平民派DQN女オリ主がいくFFタクティクス   作:ひきがやもとまち

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第3話

「・・・初陣を勝利で飾ったそうだな。兄として嬉しいぞ」

「・・・・・・ありがとうございます」

 

 私の見ている前でベオルブ家の長兄であるダイスダーグ兄上様が、ラムザ兄様にお褒めの言葉を賜らせておりました。

 場所はイグーロス城内にある談話室の一つ。通常はそれなりに地位の高い貴族を招いたとき等に使用される用の他より調度品が高価な一室です。

 

 ガリランドで骸旅団の敗残兵を撃滅させ、マンダリア平原で二度目の実戦経験をして勝利で飾った私たち一行は『エルムドア侯爵が骸旅団に誘拐された』という重大情報を携えて当初の目的地であるこの城に到着したわけなのでありました。

 

「なんだ、嬉しくないのか? 他の重臣の方々も、さすがはベオルブ家の血を引く者だと褒めておいでだったというのに」

「いえ、そんなことはございません。お褒めの言葉、有り難く存じます」

 

 ベオルブ家現当主様からの褒め言葉に対して、『嬉しいけど微妙に複雑な心境』であることが丸分かりな反応を返すラムザ兄様。・・・本当に素直な御人だなぁ・・・。

 まぁ、兄様は母親の身分が平民であることと、正当なベオルブの血を引く兄二人が優秀すぎて昔から比べられて生きてきた積み重ねがありますからね。その大半はベオルブ家に対するやっかみに過ぎなかったんですけども、過剰に自己の立ち位置を意識しすぎてる兄様にそう思えるはずもなく・・・そんな感じでしたから。

 

「・・・それより、報告があったと思われますが、エルムドア侯爵の馬車が襲われ、誘拐されたとのこと。如何なされますか?」

「うむ。ザルバッグに捜索隊を出すよう既に手は打ってある」

 

 そんな経緯を経てから始められたベオルブ家長男と末弟による『ベオルブ家の男たちの会話』を聞きながら、私は飲み物に口をつけるだけで口を差し挟もうとはせずに、黙って聞き役に徹することを心得とする普段通りの城での過ごし方を徹底しておりました。

 

 ダイスダーグ兄上様が、『男同士の話し合いに女が口を差し挟むのは貴族の儀礼として良いものではない』として好まれないからです。

 兄上様は必ずしも、性別や生まれの身分で能力を判断するタイプの人ではなくて、どちらかと言えば『使える者は誰だろうと金を出して使う、身分はやらない』というタイプの人です。

 階級意識を徹底しながらも、下位にある者を用いるときには相応の報酬を出すことを躊躇わない。そういうタイプの人なんですよね。

 

 そのため『優れた才能は神に選ばれし高貴なる家系に与えられるもの』と信じ込みたいから信じ込んでいる名門貴族のお歴々からは受けが悪く、反面、冷徹な印象とは裏腹に下級騎士や平民出身の兵士たちからは意外と嫌われておらず『冷たいだけの人ではない』という好意的評価を得ている人でもあります。

 

 とは言え、それらはあくまで人を束ねて指揮する支配者としてのリアリズムによる思考法。

 兄上様の寄って立つ価値基準はあくまで貴族社会であり、貴族支配です。平民たちのため市民革命の旗手になる日は決して来ないと断言できます。

 ハッキリ言ってしまえば兄上様は、『平民相手でも必要があれば最低限度の礼儀は守れる“だけ”の人』であり、基本的には貴族的思考法と価値基準を堅持している貴族らしい御方です。

 こういう公的な場で、家族だからと特別扱いされたがるような女は大嫌いな方だと承知している私は、黙って壁の花ならぬテーブルの花として置物役に徹するのみですよ。

 

 ・・・おい、そこ。ディリータさん。「花は花でも、毒の花だろ・・・」とか心の中でつぶやいてたら後でケンカですからね絶対に。

 

