TSっ娘が悲惨な未来を変えようと頑張る話   作:生クラゲ

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アセリオの説教

「おや、ポート。今日は一人かの」

「ええ、レイゼイさん。今日もご壮健で何より」

「うむうむ、礼儀正しい良い子に育ったのうお前は。うちのバカに見習って欲しいもんだ」

 

 ぶらり、と村を警邏していた折、僕はレイゼイ翁に話しかけられた。

 

 成人が近づき村長としての職務を学び始めてから、僕は前世の様にレイゼイさんとよく話をするようになった。

 

 彼は少し激情家な面はあるが、優しく温厚な好々爺たる村のご意見番だ。そして、なんと僕の曾祖父『エコリ』と面識があったりする貴重な生き字引である。

 

 前世では特に気にしていなかった曾祖父『エコリ』は、レイゼイさんによると豪快で派手な人だったらしい。3度の飯より来客が好きで、村を訪ねて来た人々との思い出を残すべくあの著作を書き上げたのだとか。

 

 晩年、足腰が立たないほど弱ってからは、エコリ翁はあの書籍を宝物の如く大事にして読み返していたそうな。豪快でありつつ、繊細でもあった人なのだろう。

 

「式の手順は覚えたかの? 今年はお前が、進行役だぞ」

「うん、大丈夫。次の長として、職務を果たして見せますよ」

「……くく。ま、楽しみにしとるわい」

 

 と言うか、前世で何度もやった事あるし。

 

 次期村長として最初は式の進行役を任され、次は設営含めた前準備、そして屋台の管理など年々振られる仕事が増えてくる。

 

 最終的には全部一人でやってたので、今さら進行役やらされるくらいであまり気負う気が起きない。

 

「で、だ。そんなポートに良い情報を教えてやろう」

「何でしょうか」

「近々、収穫祭での麦酒の安売りを狙って商人団が尋ねてくるらしい。その商人一座に、書物を専門に扱う本の露店商が居るそうだ」

「……ほ、本当ですか!」

「おう、冒険者の話が本当ならな。小遣いを貯めておくと良いぞ」

 

 それは素晴らしい情報だ。本屋なんて滅多にうちの村に来てくれない。

 

 本を読めるような教育を受けた貴族が、この村には僕の一家くらいしか居ないのだ。基本酒目当ての商人しか来ない。

 

 このチャンスは是が非でも逃せない、今から資金を貯めておかねば。

 

「ありがとうレイゼイさん!!」

「おーおー、花が咲いた様に笑いおって。もし都合がつかんかったら頼っておいで、少しくらいなら助けてやろう」

「ありがとうございます!」

 

 ルンルンと、歌い出したいような気分だ。まだ見ぬ本が僕の書棚に並ぶと思うと、心が踊る。よし、暫くは節約生活と行こう。

 

 うん。楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 収穫祭は、毎年の秋に行われる。

 

 収穫祭とは、無事に作物を収穫出来た事を祝い、豊作を神に感謝し、村中から持ち寄った酒や料理で宴会を行う行事だ。

 

 この時期になると酒の安売りを狙った旅人がよく訪れるので、彼らを狙った屋台や露店も用意される。年中で、村にもっとも活気の満ちる季節である。

 

 宴会が終わると広場に火を焚き、周囲をぐるりと囲んでの成人式が行われる。例年は新成人が、つまり今年は僕達が皆の前で村長と麦酒を酌み交わす。

 

 そして各々一言述べ、皆に囲まれながら酒を飲み干す事により成人したと認められるのだ。

 

 懐かしいな。確かアセリオは酒に弱く、成人式で速やかに意識を失ったっけ。リーゼはお立ち台で告白した直後だったから、顔を真っ赤にしてもみくちゃにされていた。

 

 ……今年は僕もラルフに告白しないといけないから、他人事では居られない。リーゼと同時告白されたラルフの反応は、果たしていかなるものか。

 

 というか、告白するのは僕とリーゼだけなのか? アセリオはどうなのだろう。

 

 前世と今世が必ずしも一緒とは限らない。もしかしたら、彼女もラルフが好きだったりするかもしれない。

 

 僕がラルフにアプローチしているとたまに拗ねた様な顔をするし。かといってラルフに気があるような素振りを見せたりもしないけど。

 

 前世を含めると数十年来の友人ではあるが、アセリオは一番心が読みにくいのだ。あのポーカーフェイスはうらやましい。

 

