平民派DQN女オリ主がいくFFタクティクス 作:ひきがやもとまち
途中で色々と予定が変わってしましまして……大筋のストーリーは同じままなんですが…。
とりあえず投稿です。予定変更の流れが続いてバランス悪くなってるかもですが、そこはお許しを(謝罪)
――それは僕たち兄妹が、士官アカデミーに入学する前の年の秋。
王都の幼年学校に通うため寄宿舎に入っていた僕たち兄妹は、収穫を祈願する催事のためイグーロスへと一時帰省していた、ある夜の出来事だった。
後になって考えれば・・・・・・いや、翌年の同じ月になった頃の僕には、それが五十年戦争末期の時期で、長すぎる戦争が終わる最後の秋だったことが分かることができたと思う。
だけど、その当時の僕にとって戦争は、本当に終わることが出来るのかさえ分からないほど、混沌とした戦況の只中にあるものとしか思うことが出来ないものだった。
僕たちが生まれる前から始まっていて、今になっても終わることが出来ずにいる、祖国イヴァリースとオルダリーアとの戦争・・・。
それは僕たちの正直な感覚として、生まれた時から当たり前のように人生の横に起き続けてきた、終わることが出来るのかさえ分からないほど日常的な悲劇の連続。
日に日に貧しくなっていく人々の暮らしぶり。毎年少しずつ暗さを増していくように見える街の雰囲気――その何もかもが僕たちにとって物心ついた時から当たり前のように身近にあり続けてきた、戦争という名の『どうしようもない現実』
永遠に続けられる戦争なんてないと分かっているけれど・・・・・・それでも今のまま、イヴァリースを永遠の闇の中に閉ざし続けて、世界の終わる日までずっと戦争を終わらせることは出来ないんじゃないだろうか・・・・・・?
そんな恐怖を心の中に抱きながらも、士官候補生にもなれていない今の自分にできることなんて何もなく。
ただただ焦りと無力感だけを胸に秘めて、それを他人に気取らせて気を使わせないよう取り繕うだけで精一杯だった―――そんな時期。
この頃には父さんも、めっきり歳を感じさせられることが多くなっていた。
悪化した体調を療養するため前線を放れて屋敷に戻ってからは、日がな書斎に籠もる時間が増えていっていることに当時の僕は気付いていた。
健康のため剣の訓練をする時間を減らし、夜中に一人、難しい顔をしたまま誰かからの手紙をジッと見つめている―――そんな姿を僕は何度か見たことがある。
まだ学校の寄宿舎に入る前の僕は、そんな父の背中を見ていることが好きだった。あるいは安心を与えて欲しかったのかも知れない。
永遠に晴れることのない暗闇に包まれて出られなくなる悪夢にうなされ、夜中に飛び起きてから眠れなくなることが多かった子供の頃の僕は、父さんの背中を見ると安心して眠ることが出来ていたからだ。
その日も僕は、久しぶりに屋敷へと帰ってきて夜中に目が覚めてしまい、父の姿を求めて書斎に行った時のことだった。
――先客がいる姿を、初めて見つけたのは・・・・・・。
「あの背中は・・・・・・ザルバッグ兄さん・・・?」
『・・・・・・』
開いた扉の隙間から、光が細い線となった漏れてきている部屋の前で仁王立ちしたままの姿で微動だにすることなく、ザルバッグ兄さんが父さんの籠もっている書斎を正面に見ながら無言のまま立ち続けていた。
背中しか見えなかった僕には、どんな表情で兄さんがその景色を見続けていたのかは分からない。
僕に分かったのは、ただ兄さんが無言のまま「ギュッ」と――強く強く拳を握りしめながら、なにかの作業をおこなっている父さんの背中を見続けていたこと。
そして、その光景を目にした翌日の昼間に、僕と妹のラムダだけをマンダリア平原へと連れだって来てくれたことだけ―――。
「こうして兄妹同士に剣の手ほどきをしてやるのも、久しぶりだな。
あの頃より良い面構えになったな、ラムザ。そしてラムダよ。兄として嬉しくもあるし頼もしくも思うぞ。ハッハッハ」
朗らかに笑いながらザルバッグ兄さんは、片手に木剣を提げたまま、子供の時に剣術のマネ事を教えてくれてたときと全く変わらない態度と仕草で僕たち二人に話しかけてきてくれた。
そんな兄さんの言動に、正直困惑させられなかったと言えば嘘になる。
