失われし時を求めし者は....... 作:バーバラすこすこ侍
初めまして。バーバラすこすこ侍です。
ドラゴンクエストシリーズを書くのは初めてなので些か至らない点があるかもしれませんが、何卒よろしくお願い申し上げます。
では、どうぞ!
第1話:九死に一生を得た
――――さあ、時はみちました。今こそ、すぎさりし時へ。
白く背の高い「時の番人」の声とともに、勇者エルバが剣を引き抜く。
しばしの間を置き。意を決したように剣を振り下ろす。
金色に輝く『時のオーブ』が砕け、皆で力を合わせて作った『勇者のつるぎ』の破片が宙を舞う。空間が振動し、眩い輝きが視界を明るくする。
「エルバ! 俺達は、もう一度お前と旅をするからな!」
青髪の青年、カミュの、別れを惜しむ声が響く。これから過去に戻ろうという、自らの相棒への言葉だ。
エルバはその声に振り向き、「心配はいらない」とで言うかのように力強く笑いかける。それからエルバはカミュ以外の6人の仲間たちを見渡す。カミュには、まるで一人一人の姿を目に焼き付けているように感じられた。表情には少し悲し気な色が含まれている。お前はただ一瞬別れるだけなんだからそんなにそんなに悲しそうな顔するなよ、とカミュは思った。固い決意は揺らぐことは決してないのは分かっている。しかし、感情は正直なのだ。それは伝説の勇者の生まれ変わりであろうと、人の子なれば当然のことなのだ。
『時のオーブ』の輝きが増していく。その輝きに徐々にエルバの姿が消えていく。これから旅立つ相棒へ、最後に気の利いた言葉をかけてあげられるほどカミュは器用な人間ではない。自分でもそれが分かっている。だからこそ、こういう時は素直に思いついたことを言うべきであるとも理解しているつもりだ。届くかはわからない。届かないかもしれない。もうすでにエルバの意識とは過去へと向かい始めているのかもしれない。だが、それでも、と。精一杯に声出した。
「また会おうな……!!」
△
「あーあ、行っちまったな」
先ほどまでの輝きが嘘のようだと、カミュ達7人は皆思った。エルバの姿はどこにも見当たらない。残っているのは折れてしまった『勇者のつるぎ』の破片と、その柄。それに『時のオーブ』の残骸である。
「最後の最後まで頑固なお方でしたわね。どうかベロニカお姉様や過去の私たちの下へ無事にたどり着けますように……」
金髪のショートヘアーの女性、セーニャが言う。過去に戻り最愛の姉であるベロニカの死をなかったことにし、元凶であるウルノーガの野望を阻止して世界の崩壊を未然に防ぐことをエルバに託した。エルバのことを愛していたのではないかと、そして、勇者を導くという使命の下に生きてきた存在である彼女はこれからどうしていくつもりなのだろうかと、ふとカミュは思った。
「そうじゃの。それに、わが孫ながら本当に立派になったものじゃ……。育ててくれたテオ殿とぺルラ殿には本当に頭が上がらないわい」
「いつもどこかぼんやりしてて危なっかしいけれど、エルバならきっと過去の世界も救ってくれるはずよね」
小柄で恰幅のよい老人、故ユグノア王国先代国王ロウと、デルカダール王女のマルティナが後に続く。16年前に娘のエレノアとその婿アーウィンを失ったというのに、今度は孫のエルバまでもがいなくなる。その事実をロウがしっかりと受け止めていることに、デルカダール王国の英雄であり、勇者の盾であったグレイグは尊敬の念を覚える。
自らの思い違いがベロニカの死、そして世界の崩壊を招いた原因の一端になっているということに、責任感の人一倍強いグレイグは、自分の無力さを感じられずにはいられなかった。
軽い沈黙が場を支配する。時の番人が不思議そうにその様子を眺めている。
「ほーらっ! 暗い顔しないの! そんなんじゃ過去に戻ったエルバちゃんがちゃんと自分の力を発揮できないでしょ? 私たちがまずしっかりしないとダメじゃない」
エルバの決意は固く、それに応えるべく仲間たちも見送る決意をしたものの、やはり皆の表情は暗いものである。世界中の人を笑顔にすべく旅をしていた旅芸人のシルビアでさえもそれは例外ではない。しかし、まずは自分が皆を元気づけようと動き出す。そこがパーティのムードメーカーであるシルビアらしいといえる。
