平民派DQN女オリ主がいくFFタクティクス 作:ひきがやもとまち
何度も書き直してる内に時間だけが延々と…。
久しぶり過ぎるせいで感覚的に変わってないか、ちょっと心配です…。
注:書き忘れてた部分を書き足しました。
一文だけですので、読み直す必要まではありません。
ラムザ・ベオルブ率いる北天騎士団から離脱した士官候補生たちの部隊が夜陰に紛れ、骸旅団包囲網の内部へと密かに侵入を果たすという『陰性の策』を成功したのと、ほぼ同じ頃。
彼らと逆側の陣営に立つミルウーダ・フォルズ率いる部隊が、数の有利が生かせる昼間に敵の一部を突出させて地の利を生かし打撃を与え、その混乱に乗じて突破するという『陽性の策』を成すため野戦築城を進めている最中に、ラムザたちの部隊と鉢合わせしてしまった偶然は、歴史上の皮肉としてデュライ白書の研究者たちのみならず、運命論を奉ずるグレバドス教会側の擁護者たちからも注目される有名な一説に今日ではなってしまっている。
――だが、当時を生きる彼ら彼女たちにとって、これほど皮肉で予想外なアクシデントも他にはなく、思わず異口同音に同じ存在のことを罵る言葉を吐いてしまっていた史実を歴史の皮肉として語る者は、デュライ白書の愛好家たちにいても、グレバドス教会の擁護者たちには一人もいない。
それもまた過去から現在、そして未来へと繋がっていく歴史が生み出す皮肉の一つと言うべきものなのだろう。
双方の頭脳を担う、二人の女性騎士たちは互いに示し合わせたわけでもなく、こう口走っていたと記録は語る。
『『――ファッキン・ゴッド!!!(神はクソッタレ)』』
【異聞・獅子戦争記:著者ミリアリア・フォルズより抜粋】
「北天騎士団の一部隊がこちらに向かって進軍してきます!」
斥候に出していた同士の一人が報告とともに慌てて駆け戻ってきて、慌てるあまりか経験不足によるものか、転んで助け起こされている姿を見下ろしながら、私は少し吹き出してから天を仰ぐと――思わず呟かずにはいられなかった。
「・・・・・・ファッキン・ゴッド・・・(神よクソッタレ)」
昨晩のうちに夜襲をしかけ、予想外に強固な防衛戦に一時後退して作戦を立て直すように見せかけた後、密かに再び戻ってきて敵の前線が前進していないことを確認して、最初に私たちが陣取っていた位置に落とし穴やトラバサミなどの罠を仕掛けて場所まで油断して進軍してきた敵を混乱させ、そこから突破する。
そのための準備を進めている最中に、この報告。
おそらく敵の一部が予想以上に突出していた結果だと思うけれど・・・・・・まったく。
・・・癪に障って仕方がないけれど、神様という存在に関してだけは、あの貴族は正しいことを言っていたように今の私には思えてならない。
「こんな所まで、もう敵が出張ってきて封鎖されているとはね・・・・・・。
我々に逃げ場はないということかしら・・・?」
溜息を吐きながら、それでいて不思議と敗北感や絶望は感じていない自分の気持ちが不思議だった。
あるいは私は既に、知っていたのだろうか?
骸旅団に、この時が訪れる日のことを・・・・・・いいえ、私たちに『逃げ場はない』という事実を。
そう思っていた、その瞬間に。
「こんな手勢では、北天騎士団相手に勝ち目はありません・・・。
もう諦めましょう。大人しく投降した方が・・・」
横合いから不安げな声で、不安げな言葉をかけてきた、不安げな表情を浮かべる女騎士に言われたことで、私は発作的に相手の顔を「ジロリ」と見やってしまって、「ひっ!?」と怯えさせてしまい・・・心の中だけで溜息を吐く。
「・・・・・・降伏したところで、どうなるというの?
捕まって拷問された後、そのまま処刑台行きになって殺されるか、今ここで敵の刃に切り裂かれて殺されるかの違いぐらいしか無いと思うけど?」
代わりに出てきた言葉と声音は、思っていものよりずっと静かで、暗い声音と悲観的な現実的予測で満たされたものだった。
そのことに私は自分自身が驚かされ、同時に深く納得も感じる自分に気づいていた。
・・・・・・今の自分に、相手を怒る資格のある提案だったとは思えなかったからである。
先日のジークデン砦で、私自身は兄たちを前にして何と言ってた?
味方を助けるためとはいえ、敵からの使者として、なんと口にしていたか?
