バビル・イン・ザ・ブラッド   作:橡樹一

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 天使炎上編完結となります。


14話 緞帳の後ろで

 沿岸警備隊(コースト・ガード)の船が到着したのは、決着がついてからしばらく経っての事だった。すでにバビル2世は打ち倒した敵を鎖で拘束し、ロプロスとポセイドンはその場を去り、上空と海中で待機している。本来であればしもべと共にラ・フォリアを絃神島まで送還する予定だったのだが、王女本人がそれを拒否。友人と共に罪人を護送すると言って聞かなかったため、彼は護衛として残ることになったのだ。

 接舷したゴムボートから真っ先に紗矢華が飛び出した。驚いて動けなかった雪菜に正面から突っ込み、押し倒さんばかりの勢いで頬をこすりつけている。

 

「雪菜! 無事でよかった大丈夫何も起こらなかったわよね雪菜雪菜雪菜!」

「ちょ、紗矢華さん! 落ち着いて……聞いてますか!?」

 

 混乱した雪菜は紗矢華の暴走を上手く止めることができていない。それを良いことに暴走娘は更なる行為に及ぼうとしたが、流石にそれ以上は見過ごせなかった古城が割って入った。

 

「そこらへんで止めとけ」

「痛っ」

 

 無防備な後頭部に手刀を入れられ、紗矢華が思わず動きを止める。その隙を突き、雪菜は無事拘束を脱した。同時に落ち着きを取り戻した紗矢華が、周囲の目に気がつき咳払いで誤魔化す。まったく誤魔化せていないことを誰も指摘しないのは、武士の情けだろう。

 

「き、気軽に触らないでほしいんだけど!

 まあいいわ。生きていたのね暁古城」

「ああ、おかげさまでな。わざわざ迎えをよこしてくれてありがとう、助かったよ」

「べ、べつに暁古城のためじゃないんだけど! 雪菜のついでよついで!」

「あーはいはい。わかってるよ」

 

 顔を赤くして反論する紗矢華を、どこかぞんざいに古城は対応した。短い付き合いではあるものの、こうなった紗矢華が面倒くさいということがわかる程度には、彼女の性格を把握しているのだ。

 若者のやり取りを横目で眺めながら、バビル2世と那月もまた会話を続けていた。傍には気絶したベアトリスとキリシマが鎖で縛られたまま宙に浮いており、足元には模造天使(エンジェル・フォウ)の被検体が寝かされている。

 

「とりあえず、実行犯の2人です。傷は深いですが、死にはしません。協力者の賢生はほぼ無傷なので、絃神島に戻った後に当局へと引き渡す形になります。

 被検体は管理公社預かりになるでしょう。元の身体には戻れないでしょうが、日常生活に復帰するだけの支援は受けられるはずです」

「まあ、妥当な処置だな。

 しかしこの惨状はなんだ?」

「天使の暴走としもべの戦闘を考えてください。この程度で済ませられたのは幸運ですよ」

 

 無残にも荒れ果てた島の一角を見る那月に、バビル2世は肩をすくめる。那月としても場所と状況を鑑み、深く追及するつもりは無さそうだ。

 2人が話している内に、紗矢華の調子が戻ったようだ。王女と向き合い、護衛に相応しい凛とした雰囲気に切り替わっている。今更手遅れだと言えなくもないが。

 

「ラ・フォリア王女、獅子王機関の舞威媛を拝命しております、煌坂紗矢華と申します。これよりアルディギア王国への帰国まで、御身の護衛を務めさせていただきます」

「よろしくお願いしますね、紗矢華。わたくしのせいであなたにも苦労をかけてしまいました」

「いえ、けしてそのようなことは……」

 

 王女と護衛のやり取りを見た古城は、公私の切り替えを完璧にこなすラ・フォリアに驚く。

 

「流石というか、やっぱりあのはっちゃけた物言いは普段は出してないんだな」

「なにを当然なことを言ってるんですか。私的な面を見せてもらえることは、名誉なことですよ」

 

 古城と雪菜の会話に気がつき、ラ・フォリアが2人に向き直る。

 

「お2人とも、この島から出たからといってあまり態度を変えないでくださいね? せっかくのお友達からそのようなことをされてしまったら、わたくしはとても悲しいですわ」

 

