平民派DQN女オリ主がいくFFタクティクス 作:ひきがやもとまち
他作品の次話執筆は、これから再開ですので待ってくださっている方は申し訳ございません…。
今回の話は、【ダイスダークの見舞いに訪れる前までの経緯】です。
そのせいで今話も半ば以上オリジナル内容に…急きょ書くとこうなりやすい作者の悪癖ですよね…(反省)
ダイスダーグ兄君様に命じられていた任務である盗賊の砦に立てこもっていた骸旅団の一隊を倒し終えた後、私たち士官候補生の一団はイグーロス城への帰路を歩いておりました。
と言っても、勝った直後にその足でイグーロス城へと凱旋する途中って訳ではありません。
戦い終わった夕暮れ迫る空の下、おまけに雨まで降っている中での行軍なんて危なっかし過ぎますので、一旦ガリランドまで距離を置いて後退した後、宿屋と自分たちの寮部屋で一泊して身体を休めてから、翌朝になった後の帰還となります。
電灯もなく道路もガードレールもない、おまけに害獣よりも凶暴で強いモンスターたちが襲ってくる可能性のあるファンタジー世界の夜道を好きこのんで歩きたがる物好きなんて滅多には実在しないものです。
砦を攻めるときには、敵を逃さず勝つためにも強行軍を強く主張した私ですけど、逆に勝った後の今では無理をする必要性を少しも感じちゃいませんでしたので一晩グッスリ寝てからの出発に異論はなし。
せっかく戦死者出さずに勝つことができた戦いの帰り道で、天候悪化による事故で犠牲者出しちゃったら洒落にもなりませんし、格好付かないにもほどがある・・・・・・安全策を選べる時には選んどいた方がいい、それが常識。戦時下の軍隊においてさえ変わりようのない真理ですね。
こうして、ゆっくりと養生してからノンビリと再出発した私たちだった訳ではありますが。
・・・しょーじき、「知らなかったが故の気楽さだった」という事実は否定しようがなく、私たちが休んでる間に起きてた大事件を知ってた場合にまで、私が今と同じようなリスクマネジメント的に正しい決断ができていたかと言えば怪しい限りではあるのですけどけれども・・・。
それは私たちが、マンダリア平原へと入ってきた、丁度その時のことに起きた出来事――。
「・・・ん? 向こうから何か近づいてきているみたいだな。
あれは・・・チョコボ騎兵か?」
と、いつも通りに先頭の斥候役を買って出てくれていたディリータさんから私たち全員に報告がもたらされたのです。
「チョコボ騎兵だって? 掲げている旗印はどこのものか、見えるかいディリータ」
「ああ、確認するまでもない。薄い青の下地に白獅子――北天騎士団の正騎士だけが使用を許されている旗印だよ。乗ってる騎士も青色のマントを羽織っているところから見ても間違いはないだろう」
ディリータさんの報告を聞いて、私と兄様は少しだけ首をかしげてしまいます。
イグーロスから今更・・・・・・? どこかの部隊に新たな命令でも届けに行く途中なのでしょうか? それにしては一騎だけで護衛がいないって言うのも緊急事態ぐらいしか思いつかない数ですし、初陣直後の頃ならいざ知らず現在の戦況で骸旅団残党の、そのまた生き残りがラーグ公のお膝元近くで隠れ潜み続けていられるとは考えづらいのですが・・・なにかあったんでしょうかね?