それを忘れていなければ、怒鳴り声で叱責できるような発言ではなかったのだから。
「仮に、降伏して許されたところで同じことよ。
どうせ私たちに逃げられる場所なんて、どこにもありはしないのだから・・・」
静かな口調で語って聞かせて、部下たちの顔に絶望と自暴自棄のような色を同時に与えてしまうだけだと分かってはいても言わずにいられない現在の窮状。
もっとも、私は兄さんと違って、『貴族を倒さない限り子や孫の代まで奪われるままだ』とか、そういう歴史俯瞰で見た数百年先まで見据えた話ができるほど広い見識を持ってるわけじゃない。
それを持ってなかったから、ウィーグラフ兄さんは骸騎士団の団長になって、妹の私は補佐役の幹部にしかなれなかったのだから当然のことよ。
その程度の未来までしか見えない私だけれど・・・・・・それでも幾つか今日明日の戦況予測と、降伏して許された後の自分たちが辿ることが可能になる人生行路ぐらいなら分かることがある。
――平民出身者と五十年戦争で職を失った没落騎士とが多く参加する骸旅団という反乱軍は、言い換えれば復員しても農民に戻ることを拒否した平民たちの群れであり、イヴァリース王国という現体制の視点から見れば、無駄飯食らいの居候。それ以外の何者でもない。
五十年戦争で事実上の敗北をして多額の賠償金を支払わされたイヴァリース王国にとって、現在の人口は多すぎるのだ。
食料を作らない平民なら皆殺しにした方が、今のイヴァリース食糧事情としては有り難い。
その後に、殺して減った食い扶持の何割かを王からの温情として民に給わす人気取りをすれば乱の再発も防げる可能性は低くない。もちろん一時凌ぎでしかないことだけど・・・。
兄から聞いた話では、近く崩御するであろうオムドリアⅢ世の後継者になる王子の後見人をめぐってゴルターナ公とラーグ公とがぶつかり合うのは、ほぼ必然だという。
ならば自分たちが降伏して生かされた場合には、農奴階級に落とされ、死ぬまで鎖につながれ労働力として酷使されるか、次なる戦いで奴隷兵士として使い捨てられるか。
二つに一つの使い道だけが目的と見て間違いないと、私は予測していた。
どちらだろうと、国に刃向かって敗北した自分たちに逃げ場はなく、せいぜい死に方と命日を僅かにズラすぐらいしか選択の自由が与えられることは二度と無い・・・・・・。
とはいえ―――
「“貴族たちに降伏するぐらいなら死んだ方がマシ”
“戦って勝つしか私たちに活路はない”・・・・・・私自身は、そう信じているけれど・・・。
別にそれが正しい判断だと、神が保証してくれた訳じゃないのも確かではある」
「・・・ミルウーダ様・・・?」
ぼんやりと呟いた言葉に、傍らに立っていた女騎士だけでなく、周囲で聞き耳を立てていた部下たちまでもが露骨な態度で後ろを向いて、自分たちの指揮官の言葉に注目し始める。
そんな彼ら一人一人の顔を眺め回して見つめながら、私の心はひどく晴れ渡っていた。
色々な重りが取れて、捨てられて、久しぶりの自由にでもなった気分で。
空虚なまでに何もない青空のように。虚しいほどに何もない自由のように。
束縛も義務も理想も現実も、そして未来さえも。
何もかも失って『まだ死んでないだけ』になった今の私は、澄み渡った心からの笑い顔を浮かべながら隊長として、部下“だった者たち”に最後の命令として言い渡すことがやっと出来る。
「好きにしなさい。逃げたい者は逃げればいい、降伏したい者はすればいい。
どーせ私たち骸旅団に、それを選んだ者を留める力も、裁く機会さえも既に無い。
勝ち目のない戦いに従っても殺されて死に、降伏しても殺されて死に、逃げても殺されて死ぬ。
どの道を選んでも死ぬ結末が変わらないなら、死に方ぐらいは自分で選べる“自由”があっても別にいい・・・・・・。
私は、あなた達それぞれが自分の道を選ぶことを、裏切りだとは思わない。だからもう、好きにしていい・・・」
『『なッ!? ミルウーダ様ッ!?!?』』
私が告げた瞬間、信じられないと言いたげな声音で、双子の白魔道士姉妹ミンクとミンウが揃って驚愕の声を上げるのが聞こえたけど、私の空虚な決意に水を差して潤いを取り戻すことは出来なかったようである。
片手をあげて二人を制すると、剣を抜いて部隊の前方へと歩き出す。
