平民派DQN女オリ主がいくFFタクティクス 作:ひきがやもとまち
期待に応えるために気合入れて次話を書いたところ…入り過ぎてしまったのか長くなりすぎた視たいですゴメンナサイ。ミルウーダとの決着シーンは次話の出だしで描かれます。今話は前話と対照的に綺麗めの話をどうぞ。
――雨が、降っていた。
昼頃から降り始めた雨粒は嵐となり、今も止むことなく降り続いている。
そんな状況の中でもたらされた凶報に、骸旅団の幹部にして骸騎士団団長ウィーグラフの実妹『ミルウーダ・フォルズ』は、正しく自分たちの未来が閉ざされたことを思い知らされていた。
「そう、本隊との連絡も途切れたのね。私たちも、もうお終いというわけね・・・・・・」
肩を落とし、苦い自嘲を込めた声でそう吐き捨てる。
自分が指揮官として、『撤退のタイミングを見誤ってしまった』という事実と共に・・・。
「なに言っているんですか! 戦いはまだ終わってないじゃないですかッ!」
「そうですよ! やつら、貴族どもが我々に謝罪するまで続くんですッ!」
二人の部下が、自責の念に押しつぶされそうになっていた自分を慰めるように、鼓舞するように、発破をかけるように力強い声と言葉で叱咤してくれている。
正規軍と違って平民出の若者を中心に結成された骸旅団にあっても絶対数が少ない女性団員同士という縁で知り合って仲良くしてきた双子の白魔道士姉妹だった。
男たちのような腕力はないから敵兵と鍔迫り合うことはできなくとも、苦しむ人々を救うため「自分たちにも何かできることがあるはずだ!」と信じて革命戦争に参加を志願してきた、女だてらに負けん気の強い気性がミルウーダと一致したから部下と上司という立場を超えて親友のような間柄になってきた者達からの優しい言葉。
・・・だが今は、それさえもがミルウーダの心に重くのしかかり自罰する言葉の暴力にしかなり得なかった・・・。
――もとより彼女が率いている部隊は、双子の姉妹を含む白魔道士たちを中心に編成された救護隊であり、戦闘を主とした実戦部隊ではない。
『盗賊の砦』と呼ばれるようになったとはいえ、元はただの漁師たちが使う避難小屋でしかなかった正式名称すら持たぬ形ばかり立派になった砦モドキを拠点として利用していたのも、それが理由だ。
海にも陸にも面しているこの砦は、各地から敵に追われてイヴァリース中央地方に逃げ込んでくる骸旅団の仲間たちの集合場所であり逃げ込み場所であり、漁師だけでなく彼女たち骸旅団にとっても避難場所として用いられていたからである。
設備はともかく広さだけはあるお陰で、海から船を使って逃げ込んできた者たちを収容するには十分なスペースがあり、いざという時には船を残らず使って海に出てしまえば追っ手の追撃を一時的に撒くこともできる。
ここで逃げ込んできた身体を休め、彼女たちに傷を癒やされた同胞たちを骸旅団本隊が根城としているジークデン砦まで送り出し、兵力を補充する。――それがミルウーダ率いる救護隊の役割であり勤めであり、彼女たちはその任務を最後まで全うしていた。
今朝方になってようやく最後に残っていた負傷兵を送り出し、完治までは無理でも自力で砦まで歩いてたどり着くことだけは可能なまでに回復させ終わった彼女たちは役目を終えて砦も放棄し、自分たちも撤退の準備をはじめようとしていた。その直後のことだ。
天は・・・正しい意味で彼女たちを“見放した”。
雨が・・・・・・降ってきたのである・・・・・・。
(・・・元は漁師たちの避難小屋だったこの砦は、台風の際には逃げ込んで『嵐が去るまで立てこもれる場所』を選んで建てられている・・・。
雨が降るまでは、逃げ込むのにも逃げ出すのにも有利な地形だけど、雨が降り始めてやまないままでは砦を出ることさえ難しくなってしまう・・・夜の闇と嵐に紛れて逃げ出す道もあるにはあるけど、それまで北天騎士団が大人しく待っていてくれるなんて思えない・・・)
ミルウーダはそう思うが、声には出さない。
