失われし時を求めし者は.......   作:バーバラすこすこ侍

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 お疲れ様です。最近の4日間で100万文字以上読んで絶賛眼精疲労で苦しんでいるバーバラすこすこ侍でございます汗 皆様も眼の酷使はほどほどにしてくださいませ。

 以上、活字中毒者からの注意喚起でした!

 では、どうぞ!


忍び寄る脅威
第5話:異世界での新生活


 

 

「それでは、薬草とキメラのつばさ3つにせいすいで、合わせて103ゴールドでございます。……103ゴールド丁度、いただきます。ありがとうございました、足元にお気をつけてお帰りくださいませ。またのご利用をお待ちしております」

 

 王宮お抱えの道具屋で働き始めてからかれこれ数週間。ようやく店の業務をすべて任せてもらえるようになった。

 昼は働きながら夜はクレイモランの王宮でリーズレットにこの世界の文字を教わりつつ、前の世界での生活や技術、文化といった知識を逆に教えたりしている。好奇心旺盛なシャールも、俺が前の世界について話すときは興味深そうに聞いている。一国に女王に気軽に会って授業じみたことをしているこの現状にはもう慣れてしまった。

 前の世界の家族や同僚は俺が死んだものだと思っていることだろうが、戻る手段がないので申し訳ないとは思いつつも、生きるのに必死になっている毎日である。フリーターのような暮らしだが、不満は特にない。自分が住む家も見つかり、なかなかに充実し始めている。異世界暮らし、悪くない。

 

「よお、今日も頑張ってるな!」

「あ、カミュ!」

 

 普段よりかなり暇で、たまに来るお客さんの相手をしていたら、見知った顔がやってきた。

 

「今日はオレも一緒だぜ」

「マヤもいたのか。相変わらず仲良し兄妹だなあ」

「なっ……! 余計なこと言ってないで働け!!」

「わかったわかった」

 

 カミュの妹のマヤも一緒に来ていたらしい。ツンが多めの、兄貴大好きツンデレ妹。反応が面白くてついついいじってしまう。カミュが小屋で生活していない期間は基本的に2人で暮らしているらしい。時折セーニャも交えて3人でご飯を食べたりしているそうだ。表には出さないが、マヤは姉ができたような感じで嬉しそうにしている、とカミュが語っていた。セーニャの方も、年の離れた妹ができたようで嬉しいといっていた。

 

「今日はどうしたの?食材の買い出し?」

 

 話の軌道修正をする。最近はカミュに習いながらマヤも料理を少しずつ覚えていっているらしい。今更だが、見た目良し中身良し、面倒見良し、可愛い妹もいて、ついでに料理もできる。カミュには非の打ち所がない。これが俺が前にいた世界だったなら3秒で彼女ができそうなものである。

 

「今日はちょっと旅のための必需品とかを集めておきたくてな」

「ああ、そういうことね」

 

 世界が平和になったら、兄妹2人で世界中のお宝を求めて旅をする、とウルノーガを倒す前に約束をしていたそうだ。カミュが魔物を倒したり王宮の兵士に稽古をつけて必死にお金を貯めていたのは、旅に出るためにの資金を集めるという目的が大きかったというのをこの間セーニャから聞いた。この兄妹、揃いも揃って兄バカ妹バカである。本人たちに言うと身の安全の保障はないので口が裂けても言えないが。

 

「まだ出発するわけではないけど、ちょっとずつ揃えていったほうがいいと思ってさ。いししっ」

「といってもいつ出発するとかは明確には決めてないんだけどな」

 

 笑った顔がとてもよく似ているな、と思った。自分たちで勝ち取った平和な世界を、妹に見せてやりたい。そうカミュが言っていたが、世界中を旅してきたカミュがいればマヤにとってこの旅はお宝以上にかけがえのない経験になるのではないか。

 

「そういうことならじゃんじゃん買っていってね」

「安くしろよな!」

「残念だね、マヤ。特定のお客さんにサービスしてると店長に俺が怒られちゃうんだよ」

 

 店長に怒られるのは勘弁である。

 

「ほら、変なこと言ってレイを困らすな。とりあえずこれとこれと、これをくれ」

「かしこまりましたー!」

 

