平民派DQN女オリ主がいくFFタクティクス   作:ひきがやもとまち

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遅れすぎて申し訳ありません。久しぶりの更新になっちゃいました。
なかなか内容に納得いかなかったのと、家の事情で資料の紛失が重なって後回しになってしまい……。
たまたま時間できて心に区切りをつけるため書いたら、一日かかっちゃいましたのを勿体ないので投稿です。
ウィーグラフ戦そのものは完全完結。第一章完までも、あと少し。


第24話

 

「もらったぞ! ウィーグラフッ!!」

 

 そう叫びながら放たれた、ラムザ兄様から必殺のタイミングで一撃が放たれた瞬間ッ。

 ・・・・・・盾を持たない左腕を掲げてしまったウィーグラフさんの表情が絶望に染まるのを私の視界が捕らえ、彼の姿が幻のように薄れて消えていくのを目撃するのは、その一瞬後のことでした――。

 

「消えた・・・? ――《テレポ》ですかッ!?」

 

 一瞬だけ呆然としてから私は、実際に見たことはなくとも噂には聞いていた高位の《時魔道師》だけが習得できると言われている瞬間移動魔法の存在を思い出し、周囲に目をやり消えた彼の姿を探そうとして――見つけました。

 

 丘一つ分を隔てた気高い岩の上に立ち、私たちを見下ろしてくる彼の姿を。

 距離にして、ボウガンでも射程がギリギリ届くか否かの中距離でしかない場所に彼の姿はあり、私たちと再び相対できる位置で互いに睨み合う形へと変化していました。

 

 ・・・・・・丘一つ分を隔てた、橋の向こう側にある岩の上に立っている彼と。

 “崩壊した橋”を間に挟んだ位置関係で、私たち士官候補生と骸旅団のリーダーさんは“距離だけ”なら再戦可能な位置で睨み合う形になっていたのです・・・・・・。

 

 それは私が、この戦いが完全に終わったことを認識した瞬間でもありました――。

 

 

「消えたッ!? どこだ、ウィーグラフ! 逃げるのかッ!?」

「・・・・・・自惚れるなラムザッ! 兄たちの言葉を盲信するベオルブ家の子息、何も知らぬ子供よ!!」

「!! そこかッ」

 

 位置的に見て、一瞬前まで目の前にいた相手の姿が瞬時にして掻き消えたことから、私よりも状況を把握するのが遅れた兄様の言葉に、ウィーグラフさんが不快気に表情を歪めながら吐き捨てるように罵倒し、己の位置を知らせてきます。

 

 その表情に込められた嘘偽りなき憎しみの念とは裏腹に、拳を握りしめるだけで動こうとはしない彼の姿からは、全身から悔しさが滲み出ているように感じられ、先ほどの離脱移動が彼の本意ではなかったことを現していたのでしょう。

 

「逃げるな、ウィーグラフ! この卑怯者め! 民衆のための革命を語りながら、危なくなったら逃げるのか!?」

「卑怯なのは貴様だ! いや、貴様らベオルブ家こそが卑怯者の恥知らずな騎士の家系なのだ! 何も知らず命じられるまま戦う兄たちの人形でしかない貴様には、分かることができぬ話だがな!」

「なんだと!? 僕が兄さんたちの操り人形だとでも言いたいのかッ!!」

 

 ボウガンで狙ってギリギリ届くか届かないかという距離を挟んで、間近にいれば剣と剣で切りつけ合っていたであろう殺意の籠もった視線と表情で睨み合いながら、兄様とウィーグラフさんは互いに攻撃できない相手を言葉の刃で切りつけ合う。

 

 かたや親友の妹を逃げるための人質として浚われた貴族子弟と、かたや妹を殺されたと信じている殺人者に仇討ちできなかった兄。

 互いの抱えている事情の違いが、決着を先延ばしにせざるを得ない現状に怒りをかき立てられた結果だったのでしょう。

 

 見ると、未だ生き残っていたウィーグラフさんの部下たちは、大将の離脱に気づいた瞬間には散り散りに撤退しはじめており、私たちの仲間は敗残兵を追い立てるほどの気力や体力は残っておらず、肩で息をしながら立っているのがやっとの窮状に陥っていました。

 

 ・・・・・・それが私が、この戦いが終わったと感じさせられた理由。その全て。

 基本的に戦いというものは、大将が死ぬか捕らわれるか逃げてしまった側の負けであり、指揮官であるウィーグラフさんが故意か事故かは知らねど戦線を離脱してしまった戦場に残って戦う物好きさんは、そう滅多にいるものではない。

 

 それらは別に「忠誠心がない」とかの理由だけではなく、指揮官が撤退した以上は次の戦いに備えるためにも残存戦力は再結集しなければなりませんし、撤退した指揮官の護衛も必要です。

 むしろ負け戦になっても大将が戦場に残り続けていたのでは、近衛の騎士たちなんかは逃げられない。負けた時こそ、恥を承知で真っ先に逃げて見せなければならないのが大将の責任と義務というものであり、大将が逃げれば部下たちが留まる義務はなくなって、処罰される謂われも消滅する。必ずしも悪い行為というわけではない。

 

 もともと先程まで私達が戦っていた風車小屋がある『フォボハム平原』は、五十年戦争序盤に築城されてたものを骸旅団が拠点として占拠したらしい『ジークデン砦』の裏門へと続く道がある場所とはいえ、食料物資を運び入れるための隠し通路的な用途で使われていたため、大軍が展開できるほどの横幅はない狭い獣道みたいな場所。

 少数部隊に裏手から侵入を防ぐ必要性がない訳ではありませんけど、正面から北天騎士団の主力が迫ってきてる最中に死守するほどの軍事的価値はさすがに無い。

 

