失われし時を求めし者は....... 作:バーバラすこすこ侍
デレアニめっちゃいいですね!(物書きとは思えない語彙力) おかげで執筆が進んでおりませんが……。
近況報告はこれくらいにして、では、どうぞ!
後頭部に柔らかな枕の感触がする。体にかかっている布団も温かくて、どこか安心感を覚える。まるで実家の自分の部屋にある布団で寝ているかのような感覚だ。
俺は寝る前何をしてたんだっけ。……あれ、思い出せない。寝つきと寝起きはすっきりするタイプなはずなんだけどなぁ。最後は確か、すごく寒くて、それから……。
「……はっ!?」
寝る前に自分に降りかかった災難をようやく思い出して、がばっと起き上がる。右を見ると木で作られた壁があった。どうやらここは木造の建物らしい。左を見ると、青髪をツンツンに逆立てた青年がいた。
「ようやくお目覚めか。体の具合は大丈夫そうなのか?」
「えっと……はい、大丈夫そうです。ご心配ありがとうございます」
少し体の調子を確認してから答える。徐々に頭が冴えてきて、自らの現状に対する焦燥が襲ってくるがそれをこらえる。
「なんか堅っ苦しいなおい。まるでセーニャみたいだ」
カミュは苦笑しながらツッコミを入れる。ゲームで見ていた時からずっと思っていたが、とにかく顔がいいのでどんな表情をしていても似合っている。
「はぁ、まあ。少々混乱しておりまして。あの、ここは?」
「あんなことがあったんじゃしょうがないよな。ここはシケスビア雪原の北のほうにある小屋だ。普段はここらの魔物の生態を調べつつ魔法の研究をしている学者が使ってるんだ」
「シケスビア雪原、ですか……。ご丁寧にありがとうございます。あの女性はどちらへ? 確か、セーニャさん、と呼んでましたよね?」
勿論名前など最初から知っているが、知らないというフリをする。俺はこの世界の人間ではないのだから。
「セーニャなら、温かいスープを飲めば元気になるはずだって言ってその辺でスープに入れる野草を採集してるぜ。この辺に育つ野草は寒さに強く味もいいんだ。さすがに作るのは味的な面であいつには任せられねぇけど、そういう草の知識とかは俺より詳しいからな」
「そうなんですね。何から何までありがとうございます」
「いいってことよ。魔物に襲われてるアンタを見つけたのはセーニャだし、お礼ならあいつに言ってくれ」
「分かりました」
2人ともとてつもなく親切だ。ゲーム内の知識しかないが現実にこのように関わってももそれは変わりないらしい。
「そういやアンタの名前ってなんていうんだ? 俺の名前はカミュだ」
「俺は零です」
忘れてた、というように聞いてくる。確かにいつまでも名乗らないのは失礼だと思ったので素直に答えた。この世界で苗字に意味はあるのか分からなかったので下の名前だけ。れい、という響きからよく女の子に間違われていた。
「レイか。いい名前だな。俺のことはカミュでいい。あと敬語もいらない。よそよそしくて背中が痒くなってくる」
茶目っ気たっぷりに言う。顔がいいせいか、めちゃくちゃ様になっている。ホストとかをやったら間違いなくナンバーワンになれそうだ。歯が浮くようなセリフとかを言わせたら黄色い悲鳴が上がること間違いなしだと思う。
「んじゃあ遠慮なく。よろしくね、カミュ」
「ああ、よろしく。しかしまぁ、どうしてレイはあの場所にいたんだ? それにそんな寒そうな格好で。世界各地を旅してきたが、そういう服装をしている国や村はなかったと思うが」
あー……。と歯切れの悪い返事しかできない。どう説明すべきかなんてすぐに思いつくはずもない。電車に乗って寝落ちしたらいつの間にかゲームの世界の中だったなんて言えない。それにこの世界の住人は自分たちがゲームの中のキャラクターだなんてわかるわけがないのだから。
「んー……迷い込んだ、としか言いようがないというか何というか……。この辺には来たことがなくてね。あと、服装は一応俺の故郷では正装扱いされてるものなんだけどね」
会社務めなのでスーツを着用しているが、この世界ではこの格好では浮いてしまうのか。こういう感じの装備があったような気がしなくもないが、まぁ気にしないことにする。
「迷い込んだ、か。よくわかんねぇな。正直服については何も言うつもりはないけどあんまり奇怪な格好してると目つけられたりするから気をつけろよ」
「ありがとう」
ぼんやりとごまかして『迷い込んだ』とは言ったものの、"違う地域"からではなく"違う世界"からなのでどう説明すべきか。いつかは話さなければならないことだとは分かってるが、どのような反応をされるのかが怖い。多くの不思議な経験をしている2人ならばおそらく問題ないのであろうが、怖いのであまり言いたくはない。
