平民派DQN女オリ主がいくFFタクティクス 作:ひきがやもとまち
正直、出来あがった文章が気に入らず清書し直してから投稿する予定だったんですけど、流石に時間が経ちすぎました。
如何ながら最初に出来あがった時の状態で最新話とさせて頂きました。
もし清書し直した文章に変える必要が出来た場合には、その時の対応という事で何卒…(謝罪)
僕はそれまで、当然のように生きてきた。
その“当然”が崩れたとき――
僕は――いや。
“オレ”は現実を知った。
思い知らされたのだ。
それまで親父や爺ちゃんを敬い、「立派な家柄だ」「尊敬している」とチヤホヤしてきた連中は、たかが騎士見習いの言葉一つでアッサリ俺たち家族を見捨てて去って行き、手の平を返すように今まで忠義面して仕えてきた連中は「負け犬」を見る目でオレや母さんを見下してくるヤツばかりに一変した。
その時になって、ようやくオレは奴らが本心から爺さんたちを褒め称えていた訳じゃなかった事実に気づくことができた。
ただオレの家が強かったから、守ってもらうために擦り寄って来ただけだった事実を。
仕える主君から気に入られることで、より多くご褒美をもらおうとオベッカを言い続けてただけだったという真実を。
だから誓った。―――今度はオレが、利用する側に立ってやるんだと。
利用されるだけなど、二度とゴメンだ。いや、アイツらだけが悪かった訳じゃない。あの程度の奴らの浅知恵を見抜けなかったオレも父さんも、殺された爺さんだって悪かったんだろう。
所詮、世の中持ちつ持たれつ。
自分のために相手を利用して、相手もまた都合良く自分のことを利用しにくる人間だけが上に行けて、信じたがるヤツは馬鹿を見る。それが現実ってものだったのだから。
――なら、他人に利用されて切り捨てられる側よりも、他人を利用して切り捨てる側に立ち続けた方が絶対に得じゃないか。
オレの家を利用して成り上がり、都合が悪くなったら見捨てて逃げた奴らを利用し、切り捨てる側に立った方が得だ。遙かに得だ。ずっとずっと賢い生き方なのだ。
だからオレは全てを利用して成り上がり、アイツらを正しく切り捨てられる立場に立たせ、アイツらの犠牲によって奪われた地位と権利を取り戻してやるんだと、幼き日に誓いを立てたのだ。
そして、その誓いは叶う寸前にまで到達することが出来た。
ベオルブ家の次男に接近して密命を受けるまでになり、一隊を指揮する立場になることができたのだから!
後はベオルブ家も利用し、ラーグ公に取り入り、邪魔になったらベオルブさえ切り捨てる! オレを見下してきた連中に必ず思い知らせてやる! 今度はアイツらをオレが切り捨てる番に、もう少しでなれるんだ! そう確信した!!
―――そのはずだ。そのはずだったんだ。それなのに―――
「――ダメですよ、喧嘩なんかしたら」
それなのに・・・・・・なぜオレは今、上から目線で見下ろされている?
なぜ冷たい地ベタに座り込んだまま、オレは相手を見上げなきゃいけない立場に戻っているんだ・・・?