腹違いの兄妹である同い年のラムダも同様みたいで、いつもは冷静沈着な彼女が戸惑ったような雰囲気を感じさせたまま、手に持った鉄剣を持て余しているようだったのが印象的だった。
「ラムザ、そしてラムダよ。お前たちも来年には学校を卒業して士官アカデミーへと入学する。士官候補生となるのだ。
たとえ騎士として叙勲を受けていなくとも、有事の際には兵たちを率いて民を守り、国を守り、イヴァリース王家を外敵の脅威から守るため戦わねばならない。
それがベオルブ家に生まれた者の責任と勤め。年齢や階級の如何にかかわらず、果たさなければいけないベオルブ家の義務。それをお前たちも背負わなければならない年齢になった」
子供の頃と同じような位置関係で。
子供の頃と同じではなくなった僕たちの立場について語りかける兄さんの姿。
それを見せられてようやく、兄さんがなにか重大な決意をして僕たちだけをこんな場所まで連れてきたんだという事に気付かされ、ラムダの表情が強ばっていく光景を横目で見ながら、僕は思わず唾を飲み込む。
「この戦争に、お前たちが参加することになるかなど俺にも分からん。
少なくとも俺は、お前たちが前線に出なければならん日が来るより先に決着を付けるつもりでいるが、それは相手も同様だろう。敵がこちらの都合通りに動いてくれるなら苦労はない」
ゴクリ・・・という小さな音でさえ、銅鑼のように大きく響いて聞こえる雰囲気が、今この場には存在しているようだった。
あるいは、それは僕自身の心臓の音が大きく鳴りすぎていたからかもしれない。
これは訓練でしかない。相手は木剣しか持ってない。間違っても死ぬ事なんてあり得ない――そう頭の中で思い続けてはいるけれど、どういうわけだか早鐘のように心臓が激しく鼓動を打ち続けて不安な気持ちが収まってくれない。
「・・・・・・正直、この技を独断でお前たちに教えていいものなのか、俺には判断がつかん。
だがもし、お前たちが戦場に出ることになり、実戦で敵と殺し合う立場になったとしたら――最も脅威となり、警戒しなければならない存在があることを知っておかねば、確実に死ぬことになるだろう。
だからこそ、教えてやろう。この技の存在を・・・・・・」
そう言って兄さんは―――奇妙な動きを見せ始める。
剣の間合いからは大分離れた場所に立ったまま、ゆっくりと木剣を振り上げながら切っ先に当たる部分を太陽に向けさせる。
・・・・・・加速して駆け寄ってきながら、大上段からの振り下ろしを叩き込むつもりなのだろうか・・・?
たしかに兄さんの体格と身長で放たれる振り下ろしは脅威だし、僕たち兄妹の膂力では防いでしまえば剣が折れかねないし、流す技術でも大きく水をあけられている。
普通の攻撃手段とは言え、達人から放たれれば僕たちにとって紛れもなく脅威の一撃たりえるソレ。そのことを兄さんは僕たちに教えたがっているのかも知れない。
そう思った。その時だった。
「技を食らわせる前に、一つだけ忠告しておいてやろう。
―――アッサリ気絶してくれるなよ?」
『『・・・・・・え?』』
ニヤリ、と嗤いながら告げられたザルバッグ兄さんからの不吉な忠告。
それを告げた後に振り下ろされた兄さんが両手で掲げ持った木剣の刃。
その光景が―――僕たちの気絶する寸前に認識することができた全てとなる―――
ばっしゃぁぁぁぁッん!!!
・・・・・・水音が鼓膜に轟いたと感じさせられ、意識が戻ってきた身体に秋風の冷たさが身に染みて、自我と記憶と痛覚とを気絶する寸前のものへと強制的に巻き戻してくれる中。
たった一撃だけでボロボロの姿にさせられた僕たちは、なんとか剣を杖代わりにして立ち上がりながら、兄さんに説明を求めずにはいられない身体に変えられてしまってた・・・。
「あ、兄君様・・・・・・今のはいった――痛つつぅ・・・っ」
フラフラになりながら、それでもラムダが僕より先に質問してくれたおかげで、僕の方は息を整えるため多少の時間的余裕を与えてもらえた。
・・・い、いきなり頭上からスゴい衝撃が降ってきたと思ったら、何故だかものすごい眠気まで襲ってきて・・・・・・いったい、本当になにが起きたん、だ・・・・・・?