それと、海賊みたいな格好になる所謂おしゃれ装備で普通に出歩いている人に注意されても何一つ説得力がない気がするのは、恐らく普通だろう。
「ただいま戻りました。あ、お目覚めになられたのですね! 良かったですわ!」
脳内でモヤモヤと考えていると、セーニャが帰ってきた。右手には野草の入ったかごを持っている。
「魔物から助けていただきた本当にありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいのか」
「お気になさらないでください。無事で本当に安心いたしました。今からスープをお作りいたしますので少々お待ちください」
「いや、スープは俺が作るからセーニャは座ってろよ」
「いえ、私に作らせてください」
「だめだ。お前は外にいて冷えてるんだから暖炉の前で暖まっておけ、いいな?」
「……分かりました」
まるで夫婦のようなやり取りである。カミュがそこまでしてセーニャにスープを作らせたくない理由は何だろうかと思ったが、さっきの会話の中で、『味的な面で任せられない』と言っていたあたり、壊滅的なセンスなのかもしれない。
髪の毛が入らないようにしているのか、ターバンのようなものを頭に巻いたカミュがスープ作りに取り掛かる。現実世界でいう三角巾だな。
セーニャは口をとがらせて少し不貞腐れていたが、言われた通り暖炉の前に置かれている、今までカミュが座っていた椅子に腰かけた。不貞腐れている様子が可愛いと思った。
「セーニャ……さんですよね? 俺は零って言います」
「はい、私はセーニャと申します。よろしくお願いいたしますわ、レイ様。私のことはセーニャ、と呼んでいただいて構いません。口調も砕けた感じで大丈夫ですよ。私のは癖みたいなものなのでお気になさらず」
「じゃあお言葉に甘えて。よろしくお願いします。いや、よろしく、セーニャ」
カミュの時と同じように挨拶をする。この世界の住人は基本的にフランクなんだな。日本生まれ日本育ちの俺からすると少々戸惑うが、その戸惑いを表に出さないように意識する。言語が通じる海外留学と置き換えて考えればなんとなく気が楽になる。
「カミュとセーニャは随分仲良しなんだね。夫婦か何かなの?」
ゲーム内ではそんな描写はあまりなかったが、今現在ここが現実である以上、些細な情報も欲しいところだ。さりげなく情報収集を開始する。悩み事や怒りも一度寝たら忘れてしまう俺の脳は、こういう時にも冷静さを取り戻すのにいい働きをしてくれるらしい。
「いえ、夫婦などではありませんわ。私の使命が果たされた今、魔法の研究が発達しているクレイモラン王国に来てはどうか、とカミュ様が誘ってくださったのです」
ちらっとキッチンにいるカミュのほうを見る。セーニャが採集してきた野草を包丁で食べやすい大きさに切っている。この世界にも包丁とまな板はあるんだな。それもそうか。
既に気になる点はあるが、続きを促すように顔を見る。全体的な顔のパーツが整っていてとても美しいと思った。見とれてしまいそうになるが、暖炉にくべられている薪がパキっと割れた音で我に返る。
意図を察したのか、セーニャは続ける。
「私はもともと回復魔法が得意でした。いろいろなことがあって、私の一番大切な方がいなくなり、その力を受け継いだことによって攻撃魔法も使えるようになりました。ですが、攻撃魔法の方は練度が高くないのです。なんとか魔王ウルノーガを打倒することには成功いたしました。しかし、世界には未だ魔物がはびこっております。どこかで修業を積み、困っている方々の力になりたいと思っていた矢先、カミュ様から先ほどご説明した内容の提案をしていただいたのですわ」
なんとなくではあるが、自分が今いる世界の状況が読めてきた気がする。ほんの一部のことではあるだろうが、基本的にはゲームで経験したシナリオの通りになっているのは分かった。
セーニャがショートヘアーであることからしても、ウルノーガがボスになった世界線であるのはほぼ間違いないだろう
「そうだったのか。……えっと、いくつか聞いても大丈夫?」
「ええ、構いませんわ」
「ありがとう」
頭の中で今聞きたいことをリストアップしつつ話を整理していく。事務の仕事を2年間続けてきているおかげで情報をうまく整理整頓してまとめる能力が養われた。最初こそ不安でしかなかった業務内容も、今考えてみれば自分に一番合っていたのかもしれない。