「兄様たちと喧嘩して敵対してしまったからには、もう貴方を殺すのを我慢してやる理由がなくなっちゃうじゃないですか。
ねぇ、アルガスさん? わかるでしょう?」
優しい声音と、丁寧な口調での問いかけ。
だが、言っている言葉の内容は処刑宣告に他ならない。
目の前には自分を背後から切りつけて、血の流れ落ちる剣の切っ先を下に向け、振り向いて座り込んだままの自分を薄らと微笑みを浮かべながら見下している、一人の少女騎士の姿がそこには立ちはだかっていた。
――ジク、ジク、ジク・・・・・・と。
血の流れとともに鈍痛が少しずつ体を蝕み始め、その痛みが自分自身の肉体に現実の状況激変を教えてきているような気がした。
ベオルブ家に取り入り、当主からのお墨付きをもらい、今まで自分を利用してきた者たちへの復讐を、嘘八百のデタラメを信じて父さんと母さんを裏切って追い詰めた連中を見返してやるための第一歩をようやく踏み出すことに成功し。
今の自分に刃向かうことは、ベオルブ家に逆らうのと同じ事になる立場を与えられ、自分を傷つけられる者は今この場にいなくなっていた。そのはずだと信じていた。
それなのに―――
「ら、ラムダ・・・」
「どうも。遅れて申し訳ありません、兄様。そしてディリータさんも。宿の手配と部隊の再出撃準備に手間取りましてねぇ。
――まっ、そのおかげで丁度良いタイミングの場面に遭遇できたのは幸運だったと言うべきなのでしょうけれども・・・」
兄からの言葉に笑顔で返してきた、名門ベオルブ家の長女にして少女騎士でもある、現代日本人だった前世と記憶を持ち合わせた存在ラムダ・ベオルブは、穏やかな笑顔はそのままに掲げ持ってアルガスの首筋に突きつけた剣の切っ先は微動だにさせることなく、“裏切り者”へと視線と意識を向けるときには意識も表情を冷たさだけが伝わってくるものへと変えながら、静かな態度で見下すのみ。
「さて、裏切り者さん。最後に言い残すことはありませんか? どーせコレが最後なのですし、恨み言の一つや二つぐらい聴いてあげても良いのですよ?」
「う・・・、ぐ・・・な・・・・・・」
相手の言い草に対して、なにか言い返してやろうとは思うものの、突然の状況変化に頭が追いつかず尻餅をついたまま立ち上がることすら忘れてしまい、意味のない単語を繰り返すだけ。
・・・・・・とはいえアルガスが、これほどの醜態を晒してしまっていたのには一応の理由が存在してはいた。
一見すると奇妙なことに思えるかも知れないが、この事件を起こしたときアルガスには、自分が挑発して激高した相手に殺される可能性について全く想定していなかったのである。
それはラムザたちの側に立つ者には、信じがたいほど楽天的思考に映ったであろうが、実のところそうではない。
彼が、自分は殺されないと考えるのは「当たり前のこと」だったのである。
何故なら彼は、「何の罪」も犯していないからだ。
ディリータと妹アルマのことを悪し様に罵り、平民たちを見下す差別感情をむき出しにした言葉を放ち続けたことは、確かに非難に値するだろう。
周囲から嫌われていることを承知の上で、それがどうしたとばかりに横柄に振る舞い続け、自分を助けてくれた恩人の一人を売り渡すような密告をしたのも恨まれて当然の自分勝手な行為であっただろう。
――だが、罪は犯していない。
彼はイヴァリースの法律を犯したことが一度も無いのである。
罪なき者を、正当な理由もなく処断することは、流石の大貴族といえども正式に許されている行為ではない。
平民相手なら黙認はされよう。だが、合法的に許可されている行為ではないのだ。
まして、骸旅団殲滅の総指揮を担っているベオルブ家の一員が、作戦開始前に私的な怒りに駆られて部下を斬り殺し、激高した理由が「平民出身の友人をバカにされたから」というのでは他の貴族たちからの非難と責任追及を免れることは不可能となるだろう。
そうなれば喜ぶのは、ライバルの側近自ら墓穴を掘ってくれた、政敵のゴルターナ公勢力だけである。
ラムザにしても、そこまで考えて友人を制止したわけではなかったが、罪なき者を殺して、それを地位と家柄で正当化しようとする行為に嫌悪感を抱いていた部分が影響を与えていたのは確かだったろう。
それではミルウーダが指摘した通り、自分たちイヴァリース貴族は文字通り横暴な特権階級そのものになってしまう。
貴族であるからこそ、それらの行為に手を染めるべきではないと固く信じるラムザにとって絶対に許されていい行為ではなかったのだ。
ただ「嫌われているから」というだけの理由で部下を処刑していい、などというのでは法も秩序もあったものではない。
完全な特権階級の一員になる羽目になってしまうだけだ。そんな行為には自分も、そして親友にも手を染めて欲しくはない。
それが先程ラムザがディリータを制止した、大きな理由の一つになっている部分だったのである。
――だが、この妹は兄たちの倫理的判断に従わなかった。
