バビル・イン・ザ・ブラッド   作:橡樹一

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 本文量が長めとなっております、ご了承ください。


9話 封印作戦

 港に聳えるガントリークレーンの上に、2人の男性が立っていた。特徴的なヘッドフォンを首にかけ、髪をつんつんと逆立て彩海学園の学生服を着た彼は、口の中に小さなカプセル錠剤を含んでいる。

 

「さて、動き出したか」

 

 カプセルを噛み砕きながら、矢瀬基樹は呟いた。

 

「あの巨体だけに、予想よりも動きが鈍い。それだけに攻撃速度を見誤る危険性がある。観測した末端到達速度からして常人に回避は不可能だから、もう少し包囲網を広げさせたほうがいい」

 

 詰襟にも似た戦闘服に身を包んだ山野浩一は、情報デバイスから視線をそらさず矢瀬に提案をした。

 生まれついての異能力者である矢瀬は、空気に対してのみ働く特殊な念動力(テレキネシス)を操り周囲の情報を手に取るように把握することができる。薬品によって増幅されたその知覚は、半径数キロ圏内で発生した微細な振動や気圧の変化すら例外なく補足することができる。そう、人工島の入り組んだ地下水路に逃げ込んだ液体金属生命体であろうとも、例外ではない。

 矢瀬が得た情報を処理し続けるデバイスには、非常に高い精度で金属生命体の予想現在位置が表示されている。今のまま動き続ければ、数分もしないうちにこの倉庫街に敷かれた包囲網内部へ出現するだろう。

 

「テステス……聞こえるかい、隊長さん。目標(ターゲット)が地下水道を出る。分隊『青』をB3へ、分隊『緑』をB16へ引かせてくれ。第2中隊は海浜公園の封鎖を頼みます」

 

 矢瀬は胸のピンマイクから、特区警備隊(アイランド・ガード)の治安維持部隊隊長へと通信をとばした。彼らは港周辺に2個中隊規模の戦力をを展開済みであり、臨戦態勢に入っている。

 

『こちら特区警備隊(アイランド・ガード)部隊長。閉鎖は実行させるが、2個分隊の配置変換は納得しかねる。説明を要求するぞ、覗き屋(ヘイルダム)

「こちら外部協力者山野だ。私が直接交戦した情報から、配置変換指示を出した2個分隊は目標の攻撃範囲内だと判断した。あくまでも予測であり異動要請であって強制力はないが、最悪の場合出現と同時にその2個分隊は全滅の可能性がある」

 

 部隊長の要求に対し、浩一が簡潔に答えた。あくまでも中間要因である矢瀬が答えるよりも、ある程度名が知れており交流も深い自分が答えたほうが相手も納得しやすいだろうという判断だ。

 

『了解した、山野攻魔官。情報提供感謝する』

 

 どこか抑えきれない怒りを含ませながら、部隊長は骨伝導の通信機越しに返答した。

 もちろん、その怒りが向けられているのは浩一でも、ましてや矢瀬でもない。ここ数年で最悪の人的被害を出した〝賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)〟と、それを操る錬金術師に対する憎悪だ。

 矢瀬が昨晩那月宅で話した通り、過去最大の被害を出し続けている特区警備隊(アイランド・ガード)は、下手人への憎悪を募らせ続けている。矢瀬としても再三忠告はしたのだが、それでもこの隊長のように心を誤魔化せない隊員は一定数いるのだ。

 

「やはり、感情を殺すことは難しいみたいだな。これではいざ会敵したときどうなるか」

「まあ、そこは彼らもプロですからね。無駄な攻撃はしないと思いたいです」

 

 どこか憂うような浩一に、矢瀬は苦笑交じりに通信機を見た。少なくとも、憎しみを前面に出すことで士気は上がっているのだ。本来であれば、まともな抵抗を許さず同僚を惨殺した相手に立ち向かうことに恐怖を覚えることが普通であるのだが、むしろ積極的に攻勢に出ようとしている。

 

標的(ターゲット)は液体金属生命体だ。実態弾が効く相手じゃないことは念頭に入れておいてくれ。あくまでも時間稼ぎに徹して、本命の攻魔官の到着を待て」

「……隊長、返事が聞こえないぞ?」

『……了解』

 

