平民派DQN女オリ主がいくFFタクティクス   作:ひきがやもとまち

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POMERAの調子が悪いせいなのか、書いた内容が書き直す前のものと変わりやすいナゾ現象が生じてしまって、これ以上の時間をかけることが有効になれない状態になってしまいました。
さすがに現状は不味いですので、今の状態でできてる分だけでも投稿させてもらいます。
落ち着いてから書き直すかもしれませんが……とにかく今はマズイ状態ですゆえに。


第18話

 『骸旅団の反乱』は、それに続く史上最大規模の大乱や、平民出身の英雄王が誕生したことなど、輝く光と血塗れの赤色という極彩色に彩られた派手すぎるものであったことから人々の耳目を集めやすく、今の時代には『獅子戦争の前哨戦』という認識を抱かれてしまっている。

 

 だが、この戦いがなければ英雄王ディリータが誕生することはなく、そうなっていた時には歴史は大きく進む方向を変えて今日に至っていただろうことは疑いない。

 規模こそ小さくとも、無視していい戦いではなかったのが骸旅団の反乱だった。

 

 このため獅子戦争を研究する者達より数が少ないとはいえ、骸旅団の反乱について研究し続けている者たちも少数ながら常に存在し続けていたことは、余り世間では知られていない事実である。

 そんな彼らの間で、未だに統一された見解が出されていない議題の一つに、『反乱末期におけるウィーグラフの戦略方針』というものがある。

 

 『デュライ白書』の記述にある骸旅団団長の妹ミルウーダの発言からは、骸旅団の団長ウィーグラフが軍をいったん解散して再起を図ろうとしていた意図が読み取れる。

 

 だが一方で、北天騎士団に残されていた捕縛された後に処刑された捕虜の証言の中には、『一人でも多くの貴族を道連れにして未来に可能性をつなげる徹底抗戦』こそウィーグラフから最期の命令であったと、貴族への呪詛と共に書き残している記録も発見されており、そのどちら共が高い信憑性を有することから容易に結論が出せぬまま今日まで議論が続いている難題として一部研究者達の間では知られていた。

 

 時には、獅子戦争という大きな歴史の流れの真実を探求する旅の途上で、小さな真実を探求する寄り道をしてみるのも悪くない。

 何故なら多くの歴史研究家たちにとって、小さな真実を探す旅こそが、歴史という大河の流れを探求する長い旅路の一歩目なのだから―――

 

 

 

 

 

 

 そこは骸旅団が活動拠点として使用している《ジークデン砦》と、その地を北天騎士団から守り抜くための最前線となっている《レザリア大地》との中間地点にある小高い丘の上に立てられていた風車小屋の中だった。

 

 風で回る帆を止めさせぬため周囲に高い建物や自然物は存在しておらず、強い風を受けて風車を回させるため小高い丘の上に立てられている風車小屋は、敵からの進軍を察知するため都合が良く、一時的に隠れ潜む避難所としても活用されている場所である。

 

 その小屋の中で今、ウィーグラフは一人の人物と深刻な面持ちで向き合っていた。

 

「――何故、娘を誘拐した?」

 

 ウィーグラフは十分に抑制の効いた理性的な言動で、だが流石に訝しげな雰囲気を漂わせずにはいられぬ口調によって、腹心の側近に問いかけていた。

 

 小屋の中には、数人の同士たちが思い思いの姿勢で身体を休ませていて、自分たちを率いる大将と、その腹心とのやり取りを真剣な瞳で、あるいは皮肉気な視線で、またある者は虚ろな眼差しと共に無言のまま、ただ沈黙を保ちながら見守っていた。

 

「我々の理想のための戦いを、罪なき少女の血で穢すつもりか? ゴラグロス」

「――そうじゃない、ウィーグラフ。そんな意図は俺にはなかった」

 

 ゴラグロスと呼ばれた相手の騎士は、不当な疑惑をかけられて不本意だという意思を表すように大きく腕を振るって無実を訴える。

 騎士風の戦装束に身を包み、精悍ながらも柔らかさを感じさせる顔立ちをした20代後半の青年で、鎧に付いた傷の数から風貌に似合わぬ戦歴を思わせる若き騎士だ。

 