「どこかの部隊への伝令役かな? だとしたら歩行の礼儀として、僕たちが道を譲るべきところなんだけど・・・」
「いや、どうやら俺たちの方に向かってきているらしい。真っ直ぐこちらを目指して直進してきている」
そう告げながらディリータさんは、相手の味方と思しき騎士の姿が近づいてくるのをジッと見つめ続けながら―――ソッと、右手のひらを腰に這わせて、得物である剣の位置と存在とを確認しているところは流石と言うしかありますまい。
北天騎士団の正騎士とは言え、相手が味方どうか確実なことは何も言えない以上、備えておくに越したことはないのです。
向こうから近づいてきている方が足が速く、少ないとは言え人間の小集団である私たちの方が移動速度は圧倒的に遅く、相手が到着するのを準備整えた上で待っていた方が即応できると判断して、とりあず荷物を降ろして使者を迎え入れる準備と『刺客を歓迎してやる準備』を同時に行いながら待っていたところ。
その騎士は、私たちの前にやってくるとチョコボの上に跨がりながら、よく通る口調で叫ばれたのでありました。
「私は北天騎士団所属、騎士ラッセルである! 役儀によって質すが、ベオルブ家の末弟ラムザ・ベオルブ殿率いる隊とお見受けするが如何に!?」
強い口調で、でも少し焦りを滲ませた汗まみれの表情を浮かべて必死そうに問いただしてきた男性騎士ラッセルさん。
手綱を引いてチョコボを急停止させ、鞍に跨がりながら問いかけてくる声には力があり、もともと兄様は“そういう事”に興味ないどころか深く関わり合おうとするのに苦手意識よりも嫌悪感を感じてしまうタイプでしたので、相手のやや居丈高に見える態度にも気を悪くするでもなく、礼儀正しく質問に答えようとして―――その瞬間に。
「無礼でしょう! 礼儀を弁えなさい!!」
と、強い口調で私が横から叱責したことで相手の騎士と兄様たちの視線が私に集中し、私は相手の騎士だけを見据えたまま強い口調で語り続けました。
「如何に北天騎士団における専任者とは言え、ベオルブ家の末弟たる方に対して騎乗したまま指示を伝えるとはどういうことか!? 確かに我らは士官候補生なれど、ラムザ・ベオルブ隊長はダイスダーク卿直々に骸旅団掃討のため一部隊を任せられたお方。
そのお方に対して、命令がましく上から意思を押しつけようとは、誇り高き北天騎士団員は礼儀も心得ぬのですか!?」
「――っ!! し、失礼つかまつった!!」
強い口調で叱責され、相手の正騎士ラッセルさんも普段は真面目な騎士さんだったらしく、私の叱責を素直に受け入れ己の非を詫び、チョコボから降りて兜を脱いでラムザ兄様の前で跪くとベオルブ家に仕える臣下の礼を取られておりました。
「火急の知らせとは言え、主家に連なるお方に対して非礼の数々、どうかお許し願いたい。いえ、許して頂けなくて当然だが、故あってのことなのです。御家の大事がかかっておりましたので・・・」
「あ、いやその・・・そんなに気にしなくてもいい。あなたの方が年上で、騎士団内では先輩でもあるのだから・・・」
こういうことに慣れていない兄様が、相手のへりくだった態度に右往左往しながら対応しつつ。私の方にも恨みがましい目を向けてこられてましたのでさり気なく無視して見ないフリして逃げる私自身~。
実際問題、「緊急事態」と言ってる相手に対して形式過剰すぎる対応だったなとは、正直自分でも思ってはいる言葉のかけ方だった訳なのですけれども。
一分一秒を争う戦争中に形式主義なんて邪魔なだけで、効率優先、さっさと報告役を通してしまった方が良いに決まっているし、権威とか面子とかバカバカしい・・・・・・現代日本人感覚としては、そんな感じの理屈の方が説得力高く感じられるのでしょうねぇー、きっと。
ただまぁ、これも夢のない現実問題として、こういった形式的な上意下達が『非常事態にも実行できるか否か?』が重要になる類いの問題でもあるのが事実ですからねぇ。
正直、普段の平和で安全な時期の方が命令やら形式やら無視されたところで犠牲者多数出まくるって事態にはなりづらいでしょう。緊急時だからこそ序列と手順を守って動けるかどうかが結構重要になってくる部分なんですよな。
大地震が起きたときに日頃やってきてた避難訓練の手順を守らず、勝手に一人だけで暴走して周囲をドミノ倒しに巻き込んでしまうという内容を連想すれば、分かりやすいのではないでしょうかね?
