平民派DQN女オリ主がいくFFタクティクス   作:ひきがやもとまち

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何度も書き直した末に、ようやっと更新です。
それでも出来た内容の戦闘シーンが思ったよりショボクなってしまって残念…。
どうにも最近、長い話を書くのが下手になり、上手く書けない状態から抜け出せない次第。
気持ちの問題なのかなぁー…改善を目指します。


第20話

 私がテッドさんに『捕らえたミルウーダさんの人質交渉』と『ミルウーダさんの敗報を届ける部下として接触』という方針の異なる二つの案を持たせて、ジークデン砦に先行してもらったのには二つの目的と理由によるものでした。

 

 一つは、報告がもたらされるタイミングを遅らせること。

 『戦闘中に敵襲を知らせる急使』と『戦い終わって敗報を届ける生き残り』では、当然ながら知らせを聞いた側の対応と状況判断の条件とが大きく異なります。

 敵から攻撃を受けて戦闘中なら援軍が間に合う可能性がありますが、負けた後に敗北したことを知らされても手遅れです。

 敵に判断を迷わせ、こちらの接近を気づかせない、まぁよくある小細工ですけど何もしないよりはマシというもの。

 

 そして今一つの理由は、『ティータさんが今どの部隊と行動を共にしているか?』が不明だったからです。

 ガリランド付近まで到着して軍の動きを探っていたときに分かったことなのですが・・・・・・どうやら私が予測した以上のスピードで骸旅団殲滅作戦は進んでいるらしく、すでに組織は瓦解しはじめ組織だった抵抗をしている者は少数派になりつつあるのが現状のようでした。

 こうなってしまうと、『骸旅団に浚われたティータさん個人の救出』を目的とする私たちとしては条件が大きく変わってしまう。

 『骸旅団に誘拐された』という場合には『骸旅団との交渉』が可能でしたけども、『骸旅団残党部隊のどれかが連れて逃げている』という状況下では、まずどの部隊が確保しているのかを把握しないと交渉も救出もできようがない。

 

 骸旅団という組織の壊滅を目的とする北天騎士団にとっては、部隊ごとに分断しての各個撃破は戦略上でも理に叶っていて「流石はザルバッグ兄君様です」とか妹らしい褒め言葉でも言いたくなれるのですが・・・・・・個人の救出を目標とする私たちにとっては、敵は一枚岩であってくれた方が楽だったというのが正直なところ。

 

 そういう事情から当初の計画に微調整を加えて実行してもらい、すでに骸旅団という組織は事実上壊滅した『骸旅団の残党部隊』となりつつある敵軍の中で彼女を発見するのは至難の業かと、内心で苦々しく思いながらも止まる訳にも行かず進軍を続けていた私だったのですが・・・・・・どうやら思い上がりの傲慢が綻びを生んでしまったかもしれません・・・・・・。

 

 テッドさんの後を追い、ジークデン砦へと続く道の途上にある風車小屋まで部隊を進軍させた時のことです。

 ちょうど小休止していたらしい、敵の一部隊がこちらの接近に気づいて迎撃のため飛び出してきて陣形を整えるのを遠目に見やりながら――ふと、敵の中に見覚えのある姿がいたような気がして目をこらすと・・・・・・

 

 

「げっ!? う、ウィーグラフさん・・・!?」

「バカな! なんでヤツがこんな前線近くまで出張ってきてるんだっ!?」

「く・・・っ! ティータ救出に急がなきゃいけない時に・・・!!」

 

 

 この反乱騒ぎの中、おそらくは最大最強の敵が私たちの部隊迎撃のため出張ってきてしまったことを知らされた私と兄さんとディリータさんの三人は揃って顔色を青く染め、口元を引きつらせながら敵部隊殲滅のため総力戦を覚悟して準備を命じます!

 

 平民達から成る義勇騎士団を中核として民衆たちで編成された反乱軍『骸旅団』

 その中で只一人、『騎士団長』の役職を与えられて配属されていた正騎士ウィーグラフ・フォルズ骸騎士団長が、私たち士官候補生だけの部隊の前に立ちはだかり、決戦の火蓋が切って落とされる。

 

 おそらくは歴史に残るような戦いではなく、本戦である骸旅団と北天騎士団との決戦がおこなわれる中で生じていた偶発的な遭遇戦の一つとしてしか記録されることはないであろう、この反乱最大にして最重要な戦いは、こうして始まりを迎えることになったのです・・・・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの少年達はギュスタヴのときの・・・・・・まさか彼らが、“お前たち”がミルウーダを殺ったというのか!?」

 

 妹が敗死したかもしれぬという凶報を受けた直後の敵襲に、剣を手に取り怒りに駆られて小屋を飛び出した私の視界に、見覚えのある三つの頭髪と六つの瞳が目に映り、記憶を刺激された私は思わず――激高せざるを得ない憎しみを禁じ得なくなっていた!!

