平民派DQN女オリ主がいくFFタクティクス   作:ひきがやもとまち

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やっと更新できました。ウィーグラフ戦、最終回です。
戦闘そのものは今回で決着。

久々にラムダの毒舌も復活となります♪



第23話

 リスクを伴う決着を選ばなかったウィーグラフの選択によって、ベオルブ家兄妹ひきいる部隊との戦いは長期戦の様相を示しつつあり、一進一退の攻防を展開させるようになっていた。

 手負いの獣を侮る危険を知る者にとって、その選択は必ずしも間違いではない。偶発的な遭遇戦でしかない戦いでリスクを背負うのは愚策であり、実力差がある敵を相手に実った果実はいずれ落ちる。

 

 だが一方で、ウィーグラフの側にも時間的余裕が有り余っている訳ではなかった。

 なんと言っても今は、北天騎士団による総攻撃の真っ最中なのである。叶うことなら今すぐにでも援軍に赴きたいところではあったが、ジークデン砦へと向かわせたゴラグロスの部隊を背後から追撃されては堪ったものではない。

 

 また、末子と妹といえども北天騎士団の頭領一族ベオルブ家の一角を討ち取ったとなれば味方の士気も上がるはず―――様々に現実的な条件がウィーグラフの中で、この戦いに全力を注ぐべき理由として積み重なり、単なる『妹の仇討ち』以上の必要性を彼に訴えかけて必勝を要求するようになっていた。

 

 そして、その目的は遠からず達成されそうでもある。

 全体の趨勢としては一進一退を続けてはいるものの、どちらの方が有利かと問われれば半数以上のものが『骸旅団の優勢』と評価する状況を作り出すことにウィーグラフは成功していたのだから。

 

 合計としての数値だけなら互角であろうと、その内訳には大きな違いがあるのが現実というものだ。

 敵は学生の身で激戦をくぐり抜けてきただけあって、実力差のある相手との戦いに慣れており、よく工夫して戦うことで戦線を維持し続けている。

 

 ――だが、その点において自分たち骸旅団の右に出る者はおるまい。

 『五十年戦争』を生き抜いた平民の義勇兵ばかりで構成される骸騎士団以上に、実力差のある敵を相手に生き残り続ける術を身につけている猛者たちなど、このイヴァリースには事実上存在しているはずもない経験の差は、確実に彼らを追い詰めつつある。

 

 兵の質でも自分たちの方が勝っていた。

 相手も貴族ながら現場での苦労をし続けてきた者達らしく、安全な後方で戦闘訓練だけに明け暮れてきたウラナリ騎士団の正騎士たちより余程いい動きと顔付きになってはいるが、それでも自分たちには僅かに及ばない。最弱の兵同士であろうと自分の部隊の方が僅かに腕前で上回っていることが贔屓目なしに一目で分かる。

 

 もとよりウィーグラフ率いる遊撃隊は、骸旅団の中でも精兵のみを集めて編成されており、激戦に次ぐ激戦を経ても尚、士気の高さと人員を維持し続けられている数少ない少数精鋭の部隊なのだ。

 たまたま同じクラスに配属され、同じ部隊の一員としてイグーロス警備に回された者たちの中から、付いてきてくれる者達だけで構成するしかないラムザたちとでは人員選抜の時点で差があるのである。

 

 北天騎士団と骸旅団との戦いにおいては、骸旅団の方がゴッタ煮の寄せ集めと言われて否定することは難しい。

 だが北天騎士団に属する一部隊でしかないラムザ隊と、骸旅団団長が直率する親衛隊だけと比べるなら彼我の優位は一変するのだ。

 

 今のラムザたちではウィーグラフに勝てない!

 それが紛れもない事実であり、気持ちだけでは補いようのない現実の壁でもあった。

 彼らはここで死すべき運命にあったのだ。

 

 遠からず、疲労の速度で上回る敵は動きを止めざるを得なくなって、戦線を縮小するしか道はなくなるだろう。その時こそ攻勢に出るべき刻であり、戦場の流れが変わる瞬間だ。

 あと少しだ。焦ることはない。ここまで被害を押さえることを優先して戦線を維持してきたのだから、その戦略に則って最後の最後まで貫徹し――そして完全勝利を、この手に!!

 

 そう決意して、来たるべき時期を見誤らずに根気強く待ち続けたウィーグラフとラムザたちの戦い。その流れが変わり始めたのは、その少し後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

「つあぁぁぁぁッ!!」

「くぅっ!? てぇぇい!!」

「ていっ! つぁっ! ハァァァッ!!」

 

 ウィーグラフから放たれた強烈な斬撃をいなし切れず、ラムザは僅かに手傷を負わされながらも致命傷は確実に避けて距離を取り、妹のラムダが変わって前に出て早さを重視した連続攻撃によって兄が交代する時間を稼ぐ。

 

 敵が放つ一撃を受け止めるため、無数の反撃を必要とする。

 ラムザたち士官候補生の部隊と、ウィーグラフが直接指揮する精鋭部隊との差が如実に表れている部分が、そこにあった。

 全体としては双方共に一進一退の戦闘を継続してはいるものの、内実は互角の戦況を維持するために敵に倍する労力を注がざるを得ないラムザたち士官候補生と、無理をせずに戦線を維持することだけに注視するだけでいいウィーグラフ率いる骸騎士団からの精鋭部隊。

 

 実力では自分たちが上回り、実力差を補う工夫の腕でも上回る。

 経験豊富な正規の騎士ではない者同士による戦いだからこそ、自分たち骸騎士団の騎士たちは、実戦経験に偏りすぎた騎士未満でしかないラムザたちより全ての面で上回ることが可能となっていたのだ。

 

 だからこそ、ウィーグラフは思う。

 

(――何故だ!?)