 おそらくはウィーグラフさんも、私的事情に基づく感情によるものと、北天騎士団の頭領一族ベオルブ家子弟の二人が率いる小隊の行動を『本体とは異なる独自行動』とは思うことができなかったが故の戦闘開始命令だったのだろうと推測されます。

 

 

 ――戦闘が終わって、敵が逃げ始め、強敵だった大将さんの《聖剣技》で殺される危険性がなくなった・・・・・・と分かった瞬間にドッと疲れが押し寄せてきて体力が根こそぎなくなったような気分に陥っていた私は、頭の中だけで他人事のように今みたいな思考をおこなっておりました・・・。

 

 たぶん、戦闘に集中しまくって熱くなってた頭が、戦闘が終わって急に冷めてしまって、上がっていた血が下がってきたことで普段よりも理屈っぽく考える癖が出やすくなっているのでしょう・・・。

 

 そんな風に、どこか他人行儀な俯瞰視点で敵味方双方の状況を、無意識レベルで分析してしまっていた私にとって、兄様とウィーグラフさんの会話は垂れ流されてるのが漏れ聞こえてくるだけ価値しかないと割り切っていたのですけど―――聞き流せない文言が混じり始めた辺りで、私の中でも会話の価値と自分のスタンスが大きく変わるのを自覚させられる事になる。

 

「ラムザ・ベオルブ、兄たちの幻想で育てられた何も知らぬ子供よ。

 貴様はギュスタヴが何故、エルムドア侯爵を誘拐できたと思う?

 公式訪問ではないランベリー領主によるガリランド行の途上で、侯爵が乗った馬車を襲撃できた、その理由が貴様には分かるか?」

「言い訳か!? ベオルブ邸を襲ってティータを浚っておいて、今更なにをッ!!」

「そうではない。計画が成功した理由が分かるかと問うている。

 公式訪問ではないランベリー領主による少数の供だけを連れたガリランドへの行程。

 ベオルブ邸への襲撃と違い、我らのような反政府勢力にこそ最も情報が知られぬよう細心の秘匿が成されていたはずの情報を事前に知っていなければ、襲撃そのものが不可能な誘拐。

 ギュスタブは、誰からどうやって情報を入手し、侯爵の馬車を過たずに襲うことが出来たのか? それは如何にして可能になったのか、貴様は不思議に思わなかったのか?」

「そ、それは・・・・・・」

 

 相手の冷静な指摘に口ごもる兄様。

 その姿を見ながら私の中でも、以前に感じた疑惑が再び首をもたげてくるのを感じずにはいられませんでした・・・。

 

 元々あの襲撃と誘拐は、不審な点が多すぎる事件ではあったのです。

 下校中の小学生を浚うのと違って、政治的大物の誘拐なんて現代でも内部協力者からの情報提供なしでは簡単には成功できない高難度犯罪の一つ。

 ましてエルムドア侯爵ご自身も、五十年戦争では《銀髪鬼》と敵兵から渾名された剣の使い手。

 単独で歩いてるところを襲われた場合でさえ、食うに困った失業騎士たちなど一人で全滅させれるほどの達人です。数をそろえて不意打ちしただけで勝つには相当な人数差が必須だったはず。

 まして『殺さず』に『生かして捕まえろ』とくれば、もはや事前に薬でも含ませておくか人質でもなければ盗賊団ごときで可能になる相手とは思えない。

 

 それに・・・・・・『誘拐』という点で、最初から気になっていた点が一つ、事件発生時からあるにはありましたしね・・・・・・。

 

 

「あの事件には黒幕がいる。黒幕に仕え、事件を計画して実行させた首謀者がいたのだ。

 エルムドア侯爵を、ギュスタヴに誘拐させた存在。

 それは、お前たち兄妹の兄、ダイスダーグだッ!! 奴以外で、それを可能にできる者はいない!!」

 

「なっ!? そ、そんなバカなッ!!」

「・・・・・・」

 

 

 だからこそ、私達ウィーグラフさんの話を聞いた反応も、それぞれ違ったモノになる。

 

 脊髄反射のレベルで瞬時に否定し、言葉を返す兄様と。

 ただ黙ったまま目を細めて、相手を見返すだけの私と。

 

 同じ家に生まれて、同じ世代の子供として育てられながらも、家族への侮辱ともとれる言葉を聞かされた反応に、違う母親から生まれたはずの兄様の方が激しく反応して、完全に実の兄妹であるはずの私の方には揺さぶられる心がない。

 この結果が、私の中にある『別の他人を産んだ母親』という存在によって生じた違いなのか、それとも異なる理由によるものなのか・・・・・・それは私には分かりません。

 

 ですが・・・・・・ただ・・・・・・

 

「出鱈目を言うなウィーグラフ! そんなバカな話があるものか!

 なぜ兄さんが、そんなことをしなければならない!」

「嘘ではない。もちろん、これ程の企みを実の弟である聖騎士ザルバッグ殿も、その事を知っているだろうッ!

