平民派DQN女オリ主がいくFFタクティクス   作:ひきがやもとまち

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前回が中途半端なところで止まってしまって申し訳ありません。
他の止まっている作品を更新してから続けようと思ってたら時間かかりそうなので、コッチを先に完成させた次第です。

今話でベオルブ家襲撃の話は完結です。オリジナル話は早く終わらせて原作ストーリーに回帰する必要あるため焦りましたわ(;^ω^)
そのせいで今回、ラムザとディリータの出番が薄めです。その分、後半は躯旅団の現状を付け足しときました。
敵と味方の事情を楽しんでもらえる半オリジナル回になれたら幸せです。


第15話

「ラムダッ!!」

 

 ――私の名を呼び、制止する声が背後から聞こえた瞬間。

 思わず剣を抜いたまま走り出そうとしていた私は機先を制され足を止め、背後を一度振り返ってから振り払うように前方へと視線を向け直すと、再び走り出そうと大きく鎧の音を鳴らしながら一歩前へと踏み出した時に、

 

「やめるんだラムダ!」

 

 二度目に放たれた制止の声が、私の足を再び地面に縫い付けて追撃の足をも止めさせました。

 背後からの指示との葛藤で動くに動けなくなってしまった私は、抜き身の剣を納めぬまま屋敷の中へと姿を消していく、『卑劣な裏切り者』の後ろ姿を睨み付けるだけで追いかけることができなくなり、相手の姿が完全に邸宅の中へと吸い込まれていき影も形も残ってはいなくなり、今から追いかけても手遅れであることが確定した頃になってようやく―――“これ位やれば十分だろう”と判断して、私は剣を鞘に収めたのでありました。

 

 そして振り返りながら、兄様達に宣言したのです。

 

「さて、コレだけやれば十分でしょう。

 邪魔者が自主的に出て行ってくれて、遮る障害はなくなりました。

 では兄様。ティータさん救出のため、本当の出撃を始めに行くとしましょうか?」

 

『『・・・・・・は?』』

 

 

 ・・・・・・その返答として、お二人からポカンとした表情でマヌケそうな反応を、返事としていただく羽目になったのでありましたとさ。

 

「――なんです? その反応は・・・・・・まさか私が本当に兄様の命令を無視してでも自分の判断を優先して、アルガスさんの粛正を行おうとする人間だと思われてましたので?」

「い、いや・・・・・・その・・・」

「そんな事は・・・・・・いや、まぁ・・・・・・うむ・・・」

「・・・・・・」

 

 メッチャ思われてたんじゃねぇですかい。

 実の兄と、兄の親友で私にとっても友人の幼馴染みから、命令違反して独断専行で部下の粛正行っちゃう人間だと思われちまってましたよ私って・・・・・・

 

「――まっ、兄様達でさえそう解釈してくれてたぐらいですからね。外様のアルガスさんには分かるはずもなかったはず。

 私も猿芝居が無駄にならなかった証拠として喜んどくといたしましょう」

 

 わざとらしく肩をすくめながら妥協案を提供されて、見るからにホッとして肩の力を抜かれるお二人さん。・・・貸し一つですからね? 後で覚悟しておいてくださいよ本当に・・・。

 

「そ、それよりもラムダ。今言っていた話は一体・・・・・・やはり兄さん達はアルガスの言うとおりティータを・・・・・・」

 

 誤魔化すように言いだし始めた兄様の言葉でしたが、内容が内容です。途中から表情口調共に深刻さが増していき、ディリータさんの顔も強ばっていく過程を客観視点で、やや薄情さを自覚しながら観察した後、「より正確には」と兄様の話に私も乗ることを受け入れて。

 

「兄君様たち以外の人たち全ての都合で、ティータさんの命は兄君様たちに奪われる可能性が高すぎると言うべきでしょうかね・・・・・・」

「「・・・・・・??」」

 

 嘆くような仕草で言った、分かりにくすぎると自覚していた私の言葉に兄様だけでなく、鋭敏で政治感覚もあるディリータさんでさえ不審そうな表情で黙り込まれた姿に、最初から付け足すつもりでいた説明をプラスさせて頂きました。