「従う義務も義理も、必要も無いと承知の上で、私なんかの指揮に残りたがってる物好きがいたら付いてきなさい。
逃げる道を選んだ者たちのため、少しでも時間を稼いで無駄死にするわよ。イヤな者は無理して付いてこなくていい。
心配しなくても私は最初から一人きりで戦って無駄死にするつもりだから、今さら逃げるなんて無駄な徒労はしないわよ」
そう言い切って、晴れ晴れとした表情で前線へと進んでいく。
もっと早くこうしていれば良かったと思いながら。
今さら言ったところで自己満足だと自嘲しながら。
それでも今の自分が抱いた晴れ晴れとした気持ちを汚すことは、誰にも出来ないと承知の上で――
「・・・言っておきますけどミルウーダ様。私たちが義務がなくなったからって、あなたの部下じゃないとか言い出しませんよね?」
「・・・・・・もし言ったりしたら、ミルウーダ様だって怒ります。そして、ブチます。この杖でボコリって。それでもいいんでしたら、どーぞご自由に」
膨れっ面で横に並んできたのは、二人のよく似た顔を持った白魔道士姉妹たち。
他の者たちからは当然のように何割かの脱走者が出たみたいだったけど・・・・・・それでも半数近い者が残留して、『無駄死にする覚悟』を共にしてくれるらしい。
まぁ、もっとも・・・・・・。
―――もう、どうなっても別にいい―――
そんな空虚さだけを胸に空いた空洞に満たされながら、無意味な死に向かって前進する道を選択した私たちの瞳に、僅かながら光が灯るのは敵部隊の姿が視認できる距離まで近付いた時のこと。
見覚えのある、二つの『金髪の頭』を視界に収めた。その瞬間。
「アレは・・・・・・まさかっ!?」
「――どうやら、運なり天なり神様なりは、私たちに味方してくれる道を選んだようですね。今回はの話ですけれども」
皮肉な注釈をいちいち付け加える必要はない場面だと自覚しながら、ついつい普段の癖で諧謔を飛ばしてしまいつつ、私は目前に現れた敵部隊の先頭近くに立ってコチラを見据え、唖然とした表情を浮かべている見覚えのある女性の顔を確認して、珍しく神に感謝する気持ちになりつつありました。
夜陰に紛れて包囲陣の内側への侵入に成功した後、焦るディリータさんを押さえて夜の山道を進む危険性を説いて不承不承ながら納得してもらい、朝早くになってから出発してレナリア台地まで進軍した、そのしばらく後に現れた部隊が初っぱなからミルウーダさん本人が率いる部隊だったのですから、こんなに嬉しいことは滅多にありません。
探す手間が省けるのは勿論のこと、私たちが探してる途中で他の味方部隊に捕殺される可能性を思えば、信じてもいない神への感謝の気持ちぐらい幾らでも沸いてこようってもんですからね。
「・・・・・・つくづく因縁がある相手のようね。私たち兄妹と、貴方たち兄妹は。
もっとも、私も兄さんも貴方たちに会ったのは互いに一度切りしかないはずだけど・・・不思議と因縁深いものを感じてしまう。何故だろう? それだけは本当に分からない・・・」
どこか感慨深げな声と口調で向こうから語りかけてきてくれたミルウーダさん。
けれど、初めて会った時とは互いの状況が違いました。互いに追い詰められて余裕のない状況に陥っている窮状にあり、しかもどうやら相手の方が何やら悟った風な諦観を感じさせる態度なのに対して、コチラは完全に感情に走らざるを得ない事情持ちが、アルガスさんに代わって爆誕している事情が発生しておりまして。
「ウィーグラフはどこだッ! ティータをどこへやった!?」
「・・・ティータ?」
私たちの横合いから、ディリータさんが切迫した表情で声を荒げるのが聞こえて、思わず少しだけ肩をすくめさせられざるを得ない私。
ひねくれてると承知の上で思うことですけど・・・・・・誘拐した側の一員から答えられても信じていーのか判断に困る質問をされましてもねぇ・・・。
普段の彼なら、その程度のことは言われるまでもないでしょうし、愚問と割り切って処置する方を優先するところなのですけど、それが出来ないからこそティータさんはディリータさんのためにも必ず助け出さなきゃいけない存在ってことになるんでしょうね。
「ひょっとして、ゴラグロスが人質として浚ってきた、あのベオルブ家の娘のこと?」
「ティータはオレの妹だ! ベオルブとは関係ないッ! お前たちがティータを人質にしても何の意味もない!