 そうやって空気読める私とディリータさんの二人が黙ったまま事の推移を見守りながら、武門の頭領にして北天騎士団を動かす権限を持つベオルブ家二人の会話を、一言一句聞き逃さずに記憶しておこうと内的努力を続けていたときのことでありました。

 

 

「お願いします、ベオルブ閣下。何卒、私に百の兵をお与えください!」

 

 いきなりアルガスさんが末席に与えられていた自分の席から立ち上がり、大声を上げながら頭を下げてダイスダーグ兄上様にお願いを要求してきたのです。

 

「「・・・・・・」」

 

 正直、これには流石に兄上様だけでなく、私も眉を顰めざるをえませんでした。

 『自分たちの住む土地の領主が誘拐されて心配だから、家臣である自分が助けたい』という人情論は気持ち的に理解できなくもありません。

 ですが、流石にこれはやり過ぎです。

 

 言ってみれば彼の要望は、他の地域を支配する領主に対して『よそ者の見習い騎士でしかない自分に、貴方の部下百人を指揮する権限を与えてくれ』と要求しているようなものです。

 しかもそれを、『よそ者の領主を救出するため、彼の家臣に指揮権ごと貸し与える』なんて、事実上ダイスダーグ兄上様がエルムドア侯爵の傘下に加わる意思を行動によって示してしまうようなもの。

 誰がどう見たって傲慢すぎる要求内容にブチ切れて怒り出さなかったダイスダーグ兄上様は流石だなぁ~と、思わず感心してしまったほどの暴挙でしたから当然のように彼の要望は却下され、私たちは安全なイグーロス城の警備役をベオルブ家の現当主様直々に言い渡されてしまうという大変名誉な『命令違反犯したときにはヤバいことになる立場』を与えられてしまったわけでした。

 

 ・・・まさかとは分かってますけど、それでもアルガスさんの失言問題のせいでこうなったんじゃないかと思わずにはいられない私は、素直すぎるラムザ兄様と違って悪い子です。

 反省――はしてあげません。今回は特別にね?

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、私が色々と複雑な心情を抱いている相手アルガスさんの言動が何に起因するものなのか知ることになるのは、兄上様との話し合いを終えて城内にあるベオルブ家用の邸宅を出た後でのことでした。

 

「・・・オレの家も昔はベオルブ家みたいに皆から尊敬される家柄だったんだ・・・」

 

 アルガスさんがポツリと口にして、語り出した彼の家系の過去に起きた悲しいお話に、屋敷と城とを結ぶ石造りの橋の上で立ち止まって振り返り耳を傾けだす私たち幼友達三人。

 

「五十年戦争の時に、オレのじいさんが敵に捕まってなぁ・・・。じいさん、自分だけ助かるために仲間を敵に売ったんだよ。そう、自分の命を救うためにね・・・。

 でも、敵の城を出たとたんに背後から刺されて死んじまった・・・。オレみたいな騎士見習いにな。そんな話を、じいさんの仲間だった一人が命からがら脱出してきて方々に吹いてまわったんだ。

 もちろん、オヤジは信じなかったよ。でもな、みんなその話を信じた。そして、みんな去っていった・・・」

 

 そこまで寂しそうな表情と声で言った後、足下に落ちていた小石を拾って橋の下の池に投げ込んでから空を見上げ、

 

「身分か・・・・・・。たしかに、オレ一人じゃダイスダーク卿には会えんよなぁ・・・」

 

 そう結んで、話の終わりを締めくくられたのでした。

 

 その仕草はまるで、『ベオルブ家の城の中にあった小石を騎士見習いの自分が城の外へと放り出して入れ替わりたい。捨て石なんかより自分の方が絶対に価値がある』・・・そんな風に思っているような、錯覚でしかないような。

