平民派DQN女オリ主がいくFFタクティクス 作:ひきがやもとまち
どうにも最近、迷走気味で申し訳ないです…。
謝罪文:失礼、サブタイトルを完コピしてたことに今気付いて直しました…(赤面)
獅子戦争を終わらせた英雄王ディリータの伝説は、今この地に住まう者なら誰もが知っている英雄譚だ。
だが一方で、「英雄になるまでの彼」がどの様に生きてきた人間だったかを知る者は、意外なほど多くない。
数多の伝記が記されているが、その殆どは物語であって一つの事実に基づくものは存在していない。
彼が貴族社会を打破するため動き出す切っ掛けとなった出来事は『デュライ白書』の公開によって判明している。
しかし彼が“何時どうして現状の社会に疑問を抱くようになったか?”という部分には、未だ定説を見るまでに至っていないのが実情である。
だから私は、再びイヴァリース中世史の真実を捜す旅に出ようと思う。
本当の勇気を持つ「真の英雄」がラムザだったとしても、「獅子戦争を終わらせた英雄王」は間違いなく彼なのだから。
神話に反神話を唱えた者として、そうする義務が私にはあると信じるが故に。
――疑わなかったわけじゃない。疑問を感じなかった訳でもない。
ただ、信じたいと思っていた。
英雄になる前のディリータが心の中で何を思っていたとしても、『今この時』まで彼は確かに現状の貴族社会を守る側に身を置き続けていたのは確かだったから・・・・・・
「――待つんだディリータ! 待ってくれ!」
背後からラムザの、制止する声が聞こえてくる。
ベオルブ家屋敷内の廊下を玄関ホール目指して早足に歩んでいく俺を引き留めるように叫んでくれる親友の声。
いつもなら心に染み渡る親友からの暖かな声が・・・・・・今日は妙に遠く、小さく聞こえる。聞こえてしまう・・・・・・ッ。
「ディリータ、待ってくれ! 一人でどこへ行くっていうんだ!? 少しは落ち着けよ!」
「・・・・・・・・・」
親友からの呼びかけに無言を通したまま俺は進む。
その声から逃れるように、その声が聞こえる屋敷から逃れるように、俺は早足で廊下を進みながら玄関前まで直進していく。
途中、邸内の各所で“背後以外の方角”から無言の声たちが、耳ではなく俺の心に呪詛のように聞こえてくるのを否が応にも実感させられる。
“ベオルブ家に相応しくない下賤な血めが・・・”
“穢らわしい・・・早くこの屋敷から出て行ってしまえばいいのに・・・”
“たまたまベオルブ家の目に止まった運がいいだけの平民如きが偉そうに・・・・・・”
――幼い頃から聞こえ続けていた見下しと羨望と嫉妬に満ちた、それらの声が今はとてつもなく大きく聞こえてしまって耐えられなかったからだ・・・ッ。
今までは耐えられた。二人一緒なら、“彼女のため”にも耐えられた。
妹が幸せに暮らす権利を守ってくれる主人たちの屋敷だった今までだったなら・・・ッ!
「待てよ、ディリータ。どこへ行こうって言うんだ。とにかく落ち着けよ!」
「・・・落ち着けだと・・・? 落ち着いてなんかいられるものかッ!!」
ベオルブの屋敷を飛び出して、“ベオルブ家から早く出て行け”という無言の声が聞こえなくなり、やっと足を止めることが出来た俺に追いついてきたラムザが肩を掴みながら言ってくる言葉に、俺は神経を逆なでさせられ思わず怒鳴り声を上げてしまう。
“待て”“落ち着け”“一人で突っ込んでも意味がない”
――普段なら俺の方が、正義感が強くて無鉄砲な親友に向かって言うべき言葉が妙に苛立たしく聞こえてしまい、まるで他人事を語るような冷静さが距離感を感じさせられて大声を出して駆け出さずにはいられない気分になっていたからだ。
――俺にとって世界中に一人だけしかいない、“本当の家族”を守り抜くために・・・・・・ッ
「どこにいるかも分からないんだ! 当てもなく捜したって意味がないよ!」
「意味がない・・・? 意味がないだと!?」
先行しようとした俺に追いついたラムザからの正しい正論が、今の俺には何故だか受け入れられない。再び激高して、親友の胸ぐらを掴み上げて怒鳴り声を上げてしまう!