いざとなれば、やらざるを得ないからやって見せる!・・・なんて意見の人もいるにはいますけどね。
それで上手くいくのは『本番に強い人だけ』であって、大抵の『普段から出来てないしやってもいない』って人たちは、何度やっても出来ないもんは出来ないままでしょうよ。大抵の普通の人たちは、そういうもんです。
「それで、僕に伝えたい知らせというのは?」
「ハッ! 昨日の夕暮れ時に骸旅団の別働隊がベオルブ邸の屋敷を襲撃、ダイスダーク閣下のお命を狙っての奇襲を行ってきたのです」
「なんだって!?」
兄様がここで初めて怒気と驚愕を表に出し、強い口調で相手に問いつめられました。
「それで!? ダイスダーク兄さんは御無事なのか!?」
「ははっ! 賊たち迎撃の途中で負傷されましたが、ザルバック団長が救援に駆けつけ事なきを得たとのことです。お命に別状はないとのことでありました」
「そうか・・・良かった・・・」
心底から安堵しているらしい兄様の横顔を見て、私は思っていた皮肉や嫌味を飲み込んで頭を回転させ初めて行きながら、彼らの話にも耳を傾ける。
「閣下は一刻も早くラムザ殿のイグーロスへの帰還と、ダイスダーク閣下へのお見舞いに訪れるようにと求められておられまする。何卒、一刻も早くイグーロスへお戻り頂きたい!」
言わずもがなの要求を口にされ、反応に困った上で兄様の視線が定まらなくなってきた頃。
「――では、兄様とディリータさんは先行してイグーロス城へ急いだ方がよろしいでしょうね。ぞろぞろと足の遅い部隊を引き連れて急ぐことはありませんから」
と、割かし一般論を吐いてきた私の言葉に対して兄様は、驚いたように瞳を大きく見開いてナニカの思いを訴えかけようと口を開こうとした動作を示してきましたので、何か言われる前に「提案理由」についての説明を続けてあげましょう。
「残された部隊を誰かが統率しなくちゃいけませんし、ディリータさんでは生まれの事情的に角が立ちやすく、アルガスさんは立場的に完全な余所者です。
私がやるのが一番問題ない状態だからやるだけですよ。すぐに追いつきます、兄様たちは先へ行って待ってて下さいませな」
そう言って肩をすくめて顔も背け・・・・・・本当の目的の方を隠せたことにホッと安堵の息を吐く私でありましたとさ~。
いえ、心配する気持ちはあるのですよ? 血の繋がった兄を心配するのは妹としては普通のことですし。
ただまぁ・・・襲撃されたのが昨日で、今日になっての連絡により「命に別状ない」ということが既に確定されてしまっている状況。
既に峠を越えられて、安定化に入ってるらしい状況・・・・・・騎士や黒魔道師が必要ある状況なんですかね? これって。
今のダイスダーク兄さんに必要なのは、むしろ医者とか白魔導士とかアイテム師であって、人殺しと国と主君守るしか能のない職業軍人である私たち騎士がゾロゾロ行っても邪魔なだけでしょうよ。
それぐらいなら、年上の兄様と居候のディリータさんの二人で行って誠意伝えて、残るメンバーを私が混乱させずに連れて帰って迷惑をかけない方がまだマシというもの。
「でも、ラムダ。それじゃあ――」
「大丈夫ですよ。ザルバッグ兄君様もダイスダーク兄君様も、そこら辺のことは話せば分かってくれる方たちです。最初は不快に駆られるかもしれませんが、ディリータさんにでも説明して頂ければたぶん大丈夫でしょう。多分ですけれども」
「――わかった。ここはラムダの意見が正しいだろう。悪いが、後は任せて俺たちだけで先行させてもらうことにする」
「ディリータッ!?」
苦い表情ながらも了承の意を返してくれたディリータさんに対して、情が深すぎる兄様の方はまだ納得しきれなかったのか非難がましい視線と共に振り返られて、年来の親友から落ち着き払った声音と表情で見返される。
「どのみち今のまま全員で移動したのでは急げない、少数で先行するのは避けられないんだ。
ダイスダーク閣下の家族であるお前が行かない訳にはいかないし、俺だってそうだ。