お願いだ、妹を返してくれッ!!」
「・・・・・・そういうことか」
ディリータさんからの悲痛な叫びじみた答えを聞かされ、ミルウーダさんが何かを察し取ったような表情で一つ頷き、「フッ――」と微かに憫笑を浮かべられ。
「貴方たちは返してくれるの?」
と静かな声音で、逆にディリータさんへと、あるいは私たちベオルブ家の兄妹二人に対して質問を聞き返されてくる。
「貴方たち貴族が、私たちから奪った全てのものを、貴方たちは返してくれるの? 返せるの?
返す力が貴方に、そして貴方の友達の兄妹たちにあると言うの?
最初に奪ったのは、貴方たち貴族の側。
私たちは、それを返してくれと願っていたに過ぎない。でも、貴方たち貴族は返してくれなかったから私たちは力を行使した。
ひたすら奪い続けるだけだった貴族たちの側に立つ貴方が、自分が奪われた時だけ私たちに返せと言うの?
私たちが貴方の妹を生きて返せば、貴方は私たちを生きて故郷に帰すことができるのかしら?
一方的に返してもらうだけの側に立つことなく平等に・・・・・・それが出来るの? 貴方に」
「それ、は・・・・・・それは・・・・・・っ」
以前とは打って変わって静かな声音で、論理的な正論でディリータさんに答えづらい問いかけを投げかけてくる彼女。
・・・正直コレには私でも答えにくいですからねぇ・・・。だからこそ交渉カードみたいなものとしてミルウーダさん本人を確保するつもりなのが私の計画な訳ですし。
さりとて、それを正直に白状するわけにもいかず、どう答えようかと兄さんにも目線送って、計画に支障ない程度の会話を――と示していたところ。
「・・・・・・なんてね、冗談よ」
ミルウーダさんの方から諧謔のような口調で先に告げられて、彼女からの言葉を続けられてきます。
「ただ私には、答えようがない質問だったというだけ。
私も、そして恐らく兄さんからも、ゴラグロスには人質の娘を解放するよう既に命じているはず。もし彼が兄さんの命令を遵守しているのなら、もうあの娘は解放されているはずよ。
骸旅団最後の戦いを、卑劣な手段で穢されるのは私たちにとっても不本意なのだから」
「本当か!? それじゃあ――」
「無理ね」
相手の言葉で光明を見いだし、一瞬だけ輝き掛けたディリータさんの希望を打ち砕くように冷たく響き渡る、ミルウーダさんからの短くて鋭い言葉の一閃。
「ゴラグロスは決して、あなたの妹を返すことはしない。
たとえ兄さんから解放を命じられても絶対に彼は、あなたの妹を手放すことだけは絶対にしないし、したがらない」
「なんでだよ!? どうしてなんだ!? ティータはオレと同じ平民の娘で、ベオルブ家の血筋なんか継いじゃいない! 人質としての価値なんてないんだ! なのにどうして!」
「それはゴラグロスが、“生きたがっているから”よ」
単純にして明快な答えが彼女の口から放たれたのを聞かされて、兄さんとディリータさんは一瞬だけ相手の言葉の真意が分からず、表情に戸惑いが浮かぶのが見えました。
・・・ですが私の方は、奇妙に腑に落ちる心地で相手の言葉を受け入れている自分にこそ、少しだけですけど躊躇いを覚えたような、そんな気分にさせられる発言内容。
彼女は語ります。
「最初にゴラグロスと会った時には分からなかったけど・・・・・・でも今なら分かるわ。
彼は“生きたがってる人の目”をしていた。砦の中で息巻いていた“死にたがってる人の目”とは異なる、ギュスタヴとも違う瞳。
だからこそ兄さんは、彼に次の副団長を任せたんでしょうけど・・・・・・でも今なら判る。
彼の目はギュスタヴとは違っていたけど、それは彼が“ギュスタヴにもなれない人間だった”と言うだけのこと」
己の中の疑問点を、私たちを見据えながら整理していくように話しながら、そして彼女が出した結論が。
「彼は、“臆病者の目”をしていた。彼は死の恐怖に囚われ、生き残れる道だけを探す者の眼をするようになっていた・・・。
五十年戦争中に、何度か同じ眼に変わってしまった者を見てるから分かるのよ。彼は自分が生き残れる可能性を絶対に手放したがらない。味方が全て死に絶えても、あの娘だけは手放さない。
一度でも手放してしまえば、“自分は絶対に殺される”そういう恐怖心に捕らえられてしまっているから・・・・・・だから彼は絶対に彼女を離すことはない。
“ベオルブ家の娘だ”と信じ込んだまま、彼は地獄まで彼女を道連れにしてしまう。そういう奴らの眼と全く同じになってしまっていたのだから・・・」
「そんな・・・・・・そんなことって・・・っ!!」