 どこか芝居がかった言い回しの王女は、ふと目を伏せるとうるんだ瞳で爆弾を投げ込んた。

 

「特に古城。あなたはその……わたくしの、初めての殿方なのですから」

 

 遠巻きに聞いていたバビル2世と那月すら凍りつく言い回しに、紗矢華が平常心を保てるはずがない。顔を真っ赤に染め、古城へと食ってかかる。

 

「初めてって……ちょ、ちょっとあんた、この人にいったい何をしたの! どんなお方だかわかってるの!?」

「待て待ておちつけ! ほらラ・フォリアの顔見ろ思いっきり笑ってるから! このやり取り診て絶対楽しんでるからあの王女!」

 

 今にも武器を抜きかねない紗矢華を古城は必死に止めるが、火に油を注ぐように那月が茶々を入れる。

 

「ほう、昨晩はお楽しみだったようだな古城。協力者であるこの男は氷の下で耐えていたと聞いているが」

「ちょっと待ってください紗矢華さん! ラ・フォリアも、あまり紗矢華さんをからかわないでください! 南宮先生も、悪乗りをしないでください!」

 

 嗜虐に染まった笑みを見て、古城の顔から血の気が引く。段々と収拾がつかなくなる現状を止めようと雪菜が古城を庇う。背に隠すような動きで、雪菜の首筋が一瞬露わになった。その一瞬視界に入った、吸血痕を見逃すほど紗矢華は甘い相手ではない。

 瞬時に痕跡の正体に気がついた紗矢華は、弾かれたような勢いでラ・フォリアの首筋を確認する。共通する痕跡を確認した彼女の表情が抜け落ち、雪菜は慌ててフォローに回る。

 

「いえ、これはあくまで救命行為のようなものでしたので! 王女のものも同じですので、決していかがわしいものではないんです! ね、先輩!」

「そうそう! いやらしいものじゃないから、な!?」

 

 息ぴったりの言い訳に、紗矢華は無言で剣を抜き放った。繰り出される斬撃を紙一重で避ける。

 

「ちょっと待て煌坂、その剣たしか当たったらヤバい奴だよな!」

「何避けてんのよ暁古城、死になさいよもう!」

「紗矢華さん、落ち着いてください!」

 

 3人組の追いかけっこを楽しそうに眺め、ラ・フォリアはシートに寝かされていた夏音へと近づいた。この騒ぎのためか、彼女がうっすらと目を開けたことに気がついたのだ。

 

「悪夢からは目覚めましたか、夏音?」

 

 自分そっくりな少女の顔を、まだ眠たげな眼で夏音は見つめる。

 

「ゆ……め……? そうでした、お父様が、わたしを救うと……私は……」

「大丈夫です、夏音。古城たちがあなたを救ってくれました。

 

 ラ・フォリアの指先では、なんとか落ち着いた紗矢華が、古城と雪菜の2人掛かりで取り押さえられていた。

 

「お兄さん……?」

「彼等だけではありません、わたくしもついていますわよ?」

 

 女神さながらの美しい笑みを浮かべ、ラ・フォリアは夏音の手を取った。

 

「え……あなた、は……?」

 

 現状を上手く呑み込めていない夏音の疑問に、ラ・フォリアは少し考えてから口を開いた。

 

「わたくしは、そうですね……あなたの家族です」

 

 その言葉が、大切な何かであるかのように、夏音はゆっくりと繰り返した。

 

「家族……」

 

 その様子を、バビル2世と那月は慈しむように見守っている。大人たちに見守られ、少女は新しい繋がりを噛みしめていた。

 

 

 

 古城たちを乗せた船が絃神島に到着したころには、すでに太陽は水平線へと消えようとしていた。那月と紗矢華、そしてバビル2世が後始末を引き受けたため、これでも早く解放された方なのだ。

 下船する古城は、派手なアロハシャツに身を包んでいる。南国的というよりも、安っぽいチンピラ風と言われた方がしっくりくる格好だ。

 

「なあ、これもう少し何とかならなかったのか?」

「仕方がないですよ。先輩の服はボロボロでしたし、他に服が無かったんですから」

 