 何にせよ、アセリオにも少し探りを入れてもいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、わざわざあたしを誘ったの」

「まーね。迷惑だったかい?」

 

 白絹のようなか細い指が、アセリオの豊満な胸部を遮る。

 

「否、誘ってくれてうれしい。煉獄を背にして生きている我にとっても、たまの休養は必要……」

「僕と二人きりの時くらい、ソレやめない?」

「貫き通すことに、意味がある……」

 

 そんな痛い妄想を貫き通して、どんな意味があるんだろう。

 

「ポートと水浴び、久しぶり……」

「そうだねぇ。二人っきりってのは珍しいよね」

 

 さて、交友関係が狭くて安全のために津々浦々まで目が行き届いている僕達の村で、アセリオと二人きりの内緒話ができる場所と言えば。

 

 共用の敷居で区切られた、女用の水浴び場所。仕事が終わって夕日が沈む間際になると盛況となるこの場所を、真昼間から利用する人は少ない。

 

 アセリオは人前だと『封印者』モードになってしまう。彼女と腹を割って話すため、人目につかないようこんな時間から水浴びに誘ったのだ。

 

 

「……結論から言う、あの男に興味などはない」

「無いの?」

「もう水に流したけど、いきなり魔女呼ばわりして攻撃してくる様な奴はちょっと……」

 

 ……かなり真顔で、アセリオはラルフを振った。どうやら本当にアセリオは彼に興味ないらしい。というかまだ、そんな昔のことを恨んでいるのか。

 

「……まぁそこだけじゃなくて、1割くらいラルフのせいでこっぴどい失恋をしたことがあって。それも大きい」

「え、それ何時の話? 聞きたい、聞きたい」

「絶対言わない」

 

 ラルフのせいで失恋、かぁ。僕の知らないところで、アセリオも立派に恋する女の子をしていたんだなぁ。前世より仲良くなっているし、彼女とも恋話とかしたかった。

 

「むしろ、あたしはポートに聞きたい。アレのどこが良いの?」

「ん? まぁ……僕には真似できない、天性のセンスかな」

「あたしの魔術だって、ポートは真似できないでしょ」

「まぁそうだけどね」

 

 今度はアセリオの方が僕に問いかけてきた。うーん、僕はラルフが好きというか尊敬しているって要素が強いんだけどね。

 

 彼の人を引っ張っていく力、何となくで最適解を導ける勘の良さ、人との対話から真偽を見分ける嗅覚。それらは僕に欠けて彼が持つ特殊能力みたいなもんだ。

 

 あの能力を僕の経験知識でカバーしてやれば、きっとこの村はかつてないほど発展するだろう。

 

「それに、最近のアイツ凄くいやらしいよ」

「男の子だしねー」

「ポートは、そういうのは平気なの? あたしは、ちょっと引く」

「むしろ、いやらしい男の方がコントロールしやすいくらいさ。男がいやらしいのは普通だしね」

「むぅ……」

 

 何やら、アテが外れたようにガッカリとした顔をするアセリオ。彼女は僕のラルフへのエロ誘惑とかを知らないし、僕が潔癖だと思ったのかもしれない。

 

 残念ながら、僕は全世界で一番男の性欲に対して理解のある女性だぞ。

 

「アイツ、あたしの胸ばっか見てくる……」

「アセリオが一番おっきいからねぇ」

 

 現時点で胸のでかさはアセリオ(巨)>僕(普通)>リーゼ(貧乳)の順番だ。将来的にはリーゼも普通程度には育つ。僕の将来性は知らん。

 

「しかもラルフは、いやらしいだけじゃ無く小狡いよ。堂々とエロいことをせず、隠れてこそこそしてる」

「堂々とエロいことされたら、その方が反応に困るけれど……」

「でも、人が嫌がるようなエロいこともするよ。あのエロ猿」

「ラルフがかい? あんまり、人の嫌がることをする印象はないけれど」

 

 何やら、アセリオはラルフに思うところがあるらしい。むーん、前世よりかはアセリオとラルフは仲が悪いのかなぁ?