 一時はどうなることかと思ったが、なんだかんだ今ではこの生活に慣れて、楽しさを見出している。初めて王宮にいった日は本当にだめだと思った。あの時、リーズレットがあんな風に言ってくれるとは思わなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 △

 

 

 

 

 

 

 

「まさかとは思うんだけど、アンタもしかしてこの世界の人間ではなかったりしないかい?」

 

「……は?」

 

 この時、何を言っているのかと頭が追い付かなかった。全身から冷や汗が噴出してくるのを感じた。カミュとセーニャも意味が分からないというような顔をしていたのをよく覚えている。

 

「なに、考えられる可能性を口にしただけさ。……まさか、図星だっていうのかい?」

「ええっと……その……なんていうか……」

 

 思考回路が複雑に絡まり合って言葉がしどろもどろになってしまっていた。爆弾を投下した張本人であるリーズレットは、自分で言っておきながら大変驚いている様子だった。

 

「どうやら、事実なのか。それとも、それに近い状態にあるのかい? 別に、どういう返答をしても取って食ったりしないさ。もちろん捕縛したりもしない。お前たちも手は出さないで」

 

 そう聞いて少し安堵した自分がいた。周りの警護兵たちも武器の構えを解いてくれた。

 そう、相手は魔女。いくら魔力を失っているからといっても、古の時代より生きている彼女であれば、俺の小さな違和感に気が付かないはずがなかったのだ。

 シャールの方を見る。シャールも少々戸惑っている様子はあるものの、敵意はないといった様子で頷いている。カミュとセーニャは真剣そうな面持ちでこちらを見ていた。

 徐々に冷静さを取り戻しつつあった。心臓は相変わらずバクバクと大きく脈打っていたが、対照的に絡まっていた思考回路は元に戻り、しっかりと物事を考えられるようになっていた。

 

「……今から言うことは信じられないかもしれませんが、すべて事実です。それだけ、先に言っておきます」

 

 意味はあまりないかもしれなかったが、保険をかけた。気の触れた人間、と思われたくなかったから。王座の間にいる、王女の護衛を含めた全員が俺の次の言葉を静かに待っている様子が伝わってきた。1つ、大きく深呼吸をしてから、続けた。

 

「リーズレット……さんが言う通り、俺はこの世界の人間ではありません」

 

 瞬間、場の空気が困惑と疑問に満ちたのを肌で感じた。当たり前だろう。

 

「しかし、この世界になにかをしようとか、そういったことは一切ありません。俺自身なんでこの世界に飛ばされたのかさえ分かっていませんので」

「……と、言うと?」

「この世界に飛ばされる直前、俺は仕事の帰りでした。今しているこの格好も前の世界の仕事着です。きっとこの世界にはないであろう乗り物に乗っている時、疲れからか寝てしまったんです。それで、起きたらシケスビア雪原にいました。俺にだって意味が分かりませんでしたよ。なんでこんなことになっているんだって、そう思いました」

 

 ありのまま、自分が体験したことを話していく。説明のしようがないことは正直に説明せずにいた。

 

「魔物とかもいて、前の世界では魔物なんて存在していなかったので最初は夢かと思いましたよ。でも、雪原で魔物に襲われて、明らかに夢じゃない、現実なんだって思って。一時は本当に死ぬのかと思いました。その時、カミュとセーニャが現れて助けてくれたんです」

 

 夢だと思って魔物にちょっかいをかけようとしたのは本当に愚かな行為だった。

 

「2人に助けてもらってからは、ご飯をご馳走になったり町に買い物に出たりと、特になにもありません。それで最後にこの王宮に来た、といった感じです」

 

 そう、言葉を結んだ。リーズレットは正直に話しても捕縛したりなどはしないといっていたのでそれを信じた。王座の間に異世界からやってきた者がいるんだから、何をしでかすかわからないといって牢に入れられてもおかしくはないと思った。非力な俺が警戒したところで、王座の間の警護という重要な任務を任されている手練ればかりの空間で何もできるはずがないのは分かっているが、警戒せずにはいられなかった。

 

「……そうだったんだね。辛かったろうに」

「え……?」

 

 思っていたのとは違う反応が来た。捕縛しないとは言ったものの、もっと敵対心を露にされたり驚いたりするかと思っていた。

 

