平民派DQN女オリ主がいくFFタクティクス   作:ひきがやもとまち

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第2話

 ガリランドに逃げ込んできた骸旅団を殲滅した後、私たち士官候補生はその足でイグーロス城行きを命じられ、歩を早めておりました。

 その理由として、『元々そういう任務だったから』と言うのもありますし、『敵が来ない城の守備を子供に任せて大人たちを一人でも多く旅団殲滅に回したい』という事情もあるにはあるのでしょう。それは確かです。

 

 ・・・とは言え、本当の狙いは別にあるのは言うまでもありません。

 “政治”です。

 

 そもそも骸旅団が掲げる大義名分は『民衆による自治』と『貴族支配からの解放』。

 根っこにあるのが、五十年戦争の敗北により困窮しだした貴族たちの搾取強化に対する民衆の恨み辛み。それが盗賊集団となった今になっても骸旅団が支持されて一大勢力を保っていられる理由にもなっています。

 

 要するに、『自分たちから奪うだけで守ってくれない貴族たちをぶっ潰してくれるなら、盗賊集団だって構いやしない』・・・そう言う理屈が国民の間では主流になってしまっているのが現状におけるイヴァリースの民心事情。

 

 これに対抗するため貴族たちは、『民衆に害をなす野盗集団を殲滅するため愛する我が子たちまで動員しているのだ』とアピールしたいという・・・まぁよくある政治的プロパガンダですよ。

 そんなもんに利用される子供の気持ちとしては堪ったものではないですけども、それが国民の税金で養ってもらってる貴族の勤めというもの。給料分は仕事しないとダメなのです。

 

 

「よし、そろそろマンダリア平原にさしかかる。そこで一旦休憩しよう」

 

 先頭に立っていたラムザ兄様が、皆を振り返りながら名目上のリーダーとして通達してこられました。

 『マンダリア平原』は魔法都市ガリランドとイグーロス城の、ほぼ中間に位置する草原地帯です。別名を「獣ヶ原」とも呼ばれている場所。

 読んで字のごとくモンスターが大量に生息している群生地帯・・・・・・ではなくて、なだらかな草原の表面に白い石灰岩が牙のように張り出していることから、この呼び名がつけられました。

 一応モンスターも出没しますけど頻度としては少なめで、むしろ平らな地形的に大人数を休ませるのに適しているからと休憩場所や避難民のキャンプ場、すぐ側のイグーロス城に陣取る北天騎士団が演習なんかもする時があ・・・・・・んん?

 

 

「あれ? なんか誰かと誰かたちが戦闘してませんか? ・・・もう終わっちゃいそうですけれども・・・」

 

 

 

 

 

「こいつ、まだ息があるようだぜ。どうする?」

 

 二人の男の片割れが、岩場を背にして蹲る少年を見下ろしながら相方にそう問いかけた。

 「どうする?」とは即ち、“殺すか?”“殺さぬか?”どちらを選んでやる? という趣旨を持った質問である。

 

「わかりきった質問をするな。侯爵さえ手に入ればいいんだ」

 

 聞かれた相方は吐き捨てるように返事を返して、問いかけてきた相方のシーフにさっさと終わらせるよう促す。

 見ると、草原の各所にはいくつかの死体が転がっており、そのどれもが質素ながらも上質な素材で作られた見る者が見れば相応の値がつきそうな衣服を身にまとっている。

 そんな自らが殺した死体たちに群がっているのは、死肉に群がる肉食の獣たちではなく、人間の盗賊たち骸旅団。・・・要するに、人の皮を被った獣の群れである。それ以外の何物でもあるまい。

 彼らは死体から金目のものを残らず奪い取ろうと、目的を果たした本隊が撤退した後も戦場に残って略奪に明け暮れていた者たちであり、現代風に言えばイェーガーとでも呼ぶべき存在である。

 