 

 ・・・・・・と。

 声には出さず、心の中だけで彼は絶叫していたのだ。――なぜ、と。

 

 実力で勝っている。経験でも上回っている。

 相手より劣っている点は自分たちの側には、なにも無い。

 

 それなのに――

 

(何故だ!? なぜ我々が“敗れよう”としている・・・っ!)

 

 彼には意味が分からなかった。目の前の現実が理解できなかった。

 何故そのようなことが現実に起こりうるのか、戦いながら幾ら考え続けても全く分からず、混乱することしか出来ずに一層焦りと戸惑いを深めていく。悪循環のループに陥りかけつつある。

 

 

「チィッ! 邪魔だ! 退きなさい! 《地烈斬》!」

「がッ!? が、《ガード》ッ!!」

「よしっ、堪った! 食らいなさい《チャージ》ッ!!」

「ぐぅッ!? 突破できなかったか・・・回復をッ」

「させられないな! 今度こそ貴族らしくエレガントな魔法をラムダに見せつけるため・・・《トード》ッ!!」

『お前、盗賊より汚い戦い方しかしてないじゃん!?』

 

 

 一体なにが理由でこうなってしまったのか・・・・・・?

 先刻まで優位に戦いを進めていたはずの味方部隊は、急激に勢いを失って先程から格下のはずの士官候補生たちに押され気味になって久しい戦況へと変化してしまっていた。

 その事に気付いたのは、それほど時間が経過する前の話ではない。それは彼が気付くまで変化が小さな範囲に留まっていたことを示すものでもある。

 

 ・・・・・・だが、それ以降は差が徐々に広がりを見せつつある。

 一方で、状況が改善する要素はドコにも見いだすことが出来ないままだ。

 

 流れを再び変えさせるため、ウィーグラフが動かなかったわけではない。

 動いたにも関わらず、目論見通りの動きを成すのに成功したにも関わらず、どういうわけだか戦況不利のまま状況が変化してくれていないのである。

 

 だからこそ、ウィーグラフは困惑していた。一体なぜ? どうして・・・と。

 

「みんな! 敵は明らかに勢いを失っている! 今がチャンスなんだ! 悪いが俺と一緒に、もう一踏ん張りして突撃に付き合ってもらうぞ!!」

「くっ!? 行かせるものか! 私の同士たちをやらせはせん!」

 

 こちらの状況悪化を見て取ったのか、ラムザたちに代わって士官候補生たちを指揮していた少年騎士が号令を掛け、それに応じる鬨の声が響くのを聞かされた私は、一旦ラムザたちとの戦いを放棄してでも味方を救うため全力で駆け出す!

 

 普段ならばいざ知らず、今の状態は明らかに我が方の兵たちは気後れしていた・・・・・・この状態で、『これから突撃する!』と宣言された上で突撃されてこられたのでは戦意が保てん!

 クソッ! あのゴラグロスに妹を浚われたという少年、なかなかやる!

 あの歳で戦場での心理戦を仕掛けてくるとは・・・・・・だが、彼さえ倒せばベオルブ家の師弟に代わって指揮を執る者はいなくなる!! そうすれば!!

 

「不味い!? ラムダ、ウィーグラフの足を止めるんだ! ディリータが・・・!」

「言われなくてもね、行かせませんよウィーグラフさん! 殿方だけダンスを途中で放り出すのは騎士としてマナー違反じゃないですかッ!?」

「チィッ! またしても貴様らかっ! 邪魔だッ! 退けぇぇー!」

 

 ガキィィッン!! 

 行く手を遮るように立ち塞がってくるベオルブ家の姉弟たちと、互いの剣と剣とがぶつかり合って鍔なりが鳴り響く音が、私の鼓膜を不快に叩きつける!

 

 指揮官としてだけでなく、剣士としても私より格下で経験でも膂力でも私に及ぶべくもない未熟な二人だが・・・今は私の方にとって彼らは倒すべき重要な敵ではない!

 味方を救わなければならない! 突撃してくる敵たちを前にして、眼に『怯え』と『ひるみ』を宿すようになってしまっている“彼女たち”を救い出して、態勢を立て直すことこそ最優先事項で成すことなのだ!!

 

 その戦況悪化が、その不利な状況が。

 敵の有利という結果に現れてしまっている現在の状況下で、敵から私に、こんな“暴言”を吐かせて聞かされてしまうという屈辱を味わうことになる・・・っ!!