 『ゴラグロス・ラヴェイン』というのが、今ウィーグラフと向かい合っている青年騎士の姓名だった。

 先日に粛正されたギュスタヴに代わって骸旅団の副団長に任命され、現在は骸旅団のナンバー2という地位にある人物である。

 

 各地の貴族たちからなる連合騎士団によって完全包囲され、先鋒を務める北天騎士団により壊滅の危機に立たされつつある戦況の中、骸旅団のナンバー1とナンバー2とが険悪な雰囲気で対話しているのには発端となる理由が存在していた。

 

 

 ――作戦開始当初の時点でウィーグラフは、ミルウーダに指示した通り革命戦争を継続するため、連合騎士団による包囲網を突破して一人でも多くの同士を脱出させることを目指すつもりでいた。

 

 残存戦力を結集してジークデン砦に立てこもり、貴族たちの連合騎士団と籠城戦で最後の決戦を挑むという選択肢もあったが―――立てこもるとは同時に、追い詰められるという意味でもある。

 たとえ、どれほどの犠牲を払おうと一人でも突破し、革命の志を広め続けることで将来的に国を変える萌芽とすることこそ、自分たちにとって本当の勝利だと考えるウィーグラフは各部隊へと独自に撤退させるよう決断を下していたのだ。

 

 その方針を急遽変更したのは、北天騎士団による包囲が彼の予測を大幅に超えて強固であったことと、貴族たちの利害で結ばれた連合騎士団の連携が「しょせんは私利私欲の絆」という骸旅団側の希望的観測より遙かに堅かったことが決断を促されたことが理由になっていた。

 

 如何なる犠牲を払おうとも、同士たちの一部と革命の志を逃すことが出来るなら、自分たちの犠牲も無駄死にではなく確かな意味ある犠牲だったと胸を張って断言もできよう。

 だが戦力分散の末、一人も突破できず全員が殺されただけで終わるなら、真性の無駄死にであり、犠牲になった者たちに合わせる顔がない。

 

 それぐらいなら残存戦力を結集させてジークデン砦に籠城し、北天騎士団と決戦して地の利を生かし、将来的な民衆たちの強敵となる者たちを一人でも多く道連れにすることが、今の自分たちの可能な革命成功のために選ぶべき選択肢・・・。

 

 そう考えざるを得ない窮状へと追い込まれたウィーグラフは、自らが直接指揮する精鋭部隊を率いて各戦場をめぐって味方を救出しながら、ジークデン砦への再集結と最終決戦を呼び回っていた。

 

 そして自身もジークデン砦に向かう途中、休みなく転戦して疲れ切っていた精鋭部隊のメンバーたちに休息を与えるため小屋の中へと足を踏み入れ、たまたま先客として来ていたゴラグロスの隊と再会する。

 

 その時に彼は見てしまっていたのだ。

 やや後ろめたそうに視線を逸らしたゴラグロスと――彼の背後にいる、幼気な少女の縛られた姿を・・・・・・。

 

 

「我々が逃げるためには、人質を取らざるを得なかったんだ。

 同志達を生かして連れ帰るには仕方なかった、好きで攫ったわけじゃない」

 

 心外だ、という意志を示すように静かな口調で断言して首を横に振ってみせるゴラグロス。

 だが、その説明と仕草を前にしてもウィーグラフの瞳から疑念は晴れなかった。

 ゴラグロスは骸騎士団時代から戦い続けている最古参の一人であり、ウィーグラフにとっては団内で最も信頼する同士でもある。団員たちからの信頼も厚い。

 

 本来なら骸旅団立ち上げの際、副団長にするつもりでいた男だったのだが、出自が平民の子であったがために『人を率いるための教育』を受けておらず、その一点においてだけは“元”と言えども北天騎士団に所属していた過去を持つギュスタヴの方が1枚も2枚も上手だったことから、これまで団内のナンバー3という立場に甘んじてきていた。

 

 些か時機を逸してしまった感はあるが、ギュスタヴが裏切り者としてウィーグラフに粛正されて本来就くはずだった地位にようやく座ることが可能になった・・・・・・そう評すべき人事ではあったのだろう。本来通りの流れだったなら。

 