 彼らにとって目の前の少年は、潔く死なずに生き延びるため必死こいて逃げ回ってくれたせいで追い詰めるまで時間がかかり面倒ごとを増やしてくれた小憎らしい若造だった。

 しかし同時に、「目撃者を一人も逃さぬために」という名目で戦場跡に残り、死体から略奪品をぶんどるための口実を与えてくれたのも事実ではあったのだ。

 

 そのため、もともと盗みが得意だった男の方はそれなりに懐が暖かくなっていたので「ガキ一人ぐらい見逃してやってもいい」そう思える精神的余裕を手に入れており、逆に長剣を帯びた剣士風の男の方は見せかけで脅して強者を気取るしか取り柄のない小悪党だったために相方にくらべ欲が張っており、目の前の少年も殺して死体から追い剥ぐことを望んでいたのである。

 

「・・・・・・」

 

 そんな風にして、自分の未来を勝手に決定づけられようとしている男たちに向かって少年は声も上げずに黙り込んだまま蹲っている。

 怖くて相手を罵倒できないのではなく、疲れて声が出せなくなっていたからである。

 子供だからと敵が侮ってくれたのを利用して、救援を呼ぶため戦場を離れようと駆けだした彼の行動は襲撃者たちの意表をつくものだったため皆が全滅する中で一人だけ生き残れていたのだが、その代償として体力のほとんどを使い切ってしまっており、負傷はたいしたことないにもかかわらず言葉を話すだけのためにも休憩が必須となってしまっていた。

 

「そうだったな」

 

 相方の冷徹な返事に、懐が温かくなった盗みが得意な彼もうなずき、本来の任務に戻るため心と身体を切り替えて―――残忍で冷酷な笑みを口元に浮かべながら宣言する。

 

「小僧、恨むなら、てめぇの運命を恨むんだぜ」

 

 ダガーを抜いて振りかぶり、一方的に人を切り刻める強者のみに許された被虐特権を行使するため、少年のお貴族様らしい綺麗な顔立ちめがけて振り下ろそうとした、まさにその時!

 

 

「・・・ん? ――しまった! 北天騎士団の奴らだッ! ザコの始末に時間をかけ過ぎちまったか!」

 

 相方が罵り声をあげて睨みつけた先に見いだしたもの。それはガリランドからイグーロス城へ向かっていたラムザたち士官アカデミーの士官候補生の一団であり、北天騎士団の拠点イグーロス城とは完全に真逆の方角からきた集団だった。

 

 ・・・彼らは略奪に熱中するあまり、自分たちが今どちらを向いているかの方角さえ見失っていたのである・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「――ラムダの言ったとおり、本当にいたな。骸旅団の連中か?

 ・・・誰か襲われていた人が生き残っているようだな・・・?」

 

 斥候役を買って出てくれたディリータさんが、後に続く私たちに報告をもたらしてくれました。

 貴族の子弟たちのみが通うことを許されている士官アカデミーの中で、平民出身の彼が受け入れてもらえるには成績優秀だけでは足りずに、このような面倒ごとを率先して引き受けてくれる気配り上手なところが影響しておりまして、相手の求めているものがなんなのか見抜ける目に優れているようなのです。

 よい方に作用すれば気配り名人。悪い方に悪用すれば主をたぶらかす奸臣にもなれる才能の持ち主。まったく多芸で羨ましいことですが、未来はどちらに向くんでしょうかね~?

 

 ――ちなみにですが、こういう時。私たち全体の意思決定機関であるベオルブ家の末弟ラムザ兄様が「骸旅団殲滅という任務」と「殺されそうになっている人の命」とが天秤にかけられた時に選ぶべき決断は基本的に決まっておりまして。

 

 

「北天騎士団の名誉を傷つけてはならない! 彼を助けるのが先決だ!」

 

 となります。

 まっ、兄様らしくて良いですし、私も好きですけどね。そういうの。

 ・・・とは言え、任務的にグレーゾーンになりかねないので補填だけはしておきますか。

 

