平民派DQN女オリ主がいくFFタクティクス 作:ひきがやもとまち
内容は特にストーリーが変化する類の物じゃないですので、気に入られた方に差し替えても問題はありません。お好きだった方をドゾ。
『獅子戦争』は平民出身の英雄王ディリータによって幕を閉じた大乱であり、長く続いたイヴァリースの貴族制度やアトカーシャ王家の血筋による血統支配に終止符を打った戦いとしても広く世に知られている。
だが反面、獅子戦争そのものは『大貴族に主導された勢力同士』がぶつかり合う有力者同士の主導権争いでしかなかったというのが、些か意外ながらも側面的な事実でもあった。
国内を二分して世を変えたほどの大乱でありながらも、この戦いで平民たちが戦局に影響を及ぼしたとする記録は見当たらず、英雄王ディリータも生まれの身分は平民だが、乱を終わらせたのは大貴族ゴルターナ公爵の側近として公の死後に後継者となった後のことである。
『獅子戦争』は、あくまで【貴族たちの戦争】だった。
英雄王の偉業とは別に、それが獅子戦争における側面的な事実ではあったのだ。
そうなった一因として、歴史学者たちの一部からは『骸旅団の反乱』による影響を指摘する声がある。
貴族主導による戦いではなく、平民たちの自主的な賛同を得てウィーグラフにより引き起こされた『骸旅団の反乱』と最終的な敗北と滅亡。
平民階級の中にいた人材の多くが、この乱に参加し、戦死していたことで獅子戦争に影響を与えうる平民がほとんど残っていなかったことが原因だったのではないだろうか? という説である。
その説が真実か否かは私にも分からないが、少なくとも『骸旅団の反乱』が後の『獅子戦争』にも影響を及ぼしていた部分があるのは事実だろう。
これは、そんな大乱へと影響を及ぼす事になる、小さな反乱の中で起きていた歴史に残らぬ記録の1ページだ――
骸旅団が活動拠点として使用している《ジークデン砦》と、その地を北天騎士団から守り抜くための最前線となっている《レザリア大地》との中間地点にある小高い丘の上に立てられていた風車小屋の中だった。
風で回る帆を止めさせぬため周囲に高い建物や自然物は存在しておらず、強い風を受けて風車を回させるため小高い丘の上に立てられている風車小屋は、敵からの進軍を察知するため都合が良く、一時的に隠れ潜む避難所としても活用されている場所である。
その小屋の中で今、ウィーグラフは一人の人物と深刻な面持ちで向き合っていた。
「――何故、娘を誘拐した?」
ウィーグラフは十分に抑制の効いた理性的な言動で、だが流石に訝しげな雰囲気を漂わせずにはいられぬ口調によって、腹心の側近に問いかけていた。
小屋の中には、数人の同士たちが思い思いの姿勢で身体を休ませていて、自分たちを率いる大将と、その腹心とのやり取りを真剣な瞳で、あるいは皮肉気な視線で、またある者は虚ろな眼差しと共に無言のまま、ただ沈黙を保ちながら見守っていた。
「我々の理想のための戦いを、罪なき少女の血で穢すつもりか? ゴラグロス」
「――そうじゃない、ウィーグラフ。そんな意図は俺にはなかった」
ゴラグロスと呼ばれた相手の騎士は、不当な疑惑をかけられて不本意だという意思を表すように大きく腕を振るって無実を訴える。
騎士風の戦装束に身を包み、精悍ながらも柔らかさを感じさせる顔立ちをした20代後半の青年で、鎧に付いた傷の数から風貌に似合わぬ戦歴を思わせる若き騎士だ。
『ゴラグロス・ラヴェイン』というのが、今ウィーグラフと向かい合っている青年騎士の姓名だった。
先日に粛正されたギュスタヴに代わって骸旅団の副団長に任命され、現在は骸旅団のナンバー2という地位にある人物である。