 計画を邪魔しに来た、貴様たち兄妹だけが知らされていなかっただけでなッ!!」

「っ・・・・・・」

 

 何の根拠もなく、強いて言えば『家族だから』という理由だけで放たれた、兄様からの相手の話を否定する感情的な反発の言葉がウィーグラフさんから更なる情報を引き出させ、私が聞く必要も余地すらも与えられることはなく。

 

 ・・・・・・そのおかげで空いた、僅かな刻。

 私は小さくブレスを吐いて、息を挟む時間を同時に与えられることになりました。

 

 それが私の脳味噌に、息を吐く前と後とで明確に違いが生じていた、自分の中の思考を自覚させてくれることになる。

 上がっていた血が下がるのを知覚させられて、先程より更にクリアになった思考の範囲が広がるのを感じ取り。

 

 どうやら自分が、思っていたよりずっと――『家族が』陰謀劇の主犯だったと確定したことに、ショックを受けさせれていたようで・・・・・・。

 

「・・・・・・(///)」

 

 ――柄にもなく、らしくもなく、似合いもしない思考をしていた自分に気づかされ、挙げ句それを兄様が先に感情的な叫びを放ってくれたおかげで冷静な思考が刺激されたと自覚させられると・・・・・・余計に恥ずかしくなるだけですねコレは。

 

 せめて今からは自分らしくあろうと、冷静に客観的に徹して、二人の会話を等分に眺めやりながら一言一句聞き逃すことなく分析しようと心に誓いなおし。

 そして。――その成果として気になった部分を幾つか見つけ出すことが出来るようになったみたいです。

 

 

「今、この国では国王亡き後の覇権をめぐり、二人の獅子が争おうとしている。

 一人は白獅子、ラーグ公爵。

 もう一人は黒獅子、ゴルターナ公爵。

 強大な力を持った二匹の獅子たちとが、自らの王国を手に入れるため互角の敵手を滅ぼすための争いがだ!

 一つの王国に、互角の力を持った異なる二匹の獅子が共存することは出来ないからな! どちらかが国の長になれば必ず、今一人の獅子は殺すしかない! そうされない為には自らが長に立つしかない! 当然のことだッ!!」

「そんなことはない! 二人の獅子が互いに対等な立場で協力し合って国を立て直す道だってあるはずだ! 潰し合うだけが力持つ者同士の在るべき姿なんかじゃない!」

「甘いな! 言ったはずだ、為政者の手など黒い血で染まっているものだとッ。今さら自分に取って代わりうるライバルの生存など許容できるものか!

 仮に獅子の片割れが許したとしても、許された獅子は疑い、猜疑し、やがて殺して安全と権力を求めずにはいられなくなってしまう! それが世の中だ!

 だからダイスダーグは、白獅子が安全なる王位を得るための謀略として、今回の誘拐騒動を考え、ギュスタヴを実行役に選んだのだよッ!」

 

 ウィーグラフの話を聞く中で、改めて今回の事件の背景にある政治状況を思い浮かべながら・・・・・・私はおそらく彼の話は大部分、真実なのだろうと感じさせられ、不快な部分も含めて認めざるを得ないことを痛感させられてもおりました。

 

 もともと貴族というものは、現代人たちが思っているほど『王国』という全体の枠組みに大した愛情や執着心を抱いてない場合が結構ある人達なのが実情でしてね・・・。

 執着や帰属意識を強く感じやすいのは、自分が『事実上の王様』になれる領地の方が上であり、王国内に点在している貴族領という名の『小さな王国』にこそ、彼らは国以上の愛情と愛国心を感じていやすい。

 

 地元の支配者一族として君臨し、自分の領地を繁栄させることに成果出してれば豊かになれる訳ですからねぇ・・・・・・そりゃ優先順位が『自分の小王国』が上になって、王様が支配してる全体の王国や他の貴族領などの『外国』がどうなろうと知った事ではなくなってくる気持ちは理解できますし。

 

 そういう関係ができあがれば、全体の中の一地域って認識は薄くなりやすく、たとえ他国の侵略を受けて国が滅ぼされようとも『自分の支配する王国の貴族領』が残しておいてもらえるのなら平然と寝返って、新しい王国の中で自分の小国を支配し続ける貴族として生きていく道を選ぶ者だって出てきてしまうもの。

 

 一般にそれをやる者が多数派でないのは、征服した土地を配下の貴族に褒美として与えなければ侵略国側の王としても国王の地位を保つことが難しくなるからで、寝返ったところで利用されて殺されるだけと思われている相手には甘い話を持ちかけられても乗る気になれないという、逆の意味での保身によるものなのが実情といったところ。

 

 結局どちらの中心にあるのも『保身』であることに変わりはなく、国の最高権力は欲しくとも、命を賭けた大博打に負けたときは一族全ての未来を失おうとも!!・・・・・・と思って参加できるほどの度胸は大抵の大貴族たちは持ってないのが実在する欲深な貴族ってイキモノ。

 できるだけ安全を確保したまま、他人を動かすことで国と権力を得られるなら得ようと画策するのが彼らの常套手段。

 

 そんな者たちにとって、自らが至尊の座につくことができる可能性と、自らの安全を脅かす強敵の排除が矛盾なく両立できてしまいそうな状況だったなら・・・・・・まっ、ギュスタヴさんの一件にも結びつくのも分からんではない話って奴ではある。

 

「ばかな・・・・・・だが、だがそれなら何故エルムドア侯爵の誘拐なんかを、兄さん達がしなければならない!

 そんなことをすれば味方になるどころか、逆効果にしかならないはず・・・っ」

「言ったろう? だからこそ奴はギュスタヴを使ったと。

 二人の獅子たちは今、来たるべき戦いの準備を進めながら、誰が味方で、誰にとっての敵なのか、それぞれの所属と旗色を見極めようとしている。

 しかし、他人の頭の中を覗くのは難しい。よしんば覗けたとしても明日には変わってしまうかもしれぬ人の心の移ろう先まで見通すことは誰にも出来ぬ」

「・・・・・・」

「ならば、いっそ亡き者にして、その領地に己の息のかかった者を送り込めばいい!

