平民派DQN女オリ主がいくFFタクティクス 作:ひきがやもとまち
周囲では、雨が降り続いている。
やまない雨が、灰色のカーテンとなって私と私の周囲に立つ者たちの間を分厚い灰色のカーテンで覆い尽くし、まるで相手の姿が顔の見えない暗くくすんだ貴族の醜悪さを表す影絵のように私の目に見せてくれていた。
「なに、を・・・・・・言って・・・・・・お前はいったい何、を・・・・・・」
そんな雨の中で私は、今まで見てきたその光景が目の前に立つ少女の言葉で打ち砕かれようとしていた・・・。
突如として放たれた、ベオルブ家の血を引く小娘の言葉を切っ掛けに二人の少年達は驚愕の表情を浮かべて身動きが取れなくなり、先ほどまで私を殺せ殺せと喚いていた目つきの悪い貴族主義の騎士見習いも鼻白んだように黙り込まされてしまっている。
「お分かりのはずです、骸旅団団長の妹として組織の運営を補佐する立場の貴女なら」
それほどまでに辛辣な一言。それを放った相手の少女貴族は、静かな口調と冷たい声音で弾劾者から弾劾される側に突き落とした私を見下ろし。
表情と視線にふさわしいセリフで、やまない雨によって形作られていた灰色にけぶる風景と、その中心に立つ自分だけが鮮明で綺麗で、それ以外は暗い影を背負ったものにしか映らない忌々しいほど綺麗なカーテンを力尽くで引き千切って私に対して現実を突きつける。
「ご自分でも分かっておられるのでしょう? あなたは団長であるお兄さんを補佐する立場にあると骸騎士団当時の資料にはありましたからね。
ならば、各地から追われて逃げ込んでくる途中の骸旅団たちが、どんな手段を使って本隊と合流するまで生き延びてこられたのかご存じのはずです。補佐役である貴女なら絶対に」
「そ、それは・・・・・・っ」
「略奪、暴行、人質を取っての立てこもりに、本隊から離脱し近隣の村々を襲う野盗化する者たち。腹いせに火を放って家屋を燃やし、畑には火をつけ、追っ手を振り切り足を止めさせるため何でもする。自分が生き延びるためなら他人の命や財産なんか知ったこっちゃあない。
・・・いつの時代の戦争だろうと、戦に負けて落ち延びる途中の敗残兵ほど民間人に悲惨な被害をもたらすものはありません。人は生き延びるためなら何でもするし、してしまう怖い生き物だと言うことは貴女ならご存じのはずでしょう・・・?」
「・・・・・・ッ」
私は、自分の目を見つめてくる相手からの冷たい視線を受け止めることが出来ずに目をそらし、下を向いて唇をかみながら必死に反撃のための言葉を探して記憶の図書館をさまよい歩く。
・・・わかっていたことだった・・・そんな事ぐらい、ああ、わかっていた。わかっていたさ! その程度の常識的な現実ぐらい分かっていたんだ! 当然のことだ! 私はそれを解る立場にいた身なのだからな!
兄が理想を追うとき、それを補佐する者が理想に足りない現実を繕わなくてはならない現実ぐらい、こんな小娘に言われなくたって五十年戦争を経験した私たちなら解っていた! 解っていたことなのに! だけど――ッ!!!