各地の貴族たちからなる連合騎士団によって完全包囲され、先鋒を務める北天騎士団により壊滅の危機に立たされつつある戦況の中、骸旅団のナンバー1とナンバー2とが険悪な雰囲気で対話しているのには発端となる理由が存在していた。
やや後ろめたそうに視線を逸らしたゴラグロスと――彼の背後にいる、幼気な少女の縛られた姿という理由が・・・・・・。
「我々が逃げるためには、人質を取らざるを得なかったんだ。
同志達を生かして連れ帰るには仕方なかった、好きで攫ったわけじゃない」
心外だ、という意志を示すように静かな口調で断言して首を横に振ってみせるゴラグロス。
だが、その説明と仕草を前にしてもウィーグラフの瞳から疑念は晴れなかった。
ゴラグロスは骸騎士団時代から戦い続けている最古参の一人であり、ウィーグラフにとっては団内で最も信頼する同士でもある。団員たちからの信頼も厚い。
だが、慣れない仕事は明らかに、ゴラグロスにとって精神的負担を増大させる結果をもたらしていた。
しばらく会わない間に、今までなかった目元の険が生じて、目の下にはクマが浮かび初め、俯きがちな姿勢でボソボソと話すようになっていた。
戦闘が始まる前までは想像もしていなかった同士の風貌に、ウィーグラフも当初は驚きを禁じ得なかったほどで、その変わり果てた飢えた狼にも見える風貌もまた、彼への疑念を高める一因となってしまったのは誰にとっての皮肉と呼ぶべきものだったろう・・・。
「逃げるだけならば、途中で解放することも出来たはず。
まして、追撃を控えてでも殺されたくはない価値ある者を攫われた以上、敵は決して人質となった者を見失う訳にはいかなくなるのだからな。
追撃はできずとも、密偵に後をつけさせるぐらいの手は、ダイスダーグやザルバッグなら取ってくるのではないか?」
その疑問に対して、今度は相手からの返答はなかった。だが、聞く必要もなかった。
言われた側の顔色を見れば答えなど、言葉で聞かずとも誰だろうと一目瞭然だったからだ。
一瞬ごとに青さを増していくゴラグロス自身と、背後に付き従う部下達の表情。
それらの情景を見渡しながら、ウィーグラフは容赦なく必要となる確認作業を続行する。
「背後からの追っ手がないことは確認したのか? 撤退する際に用いた脱出路を使った痕跡を消すことは?」
「・・・・・・」
もはや問われた側にも、問うた側にも言葉がなかった。
完全に、自分たちが逃げ延びることだけに集中しすぎて、追撃が止んだことを『追跡も辞めさせた事』と同義に捉えてしまったゴラグロスの判断ミスだった。
ウィーグラフは溜息を吐いて首を振り、考えるようにゴラグロスの青ざめた顔の瞳を「ソッ」と見つめる。
「・・・お前らしくもないミスだったな。
それとも、お前にとって今回のことは“ミスではなかった”ということなのか――?」
「ど、どういう意味だ? ウィーグラフ」
「言葉通りの意味だ。
――まさかとは思うが、ゴラグロス。お前まで・・・っ」
その言葉を発した瞬間、それまで仲間たちにとって頼もしく見えることはあっても畏怖することはなかった団長の剣気が室内を圧し、既に剣の間合いに入ってしまっていたゴラゴロスは魂の底から生への悲鳴を上げさせたが、実際に口から出ていた言葉は理不尽に対する糾弾の叫びだった。
「俺をギュスタヴと一緒にするのか!? ウィーグラフ、いくら貴様とて許さんぞッ!!」
大声で相手を怒鳴りつけ、謂われのない侮辱に激怒する想いを仲間だからこそ押さえている。そう伝わるような態度と口調と声量で必死の思いで放った、免罪による生を勝ち取るための言葉であったが、半分近くは本気の怒りでもあった。
実際、彼は決してギュスタヴのように金欲しさで女子供を拐かすような、卑劣な行為に手を染めたいと思ったことは今まで一度もなかったし、今この瞬間でも変わるつもりは些かもない。