先ほどは押し寄せてきた絶望に負けて、つい弱音をこぼしてしまったが、指揮官としてあるまじき行為であったと自覚して反省した今となっては、たとえ虚勢でしかないと判った上だろうとも最後まで指揮官として形だけでも張っていようと心に決めている。
指揮官が負けると言った戦は、たいてい負けるものだ。
・・・もっとも、指揮官が勝てると言った戦いは必ず勝つというわけでもない。負けると思って戦を始めるバカなどいるわけがないからだ。
誰もが勝つつもりで戦を始める。それは自分たち骸旅団も北天騎士団も同様だろう。だからこそ彼女はこの嵐が、自分たちを不利に導く天の下した理不尽な決定だと恨み憎んで、思わず普段は言わない“愚痴”をつぶやかせてしまったのだろう。
「兄さんの・・・、
兄さんのやり方が甘いから・・・・・・」
そこまで言ってミルウーダは言葉を切ると、心の中で「いや・・・」とつぶやいて首を振り、甘いのは自分も同じだと自嘲に変える。
雨が降り始めたとき、即座に撤退を指示しなかったのは双子姉妹を始めとする白魔道士たちが連日連夜の救護任務で疲れ切っており、休ませずに歩かせることで本隊と合流する前に脱落者が出てしまうことをミルウーダ自身が恐れたからだ。
だから彼女は、雨が止むか弱くなる可能性もあると砦にこもったまま休憩を取らせ、予定通り昼には出発するつもりでいたのだが、天気は彼女の期待を裏切り雨を嵐に変えて救護隊の遅い足取りをさらに重苦しいものにしてしまった。
それでも危険を承知で行くべきか、止まるべきかで決断を迷い続けていた中に届けられた先ほどの凶報。――決断するのが遅すぎたのだ。ミルウーダとしては自嘲して責任の重さを痛感せざるをえない・・・・・・。
(せめて、護衛の歩兵たちだけでも本隊と合流させるため、私自身が率いて強行突破を計るべきだった・・・。それは仲間を見捨てられなかった私の甘さが原因だ・・・。
彼女たちを見捨てて行けなかった私の甘さが、結果的に彼女たちを無駄死にさせてしまう・・・フフ、皮肉な話よね・・・。神様って本当、理不尽な存在なんだとつくづく思うわ・・・)
自分たち平民と貴族。生まれた家が違うだけで、ここまで天に贔屓してもらえるのかと、彼女としては天にも神にも言いたいことが百通りぐらいは軽くある今の状態。
そんな中に、砦の外で陸側から続く唯一の道を見張っていた見張りの兵から今日一番最悪の凶報が彼女の元へともたらされてしまうのだった・・・・・・。
「て、敵襲ーッ! 北天騎士団のヤツらだーッ!!」
…その怯みを含んだ声での知らせが、ミルウーダに覚悟を決めさせてくれた。
“どうせこれが最期になるならば”
“最期ぐらい彼女たちのために理想の革命戦士を演じて死ぬのも悪くはない”
……そう暗い決意を瞳に宿して人生を走り切る、その覚悟を……。
「・・・ようやく迎撃のため動き出しましたか・・・。どうやら嵐の中を強行軍してきたのが無駄にならずに済みそうです」
見張りが慌ただしく動き出すのを目視できる距離にまで近づいていた私、武門の棟梁ベオルブ家の長女ラムダ・ベオルブはそうつぶやいて、足下まで海水に浸かった砦へと続く道の悪さに顔をしかめておりましたとさ。
・・・敵が立てこもっている『盗賊の砦』は、砦と言っても元は漁師さんたちが避難小屋に使っていただけの場所でしたので当然ながら海に面した立地に建てられており、陸路からいける道は雨が降ると水嵩が増す砦正門へと続く一本だけという天然の要害。
攻め落とすときの困難さよりも、到着するまでの移動の方が難儀するという変わったタイプの面倒くささを誇る場所でしてねぇ。
オマケに雨まで降ってきて視界が悪くなったから逃げる側にとっては好都合の条件が揃ってしまって強行軍せざるを得なくなった次第なのですよ。
まっ、海が荒れたら逃げ込んで嵐が過ぎるのをジッと待ち、民間の犯罪者集団でしかない盗賊団たちが必要に応じて増築改築してっただけの代物に海から資材搬入する金なんて掛けられてるはずもないので当然っちゃあ当然なんですけれども。
「そう過小評価したものでもないぞ、ラムダ。正門へ続く一本道しかない砦を相手に、この距離まで敵に気づかれずに接近できたのはお前の提案してくれた強行軍のおかげだ。みんなもそこは感謝しているさ」
