TSっ娘が悲惨な未来を変えようと頑張る話   作:生クラゲ

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引き金

「いらっしゃぃ、ポートちゃん。また会えて嬉しぃよ」

 

 ……。

 

「このまぇは、ご飯楽しかったゎ。また食べに行こぅね」

 

 

 

 

 

 

 

 ついに、その日がやってきた。

 

 待ちに待った、商人団の到着日。この村には滅多に来ない、本屋さんがやってくる日。

 

 その日、僕は────

 

「ぼくがぁ、本屋のナットリューだょ。よろしくねぇ」

 

 変態も本を読むのだと知った。

 

「ポートちゃんは、本が好きなのねぇ。気が合ぅね」

「……ソウデスネ」

 

 

 

 

 

 

 先日、ナンパされ食事に誘われ精神に多大なダメージを負った僕は、気を取り直そうと楽しみにしていた本屋の露店商へ足を運んだ。

 

 しかしこんな村で本屋が繁盛する筈もなく、やる気の無さそうな店主が露店の裏で寝転がっており。その人物に声をかけると────

 

「きゅふふふふっ! あらポートちゃん、来てくれたの!?」

 

 そこにいたのは、変態だったのである。

 

「あー、この前の良いオジサン!! 美味しかったわ、ありがとね!」

「……毎度、ありがと。ご予約頂ければ、大いなる闇の狂演を今一度振る舞おう……」

「良ぃの良ぃの、こっちこそ素敵な時間をありがとぅ」

 

 彼は一転上機嫌となり、僕達を出迎えた。店に客が来るとは思っていなかった様で、かなり嬉しそうだ。

 

 ……よりによってこの人かよ、本屋。

 

「商人団の中でも、ぼくだけこの村に先につぃてしまってね。仲間を待ってる間、暇だったのょ」

「それで誘ってくれたんですね。先日は御馳走様でした」

「きゅふふ、真面目にお礼を言ぅポートちゃんはキャわいぃねぇ」

 

 うー、無理。やっぱりこの人苦手だ、生理的になんかキツい。

 

 リーゼの見立てでは善人らしいんだけど……。この、舐めるような視線が怖い。

 

「本なんか見てもつまらなぃでしょ? お菓子ぁるけど、食べる?」

「お、良いのかオッサン! サンキューな」

「いえいえどういたしまして。きゅふ、貴方がラルフ君?」

「む? そーだぞ、俺を知ってるのか?」

「知ってますとも。きゅふふふふ」

 

 ラルフを品定めするように一瞥し、その後満足げに僕とリーゼを見比べる本屋ナットリュー。ニマニマすんな。

 

「僕は、その。本を見ていても宜しいですか?」

「あら、もしかして。ポートちゃんは本がお目当て?」

「はい」

「あらあら、きゅふふ。ポートちゃんは本が好きなのねぇ。気が合ぅね」

「ソウデスネ」

 

 ナットリューは意外そうに、僕の顔を見て微笑んだ。本が好きな農民って、結構珍しいもんね。僕は貴族だけどね。

 

 本屋の主が気持ち悪かろうと、本に罪は無い。彼らが茶会を楽しんでいる間、僕は店の本を物色させてもらおう。

 

「それなりのぉ値段の本もぁるから、手に取る時は声をかけてね」

「分かりました」

 

 さて。面白そうな本は無いか物色と行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うぅ、『南国異民族の狩猟法』かぁ。読みたい、読んでみたいけど『薬草一覧とその煎じ方』も捨てがたい……」

「おーいポートー?」

「むむむ、薬草関連の書籍はウチに有るけど、書いてることも似たり寄ったりなのかな。だとしたら南国異民族の……、いや待って、でもウチの本より断然分厚いぞ。それとこの『リャマ地方の歩き方』も気になるな、旅行記なのだろうか?」

