失われし時を求めし者は....... 作:バーバラすこすこ侍
気温差が激しいので、皆様も体調にはお気を付けくださいませ。
今回は短めですが、本編へどうぞ!
場所は変わり、喫茶店に来た。外の茹だるような暑さが嘘のような涼しさである。砂漠の中でオアシスを見つけた時ってこういう感覚なんだな、と一人で納得してみたりする。
5人それぞれ好きな飲み物を注文した。皆で摘まめるように、とシルビアが軽食を注文してくれた。ここでの食事代もシルビアが奢ってくれるそうで、申し訳ないと思いつつも、4人でお礼を言ってお言葉に甘えることにした。軽く雑談をしながら注文の品が来るのを待っている。
店内は静かな雰囲気で。座席はカウンター席が7つ。2人掛けテーブルが3つに、4人掛けがテラス席の2つと室内を合わせて4つ。あまり広くはないが決して狭くもないという絶妙な規模の店で、サマディーの城下町のはずれの方にある、知る人ぞ知る名店といった様子である。常連客で成り立っている店なのだろうか。
「お待たせいたしました。ご注文のお飲み物と軽食セットでございます」
「ありがとうございます」
頼んでいた飲み物等が届いた。シルビアにもう一度お礼を言ってから口をつける。俺が頼んだのはアイスコーヒー。この世界にもコーヒーがあるのは知っていたが飲むのは初めてである。独特の苦さと香りが口いっぱいに広がり、ふぅ、と思わず声が出る。どんなものかと思っていたが普通のコーヒーと何ら変わりないので、クレイモランに帰ったら自分でも淹れてみようと思った。他の面々も、思い思いの飲み物を飲んで口元を綻ばせている。
どことなくレトロな雰囲気を醸し出している壁紙と、カウンター席の近くの壁に掛けられている、誰をモチーフにしているのか分からない個性的な色彩の肖像画も、この喫茶店の空気を落ち着けるようにしてくれているようだ。もし前の世界でこのような喫茶店を見つけたら間違いなく通い詰めていることだろう。読書をしたら集中できそうだ。クレイモランでも今度喫茶店巡りをしてみようと心に決めた。
「最近はどう? 楽しくやれてる?」
一息ついたところでシルビアがセーニャに尋ねた。
「ええ、おかげさまで。魔法の研究と修行を一生懸命させて頂いております。徐々に魔法の練度も上がってきていて、修行の成果を実感しておりますわ」
「そう、ならよかったわ! セーニャちゃんなら絶対問題ないって信じてたもの!」
「いえいえ、そんな、ありがとうございます!」
やや照れ気味にお礼を言うセーニャ。その様子を見て微笑ましそうに笑っているシルビアはまるで母のようだ。長年オカマをやっていると母性が芽生えてくるのだろうか。
「カミュちゃんとマヤちゃんとも仲良くできてるみたいで何よりよ。エルバちゃんも喜ぶでしょうね、きっと……」
慈愛に満ちた笑みから一転、少し悲しげな笑顔を見せた。一瞬だけ場の雰囲気が暗くなった。シルビアはそれを払拭するように、頼んでいたアイスティーを一口、口に含んだ。
しかし、含んだまま飲み込まないでいる。何をしているのだろうか。
「あの、シルビア……さん?」
呼びかけると、こちらを見て勢いをつけるかのように顔を反らした。……まさか、口に含んだアイスティーを吹きかける気では……?
「ふ~」
思わず両手で顔をガードしていた。アイスティーを吹きかけられるかと思ったが、それはなかった。恐る恐るガードを解いてシルビアの方を見る。
「……えっ?」
「ふふんっ、どう? すごいでしょう? これぞまさしくアイスティーってね」
シルビアの口元からはアイスティーでできた氷柱が出ていた。それを右手に持ち、得意げに言ってくる。
「すごいです……。って、さすがにびっくりしましたよ! アイスティーを吹きかけられるかと思いましたよ」
「うふふ、ちょっとした旅芸人ジョークみたいなものよ」
自分が原因で雰囲気が暗いものになるということがないようにしたのは容易に理解できた。やり方に驚いてしまったが。カミュとセーニャはシルビアのこういうところを理解しているのかあまり驚いた様子を見せなかった。
「すごいすごい! どうやったんだ?」
マヤは目を輝かせていた。普段ツンツンしているがこういうところは年相応といったところか。
「あら、タネを明かしちゃったら意味がないじゃな~い。女と旅芸人はね、秘密が多ければ多いほど価値が上がるってものよ。うふふっ」
そう言って自分で作ったアイスティーの氷柱をバリバリと食べ始めた。飲み物を無駄にしないところがいかにもシルビアらしいなと思った。
「うまいこと言って誤魔化したな? くっそ……」
どうやるんだ? と考え込んでいるマヤを見てカミュは"兄"の笑みを浮かべている。今この空間が、とても平和に思えた。
「カミュちゃんは、上手くやれてる?」
今度はカミュの方に話を回した。この人、トークスキルもとてつもなく高いらしい。場を和ませたり話を回したり、スペックが異常である。
「まぁ、何事もなく。上手くいってるよ。金もだんだん貯まってきてるし、もう少しでマヤとの旅に出られそうだ」
未だ考え込んでいるマヤの方を見ながら嬉しそうにカミュが話す。名前を出された事によって思考を中断し、マヤも2人の話に耳を傾け始めた。
「世界が平和になったら2人でお宝探しの旅に出る、だったわよね。その約束、果たせるといいわね」
先ほどセーニャの話を着ていた時は母のような笑みを浮かべていたが、今度は弟を見る時のような笑みを浮かべていた。年長者だからというのもあるのだろうが、人の話を聞くこととそれに対する相槌が非常に上手い。
「ああ! 平和になった世界をマヤにも見せてやりてぇんだ。ロトゼタシアの美しさを体中で感じて、成長してほしいと思ってる」