 

 部下達に命じて迎撃の陣形を整えさせながら、それでも私は奴らに怒鳴り声で問う。問わずにはいられない。

 いや、あるいは問うてすらいなかったのかもしれない・・・私の中で叫ばずにはいられない感情が、ただ声を出すことを望んでいただけだったのやもしれない・・・っ。

 たとえ部下達に対する指揮官としての責任を今この時だけは放棄することになろうとも、問わずにはいられない激情に駆られるべき理由が私にはあったのだから!

 

「お前達がミルウーダを・・・お前たち士官候補生たちが我が妹、ミルウーダを倒したというのか・・・!

 貴族共の不当な支配と差別から平民達を救おうとしたミルウーダを、お前たち士官候補生如きが・・・・・・ッ!!」

 

 妹の革命にかける情熱の強さを知る兄として、それは許されざることだった。

 妹の熱情を知る全ての者たちにとって、その死に方はあまりにも理不尽で侮辱的で、彼女の死を無駄死に貶めるような、あまりにも冒涜的すぎる死に様の強制だったからだ!!

 

 貴族と戦って力及ばず果てたというなら、平民たちのため命を捨てて戦った妹の魂は、新しい世のための礎になった一人として、志半ばで無念であっても決して卑下される死ではなくなっていたはずだった。

 

 ・・・だが! 士官候補生を相手に戦死など! “貴族未満の子供たち”に戦死させられるなど!

 それでは一体なんのために妹は死んだことになるのだ!?

 未来を生きる子供たちのために戦っていた心優しいミルウーダは、勝っても負けても貴族支配に一石を投じることすらできない、「殺されても他のスペアに変えるだけ」でしかない家を継がせる道具でしかない貴族の子供たちに殺されて・・・・・・そんな『死』がいったい誰の未来につながれると言うのだ!? なんのために役立つことができる『死』だったというのだ!?

 

 まして! ・・・そんな死に方をミルウーダに強要した者たちが、『私が理想的な革命を守るため』『かつて見逃してやった士官候補生たち』というのなら尚更に・・・・・・!!

 

 

「・・・もしそうなら、退くわけにはいかない。妹の仇を今ここで討たせてもらう他に道はない!

 全軍、全力を挙げて奴らを倒せ! 一人も生かして帰さぬつもりで挑むのだ!!

 ミルウーダの死を、掲げた理想を、決して無駄にさせてはならん!!」

 

『『『オオォォォォォォッ!!!!』』』

 

 背後から轟く兵たちの檄と共に、私も剣を引き抜き刃と殺気を前方の敵全面に放出する!!

 戦略的に考えるなら、たかだか士官候補生の一部隊に手間取るのも消耗するのも愚策、ここは退いて北天騎士団本体に対するための戦力を少しでも維持することこそ賢明・・・・・・それは分かる。分かってはいる。

 

 ・・・・・・だが、今ここで奴らを殺すことなく退くことは、妹を殺した者どもを復讐せずして見逃すことは私にとって決して出来ない! 一人の人間として許されない!

 

 そう、許されないのだ。奴らも、そして私自身も!!

 『ミルウーダを殺させた共犯者』として、私には骸旅団の団長としてではなく、一人の人間でありミルウーダの兄ウィーグラフ・フォルズとして、妹の仇だけでも取ってやらねばならない義務が絶対的にあるのだから!!

 

 非合理! 無責任! 上に立つ者として職務怠慢! なんとでも罵ればいい! その通りだ!

 だが私は人間なのだ!

 骸旅団の長という役割以前に、生きる術を奪われ、家族を奪われ、怒りのあまり王家に刃を向けて世を変えたいと理想を抱いた民衆たちと同じ、ただの一人の人間として私は妹を殺した奴らが憎い! 決して許すことは出来んのだからッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

「お前達がミルウーダを・・・お前たち士官候補生たちが我が妹、ミルウーダを倒したというのか・・・!