「付け加えるならば、どこの誰と戦うものであろうと戦争に必要となる物やお金を負担するのは貴族でも騎士でもありません。あなた方と同じ身分の平民達です。
あなた方“骸旅団を討伐するため”に行われている今次掃討戦でも既に、かなりの量の必要物資徴発が行われている。あなたたちが無駄な抵抗を一日でも長く続けるだけで、私たち貴族側は集まった兵達全員分を養うために必要な分の補充を平民達に求める結果を招くのですよ。
それを承知で行っているとするならば、それは間接的な収奪加担であり飢えた平民達の自殺を誘発する行為です。あなた方もまた私たちと同じ奪う側に今ではなってしまっている・・・」
「違う!! 我々をお前ら貴族なんかと一緒にするな!!」
「どう違うのです? どこが違うというのですか? 貴女にはそれを説明できますか?」
首をかしげて、悪意も見下しの感情もなく、本当に『私たちが正しいと思うのなら証明して見せろ』とだけ思っているとしか見えない瞳で質問してくる眠そうに細められた少女の青い瞳。
一瞬、雷鳴が鳴り響いて私たち双方の姿を白一色に染め上げた。
その瞬間に、私は相手の顔が生気を持たない塩でできた女神の彫像であるかのように錯覚させられそうになる。
石で造られた石像ほど冷たくはなく、生きていくため必須の塩だけで形作られていながら“甘さ”というものは一切持たない、ただただ口に入れると辛くなるだけの、そんな“正しさに満ちた”塩の女神像に・・・・・・。
「・・・貴方たち貴族は、私たちから全ての物を奪っていった。最初に奪っていったのは貴方たち、私たちはそれを返してくれと願っているに過ぎない。
だけど貴方たちは返してくれなかったじゃない! ただ、ひたすら奪い続けるだけだったじゃないの! だから私たちは力を行使した! それのどこがいけないと言うの!?
最初に貴方たち貴族が私たちから奪わなければ、私たちがこんなことをする必要なんてなかった!!」
「・・・!! それは・・・っ!!」
「――そうですね。その点では確かに貴女方の言うことの方に理があります・・・・・・」
私の言葉に、今まで沈黙していたベオルブの娘からは兄と呼ばれていた少年が声を荒げようとして、妹の冷たい声と言葉に機先を制され再び驚愕の表情を浮かべると彼女の方へと視線の向きを変える。
見渡すと、他の二名もまた愕然とした表情を浮かべさせられ一人の少女に視線を集中させている姿が視界に映った。
・・・・・・おそらくきっと、私自身も彼らと同じように驚愕の表情を浮かべているのだろう・・・。“こんな事はあり得ない”――と。
だって、そうでしょう? 今私の目の前に立つ貴族の名門で武門の棟梁ベオルブ家の血を引く娘は私に向かって、“平民上がりの成り上がり女騎士”に向かって私の方が正しくて自分たちの方が間違っていたと認めたのよ?
こんな事、あり得るはずないと誰だって予想なんかできないに決まっているじゃない・・・・・・っ。
「私たち統治者側は、あなた方その土地に住まう者たちを外敵から戦って守り、平民個々人ではできない大規模な工事や、全体の指揮をとる専門職としての仕事をこなしているからこそ、税金という形で貴女たち平民からお金と物をもらえる権利を得ている者たちです。その仕事をこなす事が私たち貴族にとっての義務と呼ぶべき代物でしょう。
義務を果たさぬ者に、権利を主張する資格はなく。義務を放棄するなら、権利も共に放棄しなくてはいけない大前提がある存在のはず。
王侯貴族の原則として見た場合に、私たち現イヴァリース貴族の多くがやっていることは、統治者としての王道から外れてしまっていると断言できる。それは過ちであり、間違った道です。間違いは正さなれなければいけません。彼女の今言った内容は、一言一句間違ってはいませんでした・・・・・・」
無表情な中に沈痛な想いを滲ませながらベオルブ家の娘はそう言って、私を糾弾していた騎士見習い――アルガスとか言ったか?――が怒気で顔を真っ赤に染めて食ってかかろうと口を開こうとした、その瞬間に。
「しかし―――」
と、続けて私を見つめ、先ほどまで以上に苛烈で容赦ない『正しさ』を持った言葉と確信を基に、私たち骸旅団の非をあらためて指摘してきたのだ。
それは今までとは比べものにならないほど冷徹な現実。私たちが見たくないと願ってきていた理想の側面、歪められていない正しく歪んだ現実の姿、そのものだった・・・・・・ッ。
「飢えているから、奪われて返してくれないから、子供達のためだからといって、他人を殺し、物を奪い、略奪したり民衆を戦渦に巻き込んで殺してもよいということにはなりません。それは間違った者たちが自己正当化するときに用いる詭弁であって、正しさを主張する側が言うべきことではない」
「そ、それとこれとは話が違う・・・・・・」
「違いません。だいたい、今の貴女たちが奪われ初めて返してもらえなくなったのは、イヴァリースが五十年戦争で負けてお金がなくなったからではなかったのですか? わざわざ自分たちが否定している相手と同じ論法で自分たちの掲げた崇高な理想を穢してやる義理はあなた方平民達にはないはずです。違いましたか?」
「・・・・・・ッッ!!!」
唇を噛みしめ、睨み返してやる事しかできなくなった私にベオルブ家の小娘は、容赦なく言葉の刃で追い打ちをかけてくる・・・!!
