平民派DQN女オリ主がいくFFタクティクス   作:ひきがやもとまち

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正直、勢いのままに書いてしまった自覚があり、今少しシッカリ出来てから更新すべきかと思ったのですが……とりあえず反応を見させてもらおうと、出すだけでも出してみようと決意した次第。



第26話

 

『骸旅団の反乱』と『首魁ウィーグラフ』への歴史的評価は、『デュライ白書』が公開された現代にいたっても未だに公的には定まっていない。

 イヴァリースの民が建国史上はじめて国民主権を起こした運動として再評価する声もあれば、最初から勝ち目のない戦いで無駄死にを多く出しただけの愚行と誹る声も少なくない。

 特に団長ウィーグラフに批判的な者たちが問題視しているのが、彼が部下に対して『自己犠牲を強要する発言』を語っていたとする記録についてだ。

 

『それは本人の意思で選ばれるべきもので、強制すべきものではない』

 

 というのが、彼らの主張する批判の根拠だが・・・・・・この意見は間違いである。

 何故なら、貴族が平民たちに『自己犠牲を強制して行われた』のが五十年戦争だったからだ。そこに平民達の自由意志での選択肢はなく、一方的な犠牲の強制だけで成り立っていた大乱の悲劇が彼の戦いを生み出す始まりとなっている。

 『否定した相手と同じ事をすべきではない』とする意見も無論あるとは思う。ただ、最初から『それをする事』ができる社会であったなら彼が乱を起こす必要はなく、そもそも五十年戦争で平民たちが勝ち目の乏しくなった戦場で散ることもなかったとも思う。

 

 始まりがあれば終わりがあるのとは逆の流れになる事だが、『それ』を創るため最初に動き出した一人目がいなければ、『それが出来る今』に至ることは出来ない。

 

 ・・・・・・だが無論、それはウィーグラフの正当性を示している訳ではない。

 私が見るところ、彼が誤ったのは『自己犠牲を他者にまで強制したこと』ではなく、『あまりに多くの問題を全て両立しようとしたこと』ではなかったかと推測している。

 

 彼は当初の時点で、平民たちの権利獲得と貴族制の打倒を目的として骸旅団を旗揚げさせていた。

 だが彼は乱の末期、『エルムドア侯爵誘拐未遂事件』の背後に貴族たちの謀略を察したことから、『獅子戦争の勃発回避』を目的として動き始めるようになる。

 それだけではない。反乱軍の首魁という立場で、貴族側の一部が巡らす謀略の内訳を知ることができたとは考えにくい彼が陰謀を察知し得たのは『グレバドス教会』の意図が働いていた節が見え隠れする・・・。

 もし彼が、国家を巻き込む大乱を教会が利用しようと目論んでいると知れば、その野望すらも阻止するため動き出す道を選んでしまっていた可能性は否定できない。

 

 もし事実そうだったとすれば、彼は平民の権利獲得の戦いを行いながら、別の敵とも同時に相手取って全ての脅威から平民たちを守ろうとしていた・・・・・・という事になる。

 尊い志は認めるが――あまりに身の程を超えすぎた願いであるのも、認めざるを得ない事実だろう・・・。

 

 たとえ、完全でなくとも。それによって次の問題が生じるだけの解決だったとしても。

 人は、今の己が解決できる問題にのみ注力するしかない。

 どれほどリスクを残したくない解決法をと願ったとしても・・・・・・その願いで、『何一つ解決できないまま終わる』よりかは、ずっとずっとマシな解決だったと、私は信ずるものである。

 

 

                  イグーロス史・第五章『骸の軌跡』

                  著者:サリクリク・ラヴェイン

 

 

 

 

 

 ・・・イグーロス地方北部の山中に立つジークデン砦に、夜の帳が降りようとしていた。

 先刻まで強く降り続いていた雪は勢いを弱め、砦の周囲を天の黒色と地の白色とで明確に線引きさせている。

 

「賊に告げる! 刻限となった! 返答は如何にッ!?」

 