彼らとは違う視点で事態を見ていた彼女ならではの理由があったから・・・・・・。
「な、何しやがるラムダ!? 何故、オレに剣を向ける!? こんなことをして許されると思っているのか!? いいか、聞かせてやるからよく聞け。オレはお前らの兄キから――」
「黙りなさい、薄汚い裏切り者。私個人への恨み言なら聴いてあげると言いましたが、卑劣漢の分際でベオルブ家の名誉に泥を塗る言質さえ弄するというなら話は別です。
今すぐ誅戮の刃で、何も言えぬまま終わらせてしまっても構わないのですが?」
「う・・・っ、ぐ・・・・・・あ・・・」
ようやく言うべき言葉を思い出し、相手を威圧して場の主導権を握り直すためにも強い言葉と口調で叫び出すアルガスに対して、先程より深く首筋に刃を近づけることで続きを口に出来なくさせてしまうラムダ・ベオルブ。
――自分は、お前の兄ザルバッグと密約を交わしている・・・・・・そう匂わせようとした寸前で切っ先を喉元に突きつけられて、尻餅をついたまま後方へズリズリと這って遠ざかろうとするしか出来なくされてしまうアルガス・サダルファス。
事ここに至り、ようやく我を取り戻した兄ラムザとディリータが、妹騎士の問題行為を理解して止めに入ることが出来たのは、ここからだった。
「ま、待つんだラムダ! いくら何でも味方を勝手に処刑するなんて、そんなことは許されない!」
「そ、そうだ! ラムザの言う通りだぞ、ラムダ!! 第一証拠がない! ソイツが裏切ったという確たる証拠がなければ、俺たちが勝手に処罰することは出来ないことぐらいお前なら知ってるはずだろう!?」
ラムザだけでなく、ディリータまでもが慌てたように親友の妹を制止するため動き出したのにも正当な「法律の理由」が絡んでのことである。
先程までは激高し、感情的になってしまっていたから考え及ばなくなっていたが、あらためて今になって考え直してみれば、先程までの自分が如何に危うい橋を渡りかけていたか心胆を寒からしめる程の思いで冷静さが一気にぶり返してきていたからである。
何しろ彼がやろうとしていたのは『私情に駆られての味方殺し』である。
要するに私怨を晴らすために仲間を殺そうとした、只それだけの行為だったのだ。
もし、それをしていた場合にはアルガスの人格的評価は問題にならない。ディリータがやってしまった行為と、アルガスがそれをされるだけの過ちを犯していないという事実だけが裁きの場で問題視されることになる。
如何にベオルブ家末弟の弁護があるとは言え、ディリータに勝ち目はない。罪人として牢に繋がれた後に処刑されるか、裁きを逃れて脱走するか。
どちらにしろ、攫われたティータを救い出すどころの話ではなくなっていた事だけは確実な行為だったのだ。むしろ罪人の妹として兄の罪まで連座して被せられる恐れすら出てくるだろう。
そうなったとき、ベオルブ家が『恩知らずな裏切り者の妹』を助けない事は正しくなってしまうしかない。
助けてやる義理を、ディリータ自身の手でアルガスごと切り捨てる事になってしまうのだ。
貴族であるベオルブ家が、所詮は平民でしかない自分の妹を見捨てたなら、自分には彼らを恨む権利があると、ディリータは思う。
だが、自分自身の衝動的な怒りによって、妹を見捨てることを『正しい選択にしてしまった』なら、悪いのは自分だ。自分の罪が原因で妹は殺されるべき存在にしてしまったのだから――。
落ち着いて考えれば冷や汗が吹き出して止まらなくなるほどの暴挙を、先程までの自分はやりかけてしまっていたのである。
そのせいで友人の妹までもを激高させ、自分と妹のために自分がやろうとしたことを代替えして、自分が背負う寸前までいった様々な罪業を背負わせるなど、冷静さを取り戻した今のディリータには到底できない。
彼がラムダを必死で慌てながら制止したのも、先ほどの彼と矛盾する行動ではなかったのだ。
――だが、そんなディリータの行動にも読み切れていない部分があった。
自分たちと異なる視点から事態を見ていたラムダの着眼点は、彼ら三人をして瞠目させるに足る威力を持っていたのだから―――
「いいえ、ディリータさん。彼は処刑されて然るべき罪を犯しています。
“敵と内通して北天騎士団の内部情報を流し”“仲間たちに貴族の邸宅を襲わせるため招き入れていた”“貴族たちの内部に骸旅団が潜入させていた草だった”という罪が。
貴族たちの裏切り者として、身分卑しき者とともに王家へと弓引いた大罪人としての罪状が・・・ね?」
『なっ!?』
「なんだとォッ!?」
意外すぎるラムダの発言を聞かされて、最も大きく驚愕の声を上げさせられたのは、ラムザたち以上にアルガスだったのは当然の反応と言うべきだっただろう。
彼としては謂われのない容疑であり、不名誉極まりない言いがかりとしか受け取りようのない誹謗中傷だったのだから当然のことだ。
自分が? 薄汚い平民共に味方して、貴族の裏切り者となって王家と敵対する逆賊共の一員だって? ―――ふざけるなッ!!