自分だって悲しいはずであってもそのような行動に出るシルビアの姿を見て、他の5人も前を向かなければならないと気付かされたようだ。
「そうだな……そうだよな。俺たちがこんなんじゃエルバに示しがつかねぇってもんだよな」
カミュの言葉に皆一様に頷く。魔王ウルノーガを打倒した面々ということもあって、精神面は常人のそれよりも遥かに強いものとなっている。
「すぎさりし時を求めた勇者は旅立ちました。皆さんはもうこの場所には用はないはずです」
空気を察したのか、『時の番人』が6人に語り掛ける。表情が無くて感情が読み取れないが、空気を読むことができるんだな、とカミュは思った。それ以前に感情というものがあるのかが甚だ疑問ではあるが。
「そうね。私たちはエルバがいなくなったことを最後の砦、イシの村の皆に伝えなくてはいけないわ。それに、お父様やそれ以外の多くの人々にも」
「そうですわね。勇者と力を合わせて守った世界を、これからは私たちだけで守っていかなくてはなりませんわ。エルバ様はもういらっしゃらないのですから」
魔王ウルノーガを討伐したとはいえ、ウルノーガの手によって生み出されたと思しき魔物の残党はまだまだ世界中にいる。それらが街に被害をもたらさないとも限らない。魔物が世界からいなくならない限り真の平和が訪れることはないのだ。
「勇者エルバがいなくなった今、俺は勇者がいなくなった世界を守る盾となろう」
グレイグが力強く宣言する。体格が大きくても案外繊細なグレイグがここまで立ち直ったのならもう心配いらないわね、とシルビアは秘かに思った。マルティナも同じようなことを考えていたようで、2人は目を合わせて少しだけ笑った。
「さあ、帰ろうぜ! 俺たちにはまだまだやるべきことが残ってる!」
△
俺が住んでいる地域では滅多にお目にかかることのできない一面の雪景色に胸が躍る。一歩踏み出すと、サクッと子気味のいい音を立てて足が沈む。もう片方の足でやってみても同じことが繰り返される。
「やばい、超楽しい。なにこれ、すごいなこの雪」
20歳にもなって語彙力が壊滅的である。いくら世間一般で成人といわれる年齢であっても、こういう時は少年のようになってしまうものである。仕方のないことだ。
「周囲を見渡してみても、一面の銀世界。木にも雪がどっさり乗っていて、でっかい氷の塊もあって、そのすぐ近くに太鼓を持った魔物ようなものまでいる。……魔物?」
どうやら浮世離れした出来事に無意識のうちに現実逃避をしてしまっていたらしい。とにかく魔物のような得体の知れない物体から見つからないように岩陰に身を隠した。なにあれ、目は赤く光ってるしよくわからないメロディで太鼓をずっとたたき続けてるし。
「今更だけどここどこだよ……さすがに寒すぎだろ。てか俺さっきまで浜松からの電車に乗ってたはずなのに……。あれ、でもなんかこの風景どこかで……」
高校を卒業してかれこれ2年と少し、今の会社にもようやく慣れて徐々に軌道に乗ってきており、このまま数年以内には結婚して子供も生まれて、今の会社に定年までお世話になるのかなぁとぼんやり考えていた矢先の出来事である。
会社帰り、疲れた体を引きずって電車に乗ったはいいものの、いつもの駅にそろそろ着くはずだなと思っていたがなかなか着かず、疲れのせいで感覚がおかしくなっているのかと思っているうちにそのまま寝てしまった。はっと気が付いたときにはこの雪原のような場所に倒れていた。今思い返してみても意味が分からない。一緒にあったカバンの中の荷物を確認したが、会社で作成した資料と半分飲んだ緑茶のペットボトル。それから筆記用具とスマートフォンだ。頼みの綱のスマートフォンはなぜか電源が付かないのでどうしようもない。モバイルバッテリーなんて持っていなかったため完全に"詰み"である。
「まさかここがネットでよく聞く都市伝説の『きさらぎ駅』なのか!? ……いや、そんなわけないない」
一つの仮説を考え付いた。しかしその考えはすぐに振り払う。突拍子もないことは今起きていることだけにしてほしい。
「ん、まてよ? これはもしかして夢なのでは?」
こちらのほうがよほど現実的な考えである。夢である方が現実的とは、なんともややこしいが。