 だが、慣れない仕事は明らかに、ゴラグロスにとって精神的負担を増大させる結果をもたらしていたらしい。

 しばらく会わない間に、今までなかった目元の険が生じて、目の下にはクマが浮かび初め、俯きがちな姿勢でボソボソと話すようになっていた。

 戦闘が始まる前までは想像もしていなかった同士の風貌に、ウィーグラフも当初は驚きを禁じ得なかったほどで、その変わり果てた飢えた狼にも見える風貌もまた、彼への疑念を高める一因となってしまったのは誰にとっての皮肉と呼ぶべきものだったろう・・・。

 

 

「逃げるだけならば、途中で解放することも出来たはず。

 まして、追撃を控えてでも殺されたくはない価値ある者を攫われた以上、敵は決して人質となった者を見失う訳にはいかなくなるのだからな。

 追撃はできずとも、密偵に後をつけさせるぐらいの手は、ダイスダーグやザルバッグなら取ってくるのではないか?」

 

 その疑問に対して、今度は相手からの返答はなかった。だが、聞く必要もなかった。

 言われた側の顔色を見れば答えなど、言葉で聞かずとも誰だろうと一目瞭然だったからだ。

 一瞬ごとに青さを増していくゴラグロス自身と、背後に付き従う部下達の表情。

 それらの情景を見渡しながら、ウィーグラフは容赦なく必要となる確認作業を続行する。

 

「背後からの追っ手がないことは確認したのか? 撤退する際に用いた脱出路を使った痕跡を消すことは?」

「・・・・・・」

 

 もはや問われた側にも、問うた側にも言葉がなかった。

 完全に、自分たちが逃げ延びることだけに集中しすぎて、追撃が止んだことを『追跡も辞めさせた事』と同義に捉えてしまったゴラグロスの判断ミスだった。

 ウィーグラフは溜息を吐いて首を振り、考えるようにゴラグロスの青ざめた顔の瞳を「ソッ」と見つめる。

 

「・・・お前らしくもないミスだったな。

 それとも、お前にとって今回のことは“ミスではなかった”ということなのか――?」

「ど、どういう意味だ? ウィーグラフ」

「言葉通りの意味だ。

 ――まさかとは思うが、ゴラグロス。お前まで・・・っ」

 

 その言葉を発した瞬間、それまで仲間たちにとって頼もしく見えることはあっても畏怖することはなかった団長の剣気が室内を圧し、既に剣の間合いに入ってしまっていたゴラグロスは魂の底から生への悲鳴を上げさせたが、実際に口から出ていた言葉は理不尽に対する糾弾の叫びだった。

 

「俺をギュスタヴと一緒にするのか!? ウィーグラフ、いくら貴様とて許さんぞッ!!」

 

 大声で相手を怒鳴りつけ、謂われのない侮辱に激怒する想いを仲間だからこそ押さえている。

 そう伝わるような態度と口調と声量で必死の思いで放った、免罪による生を勝ち取るための言葉であったが、半分近くは本気の怒りでもあった。

 

 実際、彼は決してギュスタヴのように金欲しさで女子供を拐かすような、卑劣な行為に手を染めたいと思ったことは今まで一度もなかったし、今この瞬間でも変わるつもりは些かもない。

 ただ、そうであるが故に保身のための少女誘拐は、彼の価値観にとって公明正大とは言いがたく、後ろめたいものを感じさせない訳ではなかったことが、彼のやや曖昧な態度を取らせる理由になっていた。

 

 そんな立場が、自己の行為を正当的なものだったと主張したい気持ちに駆られたのだろう。ゴラグロスはウィーグラフに向かって熱心に、自分の考えた『現状からの脱出案』を語り聞かせる。

 

「よく現実の戦況を見た上で考えてみろ、ウィーグラフ。

 我われ骸騎士団は仲間たちの大半を失い、今も北天騎士団に包囲されているじゃないか。

 この娘は今の窮地を乗り切るため、またとない切り札となるぞ。

 なんたって、この娘はベオルブ家の令嬢なんだからな! 奴らだって自分たちの大将の娘の命と引き換えにしてまで、俺たち生き残った少数の残党の命まで奪おうとは思わないはずさ! 違うかッ!?」

 

 連日の激務と、連戦に次ぐ連戦による疲労故か、やや充血した目付きで激しく睨みつけてくるような視線と共に言い放ち、縋るような瞳で壁により掛かったまま気絶して動かない娘の方を振り返るゴラグロス。

 

 その姿からは、嘘までは感じないまでも『生に対する執着』は強く感じ取らされたウィーグラフは、むしろ痛ましさすら覚えながら彼が指し示した先で横たわる『生き残れる可能性』とやらに少しだけ歩み寄り。

 

 相手の思いは分かりながらも、分かるからこそ彼に応える。

 間違っている、と。

 

 

「・・・・・・ゴラグロス、逃げてどうする? いや、どこへ逃げようというのだ?