そんなバカな理屈があって堪るものか。友人を庇うために下手な言い訳しやがって許せねぇ! 密告してやる! つまらねぇ詭弁で責任逃れしようとしたことを必ず後悔させてやる・・・っ。
そう思い、激高し、相手の間違いと矛盾を完膚なきまで徹底的に指摘してやろうと叫び声を上げたアルガスだったが、
「子供じみた言い逃れしてんじゃねぇぞラムダ! 何の証拠があって、そんな屁理屈を――」
「おや? そんなに不思議に思われるようなことを私は言いましたか?
“50年戦争で没落した家柄”で、“裏切り者の汚名を着せられ同じ貴族たちから白眼視され”、“皆から尊敬される家柄だった自分たちを庇ってくれず”、“たかが騎士見習いの言葉を信じて自分たち一家を助けることなく見捨てた王家”
そして、“名門貴族ベオルブ家の子息への感情的な怒りを幾度も向けてくる”
・・・・・・現在の社会と王家に恨みを抱いて反政府活動に参加するには十分過ぎるほどの“家の事情”を持ってる人が貴方だと、私なんかはずっと思っていたんですけどね・・・?」
「そんな理屈、が―――」
・・・・・・至って冷静に返された相手の返事を聞かされた瞬間、反論しようとした言葉が途中で止まり、
「・・・・・・・・・――――」
そして、絶句させられてしまった。
完全に相手の言ってることが正しくて、反論の余地を見いだすことが出来なかったからである。
無論、アルガスは貴族たちを裏切っていないし、平民たちの寄せ集めでしかない骸旅団に寝返るなど反吐が出る思いしか沸いてこない。あり得ない選択肢だと断言できる。
“彼自身”は、絶対にあり得ないことだと心の底から保証できるだろう、アルガスの真実。
だが、それを周囲の者たち―――特に、『ベオルブ家の長女の証言』として聞かされた、『命惜しさに味方を売った貴族の面汚しの孫』を蔑視している体裁と面子ばかりを気にする上流貴族たちが、どう受け取るかは全く別の問題である。
「あなたは最初から、ティータさんを誘拐することを目的としてベオルブ家を骸旅団の仲間に襲撃させたんですよ。アルガスさん。
私たちの仲間として、あなたはベオルブ家の警備の任に当たっていた。邸内の見取り図やベテランが減って騎士見習いばかりになった警備状況を知らせるのは容易だったでしょうからね。
ベオルブ家は彼女を見捨てる決定を下したならば、『天騎士バルバネスが養子として迎えた娘でさえ保身のために切り捨てる。所詮はベオルブ家も貴族だった』という噂を立てて、民衆からの支持を奪う。
王妃様への反発心から名門貴族からの協力が得づらいラーグ公にとっては、無視できない醜聞でしょう。
最悪ベオルブ家を切り捨ててでも、職を失った下級騎士や平民の支持を維持することを選ぶ可能性すらある。ベオルブ家は公の側近ではあっても他の将軍がいないわけではありませんが、兵たちが集まらないのでは戦はできない。
見捨てないなら見捨てないで、人質として利用すれば良いだけですからね。どちらにしろ骸旅団に損はない」
淡々とした口調で語られる、『骸旅団の戦士アルガス』による『貴族支配体制の一翼を奪うための陰謀計画』
その話が進めが進むほどに、アルガスは自分の顔色が青ざめていくのを自覚させられる。
何の物的証拠もなく、状況証拠と生まれの身分だけを理由として推測と憶測を重ね合わせ、足りない部分を社会的風潮と偏見によるこじつけで繋ぎ合わせただけな、穴がボコボコ空きまくった理論ともいえない子供じみた言いがかりでしかない代物。
だが、それは語っているラムダ本人も自覚しているところでもあったのだ。
今のようなときに重要なのは、『信じてもらうこと』ではなく『信じさせること』であり、確たる物的証拠や事実証明よりも『説得力を感じられるか否か“だけ”』なのである。
“あの”アルガスだったら、やっていてもおかしくはない――そう周囲の者たちに思わせることさえ出来れば、それで良くなる問題なのである。
『連言錯誤』と呼ばれる言葉がある。
「そして」あるいは「かつ」といった言葉で繋げて語った話の方が、単体で話すときより説得力が増すという人間心理の一説だ。