「まぁ、どちらにせよ骸旅団と戦うことには変わりありませんからね。敵が同じである以上、運が良ければ彼を助け出すこともできるでしょう」

 

 妥協案というか、単なる詭弁に過ぎませんけど、これで一応の人命救助のために戦うことへの大義名分は立てられました。後は本当に彼を助けられることを祈るだけです。

 ・・・人情論で人命尊重を叫ぼうとも、詭弁で現実論とりつくろおうとも、人間ってヤツは運が悪けりゃ普通に死ぬ生き物ですからね・・・・・・彼の運がいいことを祈るだけです。本当に・・・・・・。

 

 そして戦闘開始。

 骸旅団を殲滅するため、彼らに向かって進軍していく私の耳の聞こえてくる要救助者のものらしき声がコレ↓

 

「・・・援軍か? た、助かった・・・」

 

 ・・・・・・うん、ごめん。助けられなかった場合は本当にごめんなさい。先に謝っときます。死なせないよう全力を尽くしますので、運悪く死んじゃった場合には・・・本当にごめんなさい・・・。

 

 

 

 

 ――んで、勝利です。・・・前回の初陣と比べて楽すぎますし、早すぎませんかね?

 そうなった事情は、目標を確保した敵の本隊が撤退した後であり、残っていた略奪部隊だけが倒した敵だった事実を知らない私はそう思い、とりあえず助けることができた少年騎士さんに声をかけるにいたしました。

 

 

「大丈夫ですか?」

「・・・なんとかな・・・。しかし、侯爵様が・・・」

「侯爵? ランベリーの領主、エルムドア侯爵のことですか?」

 

 彼の返事の中に「侯爵」という単語があったことから私は驚き、そう聞き返します。

 初陣前の士官アカデミーでディリータさんからガリランドへ非公式訪問しにくるだろうと教えられていた「エルムドア侯爵」の爵位と全く同じだったからです。彼と同じ上級貴族の爵位を持つ候補なんて滅多にいませんのでね。そりゃ関連付けて考えますよね、普通なら。

 

「ああ、そうだ。おまえらは・・・?」

「私たちはガリランド士官アカデミーからイグーロスへ向かう途中の士官候補生です。もしかしたら、あなたの力になれるかもしれませんし、詳しい話をお伺いしても?」

 

 

 こうして始まった彼との会話。

 まずは互いの素性を知るため自己紹介から。氏素性もわからない人には困っていようといるまいと助け船を出すわけにはいかない、国民の血税で食べてる貴族の宿命です。

 

 

「俺はアルガス・・・。ランベリー近衞騎士団の騎士・・・だ」

 

 少しだけ言い淀みながら名乗られたことに不審を覚えたらしいディリータさんが、彼の名乗りを聞いた後「騎士・・・?」と小声でつぶやくのが聞こえてきました。

 結構小さな声だったんですけど、相手の彼には聞こえていたようです。

 

「・・・いや、騎士見習いさ。なんだよ、おまえらだって一緒じゃねぇか」

 

 相手の彼は憮然としながら横柄な口調で言い返されました。言葉遣いが野卑ているとか、貴族らしくないとか色々言えますけど、私が思ったことはただ一言。

 

(プライドが高そうな人ですね・・・)

 

 それだけでした。最初に名を名乗って姓を名乗らず、それでいて身分としては近衞騎士という家名を誇るべき地位にあるのだという誇張をしたがる辺りに彼の複雑さとひねくれ事情を察した故のことです。

 

 逆に私なんかと違って兄様は素直すぎるぐらい素直な人なので、そんな風に穿った見方をしたりはしません。爽やか~な声と口調と仕草で優しく名乗りをあげられるのでした。

 

「僕はラムザ・ベオルブ。こっちは親友のディリータと、妹のラムダだ」

「・・・よろしく」

「初めましてアルガスさん。お会いできたことを嬉しく思います」

 

 兄様に紹介されて軽く頭を下げながら短く応じるディリータさんと、貴族の娘らしい適当な社交辞令を口にする私たち二人。

 ――ですが、当の本人は私たち「オマケ」のことなどどうでもよかったらしく、目を見開いて何度も瞬きを繰り返した後、確認するように兄様へ向けて問いを発せられました。

 

「ベオルブって・・・あの北天騎士団のベオルブ家か?