「あきらめなさい。彼が、貴方の妹を返さなければならない理由は、どこにもないのだから」
ディリータさんにとっては、あまりに辛すぎる『人の心の問題』を至極冷静な口調で語られてしまって、打ちひしがれた彼に代わり、今度は兄さんが前に出てお決まりになりつつある降伏勧告をおこなわれる。
「ミルウーダ、僕たちの目的は今言ったようにディリータの妹ティータを助け出すことで、君たちと戦うことじゃない。
出来れば僕たちに協力して欲しい。それが無理なら、せめて道を空けてくれ。
僕たちは北天騎士団と別行動を取っている。君たちと戦わなきゃいけない義務はないし、僕も君たちと戦いたくなんてない。そしてもしティータ救出を手伝ってくれるなら、僕からも兄さんたちに、君たちを助けてもらえるよう頼んで――」
「残念だけれど―――」
兄さんからの言葉を遮るようにミルウーダさんが言葉を放ち―――スゥ・・・と、鞘から剣を引き抜つ。
「私だって骸騎士団の戦士であり、骸旅団の幹部。
敵である貴族に協力はできないし、味方を倒しに行く貴族たちの一員を通すわけにはいかない。
“逃げたりしない”と、約束したばかりでもあることだしね・・・・・・ここで決着を付けさせてもらうわ! 攻撃を開始しろッ!!」
「――っ、ミルウーダ・・・!!」
ビュン!と剣の切っ先を振り下ろしながら命じられた、女性指揮官の号令以下、一斉にかけ声と共に斬りかかってきた骸旅団からの攻撃に対して、私たちは話し合いの間に準備し終えていた重武装の盾隊を前面に出して被害を押さえながら、なんとか彼女を傷つけないで捕縛できる隙を探します。
ですが――
『ウォォォォォォォォッ!!』
「う・・・っ! コイツら・・・腕は大したことないくせに・・・ッ!?」
「力負けしている!? ――退がって! 今《ケアル》を詠唱するからッ!」
「貴族らしいエレガントさを重視できない戦いだね・・・っ。ラムダの前で格好悪いところは見せたくないんだがッ」
今までの戦いをくぐり抜けて、身分こそ士官候補生のままでも、大抵の正規軍兵士より実戦経験では優るようになりつつあった味方部隊の面々でさえ、この敵の攻撃には些か以上に手こずらされる状況に陥らされ、私も兄さんもディリータさんも、それぞれの声が届く範囲の部隊指揮に手一杯な状況に追い込まれ、チャンスがなかなか見いだせない・・・!!
「チィッ・・・! 全力で戦えれば少しはやりようもありますけど、こう行動が制限されていたのでは・・・ッ」
私も斬りかかってきた敵の一人に、刃を弾いて切り返しの一撃を見舞いつつ、致命傷には至らず後退していく敵を追撃する機会を逸してしまい、歯噛みしながら回復させられてる相手の姿を遠巻きに見守ることしかできない戦況に苛立たされます!
私たちが動きづらい理由として、なんと言っても今回の目的が『ティータさんの救出』にあるからです!
まだまだ山の先には骸旅団の後詰めが大勢控えてるって言うのに、そんな場所に飛び込もうとしてる私たちが初っぱなの戦闘から全力を出し切ったり、被害者や犠牲者出すわけにもいかないんですよ本当に!!
しかも敵がなかなかに賢く、そして強かです!
なにより覚悟がある! それが一番厄介になってる理由でしたっ。
「…らしくもなく、神様など信じたせいで罰が当たったという所でしょうかね…っ。
信じる者には苦難と試練を、都合のいい時だけ信ずる者には天罰を……。
ドゥ・アズ・ファッキン・ゴッド・ディスポーゼス(クソッタレ神の御心のままに)」
前世で見た西部劇の中で、ギャングが言っていたのを聞きかじっただけのセリフを思わず口走ってしまうほど、情況的に芳しくない戦況。
先程の会話を見る限りでは、恐らく部隊の全員がミルウーダさんと覚悟を共にして、死ぬ覚悟を決めて人生最後の戦闘を戦っているのでしょう・・・っ。
ただ相打ち狙いで突っ込んでくるだけの敵なら、動きが直線的になりすぎるから対処しやすい。
旧日本軍の特攻も、奇襲戦法や騙し討ちとしてなら有効な手ではあり、最初は効果あったみたいですけど、奇襲はなに仕掛けてくるか分からないからこそ効果が大きい作戦であって、最初から夜襲してくる、特攻してくると分かっているなら、普通の攻撃手段の一種となにも変わる所なんてありはしない。
ですが、『死ぬ覚悟を決めた戦士』というのは、ただ『覚悟を決めただけ』であって、焦りもしなければ恐怖心に惑わされることも多くはない。
『既に自分は死んだもの』と認識して向かってくるから、無駄に粘り強いし、交渉も説得も意味なさ過ぎる! 厄介極まる冷戦沈着に無謀な戦いの前線支えるスパルタ兵三百人みたいな連中なんですよ、この敵たちは本当に!