 隊長の返事は、絞り出したような響きが含まれていた。矢瀬からの指示だけだは、体調の返答は無かっただろう。あまりよくない兆候だったが、浩一が返答を引き出すことができた。

 返答をしたかしなかったかというのは想像以上に重要だ。口に出して指示を聞いたという事実が、精神的に行動を縛ることになる。

 

「ありがとうございます浩一さん。俺じゃ返事を引き出せませんでした」

「適材適所だよ。……ところで、いつまで盗み聞きをしているんだ」

『ケケッ……ずいぶんと面白そうなことになってんな。〝賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)〟の暴走とはね』

 

 矢瀬が持つ通信機から、皮肉っぽい合成音声が聞こえてきた。浩一が持つデバイスの画面には、ぬいぐるみにも似た不格好なキャラクターが映し出されている。浅葱によってモグワイと名付けられた人工知能――絃神島の都市機能全てを掌握する5機のスーパーコンピューターの現身(アバター)の声だ。

 どうやら勝手に無線を盗聴し、一連の会話を聞いていたらしい。

 

『しかしどうして俺が聞いてるってわかったんだい。ログを残すようなへまはしてないはずだが?』

「この状況下で、おまえのような性格の持ち主が聞いていないはずがない。ちょっと鎌をかけただけだ」

『おやおや、こりゃ随分とつまらない手に引っ掛かっちまったな』

 

 モグワイと浩一の掛け合いを、矢瀬は苦笑いをしながら聞いている。両者が持つ力に反して、会話の内容は実に平和だ。

 

「まあ、残念だがお前が期待するような面白いことにはならないだろうぜ?

 ほかの土地ならまだしも、ここは〝魔族特区〟なんだからな。不滅の自己増殖生命体程度、足止めにしろ封印にしろ対抗手段はいくらでもある。異空間に放逐するなり、眷獣並みの魔力を叩きつけるなりな」

『たしかに、その気になればいくらでも手段はあるな。だからこそ戦王領域の貴族サマも興味を示さず静観してるってわけか。あの眷獣ならどうにでもできるってな』

「こっちとしてはありがたい話だが、どこまで黙っててくれるかね。あんまり長引かせると、手こずってたみたいだからとか言って区画ごと潰されかねないぞ」

「そうなったら、少なくとも君くらいは連れて離脱できるから安心してくれ」

「ここは嘘でも死者は出さないくらい言ってほしかったです」

「アルデアル公の眷獣を防ぎきれると言い切れるほど、この武神具の性能は高くないよ。改良は繰り返してるけどね」

 

 掛け合いを続ける3者だったが、例外なく知覚範囲に洋上の豪華客船をとらえていた。船の名は〝オシアナス・グレイヴⅡ〟……アルデアル公ディミトリエ・ヴァトラー所有のメガヨットだ。

 戦闘狂(バトルマニア)として名高い彼が、今回の件に関与しないかと矢瀬をはじめとした関係者は警戒していたのだが、彼らの心配をよそにヴァトラーが動き出す予兆などは一切確認されなかった。たかが錬金術師によって生み出された魔導生命体の最高傑作程度では、食指が動かなかったのだろう。

 

「それよりもモグワイ、おまえ修道院の跡地に〝賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)〟が封印されてたことを知ってたな?」

『さあて……言われてみれば、そうだったかもな』

「どうして浅葱に警告を、なによりも俺たちに一切知らせなかった。救援が間に合ったからよかったものの、一歩間違えたらあいつは死んでたかもしれないんだぞ!」

「それは私も聞きたかった。普段の冗談では済まされない不備だぞ?」

 

 2人がかりの詰問にも、人工知能は素知らぬ素振りを崩さない。その態度に、矢瀬は音が鳴るほどに歯を食いしばり、浩一の眉間に深い皺が寄る。

 矢瀬にとって、浅葱は小学生になる前からの幼馴染だ。今更恋愛感情を抱くような間柄でこそないが、それでも交流の希薄な家族よりもよほど大事に思っている大切な友人なのだ。浩一は、浅葱を協力者である以前にあくまでも民間人だと考えている。かつて101と呼ばれていたころの戦いで多くの民間人が戦いに巻き込まれ犠牲となった経験から、彼は策謀により無関係な人間に被害を出す者を許さない。今回モグワイが行った行為は、そのタブーに触れかけている。