 

 

 ――現在、ティータさんの身命はかなり危ういバランスの上で成立していました。

 たかが平民の娘がベオルブ家令嬢と勘違いされて誘拐されただけという経緯から、アルガスさんを始めとして軽く見ている人も多いみたいですけど、実際には全ての勢力にとって政治的に大きな意味合いと効果を持ってしまっていた――というのが実態なのですよ。

 それこそ、本物のベオルブ家令嬢が誘拐された方が大した問題ではなかったぐらいに、です。

 

 今回の骸旅団殲滅作戦は、彼らの本拠地があり主な活動地域にもなっていた、ラーグ公が統治しておられるガリオンヌ領で行われる都合上、総指揮官にはラーグ公ご自身が務められ、現場での総指揮を北天騎士団とベオルブ家が担当して軍政はダイスダーグ兄君様が、軍令をザルバッグ兄君様が・・・・・・そういう人事となっています。

 

 要するに、成功すればラーグ公の武威が高まりますけど、失敗すれば政敵であるゴルターナ公陣営を喜ばせるだけってことです。

 それどころか、ゴルターナ公としては成功しようと失敗しようと、なんの損もありません。せいぜい“来たるべき次の戦い”のためにも、何でもいいから汚点だった部分にイチャモン付けられ中傷できる口実さえ得られりゃ万々歳な立場ってところでしょうよ。

 

 そして、そんな公にとって【五十年戦争を形ばかりでも講和で終わらせた天騎士】である父様が養子として迎え入れられていた『平民の娘』を賊に浚われ、その命惜しさに討伐作戦の責任者の側近一族が反乱軍共の要求を一つでも飲んでしまっただけでも、公私混同を始めとして『上に立つ者として適正のなさ』を論って非難しまくるには十分すぎる口実が得られる訳で。

 

 しかもイヴァリースは、大陸の北西部に突き出た半島で、逃げ出す先が旧敵国である隣国オルダリーアか海しかありません。

 オルダリーアを逃亡先に選んだ場合には、ゴルターナ公の領地であるゼルテニアを通過する必要があるのです。

 

 北天騎士団のトップ一族ベオルブ家が、仮にラーグ公に嘆願して見逃してやるよう許可を取り付けたとしても、ゴルターナ側が従ってやる理由も特にはないでしょうからねぇ・・・。

 せいぜい体裁を取り繕って、骸旅団に家族を殺された平民たちが復讐のため襲撃したことにでもして、ベオルブ家は討伐作戦の責任者でありながら身内の情に流され犯人たちの逃亡に手を貸した。公私混同は上に立つ者として適正を欠くこと甚だし――って感じに落ち着くのが関の山でしょう。

 

 

「一方で、ティータさんを誘拐した犯人たちである骸旅団にとっては、追い詰められつつある現状において生き延びられるかもしれない、唯一の可能性がティータさんです。

 この際、彼女がベオルブ家の令嬢かどうかの真偽は問題ではありません。それしか生き残れる道がないのですから、縋るしか他に手が存在しないんですよ。

 ウィーグラフさんや、ミルウーダさんとかの人達は多分、覚悟を決めて生き残れる可能性を捨てて挑んでこれる強さを持ってる人たちだと思われますが・・・・・・皆が皆、彼ら兄妹のような生き方と死に方ができる訳でもなし」

 

 私の話で顔色を悪くしつつあるお二人に、私は容赦なく説明を付け加えました。

 これは政治に疎い兄様には一応、今のところは語らないようにしている話なのですが、今回の骸旅団が起こした争乱はウィーグラフさんの意思はどうあれ、『平民VS貴族』という図式を成立させる結果となってしまっているのが現状です。

 

 そんな中で起きたティータさん誘拐事件は、『次の戦い』に向けて有力貴族の大半が味方しつつあるゴルターナ公にとっては、貴族たちの感情だけを理由にアルガスさん理論でいいんでしょうけど――王妃様の影響によって貴族たちの支持が得づらく、平民や下級騎士、没落貴族なんかを頼りにせざるを得ないラーグ公にとっては、『たかが平民の小娘だから』と簡単に切り捨てられるものでもない。