しかも、話してる最中に準備してたのは向こうも同じなようで、妙に理路整然として陣形整えながら対処してこられて面倒くさい!
こんな戦況に陥ってしまうと、思わず兄さんの綺麗事で敵の心が動いてくれないものかと期待したくもなるほどに!
「剣を棄てろ、ミルウーダ! これ以上の戦いは無意味だッ!!
剣を棄て、戦いをやめ、話し合おう!
どこかに解決策があるはずだ! それを見つけよう!」
「そんな戯れ言は聞き飽きたわ、ラムザ!
もし私がここで死ぬことになるとしても、革命の途中で投げ出すことだけは出来ないのよッ!」
「革命と言ったなっ。革命を起こす必要があるのかッ!?
僕らが悪いのか? 僕らが君たちを苦しめているのか? 何がいけないんだ・・・ッ!?」
「知らないということは、それだけで罪だわ!
あなたが当然と思う世界は、あなたに見える範囲だけ。でも、それだけが世界じゃないッ。
あなたの妹に私が気づかされたのと同じように、自分に見えている綺麗な世界だけを理由に“話し合いで解決できる方法は必ずあるもの”と、決めつけでしか語れない今のあなたには、どうせ口先だけで何も出来はしないのだから!」
「僕は嘘吐きなんかじゃない!!」
ガキィィッン!!と、高く音を立てて兄さんの剣が、ミルウーダさんの打ちかかってきた剣先を弾き返し、言葉の刃でも相手に気圧されぬよう兄さんが一歩前に出て、相手にぶつかっていくように想いを込めた言葉を放つ。
「僕が兄さんに言おう! いや、ラーグ公に言おう! 僕を信用してくれッ!!」
「無駄なことよッ!!」
ガシィィィッン!!先程とは微妙に異なる刃音が轟くと、小さく細い光が天に昇って、やがて地に落ちる。
・・・それがミルウーダさんの折れた剣の切っ先であることを振り向いて確認した私は、「ちっ!しまった・・・」と呟くミルウーダさんの舌打ちが聞き取れます。
『ナイト』のジョブで習得できる『戦技』と呼ばれる特殊技《ウェポンブレイク》
それを兄さんがミルウーダさんに使った結果でした。
いわゆる『武器破壊』と呼ばれる現実の地球にも存在している高等技術の一つなのですが、私が生まれ変わった【FFタクティクス】の世界には魔法が実在するのと同様に、剣術や格闘技にも魔法じみた効果を付与することが可能になっています。
兄さんが使った《ウェポンブレイク》も、その内の一つ。
本来なら習得するため、達人級の腕前になるまで修練と実戦に明け暮れてからじゃないと使い物にならない神業の一種な武器破壊を、成功失敗を確率によって占う博打のような法則に委ねることで初心者でも使うことだけなら出来るようになっている。それが、この世界独特のルールでした。
何とか彼女を生かして捕らえる必要のある私たちとしては、兄さんも剣だけ壊して諦めて降伏せざるを得ない状況に追い込もうとしての作戦だったのではと思われますが――
「――まだよッ! ハァァッ!!」
「うっ、くッ!? 格闘技・・・・・・《拳術》かッ」
やはり獲物を失っただけでは彼女の戦意を砕くには至れず、武器を失って素手になっても徒手空拳で革命を成し遂げようとした彼ら兄妹の想いの強さが伝わってくるしぶとすぎる戦いぶり。
「あなたには、どうせ何も出来ない! 出来はしない!
何故なら今のあなたは、『ベオルブ家の血を継いでいる』それだけしか価値のない人間に過ぎないのだから!!」
「なっ!? そんな・・・そんなことはっ」
「違わないわ! だから私は、あなたの言葉を信じれないのよ!