 雪積もる砦の内側に向かって、朗々とした野太い男の銅鑼声が響き渡った。

 ザルバッグから通達されていた、約束の刻限が訪れたのだ。

 

 元北天騎士団の義勇騎士にして、骸旅団の戦士でもあるゴラグロスが、『自殺』か『他殺』どちらの死に方を選ぶか?という二者択一を選ぶ権利と自由を行使すべき刻限が、である。

 選ぶべき時に至ったとき、ゴラグロスが自らの意志で選び取った道。

 それは――

 

「来るな! オレの方に寄るんじゃねぇ! 来たヤツはどうなっても知らねぇからな!?」

 

 剣を振り回し、血走った目で周囲の北天騎士団員たちを睨み付けながら、自由を奪った少女を片腕だけで掴んだまま宝物のように離そうとしない。

 猶予を与えられた一時前と同じ光景が、そこにはあった。

 

 何も変わらず、何もせず、今以上の危険も、今あるナニカを手放すのも、全てを拒絶して『今』を続けること。・・・・・・それがゴラグロスの選んだ選択肢。

 

 あるいは――『何も選ばないこと』が、彼の選んだ選択と呼ぶべきだったのかもしれない。

 

「・・・・・・それが貴様の回答か? ゴラグロス。

 降伏は受け入れず、人質の解放も拒み、最後まで王家に徒なす賊の一味として、一族郎党に至るまで反逆者の汚名を背負うのが、我が問いに対する貴様からの返答――そう解釈してよいのだな?」

「違う! オレは、そんなんじゃない! オレはただッ! ただ・・・っ!!」

「もういい・・・・・・」

 

 この期に及んで、悪足掻きすることすら碌にできなくなった男の醜態に、ザルバッグは諦めたように頭を振って見切りをつける決断を下す。

 ろくに覚悟も決められることなく、他者を巻き込む選択を選びながら、それを自覚することさえ拒む相手の反応に、騎士としても一族の重鎮としても不快さを禁じ得なくなってきていたのが理由だった。

 

 この一時の間、ゴラゴロスは何もしなかった。

 まだ息がある味方に《応急手当》をして守りを固めようとはせず、猶予時間前に奇襲をかけて活路を開く最後の特攻に賭けることもなく、砦に蓄えられた火薬で自爆するため降伏を装い敵をおびき寄せる手にも出ず。

 

 ただただ、何もしなかったのだ。

 それをすることで敵を刺激して、猶予前に殺されるリスクを恐れて動くに動けず、逃げ出せる自信もなく、砦内で負傷した味方が死んでいくのを放置し続けながら・・・・・・ただただ、時が過ぎるのを待っていただけ。

 

 まるで、『我慢して待っていれば誰かが助けてくれる』と信じているかのような態度と行動が、敵とはいえザルバッグには不快だった。

 その可能性はないと思ったからこそ、王家に弓引き、数多の貴族たちを刃にかけてきたのが骸旅団だったはずだ。それを貫徹することも出来ぬのなら最初から選ばなければよかったものを!

 

 ザルバッグは、そう思って義憤する。

 そんな彼の怒りは、必ずしも強者故の驕りとは呼べない。

 ゴラグロスが襲撃した、イグーロスにあるベオルブ邸を守備していたのは士官候補生の『少年少女たち』だったからだ。

 大の大人が、子供たちを殺してまで至った結末がコレでは、彼らに殺された者たちこそ浮かばれない。

 

 一時は妹からの提案を考慮し、今少しの引き延ばしを図るかとも考えていた彼だが、賊の無様すぎる醜態ぶりを前にして、その気も失せて霧消する。

 

 

 

「アルガス、構わん。やれ」

「ハッ!!」

 

 もはや相手の生そのものに価値を見いだせなくなった北天騎士団団長に名を呼ばれ、嬉々として進み出た少年騎士は、命じられたとおりに実行するため敵に狙いをつけて、「ニヤリ」と嗤う。

 

 ゴラグロスは確かに、『逃げ延びるための行動』や『敵陣を突破するための対策』も取ろうとはせず、足掻くための動きは何もしようとせぬまま一時の時間を無為に過ごしただけではあったものの、流石に『場所の移動』だけは行っていた。