「てことはあそこにいる奇怪な姿をした魔物みたいなやつも夢に出てきてるだけの存在なのか! どっかで見たことある姿だと思ってたけど、もしかしたら起きてる間に何かしらで見ていたのかもしれないな。夢って現実で見たものに大きく影響されるっていうし」
そうと決まれば、と岩陰からでて太鼓のようなものを持つ魔物に近づく。どうやらこちらの存在にはまだ気が付いていないようだ。
さらに近づく。抜き足差し足忍び足。気分は後ろから友達を驚かせようとするいたずら小僧だ。そうこうしているうちに、2メートルほどの距離まで近づいた。
「近くで見ると思ったよりもでっかいんだなぁ。でもやっぱりこの姿どこかで……」
うーん…と唸っていると、魔物がこちらを見た。真っ赤な両目がこちらをしっかりと捉えている。これは夢なのであまり恐怖は感じないが、想像より5倍は赤く光っている。パトカーもびっくりなんじゃないか、と場違いにもほどがあることを思った。
「ウォッ! ウォッ!!」
「うおぁ!?」
突然魔物が、頭の上に『!』が付いたような勢いで襲い掛かってきた。かろうじて横っ飛びして躱したが、反応できていなかったら大けがをしていたかもしれない。俺にもこんな反射神経があったんだと、ずっと文化部に所属していた自分を褒めた。
「……って、は? おいちょっと待てなんで追いかけてくるんだよ!! しかもなんかよくわかんない紫色の熊みたいなのもいる!?」
予想外の事態に無我夢中で走る。雪に慣れていないのと、通勤用の革靴というのもあってとにかく走りにくい。太鼓持ちと熊がともにそれほど足が速くないのが救いだ。しかし、いくら逃げたところでこちらが先にばててしまうのは目に見えている。それに、よくみるとそこかしこにたくさんの魔物がいるようだ。今はそちらに構っていられる余裕は無いのでとにかく魔物がいない方向に逃げる。他のがどんな姿をしているのかなんて二の次だ。
「てかこれ本当に夢なのかよ! 現実感ありすぎだろ!!」
冷たさで両足の感覚が麻痺している。このままでは、死――。
「死ねるかぁ!」
疲労と冷気でガタガタになっている両足に鞭をうって力を振り絞る。2体の魔物の気配察知圏内から抜けられたのか、追ってくることはなくなった。
「やばいってこれ。意味わかんねぇよ。いったい何が起きてるっていうんだよ」
どうにかこうにか再び岩陰に身をひそめる。火事場の馬鹿力というやつが発動してくれたらしい。
ここは空間が湾曲しているため奥が見えないが、この岩陰の向こう側にはさらに雪原が広がっているようだ。大きな氷の塊があって登れはしないが、壊すか溶かすかすればここから上にも行けそうだ。上のほうが案外安全かもしれないが、俺にはこの氷はどうしようもないので考えないことにする。
地べたに座り込んでいるため尻からひんやりと冷たさが伝わってくる。濡れてしまうだろうがこの際構っていられる心の余裕なんてない。また魔物の襲撃があるかもしれないのだから疲労の回復に専念する。入ってきたほうの岩陰から顔を出して確認しても魔物は今のところ見当たらない。
「ここから先どうしたらいいんだよ俺は。どこか人がいるところはないのかよ」
これが夢ではなく現実だとするならば、思い当たるのは異世界転生。しかしよくある異世界転生というものは必ずと言っていいほど町の中に飛ばされるはずだ。あとは何かしらの特典付き。それなのに、どうして俺はこんな雪原に飛ばされていきなり死にそうな目に遭遇しているのか。
そして、先ほどからどこか既視感を覚えるこの風景。太鼓の魔物は見たことがある気がする。何かが引っかかる。それらを解き明かすために、今はとにかく人がいそうなところを目指すしかない。
「そろそろ移動するか……っ!?」
立ち上がり岩陰から出ようとした矢先、背後に気配を感じた。背中に冷たいものが走る。どうやら背後の警戒を怠ってしまったようだ。
機械から発せられるモーター音のようなものが聞こえる。十中八九魔物であるが、機械音がすることにどうにも胸騒ぎが止まらない。機械の音がする魔物とか俺が知ってる現実世界のゲームに似たようなのがいたなぁ、とここで考えるには危機感がなさすぎることが頭によぎった。