 

 平民たちから見ればティータさんは『生まれの身分は同胞』であり、今まで名門ベオルブ家が養っていた相手を人質になった途端に見捨てる、というのは今後の展開を考えるとデメリットが大きすぎると予想される。

 反面、ラーグ公にとっても現段階でゴルターナ公や貴族たち全てと敵対する気はないでしょう。

 もともと今回の作戦自体は王家から直々の命令を与えてもらって、自分が総司令官に就任しての殲滅作戦な訳ですし、せいぜい武名を轟かせて人気取りと味方集めに利用したいところ。

 

 その中で、『平民たちから嫌われそう』な『平民の娘殺し』はラーグ公に取ってやりたい行為ではあまりなく。

 一方で、『身内の命惜しさで犯人共を逃亡させた最高責任者』などという不名誉は、公も兄君様たちも全力で避けたいところ。

 更には、『貴族たちから悪感情を買い込む平民に味方する行為』も、現時点では有効とは言いがたい・・・・・・。

 

 

「これらを条件を整合させるには、『北天騎士団はティータさんを全力で助けようとしたけれど、追い詰められた骸旅団の一部が暴走して自暴自棄に陥り、貴族たちへの悪感情から人質を手にかけた』・・・・・・という事にしてしまえばいい。

 多分ダイスダーグ兄君様だったら、この程度の策は考えてるだろうと思われます。あの人は別段、悪意の人じゃないですけど、こういう場面で身内への情を優先してくれる人でもないのは事実ですから・・・・・・」

 

 と、私は表現に気を遣いながら兄様の顔をチラリと振り返りつつ、歩みは止めることなく二人を先導しながら長い説明の締めくくりとさせてもらいました。

 時間がない中でノンビリと説明だけのために玄関でボーッと突っ立ってる訳にもいきませんでしたし、味方を待たせてある場所まで移動しながら今までの話させてもらってました。

 

 これには一応の副次効果として、追っ手に話を盗み聞きされづらいという部分もあります。

 距離を保って付いてきながら身を隠せたり、延々と赤の他人が私たちと同じ道を歩き続ける不自然さをカモフラージュする方法とかを考えれば、普通の道を歩きながら話す方が密談には向いているのが、映画とかでは語られにくい微妙な事実ってところでしょうかね。

 

「じ、じゃあやっぱり兄さんたちはティータを・・・・・・見殺しにしようと・・・・・・」

「微妙なところです」

 

 兄様が後ろから、顔面蒼白になっているのが見なくても分かる声で言ってきたのを即答で切り返して、少しだけ訝しげな気配へと変化した『二人の』雰囲気を背中に感じつつ、私は話の一番重要部分についてようやっと語れる地点まで来たことを、密かに心の中で安堵しておりました。ふぅ~、助かった。という感じです。

 

「ダイスダーグ兄君様にしても、別にティータさんを殺したいわけではないでしょう。

 見殺しにして得する訳でもなし、今まで一緒に暮らしてきた相手なのも事実ですしね。助けれそうだったら、助けてくれるのではないでしょうかね? 行方を探させているって言うのも立場的に嘘ではないと思いもしますし」

「・・・・・・じゃあ、ザルバッグ――様もか?」

 

 ディリータさんが一瞬だけ、言葉を言い淀むのを聞き逃してしまうほど、難聴系でも意味が分からなかった善人過ぎるタイプでもない私でしたが、それでも『聞き流す』を選ぶべき場面であることぐらいは理解できる心は持っているつもりです。

 

「ザルバッグ兄君様は、ベオルブ家の名誉を最も大事に考える方です。

 その点ではダイスダーグ兄君様以上に、現実主義的判断をする可能性が高い人だとも表現できる。

 たとえば、“武門の長たるベオルブ家の一員が情に流され、人質を盾にした卑劣な賊の脅迫に屈する”とかは、あの人には絶対に選べない選択肢の類いだと思われますね」

「―――ッ!!! な、ならティータはこのままだと・・・っ」

「そうです」

 

 驚愕に顔を引きつらせていたであろうディリータさんの顔面に、いきなり振り向いてズズィッと顔を急速接近させながら私は断言して、結論を語りました。

 