いつも通りに隣に立って進軍していたディリータさんが私に慰めの言葉を掛けてくれました。
昼頃に雨が降り出したのを見て、雨が止むまで出陣を延期したほうがよいと判断した兄様と彼のお二人に対して、私が駄々をこねてまで無理矢理にでも出陣を強調したことをフォローしてくれたのでしょう。
・・・『桶狭間の戦い』による影響なのか、現代日本では夜中や雨が降ってる視界の悪い状況のことを『奇襲には最適の時間帯』と勘違いしている人が多かった気がしますけど、実際におこなわれていた中世以前の戦争では夜中や雨中に戦いを仕掛けるのは無謀を通り越して自殺行為に過ぎなかったというのが現実であり、少数のコマンド部隊による奇襲作戦以外に成功例がない愚策中の愚策とされていました。
その軍事学上の常識をアカデミーで教えられた優等生である兄様たちの判断は非常に正しく、私も基本的には賛成だったのですが・・・戦争には『戦略状況』と言うのがあるのもまた事実。
今、骸旅団は追い詰められており、雨が止めば直ぐにでも彼らは逃げる道を選ぶでしょう。そして逃げた敵を一人残らず補足するには私たちの部隊は数が少なすぎている。
『逆賊どもの根絶やし』を標榜しながら、人手が足りずに士官候補生まで狩り出さなければならなくなった政権側の苦い内情がここにあります。
北天騎士団本隊は骸旅団本隊の殲滅に手一杯であり、町に逃げ込んだ敵を探し出すための人員を割く余裕はいささかもなく、私たちは私たちで『名誉挽回のための戦い』であるため『敵に逃げられてしまったので応援をください』と素直に頭を下げるわけにはいかない事情を抱えてしまっている。
様々な条件から私たちもまた追い詰められつつあり、のんびり雨が止むのを待っている余裕はない。・・・そう説明して提案した私の強攻策にお二人は渋々ながらも納得せざるを得ないことを認めて全軍前進開始。
んで、リーダーたちによる家の事情に付き合わされた士官候補生チームの皆様方にはいろいろ鬱憤がたまる結果を招いてしまったというわけでして。
先のディリータさんがしてくれたフォローには、そういう事情がある次第。
「――もっとも、戦い終わって宿に帰ったら足を拭くお湯ぐらいは奢ってもらいたいとは思ってるかもしれないけどな。正直、俺も海水で足が痒いよ」
茶化すような笑顔と口調で言ってくれた言葉に、何人かの仲間たちが疲れを滲ませた声でとはいえ賛同してくれて、私は彼らの気遣いを無駄にしないためにも頭を軽く下げて事後の報酬を約束するのに使わせていただきました。
「お約束しましょ。この戦いが終わった後に、生きて宿屋まで帰り着いた方には一杯のお湯プラス、その宿屋で買えるなにか一つを私の払いで購入することを宣言させて頂きますよ」
『お、オォ―――ッ!?』
わかり易い飴と鞭の宣言に、ここまで一緒に付いてきてくれていた士官アカデミーの仲良しチーム十数人が一斉に声を上げて力強く要求を口にされてこられます。
『約束だぞラムダ! 俺はワインだ! 家では親父が、士官アカデミーでは教官たちが目を光らせて飲めたことないからな。今夜こそ俺は酒を飲んで大人の階段を昇る!』
『だったら私は、お湯をもう一杯欲しいわ! 身体洗いたい髪洗いたい、温かいお湯で綺麗な私に戻りたい~~~ッ!!』
『・・・肉料理を頼むべきだろうか? それとも魚料理にすべきだろうか・・・? 文学的に考えて、それが難題だな・・・』
口々に元気を取り戻した風を装い、欲望ダダ漏れな貴族子弟らしくないセリフを口にされまくる私たちベオルブ兄妹率いる士官候補生の皆様方。
まったく・・・こんな所まで付いてきてしまう辺り、つくづく物好きでお調子者な貴族のはみ出し者ばかりが集まったものですよね本当に・・・。お陰でこういうときには私の方が助けられてしまいそうになりますよ・・・。
『まったく・・・君たちは下品な要求ばかりだな。物品を要求するだなんて貴族として品がないよ。少しはボクのように貴族らしい願いを口にすることができないのかい?