 そのために我ら骸旅団を、誘拐の実行犯として利用する役に選んだのだ。

 貴族制の撤廃を主張している反政府勢力の我々ならば、大貴族であるエルムドア侯爵を誘拐した後に殺してしまっても不思議はなく、此度の殲滅作戦の総指揮はラーグ公と北天騎士団が担う。

 侯爵の仇討ちと反乱軍討伐の功績によって、亡き侯爵の後任か代理を身内から推挙するか、あるいは新たなランベリー候に、『ダイスクダーグ・エルムドア侯爵』というのも夢ではなかったかもしれん。

 革命に疲れた愚かなギュスタヴは、そんなお前の兄ダイスダーグの甘言に釣られて侯爵殿を誘拐してしまったのだ・・・!」

「ウソだッ! 誇り高きベオルブ家の人間が、そんな卑怯な事をするものか!」

 

 兄様が悲痛な叫び声で相手の言葉を否定しますが・・・・・・その口調と声音は今までのものと違って確信に欠け、どこか縋り付く子供のように弱々しい印象を聞くものに与えてしまうものへと変化していることを私は、そして恐らくはウィーグラフさんやディリータさんも感じさせられてたと思われます。

 

 『強がっている』そう感じさせられる声だったんですよ。

 弱い子供が、必死に自分にとって大切なナニカを守ろうとして、汚い言葉や強気な発言で取り繕って、その場における上位の立場をなんとか維持しようと躍起になっている。そんな印象。

 

 そんな兄の狂態と呼ばれても仕方のない部分を持った姿を見下ろし、冷笑を浮かべられたウィーグラフさんの姿を見上げながら・・・・・・私は彼の語ってくれた話に対して、疑問を確信することに繋がってくことにもなる。

 

「その言葉を修正しろッ、ウィーグラフッ! ベオルブ家が・・・兄さん達が、そんな汚いことをするはずが――ッ」

「フッ。信じぬと言うなら、自分の目と耳で確かめることだな。お前の信じてきたものが如何に脆く、自分が何も知らない子供でしかなかったという現実を――」

 

 

「ずいぶんと深い事情まで色々と知っているんですね、ウィーグラフさん。

 いったい、“誰に教えてもらった”のです?

 まるで、答えを欲しがる乞食のように。正しさという餌を求めて尻尾を振る犬のように。

 反乱軍指導者でしかない貴方が、敵で在る貴族内部の計画に詳しすぎる理由をお聞かせ頂ければ幸いなのですが――?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――橋が崩れて渡れなくなった、小さな丘一つ隔てた先に立ち。

 私は、向こう岸に残った『二人のベオルブたち』を睨み付けながら、既になにも出来なくなってしまった自分自身の無力さに奥歯を噛みしめることしか出来なくなっていた・・・。

 《テレポストーン》の効力によって、戦場と認識される範囲内から強制的に脱出させられてしまった私には、今から戦場へと舞い戻って戦線に復帰する手段がない。

 

 今の私に出来ることは、出来るだけ長くベオルブ家の子息たちとの会話を続けることで注意を引きつけ、戦場の各所にチラホラと残っている傷ついた味方の撤退を支援してやる程度が関の山・・・・・・自分で選んだ結果とは言え、あまりに屈辱的な立場の違いに奥歯をかみ砕きたいほどの怒りに駆られて仕方がない・・・!!

 

 物理的には、丘一つ分しか離れていない対岸に立つ敵の二人。橋さえ架かっていれば、走破して叩き切ることで仲間たちの仇を討つことが可能な距離。

 だが今、互いの立っている場所と場所を繋ぐ橋は崩れ落ち、私たちとの間に広がる短い距離を絶対的な壁として互いに互いを隔てているようだった。

 

 貴族たちと違い、《持たざる者》の側に立つ私には、自らの剣が届く距離にいる者たちしか救うことは出来ない。

 その剣が今、届く距離に味方はいない。

 本来なら届くはずの、助けの手を差し伸べられる場所にいる者たちに向かって、私が伸ばした腕と剣は――決して届かせることの出来ない『近くて遠すぎる距離』に、今の私たちはいる。

 ベオルブ家の兄妹たちの場所にいる仲間たちと私の間には、目に見えない絶壁が立ち塞がっている・・・・・・。

 

 そんな時だった。

 睥睨できる範囲内に残っていた味方の兵たちが大部分逃げることに成功したのを確認し、潮時と判断して撤退しようとしていた私に向かってベオルブ家の娘の方が問いを投げかけてきたのは。

 

 

「ずいぶんと深い事情まで色々と知っているんですね、ウィーグラフさん。

 いったい、“誰に教えてもらった”のです?

 まるで、答えを欲しがる乞食のように。正しさという餌を求めて尻尾を振る犬のように。

 反乱軍指導者でしかない貴方が、敵である貴族内部の計画に詳しすぎる理由をお聞かせ頂ければ幸いなのですが――?」

 

 

 ・・・・・・不愉快な言い草であり、不名誉極まりないレッテルだった。

 思わず無駄と承知で、腰の剣に手が伸びてしまうのを押さえるのに苦労させられるほど、ベオルブの娘が放った発言は私にとって――我われ骸騎士団の戦士たちにとって聞き流すわけにはいかない言質が含まれていたのだから。

 

「――聞き捨てならん言い草だな、ラムダ・ベオルブ。

 お前も、自らの兄たちが犯した罪科を認めぬため、自分たちに逆らうからという一事によって、敵に罪をなすりつけ、自らの一族には何の非もなく、此度の戦乱の責任はすべて平民の側にこそある、と言いたい訳か?」

「残念ながら私は兄様と違って、“謀略家のダイスダーグ兄上様”と同じ母から産まれた娘でしてねぇ・・・」

 

 だが相手からの返答は、やや意表を突く形となってしまったため、私は一瞬だけ眉をしかめて更なる反応に迷わされることになる。

 

 ・・・なんとも解釈に惑わされる言葉だった・・・。

 直結の血を引く妹だから『長兄の言葉を信じている』のか、謀略家の兄の血を引く妹だから『兄の言葉は嘘だと信じている』と言いたいのか・・・・・・この娘は初めて出会ったギュスタヴとの一件の時から、どうにも相手自身に思いを推測させる癖が強すぎる。

 

「ダイスダーグ兄上様は妹の私から見ても、才能と知恵が豊かで、それに相応しい野心も兼ね備えてる人です。

 あなたが言うようなことを企んでいて実行した可能性を指摘されてしまったら、残念ながら心から否定できる人じゃありません。むしろ普通にやりそうだな、と失礼ながら今の話を聞いてて思ってしまったほどですし」

「ほう・・・殊勝だな。では、どうする? お前は私に何を聞き、何を知りたいと望んで問いかけるのか? 