 ・・・・・・何故だかディリータさんの頬がちょっと赤くなってるように見えるのと、兄様が気まずそうな顔して目線をさまよわせてる風に見えたのは錯覚だと割り切りながら、です。

 ええ、私は二人を信じてますからね。今はそんな状況じゃないんですから、そんな変なこと考えてるはずがありません。

 今の自分の性別なんか無視です無視。きっと二人も分かってくれてます。私のホッペタから微熱を感じるのも、歩いてきたから暑くなったのです。他意はなし。絶対になし。

 

「――このままだと、ティータさんは恐らく助けることは出来なくなるでしょう。

 骸旅団がティータさんを無条件で返してくれて、自分たちは捕縛されて、王家に背いた逆賊として処刑される道を自主的に選んでくれる・・・・・・という展開にでもならない限りは、ほぼ不可能。絶体絶命の大ピンチ、風前の灯火なのが現在ティータさんが置かれている立場なんですよ」

「そん・・・な・・・・・・そんな事って・・・ッ」

 

 苦悩して、ベオルブ家に養ってもらっていたことが裏目に出てしまっている現在の状況を前にし「オレは・・・オレは・・・・・・ッ」と、自分自身の今まで全てに対してまで疑問の目を向け始めたっぽいこと言いだしてるディリータさんの項垂れてしまった頭頂部に向かい、私は用意していた最適回答を提示する時期が来たことを察したのです。

 

 

「そうです。そして、そここそが“ティータさんを助けられる唯一の可能性”でもあると私は考えています」

 

『『・・・・・・は?』』

 

 

 最初の場に登場した時と同じような反応を返されて、軽いデジャヴに襲われながら周囲を見渡し、目当ての物を見つけて歩み寄りながら私は二人に自分の提案を語ります。

 

「先程も言いましたけど、ダイスダーグ兄君様にもザルバッグ兄君様にも、ティータさんを『見殺しにしたいと思う理由とメリット』はないのです。

 ただ単に誘拐された骸旅団の要求を飲んでしまうとデメリットが大きすぎるから、損得勘定で得する方を選び取ってるだけでね?

 アルガスさんは敢えて露悪的な表現を使って、『切り捨てること』を強調していましたが本来、ナニカを切り捨てるのは別のナニカを得るための手段のことです。切り捨てること自体が主目的なのはあり得ません。捨てるのが従で、得るのが主。この上下関係は変わりようがない部分でしょうね」

「それは・・・・・・そうかもしれないけど・・・」

「今回は、これを応用します。ダイスダーグ兄君様の負傷も相まって、現場の指揮はザルバッグ兄君様だけに一任されるでしょう。

 あの人なら名誉の問題にさえ妥協点を見いだせれば、交渉の余地ぐらいは得られます。形式を整え、状況さえ作り出せるなら、多少のことには目を瞑ってくれる臨機応変さもある人ですしね」

「・・・それも理解は出来るが・・・・・・だが、どうやってだ? 俺達には、そんな交渉材料なんて何一つ・・・」

「だからこそ、“彼の出番”というわけです」

 

 と断言した私の目の前で、指さした先の藪を見ていた二人の視線が見ている先で。

 

 ガサァッ!!と音がして植物の中からなんか出てきて「うわァッ!?」と二人を驚かせたのは―――葉っぱとか色々付いてて、到着したら来るように伝えておいてもらった人。

 

「おいおい、偵察から帰ってきた味方にヒデェな二人とも。コレぐらいのことで驚くなよ。

 勇気が低いヤツだと、非道いリアクションされる確率が高くなって困るぜ」

「「テッド!?」」

 

 と、言うわけで逃がして後を付けさせていたミルウーダさんたちの情報を持ち帰ってきたばかりのテッドさん登場です。彼が今回の私たちの切り札ってわけ。

 

「ご苦労様でした、テッドさん。で? 収穫はどうでしたか?」

「大収穫だな。ラムダが言ってたとおり、奴らが通った道の先には骸旅団が拠点として占拠していたジークデン砦へ通じる隠し通路が掘られてたらしい。少人数だけが進める狭い獣道みたいな場所で大軍には使用不可能だが、逃げ道として使うだけなら十分だろう。

