TSっ娘が悲惨な未来を変えようと頑張る話 作:生クラゲ
「……でも、好き。あたしは、ずっと前から、ポートが好きだった……っ!!」
収穫祭での告白、それは決して珍しい事ではない。むしろ、どうせ告白するなら収穫祭の日とすら言われる程に告白率は高い。
「……あ、え、っと」
「……」
だけど、これは色々な意味で予想外過ぎだ。普段は冷静な僕と言えど、動揺するなと言う方が難しい。
おとなしくも控えめで、最近ややはっちゃけ気味なアセリオ。確かに、今世では僕と一番仲が良かった少女。
そんな彼女が、まさか収穫祭の舞台で同性の僕に告白するなんて。これは、彼女なりのジョークなのか?
「……」
いや違う、あの真剣な目を見ろ。茶化したりふざけたりしてる時のアセリオじゃない、正真正銘本気のアセリオだ。
でも、そんな。つまりアセリオは、同性愛者だったのか? そしてそれを、こんな衆目の面前で宣言しても良いのか?
こんなの誰にも予想出来っこない。集まったみんなも、口をポカンと開けて絶句して────
「あー、やっと言った」
「ほれほれどーする、ポート?」
「ひゅーひゅー!! 熱いねぇ!!」
……。周囲の大人たちは、アセリオの告白にやんややんやと盛り上がっていた。
あれ?
「えっ、その、あっと?」
「本当にアセリオの気持ちに気付いてなかったのかよ、お前。この鈍感朴念仁」
「アセリオが可哀想だったわよ!」
……あれれ?
「えっと……。ひょっとして、僕以外は全員知ってた?」
「むしろ何故気付かなかったんだお前は」
「え、いや、だって!」
「普通は気付くぜ、あんなに露骨なアピールされて」
え、本当に気付いてなかったのは僕だけ? 村中が知ってたの? アセリオにそんな素振り有った?
「え、その、何時から? 全然気付いてなかったよ、アセリオ」
「ちっちゃい時から。……そもそもあたしの初恋が、ポート」
……初恋?
「その時はポートを男の子だと思い込んでたけどね……。このやろう……」
「あ、あいたたたっ! つねらないでアセリオ!」
あ、ああああっ!! そう言うことか!
アセリオは僕を男の子だと思ってたから、それが初恋になっちゃったんだ! 昔失恋したって言ってたけど、あれも僕のコトなのか!
……う、うわぁ。なんて悲惨な。
「最初は男っぽかったポートも、最近ではすっかり女の子。しかも、アホバカラルフに首ったけ」
「……アホバカて」
「まぁそれで……、あたしも悩んだ。そして、決めたの」
「決めたって、な、何を?」
「あんなのに取られるくらいなら…… あたしが奪う!!」
「あんなのて」
アセリオは、そこまで言い切ると。据わった目を僕に向けて、ゆっくり近付いてきた。
「……どうせ舞台でラルフに告白するつもりだったでしょ? そんなコトさせないから……」
「う。ち、近いよアセリオ……」
「悪いけど、ポートはこの場であたしが奪う……」
「ひょ、ひょえええっ……」
い、いかん。色々と想定外の事態が重なって大混乱している。うまく頭が回らない、どうすれば良いか分からない。
誰かに助けを求めるか? だが僕達の様子を面白そうに眺める大人達、舞台上でニマニマ見ている幼馴染みどもは役に立たない。
それに、アセリオは本気だ。逃げるような返事をしてお茶を濁すのは、誠意に欠ける。
覚悟を決めろ、彼女の想いに応えろ。僕はどうしたい? 僕はアセリオの想いに、どう答えれば良い?
それは────
「……ごめん、アセリオ」
「えっ……」
ゆっくりと身を寄せるアセリオの肩を掴み、僕は彼女を引き離す。
これ以上、流されないように。
「本当にごめん。ちょっと返答に時間ください……っ!」
「……」
へたれ、という声が聞こえてくるかもしれない。
だけど、こんな場で真剣な幼馴染の想いを即決なんてできっこない。結論が出せない時は、即残即決せず冷静になってから結論を出す。
これが、正解のはず……。
「えー、へたれ……」
「うぐっ!!」
「ポート、そりゃねぇよ……」
「サイテーね!」
「うぐぅ!!」
正解じゃないみたいだ。
「そこは、あたしを抱きしめて、想いに応えるところ……」
「それが出来ないから迷ったんじゃないか! というか、僕はラルフが!!」
「……はいはい。じゃ、お好きに告白どーぞ? ポートが本気でラルフを好きにならない限り、その告白はうまくいかないよ」
「……」
グサリ、とアセリオの言葉が僕の胸を刺す。
う、うぅ。僕はアセリオの心に全く気が付かなかったのに、僕の心はお見通しなのね。
そんなにダメなのかなぁ。ラルフに形だけでも僕と婚約してもらうの。
「……」
だって僕は、前世の記憶がある。男同士で共に切磋琢磨した、ラルフとの思い出がある。
彼を、心から好きになることなんてありえないだろう。そもそも、そういう対象じゃないのだ。
じゃあ、僕は一人でまた村長をやるのか? たった一人でイブリーフ達と戦い、そして勝たねばならないのか?
