M4A1MOD3になった誰かの話   作:消月

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町を目指して

 ウロボロスが上空に放ったスティンガーミサイルへと自動小銃の銃口を真上に向け、仰ぎ見ることなく引き金を引く。直後頭上にて幾つかの爆発音が響き渡る。

 着弾のタイミングをそれぞれバラバラにして撃ちこまれたミサイル群の全てを叩き落とした元凶をウロボロスは忌々しげに睨みつつ、足元に従える攻撃ユニットに備わる光学機銃による弾幕を展開する。

 

「……中々にいい攻撃。敵なのが惜しい位」

 

 反射的にその場を飛び退くのとほぼ同時に、先ほどまで自分がいた所を火線が通り過ぎる。

 残弾を撃ち切りリロードが必要になった自らの名前でもあるG11自動小銃を手放し、右腕に括り付けられた鞘から小型熱単分子ブレードを引き抜き、弾幕の中に飛び込んで機銃から放たれるエネルギー弾を弾き、一足にて30メートルはある距離を詰め肉薄する。

 

「……なっ!?」

 

 自らよりも基礎スペックで大きく劣る筈のグリフィンの戦術人形が弾幕の中に突っ込み、こちらの攻撃の全てを弾きながら彼我の距離を一瞬で詰めてきた事に、驚愕の声を漏らすのもつかの間、

 

「お休み」

 

 冷淡な声と共に眼前に迫ったG11の振るうブレードがウロボロスの胸部に突き立てられ、内蔵されるメインコアを貫いた。コアを破壊され立っていられる戦術人形は存在しない。糸の切れた操り人形の様に崩れ落ちるウロボロスを横目に耳につけた通信機に手を当て通信を繋ぐ。

 

『こちらG11、根は燃やしたよ。比較的綺麗に仕留めれたから16Labに高値で引き取って貰えるかも。回収の準備をよろしく』

 

『了解。第2部隊及び第3部隊も残存人形を始末したと報告があった。回収用のヘリが向かうから暫くはその場で待機して待っててくれ。その間、はぐれ人形がいないか少し探しといてくれるか? 人手が足りないんだ』

 

『了解。それじゃまた後で』

 

 足元に転がってるウロボロスの残骸を一瞥し自らの指揮官に現状を端的に報告し通信を終え、それと共に自分の背後の廃墟の影でこちらを伺い見ていた何者かに声を掛ける。

 

「もう出てきてもいいよ」

 

 

 

 ◆   ◆

 

 

 

 先ほどの妙に生々しく、まるでその場で実際に目にしたかの様な臨場感のあった夢を思い返す。夢の中の私はAR-15と呼んでいた彼女を引き止めようと、思いとどまらせようとしていた様だ。……結果は夢の中の『私』にとって最悪のものとなったが。

 私自身AR-15と呼ばれていた彼女のことなど一つも知らない。

 

 会ったことすら無いはずだ。その筈なのに、先の光景を思い出すとなぜか心が締め付けられるかの様な圧迫感を覚える。それと彼女が私のことをM4と呼んでいたことも少し気にかかるが。なぜ私のことを私が持ってる銃の名前で呼ぶのだろうか。

 

 この身体になってから疑問は尽きないが、一旦夢のことを頭の隅に追いやって一先ず今後どうするかを思案する。

 今の私は住むところもなければ食べるものも限られていて、おまけに現在地すらまともに把握できていない有様だ。ここに籠ることも一瞬考えたが、状況の打開にはならず食料は有限なのでそれはできないと諦める。

 とりあえずはどこか人が居る町や都市を目指すべきか。

 机に出したままの装備品を一つずつ身に着け、出発の準備を整える。いつまでもここでくすぶっているわけにもいかない。

 

 準備を整えてから確認のために自分の持っている自動小銃のセレクターをセミオートに切り替え、試しに壁に銃を向け引き金を一回引く。乾いた銃声と共に空薬莢が一つ地面に転がった。

 

 

「……やっぱり本物か」

 

 未だなれない自分の声と共に何度目か分からないため息を吐く。銃を初めて撃ったというのに手が震えることもなく、罪悪感すら感じない私自身を不気味に思うも、目が覚めてからの突拍子も無い一連の出来事そのものを身をもって体験したからか、はたまたこの体に精神が引っ張られているのかわからないが、不思議と今の状況を受け入れてしまっている自分がいることに僅かながら怖気づく。

 

「こんなことで怖じけてどうする私! しっかりしろ!」

 

 ネガティブになりかけていた思考を振り払う様に、頰を両手で叩き自らに言い聞かせ、自分自身を奮い立たす。行くあては無いがとりあえずは行動あるのみだろう。その後のことは成り行きに任せる他ないことに不安しかないが、その時の私がきっとなんとかしてくれるだろう。多分。

 

 余談だがあの後地図がないか工場を隈なく探したが結局見つかったのは腐った食料と追加の白骨死体だけだった。ガッデム。

 

 

 

 ◆   ◆

 

 あれから何時間歩いただろうか。少なくとも10kmは歩いた様な気がする。工場はどうやら郊外に位置していた様で辺りを見渡しても小さな廃村や鬱蒼とした森林ぐらいしか見当たらなかった。工場の駐車場に停まっていた輸送車両を使い移動しようとも考えたが、そうすると窃盗になってしまう。それに殆どの車両が数年は放置されていたのか車体の塗装は剥げ落ち劣化して、タイヤの空気は抜けており、エンジンに至っては赤錆だらけでとても乗れる状態になかったという理由もあるが。

 

 工場を後にした私は人っ子一人居ない薄暗い針葉樹林帯を最低限度整備された道に従い宛もなく歩く。一人で見知らぬ土地を彷徨うのは幼い頃の探検ごっこを私に思い出させた。それ以上に心細さの方が遥かに勝ったが。

 

「熊とかが出なくて良かった……」

 

 森を抜けるに当たって私が最も危惧していた獰猛な野生生物に遭遇することもなく無事に抜けることができ思わず安堵する。もし遭遇でもすれば手に持つ自動小銃を使うことになっていただろう。

 

 森を抜け、薄暗く狭い視界が開けると同時に日光が道を照らす。道は少し荒れてはいたがその道を道沿いに眺めてみると遠くの方に市街地を確認できた。それとほぼ同時に市街地の方角から爆発音と銃声の様な音が響き渡る。

 

「……誰かが戦っている?」

 

 ここからでは確認できないため直接行ってみるしかないだろう。ドンパチやっている所に行くのは控えめにいって気が引けたが、自分自身の手がかりやこの場所がどこかといった情報が一切ない今の私には行く以外の選択肢がなかった。覚悟を決めて足を町に向ける。

 願わくば話し合いができる相手であることを祈って。

 


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