 仮に答えを得られたとしても、“敵である私の言葉”を、お前に信じることが可能とでも?」

「たしかに・・・・・・聞くだけ無駄な間柄なのが私たちでしたね。これは失礼いたしました」

 

 敗北寸前の敵から得た情報だからこそ、“嘘をつく意味がないから信憑性がある”と取るか。

 滅び行く敵が語った情報だからこそ、“知ることができる訳はない”と切り捨てるのか。

 

 どちらであろうと、結局のところは話を聞かされた側が勝手に選び、勝手に信じ、各々の都合で『これこそが正しい真実だ』と信じたいから信じ込む・・・・・・所詮その程度のものだ。真実だの正義だのといった為政者たちが黒い血で汚れた手を隠しながら尊ぶ美徳というものは。

 

 たとえ敵から情報を得ようとも、重要なのは自分たちが『信じるか?信じないか?』という一点であって、私が今ここで何を語ろうとも相手が信じぬと決めている立場にあるなら、語ること自体に意味がない。

 

 

「では、質問を変えましょう。―――もういい加減、認めても良いのではありませんか?

 自分たちが掲げる理想実現は、不可能だという事実を。

 少なくとも、今はまだ・・・・・・ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ラムダが静かな声音で語る、その言葉を聞かされた瞬間。

 オレは思わず、ティータを探す手と足を止めて彼女の方へと振り返ろうとする身体を、押さえつけることが出来なかった。

 

 正直に言えば、この戦いの中で早くから感じ入るところがあった骸旅団が掲げる『貴族なき平等な社会』という理想。

 もしオレたち兄妹がベオルブ家に引き取られて育てられることなく、ティータが奴らの一味に誘拐されることもなかったら・・・・・・あるいは自分は奴らの側の一員としてラムザたちに剣を向けてくる『敵の一人』になってたんじゃないか・・・と。

 そう感じさせられたことが一度や二度じゃなかった骸騎士団。そのリーダーであるウィーグラフの掲げる理想。

 

 それが実現不可能で間違っているものだったとするならば・・・・・・まだオレは、“こちら側”に居続けられるような気がしていた。

 単なる敵からの否定に意味なんてないけれど・・・・・・もしかしたらラムダなら・・・あの理屈屋なら、オレでも気付かなかった『今は今のままでいい』と思えるだけの理由を、変えるために動き出したいと願う心を引き留めてくれる根拠を、オレに与えてくれるのではないか・・・・・・?そんな希望をかすかに、だが確実に今の自分は幼馴染みの妹に抱くようになってしまっていたから―――

 

 

「愚かな・・・・・・貴様ほどの見識がありながら、なぜ理解できない? いや、なぜ理解しようとしないのだ?

 民たちの心はもう、イヴァリース王家と貴族たちの支配から離れている。彼らは奪うだけで何も与えてくれない特権階級である貴族たちの支配に疲れ切り、自分の意思で自分たちが生きる道を選べる社会の実現を望んでいるのだッ!! それが貴様ら貴族にはなぜ分からぬ!?」

「少しだけ違いますね。平民たちが望んでいるのは、“圧政からの解放”です。

 一方的に奪うだけになった貴族の支配からは自由になりたいでしょうし、何も与えてくれずに命令だけしてくる支配者の命令に従わなくていい権利を欲しもする。

 ――ですが別に、自分の意思で『高値でパンを売りつけられる自由』やら、子供を毛布を買ってやれず『凍死させる権利』を保証して欲しいわけでもない」

 

 絶対零度のような冷たさと鉄壁さで以て応じられたラムダからの返答。

 一方的に否定を返しただけなら、他の貴族たちから言われているのと同じだったが・・・・・・彼女は必ずしもウィーグラフの意見を完全否定したわけではない。

 

 相手からの批判は認めた上で、相手自身の主張の問題点について追求する。それが子供のときから続く彼女の癖だった。その点だけは良くも悪くもまったく変わっていない。

 

「極端な話、あなたがた骸旅団が貴族制の廃止に成功した後の社会で、新体制構築のための費用捻出として新たな税を布告したら、彼らは『横暴な支配者たちを吊せ!』という叫びに字面を変えるだけでしょうよ」

「・・・・・・お前も、ゴラグロスと同じようなことを言うのだな。貴様の言うとおりにして、一時は上手くいったとしても結局は元の木阿弥。

 今と同じ状況に陥ったなら、為政者たちは今と同じことを平民に対して強いるのみ。そうする権利が奴らの側にはあり、抗う自由が虐げられる側に保証されていない社会では、そのような悲劇が幾度も繰り返すしかない・・・!