ああ、分かっているさ! ラムザのせいじゃない! ラムザが悪いわけじゃないんだ! そんなことぐらい分かっている!
解っているからこそ・・・俺はきっと今、“自分の中の自分に耐えられなくなってしまっている”・・・・・・!!!
「ティータが浚われたんだ! たった一人の妹なんだぞ!? それを探しに行くことのは無意味なことだと、お前はそう言いたいのかラムザッ!? ええッ!!」
親友の胸ぐらを掴み上げて締め上げながら感情任せに振り回して叫ぶ、まるで筋の通っていないメチャクチャすぎる俺の言い分・・・ッ!!
こんなものは言いがかりだ、単なるガキの我儘だと、頭では解っているのに自分で自分が抑えられない。激情を爆発させたくて仕方がなくなってる今の俺には、どうしても自分を抑えることができそうにない!
――だって、そうでもしないと“アイツからの言葉”に耐えられなくなってしまうと解っていたから・・・・・・っ。
「に、兄さんも・・・言ってたじゃないか・・・・・・ティータを見殺しには・・・しないって・・・・・・。
と・・・に・・・かく・・・今・・・・・・動いても・・・・・・く、苦しいよ・・・・・・」
俺に首を締め上げられて、息が出来なくなったラムザが窒息しながら言ってきた言葉に俺は思わず「ハッ」となる。
(・・・今、俺は何をしようとしていた・・・?
何をするために、何をしようと考えていたんだ・・・?)
数瞬の間、茫然自失となった後、俺の右手から力が抜けてくれてラムザを降ろしてやることがようやくできる。
しばらくして投げかけられた「大丈夫だったか・・・?」と親友の無事を問う声が、我ながら社交辞令じみていて妙に嘘くさい・・・・・・。
「あ、ああ・・・ゴホッ! ゴホッ! ・・・はぁ、はぁ・・・・・・」
「・・・・・・」
俺のせいで咽せている親友を前にして、手を差し伸べるべきだと考えながら――俺が心の中で思い出していたのは、子供の時からずっと頭の中にあった“アイツ”のイメージ。
ベオルブ家に来たばかりの頃、貴族たちに嫌な想いをさせられる度に感じていたものが、今では聞こえなくなって久しくなっていたアイツの言葉が、ティータが浚われたと聞かされて『ベオルブ家の屋敷に俺一人だけ平民がいる』と実感させられた瞬間から、俺は再び思い出すようになってしまっていたから・・・・・・。
【本当のお前が居るべき場所はそこじゃない。今のお前は与えられた偽りでしかない。
本当のお前に変えてやれるのは、本当の俺になる道を選んだときだけだ―――】
そう言って手を差し伸べてくる、立派そうな騎士。
真紅のマントを翻し、黄金の鎧を身に纏った、俺たち兄妹を救い出してくれる年上の騎士の姿を子供の頃は何度も夢想した。
子供の夢でしかない空想上の騎士の姿が・・・・・・何故だか今になって鮮明に思い出せてくる自分がいた。
総髪で、無表情な顔をした、丁寧な口調と激しい言葉でヒドく心を揺さぶってくる騎士。
今の俺と【よく似た顔】を持ったソイツが、俺たちを救うために邪魔する悪い貴族たちを殺しまくって築いた屍の山を前を見ながら冷然としていた姿を、何故だか今の俺は自分とラムザに重ね合わせるのを辞められずにいて怖くなってきていて、それで――――っ
「オレは“絶対”なんて言葉を、“絶対”に信じないけどな」
―――ソイツの言葉に振り回される結果をもたらされてしまうことになる。
――――歴史がヒトの形を取って、俺とラムザの邪魔をする。
アルガス・サダルファスは、その時。人生の絶頂期にあった。
今までの苦労と努力全てが報われたような、そんな気さえしていたからだ。
「アルガス・・・兄さんが嘘を吐いているとでも言うのか?」