 もしそうなら、退くわけにはいかない。妹の仇を今ここで討たせてもらう他に道はない!」

 

 ・・・・・・敵将からの、その叫びを聞かされた瞬間。

 心が青臭い衝撃を受けなかったと言えば、間違いなく虚勢だったとオレは自覚させられていた。

 アルガスに嗤われようと、敵の叫びで痛みを感じてしまう自分の心に、虚勢という名の嘘を吐き続けることが出来そうもない己自身を思い知らされずにはいられない・・・っ。

 

 貴族たちとの戦いに無関係な妹を巻き込んで誘拐した酷いヤツら。

 ・・・だが、そんな彼らにも家族がいて、大事な妹がいて、妹が殺されたことに怒り狂う兄がいる――そんなのは当たり前のことで、敵はただの人間たちの集団で、伝承にある《ルカヴィ》と呼ばれた悪魔たちのような人外の怪物共じゃない。ただの飢えた平民たち。

 

 それが骸旅団という反乱組織なんだということぐらい、最初から分かり切っていたことだった。当たり前のことだった。そのはずだった。

 

 ・・・・・・だが今、こうして『妹を浚われて』『妹が殺されてしまった時の自分』を想像し、『勝手な理由で妹を傷つけたヤツらを許せない』という怒りに燃えていた先日までの自分自身を忘れられずに覚えている立場として相手の言葉を聞かされた瞬間。

 

 思わず、“怯み”を感じざるを得ない自分自身の心を自覚させられたんだ・・・っ。思い知らされたような心地を味あわされるんだよ・・・ッ!

 「今までの自分が分かっていたつもりで何も分かっていなかった」とか、「理屈で分かってるだけで心で理解できてた訳じゃない」とか、そういう小綺麗な理屈を思ったわけじゃない! 違うんだ!

 

 ただ、何か・・・・・・ナニカが俺の中で感じさせられて、相手の言葉に思うところがあって、ナニカが始めてナニカを終わらせたい衝動に駆られてるような・・・・・・そんな気持ちが俺の中でムクムクと生じ始めてしまった・・・・・・そんな気が微かに、だが確かにオレの気持ちと心と頭を占拠し始めている。そう実感させられていた。

 

 しかし―――だけど、今は。

 

「ウィーグラフ! ティータを――オレの妹を返してくれッ! 頼むッ!!」

 

 かろうじて相手の発言と、事前にラムダから聞かされていた現在の状況とがオレの頭の中で感情を抑制して理性が勝り、嘆願の言葉を吐くことを可能としてくれていた。

 正直ヤツらに同情してるかと言えば、そうではない。滅びが確定したヤツらの意志を継ぎたがっているかと言えば、そうでもない。

 同じ平民同士であっても、奴らとオレとでは立場が違い、目指すべき未来の在り方が違っている―――そう実感するようになっていたことが、オレの行動を感情とは別の理由で冷静なものに変えてくれる。

 

「ティータだと・・・? あの娘のことか?

 ならば、お前がベオルブ家の? ・・・・・・しかし・・・」

 

 こればかりは嘘偽りなく叫んだオレの嘆願に、ウィーグラフむしろ困惑したような声で呟くと、訝しそうに俺の姿を見つめて目をすがめる。

 『綺麗ではない赤茶けた髪と瞳の色』そして『ティータ』という名前。どちらも『大貴族ベオルブ家』に連なる者には存在しないはずの特徴をオレたち兄妹は持ち合わせて生まれてきていた。

 

 今まではそれが家の中で孤立させられ、自分たちが部外者なんだと思い知らされる理由になり続けてきたものだったが・・・・・・今だけはその違いが有り難い!!

 

「彼も、その妹の少女もベオルブ家とは関係ない! 僕がベオルブの名を継ぐ者だッ!

 貴族に奪われたことを恨むというなら、僕にぶつけろウィーグラフ! その代わりに彼女を解放してあげて欲しい!!」

「そういうことか・・・なるほどな。ゴラグロスの奴め、浚うべき相手を間違えたばかりか、それにすら気づかず人質として用いようと進言していたとは・・・・・・」

 

 ラムザからの叫びが、オレの言葉を補填してくれて、ウィーグラフが苦い顔になり舌打ちする音が聞こえてくる。

 それはウィーグラフと初めて出会った時と同じように、彼がまだ理想的な革命にこだわっている事を示すものでもあった。

 これなら交渉できる可能性はあるかもしれない・・・! 俺の心と表情はこの時、もたらされた希望に久方ぶりの暖かさを感じられたが―――直後に、その希望と暖かさは冷酷な現実に打ち砕かれる事になる。

 

「――だが、まったくの無関係という訳ではないのだろう?