 もっとも、こういう時を見越してから封鎖するための仕掛けぐらいは施してあったようで、今は塞がれちまったみたいだがな。他の道まで完全封鎖する余裕はなかったらしい。途中までの近道だったら十分使える」

「十分です。これで北天騎士団本体を出し抜けます、報酬は後ほどタンマリとってことで。

 いやはや、猿芝居までしてアルガスさんを追い出した甲斐があったってものですね」

 

 肩をすくめて呟き捨てた私の発言に、兄様は不信感とまでは言わずとも不思議さを感じたのか疑問を呈されてこられ、

 

「・・・・・・このためにアルガスを・・・? でもそれだったらアルガスがいたところで別に――」

「正気ですか兄様? 私たちはこれから、“命令違反で独断専行して”“軍の方針とは違う自分たちの目的”で動くのですよ?

 そんな立場になる人間が、よそ者で別の目的のために行動を共にしていた人間を一緒に連れたままで、戦うことが出来ますか?」

「それは・・・・・・」

 

 理想を信じる兄様は、悲しそうな顔をして私を見ますけど・・・・・・こればかりは譲れません。悪いとは思いますけど、私にはお二人や仲間たちやティータさんの方が、外部の人間よりかは大事ですから。

 敵が正面ばかりにいるとは、私は思っちゃいないタイプの人間です。

 正面の敵と剣を交えている時に、後ろからナイフで刺し殺してくる輩は幾らでもいるのが世の中だと思ってるタイプの人間ですので、アルガスさんみたいなのには今からの戦場にいて欲しくなかったのです。

 

 後ろから味方に殺される可能性を抱えながらでは、安心して戦えません。

 獅子身中の虫を、土壇場で抱え込んでしまっている状況は確実な裏切りを招くもの。そういうものです、人の世の中って言うものはね。

 

 ・・・それにアルガスさんは、ダイスダーグ兄君様から色々聞かされてるみたいでもありましたからな・・・。

 どこまでが本当の情報で、どこからが自分に都合のいい話なのかは別として、私たち以外の誰かに寝返ることが得になり、私たちの元に留まり続けることが最も損になる人からの情報なんて惑わされるだけで邪魔で仕方がありません。真実が混じっている嘘ほど面倒くさいんですから。出て行ってくれた方が、今後は迷う必要がなくなってよろしい。

 

「では行きましょう、皆さん。

 『骸旅団殲滅』という北天騎士団とは異なる私たちの目的、『ティータさん救出』のために、ラムザ・ベオルブ隊だけの出陣と洒落込むとしましょう」

「ラムダ。その名前は・・・まぁいいんだけど、ティータ救出のためとは言っても、具体的な目的と方針は?」

「決まってるでしょう? 兄様」 

 

 真顔で返して、ツッコまれると思ってなかった自分のネーミングセンスのなさの部分に感じた恥ずかしさはなかったことにしてもらって、私は断言したのです。

 

 

 

「骸旅団のリーダー、ウィーグラフさんの妹、ミルウーダさん誘拐作戦にです」

 

 

 

 ・・・・・・我ながら名前以上に非道すぎる内容の作戦を思いついてしまったなぁー・・・と。

 この前、偉そうなこと言って逃がしたばかりの人を、舌の根が乾かぬ内と自分でも思うのですけど、状況が変わった以上は致し方なし。

 

 

「それで? その隠し通路はどこまでだったら近道できるのです?」

「幾つかのポイントごとをつなげて使うもんらしく、直通のヤツはなさそうだったな。絶対通らざるを得ない箇所が何カ所かある。

 だから地図を見る限りでは、まずここだな。ここを通った後なら大幅な短縮が可能になるし、人数によってはジークデン砦へ直接いくことも不可能じゃなさそうに見えた」

 

 私と兄様、ディリータさんは揃って顔を付き合わせながらテッドさんに示された、バツ印が書かれた地図上の一点のみに視線と意識を集中させ、図らずも呟かれた声は予測していたわけでもないのに異口同音の同じ一つの声に他の者には聞こえるものだったと、後にテッドさんから評される一言を私たちは口に出しました。

