バビル・イン・ザ・ブラッド   作:橡樹一

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14話 人工の神

 大型フェリーの船首近くで、夏音は天塚と対峙していた。彼女が視界を巡らせれば、見渡す限りの青空に透き通るような海のコントラストが目を楽しませてくれるだろうが、あいにく今の彼女にそんな余裕は一切ない。

 

「残念だけど、鬼ごっこはここで終わりみたいだ。

 ここなら人を巻き込まないし、通気口の類もないから僕は正面から君に近づくことしかできない。いざとなれば海に飛び込んで死を選べる、か。偶然かもしれないけど、いい判断だね。まあ、全部無駄なんだけど」

 

 微笑みすら浮かべて、天塚は余裕たっぷりに両手を広げた。今まで左手に収まっていた銀のステッキの代わりに、金の髑髏が握られている。

 

「供物になりえる霊能力者があんただけじゃないってわかってるんだろう? 獅子王機関の剣巫以外にも、結構有望そうな素質の持ち主が何人かいたよ。あんたが死んだらそっちを代わりにするだけだし、賢者(ワイズマン)が完全に復活すれば、どのみち皆殺しになるんだ。僕を恨まないでくれよ?」

 

 日常会話をしているような雰囲気のまま、天塚の右腕が銀の刃に変化した。彼がその気になれば、腕の一振りで夏音は命を絶たれてしまうだろう。

 しかし、天塚は今のところ夏音を殺すつもりはなかった。彼の目的は、夏音を賢者(ワイズマン)の供物とすること……生きたまま〝賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)〟に取り込むことだ。かつての修道院の子供たちのように、白骨化するまで霊力を搾り取ろうと企んでいる。

 非道極まりない考えを知りながらも、夏音の瞳に恐れはない。むしろ、天塚を哀れむ色が浮かんでいる。

 

「まだ思い出せないのですか」

「なに?」

 

 唐突に、夏音が口を開いた。予想外の行動に、天塚は眉をひそめる。

 

「私はあなたのことを覚えていました。修道院のみんなが殺されたときのことも。

 あなたは、かわいそうな人でした。自分が騙されているということに気がついていない」

「何のことだよ?」

 

 苛立ちを隠そうともせず、天塚は聞き返した。その声には、はっきりと同様が現れている。

 

賢者(ワイズマン)を復活させて、あなたはなにをしたかったのですか?」

「決まってるだろ、人間に戻るんだ。あいつに喰われた半身を復活させてもらうんだ! そうでなくちゃ、あいつの言いなりになどなるものか!」

 

 叫びと共に、天塚は自らコートの襟もとを引き裂いた。金属生命体に浸食された露わになる。色こそ肌色に近づけてはいるが、それだけに金属の光沢が一層不気味に見える。

 おぞましい融合部分を見てもなお、夏音は平静を崩さない。

 

「だったら教えてください。あなたは、いったい誰でしたか?」

「……え?」

 

 夏音の言葉に貫かれたかのように、天塚は一切の動きを止めた。

 

「あなたが人間だったと言うならば、その頃の思い出を聞かせてください。いつ、どこで生まれ、どんな生活をしていたのか」

 

 続けてぶつけられた質問に、天塚は答えられなかった。答えられないという事実が、天塚をじわじわと追い詰めていく。

 

「黙れよ、叶瀬夏音」

 

 怯える子供のように、天塚は呟く。だが、夏音は残酷にも首を横に振った。

 

賢者(ワイズマン)はあなたの願いをかなえたりはしません。なぜなら、あなたが人間だったことなど一度もないのだから。あなたは、賢者(ワイズマン)が復活するために創り出した」

「黙れって言ってるだろ叶瀬夏音!」

 

 恐怖と困惑を怒りに変え、天塚は吠えた。刃と化した右腕を振りかぶり、自らを惑わせる少女を永遠に黙らせようとする。感情のまま振るわれる刃に手加減などなく、平均以下の身体能力しか持たない夏音が躱せるものではない。

 死を覚悟した夏音の胸元が、突然淡く輝いた。解けた紙と書き込まれていた呪詛で編まれた狼が、致死の斬撃を迎撃した。

 

