TSっ娘が悲惨な未来を変えようと頑張る話   作:生クラゲ

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リーシャ

「良いから、話しなさいよ」

「……別に、隠すつもりとかは無いんだけどね」

 

 ピョコピョコ、と黒髪のアホ毛が揺れる。

 

 つい先日村を救った英雄的狩人(リーゼ)は、朝っぱらから頬を赤らめながら鼻を膨らませて僕に詰め寄っていた。

 

「……では、昨夜の感想を、どうぞ」

「そう、言われてもなぁ」

 

 ジトっとした目が、朝日に煌めく。

 

 リーゼから一歩引いた位置で、奇術師少女は少し不機嫌そうに僕を見つめている。

 

「昨日は早々に気絶してしまったから、あんまり覚えてないんだ」

「気絶……っ!? そんなに激しいの、ラルフはっ!」

「生娘になんてこと。ラルフ、鬼畜外道……」

「朝っぱらからとんでもない風評被害を垂れ流すんじゃねーよ!!」

 

 ラルフとヤラしい事をしてから、1夜が明けて。僕は、色々と無事にラルフのベッドでゆっくり目覚めていた。

 

 そうなってしまえばもう、幼馴染みに囲まれて尋問されるのも道理である。朝一番に叩き起こされた僕とラルフは、リビングに拉致されあれやこれやと詰問されていた。

 

「俺は特に非難されるような事はしてない!! と、思うんですけどどうなのポート!!」

「……」

「困ったら目を反らして黙り込む癖やめろよ! 今の話でその反応だと、何か俺がすんごい鬼畜みたいに見えるだろ!?」

「ふーん、何もしてないの? じゃあ、何でポートが失神するような事になるのよ」

「ポート、可哀想……」

「誤解だぁ!」

 

 昨夜の記憶が、思い起こされる。

 

 ……、むむむ。僕って案外、そっち方面の耐性は無いらしい。まさか、あんなにテンパるとは思わなかった。

 

 普段は自分から誘ったりしておいて、昨日のコトの顛末は恥ずかしすぎる。軽く触られただけで失神って……。

 

「だから、頬染めて黙るの止めろって! お願いだから説明して!?」

「……やっぱり、ラルフのキノコを切り落とした方が良いかもしれない」

「きっとすんごいことしたの! すんごいこと!!」

「し、していない!!」

 

 そんなコト言われても、僕の口からそんな説明出来ないよ。恥ずかしい。

 

「ポートとそう言うことするのも禁止した方が良いわね。ラルフの理性が育つまで」

「村に戻って、婚約するまではスケベは全部ダメ。そう、しよう……」

「ポートは優しいから受け入れちゃってるけど、元々はそう言うのは結婚してからよね」

「……ひ、ひでぇ」

 

 ……。まぁ、昨日の惨状だとその方が良いかもしれない。

 

 また気を失っちゃったら目も当てられないし。うーん、今後耐性をつけていくしかないか。

 

 やはり、僕は窮地にトコトン弱い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、皆様」

「あ、イヴ」

 

 そんな風に部屋でやいのやいのと騒いでいた折、ドアをノックし扉を開けた人物がいた。

 

 この家の主、フォン・イブリーフその人である。

 

「朝食の準備が整っております。お召し上がりの後で、貴方達の家へ案内しますわ」

「分かりました。僕達には勿体ない程の歓待、どうもありがとうございます、イヴ」

「良いのですよ。ポートさんがウチに来てくれたことを思えば、安いものです」

 

 ニコニコと微笑む侯爵様。彼女は今日から、僕の主となる人物。

 

 今までの古い友達の様な感覚を切り替え、しっかり仕えていこう。

 

「ポートさん以外は、朝食後そのまま家に案内を。ポートさんは、リーシャに紹介致します」

「了解いたしました、よろしくお願いします」

「う、うっす。ありがとうっす」

「ありがとうですね!!」

「……お気遣い感謝致します。あと、幼馴染みの敬語が雑ですみません……」

 

 アセリオはジト目でラルフとリーゼをにらんでいる。二人の言葉遣いがひどい、ゆくゆく矯正していかなければ。とくにラルフは貴族になるんだから。

 

 アセリオだけは舞台で慣れてるのか、敬語が流暢である。無口無表情なのに、実は一番コミュニケーション能力は高いのはアセリオかもしれない。

 