 船の船長が善意で譲ってくれた手前文句も言いにくいのだが、それでも愚痴の一つくらいは出るファッションセンスだ。デコトラの代わりに船の運転手になったと言われても頷けてしまう。

 

「まあ、貰いもんだから文句は言えないけどさ。

 そういえば、叶瀬はどうしたんだ?」

「しばらく入院することになるみたいです。衰弱に加えて、魔術の影響を調べると聞いています」

 

 言われてみれば当然のことだ。魔術でその身を変化させられていたのだ、影響が出ない方がおかしい。唯一の救いは、本来あるべき魔術の反動すら〝雪霞狼(せっかろう)〟が消し去ったことだろう。

 

「それもあるけど、体以外の事もあるだろ。あいつ、大丈夫かな」

 

 思わず漏れた言葉に、聞いた雪菜は元より言った本人である古城の表情が沈む。夏音は洗脳状態だったとはいえ、自らの手で多くの人間を傷つけているのだ。しかもその下手人は信じていたであろう養父。衰弱している彼女にとって、過酷な現実だろう。

 だが、雪菜は少し表情を明るくした。

 

「彼女のお父様の裁判が終わるまで、南宮先生が後見人になってくれるそうです。きっと大丈夫ですよ」

「那月ちゃんが? そうか、なら少しは安心できるな」

 

 その態度で誤解されがちだが、南宮那月は面倒見がいいのだ。そのことは古城がとてもよく知っている。第四真祖である古城が普通の学生生活を送ることができているのも、彼女のおかげなのだ。異国の王族程度、災厄の化身と呼ばれる吸血鬼と比べれば大した問題ではないだろう。

 

「ラ・フォリア王女は残念がってましたけどね。アルディギアの王太后様もがっかりしているみたいです。ずいぶんと会いたがっていたらしいですから」

王太后(おくさん)がか? 前国王(ちちおや)が会いたがってるならわかるけど、どうして?」

 

 旦那の浮気相手の子供と会いたがる。少々不自然な情報に、古城は首を捻る。

 

「叶瀬さんのお母様は、王太后様のご友人だったそうです。それに、今の叶瀬さんの境遇を知って、とても心配していたそうですよ」

「へえ、できた人なんだな。前国王は浮気がばれて逃げたって聞いたぞ。夫婦でずいぶんと差があるんだな」

 

 古城が素直に感心する横で、雪菜は抑揚のない声でぽつりと漏らした。

 

「本当に許せませんよね。そういった無責任な人は」

「あ、ああ。そうだな……」

 

 謎の危機感に、古城の身体がこわばる。鍛えられた危機察知能力を頼りに即座に周囲を見渡し、船上からこちらに近づく銀髪を発見した。雪菜が次の言葉を発する前に、古城は慌てて船上を指差す。

 

「お、おい姫柊! ラ・フォリアがこっちに来るぞ! 何か用事があるんじゃないか!?」

 

 意外にも素直に振り向いた雪菜は、古城の言葉通り歩み寄るラ・フォリアに驚いたようだ。目を丸くする雪菜を見て、ラ・フォリアはおかしそうに口元を押さえた。その背後には、護衛であり案内役の紗矢華が騎士の用に付き従っている。彼女の身長もあり、中々絵になる光景だ。

 

「こちらにいましたか古城。それに雪菜も」

「ラ・フォリア、もう帰るのか?」

 

 脂汗を拭う古城を怪訝そうに見て、王女は小首を傾げながらも優雅に微笑んだ。

 

「いえ、これから病院に向かいます。救助された飛行船の乗組員が収容されていると聞きました」

「助かった人たちがいたのか」

「その後は東京に。非公式の訪問だったのですが、こうも騒ぎが大きくなると、どうしても」

「外交ってやつか。王族も大変だな」

 

 飛行船の襲撃、海上漂流、そして古城へ血を分け与え、短時間とはいえ戦闘までこなしているのだ。疲れていないはずがないのだが、ラ・フォリアの顔から疲労の色は読み取れない。

 無理をしていないかと心配する古城へ、王女は花のように微笑んだ。

 

「お別れは申しません。あなた方のおかげで、無事にこの島へとたどり着くことができました。今回の事件が繋いだこの縁、いずれ意味を持つこともありましょう」

 