 そうでなければベオルブの名を継ぐ者が、お前の妹を救うため庇い立てするはずもない」

 

 冷静な声で指摘され、思わずオレは返事に詰まる。

 それはラムダから指摘されていた、オレが自制して感情を抑えざるを得ない理由が、現実となっている可能性を示唆する危険極まりないものにオレには感じられた。

 

「ベオルブ家に関わる者ならば、皆一緒と言うのか!? ウィーグラフ!」

「違うとでも言いたいのか? ベオルブの名を継ぐ者よ。

 元より我らが抗うは、この国の体制そのもの。貴族支配による民衆への搾取と、特権に寄与する者たちから自分たちの自由と権利を取り戻す事だ。

 お前たちベオルブ家とて、王家に与して特権を与えられ禄を食むが故に、イヴァリース大貴族の一員となっているに過ぎぬ身であろうに」

「・・・っ!! それは・・・・・・しかしッ!!」

 

 相手からの返答にラムザが窮して、オレもまた一瞬だけでも言葉を飲み込まざるを得なくさせられる。

 たしかに相手の言う通りではあるのだ・・・・・・オレも妹のティータも、貴族の血を引いてなんかいない。

 大貴族であるベオルブ家の令嬢と間違われて妹が誘拐されただけに過ぎない、巻き込まれた身ではあるが――それは立場だけなら、ベオルブ家さえ同じ条件ではあるのだ。

 

 貴族社会の改革だけでなく、貴族制の完全な撤廃を求める骸旅団にとって、戦いを挑んだ相手はイヴァリースという国。現在の社会そのものが彼らにとっての『倒すべき敵』だ。

 『ベオルブ家そのもの』を倒したがっている訳ではない。

 

 国に仕えている大貴族『ラーグ公の側近一族だから』

 骸旅団が活動場所にしたイグーロス地方がラーグ公の領地で、公爵配下の『北天騎士団の本拠地でもあったから』

 

 だから『ベオルブ家の屋敷は襲撃された』のだ。

 彼らにとって襲撃したかったのは『ラーグ公の側近一族』であり『北天騎士団の指揮官』だった。その役職に就いていた貴族だったら誰だろうと同じだった。

 もしギュスタヴに誘拐されていたのがラーグ公爵で、北天騎士団の頭領一族がエルムドア侯爵家だったときには、彼らは今と全く同じ理屈を口にしただろう。

 

 俺たち兄妹を巻き込んだベオルブ家でさえ、イヴァリースという国全体の変革という巨大な流れの中では『巻き込まれた貴族の一家』に過ぎないのだから・・・・・・!

 

「そんな事はどうでもいい! どちらにしろ彼女は解放するつもりだった、人質に取るつもりはない。

 命惜しさに卑劣な手段を取り、我が身かわいさの保身を謀るが如き輩に成り下がったと行動によって示してしまえば、我々の志を引き継ぐ者など誰も現れるはずがないのだから!」

「!! なら―――っ」

 

 相手の言葉で、憎しみの向け所が分からなくなって混乱させられ欠けていた俺の心に、光明と共に冷静さと希望と――そして再びの絶望を与えてきたのは皮肉な事に、またしても敵からの言葉だった。

 

「だが、その前に貴様らとの決着をつけさせてもらう!

 あの娘を返して欲しくば、君が生きて妹との再会を望むのであれば、私を倒してからにするがいい!

 君の言う通り、彼女はベオルブ家と無関係かもしれないが、“貴様ら”自身には我が妹ミルウーダを殺して命を奪った仇という、私にとって憎むべき正統な理由を持っている者たちなのだから!!」

「!? それは――っ!!」

「ディリータさんッ!!」

 

 思わず相手からの言葉を聞かされた瞬間、反射的に口をついて出そうになってしまった「ミルウーダは死んでいない。俺たちは彼女を殺していない」という真実の公開。

 それを制したのは、普段は冷静な親友の妹から放たれた制止の叫びだった。

 

 誤解されやすい性格と言動で、ときに冷淡とも酷薄とも受け取られることもある彼女だったが、この時ばかりは切羽詰まった表情と声音で必死に俺の『退路を断たせる言動』を止めに入る。止めてくれた。

 

「堪えて下さいディリータさん! 今ここで彼女の生存を告げてしまったら、私たちは手札を完全に失ってしまいかねません・・・!」

「・・・分かってる・・・! ああ、分かってるさラムダ、大丈夫だ。大丈夫だから・・・ッ!!」

 

 ほんの一瞬前まで迸る寸前だった言葉を、歯を食いしばって血が滲むほどに噛み殺し、俺の体外に生まれ出る前に命を失わせるため懸命に心と体を押さえつける・・・!