……村と領主の諍いに、ただの農民であるラルフ夫妻の介入する余地なんてない。彼らはまた、前世のように僕の不甲斐ないリーダーシップに翻弄され、そして。
『恨む、怨む、怨んでやる!! ポッド、お前は地獄に落ちて死後も永遠に苦しめ!! 一度でもお前の事を友人と思った自分が恥ずかしい!!』
あの、光景が、現実に────。
「……ひくっ」
「え?」
気付けば、僕は。
舞台上で、大粒の涙を流していた。
「……僕、は」
「ポ、ポート?」
アセリオのいう事は正しいのだろう。
好きでもない相手に、告白して籍を入れてもらおうなんて虫が良すぎる。そんな告白が、うまくいくはずがない。
そんなの、誰にだってわかる正論だ。それでも、
「それでも、僕は……。ラルフに助けて、欲しいんだ」
僕一人で、あの強大な壁に立ち向かう事なんてできない。
それは、僕が能力的に不足しているから? 今世で必死に頑張って手に入れた知識や戦闘技法をもってしても、あの苦難は乗り越えられないから?
……違う、そうじゃない。
「怖い……。怖いんだよ、ラルフ。きっと、ちっぽけな僕一人じゃ村を守りきることができないんだ」
「……」
僕の心が、折れているんだ。
あの、絶対に回避しないといけない地獄のような未来を知って。僕一人が無駄に空回り、村を滅亡へといざなった記憶があり。
僕は僕自身に、全く自信が持てないのだ。
「君は強い。僕は知ってるよ、君のその魔法染みた勘の良さを」
「……ポート」
「お願いだ、助けてよ。僕を、1人で戦わせないでよ。怖い、怖い、怖いんだ!!」
────それは。生まれて初めてかもしれない、僕が大人ぶって被った仮面をかなぐり捨てて叫んだ、心からの本音だった。
「君に、小さな時に助けられて以来、僕はずっと憧れていた!! きっと僕がどれだけ頑張っても手に入れることのできない、君のその能力を!!」
「え、あ……」
「助けて。助けてよラルフ、僕は怖いんだ!! 未来にどんな絶望的な事が待っているのかわからない、その不確かさが怖いんだ!!」
これは断じて告白ではない。
いや、そんな高尚なものじゃない。
「……お願いだ」
ただの、弱虫な僕からの『懇願』だった。
「僕と一緒の道を歩んで、隣で戦ってくれ。ラルフ……」
「……む、むぅ。わ、わかった。そっか、ポートもそういう意味では『本気』だったんだな」
「ラルフ……」
随分と、はしたない叫びだっただろう。でも、心の底から泣き喚く僕を見て、ラルフは多少なりとも僕の『本気』を感じ取ってくれたらしい。
ああ、嘘じゃないとも。ラルフの事は異性として見ていないけれど、彼に助けてほしいのは正真正銘僕の『本音』なのだから。
「ポート……」
「……うん」
その、僕の情けない懇願はラルフに映っただろうか。もしかしたら、幻滅されただろうか。
でも、もし。もしも君が、僕と一緒に歩いてくれたのであれば、きっと未来は────
「本当にごめん。ちょっと返答に時間ください……っ!」
「……」
……この野郎。
「……」
「その無言の抗議やめてくれないポート!? この場で即断して答えられる範疇の話じゃなかったじゃん今!!」
「……」
「ちっくしょう、大体お前も全く同じセリフ吐いた直後だろう!! 俺だけ責められる謂れはないぞ!!」
「……」
「やめろ、その責め立てるようなジト目をやめろぉ!!」
……まぁ、確かに。僕も、同じことをアセリオに言ったけれど。
ああ、成程。つまりアセリオもこんな気持ちになったのか。後でよく謝っておこう。
「……へたれ」
「うぐっ!!」
でも、お約束なので一応なじっておく。
「……ポートがこんなに取り乱すとこ、初めてみた」
「何か、私達が知らないことがあるかもね」
……でも、すっごく情けなかったよなぁ、今の僕。うぅ、つい感情的になってしまった。反省反省。
ただそれはそれとして、ラルフに抗議は続けよう。あそこまで言わせて保留って、酷くないか?