 

 彼がティータと共に立っているのは、橋の上だった。

 火薬を積んだ保管庫の屋上とジークデン砦とを行き来しやすくなるよう、新たに掛けられたと思しき『木製の橋』

 その上で仁王立ちしながら、ゴラグロスは眼下で自分を包囲しようとする北天騎士団を見下ろしている。

 

 橋の上に立っているのだから当然のように、周囲からの攻撃を防ぐ術はなく、自分の姿を敵から隠してくれる遮蔽物は何一つとして存在しないが、『高さ』だけは相応の場所に位置していて、弓矢では届かない位置取りをされていると部下の《弓使い》が確認している。

 《高低差無視》が可能な腕をもつ者も、今この場にいる隊の中にはいないらしい。

 

 保管庫の門には鍵が掛けられており、叩き壊すことは可能だが、さしものゴラグロスもその手に出られたら自爆しての道連れを選ぶことは確実だろう。

 

 既に勝敗の決した戦闘で、敗残の生き残りを仕留めるため無駄な犠牲を払うリスクを冒させるなど愚将の極みでしかない。

 ザルバッグには、兵たちの犠牲というリスクを背負うことなく賊の自滅に巻き込まれることなく対処できる方策を考えるべき義務と責任があった。

 

 そうして用意されたのが、今アルガスの手に握られている《ボウガン》だった。

 猶予を与える前までアルガスが隠し持っていた小型のものより大型の一品で、機械式の機構によって飛距離が大幅に伸びるよう設計された代物でもある。

 ボウガンという武器は、高低差に対応しづらい欠点を有しているが射程でそれを補うことは不可能ではない。

 仮に仕損じたことで自爆を許しても、その範囲外から放てば目標に届くのが、ザルバッグたちが陣取っている現在地点だった。

 

「なっ!? よ、寄るな! それ以上近づいたら本当にコイツを殺すぞ! この娘までオレと一緒に巻き込もうってのか!?」

「諦めなっ、オレたち誇り高き北天騎士団は盗賊ごときの脅しは、一切聞き入れてやる気はない! 大人しく覚悟しろ、見苦しいぞ?」

「嘘だ! そんなハッタリが通用するものかよ!」

「どうかな?」

「いやっ、やめてっ!!」

 

 手に持った獲物を見せつけながら現れたアルガスの姿に、ゴラグロスは顔色を青くして狼狽えざまを見せ始め、片手で取り押さえている少女を前面に押し出して、身を守る盾のように使いながら必死に虚勢を張ることしかできなくなる。

 賊の手によって、盗賊を守る肉の盾に使われてしまった少女が悲痛な叫び声を上げるのを聞き流しながらアルガスは、サディスティックな喜びと共に会心の笑みを浮かべていた。

 

 

 ――味方に被害を及ぼす危険を冒すことなく、一方的に敵を遠距離から射殺せる武器と役割とをザルバッグから直々に拝領したアルガスは、先程までとは打って変わって上機嫌になっていた。

 つい先程まで、猶予を与える決定が下されたことへの不満を不機嫌そうな顔いっぱいに浮かべたまま沈黙し続けていたのと同一人物とは思えない変貌ぶりと露骨すぎる出世欲は、周囲を固める北天騎士たちから非難がましい視線で見つめられるに十分すぎるものがあったが、それさえ今のアルガスには『負け犬の僻みの嫉妬』としか感じられず、鷹揚に許してやろうという気になれていた程だ。

 

 自分の価値と存在意義とを、ザルバッグは充分に理解して、かつ利用しようという意志があったことの現れが自分に与えられた武器と勤めだったからである。

 戦争にしろ内乱にせよ、殺し合いである以上は綺麗事だけでは解決はできない。

 だが綺麗事を守らなければ“愚民ども”からは支持が得られないのも現実ではある。

 

 それを両立させるためには、『嫌われ者』と『憎まれ役』が必要であり、それを担う者は古来より周囲から煙たがられるのが常ではあるが、権力者の近い地位に居続けられることも歴史上の事実なのだ。

 

 

 ――なら自分は、それになりたい。その地位が欲しい。

 周囲から好かれたところで、奴らはどーせ裏切る。危なくなったら掌を返す。

 皆から尊敬を集める家柄だった自分たち一族を、1人だけで逃げ出してきた臆病者の言葉を真に受けた周囲の連中が、旗色が危うくなった途端に見限りやがったのと同じように!!

