始動
”蘭”
あたしは何も知らなかった
いつも優しいお兄ちゃんにあんなことがあったなんて
ずっと、辛かったのに
そんな事も分からないで甘えてて
蘭「......お兄ちゃん。」
きっと、お兄ちゃんは無神経なあたしに愛想尽かしたんだ
だから、関係は終わりだって
蘭「ごめんなさい......」
お兄ちゃんはあたしの事、嫌いになったのかな
そうだよね、こんな無神経な女......
モカ「__蘭ー。」
蘭「モカ......」
屋上で考え事をしてるとモカが入ってきた
モカはゆっくりとあたしの横に来た
モカ「黄昏てるねー。」
蘭「そうでもない。」
モカ「何か悩みがあるなら、モカちゃんに話してみなよー。」
モカはいつも通りの態度で話しかけてくる
あたしは目をそらしながら話した
蘭「......お兄ちゃん、あたしを嫌いになったのかな。」
モカ「!」
蘭「ずっと、お兄ちゃんの辛さに気付けない、無神経女だから......」
モカ「それはないと思うけどー。」
蘭「でも、関係を終わろうって......」
あの日からお兄ちゃんを見てない
皆は用事で戻ってるって言ってたけど
本当はあたしに会いたくないから来てないんじゃ......
蘭「もう、お兄ちゃんに会えないのかな......」
モカ「大丈夫だって、裕君、文化祭の日には帰って来るって言ってたからー。」
蘭「帰ってきても、あたしに会ってくれるかな......もう、妹じゃないから......」
お兄ちゃんにとって、あたしは妹
そうじゃなくなったら、今まで通り行かない
繋がりは希薄なものになる
そんな現状を見て、あたしは耐えられるの?
私は今、お兄ちゃんに会うのが怖い
モカ「......」
蘭「モカ......?」
モカ「あんまり、調子乗らないでよ。」
蘭「え......?」
モカは突然、怒気を含んだ声でそう言ってきた
あたしは驚いてモカの方を見た
モカは極めて鋭利な視線をあたしに向けてる
モカ「蘭が裕君の一番の理解者だとでも思ってたの?」
蘭「え、そんなこと......」
モカ「あるよね、あるから言ってるんだよね。」
蘭「......うん。」
モカ「調子に乗らないでよ。」
あまりに剣幕なモカにあたしは何も言えない
こんなモカ、見たことない
いつもの緩さが、全くない
モカ「理解しようとしたことない蘭が理解者なんて、とんだ笑い話だよ。自動的に理解できるとでも思ってるの?」
蘭「思ってない......」
モカ「分かってるよ。蘭は裕君に寄生するだけだからね、寄生先に理解なんていらないよね。」
蘭「そんな、寄生なんて......」
モカ「蘭は裕君の事、なんて呼んでる?」
蘭「お兄ちゃん......」
モカ「ほら、寄生してるじゃん。」
モカにそう言われて、ハッとした
確かに、あたしはお兄ちゃんに寄生してる
いつも、あたしの事もお兄ちゃんに頼ってた
ご飯も勉強も、全部......
モカ「妹って言う事を利用して、裕君の愛情に付け込んでさ。蘭は何を裕君にあげたの?」
蘭「......」
モカ「何もないよね。」
蘭「......うん。」
モカ「ほんと、蘭って駄目だよね。」
反論の余地もない
あたしはお兄ちゃんに貰ってただけ
何も出来てない......