「あと。まぁ、その、何ですの」

「どうしました? イヴ」

 

 イヴはにこやかな笑みを崩さぬまま、ラルフの目前へ悠然と歩いてきた。

 

 この男に、何か言いたいことがあるらしい。

 

「貴方達の村で噂を聞くところ、ラルフさんはとても(やら)しい方だとお伺いしています。周りからよく信頼されている、すばらしいお方だと」

「……えっ? あ、どうもっす」

 

 イヴってば、ラルフの噂なんか集めたのか。僕の相手の見定めかな? あるいは、単なる好奇心か。

 

「どうか貴方も、ポートさんの力になってあげてください」

「は、はい」

 

 そう言って満面の笑顔をラルフに向ける。おお、ラルフの奴、照れ照れだな。

 

 男相手なのに。

 

期待していますよ(お前を殺す)

「……っ!?」

 

 そう呟くとイヴは優しい笑顔でラルフの肩を叩き、そのまま隣を横切って立ち去った。

 

 きっと、彼女なりに僕らの門出を祝福してくれているのだろう。ラルフは、彼女のお眼鏡に叶ったらしい。

 

 それにしても、流石にイヴは人間ができている。仮とは言えプロポーズした人間の婚約を祝えるなんて中々出来ることではない。

 

 彼女の祝福にしっかり応えないと。

 

「イヴから期待されちゃったね。頑張ろう、ラルフ」

「え、それだけ!? 今、なんか物騒な心の声が聞こえた気がしたんだけど。あれ?」

 

 物騒な心の声? 何だそれ。

 

「まぁ私も聞こえたけど、ラルフの自業自得だと思うわ!」

「……聞こえなかった。でもまぁ、大体は察した」

 

 野生組二人には謎の声が聞こえたらしい。ふむ、一応気を付けておこう。

 

 物騒な心の声、かぁ。前世みたいなコトを考えてたりするのか? その片鱗があれば、釘をさしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リーシャさんは、ここにいるのですか」

「ええ、きっと気が合うと思います」

 

 朝食の後。僕はイヴと共に、領統府と呼ばれる場所に赴くこととなった。

 

 それは、この町の政治の中枢。見れば巨大な狼の銀像が目につく、絢爛な石造りの壮観な建造物だった。僕達の村の建物とは、まるで規模が違う。

 

 狼の像が飾られているのは、統率して群れを率いることから治安維持の象徴として考えられているからだそうだ。へぇ、それは知らなかった。

 

 この施設で、イヴは内政関連の仕事をしているらしい。軍事関連の施設は、また別にあるそうだが……。僕には関係のない場所だろう。

 

「リーシャは、一言で言えば万能の人です。剣を振れば剣豪と打ち合い、魔法を唱えれば大魔導師と渡り合い、兵法100策に通じ、歌うように農富論を諳じる。うちの若手では、間違いなく最も優秀な人間でしょう」

「凄い人なんですね」

「この前も、資金源を増やそうと仕事の片手間で商社を興して大当たりさせています。商才もあるらしいので、軍事だけでなく内政の仕事も任せることにいたしました」

「それは。是非、色々と教えてもらいたいものです」

「ただし、彼女は圧倒的に運が悪い。先程の彼女が興した商社も、隣の屋台からの火事に巻き込まれ半年で取り潰されました。借金が残らなかった事だけが救いだと、嘆いておりました」

「なんと、まぁ」

 

 それはついてない……のか? 屋台からの火事であるなら、次から火を扱う屋台の出店場所を制限していけば良いかも。

 

 にしても、リーシャは確かに幸が薄そうな人にも見えた。そう言う星のもとに生まれているのかもしれない。

 

「リーシャは能力に関して、確かな人間です。きっと、ポートさんの助けになるでしょう」

「……。僕が、リーシャさんの助けになるのでは?」

「うふふ、逆ですわ。きっと、ね」

 

 うーん。やはりイヴは僕の事を勘違いしているらしい。

 

「さて、扉を開きましょう」

 

 僕を見ながらクスリと頬笑んだイヴは、奥の部屋の扉を開け放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌だぁぁぁぁ!! 私は、ヒカル君に会いに行くんだ!! 今日の分の仕事は終わらせただろ!!」