 ――そいつはすごい! なんてラッキーなんだ、オレは!」

「・・・・・・???」

 

 挙げ句、自分から聞いておいて返事を聞くより先に結論出してしまい、さらには行動まで続けてしまわれます。

 

「お願いだ。侯爵様を助けるため北天騎士団の力を貸してくれ!」

「どういうことだ?」

「侯爵様はまだ生きている! 奴らに誘拐されたんだ! 早く手を打たないと侯爵様がやつらに殺されちまう!

 ・・・そうなったら、オレはいったい・・・」

 

 この時、相手の彼が自主的にうつむいて悔いるように唇を噛みしめてくれたのは私にとってこそラッキーでした。

 『微妙な表情の変化を見られずにすんだから』です。先ほど発した彼の発言から微妙にイヤなものを感じざるを得なかったものですからね・・・。

 

「だから頼む! 手を貸してくれ! お願いだ!」

「まあ、落ち着けよ。死ぬと決まったわけじゃないだろう?」

 

 やがて顔を上げた彼は、馴れ馴れしく兄様の手を両手で握って嘆願し、ディリータさんに窘められることになりましたとさ。

 

「それに、骸旅団だって誘拐したからには何か狙いがあるはずだ。何かの要求があったかもしれない。まずはイグーロスへ行き、報告するのが先決だろう」

「そうだよ。それに僕らだけじゃどうしようもないしね。

 だいたい、エルムドア侯爵が誘拐されたんだ。イグーロスじゃ今頃大騒ぎだよ。きっと」

 

 ディリータさんの言葉に兄様が口添えし、最後に私が横合いから「付け加えるなら・・・」と補足を付け足させていただて無理矢理にでも納得してもらいました。

 

「ここガリオンヌの地は、ラーグ公の統治領です。ランベリーの近衞騎士であるあなたが自由に動き回られるのは、あまりよろしくないと存じます。

 他の貴族が治める領地内で行動の自由をもらいたい時には、領主から許可をもらってから行うのが貴族としての常識であり礼儀というものです。違いましたか? アルガスさん」

「しかし、それでは手遅れになる可能性が・・・・・・」

「無許可で勝手に動き回って、万が一政治的に危険な場所に入り込んでしまったりした場合には、最悪エルムドア侯爵様は助けられたけど、あなただけは名誉の戦死を賜らされてしまう・・・そういう事態も覚悟する必要が出てくるかもしれませんけど、それでも?」

 

 最後に放った言葉の効果てきめんでした。まさにRPG世界らしく「効果はてきめんだ!」ですね。

 手のひらを返すように一も二もなく私たちの案を快諾して、イグーロス行きの行程に同行するアルガスさん。

 まるで十年来の親友であるかのごとく親しげに兄様と会話をしたがる彼を横目に、私は彼からランベリーについての話を聞きたがる兄様の邪魔をしないよう後ろに下がりながらディリータさんを探し出し、目で合図すると「列の最後尾を敵襲されないよう警戒してくる」と告げて皆さんからも距離を置いた後にようやく本題について話し始めました。

 

 

「・・・ディリータさん、どう思われましたか? あのアルガスさんという方のこと・・・」

「・・・短い時間で得た印象だけで判断するのは好きじゃない・・・。ただ、強いて言うならアイツは士官アカデミーで何度も会ってきた奴らと同じ目をして俺を見てきてたよ・・・」

「ふん・・・」

 

 私は彼の答えに鼻を鳴らして、当時起きていたイヤな出来事の数々を思い起こさせられました。

「生まれの身分が卑しいくせに生意気だ」と、試験で負けた腹いせに難癖をつけてくる同級生には事欠かなかった彼です。気配り上手で世渡り上手な能力はこの頃身につけられたものだったぐらいですから、相当なレベルでの虐めに遭ってたのです。