「……ポート、呼ばれてるわよ」

「旅行記は素晴らしい、理路整然と纏められた資料なんかよりよっぽど書き手の『リアリティ』が伝わってくる。情報量の多さでは資料本に劣るけれど、その実用性や理解において遥かに勝っている」

 

 凄い、流石は金持ちの旅商人。見るからに面白そうな書籍の数々が、露店に所狭しと並んでいる。

 

 もし、この本の全てを持ち帰ることが出来ればどれだけ素晴らしいだろうか。向こう1年は、僕が読み物に餓える事は無くなりそうだ。

 

 最も、僕のお小遣いで買えるのは精々安めの本を1冊程度だけど。絶対に後悔するような選択はしたくない。

 

 時間の許す限り、吟味に吟味を重ねないと。

 

「ポートがあんなに鼻息荒くしてるの初めて見たかも」

「……ふ、奴もまた闇の誘惑に囚われし犠牲者」

 

 む、あっちは伝記コーナーか? 伝記は良い、その人間の一生を通じて得た経験と教訓が詰まっている。かつてこの世界を生きた英雄達の人生をまるごと追体験出来る。

 

 伝記の値段は高めだ、僕の手持ちでは足りない。でも、頼み込めばレイゼイさんとかはお金だしてくれるって言ってた。

 

 あんまり甘えるのも良くないけれど、ここで後悔する選択は絶対に取りたくない。気になる伝記があれば、迷わず購入しよう。

 

「もう日が暮れるよ、ポート。今日は一旦帰りましょ」

「……やっぱ、ポートも結構変なやつだよな」

「ぐああああっ!! 突然、闇の呪いが我が身を焼いてっ……。焼き芋が出来ましたー、はふはふ」

「……てか、俺の幼馴染みは変なやつばっかだな」

「私まで含めないでよ!?」

 

 ちょっとだけ、中身を見ることは出来ないだろうか。タイトルだけでは、ちょっと中身を伺い知れない。土下座でも何でもして、中身を確かめさせてもらうのも良いかもしれない。

 

 この比較的安全で優しい変態なら、交渉の余地はあるかも。

 

「もういいや、引き摺って持って帰るか」

「ごめんねぇ、そろそろ店仕舞いなのょ。また明日、来てくれりゅ?」

「ナットリューさん、今日はお菓子ありがとうね! ポート、ほら帰るわよ」

「焼き芋……、はふはふ」

 

 ……あれ。何故か、いきなりラルフに担がれたぞ。待て、僕はまだ購入する本を決めていない。

 

「おいラルフ何をする、僕を本の下へ帰すんだ」

「また明日な。今日は帰るぞ」

「でも、まだ何も買ってない……」

「明日買えアホンダラ」

 

 あ、あぁ。本が遠退いていく。

 

 絶対に面白いであろうタイトルの数々が、僕の手から離れていく。

 

「あ、明日も来ますから!! 店開けとい、てくださいね!!」

「……きゅふふ。待ってるょ」

「本、本ーっ!!!」

「重症ね……。あ、焼き芋ありがとアセリオ」

「焼きたて……。熱いうちに、食べて……」

「……どこで焼いたんだ?」

 

 むぅぅ。いや、この変態さんはまた明日も店を開けておいてくれると言っていた。また明日、また明日来ればいいんだ。

 

 今夜一晩、今日チェックしたタイトルからどれが良いかじっくり考えよう。そうだ、それが良い。

 

「ポート、焼き芋……。はい、あーん……」

「もぐもぐ……。うん、やっぱり実用性で言えば薬学系だよな。伝記や旅行記も良いけど、薬学の本はいざという時に手元にないと……」

「本の良さは分かんないわね。この前、読み始めて3秒で眠っちゃったわ!」

「リーゼは少しでも頭を使うとオーバーヒートするからな」

「そんなこと無いわよ!!」

 

 明日が楽しみだ。今夜は果たして寝付けるだろうか? もし寝過ごしてしまったらどうしよう、そこが心配だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────隣国にキナ臭い動きがあるらしい」