「それに貴女たち骸騎士団本隊にしたところで、貴族と貴族に仕える者たち以外は狙っていなかろうとも、あなた方が平民出身者で構成された骸騎士団の名で襲撃を繰り返している以上、結局その被害は同じ平民達から補填させられてきたのですよ?
“同じ平民同士、骸騎士団から庇われたお仲間として責任を取れ”という論法によってね・・・」
「そんな・・・! そんなこと、って・・・・・・!!!」
私は予想外の言葉に驚愕させられたが、すぐに相手の言っている事も普通にあり得たのだと気づいて二重の意味で愕然となり黙り込まされてしまう。
考えてみれば当然の事だった。貴族達は奪うだけで返してくれない奴らだから私たちは力尽くで返させようと躍起になった。
平民達を家畜同然のように扱って、奪うことは自分たちにとっての権利だと傲然といえるような連中が、私たちに奪われた物を再び戦う力のない民衆達から奪い直せばよいと考えるようになっても何ら不思議はない。
私たちは、自分たち『平民のために戦う骸騎士』と『守るべき民衆』を別けて考えていたけれど、貴族はすべて例外なく否定すべき敵だと考えていた。
・・・もし、それが敵の側も同じであったら・・・? 貴族達にとって、私たち骸騎士も平民達も同じ平民でしかなかったとしたら?
彼ら自分の身を自分で守ることのできない、守るべき力のない人々も『同じ平民で骸旅団の一員』と決めつけられて殺されるような事態になってしまっていたのだとしたら・・・ッ!
「~~~~~ッッ!!!!!」
急激に体温が低下し、頭と心を満たしていた熱情が冷め、血液の代わりに氷を溶かした液を流し込まれて全て入れ替えられてしまったような猛烈な悪寒が私の体中を支配した・・・ッ。
寒さと悪寒で震えが止まらなくなる。今まで見えてなかった物の中に、もしかしたらとんでもない事をしでかす恐れのあった物が混じっていたのかもしれないと気づいて途方もない恐怖感に魂の底まで雁字搦めに縛られまくる・・・ッ!!!
・・・そうだ。どうして気づかなかった・・・? 当たり前の結果を、どうして分からなくなっていたんだ? 一体何故? どうして? どうして? どうしてどうしてどうして・・・・・・
「――まっ、こういう理由で貴女にはウィーグラフさんの元に降伏勧告を伝えてきて欲しいと思いましてね。民衆達をこれ以上苦しめないためにも無益な戦をこれ以上続けたくはありません」
「・・・・・・」
「無論、それをしたことで結果的に得をするのは私たち貴族である事は認めます。事実ですからね。
ですが、だからと言って今のまま戦い続けたところで貴女たちにはもう何も出来ません。無駄な悪足掻きになってしまっている今の戦いを続けることで平民達に今以上の負担を支払わせるべきではないと、そういう意図を貴女の口からお兄さんに伝えてあげて欲しいのですよ」
「・・・・・・」
「貴女から見れば同じにしか見えないのかもしれませんが、私的には他の私利私欲に走って義務を忘れた汚職貴族達と一緒くたにはされたくないと思ってますし、自分なりにイヴァリースの未来と国民達の生活とを考えているつもりではあります。
そういう人も貴族の中にはいるんだという事を、どうか貴女の口から今一度だけお兄さんにお伝えくださいませんか? お願いします」
「・・・・・・」
そう言って、平民相手に頭を下げてきた貴族の娘を前に私は何も言う事ができずに呆然としたまま立ちすくみ、ただ視線をさまよわせて右往左往しながら「えっと、その、えっと・・・」と意味のない言葉を繰り返すのみにさせられてしまう・・・。