 

 兄様はそのことを半分ぐらいは知ってましたけど、残り半分は知らされていません。親友に心配をかけさせないようディリータさんご自身が努力と工夫で解消なさいましたからね。 

 それでも0にすることは絶対不可能なのが、この種の悪意に満ちたくだらない嫌がらせ行為。

 それをしてきた人たち。所謂、「生まれの身分を絶対視している貴族のバカ息子ども」と同じ瞳でディリータさんを見ていたと言うことは・・・まぁそういうことなんでしょうね、やっぱり。

 

「そういうお前はどうなんだ? ラムダ。お前だって俺と同じで初対面の印象だけで安易に判断するのは嫌いなタイプだろう?」

 

 ディリータさんが混ぜっ返すように、敢えて明るい口調でからかうように言ってこられました。「まだアルガスが原因で何か起きると決まったわけじゃないのに心配の度が過ぎる」と、そう言いたかったようですね。

 

 ――ですが、私の方には彼について、そこまで楽観視できない理由と事情が存在してましたので正直微妙な心地にしかなれませんでしたけども・・・・・・。

 

「・・・先ほど彼と交わした会話の中で、エルムドア侯爵の安否を気遣う時に、彼が言っていた言葉を覚えていますか・・・?」

「ん? ああ、一応はな。これでも詩の朗読やらやらされてる内に暗記は得意科目になったぐらいなんだ。さっき聞いたばかりの言葉を諳んじるぐらい訳ないさ。

 ・・・えっと、たしか・・・『侯爵様はまだ生きている! 奴らに誘拐されたんだ! 早く手を打たないと侯爵様がやつらに殺されちまう! そうなったら』――――」

 

 

 

「・・・そうなったら、『オレはいったい』・・・・・・そう言っておられたんですよね。彼は、自分の発言の中で・・・」

 

 

 

 ディリータさんが黙り込み、重い沈黙が私と彼の周囲にだけ漂いはじめ、急速に危険度の度合いが悪化していくのを私たち二人は肌で感じ取っていました。

 

 『ご恩と奉公』の概念で行くなら、彼の言葉に矛盾はなく。主が死んで路頭に迷うのを喜ぶ臣下などいるはずもなく。彼の言った言葉自体は不思議でも何でもない当たり前の言葉。

 だからこそ逆に気になって仕方がなくなるのですよ、あのタイミングで言った場合には。

 

 

 

「人の生死がかかっている状況下で、相手が死んでいた場合の自分の生活についての心配を優先する騎士見習いの少年ですよ・・・?

 そんな人と関わり合いになったのですから、悲観的になるぐらいが丁度いいとは思われません?」

「・・・人間は誰だって、自分がかわいいものだ。それに、自分の生活を守るため主に忠義を尽くすことは間違っていない。

 家臣が主に尽くすことで、仕える主から家臣は恩恵を得られる・・・それは普通の主従関係だろう。そうじゃないのか? ラムダ」

「そうだとしても、です。

 自分のために主君に仕えると割り切っている人が、尽くすこと仕えることを至上価値とする騎士としてのエリートの地位である近衞騎士という身分にはこだわりを見せる・・・微妙な矛盾が感じられて仕方がありません」

「・・・・・・」

 

 

「なんとなくのイメージで恐縮なのですが・・・彼にとってエルムドア侯爵“個人の命”はどうでもよく感じているように見えるんですよね・・・。

 自分の生活のため侯爵に仕えているだけだから、自分の地位と生活を維持してくれれば侯爵である必要はいささかもなく、もっと上の待遇で迎え入れてくれるのならば今までの主にとって敵であっても平然と寝返えれる。・・・そういう人な気がしてならないんです。偏見だと自覚はしてるんですけどね・・・

 まぁ、そういう訳ですので私はあの人と相性悪いみたいですし後よろしく~」

 