黒魔法の《スリプル》を使った気配はなかったし、呪文の詠唱も一切してない・・・。
第一、魔法による力で強制的に《睡眠状態》に陥らせた場合は、無理やり眠らせてるだけだから『痛み』には弱いはずなのに・・・・・・なんで・・・。
そんな僕の声に出す力のない疑問を、どうやらザルバッグ兄さんは言われずとも分かっていたらしい。
話に合わせて真顔になっていた表情を、再び豪放磊落ないつものモノに戻して唇を曲げて見せると、
「《聖剣技》と言ってな。
剣技でありながら魔法のような効果を発揮し、さらには詠唱も必要ないという優れものだ。
もっとも今俺が使って見せたのは、兄者が十八番としている技を猿マネしただけのものに過ぎんがな。
如何なる敵と如何なる戦場でも戦えるよう、様々な技術を学び修めてきた結果なのか、こういう真似も出来るようになった。
――だが猿マネ程度であろうと、この技を戦場において初めて食らわされた敵は、大半が死んで二度目はなかった。それも事実だ」
「それは・・・まぁ・・・・・・」
「そうなるしか、ない・・・・・・かと」
ザルバッグ兄さんから技の説明を聞かされながら、僕もラムダも技を食らわされた直後以上に顔色を青ざめさせて脅威を再認識せずにはいられない。
魔法は剣や槍、弓なんかより威力は高いけれど、効果の大きい魔法ほど長い詠唱時間を必要とするのが欠点とも言われている。
たとえ高威力の魔法を使われたとしても、詠唱が終わるまでに阻止することさえ出来ればダメージを防ぐことが出来る。――けれど詠唱を必要としない《聖剣技》という技には有効な防御手段になりえない・・・。
身体の状態を強制的に変化させる、状態異常系の魔法と同じ効果を付与されているのも厄介だった。あの技の一撃を耐え凌いでも、傷ついた身体で眠りを強制されてしまったら死期が少しだけ先に延ばせるだけになるかも知れない・・・・・・。
普通の剣術や《戦技》しか使うことの出来ない僕たちや一般兵たちにとって、反則としか思えないほど強力すぎる威力と性能を持っている技――《聖剣技》
正直こんなものを戦場で使ってこられたら、兄さんたちと同じ強さに至った達人でもない限りは為す術がないだろう・・・・・・まして、これを戦場で初めて見せられてたら、対処法なんて考えつく前に殺されていたかもしれない・・・。
そこまで考えて、僕は魂の底からブルリと震えるのを自覚させられた。
本能的に恐怖を覚えたからだった・・・死への恐怖を。
『死ぬかも知れない可能性を持った戦場へ赴くこと』への恐怖心を、このとき僕は初めて心の底から思い知らされていた。理解させられた瞬間だったんだ――
「一般の騎士たちには知らされていないが、グレバドス教会や王家には、資格を認められた者のみに伝授することが許されている幾つかの特殊な技が存在している。
もっとも、教えられれば誰でも使えるというほど便利なものでもないらしい。
かく言う俺自身、《異端審問官》としての地位を与えられた際に幾つかの技を伝授されたが、習得することが出来たのは《破壊魔剣》という技一つのみだった。
俺だけでなく、技を伝授されて習得まで至れた者のほとんどは、どれか一つを修めただけが限界だった者が大半だったはずだ。
もし全ての技を使いこなすことが出来るとしたら、おそらくイヴァリースの歴史上でも父上の親友でもある《雷神シド》殿と、父上自身の二人だけだろう」
そう言い切って、「ビュッ」と木剣を血払いでもするかのように空を切って見せるザルバッグ兄さん。
その何気ない動作の一つ一つが、今の僕たちでは同じ速度で同じ動きを行うことは不可能だろうと理解せずにはいられないほど無駄のない、鮮やかで素早く自然な動き。
剣の道を究めた形の一つが、人という形を取って今僕たちの目の前に立っている事実を、僕たち兄妹は思い知らされていた・・・・・・あまりにも隔絶しすぎた実力の差を前にして、ラムダも僕も一歩も動けず、一言の口さえ挟むことが出来ないほどに・・・・・・圧倒されずにはいられない・・・!