 オルダリーアか? ロマンダか? その更に向こう側にある国々を目指し亡命するのか?

 それらの国を支配している《貴族たち》が、イヴァリースの貴族よりも我々に優しくしてくれるべき理由が、何かあると思うのか?

 オルダリーアに逃げれば、オルダリーアの貴族の都合で。ロマンダに逃げればロマンダの貴族に。

 結局は一方的に奪われた挙げ句、使い捨てられるだけのことだ」

 

 諭すように語り聞かせる団長の言葉に、ゴラグロスは反論することが出来なかった。

 ウィーグラフは、理想的な革命に拘りすぎるあまり現実認識能力に欠けるところがあるのは事実であったが、それは彼の知的劣等を示すものではない。

 一軍を率いる将として相応しい識見と分析力を有する戦略家こそが、骸旅団のリーダーだった。

 

「それは・・・しかし・・・」

 

 反論しようとゴラグロスは口を開いたものの言葉が続かず、無意味に口を開閉するだけで意味ある声として発されることはできなかった。

 確かに、ウィーグラフの言う通りな状況ではあるのだ。

 

 たとえばオルダリーアかロマンダの隣国どちらかに逃げ延びたとして、亡命した国の《貴族たち》は、『武装蜂起して敗れた反乱軍の生き残り』でしかない自分たちに、仕事や生きていく場所を与えることを逃げた先の支配者たちは許してくれるだろうか?

 亡命が認められたとしても、乞食のように生きるか、野盗にでも身を落とすかしか、その後も生き続けられる手段がない。

 

 力を蓄えて故国へと舞い戻り、捲土重来をはかる可能性も断たれるだろう。

 『貧民の救済』『貴族制の廃止』を掲げて反乱を起こしながら、土壇場になって命惜しさに貴族たちと交渉して生き存えようとした自分たちを、イヴァリースの平民たちは決して許さないからだ。

 家族を無謀な反乱に巻き込んだ戦争犯罪人として、復讐の対象にされるのは目に見えている。

 

 絶対封建制が続く世の中に生きる自分たちの世界で、イヴァリースを含めた全ての国々は、未だ《貴族制の王権政治》の時代に在り続けていた。

 イヴァリース国内で追い詰められ、国外へと落ち延びた平民たちの反乱軍には、『貴族たちが支配する逃亡先の外国』しか待っている場所は存在しない時代が現在なのである。

 

 彼らが、王位継承に敗れて落ち延びた王家の一員や、権力闘争で地位を奪われた大貴族の亡命者であるなら、各国は政治的計算や体面を理由として受け入れてくれる可能性を持っていたかもしれない。

 

 だが現実に、彼ら骸旅団のメンバーたちは平民だった。

 国が変わっても平民は平民であり『貴族制の廃止』と『平民たちによる自治』を訴えて王権を否定する戦いを仕掛けた彼らに――『武装決起した平民による反乱軍の生き残り』には人間として生きて死ぬ権利を許してくれる土地は、今の地上には存在していない。

 

 少なくとも“今は、まだ”―――

 

「たとえ、今この土壇場から逃げられようと、我々が奪われる側であり続けることに変わりはない。

 我々は、我々の子供たちのために未来を築かねばならない。同じ苦しみを与えぬためにも!」

 

 ウィーグラフは自分の嘘偽りなき想いを、信頼する腹心の部下に語って聞かせた。

 それは彼なりに、自分の理想に今まで付き合い続けてくれた副将に対する誠意であり、騎士として示すべき礼節であり、嘘偽りなき思いの吐露でもあった。

 

 今までにも、この様な会話を交わしたことが無かった訳では無い。

 共に理想的な『万民平等の平民国家』となったイヴァリースの未来を語り合ったこともある。

 

 だが、しかし。

 彼ら平民たちの反乱軍『骸旅団』のトップとナンバー2は、致命的なまでに【想いが通じ合っていない自分たち自身】に、この期に及んでも気付くことが出来なかった。

 

 

「我々の投じた小石は小さな波紋しか起こせぬかもしれんが、それは確実に大きな波となって、やがて貴族社会全体を飲み込み、新たな世で生きる子供たちが我らが求めた社会を実現してくれるだろう。

 たとえ、“ここで朽ち果てようとも”な!」

 

 

 その最後の一言が、相手にもたらした衝撃の大きさをウィーグラフは理解していなかった。あるいは理解できなかっただけかもしれない。

 

「ウィーグラフ・・・・・・お前は我々に、“死ね”と命じると言うのか・・・?