 

 

 

「【レナリア台地】・・・・・・か。ここからなら、北天騎士団を先を越せる距離だ。

 急ぐぞ、みんな出陣!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして、ほぼ同じ頃。

 骸旅団が占拠して久しい拠点、『ジークデン砦』の一室でも、兄と妹の仲睦まじい再会劇が行われていたのは、歴史の偶然か皮肉か、どちらかを使った嫌味だったのかもしれない。

 

 

 

「ミルウーダ! よく無事に戻ってきてくれた! 心配していたぞっ」

「・・・・・・心配をかけました兄さん」

 

 帰還した旨を門番役の若い見習戦士に報告してもらって、しばらく待たされてから会議室へと通された私は項垂れながら、兄さんの暖かさに満ちた言葉を聞かされて複雑な心境を隠すのに苦労させられずにはいられなくなっていた。

 

「・・・私が未熟なばかりに、指揮を任されていた大勢の同士たちを失ってしまいました・・・・・・。

 本来なら合わせる顔がないと自害も考えたのだけれど、結局こうして生き恥をさらして帰還してしまったわ・・・・・・」

「いや、いい。全滅だけでも免れたことは、お前の功績だったことを私は知っている。

 同士たちには哀れなことをしてしまったが・・・・・・彼らの為にも、お前が生きて貴族たち相手の弔い合戦に参加できたことを私も、そして死んでいった同士たちも天国で喜んでくれているはずだ」

 

 兄さんはそう断言して、会議室に集まっていた生き残った幹部たちも同意するように深く頷く姿を見せつけられて、私の心は余計に重く沈んでいくしかない。

 彼らの前で、“アイツ”から言われた伝言を伝えなければいけないなんて、針のむしろに自分から座りに行くようなものだったけれど・・・・・・それでもあの約束は果たさなければいけないものだと私は思っていた。

 

 いえ・・・違うわね。砦に帰ってきたことで、あの伝言は伝えなきゃ“いけないことだ”と、私自身が思わざるを得なくなったから言いたいのよ。

 

「・・・兄さん。敗軍の将が恥の上塗りをする行為でしかないと承知してはいるのだけれど・・・・・・生き残った部下たちを救ったのは私じゃない。助命する条件として私に伝言するよう求めた貴族の要求を受け入れたから助けられただけなのよ・・・・・・」

「助命する条件としての言伝・・・・・・? なんだそれは」

「・・・・・・無条件降伏の使者よ。すでに戦いの帰趨は見えたから、これ以上戦っても意味がない戦闘を止めて大人しく降伏し、部下たちの生命に対する責任を全うするよう、骸旅団の最高責任者である兄さんに伝えるよう求められた。・・・・・・そういう条件」

 

 予想通り、会議室に集まっていた幹部たちからの非難と罵声が私に集中させられた。

 当然だろう。彼らの貴族に対する感情を思えば、命惜しさに貴族に魂まで売り払った裏切り行為と解釈されてしまうのは仕方のない事だと自分でも思う。

 まして私自身が、彼らと同じ立場で別の人間が今の言葉を伝えに来てたなら、同じ反応を返していただろうと考えているぐらいなのだから・・・・・・。

 

 ジークデン砦に到着する直前まで、私にとってベオルブ家の生意気な令嬢から託された伝言はミンウたちの命を助けるために了承しただけで、騎士として約束を果たす以上の意味しか感じていないものでしかなかった。

 

 ・・・・・・にも関わらず、兄さんから温かい言葉で迎えられた私の心に奇妙なザワつきがあり、優しくかけられた言葉に返す声音が我ながら固いことを自覚せずにはいられなくなっていたのは“今のジークデン砦を見てしまった後だから”なのだろう・・・・・・。

 

「ミルウーダは同士たちの命を救うため、屈辱を耐え忍んだのだ。それは勇気ある行動であり、誰にでも出来ることではないと私は断言する。

 この場にいる者の中にも、同じ立場に立たされた時に名誉ある死を選ばないと言える者は多くはあるまい?」

『う、ウィーグラフ様・・・・・・』

 

 室内に一瞬で満ちた怒りの空気を、同じように一瞬にして振り払ってしまったのは、兄さんが片手を鋭く、だけど威圧的ではない空気をまとった仕草で振り払い、全員の視線を集めてからのことだった。

 兄さんの言葉で幹部たちがハッとなり、私に向けて謝罪の視線を向けてくる者たちが何人かいたことで、私は彼らに返事をすべきか否か束の間、逡巡させられてしまうほどに。

 

 ―――だけど―――

 

「ここで我々は、死ぬわけにはいかない。

 革命の途中で死ぬわけにはいかないのだ!!