「正直、これをお前たちに教えることには躊躇いがあった。
本来この技は、教会と王家の秘奥であり、戦場で使うのは当然であっても、対策を練られないため他の者に具体的な情報を教えてはならんことになっているからだ。
だが戦況を見るに、お前たちが必要になる日がこないとも限らん。
他国にも同じような技が存在していないとは限らん以上、俺が教えることが出来る内に存在だけでも教えておくべきだと、そう思ったのだ。だから今日この場所にお前たちを連れてきたのさ」
『『・・・・・・兄さん・・・』』
腹違いなのに見た目は似ているが、中身は似ていない――周囲からそう評されることが多かった僕たち兄妹は、この時初めて異口同音に同じ思いを込めて兄さんに対する感謝の言葉を呟いていた事実を、僕はこの日の数ヶ月後に士官アカデミーで知らされることになる。
それぐらいにザルバッグ兄さんから向けられた感情は有り難かった。生まれた母の違いをどうしても意識してしまいやすい僕にとって、自分自身の行動を反芻して恥じ入らされるほど強い愛情。家族愛・・・・・・。
「いいか、ラムザ。そしてラムダ。
我がベオルブ家は代々王家に仕え続けてきた武門の棟梁一族。イヴァリース騎士の魂の形は、我ら一族と共にある。
たとえ周囲の誰もが騎士の生き方、“騎士の名誉など形だけで意味がない”と蔑むようになったとしても、我がベオルブ家だけは『名誉ある騎士の形』を周囲の騎士全てに知らしめ続けなければならん義務と責任がある。
それが我らが果たさねばならん勤め・・・・・・。もし武門の棟梁たるベオルブ家までもが『騎士の名誉という形』を蔑ろにするようになった時、いったい誰が『形を守ること』に意義を見いだすことが出来るだろう。
守らねばならんのだ。我がベオルブ家はイヴァリース騎士の魂の形として、内実は畜生に墜ちようと決して『騎士の魂の形』だけは失ってはいけない―――それが上に立つ者の義務なのだから・・・・・・」
長広舌を終えて息を吐き、肩に背負ってきた重荷を下ろしたように、少しだけ纏っていた空気を和らげた兄さんに対して、僕もラムダもすぐには返す言葉が思いつかないまま無言の時がしばらくの間静かに流れすぎ・・・・・・そして。
「―――まぁ、そういう訳だ。ラムザ、ラムダ。
本当なら聖剣技への対処法も教えてやりたいところだが時間がない。昼には前線へ戻らねばならん身なのでな。
なんとか自分たち流の対処法を編み出せるよう、とりあえず今は“食らうだけ食らって”、“身体で覚えて”おけばそれでいい」
『『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?』』
「生憎と俺は、手取り足取り教えてやる教育手法が分からん。
生まれた時から続いていたオルダリーアとの戦いの中で学び取った、必死の剣が俺の剣術だ。お前たちも“自分たちなりの戦い方”で防げるようになる術を模索するのだ。
―――言っておくが、すぐには倒れるなよ?