ベオルブ家に恩がある平民出の俺が、家長である閣下の負傷を知って任務を優先したというんじゃ今まで通り屋敷内に居続けることは許されないだろう。
と言って、ダイスダーク閣下から指揮権を与えられている部隊を放置して問題を起こしてしまえば、その方が却って迷惑をかけることにもなるだろう。
お前以外で部隊の指揮を委ねられる人間がラムダしかいない以上、そうするしかない。これは仕方ないことなんだよラムザ」
「そ、それは・・・・・・そうかもしれないけれど・・・・・・」
冷静に論理的に論破されて尚、歯切れ悪く反応される兄様。
珍しく今日だけは妙に強情さを見せつけてこられるのは、おそらく『あの時のこと』が未だに響いてる故の後遺症なのでしょう・・・・・・。
あの『五十年戦争末期の日』バルバネスお父様の死に目に際して、最後に駆けつけることができて、遺言となる最後の会話だけ話すことが出来たのは家族の中で私と兄様だけでしたから・・・・・・。
士官学校への入学準備で忙しく、あれでも最大限急いで最期だけでも看取ることが出来たのは行幸だったというタイミングでのものでしたが、兄様の中では痼りとして残っているのでしょう。
同じ想いはしたくない・・・という気持ちは分からなくもありません。
――まっ、もっとも今回のは多分大丈夫だとは思いますので、兄様の杞憂だろうなとも思ってはいるんですけどね~。
そんな危ない状態に陥っているなら、逆に私たちには知らせないでしょう。お父様と違ってダイスダーク兄上様の場合にはの話として。
あの人の場合は、根っからの政治家ですからねぇ~。こんな戦況で自分が死にそうな状態にあることは絶対に秘匿しようとさせるはず。
代理でも身代わりでも影武者でも何でも立てて、死んだ後でも生き続けているよう見せかけることぐらい平然とやりそうな人ですし・・・。
『我が死を三年の間、秘匿せよ』・・・でしたっけ?
甲斐の虎と違って身内の絆を強調する人じゃなさそうですが、基本的に強行的な外交政策が多いって点では似てる人でしたからなぁー・・・。知者は時に同じ答えにいたるもの、多分似たようなこと考えると思います。多分ですが。
「ああ、それとですが、アルガスさんも連れて行く先行メンバーの中に入れておいてあげて下さい。彼もいないと何かと面倒なことになりかねないでしょうからね」
「――はぁ!? 俺がか!? なんでだよ!!」
一瞬前まで、関係ない他人事の三文人情ドラマでも見ているかのような、退屈そうな表情をしておられたアルガスさんに水を向けると、当然のように彼は食ってかかってきて日頃から嫌われている私の提案に意図も解せぬまま猛然と反論してきますけど、想定の範囲内なのでどうでもいいっス。名分という名の口実は既に用意してありますのでご安心のほどを。
「なんでも何も・・・当然の人選でしょう?
あなたは先日、骸旅団の魔手から北天騎士団によって救出されたことになっているエルムドア侯爵の配下で、見習いとは言え近衛騎士団の一員です。
そんな身分にある者が、ベオルブ家の家内で厄介になりながら当主の負傷に心配して駆けつけないというのでは、些か問題になるのではと思ったのですが?」
「む。・・・それはまぁ、確かにそうかもしれないが・・・」
アッサリと勢いを削がれて糾弾の声も弱めてしまうアルガスさん。基本的にこの人、頭は悪くないんですけど感情が先に立ちやすく、特に嫌いな相手に対しては脊髄反射的に反発を返してしまいやすいところがある人ですからねぇ。感情的な怒声ではなく、冷静な理屈で返されると妙に弱い特徴がある。
「ついでに言えば皮算用にはなりますけど、先日の一件でお世話になったベオルブ家へと侯爵閣下の家臣として誠意を伝えるだけでも好意を得られてコネも出来、ベオルブ家とのパイプ役としてランベリー近衛騎士団の中でも頭一つ抜きん出れるかもしれませんよ?」
「・・・ふん。見え透いた美味しい餌だな、そんな挑発に誰が乗るかよ」