考えがそれたが、とりあえず一番聞きたいことをまずは聞いてみることにした。
「セーニャの、『使命が果たされた』っていうことは、どういうことなの?」
確かセーニャの使命は『勇者の導き手となること』みたいな感じだったはずだ。
『ドラゴンクエストXI』は話が好きで1度すべて話を終わらせた後、『ふっかつのじゅもん』システムを用いて、所謂"強くてニューゲーム"の状態で2週目を楽しんだものだ。それを最後までクリアして以降触れていなかったので、半年ほど離れていた。それでも内容は意外と覚えているものなので、セーニャから聞き出せればおそらくほぼ確実にゲーム内時空に照らし合わせた時間軸がわかるはずだと思った。
「私、いえ"私たち"の使命とは、勇者の導き手となることです。この世界で暗躍する魔王ウルノーガを打倒すべく命の大樹が遣わした勇者を、私たちが導く、ということです」
「勇者?」
やはり俺の記憶は正しかった。この世界はゲームと大差ないらしい。この世界の人間でもなく、ただの一般人として認識されているであろう俺は、すべてを知っていることを悟られないよう聞いた。
「勇者とは、大いなる闇を打ち払う、命の大樹に愛されし存在のことです。また、ウルノーガとは命の大樹の魂をその手中に収め、一度世界を滅亡寸前にまで追いやった存在です。先ほど少しだけ名前を出しましたね」
「でも、そのウルノーガは勇者とセーニャ達が倒したんだよね?」
「そうです。多くの犠牲を払い、悲しみを乗り越えて成し遂げました。大樹の魂は息を吹き返し、この美しいロトゼタシアも元に戻りました。しかし、失われた命は戻ってきません」
「そうだったのか……」
ウルノーガが打倒されて世界が平和になった後の状態、ということは、この世界は勇者が過ぎ去りし時を求めて過去に旅立つ前なのか、それとも旅立った後なのか。
うーん、と唸っていると、スープができたから席につけ、とカミュに声をかけられた。テーブルの上には、湯気がモクモクと出ているスープと、おそらくフランスパンなのであろうがフランスパンのような形をしたもの、そして干し肉が並んでいた。一応現実世界のクリエイターが作成した世界なので、人間が到底口にできないようなものは世界観的にないとは思うが、どうだろう。
『いただきます』を言うか迷ったが、2人が何もせずに食べ始めたので俺も何も言わず、心の中でだけ『いただきます』をした。
まずはカミュ特製の野草スープを一口。少し味が濃いめで、いかにも寒い地域という感じだ。コンソメに近い風味で、大変美味しい。
続いてフランスパンのようなものを少しちぎって食べる。これは間違いなくフランスパンだ。名前は分からないが、俺の中ではこの食べ物はフランスパンと呼ぶことにしよう。浸して食べても良さげだ。アツアツのスープがちょうどよく食べやすい温度になる。
少し食べ進めたところで、先ほどまでの話の続きを、食事をしながら今度はカミュもいれて再開する。
「さっきの話に戻るけど、まさかその勇者とカミュとセーニャの3人だけでウルノーガを倒したわけではないよね?」
「ああ。俺たち2人と勇者エルバ、後は4人、いや、5人か。合わせて8人だ」
「実際にウルノーガと対峙したときには7人でした。しかし本来であれば、私の双子の姉のベロニカお姉様がいらっしゃったはずなのです。ベロニカお姉様は、ウルノーガの手によって命の大樹が堕ちた時、仲間のみんなを助けるために魔力を使い果たし、命を落とされました」
「そんな……」
含みのある言い方をしたカミュの言葉を、セーニャが繋げる。知ってはいたが、やはりショックである。カミュも顔を俯かせている。今でも思い出すと悲しくなってしまうのだろう。
俺はゲームの初見プレイの際、まさかの展開過ぎてしばらく放心状態になった思い出がある。セーニャが髪を切るシーンでベロニカの能力などが継承されたときの切なさと絶望感は、とてつもなく大きかった。
「確かにお姉様を失った悲しみは大きかったです。しかし、お姉様は今でも皆さんの、そして私の心の中で生き続けております。
私は元々回復魔法しか使えなかったと申し上げましたが、ベロニカお姉様が得意としていた攻撃魔法が使えるようになりました。今でも私とお姉様は、2人で命の大樹の1枚の葉を共有しているのです。芽吹く時も散るときも一緒と、そう約束しましたから」
セーニャは、もう悲しみには閉ざされない、と言うように強く語る。本当に強い人だと思った。双賢の姉妹は今でも双賢の姉妹であり続けている、とそんなことを考えてしまった。