 お前の語る理想を信じて、今までついてきた俺たちに・・・?」

 

 彼の言葉を聞かされた瞬間。

 ゴラグロスの表情には、ハッキリとこう語っていた。

 

 ―――話が違う――――と。

 

 平民出身で、戦時下の特例として騎士に任じられていたゴラグロスは、必ずしもギュスタヴのように私利私欲を求める人物ではない。

 平民たちの世を築いた後も大層な出世などは望まず、貴族たちの都合で理不尽に奪われることのなくなった故郷に戻って、平穏無事な一生を家族と共に過ごせさえすれば十分と考える程度の、無欲で使命感のある平民出身の骸騎士だった。

 

 決して革命の勝利による功績によって、高い地位を欲するタイプの人物ではない。 

 ただ反面――独創性や想像力といった分野では、凡人並みのものしか持ち合わせることができていない人物でもあった。

 

 平民出身の彼には、ウィーグラフの語る『貴族なき世の中』という理想社会が、必ずしも正確にイメージできた上でウィーグラフに従っていた訳ではなかったのである。

 

 彼ら平民たちにとって貴族という存在は、自分たちの父祖の代より更に前の時代からずっと存在し続けていた者たちだった。

 やがて貴族たちに搾取されるようになり、『貴族なき平等な社会』が叫ばれるようになったが、それは現状の生活変化への不満に『一つの形』を与えたものだったに過ぎず、必ずしも語られる理想としての『誰もが平等の社会』を理解した上で賛同しているわけでは実はなかったのだ。

 

 それは後の世から異なる世界に招かれた、性格の悪い大貴族令嬢の転生者から見れば呆れるかもしれない実情だったが、客観的に鑑みた場合には必ずしも無責任な解釈とは言いがたい。

 

 この時代、世界はまだ封建制の時代が続いており、イヴァリースの周辺諸国でも民衆国家などと言うものは一つも存在していない。

 オルダリーアもロマンダも従来の政治機構を維持したまま続いている王政国家であり、平民国家と呼べる政治制度の国は今の大陸には存在していない。

 仮にあったとしてもゴラゴロスのような平民出身の騎士には想像の埒外にしかなりようがない存在だったのである。

 

「ただでは死なん! 一人でも多くの貴族を道ずれに!

 それが我らの子供たちの幸せな未来を築く肥やしになってくれるならば!!」

「バカな! 犬死にするだけだ!!」

 

 だが、ウィーグラフに彼の疑念に激しく頭を振って否定し、信頼する副将に己の想いを嘘偽りなく誠実に訴えかける。

 致命的すぎる程にズレた、誠実なる回答を――である。

 

 ゴラゴロスと異なり、ウィーグラフの側には自分の語る『平民たちの世』という理想社会について明確なヴィジョンを持ち合わせていた。

 自分たちによってイヴァリースから『貴族という特権階級』が廃され、平民たちの誰もが対等な市民となった理想的な国の形をである。

 

 だが、自分たちが政治制度の変革に成功して、貴族なき平民たち全てが平等な『平民国家』となったイヴァリースにも敵性国家は存在する。

 特に、王家支配を否定した『平民国家』は、既存の王権支配を続ける国々にとって自分たちの支配の正当性を完全否定する不倶戴天の敵として見なされるようになるのは避けられないだろう。

 

 そうなった時、国と国民たちを護るため侵略者たちと戦うのは、血統によって役割を継承してきた『騎士』や『貴族』といった者たちではない。

 平民国家となった後のイヴァリースには、血統主義にもとづく貴族や騎士は存在しなくなっているからだ。

 

 侵略者から国民たちを守るため戦うのは、平民たちの中から国と家族を守るため志願した『自由騎士たち』による防衛軍である。

 平民によって統治される平民たちの国家において、国防を担うのも平民たちしか有り得ない。

 