身体に痛みを覚えさせるため、最低でも3回は食らってもらわねば困るのだから――」
『『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・』』
愛情に満ちた笑顔で語りかけながら、ザルバッグ兄さんが片手に握った木剣をゆっくり振り上げていく姿を見せつけられながら僕は、そしてラムダもきっと、思い知らされていたんだと思う。
・・・・・・心の底から、身体の芯に至るまで・・・・・・青ざめた心地と表情で見つめ続けることしか出来ない自分たち自身の無力さを・・・・・・。
「ほう? お前の方が先に意識を取り戻したか。
流石は腹違いとは言え、父上の血を引くベオルブ家の男だな。見直したぞ、ラムザ」
・・・・・・うっすらと開いた瞼の向こう側に、青い空が見えていることを自覚できた時。
僕の意識は、フワフワとした夢遊の空間から急速に、現実の体の中へと戻ってきたことを同時に認識できるようになっていた。
そして、それは意識と一緒に身体中から痛みと気だるさとを感じさせられることを意味してもいた。
思わず小さな悲鳴と共に立ち上がりかけていた身体を折り曲げてしまって、蹲るような姿勢になってしまった僕に向かってザルバッグ兄さんは楽しそうに笑い声を上げてくる。
「・・・・・・もう少し手加減できなかったんですか? 兄さん・・・・・・僕はともかく、ラムダは女の子なんですから・・・」
「ははっ、今更だな。ベオルブ家に生まれて騎士の道を歩み始めた以上、戦場では敵は容赦してくれんぞ? 今の内から慣れておくに越したことはあるまいよ」
苦情に対しても全く気にした風もなく、気安い仕草で僕の肩を「ポンッ」と叩いてきてくれて、そして
「そら、男ならへたり込んでないで早く立ち上がって、妹に手の一つも差し伸べ手やらんか。
お前が“自分の生まれ”をどう思っているかは知らんが、アレは一応お前の妹で女なのだ。
兄として、男として、守ってやるぐらいの甲斐性は見せれるようになれ。下手な気づかいなどしている余裕があるなら尚更にな」
「・・・・・・・・・あ」
――その言葉を言われた瞬間。
僕は剣の腕だけじゃなく、心の内側でも兄さんに弄ばれていた事実を理解して、自分の頬にサッと朱が差すのを実感させられる。
“見た目だけは似ている腹違いの妹”
“兄さんたちと同じ血を引く同い年の女の子”
・・・・・・そんな“生まれの違い”を理由にして、僕が妹のラムダと―――“彼女と”距離を置いた付き合いしかできていなかったことを、ザルバッグ兄さんには見抜かれていたことを伝えられ、何故だか無性に気恥ずかしさを感じずにはいられなかったから・・・
もともと彼女自身も、僕に対して遠慮した態度で接してくることが多かったことも影響してたんだと思う。
歳の近い兄妹だけど、同じ家で生まれ育って、同じ学校に入学した間柄なのに、子供の時ほどは親しく接することが出来なくなっていた自分たち自身。
互いに気を使い合い、互いに気を使っていることを気付かせないよう配慮し合っていた、その姿は――自分たち以外の人の目から見れば、こんなにもバレやすいものだったんだなと、本当に今更なように思い知らされずにいられなくなる。
「それではな、二人とも。俺はそろそろ行かせてもらう。
お前たちが寝ている間に、前線から早馬が届いてな。またぞろ士気の低下した部隊の幾つかが軍を離反し、付近の町や村を襲いだしたらしい。
賊と化した連中を討伐して国民を守るのも、我らベオルブ家と北天騎士団の勤め。サッサと蹴散らしてくるとしようか」
「・・・・・・ご武運を、兄さん。
それと、色々と気遣ってもらってありがとうございました・・・」
「応、お前たちも壮健でな。次に会えるのは士官アカデミーの入学時か。それまで父上を頼むぞ、ではな」
快活に笑って、既に呼び寄せてあったらしい愛用のチョコボに飛び乗ると、イグーロス城に戻るのとは別の方角へと走り去っていくザルバッグ兄さん。
おそらく早馬の知らせが届いた時に、討伐部隊の招集と合流地点とを指示してあったんだろう。それが完了するまでの間だけ、僕たちが気付くのを待ち続けてくれていた・・・
そういう人だった。
『イヴァリースの守護神』とも称されている僕たち兄妹にとっての兄、ザルバッグ兄さんという方は。
豪放磊落でいて合理的。
家族の情を大事にしながら軍事も同時にこなそうとする。・・・そんな人物。
「――ほら、立てるかい? ラムダ」
「・・・・・・」
去りゆくザルバッグ兄さんの背中を見送ってから、僕は痛みが大分ひいた身体で妹の元まで歩み寄ると、少し固いと自覚できる笑顔を浮かべながら、尻餅をついたままだった彼女を立ち上がらせてあげるため右手を差し伸べる。
