TSっ娘が悲惨な未来を変えようと頑張る話   作:生クラゲ

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本番

 生暖かい人肌が、僕の体を包み込んでる。

 

 それは、生物にとって等しく快楽的な、性交渉という行為。

 

 僕とラルフのそれは、いわゆる『本番』ではないけれど。それでも、性交渉に準ずる行為には違いがない。

 

「……なぁポート、改めて聞いて欲しい」

「何を?」

「俺って、お前のことが好きだ」

 

 ラルフは僕の体を抱きしめながら、耳元でそう囁いた。

 

「なんだろうな、この感情。エロいとか、可愛いとかそういうんじゃなくて、本当に好きなんだ」

「そうかい」

「ポートには、スゲー失礼な事言うけどさ。俺は幼馴染の中で一番エロイのはアセリオだと思うし、一番かわいいのはリーゼな気がする。でも、お前は……なんか、本当にただ『好き』なんだ」

「うーん、確かに失礼なセリフだね。僕が君を好いていたなら、ビンタの一発くらいはかましたかも」

「う、すまん。でも、本当に……そんな感じなんだ」

 

 ラルフは申し訳なさそうに、頬をポリポリと掻いている。

 

 うーん。可愛くもエロくも感じていないなら、何で僕なんかを好きになってしまったんだろうね、この男は。

 

「なんか、安心するんだ。こうやって、お前を抱きしめてるとさ」

「……うん」

「今、性欲は満たされてないけど、これだけでも結構幸せな気持ちだ。このまま寝ちまってもいいくらいに」

「そりゃ、助かるね」

「でも、同時に凄い興奮もしてる。今から、ポートとやらしい事出来るんだって。俺は今、お前を抱きしめる幸せと性欲を我慢する辛さの板挟みに遭って、今まで経験したことが無いくらい胸がドキドキしている」

 

 そこまで言うと、ラルフはゆっくりと掌を背中に当てがった。

 

「触るぞ。良いか?」

「……どーぞ」

 

 む、むぅ。ラルフが妙なことを言い出したせいで、なんか変な雰囲気になって来たな。

 

 何処まで触られるんだろうか。どの辺までなら許していいもんだろうか? その辺の感覚がよく分からない。

 

「……」

 

 少しずつ、背を触るラルフの手付きがイヤらしくなっていく。

 

 くすぐるような、揉むような、そんな不思議な手遣いで徐々に僕の腰へと手が移動してくる。

 

 ふむ、尻か? この男、まずは尻を揉みしだく心らしい。

 

「……行くぞ」

 

 ふーむ。最初は胸からだと思っていたが。

 

 ラルフはおっぱい大好きの変態なのに、どうして尻からなんだろう。美味しいものは最後まで取っておくタイプだったっけ?

 

 ……うーん、なんかくすぐったいだけだな。これが、性交渉? もっと、こう変な感覚になるかと思ってた。

 

 

 

 ────そしてラルフの手が、ヌルリと滑った。

 

 

 

 僕の腰周りを周回していた男の手が、やがてゆっくりと尻の肉を包みこんだ。

 

 思わずビクッと、僕の体が跳ねる。ついに、僕はラルフに触られてしまった。

 

 なんだか、段々ととんでもないことをしている気がしてきた。僕は今、幼馴染みに尻を撫でられているのだ。

 

 本当に、これで良かったのだろうか。いや、自分が選んだ道だ。これで良かったに違いない。

 

 すりすり、とラルフの手は動き続ける。それに伴い、僕の顔は徐々に赤くなってくるのが分かる。

 

 あぁ、こんなにか。こんなにも、触られるという行為は恥ずかしいものなのか────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ」

 

 

 

 

 ぱしーん、と張りの良い快音が寝室に木霊する。

 

 

 

 

「……あっ」

「痛ってぇ!?」

 

 しまった。なんというか、ついつい引っぱたいてしまった。

 

「……。なぁポートさん、俺何かしたでしょーか」

「いや、えっとその……」

「尻はまずかったっすか。最初から尻はダメなんすか」

「ご、ごめんラルフ。その、何と言うか……、つい手が出ちゃった、的な?」

「おい」

 

 これは、どうしたことだろう。自分ではラルフを引っぱたくつもりなんか欠片もなかったのに、気付けば目の前の男を張り倒してしまっていた。

 

 これは、アレか。つまり────

 

「そう、ラルフ。つまりアレだ、君が生理的に気持ち悪くてさ、つい……」

「婚約者に向かって良い度胸だこの野郎」

「あ、悪かったってば! もうしないさ」

 

 うにー、とラルフが僕の頬をツネってくる。痛い。

 

 でも、理性では納得していても、生理的に気持ち悪いものは仕方ないよなぁ。うん、半分くらいはエロすぎるラルフが悪い。

 