そう! 金で買えるものはいらないから、ラムダと過ごす一夜のアバンチュールが欲しいと要求する予定の貴族らしいボクを少しは見習ってくれたまえよ!!』
『いや、お前の(あなたの)要求が一番品がなくて下品で貴族らしくない(わ)よ!?』
・・・・・・いやまぁ、うん。中には色んな人がいますよ、人間の集団なんてそんなものです。とりあえず最後の人には戦い終わった後にグーパンチだけをプレゼント確定、と。
そんな感じで和気藹々アットホーム的な雰囲気に包まれた私たち士官候補生ラムザ・ラムダと仲良し組な方々でしたが。
「ケッ、命がかかっているのに、よくそんな軽口が言えるな・・・。まあいい。
侯爵様を救出できたのもラムザたちのおかげだからな。この作戦が終了するまでは俺も手伝ってやるぜ!」
『・・・・・・・・・』
と、アルガスさんが言った途端に黙り込んでそっぽを向いて、不機嫌そう顔して舌打ちする人まで出てくる始末なのでした。
いやまぁ、うん。正直で露骨すぎる部分と裏表のある人たちなんですよ、貴族子弟なのでね?
(・・・と言っても、大部分はアルガスさんに責任があるわけなんですがねぇ~・・・)
私としては、そう思わざるをえない状況がアルガスさん加入以来ず~っと続いている士官候補生チームの実情。
どうにも彼には、『自分の力を私たちは必要としている』と信じ込んでしまっている部分があるらしく、実際に実力はあるんですけど態度のデカさと図々しさの方が実績を上回ってしまっているため嫌われてるという実感は薄いみたいでもあるんですよねぇ。
オマケに、指揮官を務めている家柄的にも最上位の兄様が彼を『エルムドア侯爵家からベオルブ家が預かっている客分』として扱っているため指揮系統には組み込まず、副隊長格のディリータさんと同じ遊撃剣士として戦うことを許されている特別待遇を当然のことと思い込んで感謝の想いを形で示そうともせず、『ここで一番偉い奴に気に入られている』という虎の威を借るネズミの立場に恥じらう殊勝ささえ持ち合わせていない性格を、時間が経てば経つほど露骨にさらしまくってきているために最近の私たちチームの中では彼に対して露骨な嫌悪の視線と侮蔑の言葉をぶつけるものが多く出始めていて雰囲気悪くなる原因にしかなっていなかったりするんですよねぇ~。
それでも兄様が彼に退去を命じない限りは、他の皆様方は一応その決定には従って彼を無理矢理追い出そうとする挙にでたりはしません。
なんだかんだ言いながらも、彼らは彼らで兄様のことが気に入っており、だからこそ“こんな所まで”付き合い続けてしまっている人たちの集まりですからね。
たとえ周囲からは“甘い坊や”と陰口をたたかれている人であろうとも、自分たちの評価でさえ“箱庭育ちで苦労知らずの坊や”判定を下していようとも。
私たち兄様についてくる道を選んだ士官候補生たちは全員、兄様のことが好きなのですよ。その甘さも、綺麗事ばかり口にするところも、世の中の汚さや黒い部分を知らない子供みたいに無垢な部分も含めて兄様の一部として気に入っている。
そんな自分たちも所詮、“甘い坊やの一人でしかない”・・・そういう共通認識を私たちは共有しています。だからなのかもしれませんけどね。
・・・・・・アルガスさんの内心に、兄様への隠された悪意の本音があることを理性ではなく本能によって察知して衝動的な嫌悪感を感じ始めるようになっていったのは・・・。
「おしゃべりはここまでだ! 来るぞッ! 総員戦闘準備!!」
兄様から号令がかかり、砦に籠もる敵の射程に入るギリギリまでようやっと到達した私たちは、ボタンひとつで取り外せるよう細工された防水装備を脱ぎ捨てると武器を抜いて構えを取り、敵との交戦に備えます。
が、追い詰められた敵に問答無用で総攻撃を命じられる性格を兄様はしておられませんですのでね。順当に考えて、まずは降伏勧告から始められるのでしょうよ、おそらくはね?