 

 

「やめろ! この娘を俺は! お前は! 女が・・・っ!?」

「やめて――――ッ! いや~~~~ッッ!!!」

「クク・・・、諦めるんだな」

 

 心地の良い少女の悲鳴を聞きながら、アルガスは笑みを浮かべたままトリガーに指を掛け――そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめろ――――ッ!!! ティィィィタァァァァァァァァッ!!!!!」

 

「なにっ!?」

 

 

 突如として戦場に轟き渡った別の叫びが耳に届き。

 アルガスは思わず、僅かに目を見張って乱入者たちに視線を向ける。

 

 砦の背後――正面に陣取っている自分たちから見れば、賊が立てこもる保管庫を挟んだ向こう側から数十人ほどの武装した、見覚えのある少年少女たちがワラワラと飛び出してくる姿が彼の視線の先に無粋な闖入者として映り込んでいた。

 

 その中には、忘れたくても忘れられない澄まし顔した、生意気な女の顔もある。

 ラムダ・ベオルブ・・・・・・こんな所まで、また自分の出世と仕事を横取りしに来やがったクソ女が! 偉そうな顔して余計な口でしゃしゃり出るために!!

 

 

「ティータ! 無事か!? 今助ける! 待ってろ!!」

「に、兄さん! 兄さんッ! 助けて兄さんッ!」

「兄さん! アルガス! もう辞めてくれ! ティータがッ!!」

「な、なんだ!? また増援か!? クソッ、こんな時に・・・っ!」

 

「チィッ! 狙いがブレやがった・・・・・・余計なことを!!」

 

 案の定というべきなのか、僅かに意識が横へ逸れたのと期を同じくして、ティータも自分の名を呼ぶ兄が来た方へと身体を傾けようとして、取り押さえているゴラグロスと僅かな揉み合いで身体の位置と射線軸が僅かにブレてしまい、即座に放つのは難しくなる。

  

 本来ならザルバッグの後ろ盾を得た、今の自分にとって気にするほどの価値もなくなっている相手だったのがラムザたちのはずだった。

 所詮はベオルブ家の末弟と長女とはいえ、兄達あってのオマケでしかない程度の存在と高をくくって、視線も意識も向けることなく賊とティータに狙いを定めたまま、相手の意識だけが逸れた隙を狙って矢を放っていれば目的を達成できていた状況。

 

 だが、一度機先を制せられて苦手意識を植え付けられた相手というのは、なかなか完全には無視できないのが人の感情。

 特にアルガスのプライドは、幾度となく美味しいところを邪魔され続けた相手に対して、本人は決して認めようとしない『恐怖心』に近いものを感じるようになってしまい、無意識レベルで警戒を高めてしまう悪癖がついていたことに当人自身は自覚していなかった。

 

 それが彼にとっても、『隙』になる。

 

 

 自分が狙いを定め、ラムザたちが助けようとし、北天騎士団団長が人質もろとも撃てと命じた相手。その場の主要人物たち全員が、直接間接に欲するものと直結している相手の存在。

 

 そんな“美味しい獲物”を狙っている者が、自分一人だけしかいないと、誰がどうして言い切れる・・・・・・?