「兄貴……」
なんとも素晴らしい兄妹愛である。俺にもこういう兄が欲しかったと思ってしまった。カミュは照れ隠しなのか、アイスココアを飲みながらカップで顔の大半を隠している。
「マヤちゃんとの旅もだけど、もう1人、ちゃんと考えなきゃいけない相手がいるんじゃないの?」
「ぶふっ!?」
シルビアの爆弾発言によってカミュが盛大にココアを噴き出した。幸い、服にはかかっていないようだが顔がココアまみれである。
「なんてこと言ってくれてんだよオッサン! 誰がそんな……!」
「あら、本当にそうだったのね」
「そんなことは……いや、そうだけどよ……」
今の会話で俺はすべてを察した。シルビアの一言に大きな反応を見せてしまったことで誤魔化せないと悟ったんだろう。カマをかけられてしまったようだ。
「カミュ様、お顔がココアまみれですわ。どうぞ、こちらをお使いくださいませ」
「あ、ああ。ありがとよ……」
セーニャから手ぬぐいを受け取ったカミュは、ガシガシと乱暴に顔を拭いている。俺からするとどう見ても、完璧に照れ隠しである。シルビアは完全にニヤけている。ついでに俺もニヤけている。薄々そうなんじゃないかと勘づいてはいたが、やはりそうだったかといった印象だ。
マヤとセーニャは何が何だかわからないという様子できょとんとしている。
「アタシからは特に何も言えることはないけど、まあ、頑張りなさいね」
「……余計なお世話だよ、ったく」
セーニャとカミュを交互に見ながら言う。カミュは顔を赤らめながら不貞腐れたように呟いた。
「よくわかりませんが、頑張ります!」
セーニャは相変わらず分かっていないようである。両手を胸の前で握りこぶしにして気合を入れていた。
「これは苦労しそうですね……」
「そうね……」
アナタも気が付いていたのね、と俺に言いつつカミュに同情していた。他人事ではあるが、大変そうである。
「そ、そんなことより! さっきのシルビアのレース、すごかったよな! な!!」
「え、ええ……。そうですわね」
カミュが強引に話題を転換した。何が何だかわからないままに話が進み、突然カミュの様子が変わったことでセーニャが些か驚いている。マヤの方を見るとこちらも驚いている様子だった。マヤも"鈍感側"なのは意外だった。
「本当に、すごい走りっぷりでした!」
さすがにカミュが可哀そうだったので俺も話を広げた。
「ありがと~! アタシと愛馬のマーガレットちゃんが組めば、サマディーの手練れたち相手でも負けることなんてないわ!!」
あの派手な装飾がなされたウマはマーガレットというのか。今の今まで知らなかった。
「……と、言いたいところなんだけど、どうも様子がおかしかったのよねぇ」
「様子がおかしかった……?」
遠くから見ていた限り、とてもそのようには見えなかったが、何かあったのだろうか。
「うーん、なんていうのかしら……。選手のみんながどうも遅かった? ように感じたのよ」
「遅かった?」
「ええ。接待でもされてたんじゃないかってくらい」
接待プレイをラストレースでやることがあるのだろうか。特別なゲストを呼んでいるのなら花を持たせる必要が出てくるかもしれないが。しかし。
「騎士道精神を重んじるサマディー王国でそんなことがあんのか? それこそ接待なんてやろうもんなら騎士道精神に反するとか言いそうなもんだけどな」
「ええ。全力で立ち向かってこそっていうのがこの国の考え方よねって思ってどうにも気になってるのよ」
やはりそういうことだろう。俺も同じことを考えていた。俺以外の皆もやはりその結論に至っていたようだ。テーブルの上に軽食を軽く摘まんでからシルビアは続ける。
「まぁ、レースの結果はあたしが1位だったって言ってもそんなに独走状態ってわけでもなかったし。違和感を覚えたっていうのも気のせいだと思うわ。今日は私もマーガレットちゃんも調子が良かったのかもしれないわ」
実際の所、そこまで独走状態でなかったのはそうだが、とても競り合っていたというわけでもなかった。それでも観客席から観ていて何も感じなかったのは、会場の雰囲気と、ゲスト扱いされている人物が1位であったという特別感などがが原因だろう。
「もともとシルビアだってウマの扱いは上手いんだし、普通に実力以上の力が出せたってことなんじゃねぇのか?」
「アタシとしてもそういう風に考えてたほうがいいわね。自惚れじゃないけど、結構ウマの扱いには自信があるんだから」
「シルビア様はなんでもできますものね」
そういうことにしておこうと話がまとまった。これ以上はサマディー王国の闇に触れてしまいかねない。
「なんか褒められて照れるわね。ありがと。とにかく、選手たちにこんなことを言ったら煽ってると取られかねないからここだけのお話で、ね?」
「そうですね」
その意見には同意だったので素直に言った。さすがはシルビアである。
「――――だから、さっきアタシが感じた"アタシと周りの時間がずれているような違和感"は忘れてしまいましょう?」
なんに気なしに発したであろうその言葉に、俺とカミュとセーニャは凍り付いた。
少々謎が残る会話。その最後に発したシルビアのこの言葉でようやく俺たちは、既に"事"が始まっているのだということに気が付いた。
ありがとうございました! 喫茶店の描写は私のお気に入りの店を参考にしております笑
完結までの道筋は立てているのですが、駆け足にものんびりにもならない構成ってやっぱり難しいですね……。創作は奥深いです。
それでは、また次回お会いいたしましょう!
感想、お気に入り、高評価等お待ちしております! 実は感想が一番嬉しかったり……(小声)