 ウィーグラフにとって自分たち骸旅団は、『貴族も騎士もない国民国家となったイヴァリース』において国防を担う、平民たちからの自主志願者のみによって成り立つ『自由騎士団』とでも呼ぶべき存在の先駆けとなる者たちとして、彼は考えていた。

 

 だが、それは余りにも早すぎる思想であり、未だ中世期の社会を脱し切れていない世を生きる普通の人々にとって理解できる話ではなかったし、想像の範疇を超越しすぎてしまっていた。

 

 到底、ゴラグロスのように『平民出身の義勇騎士団の中では優秀な人物』という程度が持ち得る想像力で理解できる範疇を超えていた。超えすぎていた。

 

 もし今の世を生きる者たちの中で、ウィーグラフの理想を正しく理解できる者がいるとすれば、それは味方ではなく敵側の若き騎士たち三人の誰かしかいなかったかもしれない。

 今まで同志たち相手に、自分の考える理想社会について語らなかった訳ではない。幾度も語らい、意見を交わし合い、時に頷き、時に激高し、時に考え込まされ合った。決して独り善がりな独走だけで事を進めてきた人物ではウィーグラフはなかった。

 

 だが、それでも平凡な平民出身の同志たちに、彼の理想が正しく伝わることは最後までなかった。

 ウィーグラフ自身もまた気付いてやることが最後まで出来ることなく彼らは終わる。彼らは別れる。

 

 

 ・・・ウィーグラフの理想は今の時代、まだ余りに早すぎたのである・・・・・・。

 

 

「いや、ジークデン砦には生き残った仲間がまだいるはずだ。

 合流すれば、一矢報いることはできよう!」

「だが、今さら・・・・・・」

 

 言いかけたところでゴラグロスは口を噤んだ。

 相手の言葉に納得したからではなく、説得を諦めたからでもなく――ただ、戸の外側から誰かが近づいてくる足音を感じ取り、無言のまま剣の柄に手をかけただけだったが・・・・・・幸いなことに入ってきたのは味方の女性格闘家で、ウィーグラフ率いる直属部隊の一人だった。

 

「ウィーグラフ様、大変です! ミルウーダ様が・・・っ」

「なにっ!? ミルウーダの身に何かあったのか!?」

「・・・今し方、こちらに接近してくる者を見つけて確保しましたところ、どうやらミルウーダ様率いる隊の一員だったらしく、その者がいうところではミルウーダ様はもう・・・・・・」

「なんだとっ!? して、その者は何処に! 話は聞けるのか!?」

「ハッ! 酷い疲労でしたが、回復魔法で最優先に癒やしました! 話だけなら十分かとっ」

 

 そう言って、外で待機させていたらしい部下に連れられて、一人の見習い騎士が疲れ切った身体を引きずるように歩かせながらウィーグラフの前へと進み出ると跪き、恭しく頭を垂れながら息も絶え絶えに最前線の戦況を報告してくるのを、ウィーグラフは鬼の表情で見つめ返す。

 

「ほ、報告いたします・・・・・・我々ミルウーダ様率いる部隊は、レザリア大地にて敵を引きつけつつ突破を試みたのですが・・・ベオルブ家の末弟を名乗る者の部隊に突如として強襲を受けて突破を断念・・・・・・。

 ミルウーダ様は、後方のウィーグラフ様に危機を伝えるようオレに――いえ、私に命じられて送り出され、他の仲間はミルウーダ様と共に・・・・・・」

「ベオルブ家の末弟・・・・・・あの者たちか! では、その後ミルウーダは!?」

「分かりません・・・・・・オレ・・・いえ、私もウィーグラフ様に敵襲の危機を伝えることだけで頭がいっぱいで・・・・・・」

「そうか・・・・・・クソッ! おのれベオルブの小僧めらが! 我が妹を手にかけたなら許してはおかんっ! 必ずや犯した罪の重さを思い知らせてくれるッ!!」

 

 息も絶え耐えに恭しく前線の危機を伝えてくれた伝令からの報告に、ウィーグラフは感謝しつつも激高し、貴族たちへの報復の誓いを新たにしたが事が急を要する状況へと変化してしまったことも事実ではあった。

 