 妹と一刻も早く生きて再会したい想いと、『より確実な妹の生還』を求める冷たい計算が俺の中でせめぎ合い、葛藤し、最終的には後者が勝利を収めて暴発は未然に防がれる。

 

 ――それは戦いが始まる前、『ティータを助けられる条件』の一環として冷静さを欠く俺に代わってラムダが語ってくれた『ティータに危険が迫る条件』が頭の中に残ってくれていたお陰だった。

 

 

 

 

 

「兄様、ディリータさん。私たちがミルウーダさんを殺さず、生かしたまま捕らえたことは交渉できる段階まで来たとき以外は伏せておくよう気をつけて下さい。

 それと出来ればティータさんがベオルブ家の令嬢ではないという真相も、敵部隊を率いる幹部クラスにしか言わなれませんようお気をつけを」

 

 この風車小屋まで続いていた山道を昇る途中で、そうラムダは俺たちに歩きながら言ってきていた。

 

「なぜ・・・? ティータを助けるには彼女が間違って浚われただけで、ベオルブ家の令嬢ではないから人質としての価値がないと教えるのが一番なんじゃないのか・・・?」

 

 不審げにラムザは妹からの提案に、今回ばかりはキツい口調で反論していた。

 俺もラムザに同感だった。彼女は誤解されて誘拐されただけで、俺たちみたいな平民の兄妹を助けるために貴族たちが交渉に応じてくれる訳がないのだから、そのことを教えてやれば奴らも諦めて妹を返してくれる可能性が出てくる。

 

 正直、今では俺もそう思うようになってきていたし、現実問題としてベオルブ家以外の貴族にとってオレたち兄妹はただの平民でしかないのが事実なのだから、それを告げてやるのは有効だ。・・・そう信じていたのだが・・・しかし。

 

「そうです。彼女は勘違いで浚われただけで、ベオルブ家にとっても他の貴族たちにとっても人質としての価値がない、単なる平民の女の子です。交渉カードに持ち出したところで意味はない」

「だったら―――」

「だからこそ“私たちに対して”は、人質としての価値があるでしょう?」

『『――あ』』

 

 言われて、オレたちは2人そろって間の抜けた声で間抜け面を晒してしまう。

 次いで赤面して俯いてしまった。

 ティータを浚われたことと助け出すことに必死になりすぎて、こんな当たり前すぎることにも言われるまで気づかなくなっていた自分の不明に恥ずかしさを覚えずにはいられなかったからだ。

 

 ミルウーダが語っていた評価は別として、ティータを勘違いから誘拐した連中は『生き残ること』が目的だったからこそ、人質として浚ったのだろう。

 ならば、捕らえた敵大将の妹とベオルブ家令嬢と勘違いされているティータを交換したところで、奴らの目的にとっては意味がない。

 窮地に陥った状況で敗将一人帰ってきたところで、奴らの窮状にはなんの効果も与えようがないのだから。

 

「もともと、今回の骸旅団殲滅作戦において、最大のターゲットはウィーグラフさんだけです。

 もともと彼が呼びかけて、応じて集まってきた平民出身者や帰還兵なんかを組織化して反乱勢力に育て上げたのが骸旅団ですからね。

 彼なしの状態だと、“飢えた民衆”と“食い詰め兵士”が寄せ集まった烏合の衆でしかないのが彼らだったのですから、組織を作った大元を捕殺できなければ意味がない。

 逆に言えば、『ウィーグラフさんを確実に確保できるなら他のザコはどうでもいい』・・・それが今作戦の絶対条件」

 

「ですので私は、ミルウーダさんを殺さずに捕縛することで、“敵大将の妹が敗れながらも殺されずに生かして囚われた”という証拠をえる必要があったのですよ。

 “骸旅団の首魁であるウィーグラフに関する重要な情報を教えるなら、貴様らだけは助けてやってもいい”、“現にウィーグラフの妹ミルウーダは部下を助けるため提案を受け入れた”、“嘘だと思うなら証拠を見せてやる”・・・・・・とかの流れを作るために」

 

 用意周到すぎる親友の妹の計略に、オレとしては苦い顔をして首を左右に振るしかない。

 こんな時ではあったが・・・純粋なティータが彼女と付き合って、悪い影響を受けなければいいと心から思わずにはいられない

 

 ――だが、僅かな間だけとは言え敵中でなごやかな雰囲気になることが出来たのは、ここまでだった。

 次に続いていた彼女の話で、オレは現状が決して今までの綺麗な日常世界の延長ではないことを思い知らされることになる――

 

「交渉するとき、コチラが交渉を持ちかけてきた目的を知られてしまってたら負けです。足下見られる上に他の連中まで便乗しかねない。

 ティータさんを確保してるしてないに関係なく、“返して欲しければ”と言えば交渉のテーブルにつけるなら空手形だって切りまくるのは当然の状況。

 ・・・・・・最悪の場合、彼女が平民の娘で“ベオルブ家令嬢ではなかった”と知った彼らが激情に駆られ、“自分たちを騙した売女!”として殺してしまう危険性があるほどに・・・」