 その為にこそミルウーダは恥を捨てて生を選び、誇りを掴み取った。骸騎士団の戦士として生きることから逃げようとはしなかったのだ。それこそが“真の勇気”」

 

 同士たちを鼓舞する兄さんの熱弁が、どこか遠くから響いてくるような声で聞こえてくる。

 何故かは分からないけれど、その声と言葉はヒドく私の心に突き刺さり、胸が苦しくなって熱くなってくるけれど・・・・・・戦意を呼び覚ますような内側から生じる熱意には結びついてくれるものにはなってくれなかった。

 

「貴族たちは、知らなければならない。我々の苦しみを、辛い思いを。

 奴らが当然だと思っている世界は、平民の犠牲の上で成り立っている歪んだ世界だという現実を。

 為政者が自分たちの見ている世界が如何に狭く、小さいものかという事を知らないのは罪でしかないのだから!!」

 

 私は俯いていた顔を上げて、兄さんの顔を見つめて、瞳と見つめ合う。

 迷いなく、澄んだ瞳。どんな困難にも諦めることなく立ち向かい続け、決して折れることも穢れることも知らずに、理想の未来だけを真っ直ぐ見つめ続けられる、そんな瞳。

 

 見ただけで普通の人間とは、どこか違うものを感じさせる、私たち全員が兄さんを信じて付いてきた理由の一つにもなってきた、人を引きつける魅力を持った不思議な眼。

 

「我々はただ、貴族たちが奪っていったものを返してくれと願っているに過ぎない。

 だが奴ら貴族が返してくれることはなかった。ただ、ひたすらに奪い続けるだけで!

 だからこそ我らは力を行使する道を選んだのだ」

 

 その眼と見つめ合った瞬間。

 

 ――私は激しく脱力して、言うべき言葉と言う意思とを、同時に損失していく自分を確かに自覚する。させられてしまった・・・・・・。

 

 今までであれば、信じて付いていくことが最善の未来へ続く道だと信じられた不思議な瞳の色。

 どんな困難を前にしても、夢と理想を諦めようとしなかった瞳。如何なる逆境だろうと折れず曲がらず、人々を救うため戦い続ける勇気を与えてくれた瞳。 

 

 戦争を終わらせて平和を取り戻すため、平民たちに向かって骸騎士団の創設を訴えかけた時のまま、骸旅団としてイヴァリース王家に平民たちの権利と自由を勝ち取るための戦いを始める決意を語った時のまま。骸旅団が徐々に変貌していく中にあっても兄さんだけは変わることがなった始まりの頃と同じままに。

 

 あの頃と全く変わることなく、純粋に理想を信じて貫く道に、人々を信じて付いていく道を選ばせてしまえる不思議な瞳の色は――――今の私たち骸旅団にとって、『破滅への道』を突き進んでしまうことを意味してしまうものだったから・・・・・・。

 

「あるいは、そのような貴族ばかりではないのかもしれない。心ある貴族もいるのやもしれない。

 だが現状が変わらぬ限り、我ら平民は永遠に奪われる側であり続けるしかないのだ!