「っ、式神だと⁉」

 

 軌道を変えられた右腕が触手へと姿を変え、四方から狼を襲い一瞬で引き裂いた。雪菜がお守りとして渡していた呪符から生み出された狼は、ダメージに耐えきれず瞬時に紙へとその姿を戻してしまう。だが、身を挺して稼いだ時間は決して無駄にはならなかった。

 息を荒くする天塚の前に、大ぶりのナイフを構えた少女が飛び込んだ。空いている片手は懐に延ばされ、新たな呪符をいつでも放てるよう備えられている。

 

「雪菜ちゃん……」

「間に合ってよかった。少し下がってて」

 

 式神を発信機代わりになんとか夏音の元まで辿り着いた雪菜は、油断なく天塚を警戒する。微塵も隙が無い雪菜へ、天塚は忌々しそうに表情を歪めた。

 

「よくよく邪魔をしてくれるな剣巫……だが、それもここまでみたいだ。今回ばかりはおまえを探す手間が省けて助かったよ!」

 

 天塚の叫びと共に、金属製の甲板がぐにゃりと歪んだ。無数に生まれた歪みの1つ1つから、這い上がるようにして無数の影が雪菜たちを取り囲む。

 

「これ、は……」

 

 雪菜の目に映る警戒の色が強くなった。白いコートを着た、天塚の分身体は雪菜たちを半包囲するような形で出現している。すでに基礎となる〝賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)〟の純度が低いのか、分裂体の中でまともな人間の形をしているものなど1体も存在しない。だが、その崩れた形状がより恐怖心を煽る形となっている。

 雪菜が呪符を取り出し式神を次々と生み出すが、多勢に無勢である事実は変わらない。

 

「さて、そのナイフに君の呪術は面倒だったけど、いくらでも融合素材が手に入るここで勝ち目はないよ。もちろん、逃げ場もね」

 

 勝ち誇る天塚の主張を、雪菜は内心認めることしかできなかった。獅子王機関から潤沢に補給された装備群は、並の魔族であれば小隊規模の数だろうが薙ぎ払って釣りがくるほどの火力を有する。しかし、〝賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)〟を自在に操る天塚に対しては有効な防衛を行うことができても決定打が無いのだ。いかに堅牢な城だろうとも、矢玉も兵もいなければあっさりと落城する。雪菜がいかに奮戦しようとも、それは確定した敗北をひたすらに引き延ばすだけの行為としかならない。

 おまけにここは見渡す限りの大海原である。救援は船内にいる攻魔師以外に期待できず、彼らも液体金属生命体に対して効果的な手段など保有しているわけがない。操舵システムの破壊からフェリーで何かしらの異常事態が発生していることは知られているかもしれないが、最短で沿岸警備隊(コースト・ガード)や本土の海上保安庁が動いたところで天塚に蹂躙されるだけだろう。そもそも、この短時間で船に辿り着くこと自体が不可能だ。

 都合のいい奇跡などそう起こるものではない。苦々しい結論を出した雪菜の視界に、信じられないものが飛び込んできた。

 

「……えっ?」

 

 この窮地に相応しくない、かわいらしくも間の抜けた声に天塚は興味を惹かれる。

 

「なんだ?」

 

 例え罠でも食い破れるとの自信から、素直に振り向いた天塚は驚愕に目を見開いた。

 水蒸気の尾を引きながら、フェリーの船体へとひたすらに直進する灰色の飛翔体。

 

「巡航ミサイルだと⁉」

 

 本来、水平線に出現した時点で常人ならば捉えることもできなかっただろう存在を、訓練された動体視力を持つ雪菜と魔術と金属の体によって保管された知覚で捉えることができた天塚は幸運といえるのだろうか。

 アルディギア王国の試作型航空機〝フロッティ〟の巡航速度はマッハ2.8。本来人間の視界に入った瞬間には目標地点に到達する速度を誇るそれは、天塚が発した驚きの声がまだ響いている間にフェリーの船体直前にまで迫っていた。