そう言って、皮肉気な笑みを浮かべながら私に向かって背を向けるアルガスさん。
――が、しかし。最後の瞬間に浮かべた口元の笑みが、皮肉で隠しながらもニヤけていたのは私には丸見え。伊達に貴族社交界で生きてきた名門貴族令嬢はやっていないのですよ。
本音を隠して笑顔を浮かべ合い、左手に毒塗りのナイフを握りしめながら右手で握手を交わし合う、それが権力者同士の利害関係が絡んだ社交場というもの。いつの時代もそれは変わりません。中身が平和ボケした現代人だからと言って、過酷な中世ヨーロッパ風異世界人に劣ると決まっている訳でもなし。
「だが、お前の言うことにも一理ある。今日のところはお前の案に乗せられてや――」
「では、アルガスさんも快く快諾してくれたようですので、全会一致で兄様たちだけ先行出発に方針を決定いたします。全員急ぎ準備に取りかかって下さい。出足の遅れを取り戻すため一刻の猶予もありません、さぁ早く! 急いで下さいッ!!」
『応ッ!! 任せろ! 三十秒で完了させてやるぜッ!!(あげるわッ!!)』
そして、越権行為な副隊長である私からの号令の元、【イヤな野郎が自主的にいなくなってくれる事】が決定された皆さんたちが大急ぎで決定が覆される前に準備を完了させてしまい、ほとんど追い出すみたいな勢いで兄様たちと一緒にアルガスさんを先行させて出発させて、本気で兄君様を心配している兄様と、私たちの本音を見透かしている呆れ気味なディリータさんと、皮算用の笑みを浮かべているアルガスさんという、少し変な組み合わせの三人だけの部隊を先行させ終えた後、私たちもようやく再出発。一路、イグーロス城を目指して行軍を再開いたしましょう。
『行ってらっしゃいラムザー! 閣下によろしくなーッ!!!
・・・・・・あと、二度と帰ってくるなよアルガスー。月の出る晩は、せいぜい背中に気をつけやがれや―――』
と、自分たち部隊のリーダー様を気遣いと共に送り出す、心優しい学友の皆様方。
・・・・・・なんと言うか、私が言えることじゃないんですけど・・・ここまで嫌われてたんですねアルガスさんって・・・・・・ちょっと引いたのはナイショです・・・。
そして、数刻後。
ガリオンヌの成都イグーロスにあるベオルブ邸にて。
ベオルブ家の次兄、ザルバッグ・ベオルブは荒れていた。
「・・・遅いッ! ラムザたちはまだ戻らないのか!? こんな時に・・・・・・!!」
苛立たしげな口調で、屋敷勤めの家臣たちに何度も何度も確認の声をかけ、同じ返事をもらう度に怒りの水量を増して家臣たちを一層怯えさせてしまう悪循環に捕らわれている最中だったからである。
常は豪放磊落ではあっても、冷静な判断力は失わないことに定評がある【ガリオンヌの守護神】とも賞される北天騎士団長たる彼が、ここまで感情的に考えて行動してしまうのは極めて希で、家人たちとしても慣れない事態に対処に困り、とにかくラムザたちへと連絡を付けさせることを急がせることに全力を尽くすしかなくなっていた。
とは言え、これは彼ら使用人たちの側にも責任がない訳でもなかった。
彼らの多くは日常的な家の業務をこなすだけの末端であって、彼らに個別の指示を与えていた全体を統括するダイスダークの腹心とも呼ぶべき家令が暗殺の犠牲となってしまったことにより、現在ベオルブ邸の家事を担う者たちの職場は単なる前例処理の場と化してしまっていたのである。
長男を負傷させられたことに怒り狂ったザルバッグから、二人の弟妹たちにも『家族の危機』を伝えるよう指示された彼らは【盗賊の砦に立てこもる骸旅団の討伐に向かったラムザたち】へと連絡を付けるため【盗賊の砦“だけ”】に使者を向かわせ、既に戦闘が終わっていた戦場跡に本人たちがいなかった場合は帰ってくるようにと指示を出してしまったのだ。
空しく手ぶらで帰ってきた使者から事の次第を聞かされたザルバッグは流石に閉口させられ、呆れ果てて怒る気にもなれず、自らが鍛え上げた北天騎士団員の中から使者となる者を指名してガリランドへ向け送り出した。