 ただ、もう僕は覚悟を決めたんだ。今更、逃げるわけにはいかない。

 

「悪かった、さあやり直そう。僕は村を守るためなら、悪魔にだって魂を売る覚悟さ。ラルフ、好きなだけ触るといい」

「誰が悪魔だ、この性悪女」

「ひどいことを言うね。この真面目で素直で清廉潔白な僕に向かって、性悪女とはいただけない」

「清廉潔白な女は『胸を触ってみるかい』なんて誘惑してこねーよ!」

 

 それは確かにそうだな。

 

「そうだ、よく考えたらお前言ってたじゃんか。婚約さえすれば、胸を触ろうがパンツずらそうが構わないみたいな事を! アレでどんだけ悶々としたと思ってんだコラ」

「えー。僕覚えてないなぁ」

「やっぱり性悪だ!」

 

 んー、確かに言ったけど、アレはノリというかなんというか。

 

 顔を真っ赤にして葛藤するラルフが面白かったから、ついつい過激な事を言っちゃっただけで。あんまり本気で言ってはなかったんだよな。

 

「まぁまぁ、過ぎたことは忘れて。さぁ、前を向いて進もうじゃないか」

「……。まぁいいや、お触りまではOK貰えたしな。うん、今日のところはそれで我慢しよう」

「そうだよ、その通りさ」

 

 あの時、僕はどんな誘惑してたっけ? ヘソ見せながら、ズボンとか好きにずらしていいよと迫ったっけか。

 

 うーん。我ながら痴女だなぁ。

 

「よし、もう遠回しなのはやめだ。ポート、おっぱい触るぞ」

「うん、良いよ~」

「よ、よし。よし、よし」

 

 ラルフは鼻息を荒くして、僕の胸を凝視し始めた。ラルフ的には、やはり胸が一番気になるポイントだったらしい。

 

 ついに、本番か。

 

 胸触られるってどんな感触何だろう。自分で揉んでも、あんまり興奮も感動もしなかったっけ。

 

 前世から数えても初めて揉んだ女性の胸が、自分のモノとは何とも悲しい。

 

「ふぅ……、よし行くぜ」

「あいよ」

 

 いやらしくワキワキと指を動かしながら、ラルフはゆっくりと僕の胸に腕を近づけてきた。

 

 うーわ、顔がすっごく気持ち悪い。

 

「……」

「ご、ごくり」

 

 そのままラルフは、ゆっくりと僕の胸に顔をうずめるように近づいてきて────。

 

 

 

 

 

「……っ」

 

 

 

 

 ぱしーん、と。再び、張りの良い快音が寝室に木霊した。

 

 

「……」

「……」

 

 

 しまった。気持ち悪くて、つい。

 

「おい、ポート」

「な、何かな?」

 

 左右両方の頬を張り飛ばされたラルフは、とても不機嫌そうにのっそりと起き上がってきた。2度も殴られたら、誰だって不機嫌になるわな。

 

「今のは、どういう了見のビンタだ」

「うーん。えっと、生理的嫌悪感?」

「お前本当に俺の嫁か? 結婚してくれる気ある?」

「もちろんさ。僕はこの世で誰よりも、ラルフを信頼しているし頼りにしているとも」

「これは本気で言ってるから、コイツは質が悪い……」

 

 いかんいかん、なんとかおだててラルフの機嫌を戻してやらないと。

 

 自分で触っていいよと言っておきながら、顔面を2度も張り倒すなんて最低女もいいところだ。このままじゃ、ラルフに嫌われてしまうかもしれない。

 

「もう、大丈夫。次は絶対に、ビンタしないから。うん、約束」

「本当だな? 俺、信じるよ?」

「勿論だとも。今までのは咄嗟に手が出ちゃっただけで、次は自分の手を自分でがっちり押さえておくから」

「頼むぜ、本当に」

 

 よーし、今度こそ覚悟を決めろ。うん、僕はラルフに胸を揉まれる。それは、村を守るために必要な行為。

 

 思い出せ、前世の悲惨な結末を。あの未来を変えるためにも、僕はラルフを手に入れないといけないんだ。

 

 うん、大丈夫。もう、いくらラルフが気持ち悪かったって、ビンタしたりはしない────

 

 

「触るぞー」

「……」

 

 

 落ち着け、手を出すな。

 

 ゆっくりと、ラルフの掌が僕の胸へと迫ってくる。でも、大丈夫。

 

 今度はしっかりと、両腕を両腕でがっちり固定している。こうなれば、絶対にラルフを叩きのめすことにはならない。

 

「……」

 

 さぁ、触られよう。それできっと、ラルフも満足してくれるはずだ────

 

 

 

「……、────」

「え、ちょ?」

 

 

 

 ガタガタッ、と危なっかしい音が響く。

 

 気付けば僕は、ものすごい勢いで仰け反っていて。両腕で胸を覆い隠し、息も荒くベッドから転がり落ちていた。

 

「……あー、ポート?」

「────」

 

 言葉が出ない。顔が、ものすごく火照っている。

 

 心臓の鼓動が速い。視界がぐにゃぐにゃと歪んでいる。

 

「おまえ、まさかとは思うが」

「────」

 

 なんだこれは、風邪でも引いたか? さっきから頭もくらくらするし、息も苦しい。

 

 何だってこんなタイミングで? 撤退戦での無理が祟ったのか?