コレを応用して悪用しているのが、ラムダの前世である現代地球世界で『評論家』と称されている者たちで、自説を物語調で主張することにより単独のデータだけで説明するより他人に信じられやすく、かつ受けやすくなるよう調整しているのだ。
今ラムダが使ったのも、その応用である。
実際には、自分の主張した論が『こういう内訳が存在していた場合には成立可能になる』と仮説を語っただけでしかない、何の証拠もない誹謗中傷。
だが、それに『味方を売った裏切り者の孫アルガス』の悪評と、『名門貴族ベオルブ家令嬢の証言』という二つの条件が重なるだけで、多くの者はアルガスの無実よりもラムダの正しさを信じる側に回ってしまう。
それがアルガスには、過去経験からイヤと言うほどよく分かっていた。
理解しすぎて本心から嫌すぎるほどに、思い知らされていたのである。
「イヴァリースを支える大貴族ラーグ公の片腕を削ぐことができれば、ゴルターナ公が必ず動き出して内乱が発生して、民衆たちが乗じる隙は必ず生まれる。
よしんば、そこまで上手くいかずとも貴族制度に大打撃を可能となる。そのために自ら敵の中枢近くに接近して機を伺っていた。
・・・・・・そう兄様たちに語って決断を迫らせることが貴方の目的だったのですよ。その目的が果たされた後は処刑される覚悟で、民衆の勝利のため国家百年の計を練っていた故に・・・。
どうです? なかなか感動的な三文芝居だったでしょう? 思わず私も反逆者という者たちに初めて敬意を感じたくなってしまうほどにです・・・・・・オヨヨ」
と、最後にはわざとらしく嘘泣きマネまでして見せてくるラムダの猿芝居。
だが、たしかにストーリーとしては間違っておらず、物語としては民衆にも受けやすそうだという事はラムザやディリータにも理解できる。
――だからこそ、アルガスの危機感は増す一方になり、震えが止まらなくなってしまう。
冗談ではなかった。冗談としても出来が悪すぎていた。
自己犠牲? 自分が? 民衆なんかが勝利して国を手に入れるために!?
そんな馬鹿な理屈があって堪るものか! 自分は他人共を犠牲にして上に行きたい人間だ! 自己犠牲など今の自分から最も遠く、最も縁遠い無縁な代物! そんな濡れ衣などで処刑されては堪ったものではない―――
「そ、そんな証拠がどこにあるってんだ!? そんな物ある訳がない!」
「それを証明してくれる証人が誰かいますか? ここには私たちしかいません。私と兄さんとディリータさん、そして貴方の四人だけです。
ベオルブ家の一員である私たち全員が、“貴方自身がそう言ってから死んだ”と口裏を合わせてしまえば証拠は何も残らない」
「な・・・、にぃ・・・っ!?」
相手から放たれた非常な宣言に対して、最も顔色を変えさせられたのは、だがアルガスではなかった。
「駄目だ! ラムダ! やめるんだ!!」
ラムザ・ベオルブ。
ラムダの兄であり、騎士の中の騎士と言われた祖父の道をこそ進みたいと願っている少年騎士見習いにとって、先のラムダの方法論は到底許容できるものではない。
「無実の者に罪を着せて殺すことなど許されない! そんな行為は、いくらお前でも僕が決して許すことはできないぞ!? 分かっているのか!?」
「・・・ティータさんを救うためには必要なことだとしてもですか?」
「な、なんだって・・・・・・?」
急にトーンを落とした相手からの返答と視線に、やや尻込みさせられたように僅かながら上半身を仰け反らせながらも、側に立つディリータの真剣さを増した厳しい表情へと顔と意識を向け直さざるを得なくなっていた。
「・・・正直なところ、この人の言うとおりではあるんですよ。
ダイスダーグ兄君様はラーグ公にお仕えする軍師として来たるべき次なる戦いの準備を優先するしかない立場ですし、ザルバッグ兄君様も最終的には立場を選ぶ御方でしょう。
ならば多少あざとくても、敵の謀略をでっち上げ、ティータさんを殺すことがデメリットになるよう仕向ける必要がどうしても出てきてしまう。