 

「・・・え? って、ちょ、おま、ラムダてめぇー! 俺もアイツのこと苦手なのわかってて押しつける気で話しかけてきてやがったなコノヤロー!」

 

 遠ざかっていく後方から、厄介ごと担当な兄様の幼なじみの叫び声が聞こえてきた気がしますけど、今は無視です。後で埋め合わせはしますので今回のところだけはお許しのほどを。

 私は割と本気でアルガスさんと相性悪い気がして仕方がないですのでね。何も起きていない間までは、こっちから近づいていって問題起こしたくないんですよ本当に。

 ・・・それに何より気になることもありますしな。

 

 

「今回のエルムドア侯爵のイグーロス訪問は“非公式”だったはずです・・・。

 中枢近くにいる人たちでも一部の人しか詳細は知らされていないはずの情報が、なぜ骸旅団ごとき盗賊集団に襲撃可能なルートまで知られていたのでしょう・・・? まるで襲ってくれと言わんばかりに・・・。

 仮にそうだとしたら、あなたは何を狙って、何に利用されるおつもりなのですか? ダイスダーグ兄上様・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その頃、北天騎士団の拠点イグーロス城では。

 『エルムドア侯爵が誘拐された!』という大事件の情報は、大した混乱も及ぼすことなく穏やかに冷静沈着に、それでいて一部では慌ただしく対処に追われる結果を招いていた。

 

 「混乱を避けるためにも情報公開の時期は厳選しなければならない」――そういう口実の元で徹底した情報統制が敷かれ、誘拐された侯爵を探し出すため派遣された捜索隊ですら詳細は知らされないまま『やんごとなき身分の貴人を草の根分けても丁重にお探しするよう』矛盾した命令を受けて首をかしげながら忠勤に励んでいたほどなのだから。

 

 

 そうなった原因は二つある。

 一つは事件の首謀者が、彼らの主君ラーグ公その人だったことから真相など語れるはずもなかったこと。

 二つ目は、侯爵誘拐の首謀者であるラーグ公が誘拐実行に関してだけは何一つ知らされぬまま蚊帳の外に置かれてしまっていたこと。この二つである。

 

 

 

「・・・ギュスタヴからは今回の一件で、なんと弁明してきておる・・・?」

 

 城の窓から外を眺めつつ、一人の大貴族が背後に立った己の腹心に語りかけていた。

 

 服装物腰髪型態度、それら全てにおいて如何にも『貴族』といった雰囲気を醸し出している、良くも悪くも支配者階層としての『貴族』という概念を体現したような容姿を持つ、その人物の名は『ベストラルダ・ラーグ公爵』。

 ガリオンヌの領主である大貴族、ラーグ公その人である。

 

「ハッ・・・。先刻、連絡役に当てていた者が戻って参りましたが・・・どうやら骸旅団の首魁であるウィーグラフに計画が察知され、急がざるを得なかったと記されておりました。

 ウィーグラフの追撃を躱しながら侯爵殿を誘拐するにはガリオンヌ領で行うより他なかったのだ、と・・・・・・」

「・・・つくづく使えん男だ・・・」

 

 はっきりと侮蔑を込めてラーグ公は断言し、深々と嘆息してみせる。

 今回の誘拐事件は彼の仕組んだことではあったが、それはあくまで大事の前の小事でしかない謀。本番の前に無益な不祥事で事を荒立てたくはない。

 

 エルムドア侯爵の非公式“訪問”は、ラーグ公の領地であるガリオンヌの地へ侯爵の方がやってくるものであり、ゲストの安全を守り抜くことはホストとして当然の義務であり、それを果たせなければ主催者として貴族の資質が問われてしまう。

 だから侯爵の誘拐は、ガリオンヌ訪問が終わって侯爵との密約も結び終えた後の帰路において、ゴルターナ公側の重臣貴族のうち誰かの領地内で勃発させる。そういう手筈だったのである。

 

 そうであればこそ、ラーグ公の政敵であるゴルターナ公から手駒を一つ失わせることができ、尚且つエルムドア侯爵の救出には裏の事情を全て把握しているラーグ公配下の北天騎士団が一番乗りで名乗りを上げることが可能になるというものなのだ。

 

 ――だと言うのに、あの目先のことばかりしか考えられない無能者の役立たずめは・・・っ!