 気品溢れる口調で言い切り、傍にいた雪菜を抱き寄せた。そして左右の頬に順にキスをする。驚いたような表情の雪菜は、黙ってそれを受けた。挨拶であると分かっていても、見女麗しい彼女たちが行うとそれだけで映画のワンシーンのようにも見える。

 そして王女は古城に近づいた。緊張する古城は、王女の目に宿った悪戯っぽい光を見逃してしまう。一瞬の隙を突き、王女は古城の唇へと自らの唇を押し当てた。

 実行犯である王女以外、すべての人間の時が止まった。

 邪魔されないことを良いことに、王女は思う存分唇の感触を堪能し、気が済んだのか古城を開放した。

 

「わたくしの父は、娘に手を出す不埒物は騎士団と軍の総力を持って叩き潰すと公言しています。単体で国と渡り合う吸血鬼の真祖として、その活躍に期待しますわ」

 

 古城の耳元でそう囁き、周囲の時が動き出す前に軽やかにタラップを降りていく。

 

「それでは、ごきげんよう」

「あ、王女、お待ちを!

 暁古城、後でどういうことなのかきっちりと説明してもらうからね!」

 

 我に返った紗矢華の刺すような目線を受け、古城はようやく再起動に成功した。去り際に、とんでもないことを伝えられた気がする。

 

「先輩……?」

 

 うっすらと殺気の乗る雪菜の声に、弁解しようとした古城へ予想外の声が叩きつけらえた。

 

「古城君、今の人誰!? すっごく綺麗だったけど、夏音ちゃんにそっくりだったよね! 外国の人みたいだったけど、なんか王女様みたいっていうか、どこであんな人と知り合ったの。何で古城君はキスしてたの。ていうか、なんで昨日帰ってこなかったの。その恰好なんなの!」

「な、凪沙! どうしてここに!?」

 

 あふれるような言葉の洪水を発する妹に、古城は度肝を抜かれる。何故この場に妹がいるのかよりも、よりにもよって最悪の場面を目撃されたという事実が重く古城へとのしかかる。どう誤魔化しても、納得させられそうにない。

 そして、妹の背後に立つ人影を見て、古城は今の今まで忘れていた約束を思い出した。

 何故か普段よりも着飾った浅葱が、一切の感情を感じさせない透明な笑みを古城へと向けていたのだ。

 

「私が連れてきたのよ。煌坂さんからここに着くって教えてもらったの」

「あ、浅葱……お前、いつから煌坂と……?」

 

 横目で雪菜の様子をうかがうも、彼女も困惑の表情を浮かべている。古城が島を離れている間に、ややこしい事態になっていたことだけは推察できる。

 

「後ろ暗い企業に誘拐されたって聞いて心配してたけど、余計なお世話だったみたいね。可愛い外国の女の子とあんなに仲良くなってるんだから」

「そうですね、私が思っていたよりも、先輩は彼女と親密な関係を築いていましたね」

「ひ、姫柊!?」

 

 監視役の少女すらも即座に敵にまわり、古城は目の前が真っ暗になっていく。絶望の表情を浮かべた古城に、浅葱は淡々と沙汰を告げた。

 

「絵のモデルでもしながら、ゆっくりと話を聞かせて頂戴。幸い時間なら一晩中あるしね」

「モデルって……」

 

 自分が言い出した約束だけに、古城は無碍に反論できない。しかしこの状況下で絵のモデルをするということは、浅葱が絵を描き終わるまで延々と訊問され続けるということだ。

 

「まさか嫌とは言わないでしょうね。提出期限は明日なのよ?」

 

 指を鳴らしながら、浅葱がゆっくりと距離を詰めていく。

 神の御使いに逆らった神罰にしては、まだましなのだろうかと古城は天を仰いだ。藍色に染まる空が、どこか同情的にも見える。

 例え天使すら打ち倒すことができる力があっても、女友達の燃え盛る怒りを消すことはできないのだ。

 

 

 