だからベオルブ家の末弟ラムザから、先ほどまでのやり取りもあって彼らしくもない険のある口調と目つきで言い返された時も平然としていた。むしろ哀れにすら想っていたかもしれない。
――信頼する兄たちから何も聞かされていない、“下賤な血を引く弟”に対して優越感と見下しとで寛容な気分になれていたからだった。
「ああ、オレだったら平民の娘を助けるなんて事はしないな」
平然と胸を反らして、彼は持論を述べ始めてやる。
昨日までだったら、ラムザから同じ言葉を言われてしまえば我を殺して抑えるしか許されなかった身分差も、今では気にしなくて良くなった己の身を誇るかのように平然と傲慢に、騎士の棟梁たるベオルブ家の方針を、騎士見習いでしかない自分の尺度で論評する。
まるで、昨日までの雇い主との契約が切れてしまった後のように。
新たな雇い主と契約が結ばれて、気にくわなかった旧雇い主に気を遣ってやる必要がなくなってせいせいしたとでも言うかのように平然と。
……何しろ自分は念願叶って、遂にザルバッグ・ベオルブから密約を取り付けることに成功したのだから!!
一個小隊を指揮する権限を与えてもらえることが確約されたのだ! それもベオルブ家の次兄であるザルバッグ直属の部隊としてだ!
たかが没落貴族の倅でしかなかった自分が、北天騎士団長さま直属の部隊長として出世した! コレを誇らずして彼の人生に華はない!!
もちろん正式な北天騎士としての身分を与えられたわけではない。
見習いとは言えエルムドア侯爵麾下のランベリー近衛騎士団に属する者が、他家の独断だけで移籍されたのではエルムドア侯爵家の面子に泥をなすりつけるに等しい暴挙でしかない。
だが、貴族社会というものは建前さえ整えれば、意外と融通が利くものでもある。
先の五十年戦争と、此度の骸旅団殲滅作戦において他の騎士団はもとより南天騎士団からも北天騎士団からも多数の戦死者を出し、その家督を残された息子が継いで当主の代替わりが行われているわけであるが、全ての貴族に成人年齢に達した家の後継者たる男児が生まれているというわけでもない。
そのため、家を存続するために近しい親族から養子縁組という形で他家の子供を一門の当主に迎え入れるという事例が多く発生しているのが戦災で疲弊しまくったイヴァリース貴族社会の実情だったのだ。
その中の一つに、アルガスが入り込んだところで誰も気にする者はいないであろう。
所詮は、たかが騎士見習いの若造に過ぎない身の上。さらには祖父の汚名もあって嫌われ者ときている。形式さえ整えてやれば誰も気にしない、気にしたがる事は二度とない!
「なんだとアルガス! お前は自分がなに言っているか分かって・・・・・・」
「お前たち平民のために兵など動かさんと言ってるんだよ!!」
その為にこそ彼は、妹の身を案じながらも必死に独断専行を我慢しようと理性で押さえつけていたディリータに対して、劇薬にしかならない言葉を平然と述べ連ねる。
相手の怒りを誘って、ベオルブ家から余計な同情心などかけたくなくなるよう敵対しあってもらわけなければ自分が成り上がれない!!
アルガスの頭の中では、このとき確かな精算と計算があった。少なくとも彼は、それを現実的で成功率の高いと信じて疑わないだけの計画がである。
その計画のためにも、アルガスはディリータを挑発し、さらには激高させるための言葉を放つ必要があった。罵倒しなければならないのだ。そうしなければ計画自体が成り立たない。
(俺には手柄を立てる必要があるんだよ! 手に入れた地位を足がかりに俺は北天騎士団で名を上げて、もっと上にのし上がってやるための切っ掛けになる手柄がなァッ!!
テメェの妹は、そのための生け贄だ! ディリータっ!!)