 

 それは、どういう運命の巡り合わせだろう。

 

「領主様は警戒を強めてらっしゃるそうだが」

「あの人ももうお歳だ。以前のような無茶は出来まい」

「お世継ぎのプロフェン様は失われ、妹君は腑抜けの弱虫だとか」

「これからワシらは、どうなるんじゃろ」

 

 蔓延する、不安の声。

 

 いつになく、深刻なレイゼイ爺の顔。

 

「ワシらに出来ることなど無い。せめて、毎年きっちりと納めるものを納めるのみ」

「それが少しでも、あの領主様の助けになると良いが」

 

 それは、僕が聞き逃していた悲劇のサイン。

 

 いや、『聞くことが出来なかった』変化する未来のサイン。

 

「────間もなく、戦争が始まるかもしれん」

 

 

 

 その、大事な報告は。村長の一人娘であり、新成人である僕にはまだ届かず。

 

 村の政務を実際に運営している、父と老人会の間で「無用な混乱を生む」として、伏せられていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父さん父さん、村に本屋が来ていたんだよ!」

「おお、そうかいポート」

 

 何も知らず、無邪気にはしゃいでいる一人娘。彼女は何やら鍛冶ランボの子にお熱を上げているようだが、その成果は芳しくないらしい。

 

 父として、彼はポートに色々なことを教えた。しかし、ポートは父の話を聞くと即座に「そこはこうした方が良くないですか」とその発展策を提案してきた。

 

 紛うことなき神童だ。自分の娘は、きっとかつて無いほど村を発展させるだろう。

 

「────なぁ、ポート」

「どうしたの、父さん」

「……いや。お小遣いは足りているか? 欲しい本があるなら、遠慮なく言うんだよ」

 

 父は、父としてではなく『村の長』として。その神童たる娘に相談をしようとした。

 

 せまりくる『戦乱』の脅威。自分の手には余る案件について、娘の意見を聞こうとした。

 

「……も、もしかしたらお願いするかも。その欲しい本が山のように有って」

「そうかい」

 

 だが、父は踏みとどまった。彼にも矜持が有ったのだ。

 

 せめて、彼女が成人するまでは。自分が彼女達の笑顔を守り、無邪気に微笑んでいてほしかったから。

 

 

 ────彼女が『彼』だった頃と、国際情勢は大きく異なっている。

 

 それを知らぬポートは、ただ「来るべき現領主の死」に備えて自らを高めることしか出来ない。

 

 かつて彼が投げた小さな小石が、波紋を広げ大きな津波となっていた。それを彼女が知るのは、もう間もなくの事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、ナットリューさん。何とか、はしっこだけでも読ませてもらえませんか」

「んー、ポートちゃんの気持ちもゎかるけど。本屋的には、ぁんまりかなぁ」

「ですよね」

 

 翌日、僕は朝一番で、一人本屋に向かっていた。他の4人を待ちきれなかったのだ。

 

 そこで僕は、せめて序文だけでも流し読みさせてもらえないかと本屋の変態に頼み込んでみたけれど……、結果は渋い返事だった。

 

 本は傷みやすい。気軽に他人に開いて読ましたりしたら、劣化が早い。そして何より本の価値はその情報にある、それを一部とはいえただで読まれてしまっては本末転倒だろう。

 

 だから、彼のいう事も理解できる。

 

「……ナットリューさんは、これらの本は全部読んでいるんですか?」

「ん、まぁそうだょ」

「じゃあ、ナットリューさんから興味深かった本とその概要を教えて貰うのはアリですか?」

「ふむ。それなら、まぁいいょ? どの本が気になってりゅの?」

 

 だが、僕の小遣いには限りがある。購入できるのはせいぜい一冊、絶対に外したくはない。

 