 停泊する船の中で、賢生は個室で拘禁されていた。手足の拘束こそされていないが、殺風景な部屋で一人きりというのは精神的にこたえるだろう。

 退屈しのぎに窓から沈む夕日を眺めていると、ふとコーヒーの香りが漂ってきた。怪訝な表情で賢生が視線を室内へ戻すと、机の反対側に一人の男が座っている。見た目と纏っている制服から、高校生であると賢生はあたりをつけた。逆立てた短髪に、首にかけたヘッドフォンが特徴的だ。

 

「飲むかい?」

 

 少年が差し出すコーヒーを差し出す。

 窓の外を向いていたとはいえ、扉の開く音くらいは聞こえるはずだ。椅子を引く音も、インスタントとはいえコーヒーを入れる音すら聞こえなかった。眼前の少年は、発するべき音を一切立てていないのだ。

 

「何者だ?」

「矢瀬基樹。暁古城のクラスメイトってことで納得してもらえるか?」

「その制服……なるほど、第四真祖の監視役というわけか。人工島管理公社の間諜だな」

「まあ、それで納得してくれるのならそう思っておいてくれ」

 

 賢生は無関心に頷いた。今の彼にとって、夏音の処遇意外に興味など無い。

 洗脳状態であったとはいえ彼女は島の上空で戦闘を行い、少なくない被害を出していた。なんらかの罪に問われる可能性は十分にある。

 

「あんたの娘なら心配はいらない。未成年ってことも加えて、洗脳装置……思考拘束具(ブリンカー)も抑えてある。むしろ被害者ってことで、まず罪には問われんだろうさ。今の彼女には、アルディギア王宮の後ろ盾もあるしな」

「そうか……」

 

 賢生は安堵の息を吐いた。これでもう彼が思い悩むことはない。

 そんな賢生を見て、矢瀬は言いにくそうに頭を掻いた。

 

「それで、あんたの処遇なんだが……」

「かまわんよ。覚悟はしている」

「だろうな。違法な人体実験に殺人教唆。国内法だけでもけっこうな重罪だが、それに加えて聖域条約違反が笑えるくらいの数ある。おまけに国際法上の禁呪の使用だ。普通に考えれば、実刑で死ぬまで檻の中ってところだが……」

 

 唐突に矢瀬は言葉を切った。

 

「問題はあんたの動機だ。叶瀬賢生、あんたいったい何を知っている?」

「……何の話だ?」

「とぼけるならもっと上手く言えよ。愛する娘を天界に送り込む。まるっきりの嘘じゃないだろうが、他に大きい理由があるだろ。娘を実験台にしてまで、模造天使(エンジェル・フォウ)の実用化を進めるほどに焦っていた理由がな」

 

 矢瀬の問いに、賢生は沈黙を返した。

 そう、ベアトリスやキリシマは賢生を利用したように言っていたが、それは賢生にも言えるのだ。彼はメイガスクラフトの資金を利用し、研究を進める必要があった。たとえその結果どのような災禍が生み出されようとも、模造天使(エンジェル・フォウ)を実用化するために。

 しばらくの後、賢生は重い口を開いた。

 

「きみたちも本当は理解しているのだろう。真祖は3名しか存在してはならない。第四の真祖が目覚めたということは、それが戦うべき敵が出現するということだ。我々にはもう時間が無いのだよ」

「それが理由か。あんたは兵器としての天使を欲したのか、ヤツを滅ぼすために」

「第四真祖()()()を倒せない兵器では、どのみちあの御方には歯が立たん。笑うがいいさ。私の研究は、全くの徒労だったのだからな」

「一通りの調書はこれで書けるだろう。

 賢生、続きを話してもらうぞ。あの御方とやら、僕と全くの無関係ではないだろう?」

 

 自嘲に歪んだ賢生の表情が凍りついた。扉を開き、室内へと踏み込んだ男と目が合ったからだ。

 

「バビル2世……! 矢瀬とやら、君は一体……」

 

 驚愕に目を見開く賢生へ、どこか得意げに矢瀬は笑みを返した。

 

「さて、ここからはこの場の3人以外に知られることはない。話してもらうぞ叶瀬賢生、少しでもあの御方とやらに対抗するためにな」

 

 迫る危機に対抗するべく、3人の男達の会議が始まった。

 バビル2世の予感は告げる。近い将来、かつての戦いの日々に匹敵する困難が待ち受けていることを。

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