ただ、そうであるが故に保身のための少女誘拐は、彼の価値観にとって公明正大とは言いがたく、後ろめたいものを感じさせない訳ではなかったことが、彼のやや曖昧な態度を取らせる理由になっていた。
そんな立場が、自己の行為を正当的なものだったと主張したい気持ちに駆られたのだろう。ゴラグロスはウィーグラフに向かって熱心に、自分の考えた『現状からの脱出案』を語り聞かせる。
「よく現実の戦況を見た上で考えてみろ、ウィーグラフ。
我われ骸騎士団は仲間たちの大半を失い、今も北天騎士団に包囲されているじゃないか。
この娘は今の窮地を乗り切るため、またとない切り札となるぞ。
なんたって、この娘はベオルブ家の令嬢なんだからな! 奴らだって自分たちの大将の娘の命と引き換えにしてまで、俺たち生き残った少数の残党の命まで奪おうとは思わないはずさ! 違うかッ!?」
連日の激務と、連戦に次ぐ連戦による疲労故か、やや充血した目付きで激しく睨みつけてくるような視線と共に言い放ち、縋るような瞳で壁により掛かったまま気絶して動かない娘の方を振り返るゴラグロス。
その姿からは、嘘までは感じないまでも『生に対する執着』は強く感じ取らされたウィーグラフは、むしろ痛ましさすら覚えながら彼が指し示した先で横たわる『生き残れる可能性』とやらに少しだけ歩み寄り。
相手の思いは分かりながらも、分かるからこそ彼に応える。
間違っている、と。
「・・・・・・ゴラグロス、逃げてどうする? いや、どこへ逃げようというのだ?
オルダリーアか? ロマンダか? その更に向こう側にある国々を目指し亡命するのか?
それらの国を支配している《貴族たち》が、イヴァリースの貴族よりも我々に優しくしてくれるべき理由が、何かあると思うのか?
オルダリーアに逃げれば、オルダリーアの貴族の都合で奪われた挙げ句、使い捨てられるだけのことだ。
たとえ、今この土壇場から逃げられようと、我々が奪われる側であり続けることに変わりはない」
諭すように語り効かせる団長の言葉に、ゴラグロスは反論することが出来なかった。
ウィーグラフは、理想的な革命に拘りすぎるあまり現実認識能力に欠けるところがあるのは事実だったが、それは彼の知的劣等を示すものではない。
一軍を率いる将として相応しい識見と分析力を有する戦略家こそが、骸旅団のリーダーだったのである。
確かに、ウィーグラフの言う通りな状況ではあるのだ。
オルダリーアかロマンダの隣国どちらかに逃げ延びれたとしても、『武装蜂起して敗れた反乱軍の生き残り』でしかない自分たちに、仕事や生きていく場所を与えることを『逃げ延びた国の支配者たち』は許してくれるだろうか?
亡命が認められたとしても、乞食のように生きるか、野盗にでも身を落とすかしか、その後も生き続けられる手段がない。
仮にゴラグロスの案が採用され、人質交渉によって今の窮地から脱することが出来たとしても、それは『現在の窮状』から脱するだけで、『貴族たちの都合で生死を決められる平民の立場』から逃れられる訳では決してない。
「オルダリーアに逃げ延びられた時には、オルダリーアの貴族たちによってイヴァリース侵攻のために利用され、切り捨てられるだけのこと。
ロマンダに逃げれば、ロマンダの民衆を支配している貴族たちに。
それ以外の国に逃げようと、その土地が『貴族の支配する国』である限りは、我々『平民の反乱軍』に安住の日が訪れることは決してない」
ウィーグラフの言葉と声は、もう詰問口調の責めているものではなかった。
相手が嘘を吐いている訳ではないこと“だけは”察してやることが出来たから。
仮に、この場を人質交渉で乗り切ったとして、“その後の自分たち”はどうなるというのだろう?
この窮地から脱したところで、自分たち骸旅団の残党たちには、行ける場所というものが、今の世界にはどこにも無い。