ベオルブ家がないと何も出来ない今のあなたが何を約束したところで、守らせれる力なんてどこにもない!!」
痛烈に響く、ミルウーダさんから兄さんへの辛辣な指摘。
実際彼女は間違っておらず、幾ら兄さんが叫んだところで、この状況に至ってできることなど何もありはしないのでしょう。
十中八九勝利を収めた後の状態で、敵から降伏の条件としての要求を飲んでやる意味はなく、その必要もない。順当通りに勝ち進めて滅ぼした方が手っ取り早い。
ただの命乞いとしか取りようのない状況下になった後からでは、如何なる交渉も条件提示も無意味で無価値。
何より彼女たち骸旅団は、貴族たちを殺しすぎました。
階級社会で支配社会層にいる人たちの身内や家族を大勢殺してしまった者たちを、下手に許してしまえば今度は怒り狂った貴族たちから反乱を起こされてしまうだけでしかない。
妥協案が必要であり、落とし所がある内に和解しておかなければ、勝敗が決してしまった状態で慈悲をかけることは却って禍根になりやすくなってしまうのが人の感情。
その点で、骸旅団という組織は既に助けようがなくなっている存在でした。
王家の威信とか貴族の面子とかも、理由としては色々ありますけど、基本的には誰か一人の意思押しつけは中世ヨーロッパ風の王制国家でも不可能なのが政治の現実です。
絶対王政なんて言葉がありますけど、それが出来てたのは地球の歴史ではフランス王国末期とヴィクトリア朝時代の大英帝国ぐらいだったというのが実情で、それらでさえ第一人者程度の影響力に留まり、他の支配社会層である貴族たちからの協力無しでは政治など実行不可能だったのが国という組織が抱え続けた現実の上下関係。
そうでもなければ、現国王のオムドリアⅢ世陛下が存命している今の時点から、ゴルターナ公とラーグ公とで【王の死後に後継者の後見人を巡っての争い合い】を始める準備なんかするわけがない。
王家でさえ、既に貴族たちに絶対的な命令権を有することが出来なくなっているのがイヴァリースの現状。
まして、王様の家来の家来の、そのまた三男坊な末子ときては・・・・・・まぁ普通は受け入れてもらえると信じれる理由は一つもないんですよね本当に・・・。
「あなたが悪いわけじゃないのかもしれない。あなたを憎むのは筋違いかもしれない。
でも、現状が変わらない限り、私はあなたを憎む。あなたと戦う!
あなたがベオルブの名を継ぐ者である限り、あなたの存在そのものが私の敵ッ!」
「どうして・・・、どうして、そこまで・・・・・・ッ」
「おかしなことを言うのね」
ここへ来て、ミルウーダさんは初めて「フッ」と女性らしく、愉快そうに唇を綻ばせ、そして―――
「貴族だけを標的とするアナーキストの革命軍、骸旅団にとって、大貴族であり騎士の頭領一族ベオルブ家の末子を殺すことは、貴族社会に小さからぬ打撃を与えられることになる。
私たちが、貴方たちと、命がけで戦い続けることに、これ以上の理由が必要かしら?」
―――あまりにも正論過ぎる彼女の言葉に、今回は私も何一つ言い返せず、ただただ黙って戦闘指揮だけこなすのみ。
それでも尚、これまでの戦闘経験値と、ごった煮でしかない骸旅団の編成不備は致命傷になるのを避けられるまでには至ること叶わず、徐々に徐々に敵の数は減っていき始め、減った分だけ手の空いた味方が他の味方を援護して戦いに加勢し、2対1になったのが勝利すると次は3対1、6対1と。
ドンドン数の差が大きくなっていって、遂に残る敵はあと3人だけ。
「はぁ・・・、はぁ・・・、ミンク・・・・・・そろそろ私、限界かも・・・・・・先に逝っちゃったときは、鎮魂をよろしく・・・」
「勝手な・・・こと・・・言わない、でよミンウ・・・・・・貴族に謝らせる、まで・・・私たちと、ミルウーダ様の戦いは・・・・・・終わらないんだか、ら・・・・・・」
前回もミルウーダさんと最後まで生き残っていた、双子らしい白魔道師の姉妹さんたちお二人と。
「そう・・・だな・・・ここで私たちは、死ぬわけにはいかないな・・・・・・
革命の途中、で・・・・・・死ぬわけにはいかないのだか・・・・・・ら・・・・・・」
疲れ切った身体を、気力だけで立ち上がらせ続けているとしか見えようのない、ボロボロの状態の女騎士ミルウーダさん。
この3人だけが最後まで生き残った、レナリア台地を防衛する骸旅団部隊の残党。その生き残りたちです。
ミルウーダさんに限って言えば、外傷は少なく、体力の消耗が激しすぎるというのが外から見た印象としての怪我の具合。
剣が折れても戦い続け、不屈の雄志と革命闘士としての誇りが彼女にそうさせたのか、あるいはもっと別の異なる理由を持ってた故なのか。
それは分かりません。分かりませんが・・・・・・流石にこれで終わりなのは、事実のようです。
「・・・立派な戦いでしたよ、ミルウーダさん。せめて最期は、同じ女騎士として私が止め役を担いましょう。どうか安らかにお眠りを・・・」
「・・・・・・ハァ・・・、ハァ・・・、まったく・・・・・・最後まであんたになんてね・・・今日は人生最大の厄日だったわ・・・」
憎まれ口を叩きながらも、口元は笑みを浮かべながら、ミルウーダさんは振り上げられた私の剣が振り下ろされてきたのを見つめ―――やがて、ゆっくりと目を瞑る。
「に、兄さん・・・・・・。ごめんなさ―――」
ガンッ!!!