 この変態も、本屋を営むくらいだからソコソコに読書家なのだろう。彼の見立てを信用しよう。読ませてもらえないなら、この本屋に聞くまでだ。

 

「生活に役立つもの、教訓的なもの、遠い地方の文化。そういったものが詳しく書かれている本が欲しいです」

「……むぅ。まぁ、ぃくつか候補があるかな。持ってきたげるょ」

「ありがとうございます」

 

 さぁ、集中しろ。昨日父さんにおねだりして、多少は融通してもらえる事になった。多少高い本が来ても構わない。

 

 直感だ。僕に備わった本への嗅覚を信じろ。何の情報も根拠もなく、最適解を導け。

 

 正直、こういうのはラルフとかの得意分野な気がするけど……、きっと僕にもできる筈。

 

「一番当てはまるのはコレかなぁ、ものすごく高ぃけど。他にも、コレとコレ……」

 

 僕の前に並べられる、ナットリューお勧めの書籍の数々。それらのタイトル情報だけから、中身を類推しろ────。

 

 

 

『農冨論』

『薬草学者リンの日記』

『偉大なるバハムートの巫女』

『オカヤーマ県北の土手の下で』

 

 

 

 

「この『農冨論』は、領主様のおススメだょ。農民の暮らしを、農民の目線と国の目線の両方から記してその発展法について考察しているヒット作。まだ数が出回ってなくてすごく高価だけど、内容は保証できりゅかも。『薬草学者リンの日記』は、今や国中にその名を轟かせる天才薬学者リンが、新薬を作るべく試行錯誤した過程を日記にしたものだょ。専門書じゃなぃから、初心者でも読みやすくて知識も深まってこれもおススメ。『偉大なるバハムートの巫女』は────」

「ちょっと待ってください」

 

 うん。……うん?

 

「ごめんなさい。この本、なんですか?」

「『農冨論』が気になりゅの? そーよね、ポートちゃんの立場からしたら気になりゅよね。ただ、その本はウチの店で一番高価だから、子供のお小遣ぃで手が届くかどうか……。ご両親に相談してみるべきかも」

「いやそうじゃなくて。これちょっと読んでいいですか」

「え、いやダメだょ!?」

 

 ちょっとマテ。いや、違うよね。違うはず、そうである筈がない。だって、それがアレだと言うなら7歳の子供が書き上げた本がそこに並んでいることになる。

 

 そんな訳はないだろう。あれは、イヴへの心遣いとして差し出した子供だまし。たまたま偶然、僕と同じタイトルを思い浮かべた人がいたに違いない────。

 

 

「……本書を読み解くにあたっての前提として、農民と為政者は同一であって、さらに区別されるべき存在であることを理解せねばならない」

「ん、それって?」

「即ち『為政者』とは縦横無尽に蠢く『民』と言う怪物を制御する為の機構であり、『本能』の赴くままに行動する民を、律する集団としての『理性』こそが使命である」

「あら、意外? ポ-トちゃん、その本読んだ事ありゅの?」

「……」

 

 まさかと思い、僕の本の書き出しをちょろっと口ずさんでみたら、ナットリューさんにバッチリ読まれたことがある様子。やっぱり、まさかこれ、僕の本か。

 

 あ、そういやこれって領主様のおススメって言ってたっけ? じゃあ、この本はイヴから領主様に経由して本屋に流れたのね。あはは、僕の本がヒット作かぁ。

 

 そっか、そっか。鼻が高いなぁ、あはははは。

 

 

 

 

 

 

「死にたくなったんで今日は帰りますナットリューさん」

「ちょっと!? ど、どうしたのポートちゃん!?」

「黒歴史が……。僕の子供時代の黒歴史が国中に拡散されている……。アセリオなんか目じゃないレベルで国中に恥が晒されている……」

「ぽ、ポートちゃん!?」

 

 もうだめだ。おしまいだ。

 