魔物が近づいてくる気配は今のところない。恐る恐る振り返る。もしかしたら動くことによって相手に何かしらの反応があるかもしれないが、背中を向けているのは怖すぎるため、決死の覚悟で体を回す。
「っと。え、嘘だろ……?」
振り返っても攻撃されることがなくて一安心ではあるが、それよりも大きな問題が発生した。本格的に自分が置かれている環境のせいで混乱してきた。というのも。
「これって、キラーマシン……だよな? なんでこんな……」
思わず後ずさる。がしかし、背後には先ほどまで身を隠していた大きな岩。万事休すだ。
俺が昔から大好きなゲームに出てくる敵、キラーマシン。現実で見るのならどんなものだろうと思っていた。想像していたより少しばかり背丈が小さいが、武器の凶悪さがゲームのそれとは明らかに異なる。本物の『殺し屋』のものである。ゲームで見るような生易しいものではない。
「これは……終わった……。どうか、どうかこれが夢でありますように……」
キラーマシンが徐々に近づいてくる。攻撃態勢に入ったのかもしれない。
もう神に祈ることしかできない。俺が仮に異世界転生していたとして、これがあのゲームの世界なら、蘇生呪文はあるのだろうか。運よく誰かに見つけてもらえたら協会に連れて行ってくれるだろうか、などと現実逃避じみた考えばかりが頭に浮かんでくる。
うずくまって目を瞑る。成す術はないので、どうにでもなれと身を委ねる。これが悪い夢でありますように、と恐怖に震える声にならない声で何度も何度も呟き続けることしかできない。
キラーマシンが右手を振り上げる気配がする。右手は剣と弓どっちだっけ。あ、弓は振り上げないよな。だったら剣だ。と意味もない思考が加速する。思考とは対照的に時間がスローモーションに感じる。
もうなるようになれ、と痛みに備えて歯を食いしばる。
「忌まわしき魔物よ! そのお方から離れなさい!」
……しかし、痛みが来ることはない。代わりに聞こえてきたのは、美しい琴の音色と女性の声。
不思議と心が落ち着く。落ち着いている場合ではないのにもかかわらず、だ。
声は知らないが音色には聞き覚えがある。キラーマシンが存在するのであれば、この世界はやっぱり……。
俺はうっすらと目を開ける。そこには、何かに縛られているように体が思うように動かせないでいるキラーマシンの姿があった。この現象はこの琴の音色が起こしているのだろう。
「これでも喰らいなッ!!」
目を開けてすぐ、キラーマシンの背後から何者が攻撃をする。速くて目で追えなかったが、3回くらいは攻撃していたと思う。キラーマシンの目と呼ぶべきところが消え、光となって消滅した。
「は……ははっ……助かった……」
安心感からか、ぺたりと尻から地べたに座る。腰が抜けてしまった。
「おい、大丈夫か? 危ないところだったな」
「私たちが来たからもう大丈夫ですよ」
キラーマシンを倒してくれたのは、男女の2人組。1人は青い紙をツンツンに逆立てている青年。もう1人は、金髪のショートヘアーで、前髪をヘアバンドで上げている。
よかった。もう助かったんだ。そう思った瞬間、とてつもない眠気が襲ってきた。いろいろなことが短時間に置きすぎて疲れてしまった。さすがに耐えきれなくなって俺はそのまま雪に体を預けた。
「お、おい! どうした! くそっ! 魔物にやられたのかもしれねぇ、回復呪文を頼む!!」
「わ、分かりました!」
そっか、回復呪文か。それに2人のこの姿、俺はやっぱり来てしまったんだと実感した。『ドラゴンクエストXI』の世界に。
青髪の青年カミュと金髪の女性セーニャ。この2人に見つけてもらえたことは、不幸中の幸いだろう。もう安心できる。
2人は慌てながらどうしようかと話している。現実世界で救急車を呼ばなきゃいけない場面では、きっと俺もこういう感じなんだろうな、と思った。
そんなくだらないことを考えているうちに、俺の意識は遠のいていった。
ありがとうございました。みんなのトラウマキラーマシン先輩。
書き溜めが少々あるので、しばらくは問題なく投稿できそうです。
匿名投稿にする理由は特にありませんが、強いて言うならなんとなくです(笑)
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それでは、また次回!