・・・・・・ドシャッ・・・・・・と。
――人の頭に鈍器のような、堅くて重い物が叩き落とされたとき特有の鈍い音がレナリア台地に響き渡り。
鎧を着たままの女騎士ミルウーダさんが、剣の刃を返した峰という、棍棒で殴られたような痛さとダメージを受ける部位で頭頂部を殴り倒され、前のめりに倒れて気絶させられた姿を、二人の白魔道士姉妹たちは唖然として、しばらくボーっと見つめ続けてしまってたんですけれども。
『み、ミルウーダ様ぁッ!? あ、アンタたちなんてこ―――ごふゥッ!?』
「・・・すまない、お前たち。オレも妹を助けるために必死なんだ。許してくれ・・・」
と、昔から気絶させるための当て身が妙に巧かったディリータさんによる鳩尾への一撃で気絶させられた二人は他の仲間に縛られ、適当に荷物に紛れて運ぶことで味方部隊にも気づかれないよう偽装しつつ。
私は目当ての物を求めて、ミルウーダさんの身体をまさぐり、鎧の中にまで手を伸ばして―――あった。
幾つか発見しましたが、全部使えば問題ないでしょう。
「テッドさん、こちらへ。コレらを持って骸旅団が立てこもってるというジークデン砦に向かってください。
“ミルウーダ隊長の形見”として“なんとしてもウィーグラフ様に届けねばならない”とでも言えば、たぶん色々と便宜が計ってもらえるはずですから」
「なるほど・・・・・・どーせ寄せ集めの混成部隊になってる骸旅団だったら、オレが敵か味方の生き残りか判別するには、味方の重要人物を示す証拠の品があるのが一番なわけだ」
「ええまぁ、そんなところです。砦に侵入できた後も、別に下手な動きとか、単独でのティータさん救出とかはする必要ありません。バレたら事ですし、交渉材料となりそうな内部情報さえ取ってきてくれれば、それで充分ですからね」
「あいよ。んじゃラムザにディリータ、悪いがオレは先にいって待たせてもらうから。それじゃ」
「行ってらっしゃ~い。お気を付けてー」
ヒラヒラと手を振って送り出したテッドさんを見送った私の両隣で、微妙な表情になっておられる二人組。
ラムザ兄様とディリータさんに発破を掛けるつもりで声を掛け、
「ほらほら、お二人とも。ボヤッとしてないで進軍準備を急いでくださいな。最低でもザルバッグ兄君様が、砦に総攻撃掛ける前までには近くに到着しておく必要あるんですから。ヨソウガイに手間取った分を取り戻さなきゃいけません、ほら走って」
「わ、分かったよ・・・・・・ハァー・・・、ラムダといると色々気にしすぎてる自分が、少し考えすぎてるような気もしてくるから不思議だね。ディリータ」
「そう・・・だな・・・。今は取りあえず、ラムダの策に乗ってティータを助けることに集中しなきゃ行けない時なんだからな。
今は、一先ず、それしか出来ない・・・」
――最後のディリータさんの呟きを、横目でソッと見つめてから私は前を向いて、無言のまま味方の進軍準備を手伝うための作業に向かうことにします。
ですので、これは背後から聞こえたかもしれないですけど、気のせいかもしれない。
私の心の中だけに留めておくべき事なんだろうと思われます。
今はまだ。もしくは・・・出来ることなら、永遠に―――。
「――くそッ、オレはいったい何者なんだ! オレはいったい・・・・・・」
つづく
解説:
ラムダの策は、『ティータ救出用のミルウーダ物品確保』と『躯旅団にも何人かは生き残らせたい用の誘拐』という二つの作戦を両立させれるよう組まれたものです。
殺すだけでも出来なくはないのですが、その後の情報が手に入らないのが難点。
不確定な交渉カードが手に入る前提での作戦だけをやらずに、保険をいくつか用意して同時並行して進めるラムダらしい策となっておりました。