 

 

 

 

「剣を捨てろ、ウィーグラフ! これ以上の命の奪い合いは無駄だ!」

 

 かさに掛かったように言われたラムザの言葉が、思わず私は癇に障った。

 気にくわない言葉であり、気にくわない言い草でもあった。

 

 『お前たちのやっている抵抗は無駄なのだ』と。

 『今まで死んでいった同士たちの死は無駄だったのだ』と。

 

 命を賭して、革命のために身を捧げる覚悟で戦いに望んだ私たちにとって、彼の言葉はそのように述べているようにしか思えなかった。

 我々が『何よりも尊い人命』を『好きこのんで無駄に浪費させているのだ』と、そう罵っているだけとしか受け取りようがなかったからだ。

 

 彼には彼なりに『人命を絶対視する思想』に基づいて発言している言葉なのだろうというとは思う。短い付き合いだが、濃厚な関係故に彼らの人格が貴族社会の汚泥に染まり尽くされたものとは違っている程度は理解しているつもりでもある。

 

 ――だが、しかし!

 あまりにも彼の思想は単純すぎる! 視野が狭すぎる!

 いま目の前に広がる戦いだけを見て、いま人命を奪っている者、いま人の命を奪わせている者だけを止めさせれば、人命は奪われないものだという前提で考えている時点で、コイツの言葉に意味や価値など微塵もない!!

 

「では、何故、妹を・・・・・・ミルウーダを殺したッ!

 お前たちに奪われた彼女の命さえ、お前は“必要のない命を奪っただけだった”と。

 彼女の覚悟は、その程度のものでしかなかったと、お前には思っていないと言うことかラムザ!?」

「それは・・・・・・仮にそうだったとしても、最初から命を奪おうと考えていたわけじゃない!

今と同じように降伏勧告をした! 助けようとしたんだ! だが彼女の方が、それを拒んだから戦うしかなかった!

 僕らだって彼女みたいな人を殺したくなんて無い!」

「・・・信じよう、その言葉は。その言葉だけは――」

 

 ラムザからの返答を聞かされ、私は心の中で「然もありなん」と納得させられるものがあった。

 妹らしい最期だと思ったからだ。おそらく最後の瞬間まで骸騎士としての誇りを貫き通して、貴族支配に抗い続けながら死んで逝ったのだろう。

 そんな彼女を救おうとしたというラムザの言葉も、おそらく嘘ではあるまい。

 

「だが理由や過程がどうあろうと、お前が妹の仇であることに代わりはないッ」

 

 なればこそ、自分たちは今ここで戦いを止める訳にはいかないと奮い立てる理由になった。

 まだ終われないし、終わってはいけないのだ。

 こんな戦いを、こんな犠牲を出し続けることを許容する今の世の中を変えるための戦いを、今ここで止める訳にはいかない。

 

 今までと同じように、平民の犠牲を払わせ続ける未来へ続く今の社会に、自分たちは決して屈する訳にはいかないのだから―――ッ!!

 

「なにより貴様は、現イヴァリース体制を支える貴族勢力重鎮の一門! その一事だけで私にとっては戦い続ける理由となり、決着を求める理由として十分すぎる!!」

「戦って倒すだけが決着のあり方なのか!?

 戦わなくても、他に方法があるんじゃないのか!? 話し合うことは出来ないのかッ!?」

「・・・やはり貴様は、なにも分かっていない・・・・・・」

 

 続く私からの糾弾に対する返答。それを聞かされた瞬間。

 私の中で覚悟は決まり、この少年に対する評価も完全に定まっていた。

 

 ――彼は何も知らない少年なのだ、と。

 無垢なる心は汚れを知らず、不正を知らず、『家族を疑うこと』すら知らずに生きている“いい子の少年”

 善と悪に塗り分けられた単純な世界観と、「殺す者は悪」で「奪う者こそ悪」という単純極まる二元論でのみ成り立っている。そんな世界に彼の無垢なる幼き心は、自分自身を永住することを許してしまっているのだと。

 

「お前には分からないのだ。分かっていないからこそ、その言葉を言うことが出来る。

 我々が剣を捨てない理由を、お前は全く分かっていない! 理解していない!

 ただ我々が貴族に抗い、力での解決することしか出来ないと思い込んでいるから無駄な被害を広げる戦いを続けているだけなのだと――その程度にしか考えていない、甘ったれた子供が言いそうな台詞が今のお前が放った口先だけの綺麗事なのだから!」

「・・・っ! ぼ、僕が口先だけの偽善者だと言いたいのかウィーグラフ!

 真面目に働いていればミルウーダみたいな女性が命を失うようなこともないッ! 確かに今の社会体制には悪いところや不満な面はいっぱいあるかもしれないけれど、でも革命を起こして大勢の普通に暮らしてる人たちの命を奪うよりずっと――」

「笑止っ! その発言こそが貴様が偽善者であるという何よりの証ッ。その事実に気づけぬことこそ、お前が口先だけにしかなれぬと言う証明だと何故気づけん!?」

 

 相手の言葉を痛罵しながら、私は徐々に己の中で怒りがこみ上げてくる想いを消すことが出来ずに苛立ち始めていた・・・っ。

 この少年は何も分かっていない・・・・・・今ここで命を散らさないよう阻止している自分たちの行動が、いま命を奪う戦いを行う者達より人道的な行為だと信じ込んで疑っていないからだ。

 

 何より、“今ここで命をかけてでも変えなければ、もっと多くの人命が奪われる可能性”を、この少年は全く考えようとしていない!!

