あれから何時間経っただろう、意識を取り戻した僕が見たのはまだ完全なる暗闇だった。どうやら気絶していたのはほんのちょっとだったらしい。体を起こすと阿良々木先輩がやりきったような顔をしてこちらを見ていた。
「もう、終った。大丈夫。、、、少し話そうか。」
そういうと先輩は静かに語り出した。
「君に憑いていた怪異はいわば誰かの思念体だったんだ。それも、君に危害を加えたりしないすごく優しい心。」
「君はもう誰の心か気づいてるんじゃないかな?」
そうだ、僕はもう誰か知っている。これは母さんの思いだ。ずっと前に僕を残してこの世を去ってしまった僕の母さん、いつも何かあるたび一緒に喜んだり悲しんだりしてくれた人。
「これは、僕の憶測だけど、君のお母さんが君の記憶をずっと守ってくれてたんじゃないかな。ショックなことがあったとき、その記憶を消そうとしてくれたんじゃないかな?」
きっとそうだ。母さんは優しかった。誰にも負けないくらい。
「今までは記憶が消えるとき、君は消えたことに気づかなかったんじゃないかな。でも今回は違った。君が前に記憶を無くしたときそれは、条件が重なったのもあるけど、お母さんの命日だったんじゃないかな。」
そうか、そうだったのか。一つ大きな謎が解けた気がして思わずため息をついた。でもまだ疑問が一つ残っている。
「なぜ、解決するために水を?」
「それは、君の方が知っているだろう?」
その言葉でまた、思い出した。あぁ母さん泳げなかったな。水が嫌いだったな。それで体が何らかの拒否反応を示したんだろう。何でこんなことまで忘れていたのだろう?
「僕は普通にお清めの水を用意しただけなのに、思ったより効果があったから驚いたんだよ。それと同時に確信した。何かあるなって。」
「その様子だとお母さんのこと自体、ほぼ忘れていたんじゃないかな?」
先輩のいう通りだろう。きっと母さんは僕に母さんが死んだという過去を覚えていてほしくなかったのだ。思い出せば悲しくなるから。人は過去を引きずり生きていく、それは、悲しいことだけではない。在りし日の栄光だってそうだ。でも、人間はそれを全て背負って生きていかなければならない。忘れてしまえばただの人形に成り下がってしまう。だから僕はこう言おう。
「母さん、ありがとう。でも、もう良いよ。」
頭の中で誰かが笑った気がした。
阿良々木先輩は少し先に用があると言って帰ってしまった。「あいつにお礼として、ミスタードーナツを買っていかなきゃ」とも言っていた。こんな夜中に空いているものなのかとは思ったが、口振りからその人も今回の件に関してそれなりに僕の手助けをしてくれたのだろうから空いていることを祈っておくぐらいのことはしておこう。こうして、僕の長いようで短い夜は終った。
次の日、僕は通学路をいつものように歩く。自分の残した足跡をしっかりと記憶に残しながら。
完結です。最後までこんな稚拙な文章を読んでくださりありがとうございました。最初の物語はこの原作とのクロスオーバーが良いと思っていたので終わらせることができて良かったです。これからもぼちぼち書いていくと思うので、またよろしくお願いいたします。