 曰く、なんとも言いがたい複雑で曖昧な彼の内心を現しているようで少しだけ私も動揺せざるをえなくなるほど居心地の悪い感情で満たされたものだったようです・・・。

 

 ――とは言え。

 

(・・・ちょっとだけ疑問点の多い話でもあったわけなんですけどね・・・)

 

 同情すべき余地が多分にある今の話を聞かされて尚、こういう考え方をしてしまうところに我ながら救いようのない部分を感じなくもない私でもありまして。

 

 第一に、どれひとつ取っても証拠がないお話だということがあげられます。

 これは彼の話の信憑性のみならず、おじいさんの証言や、逃げ出してきたおじいさんの仲間の人の話にも共通して言える疑問点です。

 

 そもそも何故、敵に寝返って味方を売った彼のおじいさんを見習い騎士なんかが殺す必要があったのか? その見習い騎士は敵の見習い騎士か、それとも味方の見習い騎士だったのか? 仮に味方であるならなぜ所属が話の中に出てきていないのか? もしかして本当に仲間を売った裏切り者とは逃げ帰ってきた仲間の一人だったからではないのか? だからこそ方々にデマを流して自分の罪を無かったことにしようとしたのではないのか?

 

 ・・・アルガスさん寄りの意見としては大体そんなところですが・・・逆にアルガスさんアンチの視点で見た場合に考えられる疑問はひとつだけ。

 

 ベオルブ家みたいに尊敬されていた家柄の老人が裏切ったなんて話を、碌な証拠もないのに皆が信じて去っていったという部分のみです。

 

 比べる対象として適切ではないかもしれませんけど、仮に私たちのお父様である『天騎士バルバネオス・ベオルブ』が死去した後に、同じ噂が立ったとしても去っていく人はほとんどいなかったと確信できるだけのものが、うちのお父様にはありました。

 同じ五十年戦争で活躍した皆から尊敬される家柄の出であるベオルブ家の好々爺さまには、死人に口なしの状態になってからデマを流されたぐらいで揺らぐほど軽い信頼は周囲から寄せられていなかったのですから当然のことです。

 

 ・・・とは言え、やっぱり比べる対象としてデカすぎるのは否定できるはずもなく。

 騎士として最高位の人と、『昔はベオルブ家みたいに皆から尊敬される家柄だった“だけ”』の老騎士さんとでは格がちょっと・・・ねぇ?

 

 それだけ周りから評価されて信頼されてたからこその『天騎士』。後を継いで北天騎士団団長になったザルバッグ兄上様でも継承することが許されていない騎士として最高の称号を有していた人だと、同じおじいさん同士を比べ合うのに使いづらくて仕方がありませんな。

 別の適切な候補は他にいなかったでしょうかね? え~と、え~とぉぉ~・・・・・・。

 

 

「兄さーん! 姉さーん!!」

 

 そんな風に私が(しょうもない内容の)悩みについて色々考えを巡らしていたところに若い女の子の声がかけられたのでそちらを見ると、見覚えのある二人の美少女と、一人の偉丈夫が私たちに向かって満面の笑顔とともに手を振って挨拶してくれておりました。

 

 如何にも貴族らしい金髪碧眼の男女に囲まれた中央に、茶色の髪をして黒い瞳をもつ少女を加えたその一行を見て、兄様たちは各々に喜びの声を上げられたのです。

 

「ティータ!」

「アルマ、ザルバッグ兄さん!!」

 

 ディリータさんに名を呼ばれた茶髪の少女、彼の妹である『ティータ』さん。

 ラムザ兄様に名を呼ばれた二人のうち女の子の方が、私と兄様の妹に当たる『アルマ』さん。

 彼女たち二人は共に、亡き父の厚意によって貴族学院に通っており、寄宿舎生活を送っているはず。今日会えたのは一時帰省していたからなんでしょうね、ラッキーです。

 

「ラムザ兄さん、ラムダ姉さん。戻っておいでだったのね」

 