モカ「ほんとに、ラッキーだよ。」
蘭「え......?」
モカ「蘭が寄生しなくなったから、裕君と付き合う邪魔されないから。」
蘭「え?つ、付き合う......?」
モカ「そうだよ。だって、裕君に告白したもん。」
蘭「!!!」
モカ「あたしだけじゃなくて、ひーちゃんもつぐもともちんもリサさんも皆、裕君に告白してるよ。」
あたしは驚いた
皆、そんな素振り無かったのに
そんなことになってたなんて
モカ「分かった?分かったなら、あたし達の邪魔しないでね、蘭。」
蘭「......ダメ。」
モカ「?」
あたしは屋上から去ろうとするモカにそう言った
モカは足を止めて、あたしの方を向いた
モカ「なに?」
蘭「これで、終わりたくない......」
モカ「......なにが?」
蘭「このまま、おにい......裕也が誰かと付き合うのを黙ってみてたくない。」
あたしはそう言った
モカは黙ってあたしを見てる
モカ「だったら、どうするの?」
蘭「あたしも告白する。」
モカ「......そっか。」
蘭「うん。あたしだって、だいすきだから。」
あたしがそう言うと、モカは笑った
さっきまでの雰囲気と打って変わって
優しい笑みを浮かべている
モカ「やっと、覚悟を決められたんだね、蘭。」
蘭「うん。」
モカ「奥手は損だよー。まぁ、頑張ってねー。」
蘭「うん、頑張る。」
モカ「じゃあ、モカちゃんはここでー。」
モカは言って屋上から出て行った
あたしはそれを見送って
屋上からの景色を眺めた
蘭(兄妹としては終わったかもしれない、でも。)
あたしは大きく呼吸をした
そして、手に力を込めた
蘭(新しい関係をまた、始める。)
あたしは心の中で強く
そう意気込んだ。
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”モカ”
蘭と話をした後
あたしは目的もなく廊下を歩いてる
廊下には文化祭の準備をしてる生徒がたくさんいる
モカ(__ほんと、あたしって損な役回りだよ。)
途中、そんな事を心の中でつぶやいた
だって、蘭に何もしなかったら最大のライバルがいないんだよ?
なのに、その蘭を手助けするなんてさ
ほんとに、損だよね
モカ(......蘭が告白すれば、裕君は......)
そう言う考えは最初からあった
でも、その上で蘭を手助けした
だって、あのままだったら
いつも通りが崩れちゃうから
あたしはアフターグロウの皆がいて、裕君もいるいつも通りが好きだから
裕君も大切だけど、いつも通りは捨てられないよ
モカ(これは、皆に恨まれそうだなー。)
蘭にもひどいこと言ったし
他の告白した皆も、怒るのかな
モカ(まぁ、恨まれ役はモカちゃんで充分だよね。)
あたしはそう思いながら
絶賛準備中の教室に歩いて行った
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”裕也”
裕也「__帰って来たか。」
早朝、俺は前の街に帰ってきた
忌々しいことだ
こんなとこ、出来れば来たくなかったんだけど
裕也「......まぁ、行こう。」
俺はあるものを探して
市街地の方に向けて歩きだした
少なくとも8年いた町なだけあって土地勘はある
裕也(__噂では、町内の掲示板に......あっ、あった。)
暫く歩き、市街地に行くと
すぐに掲示板を見つける事が出来た
その真ん中には堂々とある記事が貼られていた
裕也「......これだ。」
意外と早く、目的のものを見つけられた
笑いが止まらない
この時をずっと待ってた
警官「__あれ、君は?」
裕也「あなたは、あの時の警官?」
警官「あぁ、こんな所で会うなんてね。」
警官は自転車から降りて
俺の方に近づいて来た
警官「何を見ていたのかな?」
裕也「これですよ。」
警官「!」
裕也「俺が離れてから、こんな所になってたなんて。」
俺がそう言うと、警官は眉間にしわを寄せた
そして、口を開いた
警官「これが目的で帰ってきたのか。」
裕也「北川がこっちに来たので、可笑しいと思ったんですよ。」
俺はそう言って、ある物を鞄から出した
それを見ると、警官は目を見開いた
裕也「今、警察にもメディアにもこれが必要じゃないんですか?」
警官「これを、どこで?」
裕也「企業秘密、という事にしておきましょう。」
俺は口元に人差し指を置いてそう言った
警官は物欲しそうだが、心配そうな顔でこう聞いてきた
警官「確かに、今、それが必要であることは間違いない。でも、いいのか?」
裕也「何がですか?」
警官「それの提出はノーリスクというわけにはいかないぞ?」
裕也「良いに決まってるでしょう。」
警官「!(この目は。)」
俺は静かな声で話した
裕也「俺はこの時を待ってたんだ。手段を選ぶなんてしてる場合じゃない。」
警官「そうか。じゃあ、署で話を聞こう。」
裕也「はい。」
俺はそれから警官と共に警察署に向かった
その間、俺は高ぶる気持ちを抑えることは出来なかった