それが今朝のことである。たった一晩とは言え、無駄足を踏ませるためだけに浪費したかと思うとザルバッグとしては苛立つなという方が無理であり、それでも騎士たる者が武器を持たぬ使用人に制裁を加えるべきではないと自制してやっているだけマシな対応になっていたのだが。
そのような声に出さぬ怒り狂った主一族の気遣いなど、彼ら言いつけられた仕事を完璧にこなすことだけが自分たちの役目だと思い込んでいる者たちに理解できる訳もなく、ただ怒り狂う主家のとばっちりが自分たち従僕にまで飛び火しないよう祈るばかりだったのだから・・・。
「ざ、ザルバッグ様・・・今、ラムザ様がお帰りになられました・・・」
「そうかっ!!」
歩み寄ってきた使用人の一人から待ち望んでいた報告を聞かされ、ザルバッグは解放された心地で歩み出し、自らの足で弟“たち”を出迎えてやろうと早足で廊下に歩を進めていく。
屋敷に仕える使用人どもが何か言ってきていたが、答えることなく無視してやった。
もともと気の長い方ではない彼には、同じ人の言葉も通じない“異世界人共”の話になどこれ以上付き合っていられるかという想いを態度として現さずにはいられない気分になっていたのだ。
ようやく自分と想いを共有し合える身内がやってきてくれたかと、喜び勇んで玄関ホールへと足を踏み入れたザルバッグであったが、彼を出迎えてくれた弟たちの姿を目にした瞬間、急激に眉の角度を逆立てずにはいられなくなる不快な光景を目撃させられることになる。
「ザルバッグ兄さん! ダイスダーク兄さんが負傷させられたというのは本当ですか!?」
心配顔で尋ねてきてくれる末弟の方は良い。
ディリータも、血が繋がっていないとは言え共に同じ屋敷で過ごしてきた家族に準ずる者だ。・・・ティータを守り切れなかったという負い目もある。
アルガスとやらいう、サダルファス家の跡取りも自分との間で密約を交わした者として礼儀は守ったというところか。
「兄者は治療のための麻酔が切れ、先ほど目覚められたばかりだ。今は自室で養生しておられる、身の程知らずの賊共の討伐成功という報告と共に顔を見せに行ってあげると良いだろう。
・・・ところでラムザ。ラムダはどうしたのだ?」
――だが、妹の態度だけは納得がいかなかった。
同じベオルブの性を持ち、誇り高き一族の名を守り抜く責務を負った家族の一員が、当主である長兄の負傷を見舞わずして何とするか!!
ザルバッグは思わず感情的に怒鳴りかけたが、寸前でディリータが前に出て跪き「ご報告申し上げます!」と臣下の礼を取ってきたことで不発に終わる。
「・・・ディリータか。なんだ?」
「はっ! 私如き身分卑しき者が僭越ながら、ラムダ・ベオルブ副隊長よりの伝言をお伝えさせて頂きたく」
「ラムダから・・・?」
ラムザよりも先に、家族同然で育ったとは言え一門ではないディリータの口から聞かされることに一瞬だけ眉をしかめた彼であったが、口下手の末弟より説明役には向いている相手の長所を思い出し、『部外者のアルガスがいる状況』ということもあり、怒りと不機嫌さを一旦は押さえ込むと相手に対し手続きを促さす。
「・・・聞こう」
「はっ! ラムダ副隊長は、こう仰っておられました。
“襲撃してきた賊の残党が屋敷の周囲に隠れ潜んでいる可能性がある中で、自分たちの人数が屋敷に入れば警備に隙が生じさせ兄上様を更なる危険に晒す恐れあり。家族への不義理をお許しあられたし”――以上です」
その言葉を聞いて、ザルバッグは完全に機嫌を直すに至っていた。
むしろ、頬に無形の平手打ちを食らわされたような気分だった。
長兄のことで激情に駆られる余り、逃げ延びた賊だけでなく、暗殺を諦めずに付近に潜み続けて隙を伺っている可能性について全く考慮していなかった自分に気がつかされたのだ。
たしかに可能性は低かろうが、万が一と言うこともある。今回の奇襲自体が完全にコチラの予測を裏切り、隙を突かれて行われたものである以上、警戒してしたり無いと言うことはないのである。