男なら折れろ、ラルフこの野郎。
「じゃ、次は私が行くわ!」
僕が舞台袖に移動してジィっとラルフに抗議の目線を向けていたら、紹介する前に勝手にリーゼが舞台の中央に来た。
まぁ元々次はリーゼの予定だったんだ、好きにするといい。
紹介も無く舞台に立ち、目を閉じ、すぅと息を吸い込んだ彼女の第一声。それは……。
「私も告白よ!!!」
威風堂々としたモノだった。
「ラルフ!! 一回しか言わないからよく聞きなさい!!」
リーゼは頬を真っ赤に染めつつも、目は真っ直ぐにラルフを見据え。
目を見開いたラルフを、ビシっと指差して高らかに叫ぶ。
「私……、昔からずっと!!」
目を白黒と、明らかにさっきの僕の告白の動揺から立ち直っていない鈍感男に向かって。
「あんたの事が、好きだったの!!」
真っ正面から、これ以上無いほどストレートに好意をぶつけたのだった。
「えっ……えええっ!?」
リーゼからの真っ直ぐな告白に、困惑した叫びをあげるラルフ。
やはり、リーゼの想いに気付いてなかったかこの朴念仁。僕にアレコレ言えた口か、この野郎。
本当に格好いいなリーゼは。あんなに堂々と、正面から好意をぶつけるなんてなかなか出来ることではない。
「おおっ!! 修羅場か!?」
「ついに二人とも告ったぞ!!」
「ふははははっ!! この瞬間を見るために長生きしておったのじゃ!!」
「あれ!? リーゼが俺を好きな事、皆知ってたの!?」
そりゃそーだ。バレッバレだっただろ、リーゼの想い。
「……あんなに露骨に好意向けられて、気付かないラルフはアホバカ」
「全く、鈍感にもほどがあるね。どうして気が付かないんだか」
「……」
便乗してラルフを煽ったらアセリオが白い目を向けてきたけど、ここは華麗に受け流しておこう。
自分のコトは積極的に棚に上げていく方が、人生楽しいのだ。
「さあて、これで僕を含め、新成人3人娘の挨拶は終わりました! これからいよいよ、最後の挨拶に移りたいと思います!」
「えっ、ちょっと、待っ……」
「今年の収穫祭は告白祭りでした! 仲良し4人組の幼馴染み達による、修羅場に発展しかねない男の取り合い、熱い想いのぶつかり合い!」
「弱冠1名、同性に想いが向いてるけどね」
「ちゃんと返事しろよー」
「わ、分かってますとも!!」
さてじゃあ、いよいよ本番だ。
予定外の事態は多々有ったけど、結局は予定通りの締めで終わることが出来そうである。
ふんすと、鼻息荒く舞台袖に戻ったリーゼとハイタッチを交わし、いよいよ話題の男を舞台へと引き摺り出そう。
「では、ラルフ! 最後は君の挨拶で締めてもらおうか!」
「……いや、もうちょっと時間を!!」
「うるさい、とっとと中央に行け!」
ふむ、良い感じ。
多少テンパってくれてる方が、僕の策も成功しやすいのだ。何としてもここでラルフから「両方娶る」と言質を取って見せる。
「僕達は、全員想いを述べた。後は、君自身の気持ちを教えてくれれば良い」
「……い、いきなりそんな事言われたって」
顔を真っ赤に、ラルフを睨み付けるリーゼ。
真っ直ぐに、彼を見つめる僕。
背後から感じる、アセリオの視線。
僕達は、すでに想いを表明した。後は、この男がどういう選択肢を取るか。
それ次第である。
「……ラルフ!! 私は、あんたの気持ちが知りたいわ!」
「ポートだけ、振れラルフ……。お前の夢に魔王をけしかけるぞ……」
「全員娶る、と言う選択肢もあるんだよ?」
口々に飛び交う、ラルフへの熱いアピール。
狼狽えながらも、必死で答えを出そうと奮闘するラルフ。
「……俺、は」
さあ、娶れ。男ならドーンと、全員幸せにすると言ってみろ!!
「……ラルフ。この場で気遣いも、遠慮も、何も要らないわ! 私達は幼馴染みなのだから!」
「……リーゼ?」
「教えてよ! あんたに好きな人がいるのか、いるなら誰なのか!」
……その時、突然。リーゼが、舞台のラルフに向かって叫んだ。
「俺、が……?」
「私達の告白なんか関係ない! あんたが、あんたの好きな人を宣言すればそれで良いの。どう答えようと、私達は受け止めてあげるから!!」
「……」
げ、それは不味い。むしろ、ラルフには気を使って貰って、僕まで娶ってもらわないと困るのだ。
元々好きな人を挙げろと言われたら、そんなの前世の妻のリーゼに分があるに決まってる!
「いーやラルフ、男ならむしろ全員を────」
「リーゼの、言う通り。男なら、1人、選ぶべき……」
慌てて割って入ろうとしたが、リーゼに口を塞がれる。しまった、リーゼにこんな作戦が有ったのか。
ぐ、どうなる? 今の状況で、ラルフはどんな答えを出す?
「俺、は────」
ラルフ、お願いだ。どうか、僕の想いを────
「正直なところ実は、おっぱい大きいアセリオが……」
そして、女子3人から繰り出された高速のビンタが、一人のアホを舞台からぶっ飛ばした。