 しかし、その場のだれもが予想していた衝撃は訪れなかった。巡航ミサイルが船体に直撃する瞬間、それは銀色の霧へと姿を変え、フェリーをすり抜けていったのだ。フェリーを通り過ぎたミサイルは再び実体化し、フェリーに影響のない距離の海面へ着弾、砕け散って沈んでいった。だが、発生した濃霧は変わらず船を取り巻いている。

 

「この霧……まさか」

 

 霧と共に大気に漂う強烈な魔力に、雪菜は覚えがあった。弾かれるように空を見上げると、霧の中に巨大な影が見える。実態を持たない甲殻獣、第四真祖が従える12の眷獣が4番目。あらゆる物体を霧へと変える能力を持つ〝甲殻の銀霧(ナトラ・シネレウス)〟だ。この霧は、彼の眷獣が生み出す破壊の霧。

 そして眷獣がいるということは、主がすぐそばにいるということを意味する。遠方に落下したミサイルが生んだ衝撃波が船体を襲い、その音に隠れるようにして人影が甲板上に実体化した。

 

「とっとと……なんとか、着地成功ってな」

「おお、なかなかやるではないか」

「伊達にちょくちょく浩一さんにしごかれてないさ」

 

 パーカーを羽織った少年と褐色肌の女性が、緊張感のない会話をしている。ゆっくりと霧が晴れ、雪菜は2人の人影の顔をはっきりと見た。

 

「先、輩……」

「さて、何とか間に合ったみたいだな」

 

 どうもな笑みを浮かべる古城を見て、雪菜は思わず駆け出した。先ほどまでの危機感と、助けに来てくれたという安堵感がごちゃ混ぜになった感情のまま雪菜は古城の胸へと飛び込む。

 

「ひ、姫柊⁉」

 

 普段であればまず行われない大胆な行為に古城は慌てるが、雪菜が握る武骨な刃物を見てその動きが止まる。

 

「何を、いったい何を考えているんですか! こんな危険なことまでして、どうしてここまで来たんですか⁉」

 

 荒れ狂う感情のまま、古城の胸板を雪菜は叩く。仕草だけならばかわいらしいのだが、彼女は訓練を受けた剣巫であり握るナイフのグリップは手からはみ出すほどに大きい。結果として古城は胸部に強烈な打撃を連続して受けることとなり、あまりの痛みに思わず雪菜の腕を掴んで強制的に動きを封じる手段に出た。

 

「お、落ち着け! 姫柊たちを助けに来たに決まってるだろ! すぐに那月ちゃんとバビル2世も来る!」

「だったら、よけいに先輩が危険な場所に来る必要なんてないじゃないですか! そもそも、なんで助けに来る手段がミサイルに乗って船に突っ込んでくるなんていう乱暴な方法なんですか⁉」

「え、いや、あれはミサイルじゃなくて試作型の航空機らしいぞ? 持ち主の主張を信じるなら」

「そんな子供みたいなうそをつかないでください! あれを見てだれが信じるんですかそんなこと!」

「いや、そんなこと俺に言われても……」

 

 烈火のごとく怒る雪菜の勢いに押され、古城はすっかり小さくなってしまう。そこに、見ていられないとばかりにニーナが割り込んだ。

 

「主ら、言い争うのは後にせよ。夏音が困っておる」

 

 うんざりとした口調のニーナに、雪菜は驚きの目を向けた。

 

「えっと、ニーナさん。元に戻ることができたんですか?」

「ああ。賢者(ワイズマン)の支配から逃れた〝霊血〟を使い、なんとか体格はおおむね元に戻すことができた。体形は未だ完全ではないのだが、そこまでの贅沢は言っていられんのでな」

 

 豊かな胸を揺らしながら残念そうに首を振るニーナへ、雪菜が冷たい視線を送る。

 

「お兄さん!」

 

 完全に弛緩した空気となっていた古城たちへ、夏音が必死に声を張り上げて警告した。見れば、ミサイルを見たことと実際の爆風という二重の衝撃から立ち直った天塚が、怒りの形相でふざけ合っているようにしか見えない古城たちを睨みつけている。

 

「姫柊、ニャンコ先生と煌坂からだ!」

「師家様たちからって、これは!」

 