 

 やはり、体調管理はとても重要だ────

 

「ポート。お前、すっごい初心?」

「……」

 

 ……。

 

「だ、誰が初心だ、誰が!!」

「お、ポートが復活した」

 

 初心って、それはどういう了見だ。童貞丸出しのラルフに、そんなことを言われては僕の立つ瀬がないだろう。

 

 というか、そう言うラルフこそ初心じゃないか。胸一つ触るだけで鼻息フンフンさせおってからに。

 

「別に、僕はそんなんじゃないし! その、これは生理的な嫌悪感で、気持ち悪くて!!」

「じゃあ何でそんなに顔真っ赤なんだよ」

「胸触られかけたんだから当たり前だろう!?」

 

 そんな行為、恥ずかしいに決まっているだろう。なんとか我慢してこらえてるんだ、その辺の機微を察しろこの鈍感男!

 

「……どうする? 今日は、もうやめとくか? てか、無理だろポート」

「べ、別に僕は構わないけど!? 勝手に決めつけられても不快なんだけど!」

「なんか、かつて無いほどポートが面白い顔してるな。そんな顔できるのか、お前」

「どういう意味さ!」

 

 ラルフは、何やら興味深そうに僕をしげしげと見つめている。何がそんなに面白いんだこの野郎。

 

 こっちは君の欲望に仕方なく付き合ってやってるだけなんだぞ。

 

「よし、分かった。じゃあポート、そのままベッドに横になれ」

「お、おうとも。こうかい?」

「そうだ、それで、自分の腕を背中に回して……」

「こう、かな」

「そうそう。これで、俺が覆いかぶされば……」

 

 ラルフは何やら悪戯な顔で、あれこれ指示して僕を再びベッドに乗せた。何をするつもりだ?

 

「……」

「よし、これで逃げ場はナシだ」

 

 そう言うラルフは僕に跨って、上から見下ろした。

 

 体勢としては、所謂馬乗り。しかも僕の手は背中で組まされていて動かせない。

 

 成程、これじゃ僕は逃げられないしビンタも出来ない訳か。しかも、服が引き伸ばされて胸が強調されてしまっている。

 

 ラルフ視点、すごくエロい事になってないかコレ。

 

「────」

「……おお、早くもポートの目がぐるぐるしてきた」

 

 やばい。これ、どうしよう。

 

 このままじゃ、逃げ場がどこにもない。本当にラルフに好き放題、胸を弄ばれてしまう。

 

 いや、それでいいのか? そうだよ、僕はラルフに胸を差し出したんだ。好きに触っていいよと、そう言ってこの場に来たんだ。

 

「────────」

「じゃ、触るぞ……」

 

 うん、だから、これは、予定通り。

 

 ラルフに変な事件を起こされる訳にはいかない。婚約者たる僕が、彼の性欲に付き合うのは妥当な判断だ。

 

 触れる。彼の指先が、服越しに僕の胸を撫でる。撫で、撫────

 

 

 

 

 

 

「……きゅう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そして、少女は動かなくなった。

 

「……はぁー。まだ俺、軽く尻撫でて胸の先っちょ触っただけなんだけどなぁ」

 

 婚約してから始めて迎えた、ラルフとポートの二人きりの夜。

 

 初めての生の女体に興奮し、期待し、悶々としていた少年が得た経験は。

 

「これだけで気絶って、どれだけ初心なんだ……」

 

 お触りと言えるかどうかギリギリの、ほんの僅かなボディタッチに留まった。

 

「普段あんなにエロい誘惑してくるくせにィ……。ちくしょう、ちくしょう……」

 

 風呂を覗かれても気にせず、自分から積極的に誘惑してきた少女。だから、てっきりエロ耐性は有ると思われていたが……。

 

 残念なことにこの少女、受け身になるとトコトン初心になる性質だった。

 

「……柔らかかったなぁ」

 

 流石のラルフも、気を失った女性に悪戯をしない程度の良識は持ち合わせており。

 

 今宵経験した僅かな女体の感触を思い出しながら、ラルフは気絶した婚約者の隣で、一人寂しく性欲の処理を行ったのだった。

 

 

 

「きゅうぅ……」

 

 

 因みに、ポートは翌朝までぐっすり目を覚まさなかったと言う。


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