 それが私には、腹立たしくて仕方がない!!

 

「話し合いに何が期待できる? 今の支配者たちと話し合いさえすれば、剣に頼らずとも変えられるに決まっているはずだと思っているのか?

 そうだとしたら、勘違いも甚だしいな! それが出来ていたなら、我々が剣を手にして多くの犠牲を要求される手段など選んでいる訳があるまい!!」

「それは・・・・・・だが、あなたたちの側にだって、やり方に問題があったことが原因かもしれないじゃないか! 骸旅団のやり方は過激すぎる!

 こんな内乱みたいな方法で、世直しなんかしたところで結果的には・・・・・・」

「では、お前がお前のやり方で実現を願っていたなら、それは実現できるはずだと思っていると言うことか?

 フンッ、できはしまいさ。所詮お前はベオルブ家の血を半端に継いだ末弟に過ぎんのだからな。

 よしんば、お前がそうしたところで、お前の兄たちは認めてやろうとは決してしまいよ」

「そんなことはない! 兄さんたちだって争いをしたい訳じゃないんだッ!! 貴方さえ剣を捨ててくれれば兄さんたちだってきっと――」

 

 その言葉の途中で、私は思わず笑い声を上げてしまった。

 笑わずにはいられなかったのだ。

 

 まったく・・・なんということだろう!

 たしかにラムザは平民の母親の血を継いでいるとは聞いていたが、ここまでとは思っていなかった。想像の埒外だった。

 

 仮にも大貴族の一員であり、武門の頭領たるベオルブ家の末弟という身分ではあるはずの少年が、ここまで“何も知らされておらず”、“何も教えてもらえぬまま”我々と戦って邪魔し続けていたとは!

 

 なんという滑稽さ! なんという悲喜劇! コレが苛立たされずにいられるものか!

 こんな世間知らずの子供によって、ここまで我らが追い詰められていたなどとはッ!!

 

「なにが可笑しいウィーグラフ!? なぜ笑っているんだ! 答えろッ!!」

「ハッハッハ! 傑作だ、これが笑わずにいられるものかッ! 貴様の滑稽な道化ぶりは貴族といえども、憎しみを通り越して哀れみすら感じるほどだ!

 お前の兄たちが“争いを起こしたくない”だと?

 そんな考えで、我々に戦いを止めろと語っていたのか? それではミルウーダが戦いを止めずに戦死するまで戦ったのも無理はない。

 まったく・・・・・・どこまで幸せなヤツなんだ、お前はッ!!」

 

 怒りと憎しみを込めて、私はラムザ・ベオルブの顔を――世の穢れを知らず、純粋に人の善意と世の正義と善悪と、そして家族の優しさを信じ込んだまま疑っていない『無自覚な謀略の共犯者』の薄汚れた偽善者の顔を激しい瞳で睨み付けるッ!!

 

 ああ、やっと分かった・・・コイツは何も知らないからこそ無垢なんだという事実に。

 何も知らされず、教えてもらえることなく、綺麗なものだけ信じ込まされながら生きてきたから、だからこそ綺麗で―――そして汚らしい人格に育ってしまったのだと、今ようやく理解できた!

 

 こいつが『無駄な戦いは止めて降伏しろ』と、幾度も無駄な誘いを言いたがったのは、この為か! 自分たちの側が争いを望んでいる訳ではないのだと信じていたから、敵さえ剣を退けば平和になれると信じ込んでいたから・・・・・・だからか! この自覚ないが故に偽善者の子供めが!!

 

「青いな! そして愚かすぎる! 無知なる者が何も知らぬまま正義や人道を語ったところで口先だけの偽善にしかなれぬことも知らん様では話にならん!

 ダイスダーグに正義があるとでも思っているのか? 思っているのだろう、だからお前は私たちだけが戦いを止めれば平和が来ると考え言葉を発している。

 戦い終わった後、自分の兄が新たな戦いを起こすだけだと全く考えてもいないからこその愚かすぎる発言だな!」

「なんだと!? 兄さんたちが好んで戦いを仕掛けているとでも言いたいのかッ!?」

「だから青いと言っている! 為政者の手など黒い血で汚れているもの!

 仮にダイスダーグに正義があったとして、正義とはそれを語るものによってコロコロと形を変えるものだ! 

 たとえ我々を倒した武勲によって駒を進め、次なる戦乱を起こして民に多くの犠牲を強いることになろうとも、その先に真なる平和と国の繁栄があると信じさえすれば、それがヤツの正義に成り、『平和という名の正義』を実現するため新たな乱を起こすことさえ平然とやってのけるだろうよッ。それが貴族たちが信じ掲げる正義の一つなのだからッ!!」

「兄さんを愚弄するかッ!? この――」

 

 私の糾弾に顔を真っ赤にした兄が、なにか言い返そうとしてくる姿が視界に入った次の瞬間。

 

 

 

 

「・・・・・・・・・ずいぶんと偉そうな顔して説教かましてくれますねぇ、ウィーグラフさん」

 

 静かに押さえられた声音で、兄の傍らに立つ兄によく似た妹が、兄とは似ても似つかぬ暗さを持った瞳に知的な鋭い光を浮かべながら私の方を真っ直ぐ見つめ返しながら、その上で静かに言葉を放ってくる。

 

「お前も、なにか私に言いたいことがありそうだな。ラムダよ。兄たちを愚弄されたことが、そんなに気にくわないのか?