 我らは、そのような悲劇を繰り返さぬ為にも今だけを見て戦ってはいかんのだ! 自分たちの子供の未来のため、孫たちが飢えることなく死に怯える必要のない世を生きれるため戦わなくては、一体何のために我らは今の殺戮はあるというのだ!?」

「そうかもしれませんけどねぇ・・・・・・」

 

 ふぅ――と、ラムダがなにか気重たそうに息をつく姿を見た瞬間、オレは一瞬身構えて、彼女の話を一元一句聞き逃すまいと心に誓っている自分に気付き、このような場と知りながら微かに苦笑させられた。

 幼い頃から共に過ごしてきた少女と付き合い方の癖が、スッカリ染みついている自分に気付いたからだ。

 

 アイツがこういう仕草をするときには、考えをまとめようとして――そして纏め終わったときが多いことを経験的にオレは知っている。

 そして次の言葉が、きっとオレのこれからにとって大きく影響する言葉になる。

 理由は分からない。ただそう感じさせられたのだ。幼い頃から共に過ごしてきたオレの身体が、彼女の癖をよく知るものとして自然体に・・・・・・。

 

 

 

「今日食べるパンもなく、暖かい毛布で凍死する心配なしに眠ることもできてない人達に、貴方はそこまで求めるのですか?

 満足な教育を受ける権利も自由も、お金さえも得られていない人々に、今日明日を自分が生き残れる保証すら与えられない平民たちに、あなたは『子や孫を生んだ後まで生きていられるに決まってる』という前提で、次の世代のことまで考えて生きる義務を、彼らに課すと仰られるのですか?」

 

 

「よしんば、それで上手くいくことが出来て、貴方の理想とする新しい国作りが実現された時。平民たちは口々に、こう叫ぶだけになると思われません?

 

 『我ら無力な平民に自由と権利をお与えくださった慈悲深き名君ウィーグラフ国王陛下。

  どうか我らを正しき道へお導きください。

  そして子や孫の代まで、あなた様の国で健やかに育てるよう、我らをお守りください。

  我ら平民は、圧政からお救いくださった偉大なる陛下に絶対の忠誠を誓います』

  ―――とね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――北天騎士団を率いる一族の一員ベオルブ兄妹が率いる部隊と、骸旅団の頭目ウィーグラフが率いる部隊が、共に本拠地から離れて異なる場所で死闘を繰り広げていたのと、ほぼ同じ頃。

 

 彼らのいる場所から、ほど近い場所に建つ城塞が今、炎の中に燃え落ちようとしていたーー

 

 

「く、クソッ! クソッ!! 何故だ!? 何故こんなことに・・・・・・ッ!!」

 

 その城塞の通路を、一人の騎士装束に身を固めた青年が必死の表情で走り続けていた。

 周囲には敵味方の死体が散乱しており、激しい戦闘があった後であることは疑いない。

 外の喧噪とは真逆に、廊下は静まりかえり、敵兵の死体も少ないことから見て、突入部隊だけしか入り込めていない区画という事なのだろう。

 

 だが、それも今だけの話だ。もうすぐここまで敵は押し寄せてくる。

 それらを止める術も兵力も、既に自分たちの側には残されていない・・・・・・どこに逃げれば生き残れるのか、まるで分からない!!

 

「くそッ! クソッ! ――おいッ! グズグズするな! 走れ!走るんだよッ! お前だって、こんな所で死にたくないんだろうが!? だったら走れッ!!」

「――あうっ・・・!」

 

 騎士は余裕のない表情で片手に剣を握りしめながら、もう片方の手で一人の少女の手首を剣よりも強く握りしめていた。

 震える掌で決して離そうとせず、力強く握りしめたままになって久しい片手は、華奢な少女の縛られて一本に束ねられている両手を赤色から黒に変色するまでに至っており、拉致監禁生活と逃避行に付き合わされる中で疲れ果てて、元は美しい顔立ちをゲッソリとやつれた青白いバンシーのように見間違えるほどだった。

 

「お願・・・します・・・・・・もう、休ませ、て・・・・・・もう歩け・・・ない・・・・・・」

「うるさいッ!!」

 

 手を引く少女からの懇願、あるいは必死の悲鳴を聞かされても騎士の行動は変わらず、砦の奥へ奥へと進ませるのに付き合わせ続けて歩を進めさせる。休ませてやろうという意思など微塵も見られない。

 

 ・・・・・・彼自身が、どこで休めば安全なのか全く分からなくなってしまっていたのが、その行動の動機だった。

 なんとか味方が残っている拠点まで逃げ延びてはきたものの、その直後に行われた北天騎士団による第一波攻撃によって多数の戦死者を出してしまい、正面の城門は既に破られてしまったらしい。

 

 砦には火が放たれ、現在は砦各所に潜んでいる兵たちが侵入してきた敵兵を待ち構えて襲いかかるという防衛戦術で時間を稼いではいるものの、このままではジリ貧なのは誰の目にも明らかだった。

 

「くそぅ! クソゥッ! なんでなんだ!? 俺だけでも助かるつもりが、なんだって俺だけこんな目に・・・・・・ッ!!」

 

 少女の手を強引に引く騎士は―――『ゴラグロス・ラヴェイン』は、絶望に染まりかけた感情から必死に目をそらす。

 そして自ら手を引く、ベオルブ家の娘と信じるティータだけは決して離さぬよう強く強く握りしめながら、城塞内のどこかへ何か手があるのではと彷徨い続けていく・・・・・・。

 

 

 ――ラムダの予言したとおり、ゴラグロスは人質のティータというカードを扱いかねていたのである。

 

 北天騎士団の包囲から活路を切り開ける自信のないゴラグロスにとって、自分を守ってくれる盾は人質である少女ティータ以外に既にない。

 だが人質として使う以上、安全を買うためには彼女の身柄を自分の元から相手へと引き渡す必要性があり、彼女を連れたままでは敵の追っ手が無くなることはまずあり得ない。

 

 ・・・・・・それは分かっているのだが・・・・・・人質を手放した途端に助けてやる理由のなくなった相手から報復の刃や毒矢が降りかかってこないとは誰も保証できない以上、できる限り確実性の高い条件交渉こそが彼の望み求めるところだ。