――彼の考えでは、ベオルブ家は決して手を汚したがらない。
たとえ平民の娘でしかなろうとも、先代当主であった天騎士バルバネスが養子として迎え入れた少女を直接殺めたのでは、敵対勢力に非難の口実を与える事になってしまうからだ。
ならば、そういう時に汚れ役を進んで担ってくれる存在は、懐刀として重宝される事になるだろう。
ましてゴルターナ公との権力闘争の中で、汚れ役を担う者が最も力を得ていくのは必然的な流れでしかない。
そして行く行くはラーグ公の秘密検察官として、彼が疑心を抱く家臣を調査し、断罪をも執り行う処刑人として絶大な権勢を振るい得る身分に成り上がってみせるのだ!
生まれた家の身分で一生が決まってしまう貴族社会において、【汚れた血の家】に生まれてしまったアルガスが、名門貴族に生まれただけで幸せな将来が約束される者たちをも頤使してやれる立場になるにはそれしかない! ・・・・・・そう彼は考えていた。
――そのためにも彼は、ティータに死んでもらう必要があった。
より正確には『自分が』『ザルバッグの代わりにティータを殺す』という形式が必要だったのだ。
それによってザルバッグの“依頼”は果たされ、自分と交わした契約は成立し、自分は晴れて北天騎士団の一員として正騎士の身分に取り立ててもらえる事が確定する!!
(その暁には、アルガス・ハイラルってのも悪くねェかもな! 語呂は悪いが、ベオルブ家に近しい平民の養子って地位は悪くねぇ!)
そう考えるまで、彼は増長していた。自惚れまくって有頂天になっていたとも言える。
ラムザは納得しないだろうが、所詮はベオルブ家あっての苦労知らずなお坊ちゃんでしかない末弟ならダイスダーグの決定に否と返せるわけがない。
ラムダに至っては、所詮“女”だ。男社会の貴族制の中にあっては、いずれ政略結婚の道具として利用されるだけの“駒”でしかない。
家の名がなければ何もできない小娘如き、ザルバッグの側近からダイスダーグの側近へと成り上がり、ラーグ公の側近まで目指している自分の覇業を邪魔するなど出来るわけがない!
・・・・・・彼はそう考えていた。少なくとも彼“だけ”は本気で、自分の計画と世界観こそが真実であり、現実世界とはそんなものだと心の底から確信していたからだ。
だからこそ、彼は知らない。ザルバッグが彼を雇い入れた本当の理由を彼だけは知らない。知らされていない。
――それはただ、もしもの時のために『他の貴族が手柄を焦っての独断専行』という形で全てを処理するための“保険”でしかなかったことを、今の自分の成し遂げた成功の部分だけを高く評価しまくっているアルガスには想像することさえ出来なくなっていたのだから。
「なっ!? き、貴様ッ!!」
「ッ!! よせッ! ディリータ!!」
「離せッ! 畜生ッ、離せッ!!」
そしてアルガスの予定通りディリータは激高し、ラムザはそれを必死になって羽交い締めにして制止する。
そうしなければならない理由がラムザにはある。
“親友のため“にも、“親友の妹を助けるため”にも止めざるを得ない理由が、である。
「やめるんだディリータ! 頼むからやめてくれッ!」
「離せラムザッ! なんで止める!? こんな奴ブッ殺してやるんだッ!!」
「駄目だッ!!」
力任せに自分を引き剥がそうとするディリータの馬鹿力を、全身全霊の力で押さえつけ、その行為を無駄にさせるように嘲るようにアルガスの侮蔑がディリータの耳と心を痛めつけ続ける。
「フンッ、やっぱり平民は所詮、平民だ。貴族になれやしないッ!