それは相手の言葉を受け入れたくない本心を、どう取り繕っているかで悩んでいるからだった。
今までの私だったら目をそらして気づかなかったであろう邪な感情を、今の私はハッキリ見えるおかげで正体を看破する事ができていた。だから分かる。
・・・そして、それ故にこそこの願いは引き受けられない。引き受けたくない・・・・・・。
一体どの口で、今まで信じて付いてきた兄と、その兄の掲げた理想を信じて命がけで戦ってきた同志達の前で今の話をできると言うのだろう・・・。
したくない、言いたくない、こんな現実見たくなかった。夢だけ見たまま死んでいった方が遙かにマシだった・・・。
そんな後ろ向きな思想にとらわれ、いっそこの場で自決してしまおうかと思っていた直後の事。
私の立つ近くから声が聞こえて視線を向けると、白いフードをかぶった若い娘の骸旅団員が呻き声を上げながら、気を失っていた意識を取り戻しかけてる姿が目に入り―――!?
「ミンウ!? それに、向こうにいるのはまさかミーウなの!? あ、貴女たち生きて・・・!!」
生きていてくれた! 死んでいなかった! 絶望に囚われて死を望もうとしていた私の心に光が差した、その次の瞬間に――ッ!!!
「おや、丁度良いタイミングで目を覚ましていただけましたね。よかったです。これで貴女が生きて骸旅団本隊と合流するための口実ができましたよ、良かったですね」
「・・・・・・」
一気に、絶望のさらに奥底まで引き戻されて突き落とされた気分にさせられた・・・。
この小娘・・・戦いが始まった最初の辺りから、こうするつもりで彼女たちを殺させないよう手加減して私たちと戦っていたわね・・・!!
私だけでなく、骸騎士団全体の誇りと尊厳も舐められまくったものね本当に・・・!!!
「さぁ、どうぞ。指揮官の責務として傷ついた部下を連れて本拠地へとお帰りください。
もっとも、自分の守りたい誇りだかプライドだかのために義務を放棄して部下達を無駄死にに付き合わせるのが正しい道だと考えているなら、無理強いはしませんけどね?」
「・・・・・・・・・」
く、くそぅ・・・! この借りはいつか必ず返してやるんだから覚えてなさいよ本当に!!
「・・・わかったわよ。伝えればいいんでしょ、彼女たちを助けるためにも伝えれば!!」
「はい♪ お兄さんにどうかよろしく~♡」
「―――フンッ!!」
私は見せかけだけだと自分でも分かった上で、無理して堂々とした足取りでその場に背を向け、立ち去っていき、ミンウとミーウも止めを刺そうと動き出したアルガスとやらを残る二人が羽交い締めにして止めてくれたおかげで無事に付いてきてくれる事ができたみたいで内心ではホッとしながら後ろを振り返る。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
冷たい目をした、ベオルブ家の兄を補佐する妹貴族の視線と目が合い、四つの瞳が交差する。
お人好しで現実より理想を優先したがる兄を持ち、その兄を支える立場を自ら選んだらしいベオルブ家の妹と、骸旅団団長の妹である私・・・・・・。
「ふっ・・・」
と、不意に一つの事に気づいて私は思わず吐息を漏らしてしまう。
なんのことはない、貴族も私たち平民と同じような関係性と、兄弟を持つ者がいるのだ。