 今の不公平な社会が変わらない限り、我らは我らの子供たちのため、子供たちの未来からも奪い続けるであろう貴族たちを憎み続ける!!」

 

 それが兄さんの決定であり、骸旅団団長として全軍の方針を示した言葉にもなっていた。

 私たちは少数の部隊ごとに別れて別々のルートを使って、ジークデン砦の立つ山から雪に紛れて脱出を図る。

 それによって貴族たちの包囲を突破し、逃げ延びることに成功した者たちは地下に身を潜めて時を待つ。

 

 ・・・革命戦争を今ここで終わらされないために。これからも私たちの戦いを続けるために。

 その為にも、たとえ犠牲を払おうとも逃げ延びて、生き延びて欲しいという兄さんの願いと希望。それを聞き届けた幹部たちが涙ながらに決別と再会を誓い合う姿を、どこか冷めた心地で見つめ終わった私は部隊を率いるため部屋を出て、待っていてくれたミンウとミンクの二人を連れてジークデン砦の中を通り過ぎていく。

 

「・・・・・・ずいぶんと雰囲気が変わりましたね、この砦も」

 

 ミンクが、私たちに聞かせるようにも独り言のようにも聞こえる声で発した呟きに、ミンウは声に出して同意して、私は声には出さずに小さく頷くだけで賛意を示していた。

 

 明らかに、私が盗賊の砦へ出立する前よりも砦の雰囲気は違うものに変化していると、私もミンクたちと同じように感じることしか出来なかったからだ。

 

 ――既に勝ち目はないと、特攻を主張する者がいる。貴族に殺されるぐらいなら全員で自決すべきと唱える者もいる。

 自棄を起こして酒を喰らっている者もいれば、死人のように青白い顔色で言われたことをやっているだけの兵もいる。絶望のあまりか座り込んだまま動かなくなっている者も少なくはない。

 

 ・・・・・・何時から、こんな事になってしまったのだろう・・・?

 私たち骸旅団が、この砦を奪取した頃、この砦には理想の未来を語り合う同士たちだけで溢れていた。

 だけど今は、如何に貴族を殺すか? 如何にして死ぬか? そればかりが語られる声だけで砦の内側は満たされている。

 誰も未来など見てはいない。今だけが全てとなった者たちだけで砦の中は満たされており、わずかに残った希望だけが会議室を中心として兄さんたちの周りに集まっている。そんな状況。

 

 何時から、こうなってしまっていたのだろう・・・・・・?

 あるいは、もうずっと前からこうなってしまっていた後だったのかもしれない。

 私自身が、ずっと彼らと同じ側にいたから、自分の姿を正しく見えなくなっていただけなのかもしれない。

 

 今の自分が、この砦の中で最大の“異端”となっていることを自覚させられ、苦虫を噛んだ気持ちにさせられる。

 部外者の視点として、今まで自分が属していた仲間たちの姿の側面を見せつけられるのが、こんなにイヤなものだなんて考えたことすらなかった。

 そして思う。思ってしまう。一瞬だけでも思ってしまうのを避けられなかった。

 

 もしかしたら――これがあの、“生意気なベオルブ家の小娘”が見てきた景色だったのかもしれないな・・・・・・と。

 

 

「ミルウーダ様、どうなさいました? どこか御加減でも・・・」

「大丈夫よ、ミンウ。問題ないわ。それで、部隊の出陣準備はととのったの?」

「はい、大丈夫ですミルウーダ様。負傷していた者もいましたが、私たちが回復しておきました。いつでも行けます」

「当然、私たちは最後までミルウーダ様にお供します。絶対に貴族たちが謝るまで付いていって、お守りしますから離れません」

 

 先手を打たれて牽制されて、私を置いて逃げろなどとは今さら言えなくされてしまい、私の元から離れたからと言って生還率が上がると決まっている訳でもない以上は仕方がないと苦笑しながら、信頼する二人の副将たちと最後まで共にする覚悟を決める。

 

 

 

「行くわよ、ミンク。ミンウ。他の者たちも出来る限り生き残れる道を探し出して、選び取りなさい。

 私たちが進むよう割り当てられた道は、【レナリア台地】!

 なんとしても北天騎士団に封鎖される前に、ここを突破する!!

 遅れる者は置いていく、後れを取るな! いざ出陣!!」

 

 

 

つづく




*話の都合上、【草笛】の話をいつ入れるかで迷ってしまう羽目になった今日この頃。
番外編で行くか、それともミルウーダ戦の後にして時間軸をズラし、居なかったはずの人物を二人交えての内容に変えてしまうか……悩み所です。
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