 兄たちの本性を知りもしないのが今の自分たちとは考えもせぬままに・・・・・・」

「まさか。私は兄様ほど、兄君様たちの善意とかお人好しさを信じる気持ちは抱いたことのない家族不幸で恩知らずな女ですのでね。あなたの言い分を否定できる根拠を、残念ながら持っていないんですよ。

 まったく、優秀ではあっても切れすぎる頭に相応しい野心と冷徹さを兼ね備えた兄を持つと、性格悪いだけの妹としては立場が悪くなって適いません。困ったものです。

 ―――ですけどね」

 

 優勢になり始めたとは言え、決して楽にはなっていない戦況の中でさえ、おどけたように肩をすくめてみせるクソ度胸を発揮した妹騎士は、私を牽制するため近くで剣を構え続けている兄をギョッとさせる言葉を放った後。

 

 ギラリ、と瞳を光らせた目付きで私を見つめ返し。

 

 

「貴族と貴方たち平民たちの戦いが、貴族側から奪ったことが始まりだったという主張が正しかったとしても、“私たち自身は”貴方たちによって戦いに引きずり込まれた子供たちに過ぎない身なんですよ。

 貴方たちの部下が《魔法都市ガリランド》を襲って、一般市民を巻き込む市街戦を展開しようと侵入してきたから戦う羽目になって、平民を殺している。

 貴方の部下が、ディリータさんの妹を浚って逃げたから、彼女を返してもらうためミルウーダさんとも戦う羽目になったのが私たちの立場です。

 貴方たちが、彼から妹さんを奪わなければ、私たちがミルウーダさんと決着を付ける必要なんて全くなかった!

 自分だけが綺麗なフリして、偉そうに綺麗事を並べる前に、命惜しさで浚っていった少女を確実に解放して、筋ぐらいは通してみせなさいよ!

 それが出来てなければ、貴方はただの『命惜しさで平民の娘を貴族令嬢と間違えて誘拐した野盗の頭領』に過ぎないことが確定するんですからさっ!!」

「!! そ、それは・・・・・・ッ」

 

 

 ――その言葉に、私は思わず一瞬、言葉に詰まらせられるものが確かにあった。

 それは言葉だけではなく、現実的な脅威となって我々の身に差し迫っている問題だったかもしれない・・・・・・。

 

 確かに私はゴラグロスに対して、娘を解放するよう命じている。

 相手が平民かベオルブ家の令嬢かに関係なく、少女を誘拐して盾に利用するような者達が掲げる主張など、どれほど小綺麗な理想を並べ立てても正当化できるものではなくなってしまうからだ。

  

 そんな事になれば、今まで死んでいった同士たちの犠牲は無駄死になるしかない・・・。

 命惜しさで少女を盾に取るような盗賊団の一員として、妹や彼らの名と遺族に汚名を着せることは許されない。

 

 だが・・・・・・もし。もしゴラグロスが本当に、『ギュスタヴの同類』になってしまっていた場合には――――しかし! 今は! 今この戦場では・・・ッ!!

 

「・・・・・・彼女は解放するよう命じたと言ったはずだッ!

 私の同士をギュスタヴ如きと一緒にするのか!?」

「違うことを保証できるのですか? 副団長であるギュスタヴさんまで誘拐犯になって粛正する羽目になっていた骸旅団の長である貴方に?

 よしんば、貴方にそれを命じることが出来たとしても、相手に従わせることは出来るのですか?

 出来はしますまい。命じても従わなかったから、副団長をも殺して粛正するしかできなくなったのが貴方なのですから・・・・・・」

「言わせておけば・・・・・・ッ!!」

 

 相手の言葉に怒りをかき立てられながら―――一方で頭のどこかでは別の人間に対する怒りで、私の精神は妙に落ち着かない心地にさせられずにはいられなくなっていた。

 

 またしてもギュスタヴ!!

 あの男への負い目が、今この状況でまで私の神経を逆撫でさせる要因になってしまうとは・・・・・・死んだ後まで、いつまでも祟られる奴め!!

 

「いい加減、自分たちの失敗を認めなさい。ウィーグラフさん。

 貴方たちが負けた理由は、貴族がどうとか戦力がどうとかではなく、“部下たち”の暴走があったからです。暴走を許してしまったからです。

 あれだけの事をやった『骸旅団の一員の言葉』には、何の信憑性も保証にだって成りはしない・・・・・・」

「―――私の同士たちを愚弄するか! その傲慢と尊大さ、やはり貴様も貴族でしかなかったということだな! ならば私も退くわけにはいかない。

 名門ベオルブ家の末弟を殺すことは、骸旅団すべての兵たちにとっての大義にかなう行為であるが故に!!