それを私は解っていたつもりでいたけど、実際には解っていなかったのでしょうね・・・・・・『ベオルブ家の一員である限り全員同じ』と決めつけていた今までの私に、そのことが解っていたはずはないのだから・・・・・・。
「・・・今日の屈辱はいつか必ず返してあげる。骸騎士の誇りにかけて絶対に。絶対によ。それを忘れないことね、ベオルブ家の血を引く娘よ」
「覚えておきましょう。私も貴女と、貴女が今言った言葉を忘れるつもりはありません」
「貴女がベオルブ家の一員である限り、私は貴女の敵でいられる。貴女に受けた借りを返す機会は必ず訪れることができる。・・・・・・だから私が、貴女に受けた借りを返すまでは死ぬ事は許さない。絶対によ。それもまた忘れないで頂戴・・・」
「・・・(クスッ)わかりました。覚えておきましょ」
忍び笑いを零しながら返事をするベオルブの娘に背を向けて、私は顔を見られないよう俯きながら歩き出し、しばらく行って道を逸れると、幹部級だけしか知らされていない細い抜け道を通って私たちが拠点として確保している場所『ジークデン砦』へと向かって歩み続ける。
「・・・グスッ。ミルウーダ様ぁー・・・私悔しいです・・・。貴族なんかに負けちゃって・・・ミルウーダ様の事も守り切る事ができなくなりかけてしまって・・・・・・エグッ、エグッ・・・」
「ミーウ! 今はもうそんなこと言わないの! 次よ! 次こそ奴らに思い知らせてやるのよ! それでお相子になるの! それでいいじゃない!!」
ミンウとミーウが姉妹らしく息の合った、だが性格はやはり見た目ほどには似ていないところを発揮して言い合いを始めて、私は思わず笑ってしまいそうにさせられる。
「まったく!! ――ところでミルウーダ様、これからどうなさるおつもりなのですか? まさか本気でベオルブの娘の言ってた通りに、ウィーグラフ様へ降伏勧告を伝える使者の役目を果たされるおつもりではないのでしょう・・・?」
「いいえ? その役目はきちんと果たすつもりよ? 当然でしょう? 騎士が交わした約束なんだから」
私の答えに相手は驚き慌てて制止してきて、そんなことをしたら裏切り者として殺されてしまう!とまで言ってきたけど、私は笑ってその可能性はないことを彼女たちに向かって説明した。
「大丈夫よ、問題ないわ。貴女たち同志を助けるためには受け入れるより他なかったと言えば兄さんは納得するでしょうし、降伏勧告自体は私以外からも来ているだろうし、言うだけなら別に問題はないもの」
「そ、そういうものですか・・・?」
「そういうものよ。―――それにね」
言葉の後半は小声で呟き、相手には聞こえなかったようだけど、私は言い直す気にはなれなかったから敢えて気づかないフリして無視をした。
―――それに、どうせ伝えたところで何も結果は変わらないだろうから。
などという碌でもない未来予測を彼女たちに説明してあげようなんて気持ちには到底なれなかったからだ。その予測がおそらく現実になるであろうものであったから余計に。
(兄さんは今更、誰に何を言われたところで決して戦いをやめようとはしないだろうし、最後の一兵まで戦い続けて貴族達を一人でも多く道連れにする道を選ぶと思う。
それ以外の道を選べるような人ではなかったし、そういう人だったからこそ私たちは今まで付いてきたのだから。だけど―――)
其処まで考えてから、振り返ってヨタヨタ歩いて付いてきてくれる二人の仲間であり友人達の傷ついた姿を見るとこう思う。こう思わずにはいられない。
―――あまりにも払った犠牲が大きくなりすぎているのではないだろうか・・・?