 

 深刻な表情で告げられた恐るべき未来予測に、オレもラムザも揃って絶句させられ顔面蒼白になりながらも、彼女の言葉を否定するための理屈で頭が覆い尽くされるのを実感させられていく。

 

 ――そんなバカげた理屈があるだろうか? 奴らが勝手に勘違いして浚っていっただけなのに、それが分かった途端に人質の方が騙していたと言って殺すなんて・・・。

 自分たち兄妹は平民の子供で、ベオルブ家で一緒に生活していただけの被害者でしかない身分なのに、そんな自分たちを貴族制の廃止や平民による政治を訴える革命軍が殺すのは矛盾している―――そうも思ったからだ。だけど・・・・・・

 

「自分や仲間や、連座して家族まで殺されそうな時に、そんな理屈が通じる人が多くいると思いますか?

 “そんな事やっても意味がないから”と言われて、“ハイそうですね”と素直に理を認めて、自分たちが殺される危険が迫るのを大人しく見てる道を選べそうですか? ディリータさん」

「それ・・・は・・・・・・」

 

 相手に言われてオレは心の中でギクリとし、言葉を探すように視線をさまよわせる。

 思い出すのはベオルブ邸を出立する前にラムザと交わした会話だ・・・・・・あの時のオレはどうにか持ちこたえる事が出来たが・・・・・・アレがもし、相手がラムザじゃなかったなら、赤の他人から言われただけだったなら・・・・・・自分は憎しみと激情に耐えることが出来たろうか・・・?

 

「人の感情という名の心とは、そういうものです。

 冷静なら絶対やらない馬鹿なマネでも、時としてやってしまうことがある。そうせずにはいられない気持ちに駆られることが誰にだって絶対にある。そういうものです。

 だから彼らにそうさせないためにも、ティータさんの正体と、ミルウーダさん生存の情報は可能な限り伏せたまま事を進めざるを得ないんですよ。

 彼らに、“生存の可能性はない事実”で退路が断たれるのを避けるために。

 彼らに、“生存の可能性がある証拠”を示せる状態を維持するために―――」

 

 

 

 

 

 

 ――傍らでディリータさんが葛藤していることが表情でも仕草からでも伝わってきて分かってあげられている状況の中。

 そんな彼の内心とは無関係に理不尽に、敵さんたちからすれば不条理に抗うための戦いとして戦況は一進一退の様相を示してきておりました。

 

 平民たちからなる義勇騎士団とはいえ、流石に団長が直率する部隊は選りすぐりの精鋭だけで固められているらしく、腕も良ければ編成もいい!!

 

 特に今までの敵と違って手強い相手になっているのが――・・・・・・っ

 

 

「クェェェェェッ!!」

「ボコか! 助かったぞっ。後は任せて他の者の元へ行ってやってくれ!」

「クェッ!」

 

「くそッ! また回復されちまった! コッチも回復して仕切り直す! 《ケアル》急いでくれッ!」

「む、無茶言わないでよ! 鳥と違って私たち人間の魔道士には詠唱って順序があるん・・・だから・・・ッ! 精神力だって無限じゃないんだから・・・ね・・・っ! けほッ、こほッ」

「クッ! 足が速すぎて《ファイア》が間に合わない! エレガントな詠唱より早く動かれてはどうしようも・・・ッ! せめて絶対確実な間合いに入ってくれさえすれば!」

 

「クェェェェェッ!!!」

 

 

 縦横無尽に駆けまくりながら、傷ついた敵を片っ端から回復してっちゃう可愛い鳥さんの《チョコボ》が敵部隊にいるからでしてね! おかげで回復力で完敗してますよコンチクショウ! 見た目は可愛いのになぁもう!!

 

 《チョコボ》はモーグリと同じくFF世界でおなじみのマスコット生物にして、馬の替わりの騎乗用生物として飼育されてる設定のFFタクティクス・バージョンな存在です!

 他のFF世界同様に、羽が退化して飛べなくなった大型の鳥類で、気性などの理由で飼育しやすく馬の替わりに騎乗用の乗り物動物としてイヴァリースでも主流になっている動物なのですが――この世界のチョコボさん最大の特徴は、とにかく強いってところ!

 

 羽ばたきによって体内の生命力を活性化させることで、モンクが操る《気》のようなものでも周囲に発散させているのか、自分だけでなく近くにいる敵味方まで傷を癒やせる《チョコケアル》で白魔道士の代理まで果たせて、自分単独でも並の戦士では歯が立たない強力なモンスター並みの戦闘力を持ってまでいる!! しかも乗り物としても移動に使えて超便利!