ディリータ、おまえはここにいちゃいけないヤツなんだよ! わかるか? この野郎ッ!!」
「言わせておけばァァッ!!!」
「やめろ! ディリータ! アルガスもいい加減にしろッ!!」
ラムザは必死の思いで叫び声を上げていた。
それは彼が考えて取った行動ではない、“本来の自分だったなら”言わなかったかもしれない言葉。
思ったとしても言えない。考えていたとしても口に出来ない。
そういう性質を持って生まれていた彼が、初めて口にした“利己的な打算”と感情的な友情とを矛盾なく併走させた現実的な、その言葉。
あるいは今まで見てきた“彼女”の行動が、知らず知らずのうちに兄である自分にも行動を促すよう働きかけていたのかもしれない。
その言葉を彼は叫ぶ。
歴史の流れに抗う、別の人物がもたらした潮流に乗って、彼なりの思いを口に出す。
「何故だラムザッ! なぜ止めるッ!?」
「今彼を殴ったら、ティータが救えなくなってしまうかもしれないからだ!!
ベオルブ家の前で味方同士で対立する君の妹を助け出すことが出来なくなってしまうかもしれない! そんなこと僕は絶対に許すことなんかできないッ!!!」
「・・・・・・ッ!!!」
ディリータはその言葉にハッとなって周囲を見渡し―――自分たちに向けられていた“無数の視線たち”の存在にようやく気がつき、ゾッとなる。
心底から蒼白になり、顔面だけでなく魂さえもが恐怖に震え、いったい自分は何をしていたのかと冷水を頭からかぶせられたような悪寒に打ち震える。
・・・そうだ。なぜ気づかなかった・・・? ここはベオルブ家の邸宅で、自分は北天騎士団に所属している騎士団員じゃないか・・・。
そんな奴が自邸の前で味方に対して殴りかかり、怒鳴り叫んで口汚く罵倒する・・・そんな真似をしたら自分の妹を、ティータを助けてもらえる可能性が減るだけじゃないか!! なぜ気づかなかった!? バカか俺は!?
そのことに気づいて、唖然としたまま動きを止めたディリータの行動。
ラムザにとって望んだ結果の得られたその行動を、面白く感じない人物が一人、この場にはいた。
“目論み”を邪魔されて、思い通りに動いていた相手を止められてしまった、当の挑発者アルガス・サダルファス本人である。
(チッ、余計なことを・・・。お人好しな坊やも少しは学んだってことか、めんどくせぇ・・・)
ディリータに殴り飛ばされ、庭の芝生に座り込んだままアルガスは内心で“小賢しくなったラムザ”を罵りながら口元を拭い、ペッと唇を切ったときに出たらしい血液と唾を同時に吐き出し瞳をすがめる。
彼の計画では、今この場で彼ら二人は“自主的にベオルブ家を飛び出す予定”だった。
その後にザルバッグやダイスダーグたち、“この場にいない上役共”には都合のいい嘘も交えて事の次第を報告してしまえばいい。
この場にいなかった者に、真実などどーせ分かりはしないのだし、名門ベオルブ家の使用人たちの大半は自分と同じような思いをディリータに対して抱いている。口裏を合わせるために口実さえ作ってしまえば後はどーとでも事実を捏造することが出来るようになるだろう。
その為に、”自分からは殴り返さず”
表向きは、“礼儀正しい対応をして”
あくまで、“自分からは手を差し伸べ”
そして、“相手から罵倒と共に振り払う”
・・・・・・そういう流れを作ることで、ラムザたちだけ“悪者”にして、自分だけが“いい子だった”という事にしてしまうのだ。
そうなる状況を作るためにもラムザたちの方からベオルブ家を出て行かせてしまう計画だったのである。それが途中で思うように行かなくなってしまった。
だから予定を変えることにする。
「ラムザ、目を覚ませ。そいつはオレたちとは違う。
わかるだろ、ラムザ。オレたち貴族とコイツは一緒に暮らしてはいけないんだ」
立ち上がって埃を払い、礼儀正しく親切そうな表情を作ってラムザの方にだけ笑顔を向けて言い放つ。
殊更“自分たちは仲間であること”“自分は敵じゃないこと”“自分たちは友達になれること”“共に歩んで生きていけること”そういった綺麗事をアピールし続けながら語り続け。