 こういう風にしてベオルブ兄姉が集まったときに最初に話しはじめるのは大抵の場合、明朗快活な末妹のアルマさんからであり、話しかけられる相手も最初は決まってラムザ兄様。

 

「お久しぶりです、ザルバッグ兄さん」

 

 そして、こういう時に限って絶対に家の序列を優先するのもまた、真面目すぎるラムザ兄様であるのでしたとさ。

 

「聞いたぞ。ガリランドでは盗賊どもを蹴散らしたそうだな。

 それでこそベオルブ家の一員だ。亡き父上も喜んでおいでだろう」

「・・・ありがとうございます」

「ふふっ、相変わらずだな。こんな言葉じゃ素直に喜べんか?」

 

 そう言って、ラムザ兄様からの挨拶に答えられたのはベオルブ家の次兄『ザルバッグ・ベオルブ』兄上様。

 父亡き後の北天騎士団現団長であり、私にとっては直系の兄上様で、ラムザ兄様にとっては腹違いの兄に当たる男性です。

 

 帰属意識としては貴族社会にある方なのですけど、それはあくまで『仕える者である騎士階級としての忠誠心』であって、ダイスダーグ兄上様の貴族感とは似ているようで大きく異なる、陰謀とか謀とは無縁なタイプの典型的な武人系の人。

 ですので、ベオルブ家の正当な血筋に気後れしがちなラムザ兄様も、ダイスダーグ兄様よりかはザルバッグ兄様と会話している方が気楽そうにしている場合が多く見られるのが特徴です。

 

 もっとも、公明正大すぎて『騎士の見本』みたいなところがある人ですから、兄様としては立場を優先して話さなければならないように感じてしまう相手でもあるらしく、素直に甘えられる人では決してない微妙にスゴすぎてる人でもあるみたいですけれども。

 

 

「なら率直に言ってやろう。

 よくやったな、ラムザ。見事だ。兄として俺は弟の勝利と生還を心より嬉しく思っている。

 ・・・どうだ? これなら素直に喜んで感謝の言葉を兄に聞かせてやろうと思えるようにはならんものかな?」

「に、兄さん・・・っ。お戯れを・・・」

「はっはっは! お前はそういうところも相変わらずだなラムザ! そんな風に肩肘張ってばかりいると、俺よりも兄上に似ている妹にもてあそばれるようになる日もそう遠くはなくなってしまうのではないか? はっはっは!」

 

 ――おいコラ、ちょっと待てやクソ兄貴。

 たとえ血のつながった妹だろうと、女の子相手に言っていいことと悪いことの区別の付け方を教えてやりたくなったじゃないですかコンチクショー。

 

「ディリータも、逞しくなったな。お前の活躍も聞いているぞ?

 ティータが嬉しそうだった。なぁ? ティータ」

 

 ザルバッグ兄上様がからかうように言って振り返る先にいるのは、茶色の髪と黒い瞳を持つアルマさんと同い年の少女で、ディリータさんの実妹でもあるティータさん。

 

 基本的に『FFタクティクス』は、貴族社会を中心とした世界観で描かれているためなのか、中世ヨーロッパのフランク人貴族を彷彿とさせる金髪碧眼の人種が貴族階級には多く存在しておりまして、彼女のような髪と目の色を持つ人たちは平民階級に多く見られる外見的特徴です。

 なので貴族の邸宅で彼女のような見た目を持つ若い娘がいた場合、多くは小間使いか召使いであり、場合によっては性的虐待や奉仕といったエロゲーみたいな目的で囲われている事例も最近では珍しくなくなってきちゃっている現状なのですが、彼女の場合はそれらと違って正式にベオルブ家に準ずる人の待遇で迎えられてる養子みたいな立場にあります。

 

「ディリータ兄さん。お元気そうでなによりです」

「ティータこそ、元気そうでよかった。学校には慣れたか?」

「ええ。みなさん、とても良くしてくださるので・・・」

 