 皆、死戦せよ!! これが骸旅団にとっての大一番だ!!」

 

『おおおォォォォォッ!!!』

 

 

 私はそう言い切って、相手の言葉を断ち切ると、仲間たちに攻撃の密度を高めるよう命令を強化する。

 ・・・・・・そうせざるをえなかったからだ。皆の見ている前で、それも不利になりつつある戦況の最中に、反貴族を掲げて戦ってきた私が、貴族の一員に形だけでも『負けさせられたように見える』という形を目撃されるわけにはいかなかった。

 

 要らぬ答弁が、思わぬ形で自分たちの選択を狭めてしまう結果を招いたことに、心の中で私は舌打ちしていたが―――今更どうにもなるものではない以上、進んで勝利する以外に道はない。

 

 味方が不利になりつつある理由は、まだ分からない。

 だが、先の結論で士気だけは挙げることが出来た。このまま勢いを強めて勝ちを取らせてもらう!!

 

 勝負だ! ラムザ・ベオルブとラムダ・ベオルブよ!!

 どのみち貴様らを相手に正しさで勝利したところで、“貴様ら相手”では意味がない正当議論にしかなれぬのだから―――ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――こうして、継続する道を選択した私の頭の中に。

 なんの前触れもなく求めていた“答え”が示されることになるのは、その選択で勢いを強めた直後のことだった。

 

 

(・・・・・・しまった・・・ッ!!)

 

 と――。

 その答えを得てしまった私は、焦りと共に慌てて周囲の仲間たちを見渡し、戦況を確認する。

 

「今だ! ラムザたちがウィーグラフを押さえてる間に、全体前進!! 防御陣を突破しろ!!」

『おおおぉぉぉぉぉぉッッ!!』

 

「くっ!? 防げ! 敵の突撃を防ぐのよ! ここで突破を許せば私たちは・・・っ」

「負けられない! 貴族たちに謝らせるまで、私たちの戦いは終われないのよッ!!」

「せめて! せめて、ウィーグラフ様がベオルブ家の兄妹を倒すまで持ち堪えさせすれば――って、キャアッ!?」

 

 敵と味方とがぶつかり合う戦場の各所から聞こえてくる悲鳴。

 つい先程まで相対として同数に聞こえていたものが、今では味方のものばかりが目立っているソレ。

 

 骸旅団の戦士たちが追い詰められて、助けを求める叫び声を上げている。

 元は騎士だった女性が、女性格闘家の女モンクが、各所から助けを求める叫びを上げて、ボコの支援を以てしても間に合わない。

 

 各所で轟く同士たちの、悲鳴、悲鳴。

 女声、女声、女性の悲鳴――。

 

 各地を駆けずり回って味方を支援し続けてきた、ウィーグラフ直属の『女性兵士ばかりで構成された部隊』が遂に性別による限界に達し、若く男が多く在籍しているラムザたち士官候補生の部隊に体力面で遅れが出るようになっていたのである!

 

 

 

 

 

 ――近年に至るまで、歴史家たちからウィーグラフ率いる骸旅団の決起に対する評価は辛いものが多く見られている。

 あまりの戦力差がある敵に正攻法で挑むのは勇気ではなく蛮勇であり、勝ち目のない暴挙でしかなかった、という意見が大勢を占めていた。

 

 『指導者ウィーグラフの行動に戦略性が見出せない』というのが、古くから彼らの掲げる根拠だ。

 

 だが昨今、《デュライ白書》の公開によって『英雄王ディリータ』や『獅子戦争そのもの』に対する権威や信仰心が弱まったことで、別の見方で彼らを再評価すべきという声が高まってきている。

 

 それら意見の一つに、『ウィーグラフたち骸旅団は自分たちの力だけで革命が成せるとは考えていなかった』という説が存在し、低所得者層を中心に物議を醸している。

 

 

 ――五十年戦争後半から末期にかけて、イヴァリース国内各地では民衆たちによる不満が爆発して無数の一揆が続発するようになっていた。

 だが、その五十年戦争が終わってからの時期に抵抗運動をおこなっていた民衆たちの勢力は骸旅団だけであり、次に彼ら平民が悪政に力で対抗しはじめるのは獅子戦争が膠着状態に陥ってから数ヶ月が経過した後の《亮目団》などの登場を待たなければならなかった。

 

 この長いスパンと、終戦と同時に搾取される立場に甘んじる者が増加した理由として、ウィーグラフは『民衆自身が諦めてしまったこと』があるのではないか、と彼は考えたのではないだろうか?