 レナリア大地を突破して脱出を謀らせるつもりでいたミルウーダ隊が敵の奇襲を受けたと言うことは、遠からず今いる風車小屋も敵軍の総攻撃を受けさせられる危険性が高まったことを示していた。

 もはや一刻の猶予もない。迷っている時間は既に無いのだ。一刻も早く後方の本隊と合流し、残された残存戦力の全てでもって貴族たちに最後の決戦を挑むより他、自分たちに残された道はない! ウィーグラフは決断を下した。

 

「報告、ご苦労だった。辛い任務をよく果たしてくれたな、妹に代わって礼を言わせて欲しい。

 ゴラグロス! 聞いての通りだ! ジークデン砦に戻って本隊と合流する! 部隊をまとめろ、敵は今にも来るはずだ! もはや取るべき手を考えている余裕は我らにない!!」

「だ、だが・・・・・・砦の兵たちも既に殺られていることだって・・・・・・」

 

 すぐ目の前まで敵軍が迫りつつあると知らされたことで顔色を失ったゴラグロスは、狼狽えたように抗弁しようとしたが、それもまた小屋の外から聞こえてきた別の声に遮られる。

 

『敵襲だーっ!! 北天騎士団の奴らが来たぞーッ!!』

「チィッ! 速い! となるとミルウーダは、やはり・・・・・・おのれベオルブの小僧!」

 

 物見からの報告に激高して愛剣の鍔を強く握りしめ、ウィーグラフは歯ぎしりせんばかりの怒りと共に弔い合戦のため出陣しようとするが、団長としての義務を疎かにするほど冷静さを失ってまではいなかったらしい。

 

「ゴラグロス! お前は彼や、他の仲間たちと共にジークデン砦を目指せ! ここを撤退する! 

 娘はここに置いていけ! 今となっては交渉の余地はどこにもない!!」

 

 そう命じて剣を握りしめ、副将に後を託して出撃する骸騎士団の長に迷いはなく、自らの判断に公明正大さと誠実さにおいても欠けるところは些かもないウィーグラフであったが・・・・・・たった一点。いや、二点だけ失念している配慮があることに気付いていなかったことも事実ではあったのだ。

 

 

 自分たち骸旅団全体を率いるリーダーが、直属の部下達を連れて迎撃のため小屋を出て行った後。

 残された自分の部下達にしか聞こえない声と声量で――ゴラグロスは血を吐くような想いを込めながら、怨嗟とも命乞いとも絶望とも取れる声音で小さく呟いていたことを、救世の情熱に燃える革命騎士ウィーグラフは知らなかった。

 

 

「オレは逃げてやる・・・・・・死んでたまるか!!」

 

 

 その声の向けられた先は、自分たちを平民として産み落とした天にまします神に向けてではなく、自分たち全ての命を奪いに来る敵の本陣がある前方に向けてでもなく。

 

 ただただ――縛られて身動きが取れなくなった姿のまま、憔悴しきった身体を横たえさせている、清楚な衣服に身を包んだ可憐な少女にだけ向けられていた・・・・・・。

 

 それは彼自身が、致命的なまでに『後ろ向きな人間』であることを無言のまま示してしまっていた、自分の在り方そのものを体現する光景だったのだが・・・・・・他の同席している者たちも同じように縛られた少女の姿をギラつく目で見つめるばかりで、『生への執着に飢えていない者』が誰一人として残されていない風車小屋の中にあっては指摘する者も異端者もまた皆無であった。

 

 

 ただ一人。

 ―――異端者ではないと“装っているだけ”の一人を除いて全員が・・・・・・。

 

 

(ラムダから聞かされていた最初の指示とは少し変わっちまったが・・・・・・まぁ、仕方ないと思っといてもらおう。

 次点の策には収まってる訳でもあるし、あとは騎士の頭領一族ベオルブ家の応用力を信じて、任せるとするさ。

 オレらより高い給料もらってる身分なんだから頼むぜ? 策略好きなお嬢様)

 

 

つづく




*謝罪文メッセージ追記。

今回は遅れて申し訳ございません。
本来はもっと早く出せる予定だったのですけど、ゴラグロスとウィーグラフの擦れ違い部分を何度もリテイクし続けてたら今になってしまいました。

どっちとも互いを裏切っていた訳ではなかったように描くのって意外に難しい様です…。
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