 また、下っ端相手に安全など保証してもらったところで何の意味もなく、それなりの地位身分のある相手でなければ口約束になるのは目に見えている。

 

 だが反面、ベオルブ家の令嬢とはいえ、下級騎士程度では名を知ってはいても顔は見たことがない者の方が大半を占めているのが、この時代における騎士団長一族の娘と部下という関係性。

 写真などという便利なものが生まれてない時代に、貴族による閲兵式などに参列するのを見たことがある者こそいても、遠くから小さく映るドレス姿の貴女ぐらいにしか目視できるものではない。

 

 現実の現代社会における軍隊のように、身分差が精神面や階級だけでなく、物理的な距離にまで広がりを持たされていた時代に生きる下級騎士同士の持ちうる認識など、その程度のものに過ぎなかったのだ・・・・・・。

 

 結果としてゴラグロスは、騎士団長の娘の顔を知っているであろう上級騎士にしか通じづらい交渉カードを守りながら、上級騎士と交渉するためには下級騎士たちに取り次ぎを受け入れさせる必要があり、下級騎士相手には人質としての効果が薄い―――そんな厳しすぎる条件を自らに課したまま今まで来てしまったことに、今更になってようやく気付きつつあった。

 

 既に遅きに失した・・・・・・という事実から目と心を背けながら―――

 

 

「はぁ・・・、はぁ・・・・・・、も・・・、もう・・・ダメ・・・休ませ、て・・・・・・」

「うるさいッ! 走れッ!走るんだよ! お前だって死にたくないんだろうが!? だったら走れッ!!」

「・・・ハァ・・・、ハァ・・・、ハァ・・・・・・」

 

 

 走りすぎて疲れ切った少女の手を強引に引っ張ってでも歩かせようとするゴラグロスだったが・・・・・・恐怖という名の精神力だけで肉体限界を超えさせるにも限界というものがある。

 

 もともとアルマと共に学校で学ぶ道を歩んでいたティータは、身分こそ平民の娘でも肉体的には立派な深窓の令嬢だ。

 深窓の令嬢に、慣れない山歩きや敗残行に付き合わせた挙げ句、この砦に到着してからは目的地も定まらぬまま走りっぱなしで今まで続けてきたのである。体力的にも精神的にも限界であることはゴラグロスの目から見てさえ明らかだった。

 

(・・・はぁ・・・、はぁ・・・・・・兄、さん・・・・・・。ディリータ・・・兄・・・さん・・・・・・助け・・・て・・・・・・)

 

 心の中で、彼女は浚われた時からずっと呼び続けている人物の名を、再び呼ぶ。

 その名前だけを支えにして、なんとか今まで耐えることが出来てきた。・・・だが、それも限界が近い。

 

 もう足が動かない。怯えても、死に恐怖しても、生きて帰りたいと願っても・・・・・・感覚が薄れて、痛みさえ感じなくなってきた足に力が入らず、立ち上がることすらままならない・・・・・・そんな状態に追い詰められる寸前にティータはあった。

 

 仮にも女騎士として訓練を受けてきたラムダや、兄たちに付き合って危ない土地にまで付いて行きたがったアルマとは違うのだ。

 それどころか、いきなり始まったのではアルマでさえ根を上げるような逃避行に付き合わされながら、ティータはよく頑張ったと言っていい。他の令嬢であれば、半分にも達する前に精神が崩壊していてもおかしくはない状況に、彼女は置かれ続けてきたのだから。

 

 

「――チィッ!! だが、どうすれば・・・ッ」

 

 人質である交渉材料『ベオルブ家の令嬢』が、既に限界なのはゴラグロスにも分かり切っていた。

 面倒なお荷物ではあったが、彼女なしでは生き延びれる手段がないのも事実である以上、配慮しないわけにも行かない。

 

 実のところ、砦に到着するまでと到着した後での戦闘の中で、彼の部下たちが次々と戦死していったのは、『自分“が”助かる最後の可能性』を守らせるため部下たちと共に死守するよう命じていた彼自身の指揮による結果であり、自分たちを守らせるために誘拐した姫君を自分たち誘拐犯が死守するため命掛けで戦わねばならないという―――客観的に見ると、かなり阿呆らしい立場に自らを追い込んでしまっていたのが今の彼らの立場であったのだ。

 

 だが、それもそろそろ終わりが近いようだった。

 終わらされたい訳ではなかったが、終焉のベルは無情にも鳴り響かせにくる死神の訪れは、もう間近まで迫ってきている。

 

 既に、第二波攻撃を凌げるだけの兵力は、この『ジークデン砦』に残されていない。

 次が来たら後がなくなる・・・・・・ッ!!

 追い詰められた心理状態のゴラグロスが、血走った目で周囲を見回した先に、一つの建物へ続く屋根があった。

 砦の中では最奥に位置し、背後にそびえる山脈から伸びる細い山道しか裏門には通じていないことから守りが薄く、敵も攻め手が押し寄せていない一角。

 

 その昔、五十年戦争の序盤において漁夫の利を得ようとしてか、介入してきたロマンダ国からの侵攻を警戒するため建設されたジークデン砦。

 その際に、海を越えて襲い来る敵軍を迎撃するため、『機工都市ゴーグ』から大量に運び込まれた当時は復活されたばかりだったという特殊な兵器。

 

 魔法でもないのに、魔法よりも凄まじい破壊の炎を生じさせれるというソレを、時間が経ちすぎて劣化している恐れがあるからとウィーグラフが一カ所に纏めて保管するよう命じていた例のモノ。

 

(一度でも火をつければ、砦を包囲している北天騎士団はほぼ全滅させることさえ可能なアレと、この人質の娘さえいれば、あるいは・・・・・・!!)