 “良くしてくださる”の部分で少しだけ言い淀むティータさん。

 その理由はまぁ・・・察するまでもなくアレなんでしょうねぇ、きっと。――って言うかさ。

 

「・・・あのー、みなさん? 何でさっきから私には一言も話しかけてもらえてないのでしょうか? 結構待ち続けて期待してたのに寂しくなってきたんですけども・・・」

 

 控えめに挙手しながら私が口を差し挟むと、ザルバッグ兄上様は「ニヤリ」と笑われて。

 

「無論、お前のその表情と反応が見たかったからだラムダ。

 いつも取り繕ってダイスダーグ兄者の妹弟子みたいになってしまってる可愛い妹に、人間らしい感情的な部分を呼び覚ませて表現させてやりたいという兄からの愛情表現だ。有り難く受け取って感謝するがいい愚妹よ」

「ヒドすぎる評価ですね! 私これでもベオルブ家の直系の血を引く正当な妹なんですけれども!」

 

 私が叫んで、その場にいた一同全員が声を上げて笑い出す。

 いつものことなんでいい加減慣れましたけど・・・実の妹をダシにして家族の団らんに利用するの本気でやめてもらえません? そろそろ訴えますよ本当に。現代日本だったら勝てる自信ありますからね! ――イヴァリースだったら知りませんけども・・・。

 

「ゆっくり話したいところだが、これから盗賊狩りなんだ。すまんな、二人とも。

 落ち着いてからでも兄姉水入らずで、今度こそゆっくり話すとしよう」

「ご武運を、ザルバッグ兄さん」

「ご無事をお祈りしております、兄上様。・・・次話すときには今度こそ私を利用しないでくださいね?」

「はっはっは」

 

 カラカラ笑って背を向けたまま手を振るだけで答えてくれない兄上様なんか嫌いです。骸旅団に不覚を取って怪我でもしちゃえい。

 そんな私の内心を読み取ったのか、ザルバッグ兄上様は途中で足を止めて中途半端に振り返りながら私を肩越しに見つめると、こう言ってこられたのでした。

 

「・・・そう言えばな、ラムダ。お前に意見を聞いておきたいことがあったのだ」

「??? なんでしょう?」

「骸旅団から身代金の要求があった。“エルムドア侯爵を無事に帰してほしければ要求額通りの金を払え”とな」

「なんだって!?」

 

 またしてもベオルブ家の兄姉が話し合っている中に横から割り込んでくるアルガスさん。

 懲りない人ですけど、ザルバッグ兄上様はダイスダーグ兄上様と違って下の者からの無礼にはわりと寛容な性格の持ち主なので細かいことにはとやかく言ってきません。優先事項を分かっている人でもありますしね。

 

「そうだ。それがどうにも腑に落ちなくてな・・・。

 骸旅団は反貴族を掲げるアナーキストだが、貴族やそれに仕える者たち以外には手を出さない義賊だという。

 そんな奴らが金目当てで侯爵殿を誘拐したとは考えにくい。できれば兄者に近い思考をして、実際に現場で奴らと剣を合わせてもいるお前の意見を聞いてから出撃したいと思っておったのでな。忌憚ない意見を聞かせてもらいたい」

「ばかな! ヤツらはただのならず者だ!」

 

 うん、いい加減にしてくださいねアルガスさん? そろそろ本気でウザくなってきましたからね?