 

 『どうせ自分たち平民が体制に抗ったところで、力ある貴族や騎士には勝てない』

 『自分たち無力な民衆には世の中を変えることなんて出来やしない』

 『逆らっても殺されるだけなら奴らに従い、命だけでも長らえた方が遙かにマシだ・・・』

 

 ――そんな風に民衆たちは考えるようになってしまっていたことが、戦後もイヴァリースの腐敗した社会や政治が続くのを許されてしまっている原因の一つなのではないだろうか・・・・・・そう考えた彼が結成して活動を始めたのが『平民ばかりで構成された骸旅団』という反政府勢力だったというのが、近年台頭したウィーグラフに好意的意見を向けるものの一つの内容だ。

 

 その為にウィーグラフは、自身が直接指揮する直属部隊の隊員たちを、敢えて若く見目もいい女性団員ばかりを抜擢していた可能性は確かにある。

 民衆とは、いつの時代も『アイドル』を欲し続ける根源的欲望をもっているものだ。それは時代が下った今も変わることなき業と言っていい。

 

 彼女たちのように、か弱く見える美貌の女性でさえ戦えるのだから、それを見ていた者達に最も分かりやすく奮い立たせられる『アイドル』として機能するよう、彼は自分直属の部下たちを選抜していた結果が、ラムザたちとの決戦時における編成だったとすれば説明はつきやすい。

 

 ウィーグラフとて、その程度のプロパガンダは思いつくだけの頭はある男でもあっただろう。

 その反面、愛妾たちを戦場でまで連れ込んで、夜の癒やし役を任せられるほど甲斐性のあった人格の持ち主だったなら、ギュスタヴの離反は招いていまい。

 

 

「だが、どちらにしろウィーグラフの革命が失敗だったことは事実である。

 そこまでは彼ら自身も、否定したことは一度もない。

 しかし利害打算と、戦場での有効な勝ち方だけを“現実論”として尊ぶ昨今の風潮にも、ウィーグラフの革命と同じ失敗の気配を感じざるを得ないのも、私の正直な気持ちである。

 我々は過去の失敗者たちを正しく学び、正しく理解し、その失敗から『失敗理由』を学ばなければならない義務がある。

 見下し、罵り、“そんな事をやっている者達だから失敗したのだ”と、失敗者自身だけの問題として片付けて、現在の自分たちを見る鏡として用いない者に、“真の勇気”が得られる事は決して無いのだから―――」

 

 

                   

 

 

 

 ・・・・・・そのような評価が自分たちに与えられるようになる未来を無論、今を生きるウィーグラフは知らない。

 彼が知ることが出来るのは、今の自分から見える現在と、今なお忘れられていない過去に経験した出来事だけしか存在しない。

 

(・・・・・・戦い続きだった疲労で、彼女たちの体力が限界に達していたと言うことか!?

 士気高揚のための編成がこんなところで裏目に出るとは――ッ!?)

 

 絶望に転化する寸前の焦りが、ウィーグラフの強靱な精神に『後悔』という強烈な一斬を重くのし掛からせていた。

 無論のこと、士気高揚だけを目的としてメンバーを選抜していたわけではなく、女性ながら旅団内で一二位を争う猛者たちばかりを選び抜いて編成した自慢の直属部隊。

 

 力を発揮できるよう、各地を転戦しながらも合間合間で十分に休息を取らせてもおり、この戦闘が始まる前にも風車小屋に立ち寄っていたのは、彼女たちに決戦を前にして最後の休みと回復時間とを与えることを目的としてのものでもあった。

 

 だが、幾ら強いとは言え彼女たちは女性だ。

 肉体が持つ『持久力』という点では、女性の身体よりも男性の肉体の方が有利さを得やすい分野での勝負になると分が悪い。

 

 また予想外なラムザたちの乱入によって、風車小屋での休憩が予定していた半分で切り上げざるを得なくなったことも、骸旅団の側には悪影響を及ぼしている。

 もともと各地の戦線を駆けずり回って、窮地にある味方部隊を救援し続けてきた彼女たちだ。

 途中で休憩を挟もうとも、体内と精神に蓄積され続ける疲労とストレスは、完全に癒やせるというものではない。

 

 それに引き換えラムザたちは、ディリータが手配した馬車を使って女性たちは交代で休息と仮眠を取らせてもらい、男の兵士たちにも休ませてもらった女性たちが何かと作業を代わってやっていた。

 

 疲労度の蓄積と回復速度で、ラムザたちの方が有利になりやすい環境を整えた上で出撃してきていたのである。

 その差が今、戦況の有利不利となって現れている。

 

 短時間での勝負であれば、今の骸旅団のメンバーたちでもラムザたち士官候補生の部隊を撃破することが可能だったろう。

 だが長期戦となり、持久戦となれば、剣の腕や経験の差より『体力』が勝敗を分ける要素となってくるのが、白兵戦における現実だった。

 

 そして、自軍が不利な要因が『既に失われた体力』という、知恵や工夫や勇気によって補いうるものでない以上。・・・・・・ウィーグラフには現在の戦況を覆せる方法が、どう足掻いても考え出すことができない。できる術が、自分にはない・・・・・・!!

 

(私があの時、とどめを刺すことを優先していれば――ッ!!)