 そして、矢瀬が浩一にすら知らせていない機密事項――彼女はこの〝魔族特区〟にとって、非常に重要な役割があるのだ。

 

『だけど、結果として死ななかっただろ? それどころか、かすり傷が付いた程度だ。数日で、あとも残らず消えるような傷がな』

 

 人間臭い笑みと共に、モグワイは黙り込んだ。その様子に、矢瀬の瞳に動揺が浮かぶ。

 

「お前、どこまで予想してるんだ?」

『さあな。あとからならどうとでも言えるもんだぜ?』

 

 なおも笑みをこぼす人工知能に、矢瀬は舌打ちをこらえられなかった。

 

「モグワイ、なにを考えている?」

『そう警戒しないでくれや、浩一の旦那。矢瀬の坊やも、そう心配しなくて大丈夫だぜ。

 俺にとってあの嬢ちゃんは、大事な大事な相棒だ。この絃神島(しま)にいる限りは死なせたりしねーよ』

 

 モグワイの含みのある口調に、矢瀬と浩一はうすら寒いものを感じ取らずにはいられなかった。思わず腕を撫でた矢瀬は、自身に鳥肌が立っていることに気が付いた。

 この人工知能が言い切るからには、彼は本当に浅葱の命を守り抜こうと動くだろう。そう、たとえどのような手段を使ってでも(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

『それよりもだ、はじまったみたいだぜ』

「ああ」

「そのようだ」

 

 モグワイの声を合図にしたかのように、3人の眼下でアスファルトが破壊された。発生した亀裂から滲み出るようにして出現したのは、艶やかな表面を持つ黒い液体金属の集合体――〝賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)〟だ。

 出現と同時に周囲へと触手の斬撃を行い、コンテナ群は瞬時に崩れ去った。もしも分隊を移動していなければ、間違いなく範囲内の隊員は死亡していただろう。

 この区画には、島外から運ばれてきた大量の鋼材や貴金属が備蓄されている。肉体を構成するに十分な資材を求めて金属生命体が現れたと考えるのは、そう的外れなことでもないだろう。

 地上に出現した〝賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)〟の動きは、巨体に相応しくひどく鈍い。重心を移動させてゆっくりと転がる様は、ガラス上を走る水滴のようにも見える。しかし、その質量は数百トンに達するであろう膨大なものだ。その大きさと重量は、ただ動くだけでも十分な脅威となりえる。

 現に特区警備隊(アイランド・ガード)が設営していた簡易バリケードは、その役割を果たすことなくあっさりと圧壊している。出現と同時に打ち込まれ続けている砲弾も、周囲の影響を考慮しごく少数が配置された地雷も、空中放電を起こすほどの高圧電流も、震えながら進撃する金属生命体の足を止めることはできていない。

 

「物理攻撃は効かないだろうと予想されていましたけど、まさか呪術結界すら無効化するとは。ちょいと想定外ですね」

「流石錬金術師の最高傑作といったところか。呪力生命体である以上ある程度抵抗するとは思っていたが、まさかこうもたやすく受け流すとはね」

『あれは魔導生物よりも、合成獣(キメラ)機械人形(オートマタ)に近い存在だからな。土傀儡(ゴーレム)やら動死体(ゾンビ)の類を相手にするようにはいかねえだろ』

「ならほかにやりようがある」

 

 完全に傍観者気取りの人工知能に、矢瀬は冷たく言い放った。

 進撃を続ける金属生命体の前には、すでに新しい部隊が展開している。車体上部に放水機能を持つ、暴動鎮圧用の装甲車両群だ。戦闘形態の獣人ですら、なすすべなく押し流す高圧放水を可能とする装甲車が〝霊血〟めがけて一斉に放水を開始した。

 いくら高威力の放水とはいえ、ただの水が不滅の金属生命体に対して効果を発揮することはないだろう。だが、放たれた液体は大気の水分を凝結させるほどの低温を纏っていた。同時に地面から新たな魔方陣が浮かび上がり、金属生命体を極低温の檻へと包み込む。

 

『なるほど、凍らせて動きを止めようってのか』

「液体窒素と凍結魔術の合わせ技さ。どれだけ自在に姿を変えようとも、基礎(ベース)は金属だ。物理現象への抵抗も限度があるだろうさ」

 