 公爵としては、正当だと信じてやまぬ怒りに身を任せてしまわぬよう最大限努力するのが精一杯であったため、信頼する腹心であり親友でもあるダイスダーグにこの件を一任する方が良いだろうと考えていた。だからこうして意見を聞きに来ている。

 

「もはやワシは、あれを物の役に立たんと見ておるが…そちはどう思うか? ダイスダーグよ」

「閣下のお考えに私も賛同いたします。・・・が、対処するため北天騎士団を動員するにはまだ時期尚早かと存じます。

 現時点ではまだ計画が完全に破綻したわけではございませぬうえ、想定外の早期実行でもあったために事後処理役の人選がまだ済んでおりません。二度も失敗が続かぬよう万全を期すべきかと存じますが、如何でございましょう?」

「うむ・・・。そちの言うこともわかるが、ことは急を要しておるのだぞ? 事が公になるのは時間の問題・・・そうなる前に我々の手で犯人共を処断して侯爵殿を救出し、恩だけでも売っておかねば今後に差し支えよう。このような些末事で大事に障るようなことなど、あってはならことなのだからな・・・」

「承知しております。既に手は打ちました、ご安堵ください。北天騎士団の中枢でさえ事件の続報が届くまでにはタイムラグが生じるよう細工しておりますれば、一週間は時間的猶予が稼げるかと」

「うむ・・・」

 

 曖昧な返事を返しながら、ラーグ公は友へと振り返って瞳を細め、両腕を背中に回して組み替えて見せた。

 

 ――了承を意味する仕草である。

 

 王侯貴族というものは、言葉にして己の意思を相手に伝える行為を「品のない行為」と捉えており、思っていることや考えた指示内容を、こういった仕草で伝えることを「貴族の嗜み」として幼い頃より覚え込まされる。

 イヴァリースで1、2位を争う大貴族であるラーグ公は、貴族の中の貴族と言って差し支えのない人物。当然のことながら、この手の嗜みは呼吸するより自然なこととして出来て当然の常識でしかない。

 

「承知しました。では早速に」

「うむ・・・。まず、手始めに何を使う?」

「ひとまずは、今日届きました身代金要求書を握りつぶします。明日か明後日にもあらためて二通目が届きましょうが、それまでは北天騎士団は動くに動けません。

 連絡役を兼ねていた“草”の一人は既に処分して城の庭に埋めさせました。ザルバッグは捜索隊を派遣するよう要請してくると思われますが、それは奴が城の地下に死体が埋まっている事実を知らぬ証拠ともなり得ましょう。無駄にはなりませぬ」

「うむ、流石だな。これからも期待しておるぞ、我が友よ・・・・・・」

「御意・・・」

 

 そう言って主に対して、深々と頭を垂れるダイスダーグ。

 それは、ラーグ公が今どのような表情で自分を見ているかをダイスダーグにわからなくしてしまう結果を招く仕草であったが、一方でラーグ公からも頭を下げているダイスダーグの表情を見ることを叶わなくさせている側面も有していた。

 

 このとき彼の表情は常と変わらず冷静沈着を保ち続けており、余人から見れば普段と何一つ変わっていないように見えたかもしれない。

 

 だが、ただ一人。長兄と同じく表情があまり動かない長女であり末の妹でもある少女が見ることがもし出来ていたならば、こう評していたかもしれなかった。

 

 

「珍しいですね、ダイスダーグ兄上様が上機嫌に笑っているだなんて。

 何か他人に嫌なことでも言って、欲しいものが得られたんですか?」

 

 

つづく

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