「いきなりこの世界にやってきたかと思えば魔物に襲われたって、下手すりゃ死んでたかもしれないんだろ? 本当に、生きていてよかったね。アンタは運がいいよ」

「は、はぁ……ありがとうございます」

 

 魔女というよりは聖母のような慈愛に満ちた響きだった。俺の中の警戒心が薄れていくのを感じた。周りの様子を見る余裕も、徐々にだが出てきていた。

 

 シャールは異世界からやってきたという俺に興味津々といった様子。さすがは好奇心旺盛な女王様である。切り替えが早い。

 カミュとセーニャの方を見ても、最初こそ驚いていたものの、今は別段変わりなさそうだ。目が合ったカミュが、面白そうなようすで口を開き始めた

 

「お前、異世界からやってきたんだな。どうりで俺たちの話をしたときに驚きが薄いと思ったぜ。エルバのあの話をしたら普通はもっと驚いてもおかしくはなかったはずだしな」

「そうですわね。雪原の真ん中であのような身軽さでいたのも納得です。小屋での不思議な言動も」

 

 驚きが薄いのは、この世界が前の世界においてゲームという存在であって、それを実際にプレイして実情を知っていたからというのがあるのだが、今ここでそれを言うと大問題になりかねないので黙っておく。都合がいいので、異世界から来たから過去に戻ったと聞いても驚かなかったということにしてしまおう。

 

「2人とも、黙っててごめん。どう話したらいいのか分からなくて。隠すつもりはなかったんだけど……」

 

 隠すつもりはなかったのは本当であるが、話すつもりもなかったのは秘密である。話すのが怖かったからだ。命の恩人に対して不義理が過ぎる考えであったのは百も承知なので反省している。

 

「気にしておりませんわ。お辛いのはレイ様ですし」

「俺も特に気にしてないぜ。それに、エルバとの旅でたくさんのことを経験したからな。多少の驚きはあってもすぐに順応するようになっちまった」

「そういってもらえるとありがたいよ」

 

 この2人には何から何まで本当に感謝しかない。この世界に来て最初に出会えたのがカミュとセーニャで本当によかった。

 

「……話は一段落したようだね。レイ。いろんなことがいっぺんに起きて大変だろうけど、心を強く持つんだよ」

「はい、ありがとうございます」

「それで、これからアンタはどうするんだい?」

 

 リーズレットの問いに、しばし考える。一応失業状態である。雇用保険などというものは当たり前のようにないので、自分で生きる道を切り開いていかなければならない。

 

「とりあえずは仕事を探そうかと思います。どの世界にいたってお金がないと暮らしていけませんし。魔物と戦ってお金を稼ぐなんて到底できる気がしませんからね」

 

 率直に、思ったことを話した。

 

「……アンタ、思ったより肝が据わってるんだね。気に入ったよ」

 

 ふふん、と面白おかしげにリーズレットが笑う。魔女に気に入られてしまったらしい。

 

「それでは、小屋でお話していた通り、しばらくは私たちの下で暮らすということでよろしいですか? この世界に慣れるまでは知っている人がそばにいたほうが良い気がいたしますわ」

「それには同意見だ。それに、レイの世界の話も聞いてみたいしな」

「2人とも、ありがとう」

 

 俺としてもそのほうがありがたかった。ゲームと違って小屋の大きさは3人でも十分だし、ベッドも3つあったので問題はなさそうであった。ちょっとしたルームシェアである。

 

「なら決まりだね。何かアンタに回せるような仕事があれば斡旋してあげるから気軽に言いな」

「何から何まで本当にありがとうございます」

 

 どうなることかと思ったが、案外何事もなく終わってほっとした。正直な話少し拍子抜けした節もあるが。

 

「一応、異世界から来たことはあんまり言わないようにしておいたほうがいいだろうね。今ここにいる人も、ここだけの秘密にしておくように」

 

 それには納得だった。異世界人であると知られたら何があるかわからないからである。

 

「……では、小屋に帰りましょうか」

「だな。いくぞ、レイ」

「分かった」

 

 

 

 

 

 

 

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「おい、大丈夫か?」

 

 ぼんやりとあの時のことを思い出しながら商品の値段を計算していたら、いつの間にか手が止まってしまっていたようだった。

 