そう思わずにはいられない心境に、今の私はなっていたからだ・・・。
「・・・・・・」
そして正面に向き直ると、また山道を歩き始める。
だからと言って、どうする事もできない自分自身の無力さに今更ながら気づいているのも今の私の気づきだったからだった。
たとえ当初は正しかったこの戦いが、今はもう間違ったものに変わっていたとしても、私にはどうする事もできない。止められもしない。その権限も力も私個人には一切ないからだ。
私は所詮、骸旅団団長の妹であり、組織全体の序列で見たら幹部の一人に過ぎない身の上。到底、組織全体の方針を変えられるような力はないし、個人的に呼びかけたところで集まってくれる人数などたかがしれている程度の武名しか獲得していない。
その程度の存在なのだ。今の私という存在は。団長の妹という血筋だけで他の者とは違う価値が与えられてはいるものの、私個人が彼らよりも上の実力と知名度を有しているというわけではない以上、今更になって私が争いをやめるため役立てる事など何一つとして存在しない。
もう、終わった事なのだ・・・。それを認めよう。受け入れよう。諦めよう・・・。
せめて最期まで兄さんの理想だけでも信じさせてあげたまま死んでいく・・・・・・それが兄さんを信じて付き従ってきた、骸騎士団団長ウィーグラフ・フォルズの妹としての義務であり、勤めなのだから。
「・・・・・・結局、私は兄さんの事が好きだったから付いてきて、言うべきことを言わないであげてただけだって事ね・・・。滑稽な話だわ。あのベオルブ家の娘が知ったらなんと言われる事か・・・おお、怖い」
クスクスと忍び笑いを漏らしながら、傷ついた部下達の歩調に合わせてゆっくりゆっくり山道を登っていく私たち。――その時だった。
私たちを背後から呼び止める声が聞こえてきて振り返った先に、一騎のチョコボ騎兵が走ってくる姿が遠望できたのは。
「・・・この道を知っているということは幹部級。生き残りの幹部の中だと、ゴラグロスか。
―――でも、だとしたらチョコボの背中に乗せている“あの娘”は、いったい誰・・・?」
こうして私は、後に『獅子戦争』と呼ばれる大乱を引き起こす事になる切っ掛けとなった出来事の始まりに出くわす事になる。
そしてそれは、私が壊滅させられた骸騎士団の名を掲げたままラムザたちの仲間に加わる切っ掛けともなる出来事にまで発展していく始まりでもあったのだ・・・・・・。
「おお、予想以上の収穫だな。ラムダの奴から報酬はもっとふんだくれそうだぜ。
・・・しかもディリータの奴用に情報も手に入れちまったし、今月は臨時収入が多そうでありがたいねぇ~♪ そのためにも早く帰って喜ばせてやろーっと」
つづく
オマケ『今作オリジナル味方キャラクターの紹介』
【テッドウェット・ウェルバイン】
ラムザやディリータ達と同じ士官アカデミーの生徒で、ラムザと一緒に付いてくる道を選んだ少年。ジョブは【見習い戦士】
歴とした騎士隊長の地位を世襲して受け継いできた一族の長子なのだが、本人の性格は非常に軽く、軽快な若者。
実は、ラムダの指示を受けて傷ついたミルウーダたちの後を追い、ここまでつけて来ていた斥候の士官候補生。
ウェルバイン家は今でこそ歴史ある騎士隊長一族の家系になってはいるが、もともとは大昔の戦争で斥候として手柄を立てた末に騎士に取り立てられた傭兵を祖に持つ一族であり、その後に政治的手管を身につけて騎士としての家格を確実な物にした一族だったりする。
両親はその関係上、息子に対してもラムザたち名家と誼を結んでおく事で将来の出世に役立たせようと考えて士官候補生を育成するアカデミーへの入学を望んでいたのだが、彼本人は家の祖であるご先祖様にあやかって斥候として貢献して手柄を立てたいと考えており、それを知っていたラムダから今回の役目を仰せつかってやってきている。
アカデミーを卒業した後は父親の後を継がせるため、騎士団に入って父親の従士として学ばされる予定にはなっているものの、彼自身は家を飛び出し傭兵として食っていくつもりで今から金を貯めている真っ最中だったりする。家は次男なり三男なりが勝手に継げばいいと考えているようだ。
堅苦しいのが苦手な性格のため、フルネームではなく【テッド】と略した名前で呼ばれたがる。
また、爵位も持たない下級貴族に遠縁の従兄弟がいて、そいつの家では斥候としての技術が残され傭兵として食ってた時期もあると聞かされた事があることから、密かに「先輩」として慕っていたりする。
ただし一度も会った事はなく、名前が自分と似ている事もあってか、一方的に親近感を抱いているだけの関係である。後に彼と出会って仲間同士になる未来を今の彼は当然知らない・・・。