し、黒い刀身を魔物の急所へと突き刺した。
「■■■■■■■■■■!!」
「───」
魔物は一際大きな咆哮を上げた後、まるで少女に笑いかけるかのように笑みを浮かべたまま死に絶える。
それを見届けた少女も、地面に突き立てた剣にもたれ掛かりながら瞳を伏せた。
その瞳が閉じられる瞬間、確かに少女の視線はこちらを捉え、微笑んでいた。
──どうか、あなたは幸せを守ることが出来ますように。
騎士団が到着した頃には、そこにあったのは息絶えた魔物と肌白い右手を握りしめた少女の亡骸だけであった。