「ん、ああ。ごめんごめん。なんか、初めて王宮に行った日のことが懐かしいなとか考えてたらね」

「過去のことに浸るのもいいけどちゃんと仕事はしてくれよな?」

「だから悪かったって」

 

 計算を再開する。最初に覚えたこの世界の文字は挨拶。その次に数字である。この2つができさえすれば、とりあえずは困らないからである。言葉自体は通じるのが救いだ。

 

「合計で758ゴールドでございます。760ゴールドお預かりいたしましたので、2ゴールドのお返しです。ありがとうございます」

「あいよ」

 

 接客業という名目上、知り合いだからといっておざなりにはできない。先ほど計算の手が止まっていた事については見逃してほしい。

 

「それにしても、かなり適応したなお前」

「まあね。環境に適応する力は前の世界にいた時から高かったから」

 

 店には相変わらずお客さんは来ないので、暇潰しにもなるし丁度いいと思い会話をする。ちなみに、マヤはもう俺が異世界人であることは知っているので問題ない。

 

「一種の才能かもな。俺たちと小屋で生活してる時も既にいろいろと身についてたし」

「あれは多分母親の教育の賜物だと思う」

 

 家事は実家にいたころから手伝わされていたので、知らず知らずのうちにスキルが向上していた。仕事を始めて一人暮らしをするようになってからそれを実感して人知れず母親に感謝したものである。拝啓、母上。私は元気です。敬具。まるで小学生の一行日記である。

 

「結局すぐに仕事と住む家も見つけてきてびっくりしたぜホント」

「それはただ運がよかったんだよ」

「リーズレットに王宮で経営してる道具屋で人が足りてないから働いてくれないかって言われたからこの仕事始めたんだっけか」

「そうそう。それに、仕事をしてくれるならこの建物の2階の居住スペースを使っていいって言ってくれたから即決したよね」

 

 なぜ王宮経営の道具屋の上の階に居住空間があるのか謎でリーズレットに聞いたら、道具屋として使うために建物の買い上げた際、1階は売り場で2階を在庫の倉庫にする予定だったのが、思いの外建物が大きく倉庫として2階を利用しても空間が余ってしまったということだった。不動産屋という概念のないこの世界では物件の見取り図もなければ契約も個人間で行われるので、たまにそういった情報の違いが生まれるのだそうだ。その情報の違いがあったおかげで住む家を決めることができたのだから運がいい。

 

「広い空間に1人で住んでるのマジで羨ましいなぁ。おれもそういうところで1人で暮らしてみたいぜ。広い部屋に集めたお宝とか置いてさ、寝る前に布で磨くんだ」

「そういう想像はお宝を集めてからにし、ろ!」

「いてっ」

 

 想像の世界にトリップしようとしていたマヤにカミュが軽くチョップを入れて現実に引き戻す。

 

「スペースが余りまくってて結構無駄にしてるんだけどね。だから、今度みんなで俺の家に集まってご飯でも食べようよ。仕事も家も見つかって、王女たちには俺の世界のことを教えたり、逆に文字とかを教えてもらったりしながらなんとか暮らしていけてる。本当に恵まれてるよ。皆には本当に感謝してる。だからその恩返し」

 

 これは本心である。雪原で魔物のえさになっていたら、今頃は体内から排出されて土に還っている頃だろう。生きていることに感謝だ。

 

「何事もなく暮らせてるのなら助けたこっちとしても嬉しいもんだぜ」

「兄貴に感謝しろよな!」

「ああ。もちろんセーニャにも。あっ、いらっしゃいませ!」

 

 話に花を咲かせていたら、次のお客さんがやってきた。気付けば結構時間が経っていたようだった。

 

「……っと、お客さんが来たみたいだし、俺たちはそろそろ行くとするかな」

「また来るからなー」

「またのご来店をお待ちしております!」

 

 手を振って出ていく2人を見送る。あの2人がお宝探しの旅に出て行った寂しくなってしまうな、と思ってしまった。

  

 後のことを考えて感傷的になっても仕方ないので、切り替えて接客に集中するとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ありがとうございました!

 仮に自分が異世界に飛ばされたら一瞬で死ぬ自身があります()

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