 

 

 

 

 

 

 

「もらったぞ! 王家に仇なす不逞の輩! 天誅だ、食らえッ!!」

「な、なにっ!?」

 

 ラムザたちの乱入に気を取られた一瞬後に放たれた、第二の突然の叫び声。

 その声に驚いて声を上げた人物は、少なくともアルガス・サダルファスという人名の持ち主“ではなく”

 叫びが聞こえた反対側の方角から現れてきた兄に向かって、助けを求めようと身体を傾かせていた人質を押さえつけようと逆方向に意識と身体の角度が寄ってしまっていた人物が―――ゴラグロス・ウェインが、その叫びに驚いて声を上げた人物の名前だったのだ。

 

 彼は正面から右背面、次いで左背面と、次々に現れてくる敵からの援軍と思しき勢力の出現に混乱させられ、意識も身体も橋の上で右往左往しながら己がどうすれば良いのか分からなくない精神状態になりかけていた。

 

 そこへ来て、最後に聞こえてきた叫びに振り返ると―――その姿を見た体勢のまま石のように固まってしまう。

 

 自分に向かって叫び声をかけてきたのは一人だけ。他の味方は伴っていない軽装の戦士一人だけが、自分を見据えて――――銀色の光を向けてきている。

 

 弓矢で自分が狙われていたのだ。

 しかも、その場所は自分が人質を連れて保管庫に逃げ込むため最初に通ってきた廊下の2階。他の入り口はないと知っている場所だったからこそ、狙撃を想定する必要がなかったはずの場所に―――自分を弓矢で狙い撃とうとする、敵がいる!!

 

(馬鹿な! なんで・・・どうして!? 一体なんだってこんな――ッ!?)

 

 ゴラグロスの思考は走馬灯のように、光よりも速い速度で駆け巡り、駆け巡ったが――速いだけで意味のない言葉の羅列を疑問形で繰り返すことしかできないままでは、何も出来ることが思いつかず呆然と立ちすくむのみ。

 

 あり得ないはずの位置からの奇襲だった。

 自分が見てきたはずの場所であり、そこには負傷した味方しかいないはずの場所であり、死にかけの仲間を見捨てながら自分が突き進んできたはずの場所だったのだ。

 

 弱々しく片手を伸ばしてくる者がいた。水を求めて動けない身体から血を流す者がいた。助けて・・・とか細い声で呟く者もいた。あとは動かなくなった者たちが横たわっているだけだったはずだ。

 

 ――そんな者たちの死体と、死体“になる”者たちだけしか残っていなかったはずの通路に何故、自分を狙える者が残っている!?

 なんで!? どうして!? 一体なん――

 

「食らえッ!!」

「くッ、クソっ!?」

 

 思考がまとまらぬまま、敵が矢を放つまで待ち続けるだけの形になってしまった彼は、飛んでくる鏃の先から身を守るため咄嗟に騎士の習性として、盾を前に出して身を守ろうとする。“してしまう”

 

 五十年戦争の中で幾度も行った動作と同じように、なぞるように。

 左手に持った盾を、自分の身体の前に出して敵の攻撃を防ぐために―――

 

 そんな物・・・・・・とうの昔に売り払い、既にあるはずがなかったのに・・・・・・。

 

 

「―――っ!? し、しま・・・っ」

「きゃ~~~~~~ッ!!!」

「!! ティ―――タ――――ッッ!?」

 

 三つの悲痛な叫び気絵が交差し合い、ジークデン取りで屋上近くの空中に一瞬だけ、複雑な鎖模様を描き出す。・・・そんな錯覚を事情を把握する者がいたら見たかもしれない刹那の後。

 

 

 

 

 ドスッ。

 

 

 

 

 

 と・・・・・・重く、小さな音が僅かな範囲にだけ響き渡る。

 くずおれるように、前のめりに倒れて、橋の下へと落下していく少女の身体。

 

 その姿を目にしながらディリータは、両目を大きく見開かれた視界の中でハッキリと。

 妹の視線が、自分の方に向けられた姿を視認して。

 

 

 やがて・・・・・・ゆっくりと瞼を閉じながら、地面に向かって落ちていく光景を・・・・・・はっきりと。

 

 

 ドサリ――と。

 小さく雪煙を立てて、華奢な少女の肢体が降り積もった雪の上に横たわり・・・・・・そして、再び動き出すことはない。

 

「・・・・・・・・・」

 

 唖然として、呆然として、声を出すことも出来ぬまま、動かなくなった妹の身体を見下ろすだけのディリータ。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 唖然として、呆然とさせられ、何を言っていいのか言いたいのか思いつくことが出来ず、今更動かなくなった“仕留め損ねた獲物”を見つめることしか出来ないアルガス。