色こそ錆び付いたような金色だけど、いつもは綺麗に整えられている長めの金髪が、今はちぢれてボサボサの髪型になってしまっていて、顔には煤のような汚れで黒ずんでしまっている、普段はシッカリしている彼女からは想像できないほど情けない姿にされてしまっていた妹は、仏頂面で僕の顔を見上げた後で、その手を取って。
「・・・・・・なにか誤解させてしまっていたみたいですけど・・・」
と、いつも通り感情を表さない知的な無表情――そういう風に見える表情を浮かべながら目線だけはソッポを向いて、気まずいものでも見られて不愉快そうな仏頂面だと、付き合いが長い者だけには分かる子供っぽい表情を浮かべてくれながら。
「私の方でも、人に言えない話と言うより、言っても信じてもらえなさそうな厄介事を思い出して気落ちしてただけでしてね。
別に兄様たちに思うところがあって、遠ざけてた訳じゃありませんので。ですので余計な気づかいは無用に願います、面倒くさい」
不機嫌そうな口調で、悪口とも取れる言い方で返されてしまって、咄嗟に僕はどう反応すればよいか分からず呆然とすることしか出来なくなって――しばらくしてから、クスクスと含み笑いを我慢することができなかった。
分かりにくい表現だったけど、彼女なりに「謝罪」と「感謝」を伝えてくれたんだと言うことを理解できたからだった。
ザルバッグ兄さんが立ち去って、僕たち兄妹の二人だけが残されたマンダリア平原の真ん中にボロボロになった姿で立ち続けながら。
妹を前にして、楽しそうにクスクス笑い続ける兄である僕と。
兄に笑われて、不愉快そうに仏頂面を浮かべながら傍らに立ち続ける妹と。
その二人だけがいる平原の真ん中で、僕はただただ楽しくなって嬉しくなって、『家族』というものを痛感し続けていた。痛感し続けたいと心の底から思い続けながら――
それは、五十年戦争末期で最後の秋にあった出来事。
その年の暮れに父バルバネオスは静かに息を引き取って、その翌年の春に僕たちはガリオンヌ士官アカデミーに入学することになる。
それが、僕たちが生まれる前から始まっていて、永遠に続くかのように思っていた五十年戦争が終わった年に起きた出来事。
始まりからあって、永遠だと思っていたものが終わった出来事が起きた年。
生まれた時から一緒にいて、一緒にいるのが当たり前だった女の子と、ずっと一緒にい続けたいと思えるようになった始まりの年。
そんな風に僕は、自分たちにとって色々な意味で印象深い、良いことも悪いことも一杯あった年のことを思い出す。
思い出していたからこそ、思い出すことによって――――
『耐えきれること』を、僕たち二人は痛みと共に知っている!!!
「「――ぷはっ!?」」
止めていた息を吐き出すように、僕とラムダは二人同時に大きく息を吐いて、自分たちの意識が夢の世界から現実世界へと帰還した事を、心と耳に刻み込ませることに成功する事ができていた!
そうやって、脳味噌に酸素と意識が急激に戻ってきた途端、今さっきまで抗いがたいほどほど強力な誘惑で眠りを強制していた睡魔が、嘘のように消え失せていく!
自然に眠りから目覚めたばかりには有り得ないほどのスピードで、普段通りの意識と肉体の感覚が急速に戻ってくるのを体感で理解できるようになっていく!!
魔法による不自然な眠り特有の、効果が及ぼせなかった時には不自然なまでに、通常通りの状態への復帰速度が、僕たちに《聖剣技》に付与されていた睡眠効果を無効化させたという事実を教えてくれていたから!
「なにっ!? まさか、防いだと言うのか!
貴様らのような士官候補生が、我が《聖剣技》を初見で受けさせられながら・・・っ!?」
勝利を確信していたらしいウィーグラフの驚愕に満ちた叫び声が、眠りから目覚めたばかりだった僕たちの鼓膜に響き渡り、敵の攻撃が失敗したんだという事実を主観よりも正確に保証してくれて、知らずに僕たち兄妹は笑みを浮かべ合ってうなずき合う。
――《聖剣技》による眠りが魔法効果によるものではなかったとしても、強制的に眠りへ誘うという結果だけは同じなら、効果が薄まっても同じ対抗手段が通じるはず――
あの時の訓練から、ラムダが推測していた対処法は確実に意味と効果があったんだ!
魔法による強制的な眠りを防ぐには、意識を強く現世に繋ぎ止めること。
意識を手放して夢の世界に誘われたい誘惑に抗うため、必死になってコッチ側の世界のことだけ強く強く思う! それしかない!
もちろん、考えることは頭を疲れさせる。
疲れた頭は休みを欲しがり、安らかな眠りへの誘惑に魅力を感じさせられる。
―――だけど! 楽になってしまえば全てが終わる!
疲れたから休んでしまえば、ヒュプノスの誘惑に抗う術は他になくなってしまうしかない!!