 

 そんな便利すぎるチート気味な存在なのが、イヴァリース世界のチョコボさんです!

 正直うちの部隊にも一匹か二匹ぐらい欲しい存在だったんですけど、何故いなかったのかといえば・・・・・・高いからですよ!! そんな便利すぎる存在が安いわけがないですからね!

 

 単なる移動用に使うだけのチョコボだったら値段もお手頃ですが、戦闘にも参加できる軍馬としての訓練を受けさせられてる《軍用チョコボ》なんて餌代も含めて、正規の騎士団でもない限りは滅多にお目にかかれない存在をウィーグラフさんは隠し球として用意していやがりました!

 

 おそらく50年戦争時代から使ってたのを、反政府勢力の頭目になった後まで餌代の出費覚悟で手元に置き続けてたんでしょうが・・・・・・今の私たちにとっては疫病神以外の何物でもないですね! この可愛いチョコボさんは本当に全く、かわいさ余って憎さ百倍!

 

 ・・・・・・挙げ句の果てに、私たち部門の頭領ベオルブ家の兄妹2人はと言えば―――

 

 

「つあぁぁぁッ!!」

「ふんッ!!」

「もらった! はぁぁぁッ!!」

「ほう? やるな!」

 

 ガキィィィッン!!

 

 私が身軽さを活かして放った連撃を、いとも容易く一撃のなぎ払いだけで弾かれてしまうほど、強すぎる敵リーダーさんを二人がかりで相手取るのが精一杯な体たらくですよ!

 

 体重差があり、腕力では勝負にならないウィーグラフさんの一撃を受け止めるわけにもいかず、そのまま吹き飛ばされる反動を利用して後ろに飛びすさった私の横から飛び出して、剣を振り抜いたばかりの状態にあるウィーグラフさんに、兄様が渾身の突き技を放ったというのに、それすら余裕の笑みを浮かべながら児戯同然に押さえ込まれる始末!

 

 クソッ! この人ほんとうに強い! 五十年戦争経験者っていう存在と、経験を積んだ士官候補生との壁がここまでありますか!?

 

「流石はベオルブ家の子息と息女というところだな。なかなかどうして、その歳で大した腕前を持つに至ったものだ。ミルウーダが敵わなかったのも無理はない。

 戦士としてだけとはいえ、兄たちの薫陶よろしきを得ている。と言ったところかな」

 

 悠然と剣を構えながらも、隙は全く見いだせず、動きが止まったからと他の味方部隊を助けにいくため注意を逸らせば、その瞬間に致命の一撃を放ってくるつもりでいることを殺気を隠さないことで敢えて分かりやすく伝えて牽制までしてくる革命軍の凄腕リーダーから、お褒めのお言葉を賜りました!

 苦しすぎる戦況に追い込んでくる相手に言われても、全く嬉しくないですけどね!

 

 ・・・・・・くそ、ディリータさんに指揮を任せられたおかげで何とか戦線を保ててはいるみたいですけど、このままじゃ流石にキツい・・・・・・何かしらで潮目が変わる切っ掛けが得られれば良いのですが、この敵はそれを許してくれるほど甘い人かどうか――っ

 

 

「いいだろう。私も君たちを・・・・・・貴様らを、もう子供とは思わない。全力で倒すに足る“対等な敵”として殺す。

 五十年戦争で仲間たちを守り続けた我が剣技の冴え、受けてみるがいい――」

 

 

 そう言うとウィーグラフさんは、不思議な動きを見せ始める。

 構えていた剣先を一度、ゆっくりと下段に降ろした後、今度は大きく振り上げて大上段へと振り下ろす構えへと移行させていく。

 

「「・・・・・・??」」

 

 私も、そして兄様も相手の動きの意味が分からず、警戒だけは解くことなしに互いをフォローし合える距離を保ったまま少しずつ相手との距離を縮め続ける。

 本音を言えば、無駄としか思えない動きに乗じて斬りかかりたいところなのですが・・・・・・隙がありません。

 一見ゆっくりとノンビリと剣を動かしてるように見えながら、完全に足を止めて意識を研ぎ澄ましての動きであり、むしろ乱戦の中で意識が乱れて四方八方を警戒しているときの方が、ちょっとした事で集中が乱れやすく隙は生じやすいもの。

 

 相手を攻めるため斬りかかれば、倒せる可能性を得られる反面、敵に近づき間合いの内側で剣を動かす隙を見せることにも直結してしまうもの。

 『負けて当然。勝って偶然』という言葉が将棋の世界であるように、戦い始める前の状態こそが最も隙がなく万全な状態であり、一手攻める毎に自陣の中には隙間が次々と生じ続けてしまって、埋められることは二度とない・・・・・・それが剣と剣との打ち合いというもの。