 

「・・・・・・・・・・・・ふむ」

 

 そして、全ての状況を俯瞰視点で見下ろしているかのように、感情のこもらぬ声と視線で、沈黙したまま事の成り行きを見守っていただけの人物は、ここに来てようやく声を発して、“命令”を下す。

 

「どうした? アルガスよ。賊を守る盾はなくなったのだ。早く射よ」

「・・・え? あ、は、ハッ」

 

 茫然自失のまま、聞かされていなかった味方の行動に好機を奪われ、意識が空白化していた新参の少年騎士は、上司からの命令に半ば機械的に従いながら、“らしくもなく”従順になにも考えぬまま大人しく言われたことを実行し―――

 

「ぐはっ!?」

「・・・・・・はっ!?」

 

 「ハッ」となって傲慢な自己を回復するのは、矢を放った直後のことになる。

 その時には既に、人質を失った丸腰の状態で逃げ場のない橋の上に1人立つだけの的に成り下がっていたゴラグロスは、脇腹に突き刺さった鏃を受けて立ち上がる力を失っているようだった。

 

「ザルバッグ閣下! ウィーグラフが率いていると思しき部隊が、我が隊の背後に現れました! その数およそ50、敵に残った最後の残存戦力かと思われますッ!」

「分かった。―――アルガス、ここは任せる。よいな?」

「は、ハッ! お任せください、ザルバッグ閣下ッ!」

 

 後続から届けられた報告により、この戦い最後の状況の激変がもたらされ、一時は自失していたアルガスの頬に再び赤みが差して、唇に月形の笑みが浮かぶ命令が与えられる。

 その命令を実行するため、背を向けて去って行った主に背を向けて、

 

「ティータ! ティータァッ!!」

 

 落ちていった妹の元へ――妹の亡骸かもしれないもとへと、泣きそうな顔で走り寄ろうとしている仲間だった過去“も”ある少年に向き直る。

 

 

 ビシュッ!!

 

 

「ティ――なにっ!?」

「アルガス!? 何をするんだ! ディリータは僕たちの仲間で、敵じゃない!」

「いいや。敵さ」

 

 空を飛べない人の身には避けにくい足を狙って矢を放つために。

 動きを止めた相手を殺すために。 

 部下として与えられた騎士たちを、盾のように壁のように、自分の前面に押し出させながら―――『ベオルブ家の癌細胞』へと立場が変わった『ベオルブ家の養子』を射殺す。

 

 自分に与えられた命令を、自分に求められている役割を果たすために。

 

 

 

 

「分からないのか? ラムザ。

 俺たち北天騎士団は今、ベオルブ家に引き取られていた養子を、盗賊を始末するのに邪魔だったから殺したんだぜ?

 そんな平民共に嫌われる不名誉なマネを、ベオルブ家がやっていい訳がないじゃないか。

 口封じが必要なんだよ。ディリータ、お前もな。

 主君の一族に妹を殺された恨みで、いつ裏切るかも分からなくなったテメェみたいな危険人物は、殺せる内に殺しといた方が安全なのさ。

 それが俺に与えられた、お前たちと戦えという命令なんだよ」

 

 

 

 

 

 嫌われ者の憎まれ役にとっては、果たすことで手柄になる戦いに勝って、更なる出世と身分を手にするために―――!!!

 

 

つづく




謝罪:

遅ればせですが、今話に限らず今までも何度か【ザルバッグ】と【ダイスダーグ】の名を取り間違えて表記してしまっていた凡ミスを犯してしまい、誠に申し訳ありません。
また、せっかく誤字報告をもらいながら役立てられなかったのも含めて、作者として不明の至り。

もう二度と間違わない…と宣言できればよいのですが、口約束に何の意味もないのは承知ですので、せめて今話の続きである後半分を、最優先で完成させて投稿して非礼への謝罪とさせていただく所存。

今朝から大急ぎで書き始めてます。
本当に申し訳ございませんでした!!
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