「目を覚ませ。友達ごっこはもうお終いだ。
きみは名高きベオルブ家の御曹司だ。貴族の中の貴族だ。
コイツと一緒に居ちゃいけない。
少なくとも、きみの兄キたちはそう思っているはずだぜ!」
両手を広げる大げさなジェスチャーを見せつけるように示してやりながら、最後まで友好的な態度のままで―――破滅させてやるつもりだったのだ。破滅への道を自分で選ばせてやる計画だったのである。
言葉とは裏腹に、彼が既にラムザのことなど仲間などとは微塵も思っていない。
むしろ、こんな奴が自分と同類だなどと思うと反吐が出る思いに駆られるほど嫌い抜いてしまっていた。
・・・実のところアルガスは、ラムザが自分の手を取ることは決してないという事実を、理性や推測ではなく本能的な直感によって早い段階から感じ取ってきていた人間だった。
只それが、なんの根拠もなく『何となくの勘でしかなかった』という事情から今までは確信を持つことが出来ず曖昧なスタンスを維持するだけに終始させていた。
彼のラムザに対する態度と言動が安定せず、不規則にブレているように見えていたのも、それが原因によるものだった。
むしろ出会って最初の頃は、シンパシーさえ抱いていた時期もあった程だ。
どこか貴族でありながら貴族社会に馴染み切れておらず、中途半端な状態にある彼に対して、自分が抱え続けた家の事情と祖父の話を聞かせてしまったこともある。
――だが、今ならハッキリと解っていた。
『コイツと自分は全く別の人間なんだと言うこと』がだ。
同じ貴族と平民の間にある中途半端な場所にいた者同士であっても、コイツと自分では全く『半端な理由』が違っていたのだと理解していた。
ラムザは、【貴族として生まれながら】【貴族として生きることを拒絶している人間】だ。
自分の様に、【貴族として生まれながら】【貴族として生きることを“許されなかった人間”】とは全く違う。
同じ中途半端でも行きたい方向が全く逆だ。進みたいと願っている道が全然別物だったんだと今なら解る!
そしてラムザと自分の違いを理解した瞬間、今まで感じていたシンパシーと好感は一挙に反転して憎悪と憎しみへと取って代わった。
あるいはアルガスにとって、ディリータ以上に憎たらしい存在はラムザだったのかもしれない。
(俺が欲しいと望み続けて手に入らなかった、名門貴族に生んでもらった身分の癖に!
俺よりも格下で、貧しい暮らしを送ってなきゃいけないはずのディリータなんかと一緒にいる生活を大事にしやがって!
要らないというなら、俺に寄越せ! 俺にくれ! 俺ならお前なんかよりずっと上手く貴族ができる! 俺の方がお前なんかよりベオルブ家の御曹司には相応しい! そのはずだった! そのはずだったんだ!!)
アルガスは本気でそう思う。だからこそ彼はラムザを憎まずにはいられない。
自分が望んでも決して手に入れることの叶わない【生まれの身分】を価値なきもののように切り捨てて、家畜程度の価値しかない平民なんかと一緒にいる方が大事だと抜かす、苦労知らずの甘ったれなベオルブ家の御曹司。
仮に自分がラムザを殺せば、自分がラムザの代わりにベオルブ家の御曹司になれるのならば、彼は今すぐラムザを殺して自分がその地位と身分を手にすることに喜びは感じても躊躇いや罪悪感を感じることは決してないだろう。むしろ栄達の生け贄になってくれた相手に感謝の気持ちぐらいなら沸いてくる程度だろう。
だが現実はそうじゃない。彼が思い描く青写真通りには決して叶ってくれることはない。
ラムザを殺したところで、自分は騎士の棟梁ベオルブ家に生まれた御曹司にはなれない。ベオルブ家の末弟を殺めた没落貴族の小倅にしかなれない身分に生まれてしまった彼には、今更どうすることもできはしない。
「なぁ、ラムザ。分かるだろう? 君と俺は、コイツとは違うんだ。
コイツは望んだところで何も出来ない。何も手に入れられない。
そういう身分に生まれた“持たざる者”なんだ。
俺たち“持つ者”じゃない。俺たちは全く違う人間なんだよ!!」
だからこそ憎い! 殺してやりたい!!