「敵将に告げる! 既に君たちは逃げ場を失って孤立している。大人しく剣を捨てて降伏するんだ。抵抗しなければ命だけは助けよう」
そう言った兄様に対し、ほぼ全員が意外な思いを禁じ得なかったことに敵将から礼儀正しく返事が声に出して届けられたのでした。
「そんな甘言につられるものかッ! お前たちの嘘は聞きあきた!
私たちだって骸旅団の戦士ッ!! 降伏したりなどするものかッ!!」
強い口調で降伏勧告を完全拒否して見せた後、続く言葉で敵将の女性・・・・・・情報にあったウィーグラフさんの妹君ミルウーダさんは弾劾を始めました。
それは私たちベオルブ家の兄妹に対してのみではなく、貴族全体に対してのものですらない。
『貴族支配』という現状世界を支配している政治体制そのものへの憎しみと怒りを込めた弾劾の言葉。
「あなたたち貴族がなんだと言うんだ! 私たちは貴族の家畜じゃない! 人間よ!
私たちは人間だわ! 貴方たちと同じ人間なのよッ!
私たちと貴方たちとの間にどんな差があるというの!? ただ生まれた家が違うだけじゃないの! それなのに貴方たちはただ奪うことしかしない!
ひもじい思いをしたことがある? 数ヶ月も豆だけのスープで暮らしたことがあるの? なぜ私たちが飢えなければならない?
それは貴方たち貴族が奪うからだ! 生きる権利のすべてを奪うからだッ!
だから私は戦う! 貴方たち貴族が奪っていったものを返してくれないから! ひたすら奪っていくだけだから! だから私たちは力を行使して貴方たちから取り戻す! 人として生きる権利をこの手で! 骸旅団の掲げる大義によって!!」
この糾弾に対して反応したのは、これまた私たち全員にとって意外な人物。
「同じ人間だと? フン、汚らわしいッ!」
アルガスさんでした。普段から感情的なところのある彼が、今日はいつにも増して苛立ちを見せて彼女の言葉にキツい口調で堂々と恥ずかしげもなく言い返し始めたのです。
「生まれた瞬間からお前たちはオレたち貴族に尽くさなければならない義務を負っている!
生まれた瞬間からお前たちはオレたち貴族のための家畜なんだよッ!!
犬や豚と同じ家畜風情が、一丁前にオレたち人間と同じ立場を口にするんじゃねぇ! 気持ち悪くて怖気がするッ!!」
それに対して敵将さんも、なにか彼の言葉に気に障る箇所があったらしく強い口調で問い返してきて議論が発生してしまいました
「誰が決めたッ!? そんな理不尽なこと、誰が決めたというのッ!」
「それは天の意思だ!」
「天の意思・・・? ・・・いいえ、違うわ! 神がそのようなことを宣うものか!
神の前では何人たりとも平等のはず! 神はそのようなことをお許しにはならない! なるはずがないッ!」
「家畜に神はいないッ!! 必要もない!
家畜にとって必要なのは、飼い主であるオレたち貴族だけなんだからな!!」
「!!!!!」
・・・うんまぁ、何と言いますか・・・。適切かどうか判りませんけど、なんとなく思い出した前世で聞いた言葉『事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きてるんだ!』・・・だから議論は会議室でやれー、とか思ってしまう私は生粋に無神論者ッス。
まっ、それはそれとして。
―――これは使えるかもしれませんねぇ・・・・・・。
即興でいいアイデアが思いついた私は兄様の近くまで歩み寄ると、小声で話しかけて作戦に関しての意見具申をおこなわせていただきました。
「兄様、どうやらアルガスさんと敵将の女性騎士は互いに思うところがあるようですし、あの人の相手は互いに任せて私たちは他の雑兵たちを相手に戦いませんかね?