ヒュプノスは眠りへと誘う者、真の眠りと安らぎは、永久の眠りだけしか有り得ない。
死にたくなければしがみ付くしかない!
まだ死ぬ訳にはいかないと思うなら! やり残したことがあると思っているのなら!!
犠牲を覚悟で、安らぎの誘惑に対抗することでしか、未熟な僕たちには《聖剣技》に対抗する手段を考えつくことが出来なかったのだから!!
「く・・・っ! だ、だが一度しのぎきった程度で、我が《不動無明剣》に破ったなどと思うのは大間違いだぞ! ラムダ! 今その事実を教えてやる!!」
「――ラムダッ!!」
「分かってます――よッ!!」
「うっ!?」
ウィーグラフが、まだ立ち直りきっていない僕たちに向かって二度目の同じ技を放つため、構えを見せ始めたことを本能的に察知した僕は妹の名を呼んで、僕に呼ばれるまでもなく彼女の方は《聖剣技を防ぐための策》として考えていた、もう一つの策を実行に移す。
ヒュンッ!!と、音を立てて切っ先を頭上に振りかぶっていたウィーグラフの顔面めがけて、握りこぶし程度の大きさを持った《投石》が投げつけられたのだ!
魔法効果と同じものを発揮するため、《聖剣技》には使用する際に決められた動きをなぞらなければいけない仕組みがあるらしいことが、ザルバッグ兄さんから教えられた話の中には存在していた!
それは巫女や聖職者が、儀式の舞を奉納して神の奇跡の降臨を願うのと似ているらしく、《聖剣技》は便利な技であるが故に、その流れを完全に無視して使用することは出来ないらしいのだ。
とは言え、聖剣技が使用されて放たれるまでのタイムラグは、魔法と比べて遙かに短い。最下級の攻撃魔法である《ファイア》や《ブリザド》よりも更に短い発動までの時間内に阻止するためには、放つと決めてから止めるため動き出したのでは遅すぎる。
ウィーグラフが僕たちを狙って聖剣技を放とうとした瞬間に、僕の背後に伏せて投石準備を終えていたラムダが飛び出し、一瞬の隙を突いて顔面だけを狙って石を投げつける!
詠唱が必要ない代わりとして、射程距離では魔法よりも短い《不動無明剣》を使うには僕に接近している必要があり、その距離から《投石》を食らわされて技を使用したまま避けきれることはウィーグラフにはできない!!
「くっ!? 小賢しい真似を!! だが勝負はここからだッ!!」
片手で顔面に飛んできた石を防ぎながら、思わず半歩だけ後ずさって距離を開けられてしまった敵の首魁が悔しげな声で叫ぶのを聞きながら、僕たちは一旦後退して傷を癒やしつつ仕切り直しを図ろうとする!!
予期せぬ遭遇戦として始まってしまった戦いだったけど、僕たちとウィーグラフとの死力を尽くし合っての決戦は、互いの手の内を晒させあって、ようやく半分が終わりを迎える。
相手の言うとおり、戦いはここから本番が始まる!
僕たちにとって、そしてウィーグラフにとっても、この反乱で最も互いの未来に影響を及ぼし合う戦いは、今はまだ互いに直近の未来に待つ勝敗さえも見せてくれてはいないのだから・・・・・・!!
つづく
注:『今話の説明』
際プレイして確認したところ、ザルバッグが聖剣技を使えないことが分かった時に、ステータス欄の一番下に《ものまね師》のジョブを持ってるのを発見したため、今話の設定として採用してみました。
自分の《破壊魔剣》ではなく《聖剣技》をモノマネして教えた理由は、専用ジョブ限定の特殊アビリティで最も敵が多く使ってきたのが《不動無明剣》だった気がしましたので、それを教えとく方が現実的だろうと考えた設定。
ただ、今作オリジナル設定として公には中身を公開されていない技ということにしましたため、平民出身者のディリータは外してラムザたちだけに伝えておいたという内訳。
また言うまでもないでしょうけれど、作中でザルバッグが語っているセリフ内容は、バルバネスが死ぬ時にラムザに語った内容に、PSP版で追加されてた『盗賊の砦』での戦いを加えたもの。
残酷にだけ見える行為にも、理由と意味はあった・・・・・・みたいな展開にしてみた次第。