本人が望んでいるとおり平民と一緒に歩む道を行かせてやって、自分がそれを利用して出世するダシにしてやることで鬱憤だけでも晴らしてやりたい! 心の底からそう思っている!! そう信じている!
だから追い出す! 利用する!!
そのためにもディリータの妹をこれ以上ないほど扱き下ろしてやって、それを利用してディリータを暴走させ二人まとめて古道具を処分してやるために“ダイスダーグから教えてもらった”ジークデン砦の情報を教えて使い捨ての駒に利用して、それから―――
「おや? 皆さんどうしたんです? 何やら騒がしいようですけど喧嘩でもしてらしたので?
ダメですよ、仲間同士で喧嘩なんかしちゃダメです。喧嘩なんかしちゃいけません」
そこに、声が落ちてきた。
場にそぐわないほどノンビリとした、如何にも世間知らずで苦労知らずな貴族のバカ息子のような―――いや。
貴族の“バカ娘”っぽさを丸出しにしたような、空気をまったく読めていない拍子抜けするほど肩すかしな、おのぼりのような声の主。
「ラム―――」
この声の主は一人しか知らない。どうやら部隊の再編成を終えて戻ってきてたらしい。
こんな声を出すバカじゃなかったが、所詮は生まれながらに苦労を知らないワガママお嬢さまなんて、こんなものかと。ザルバッグによって貴族社会の一員に取り立てられることが内定したアルガスは大して気にもしないまま後ろを振り返って振り向いて、
そして―――視界をナニカが横切っていく縦線が見えた気がした。
それが何だったのか分かったのは、反射的に身体が動いて地べたに座って相手を見上げ。
――――右脇の腹部から血が流れ出て、ジクジクとした鈍い痛みが身体を通して心に恐怖を理解させる。
その工程を経て、青ざめた顔色で相手を再び見上げ直した。
その直後に、その光景を見せつけられた。その瞬間になってからのことだった。
「――ダメですよ、喧嘩なんかしたら。
兄様たちと喧嘩して敵対してしまったからには、もう貴方を殺すのを我慢してやる理由がなくなっちゃうじゃないですか。
ねぇ、アルガスさん? わかるでしょう?
・・・・・・強い者には媚びへつらい、弱い者だけ強い言葉で罵倒して、他者から地位や力をめぐんでもらえば自分が強くなった偉くなれたと思い込む。・・・・・・貴方みたいな太鼓持ちは生きているだけでも虫唾が走って仕方がない・・・ッ。
このベオルブ家を腐らせるだけしか能のない、寄生虫ヤロウッ! とっとと死ねッ!!」
心優しい兄と違って、兄の敵を殺すことに何の躊躇いも覚えたことのない少女。
ラムダ・ベオルブが―――剣を振りかぶって、殺意にギラつく眼差しで自分を睨み付けながら。
手にした剣を振り下ろしてくる銀閃が、俺の視界に高速で迫りつつあった。
ベオルブ家の屋敷中に――――叫び声が轟き・・・・・・そして、消える。
つづく
注:アルガス君は死んでおりません。“まだ”(苦笑い)
一応これもラムダの謀略の内ですので誤解なきようお願いいたします。
オマケ【次回予告】
ラムザ「そんなこと言うなよ、努力すれば――」
ディリータ「努力すれば将軍になれるのか? この手でティータを助けたいのに、何もできやしない」
ディリータ「僕は・・・“持たざる者”なんだ・・・」
ラムダ「“持つ者”の家に生まれながらティータさんを助けられず、何もできてない人間もここにいるみたいですけどね?」
ラムザ「ラムダッ」
ディリータ「ラムダ・・・・・・」
ラムダ「生まれた家は将軍より上でも、女に生まれてしまえば出来ることは殆どない。結婚相手を選べやしないし、そのうち政略結婚を押しつけられるのが関の山。――そんなものでしょう? 自分に無いものばかりを高く評価したところで、大した意味のある行為と私は思いませんけどね・・・」