「セーニャは普段はのんびりしてて、ベロニカには『グズ』とか言われてたけどなんだかんだしっかり者だからな」
「カミュ様はベロニカお姉様に『ひよっこ』呼ばわりされていたではありませんか」
カミュがからかうような口調で言う。しんみりモードになってしまったのを察してわざとこういうことを言っているのだろう。それに気付いているのかは定かではないが、セーニャも負けじと言い返す。なにおーう! というように言い合うゲーム内では決して見ることのできない会話に、少々胸が躍る。さすがに2人を止めないわけにはいかないが。
「まぁまぁ、2人とも落ち着いて。あ、そうだ! 最後に1つだけ聞いていいかな?」
気をそらすためにあえて少し大げさに言う。実際は、これを聞けばこの世界の現状がはっきりと知ることができるので真面目に答えてもらう場を作らないといけなかったのが大きい。
「まあいいか、何かあるのか?」
「私たちで答えられる範囲であればなんでもお聞きください」
無事、2人の意識を俺の最後の質問へとそらすことができたようだ。両者の顔を順番に見てから、聞きたいことを口にする。
「2人と一緒に戦った勇者のエルバ? はどこにいるの? 自分の故郷に帰ったとか?」
これさえはっきりすれば自分がそういう世界にいるのかがわかるはずだ。
勇者が過去に戻る前であれば、過去に戻る前に勇者と話をして、『勇者の奇跡』とやらで元の世界に帰れないかと考えている。恐らくこの世界はゲームのシナリオに沿って進行しているので勇者が過去に戻るのは確定事項であると見て間違いはないはずだが、この2人と知り合えたことで、行動を共にしていればいつか必ず会う機会が来る。
もし仮に勇者が過去に戻った後ならば、その時はもう諦めるしかないのではないか。他に考えられる手立ては今のところ思いつかない。半分あきらめモードではあるが仕方のないことだと思う。環境に順応する能力は昔から高い方だったので何とかやっていけるだろうと楽観的になってみたりする。
この質問を聞いて、2人は顔を見合わせて『あー……』というようななんとも言えない表情になる。その瞬間全てを察してしまった。がしかし、何も知らないという風体を装って回答を待つ。
「エルバは……あいつは、過去に戻った」
「理由と方法はお話しするととても長くなってしまうのでお話しできませんが、過去に戻ったんです」
「過去に……戻った……」
……予想的中。ロトゼタシアの大地に骨をうずめることが確定した瞬間である。
少年たちの夢であるゲームの世界に入ることを実現し、その世界の中で死ねるのならばまだ良いか、と思わないでもない。ポジティブに生きねば何事も上手くいかないんだよ、という母の教育がここで役に立つとは……。もう母に会えることもないだろうが。
まぁこれが仮に何一つ予備知識もない未知の異世界ならば絶望でしかなかったのだから、不幸中の幸いとして考えておくことにした。そんな簡単な言葉で片付けられる事態ではないが。
「信じられないよな、当たり前だ」
「突拍子もないことを突然聞かされているのですから仕方のないことですよね」
どうやら2人は俺の反応を、過去に戻ったという話が信じられないと考えている、と解釈したようだ。信じる信じないではなく"事実を知っている"ので、実際は全く別物であるが。
「いや、信じるよ。俺を助けてくれた2人だし、勇者の仲間で魔王の手から世界を救った人達なんだから、あまり人には信じてもらえなそうな出来事の1つや2つはあると思うからね」
カミュとセーニャは驚いて目を見開く。確かにこんなことを言われたら驚くだろう。実際問題、過去に戻ることと同等かそれ以上におかしな出来事に巻き込まれている時点で、仮に事実を知らなかったとしても2人の話を信じていただろう。
「なんというか、まあ……簡単に人を信じるんだな」
「悪意を持った人々に騙されてしまわないか心配ですわ……」
セーニャがそれを言うか、というツッコミはすんでのところで飲み込んだ。第一、今日であった人に自分たちの体験を簡単に話してしまう時点でかなりのお人よしであることには間違いない気がするので、これはおあいこである。これは言っても仕方ないが事だが。
とりあえず、ある程度話に一区切りがついたので、食事を再開する。腹が減っては何とやら。これからのことは空腹が満たされてから考えることにしよう。
ありがとうございました!
私はまたデレアニを観てきたいと思います!()
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