そのためにも分かり易い『悪者』がいるんです。嘘八百に説得力を持たせるため悪者の退治された死体がね・・・!」
「そ、そんな・・・そんな事って・・・!?」
ラムザもまた、先のアルガスと同じように絶句させられる。
兄二人がその道を選ぶ理由説明がされていたことも、ラムザが相手の考えの正しさだけは認められる理由の一つだった。
長男と次男の性格は、ラムザもまたよく知っている。
情を知らない人たちではないが、立場に伴う義務を果たすことに強い使命感と誇りを抱いている人たちでもあるのだ。感情だけで動く人ではないことは・・・遺憾ながらラムザも兄弟として認めざるを得ない部分を確かに持っている。そんな兄たち。
「だ、だけど・・・それでも・・・それでも僕は―――ッ」
「生け贄が必要なんですよ・・・・・・ティータさんを救い出すため、愚かな人の心を揺り動かすための生け贄がねッ!!」
叫びと共に、躊躇いなくアルガスの頭上に振り下ろされるラムダの長剣。
「やめろぉぉぉぉぉッ!!!」
と叫ぶラムザの制止とも悲鳴ともつかぬ雄叫びだけが空っぽになろうとしていた脳味噌に虚しく響き渡り、間近に迫り来る『死』そのものを見上げながら絶望に染まった思いで凝視していると――――ほんの一瞬。
一瞬だけ、お人好しな兄の言葉に、兄貴思いな甘ったれの妹の剣先にブレが生じる光景が、アルガスにはハッキリ見ることができていた。
その瞬間。
「~~ッ!!」
「な・・・っ!?」
思い切り、正面からの体当たりを食らわせて仰け反らせてやった後、全速力で屋敷の中へ逃げ込んでいく騎士見習いアルガス。
逃げようとする自分を逃がすまいと、背後から一瞬追撃の足音が聞こえてはきたものの、そのすぐ後に『やめるんだラムダ!』という言葉が聞こえたと思ったら、次にはもう背後から何も聞こえなくなって、アルガスは自分が逃げ延びることに成功したことを心の底から知覚した。
「・・・ちくしょう! クソッタレ! 馬鹿にしやがって!馬鹿にしやがって! あのヤロウ、あのヤロウ、あのヤロウぅぅ・・・・・・ッ」
だが、窮地を脱したアルガスの心に、自分を追跡者から救ってくれたラムザへの感謝など微塵もなく。
ただただ自分を、『哀れみによって救ってやったラムザ』と、『自分を憎んでる癖して格好つけたがるディリータ』
そして、このオレ様をここまで虚仮にして、恐怖を思い出させやがった『クソ生意気な女でしかないラムダ・ベオルブ』
この三者に対する恨み、憎しみ、憎悪、殺意、嫉妬。
・・・様々な感情で溢れかえった心を抱えながら、使用人たちの目など気にすることなく屋敷の中を走り続けているのがアルガスの心情ではあったが・・・・・・。
おそらく彼の心を最も占めていた感情は、後にも先にも、過去未来の全てを通じてさえ一つだけだったのかもしれない。
【プライド】
彼はプライドが生まれつき高かった。高すぎたのである。
それが周囲からの裏切りと、ラムダとの舌戦で敗北したことなどを経て今に至っている。
それがアルガス・サダルファスの行動動機と主張の中身であり正体だった。
「・・・思い知らせてやる・・・! 絶対に思い知らせてやるぞぉ・・・ッ!!
オレを虚仮にしたヤツは殺してやる! 絶対に! この手で! アイツらの守りたがってる平民の小娘を殺した上で、アイツら自身のことも絶対に・・・・・・ッ、絶対にだ!!」
プライドを傷つけられた復讐―――否、ただの意趣返しを取り繕って復讐という形でしか実行できないプライドが高すぎる少年騎士アルガス。
そんな彼だからこそ――――どのような行動に、どんな反応を示すのか。
分かり易く、予測しやすい。
自分の望む行動を、言葉一つで自主的に行ってくれる“彼女にとっては”便利で使いやすい、安物の壊れたマリオネットとしか映ることは決してなかったかもしれなかった。
「――さて、コレだけやれば十分でしょう。邪魔者が自主的に出て行ってくれて、遮る障害はなくなりました。
では兄様。ティータさん救出のため、本当の出撃を始めに行くとしましょうか?」
つづく