 

「・・・その件で私も兄さんに聞いてもらいたい事というか、むしろ聞かせてほしいことがあったんですが・・・」

 

 私は一呼吸置いて、アルガスさんに貯まったヘイトを発散させてからザルバッグ兄上様の質問への答えと自分からの質問を同時に口に出しました。

 

「私たちがイグーロスに来る直前にマンダリア平原で倒したと報告しておいた、骸旅団の侯爵誘拐実行犯たちの死体の中に、骸騎士団の騎士は存在しておりましたかね?」

「!!!!」

 

 それだけ言うと、ザルバッグ兄上様は全てではなくとも多くの謎が解けたと言うような顔に表情を激変させて黙り込み、しばらくの間試行錯誤に没頭した後絞り出すように結論を口にされました。

 

「・・・いや、いない。

 五十年戦争末期の混乱期に徴用された義勇騎士団のひとつでしかない骸騎士団メンバーの素性に関する記録は、元上司である俺の手元に残っている物だろうと信憑性はまるでないが・・・・・・それでも断言することができる。お前たちが戦って倒した骸旅団の中に骸騎士団のメンバーは一人もいない。いるはずがない、と」

「な!? 何故ですかザルバッグ閣下! 記録は不確かなのでしょう!? ならば何故オレたちが倒した奴らの中に骸騎士団がいなかったと断言できるのですか!?」

「簡単なことだ。もしお前たちが戦った中に骸騎士団員が・・・五十年戦争の経験者が混じっていた場合、今の無傷なお前たちと話をしている俺自身が存在できないからだ。

 ・・・それ程までの死闘だったのだ、あの戦争はな・・・。たかが初陣を終えたばかりの士官候補生にしてやられるような者では、騎士見習いにさえ勝てはしない・・・そういう状況の中で生き残ってきた者たちの力は今のお前たちの想像を遙かに超越している・・・」

「なっ・・・!? ・・・くぅぅ・・・っ」

 

 当時を振り返って複雑そうな顔をして見せながら述懐するザルバッグ兄上様と、自分の実力が平民たちの寄せ集めでしかない骸騎士団よりも下だと言われて悔しかったらしいアルガスさんが歯がみする対照的な光景。

 

 そして兄上様はやがて自分の中で結論を出されたらしく、毅然と顔を上げて迷いの晴れたような表情で私たちを一瞥すると野太い笑みを浮かべられながら宣言されました。

 

「これだけ大きな作戦に、幹部クラスである骸騎士団員が一人も加わっていないなど考えられない。分派行動か、はたまた本体から離脱した一部が逃走資金確保のため暴挙に出たといったところなのだろう。

 どちらにしろ敵が減るのは我が方にとって有利以外の何物でもない。これで後顧の憂いを気にする必要もなく、賊どもの一掃に集中できるというものだ!」

 

 笑い飛ばして不敵に微笑まれた後、この件へのご褒美なのでしょうか?

 ザルバッグ兄上様は私たちに情報をひとつだけ、チクってくれたのでした。

 

「情報収集のために放った“草”の一人が戻ってこない。大事に巻き込まれたと考えられるが、“草”ごときに捜索隊を出す必要はないと重臣の方々はおっしゃられるのだ。

 ・・・その草が巻き込まれた大事というのが、侯爵殿の行方を知ったからかもしれんのにな・・・フフフ、おかしなことだと思わんか?」

「!!! その草は、どこで消息を絶ったんですか? ザルバッグ兄さん」

「ガリオンヌの南、ドーターという名の貿易都市だ。

 ・・・城の警護なんぞ退屈なだけだ。そうは思わんか? 我が自慢の弟ラムザ。そして、ラムダよ・・・」

 

 それだけ言って、それ以上は何も言わずに去っていく兄上様の背中に私たちは軽く一礼した後、次に行くべき場所と行動方針が決まったので準備に取りかかることに決定いたしました。

 

 ――後は、またしばらく会えなくなる愛しの妹たちとの別れのイベントシーンを残すのみと言うわけですね。

 

 

「ティータ、そう言うわけだ。すまない。僕らは行くよ」

「私のことなら心配しないで。自分のことだけ考えてね・・・」

「大丈夫。無茶はしない。必ず戻ってくるから、いい子でいろよ・・・」

 