 相手が無駄な動きを示してきたからといって、安易に攻め込めるというものではない。

 

 

 ・・・・・・幸い、“相手の剣からは離れた位置”で見ていられる状況でしたので、何かしらの技なり魔法なりを使ってきた時には、見てからでも対応できる距離に私たちはいます。

 

 

 あとは、相手の使ってくるアビリティ(能力)次第。

 

 技であるなら、ジョブによって間合いがあり《騎士剣》を用いて使える《ナイト》の能力は接近してからしか効果が薄く、まず距離を詰めてくるための手を打ってくるでしょう。

 

 魔法であれば、呪文詠唱の時間が絶対必要になり、詠唱に時間をかけずに使おうと思えば威力が出せずに食らってしまっても対応可能な体力を残さざるを得ません。

 

 ・・・・・・ただ、その程度のことが分からない相手とも思えない強敵であることだけは、唯一にして最大の懸念材料ではありますが・・・・・・一体なにをやる気なのか・・・。

 

「――いい判断だ。この技の動きを隙と見て、不用意に斬りかかってこなかったことは賞賛に値する。

 だが、甘い。もう一手足りなかった。

 この技の動きを見た瞬間に足を止めた後、一刻も早く逃げるべきだったのだ。その道を選ばず、踏みとどまる選択肢を選んでしまったことが君たちの敗因だ」

 

 フッ―――と、小さな笑みを唇の端に閃かせながら勝利宣言してくるウィーグラフさん。

 兄様はそれを侮辱と感じたのか、表情を強ばらせながら僅かに一歩前に進み出て、私は妙な相手の自信に違和感を感じながらも不自然な点が見いだせず、戸惑いながらも兄様の後に続こうとして―――ふと、上を見上げたときでした。

 

 相手が掲げていた頭上の剣。

 太陽の光に照り返された切っ先が・・・・・・ふと。

 

 陽の光の色とは異なる、“青白い陽炎のようなオーラ”を纏わせ始めている光景が視界に入ってきて――――って、ちょっとコレまさか!?

 

 

「兄様危ないッ!! あれは《聖剣技》です!!」

「!! 聖剣技って――ザルバッグ兄さんのっ・・・!?」

「集中ッ!!」

 

 私は必死に叫んで兄様に向かって警告を発し、無駄で無意味な動きに視線を向けさせ偽装されていたことに気づけなかった自分の間抜けさを心の底から罵倒しながら!!

 

 それでも今からでは逃げられない、“ソレ”に対抗するための手段を他には知らない、“教えられていない”私たちは必死にソレをやることしか出来なくなって――

 

 ウィーグラフさんの振り上げられた切っ先が今・・・・・・振り下ろされました!!

 

 

「「がッ!? ・・・あ・・・・・・っ」」

 

 

 ――その瞬間、すさまじい痛みが私たちの体を走り抜け、声を出すことすら出来なくなって、思わず意識が一瞬だけ遠ざかり―――そして、どこかに辛さごと取り払ってもらえたみたいに穏やかに、ゆったりした気持ちと安らぎが心の中に染み入ってくるのを感じさせられてくる・・・・・・。

 

 ・・・まるで母親に抱きしめられた時みたいに、穏やかで優しい温もりの中で・・・・・・痛みも、疲れも、なにもかも投げ出して、今だけは休んでいいんだと言われてるような気分になり、一時だけでも意識を手放し、一休憩入れたい誘惑に抗いがたい魅力を感じ始めてしまっていく・・・・・・

 

 そんな―――強烈すぎる“睡魔”の誘いに、傷ついた私と兄様の体は襲われてしま・・・って・・・・・・抵抗できなくなっ・・・・・・て・・・・・・それ、で・・・・・・わた、し・・・・・・は―――

 

 

 

「――“命脈は無情にて惜しむるべからず”――

 今生での苦痛から解放され、穏やかな眠りの中で葬り去るが、我が剣技《不動無明剣》の極意なり。

 心安らかなる眠りの中で死なせてやるのが、貴族ではなく剣士としての君たちに与える、せめてもの慈悲。

 妹を殺した罪を、君たちの死によって今許す。迷うことなく逝くがいい。

 君たちのことは、嫌いではなかった―――」

 

 

 

 ウィー・・・グラフさん、が・・・・・・振り下ろしてくる剣の刃のかがやき、が・・・・・・私たちの見る・・・・・・最後の景色になると知ってるの、に・・・・・・わたし、は・・・・・・私たち・・・・・・は―――

 

 

 

 

つづく

 


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