 矢瀬の淡々とした説明の間にも、〝賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)〟は動きを鈍らせていく。すでに触手を伸ばすことすらできず、黒い表面部分は白く霜に覆われている。

 

「なるほど、焼き尽くすよりもスマートだ。流石だな、矢瀬君」

『ずいぶんと呆気なく決着したもんだな』

 

 作戦を褒める浩一とは対照的に、モグワイは落胆した声音を隠そうともしない。

 動きを封じてしまえば、破壊できない相手であろうとも恐れる必要はない。大量の〝賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)〟は、貴重なサンプルとして〝魔族特区〟の技術を潤すだろう。あとは未だ補足できない天塚汞を探し出し、始末してしまえば今回の一件は無事収まることとなる。

 

「あっけないくらいがいいんだよ、余計な被害も出ないしな。俺はこの後授業なんだから、とっとと終わってくれたほうが助かる」

「まだ作戦は終了してないぞ。あまり気を抜くな」

 

 軽口をたたく矢瀬を窘める浩一だったが、その眼が倉庫街の一角を捉えた。同時に、矢瀬の聴覚に特徴的な足音が聞こえてくる。生身の左足と、金属の右足。そして銀のステッキ。白赤チェックの目立つ帽子を被った男が、凍りついた金属生命体へと歩み寄っていく。

 

「あれは……」

「まさか!」

『天塚汞⁉ 切れ端じゃない、本人か!』

 

 モグワイが声を弾ませるが、矢瀬と浩一はそれを気にする余裕はなかった。ニーナ・アデラードの弟子にして、師を裏切り、封印されていた〝賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)〟を覚醒させた犯罪者。指名手配中の錬金術師、天塚汞が不敵にもその姿を特区警備隊(アイランド・ガード)の前に表したのだ。

 

「随分と育ったね〝賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)〟。中枢を抜かれ、ただ暴れるだけの化け物と化した気分はどうだい?」

 

 一斉に銃口を向ける特区警備隊(アイランド・ガード)には目もくれず、天塚は凍りついた金属生命体へと語りかけた。

 するとその声に反応してか、霜で凍りついた金属生命体の表面に細かい亀裂がはしる。不気味な振動に大気が震え、まるで〝賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)〟が呪詛を吐いているかのようにも見えた。

 

『オ、オオ……オオオオオオオォォォォォォォォ……』

「おや、ぼくのことを認識する程度の知性があったのか。これは驚いたね、なかなか面白い発見じゃないか!」

 

 天塚は嗜虐的な笑みを浮かべたまま、両手を叩く。〝賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)〟を生み出す際に捧げられた生贄たちの、集合意識と呼ぶべき存在を挑発しているのだ。そしてその挑発に応じるように、金属生命体がうっすらと発光を始めた。

 

『アアアアァァァアアァァァアアアアア――!』

 

 絶叫と共に金属生命体の表面が砕け散り、その内部から無数の触手が解き放たれた。変幻自在の刃と化した触手の群れは、周囲を一切の区別なく切り刻んでいく。

 凍りついていたように見えたのは、〝賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)〟の表面だけだった。低温に晒された外装部分と内部との間に真空の断熱層を造り出し、本体部分は難を逃れていたのだ。

 

「隊長さん、液体窒素だ! 凍結させればやつの動きは止まる!」

『わかっている! だが、くそっ! 命令を聞かんか!』

 

 矢瀬は必死に隊長へ無線で呼びかけるが、隊長の指示も怒りに呑まれた特区警備隊(アイランド・ガード)には届かない。感情に突き動かされるまま、殺意を込めて引き金が引かれ続ける。

 

「……まずい、そういうことか!」

 

 浩一が、焦りの声と共に飛び出した。常人であれば墜落死必須の自由落下も、常識を超えた浩一にとっては何の障害にもならない。落下しながら両手足に装着した武神具を展開し、発生した結界は何故か特区警備隊(アイランド・ガード)と〝賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)〟を引き離すように展開された。無論、放たれた弾丸はすべてが結界に阻まれることになる。

 

「バ……浩一さん、何を⁉」

「今すぐ発砲をやめさせろ! やつの狙いは弾丸だ!」

 