 古城が背負っていたギターケースを雪菜へと手渡す。慣れ親しんだ重さに、雪菜は思わず身に沁みついた動きで内部に仕込まれた武神具を引き抜いた。塚の先端がスライドし、左右の副刃が展開する。

 

「させるかぁ!」

 

 天塚の号令の元、古城たちを半包囲していた天塚の分身体が一斉に腕を触手へと変えて振るった。無数の刃を生やし、僅かにでも触れれば錬金術により触れた部分を金属と化す必殺の触手群だったが、攻撃の決断があまりにも遅すぎた。宙に銀の軌跡が閃り、触手群は一本残らず断ち切られる。

 

「〝雪霞狼(せっかろう)〟!」

 

 雪菜が銘を叫ぶとともに、切断された触手はばらばらと地面に散らばった。魔力を残らず消失された金属片は、一切の動きを見せることはない。

 

疾く在れ(きやがれ)、三番目の眷獣〝龍蛇の水銀(アルメイサ・メルクーリ)〟!」

 

 〝雪霞狼(せっかろう)〟を構える雪菜の隣で、古城は新たなる眷獣を召還した。次元ごと物体を削り取って消滅させる双頭の蛇が、大量に召還されていた天塚の分身を次々と喰らっていく。眷属のコントロール訓練の成果はここでも発揮されており、船への被害はほとんど出ていない。

 

「ぐっ……」

 

 すべての分身を失い、苦虫を嚙み潰したような表情で唸る天塚へ、ニーナはゆっくりと歩み寄った。かつての弟子を哀れみの目で見つめ、聞きようによっては残酷なほどに優しい声で宣言する。

 

「もうやめておけ、天塚汞。汝も薄々気づいているのだろう? 主は賢者(ワイズマン)が〝霊血〟の残滓より生み出した人工生命体(ホムンクルス)だ。完全な人間に戻りたいというその欲望も、賢者(ワイズマン)が埋め込んだ仮初のものに過ぎない。

 これ以上賢者(ワイズマン)の言いなりとなるのも業腹だろう。おとなしく賢者(ワイズマン)の遺骸を渡せ」

「あんたまで……あんたまでそんなことを言うのか、師匠!」

 

 天塚は、血走った目でニーナを睨んだ。だが、その眼に浮かぶのは怒りではなく、恐怖と不安だ。まるで迷子の幼子のような天塚へ、ニーナは穏やかに語りかける。

 

人間(ヒト)であるか否かを決めるのはその肉体ではなく、(こころ)のありようだ。妾もこの吸血鬼も、肉体こそ人間(ヒト)ではない。だがそれでも、せめて生き方は人間(ヒト)らしくしようとあがいている。そう生み出されたからといって、主が賢者(ワイズマン)に従い続ける理由などないのだ」

「理由……でも、僕は、それ以外に……」

 

 脱力した天塚の左手から、黄金の髑髏が落下した。鈍い金属音と共に甲板を転がったそれは、突然カタカタと震えだす。

 

『カ……カカカ……カカカカカカ!』

 

 徐々に大きくなる振動は、どこか笑い声にも似た音をたてはじめた。ニーナはその異常性に眉を吊り上げ、天塚は放心したようにただ髑髏を見つめている。

 

『カカカカカカ……不完全なる存在(モノ)たちよ、もう遅い』

 

 今度こそ、髑髏ははっきりと自らの意思で言葉を発した。僅かに離れていた古城たちは、その声が響くことで異常性を認識する。

 

「まさか、賢者(ワイズマン)――」

 

 怯えるニーナを押しのけるようにして、古城は黄金の髑髏へと近づいた。

 

「この趣味の悪い髑髏が賢者(ワイズマン)だってのか? なら、こんなもの!」

 

 未だ実体化していた双頭の龍に命令を下そうとした古城は、髑髏の口へと凄まじい熱量(エネルギー)が収束されていることに気がついた。本能的に、理解する。〝龍蛇の水銀(アルメイサ・メルクーリ)〟が髑髏を喰らいつくすよりも早く、熱量(エネルギー)は解き放たれると。そして、その奔流は範囲の狭い〝龍蛇の水銀(アルメイサ・メルクーリ)〟の口では抑えきれないと。