見たところ実力的にもほぼ拮抗している技量の持ち主に見えますし、指揮官を押さえつけていてくれるなら他の人たちも戦いやすく犠牲も少なくて済みます」
「ラムダ・・・だけどそれは―――」
「私に考えがあります。彼女を抵抗できない状態にさえ追い込めれば、生かしたまま北天騎士団勝利のために役立てられる作戦案のアイデアです。許可さえ頂けたら実行に移させて頂けますけど、ダメですか?」
「・・・・・・わかった。ただし、味方の損害を出さないためにも剣を捨てて投降の意思を示した者以外にまでは手加減するような指示は出しちゃいけないよ?
僕たちはまず味方を死なせないことを優先しなくちゃいけない立場にあるんだからね・・・」
「わかってますよ。それじゃ、また後ほどにでも」
そう言って私は兄様の元を離れ、各々に動き始めたチームメンバーたちに声を掛けて『指揮官である兄様からの指示』として『無理のない範囲で殺さず敵を無力化していくよう』指示を伝達していきました。
敵を殺さず倒すなんていう、自己満足の極地みたいな真似は好きではないのですが・・・これは必要な措置ですので仕方がないでしょうね。やれやれですよ。
――それはそうと、先ほどの弁論大会もどきの言い合いの中で、敵さんはまだしもアルガスさんが意外と正しいことを言っておられたのは本気で驚きの事態でしたよね・・・。
『神の前では何人たりとも平等のはず!
神はそのようなことをお許しにはならない! なるはずがないッ!』
『家畜に神はいないッ!!』
――なかなかに正しいものの見方です。
どちら共も正しく世の中と神とを定義できていましたので、思わず感心してしまったほどですよ・・・。
「平民たちを家畜におとしめた貴族を是とする神は、平民たちにとっての神ではないでしょう。
貴族たちも平民も自分の前では平等にあつかう神は、貴族たちにとっての魔王でしかないことでしょう。
お二人とも、人の世における神という存在を正しく理解して“使い合って”おられる・・・。
人間同士が争い合う戦争の中で神などと言う存在は、どちらにとっても互いが互いに対しての魔王であり神であるという現実がよく見えているようで何よりですよ。
正義を成すのに大量の血と生け贄を要求する神が、本当に正しい神様であるはずがないのですから当たり前のことなのですけれども・・・・・・」
骸騎士団の掲げる革命の熱意と、兄様の掲げる理想へのこだわり、そして現在の腐りきったイヴァリースの貴族支配。
このどれもが基をたどれば同じもの。
人々を善導する意思から端を発して、それがやがて歪み、腐り、淀み、善意が支配へとすり替わってゆくのが人の世の歴史。『すべての革命の行き着く先』
フランス革命もソビエト革命も中国革命も、結局勝利した革命終了後に待っていたのは大規模な粛清を行っての人々を恐怖で従わせる強権支配。世界中の歴史において革命後にこうならなかった例はひとつもない。
その事実を知るからこそ、私は兄様が好きです。兄様の理想論と綺麗事を守ってあげたくなってしまいます。
その為ならば・・・兄様の善意が人を支配するための方便にならずに済むのであれば、いくらでも私は綺麗事の名のもと偽善的行為をおこなって見せましょう――。
雨が降りしきる中を、私は暗い色の空以上に暗い笑みを浮かべているであろう自分を自覚し、反吐が出る思いに駆られながらも味方に指示を伝えて回るのでした。
生きてこそ得ることの出来る勝利を得るためと嘯きながら、誰の心も痛めなくて済むいい作戦を実現するためにも、私は走り、ただ嗤う。
そういう風にしか生きられなくなってしまった自分のようになって欲しくないと、兄に自分のエゴという名の理想を押しつけながら――――
つづく
オマケ『今話に登場したオリキャラ士官候補生たちのプロフィールは必要でしょうか?』
一応考えてはあるんですけど、必要かどうか判らないので聞いてから載せるかどうか決めようと思った次第です。
載せる場合は次話のオマケになりますけど、もしご要望があった場合には是非にも!(^^)!
*訂正と謝罪文:
文の最後にある『オリキャラ・プロフィール』について、ご指摘を賜りましたので説明と訂正をさせていただきます。
『一人でも見てみたいと言われた方がいた場合にはお載せする』という意味での記述でしたので、アンケートというわけでは御座いません。
勘違いさせてしまうような書き方してしまって申し訳ございませんでした!