 

 この微妙な人間関係の差異を察するのは難しい。ラルフが得意なんだよなぁ、そういう人間関係の調整の上手さとかは。

 

 僕って割と空気を読めてないことがあるっぽいし。

 

「いや、してるよアイツ。性欲の権化」

「あー、何かされたのかいアセリオ。僕からも注意しておこうか?」

「されたというか、何というか。されてる、かな?」

「現在進行形なんだね……」

 

 セクハラやストーカーでもされてるのだろうか、アセリオは。出来れば詳しく聞き出したいところだが────。

 

 

 ────。あ、ああ、成程。そういう事ね。

 

「まぁでも、何度も言うが男の子と言うのはエロいものさ。性欲を注意したって、抑えられるものでもない」

「ラルフの肩を持つね、ポート……」

「ただ、女性に嫌がることをするのはいただけない。アセリオが嫌な思いをしたならソレはラルフが悪いし、責任を取るべきだね」

「……ん、そう」

 

 そーいや、そんな思い出もあったなぁ。うんうん、懐かしい。

 

「例えば、誰かにこっそり裸を盗み見られたりしたら……責任は取ってもらいたいね」

「っ!!」

 

 僕が虚空にそんな言葉を放つと、ビクリと塀が小刻みに揺れた。

 

「……はぁ。ポートも、気付いたの」

「うん。むしろアセリオはどうして気付いたの?」

「魔術師をトリックで欺こうなんて、百年早い……」

 

 そう、これはかつてラルフと大喧嘩するに至った忌まわしい僕の前世の黒歴史。つまり、ラルフの水浴び覗き事件だ。

 

 どこからか僕とアセリオが入浴することを聞きかじり、覗きに来たのだろう。

 

「もしも、このまま逃げちゃったりする様な犯罪者さんには、どんな責任の取り方してもらおうかな」

「むー、覗かれても動じないのねポート。見られ損……」

「…………」

 

 水浴び場の塀の裏側から、焦ったエロ猿の気配がする。まぁ、バレたらそうなるわな。

 

「水浴び場に入ってきて? 犯罪者さん」

「……」

「返事は?」

「う、うす……」

 

 そして。聞きなれた声と共に、表情が硬く凍り付いたラルフがノッソリと水浴び場の出口から姿を見せたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ケッコン♪」

「ごめんなさい。二度としないんで、ソレだけは許してください」

 

 ニコニコとほほ笑む僕の足元に、背を丸めておびえるラルフが土下座している。

 

「僕、父さん以外の男の人に裸を見られちゃったのは初めてだなぁ。セキニン……♪」

「許してください。何でもしますんで」

「ラルフは本当にアホ……」

 

 その、ラルフの情けないサマを凍てつくような目で見下すアセリオ。

 

 これは大チャンス到来だ。初めてラルフが、僕に対し性的な行動を取ったのだ。

 

 このまま強引に婚約まで行ってしまおう。

 

「あんまりポートの体は見てないです。アセリオの胸ばっか見てました、だから婚約は許してください」

「ふんっ!」

「痛い!!」

 

 コイツ、ちょっと下手に出れば舐めた口を利きおって。

 

「ポート。因みにそのバカ、本当にあたしの胸ばっか見てた」

「……ふーん。巨乳派?」

「……はい」

 

 そういやラルフはそうだったっけ。コイツ、僕じゃなくてアセリオ狙いで覗きに来たのか。

 

 ラルフってアセリオが好きなのかな?

 

「ちげーよ! そもそも、お前が毎日毎日エロいこと言ってくるのが悪いんだろーが!!」

「うわ、逆切れしたよ」

「あんなんされたら性欲コントロールしきれんわ!! 元々ポートが誘ってくるのが悪い、だからお前を覗く分には罪悪感とか感じる気にならん!! 文句あるか!」

「でもアセリオばっか見てたんでしょ」

「……いや、でっけえなって」

 

 この野郎、さっきから舐めてるのか。覗きがバレたっていうのに、欠片も反省を感じないぞ。

 

「……じゃ、ラルフ。あたしからの罰は受け入れる?」

「うっ……、何でしょう」

「えっとね……」

 

 まったく、しっかり反省してもらいたいもんだ。

 

 純粋な被害者たるアセリオからの懲罰があるみたいだし、ここは「悪いことをした」という自覚を持って貰おう。

 

 

「……ポートからエロい誘惑を受けたって話。詳しく聞かせてくれる?」

「え、そこ?」

 

 

 ……げっ。

 

「ポート、そんな事してるとか聞いてない……。不健全……?」

「そ、そんな事は無いと思うよアセリオ。あくまでも冗談の一貫的な感じとして」

「この前、胸触るかって誘惑された」

「ポート?」

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、二人並んでめっちゃ説教された。

 


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