「――そうか。わかった・・・ラムダの判断を由とする。ラムザの部下たちにはイグーロスに到着次第、休ませるための部屋を用意させ、ラムダはすぐこちらへ急ぐように伝えるよう。そこの貴様、遺漏なく実行しておけ」
『は、ははぁっ!!』
家族の肖像を傍観者の体で、我関せずと見守っているだけだった使用人の一人が主の弟に命令されて慌てて小走りに部屋を去って行き、急いで言われたとおりに準備を整えさせるため駆けずり回っていくことになる。
自分で自主的に考えて動く思考は苦手だが、言われたことを言われた通りにこなす手腕は決して低くないのがベオルブ家に仕える使用人たちのランクであった。彼らを率いる頭さえ優秀なら優れた組織になれるのが彼らの特徴だったのである。
「俺はこれから逃げた賊共を追い詰め、自分たちがやってしまったことの罪深さを思い知らせに行かねばならん。
お前が到着次第、入れ違いで出立する予定だったが“アレらのせい”で遅れてしまった。悪いが後のことは任せてしまうしかない。許せよ? ラムザ」
「いえ、兄さんの方こそご武運を」
「応。・・・・・・だが、その前に一つお前たちには知らせておかなければならん悪い知らせがあるのだ・・・・・・」
そう言って、声を低めて顔を暗く曇らせるザルバッグらしからぬ行動に不審さを感じさせられながら話を聞かされた瞬間。ラムザたちは理解させられてしまうことになる。
相手の表情の意味と、自分たちにとっての優先事項が『血の繋がった家族』から『血筋的には何の繋がりもない赤の他人の少女』へと、完全に順序を入れ替えられてしまったのだという理不尽すぎる現実を―――。
暗い表情を浮かべながら長兄の部屋へと、重い足取りで歩を進めていこうとするラムザたち一行。
だが、その中で一人だけ何ら痛痒も感じていない表情を浮かべたまま、一秒ごとに自分の顔色と表情を微妙に動かしていき、最終的に相手の背中へ話しかけるときには緊張しきった密談をするときの顔つきを意識して作り上げていた人物は、ザルバッグの背中に向けて低く短い声音で、こう語りかけてきたのであった。
「――ザルバッグ閣下。先日の件で、ご報告したき議がございます・・・」
「・・・・・・サダルファスの家の者か。私は忙しい。急を要するものでなければ後にしろ」
「重要な秘事についてでございます。おそらく閣下にとっても、決して無視できぬ案件かと・・・・・・此度のベオルブ邸襲撃、犯人共に情報を流していた内通者と、その繋ぎ役の存在を今の私は存じておりますれば―――」
その言葉を口にした瞬間。アルガス・サダルファスという名を持つランベリー近衛騎士団の少年騎士見習いは、“勝った”と自らの勝利を確信していた。
何故なら、歩み去ろうとしていた相手の背中を、自分の弁舌一つで止めさせる偉業を達成したばかりだったのだから―――。
「・・・・・・兄者を見舞った後、私の自室へ。詳しい話を聞いておきたい」
己の小さな野望と短期的な計略によって、後に大きな悲劇を招かせるに至ってしまう小さな悲劇の始まりは、こうして導火線に火が灯されてしまった。
果たして、火の付けられた野心という火薬の爆発がもたらす被害は、砦一つ分程度の小さなもので終わるのか? イヴァリースという国そのものを歴史ごと焼き尽くす業火となってしまうのか?
それとも―――別の誰かの野心に火を灯す、種火にしかなれずに終わらされてしまうことになるのか・・・・・・?
喜劇として終わる未来であろうと、悲劇としての結末を迎える未来であろうとも。
それが未来である限り、未来を知る者は、まだ誰も現在には存在していない・・・・・・。
つづく
*次回の内容では、ダイスダークへの見舞いシーンは省略する予定です。
主人公がいない中では、原作通りにしかやりようないですのでね(苦笑い)
ディリータが怒り狂い、ラムザとアルガスが決別するシーンからのスタートとなりますので、それ故の今話で書かれた経緯だったとお考えください。