 そう言い合って、熱い抱擁を交わすハイラル兄姉の兄姉ライクシーン。・・・うーん、兄弟愛と分かっていても誤解したくなってしまう司波兄姉的ムードを見せつけられた側としては少しだけ複雑ですね・・・。

 

 ですので少しだけ彼らのためにも、兄姉ともに仲良く長生きできるよう私の方からも補填しておいてあげるとしましょうかね。

 

 

「ティータさん、お兄さん想いなあなたの為に一つだけ忠告して差し上げましょう。・・・寄宿先の学校で貴族出身の家の子たちに生まれの身分を理由にイジメを受けさせられた時には迷わずベオルブの名を持ち出して、笠に着なさい。

 『あなたの自慢するお父様の地位は、ベオルブ家に目をつけられて生き残っていられるほど高位の爵位なのかしら?』とか言ってあげたら、大抵の相手は黙り込ませられますからね。

 権威を笠に着て威張り散らす連中を相手にするには、より高い権威を持ち出してしまうのが一番楽だし効率もいいですから」

「え? ・・・で、でもラムダさん・・・そんな・・・。そんなことしたらベオルブ家にご迷惑がかかって・・・」

「んな事は気にしなくて宜しいですよ。そもそもあなた方兄姉を引き取ったのは、今は亡きベオルブ家の前当主バルバネス・ベオルブの遺志です。それにケチをつけるというならベオルブ家にケンカを売るのと何ら変わりありません。

 むしろ、亡くなったお父様に拾われた命を意識しすぎて、遠慮させすぎてしまったことが原因であなたに死なれでもした日には、私たち兄姉はあの世でお父様に殺されてしまいますよ。

 ですから私たち兄姉の安楽な死後生活を守り抜くためにも、いざというときにはベオルブ家の名をためらわずに持ち出すこと。・・・い・い・で・す・ね?」

「・・・・・・・・・はい・・・わかりました、ラムダさん・・・・・・」

 

「よろしい。――と言うわけなのでアルマさん。あなたはティータさんの監視役です。決して彼女が私たちの死後を疎かにしないよう、よーく見張っておあげなさい。

 そして私たちベオルブ家の兄姉を死後の世界で亡父に抹殺させようと企む不届き者を見つけたときには、ベオルブ家の名を出してお仕置きしてあげるのを忘れないように。

 『あなたの娘さんからこういう事されてるベオルブ家の末妹です』とか手紙に書いて、相手のご両親にお知らせする感じでね」

「は~い。わかりましたー、ラムダ姉さん♡ ベオルブ家の正当な血を引くお姉様からのお言いつけ通りに実行するよう、ラムザ兄さんと同じで母親の身分が低い妹のアルマは頑張りまーす♪」

「うん、元気があって宜しいですね。どうせ、この手の陰湿なイジメを好む人たちは自分で思っているほど親から評価されてない場合が多いでしょうから、何言ったところで自主的に自分の家内だけで封殺してくれるはずです。ベオルブ家には害は及びません。遠慮せずにやってしまいなさい」

「は~い♪ アラホラサッサ~♪」

「は、はい・・・。えっと・・・あ、あらほらさっさ・・・?」

 

 

「・・・おい、ラムザ。お前の妹は俺の妹にいったい何を教え込んでたんだ・・・?」

「さ、さぁ・・・? たぶん、たまにだけど寝言で変な言葉を言ってるときがあったから、それをアルマが聞いてティータに吹き込んだとかじゃないのかな・・・? なんか性格的にそんな感じがするんだけども・・・」

「クッ・・・! 説得力がありすぎて反論できん・・・!! いや、言ってくれてる内容自体はありがたかったんだけれども! 何故だかすさまじく感謝したくない俺が俺の心の中に巣食ってしまっていて妙に落ち着かない心地になっている・・・!!」

 

 

 

「・・・・・・・・・ケッ!!(誰からも守ってもらったことない生意気な態度の騎士見習い少年)」

 

 

つづく

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