 混乱する矢瀬を叱りつけるように、浩一は怒鳴った。その一言で、矢瀬は天塚の狙いを理解する。

 特区警備隊(アイランド・ガード)の対魔族部隊が使用する弾丸は、高純度の琥珀金弾(エレクトラムチップ)と銀イリジウム弾頭弾。どちらも錬金術の触媒として、極めて優れた性質を持っている。もしもこのまま一斉掃射が続けば、〝賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)〟に打ち込まれる総量は数百キロに及んだだろう。それは、錬金術師が扱う最大の奥義に十分な量の供物となる。

 その提供を阻止された天塚は僅かに表情を崩すが、すぐに亀裂のような笑みを浮かべた。

 

「さすが名うての攻魔師は違うね山野浩一! でも、後ろの連中はそうはいかないみたいだぜ?」

 

 銃弾と斬撃の両方から身を守る浩一が横目で様子を窺うと、天塚よりもむしろ自分へ憎しみの視線を送る隊員たちと目が合った。

 

「なんでそいつを庇うんだ、裏切るのか山野攻魔官!」

「かまわない撃て! 裏切者ごと撃ち殺せ!」

 

 誰かの叫びと共に、射撃が再開される。憎しみを向ける対象が増えたためか、弾幕が激しさを増しているため浩一は動くことができない。

 

「いやあ特区警備隊(アイランド・ガード)はいい仕事をしてくれる! お前に自由に動かれたらどうするか悩んでいたけど、まさか彼らが進んで拘束してくれるとはね。ついでに供物までくれるなんて最高じゃないか!」

 

 天塚が右腕を地面に突き刺し、魔力を地面に流し込む。まるで泥に沈むように、排出された弾頭がアスファルトへと消えていく。

 

「……仕方がない!」

 

 浩一の目が赤く輝き、一斉に発砲が止んだ。強い精神的ショックにより、隊員の肉体が硬直を起こしたのだ。

 

「何かしたみたいだけど、遅かったね山野浩一!

 さあ、約束のあんたの血だ! お望みどおり蘇るがいいさ、賢者(ワイズマン)!」

 

 錬金術によって操られた地面から、直接弾丸を送り込まれた〝賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)〟が紅く輝いた。大量の供物によって、本来の純度を取り戻したのだ。輝きを認めた天塚が、握るステッキを槍のように突き出した。丁度浮かんでいた黒い宝玉を砕き、ステッキは〝霊血〟へと沈んでいく。

 

賢者(ワイズマン)……だと⁉ まさか、あいつは――!」

 

 クレーンの上から身を乗り出して、矢瀬が呻いた。

 天塚が実行した儀式により、〝賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)〟に致命的な変化が起きはじめた。深紅の金属生命体の内部から、光と共に何かが現れようとしている。まるで、卵が孵化するかのように。

 

『ヤバい! 逃げろ、矢瀬の坊や!』

「なに⁉」

 

 モグワイの切羽詰まった忠告に、矢瀬は咄嗟に逃げようとした。

 その刹那、〝賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)〟が放った閃光が、矢瀬の視界を音もなく薙ぎ払う。

 突如発生した爆発により、矢瀬の乗るガントリークレーンが積み木のように崩壊し、その破壊は港湾地区全体へと広がっていった。




 ストライク・ザ・ブラッド 用語集

 人物

 ディミトリエ・ヴァトラー
 第一真祖、忘却の戦王の配下にして、旧き世代に属する吸血鬼。
 戦闘狂として有名だが、それはあくまでも強者との戦いに対して。弱者をいたぶる趣味は持ち合わせていないようであり、明確に実力が下の相手は襲われない限り攻撃対象としない。
 裏を返せば強者であれば襲い掛かる可能性があるということでもあり、それが原因で多くの問題行動を引き起こすトラブルメーカーである。

 モグワイ
 人工島である絃神島を管理する、5基のスーパーコンピューターの化身。
 人工知能とは思えないほど自然な会話に加え、独自の判断で行動を繰り返しているため相棒である浅葱以外からはほとんど信用されていない。
 しかしその性能は折り紙付きであり、卓越した電子操作技能を持つ浅葱をサポートすることでその作業効率を飛躍的に高めることができる。

 賢者 ワイズマン
 本文登場まで、解説は控える。
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