 

 ゴラグロスの眼に、ギラついた光が飢えた餓狼のように怪しく浮かぶ。

 そんな彼が口に出した声は今までと違って優しいもので、危険や害意などという悪感情はまったく相手に抱いてないと信じさせる―――偽りに満ちた声音に変化していた。

  

「分かった。だが、もう少しだけ辛抱して欲しい。あそこだ。あそこまで行けば、俺も君も休むことが出来るだろう。

 ここはもうすぐ火が回ってくる。君にだって、死にたくない理由があるのだろう?」

「・・・・・・・・・」

 

 弱々しい仕草でゴラグロスの顔を見上げた令嬢は、弱々しく頷くと騎士の手を取って、最後の力を振り絞って足を進める。

 

 その先に・・・・・・兄たちが待っている場所へ続く道があると信じて。

 兄たちと一緒に・・・・・・優しかった日々に帰れる日がくると信じて。

 

 あの兄妹たちと一緒に笑い合える日々に帰ってこれる希望だけを縁に・・・・・・今日まで耐え続けた苦しい生活が報われるのだと信じることで―――なんとか足を動かしながら・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――骸旅団が最大の拠点として使っていることが判明した、ジークデン砦の全面に展開させた北天騎士団・野営地の中。

 一際大きい天幕が張られた内側で、前線部隊を率いる北天騎士団長ザルバッグ・ベオルブは、折りたたみ式の椅子に腰掛けながら届けられたばかりの書状を読みふけっていた。

 

 彼の鎧の各所には泥や赤い液体がこびり付き、中には黒く変色しかかっているものもある。

 それはザルバッグが個人的に建てた武勲の証であり、第一波攻撃で城門を突破して砦に火を放たせる際に攻撃において最前線で猛威を振るった《イヴァリースの守護神》に敵から与えられた勲章でもあった。

 

 既に戦いは掃討戦に移行しており、指揮官自らで張って屠らねばならぬほどの危うい戦況ではない。

 そうなったからには、下の者たちに武勲を立てさせてやるため場を譲るのが上司の勤めというものであり、自分ばかりが敵兵を倒し続けていたのでは他の者の役職と給金を奪うことにもなりかねない。

 敗残兵狩りが如き小さな手柄は、下の者たちに譲ってやるのが、この時代の騎士社会における指揮官の嗜みというものでもある。

 

 その点を、武門の頭領一族である名門ベオルブ家の次男として生まれ育ったザルバッグは、よく弁えていた。

 比較的早く戦局そのものは決する一打を叩き込んだ後は、本陣へと退いて部下たちの奮戦と人事にだけ集中していたのだが。

 

「失礼いたします、ザルバッグ閣下。宜しいでしょうか?」

「・・・・・・なにか?」

「敵に動きがございました。敵の幹部――と言うより、最後の生き残りと思しき男が砦の二階から何事かをわめきだし、閣下をお呼びするよう執拗に迫っておるとの由。

 “閣下が出てこられるなら、自らもまた姿を晒す。話がしたい”―――と」

「そうか」

 

 パサッ――と、手に持っていた紙切れを即席の机に放り投げて、立ち上がるザルバッグ。

 その前に跪いて頭を垂れている頭髪には見覚えがあった。

 

 《アルガス・サダルファス》

 

 かつてラムザたちに命を救われ、一事は行動を共にしていたこともある少年騎士。

 だが今、彼が身につけているのはランベリー近衛騎士団の鎧ではなく、北天騎士団がまとっているのと同じ甲冑姿で、討伐軍指揮官たるザルバッグ卿の小姓として側に侍る身に今ではなっていた。

 

 無論、彼の野心は《小姓》などという金魚の糞がごとき低い身分で満足する気は毛頭ない。

 今回の一件を足がかりに、次々と大きな任務をこなすまでに至ってみせる―――そのための階梯の一つとして今回の雑事は必要な作業だった。

 

「会おう。すぐに出てくるよう返答してやれ。他の者たちには警戒を厳にせよと、申し伝えることも忘れるでないぞ」

「ハハッ! 早速に!!」

 

 小気味よい返事をして、あるいは小気味よく聞こえると信じている返事を発してからアルガスは足早に天幕から前線へと舞い戻っていく。

 その足取りと仕草から、彼の視線と心は目前の戦場で自らが立てられる手柄のことで一杯になっていることは容易に予測できることだったが・・・・・・予測できない問題も、自分には存在するのも確かなようだった。

 

 

「さて・・・・・・どちらが先に訪れるかな?

 アルガスの一矢か、それともラムダの一行か―――出来ることなら大魚が釣れる方が的中してほしいものではあるが、さて・・・・・・」

 

 

 そう呟いて肩をすくめたザルバッグの脳裏には、先程まで読んでいた書状の中身がハッキリと記憶されていた。

 差して長い内容ではなく、簡潔に要点だけを絞った書状は、らしいと言えばらしい書き方で、だが焦りながら記したらしい字の乱れも見受けられた、その一文。

 

 先触れの使者として送られてきた一人だけが持ち込み、今では横になって熟睡している見習い騎士が所属する部隊からの急な一報。

 その内容は、この一文にすべての迷いと選択肢が込められたものだった。

 

 

 

 

『骸旅団の首領ウィーグラフを捕捉。

 生き残りを殺すことなく、彼らの拠点を包囲したまま持久戦に持ち込めば、乱の首魁は必ずや味方を助けるため救援に現れる。そのための手はずは整えました。

 ザルバッグ兄上様の配慮を期待するや切であります。

                  兄上様方と同じ母をもつ妹ラムダ・ベオルブより』

 

 

 

 

つづく

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