 

 直近の過去におこなった選択を振り返ったウィーグラフの胸に、激しい後悔の念と暗い絶望とが重く苦しく去来する。

 あの時には、最善でなくともベターだと思った選ぶべき道。無理をして危険を避けるための安全策。

 

 ―――だが、あのとき安全策を選んだことが、今の仲間たちを殺されている理由へと繋がっていた、『一度しか選べない選択肢の続く未来』

 

 その行き着く先にまっていた風景に、ウィーグラフは正しく絶望しつつあった。

 なんとか立ち直って打開策を指示しなければと、頭では思っていても身体が絶望に縛られてしまい、足が重い。

 

 そして、戦場で過去の過ちを後悔した兵士にとっての絶望は。

 現在の彼と戦う敵にとって、致命的な隙としか見えることは決して無い。

 

「もらったぞ! ウィーグラフッ!!」

「――っ!! ラムザかッ!?」

 

 敵の目前で晒してしまった、一瞬の空白。

 それは自分の中では長い長い時間の旅を経ての後悔だったが、実際に流れていた時間は数秒にも満たない僅かな合間の、超高速で行われていた思考だけの出来事。

 

 だが、それでも隙は隙だ。強敵が晒した一瞬の隙を見逃せば、格下の相手に勝てる見込みは一分もなくなるしかない。

 

 僅かな停滞を見逃さずに距離を詰めたラムザたちは、直前で二手に分かれてウィーグラフへと斬りかかる。

 二つの方向に分かれた敵に《不動無明剣》では対処できない。

 

「―――っ」

「チィッ!!」

 

 ギィン!と、鍔鳴りが戦場の一角で響き渡る。

 小賢しくも無言のまま、兄とは逆方向から突きを放ってきた妹騎士ラムダからの刺突を剣の切っ先で弾き返すと、ウィーグラフは即座にラムザの斬撃にも対処するため、振り下ろしてくる敵の刃の振るわれた先に、“左腕”を掲げて前に出す――

 

(はっ!? し、しま――ッ!!)

 

 その動きを自分自身で自覚した時。

 ウィーグラフは今度こそ本当に、嘘偽りも希望もない、完全なる絶望に心が囚われることになる。

 騎士として培われた経験によって、無意識のうちにラムザの攻撃を自分の身体は防ごうとしてしまっていたことに、一瞬送れてから気付いたからだ。

 

 ウィーグラフの視線は一点に固まって、思考と身体は硬直する。

 

 

 ―――《左手に装備した盾》で、ラムザの斬撃を防ぐために前に出してしまった。

 《なにも装備していない左腕》を見つめながら―――

 

 

 それは戦い続ける中で、味方を庇ったが故の結果だった。

 北天騎士団の一員が放ってきた《シールドブレイク》それを回避することは出来たが、それでは傍らに立つ負傷した味方の側面がガラ空きになってしまう。

 それ故に敢えて避けずに受けてしまった技が、運悪くそれが私の装備品の一つを失わせることになってしまっていたのである。

 

 むろん敵の騎士には報いを受けさせてやったものの、装備品はあらん限り味方の兵たちに配布してしまった後だった私には、予備の盾を手にすることが出来ぬまま戦闘に望むしかなくなっていたのである。

 

 

 ――このままでは、私の左腕は永遠に失われることになるしかない・・・ッ!!

 そうなっては騎士として、再起不能になってしまうしかないだろう・・・・・・そうなっては我々が夢見た革命は、永遠に夢のまま終わることが確定してしまうッ! ミルウーダの仇討ちも2度と挑めなくなるだろう! 

 

 ―――それを回避する手段はある。

 

 一軍の大将として、何があっても生き延びてくれるよう、皆が私のために用意してくれた骸旅団内でも一つだけしかない高級品を使いさえすれば、私が致命傷を回避することは確実に可能となる。

 

 だが・・・・・・“コレ”を使ってしまえば、仲間たちは完全に見捨てることになるしかない。

 それどころか、今の戦いで彼らミルウーダの仇たちに仇討ちする機会は完全に失われる。

 

 そういうアイテムなのだ、コレは。

 効果は絶大であり、完全なる脱出を意味するが故に――今おこなわれている戦闘には絶対に、帰還することは出来なくされてしまう。強制的に不可能になる。そういう代物。

 

 だが―――

 

 

「はぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

 ――迫り来る切っ先。

 身体までは遠くとも、腕までの距離はほんの一瞬分しか残っていないだろう。

 今も戦い続けている味方全てを犠牲にして、腕一本を守りぬくことで革命を終わらせない可能性を残せる道――

 

 永劫にも思えるほどの苦悩に満ちた刹那の迷い。

 その末にウィーグラフは決断する。

 

 

「すまない、みんな、ミルウーダ・・・・・・私はまだ、ここで死ぬわけにはいかないッ!!」

 

 

 こうして彼は、《テレポストーン》を使用する。

 妹の仇と、大勢の仲間たちの仇を前にして、自分一人が逃げて恥を晒す、大将の果たすべき責任という決断を―――

 

 

つづく

 

 




注:《テレポストーン》は他のFF作品から拝借してきた、今作版オリジナル解釈アイテムです。原作であるFFTには登場しません(たぶん)

 テレポみたいな敵ボスの負けた後の撤退仕方に整合性をとったもので、《戦場からの脱出用アイテム》ただし《逃げ出す先の指定ができない》という設定。

 タクティクス・オウガの《離脱石》みたいなのを装備してくれてれば楽だったのですが・・・( ̄▽ ̄;)

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