 『農冨論』はガキんちょの頃にちょっと思い付いたことを、さも正しい事であるかのように上から目線で書き連ねた禁書。子供染みた傲慢さに溢れた、僕の人生の汚点。

 

 きっとそれを、イブリーフ糞野郎が面白がって拡散したに違いない。

 

 ちょっとかわいい顔して女の子みたいだからって、調子に乗りやがってあの野郎。20歳になるころには普通に男にしか見えなくなるくせに。

 

「その本は破棄してください……。子供染みた理想論しか書かれていない、幼稚な内容ですよ……」

「……そんな事無いわょ。この本が広まってから、この州はものすごく発展してるらしぃし。実際、良くかけていると思うゎ。何を、そんなに嫌っているのかしら」

「あぁ……、もう駄目だぁ、おしまいだぁ」

 

 ああ、醜聞が、僕の醜聞が広がっていく……。いや、待て落ち着け。

 

「ちなみに、その本の作者は?」

「詳細不明みたいねぇ」

「そ、そうですか」

 

 そうだ。これは、僕じゃなくて誰か昔の人の作品という事にしたんだった。大丈夫だ、ならこれが僕が書いたとバレる心配はない。

 

 よし、落ち着け気にするな。その本を売りたいなら勝手に売ればいい、僕には関係ない。

 

「じゃ、じゃあ。その『薬草学者リンの日記』という本を────」

 

 動揺を悟られるわけにはいかない。よし、昨日から気になっていてナットリューさんもお勧めしているこの本を買ってしまおう。

 

 薬草学者リンとはどんな人物で、いかなる内容を記しているのか。ああ、今からワクワクが止まらな────

 

 

 

 

「……ん? あれ、その本ってポートが書いた本じゃない!?」

 

 

 

 その時、僕の背後から大きな声がして。思わずビクリと、僕の背筋が跳ね上がった。

 

「これ、ポートがちっちゃい時からせっせと書いてた本と同じ名前よね。売ったの?」

「……」

 

 気付けば、背後にはリーゼ達3人が立っていた。朝一番で本屋に向かった僕を追いかけてきたのか、幼馴染たちが露店のすぐ傍らまで到着していたのだ。

 

「……あー」

「あら、あらららら? ねぇねぇ、それどうぃうこと?」

 

 ナットリューの目が、きらりと光る。それは先日のナンパの時のような、獲物を狙う捕食者の目。

 

 ……。…………。

 

 僕もうおうち帰る……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その本は、農業の発展をもたらした。

 

 幼き少女の記した農冨論は、貴重な『政治本』として領主に気に入られ増産されていた。隣国との国境に位置し、武闘派ぞろい人傑の集まったこの州において、不足していた文官の教科書としての役割を果たしたのだ。

 

 兵士や冒険者に囲まれた『軍』の人間には発想すらできなかったであろう、『為政者視点で見る、農民が政治に求める内容』は、確かに効果的だった。その影響は少なからず、貧困に苦しむ農民たちに発展と流通をもたらした。

 

 その結果、州は富み────。

 

「あの州は肥え太っている、襲撃するなら今だろう」

「更に軍備を整えられる訳にはいかない、これ以上指を咥えてみていられない」

 

 その急激な発展に追い付かぬ軍備の隙を突こうと、隣国の侵攻論が加速してしまい。本来はずっとずっと後になる筈だった『戦争の引き金』が、早くも切り落とされようとしていた。

 

「これ以上力をつけられると、面倒な事になってしまう」

「あの爺狸が政務に力を入れている今こそ、千載一遇の好機────」

 

 「彼女」が「彼」だった時とは違い、今のこの州は放っておけば放っておくほど肥えていく。ポートの周囲の村まで含め、この州はどこもかしこも活気と笑顔に満ちている。

 

 だからこそ、今。

 

「奴らを蹂躙し、その財を奪うのだ」

 

 

 ────敵は、その剣を研いで機を伺っていたのだった。


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