 

「れ、〝獅子の黄金(レグルス・アウルム)〟!」

 

 それでも咄嗟に眷属の召還を間に合わせたのは、流石というべきだろう。雷光の獅子が古城たちの前に姿を現すのと、髑髏の口から閃光が放たれるのとはほとんどが同時だった。閃光と爆音が古城たちを襲うが、その衝撃が大きいだけであり古城たちは無傷だった。船にも、目立つ損害はない。雷光の獅子が、黄金の髑髏が放った破壊の奔流を弾き飛ばしたのだ。空気に漂う熱量とオゾン臭が、その攻撃の凄まじさを物語っている。

 

「先輩、これは……」

「たぶん、重金属粒子砲ってやつだ。くそっ……」

 

 古城の脳裏には、焼き払われた埠頭の様子が浮かんでいた。あの場で語られた賢者(ワイズマン)の攻撃手段の1つ。膨大なエネルギーを利用して、荷電した重金属粒子を高速で打ち出すビーム兵器だ。原理上魔力を必要としない以上、雪菜の槍で防ぐことはできない。

 だが、古城が操る〝獅子の黄金(レグルス・アウルム)〟にとってこの攻撃は脅威となりえない。雷光の獅子が周囲に撒き散らす膨大な電磁場は粒子を拡散させるため、ビームを根底から無効化するのだ。

 しかし、言い換えれば現状賢者(ワイズマン)の攻撃を防ぐためには第四真祖の眷獣が必要ということでもある。人工の神に相応しい、恐るべき化け物だ。

 

「違う……」

「ニーナ?」

 

 だが、ほかならぬニーナがその事実を否定した。困惑する古城の前で、ニーナは叫ぶ。

 

「古城、あれは賢者(ワイズマン)ではない! あれが賢者(ワイズマン)だというのならば〝賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)〟はどこにある!」

「――あっ⁉」

 

 そう、今甲板に転がっているのは小さな髑髏のみ。人工の神の血肉になるはずの液体金属生命体は、一滴たりとも含まれていない。

 

「まさか賢者(ワイズマン)がこの船を狙ったのは、私や夏音(カノ)ちゃんが目的ではなく……」

海水(・・)か!」

 

 雪菜の推測を、ニーナが補強した。そんな2人の様子に、古城もうろ覚えの知識を思い出す。

 海水には、金やウランといった貴金属がごく微量ながら含まれているのだ。その総量は、人工島に備蓄できる程度の量などとは比較にならないほど膨大なものだ。海水中に含まれる貴金属の濃度はごく微量であり、効率的に回収する技術は現在存在しない。だが、その有り余る魔力を使って賢者(ワイズマン)が錬金術を行使したのだとしたら。

 絃神島からこの海域まで、船底に潜んだ賢者(ワイズマン)がかき集めた貴金属の量は相当なものになっただろう。そう、賢者(ワイズマン)完全復活の供物としては十分なほどに。

 

『カッカカカカカ――世界よ、完全なる我の一部となれ』

 

 フェリーの船体を貫いて、海中から〝賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)〟の塊が隆起した。甲板に転がっていた黄金の髑髏を呑み込み、不定形だったそれはついに完全な人型へとその姿を変える。全高7,8メートルはある巨人の姿へと。

 数百年の時を超え、人工の神が復活を遂げた。




 ストライク・ザ・ブラッド 用語集

 人物

 施設・組織

 沿岸警備隊 コースト・ガード
 絃神島に存在する、本土の海上保安庁に近しい組織。
 特区警備隊と同じく航空機の保有は原則として認められていないが、海上救助のために航続距離が短いヘリや気球といった航空機は少数保有している。

 種族・分類

 甲殻の銀霧 ナトラ・シネレウス
 第四真祖がその身に宿す12の眷獣の内4番目の眷獣。
 吸血鬼の霧化を広範囲に行うことができる眷獣であり、今回のような回避行動や奇襲など幅広く活用が可能な能力を持つ。
 しかし、イメージが足りなかったりあまりにも霧として拡散されてしまうと元通りに戻せなくなるという欠陥もあるため、使用には特に細心の注意が必要な眷獣でもある。
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