「リーシャ様、考え直してください。仮にも貴族の一員が、男娼通いなどと!!」

「うるさいうっさい!! 私に優しく接してくれるのはあの人だけなんだ!! あの人に会うために今日は速攻で仕事を終わらせたんだ!!」

「落ち着いてください、まだまだ出来る仕事はたくさん残っています」

「お前らの分だろソレはー!! 昼過ぎに待ち合わせているんだ、もう出ないと遅れちゃう!!」

「リーシャ様ぁ!!」

 

 ……。

 

「あ、あんなところにイヴ様が!!」

「そんなアホな手に引っかかるか!! イヴ様は今日は領統府には寄らない日の筈だ!」

「男娼にお金を貢ぐなど、ゾラ様が聞いたら何というか。奴らは、リーシャ様の金を愛しているだけですぞ!」

「うるっさい、分かってるよ! それでも、私だって、私だって。たまにはかっこいい人にチヤホヤされたいんだよ!! 褒めて欲しいんだよぉぉぉぉ」

 

 …………。

 

「いえ、あの。本当にイヴ様が後ろに……」

「しつけーよ、そのネタは! そもそも、何でイヴ様にビビる必要がある! あのカマホモのせいで私はモテないんだ! 何もかもあの女装癖が悪い!!」

「ひ、ヒェッ」

「そうだ、私は悪くない。イヴ様が悪いんだ、むしろ正面から文句をぶつけてやりたいくらいさ」

「……やべぇよ、やべぇよ」

「振られた仕事は終わらした、遊びに行くのは自分の金。よし、これは正当な行為だ。待ってろヒカル君!!」

「リ、リーシャ様! 至急、背後の確認を!!」

「だーかーらー。前と同じ手を使っても引っかからねぇっての。私が後ろ向いた瞬間に取り押さえるつもりだろお前ら。考えが浅いったらありゃしない」

 

 …………あぁ。成程、こういう人なのか。

 

「……うふふ」

 

 ああ。イヴの顔は笑っているけど、目が全く笑っていない。

 

 早く後ろを向いてくれ、リーシャさん。

 

「ん? 今の声出したの誰? めっちゃイヴ様に似てたんだけど」

「貴方の後ろにいらっしゃる方です、リーシャ様」

「や、やだなー。似すぎていて怖いわ、今の。ほとんど女の声だったじゃん、芸達者な奴がいるんだなぁ、私の部下」

「うふふふ♪」

「そうだよね。ねぇ、私の部下ですよね? 声真似だよね? ね?」

 

 今日は本来、イヴはここに寄らない日だったのね。わざわざ僕のためだけに、一緒に此処に来てくれたのか。

 

 なんとまぁ、間が悪い。

 

「────」

「うふふ、リーシャ。少し、寄ってしまいました。仕事は順調ですか?」

「────あっ」

 

 ゆっくり背後へ振り返ったリーシャは、滝のような汗を額から流し。やがてイヴと目が合って、真っ青になった。

 

「正面から文句を言いたいそうですが、どうぞご自由に。このイヴは、部下の不満を受け止められない程狭量ではないつもりですよ?」

「……」

 

 イヴは、きっと本心からそう言っているのだろう。部下からの不満が正当なものであれば、真正面から受け止めるはずだ。

 

 まぁ、リーシャのはただの逆恨みなのだけど。

 

「イヴ様」

「はい」

 

 リーシャはキリッとした表情を作り。

 

 そのまま、流れるような動作で土下座の姿勢へと移行した。

 

「……」

「……あの?」

「お爺様には内緒にしてください。マジで許してください。何でもしますんで」

「……はぁー」

 

 そうか。僕は今から、この人の部下になるのか。

 

 ……この人が上司、かぁ。僕はこの人の命令で色々と働かないといけないの?

 

 何だか急激に、やる気がなくなってきた。

 

「僕が権力を欲しがるだろうって、こういう意味だったんですかイヴ?」

「いえ、普通に貴女の器を鑑みての発言でしたわ……」

 

 ふむ、良かった。イヴはわざと僕を無能上司に押し付けようとしたわけではないらしい。

 

「せっかく、普段から人手が足りないと嘆いている貴女に、千年に一人レベルの人材を紹介しに来たのに……」

「え、人材ですか?」

「……どうも。4日ぶりかな? リーシャさん」

 

 あの時は、もっとまともな人に見えたけど。

 

「あっ。農富論の作者!! えっと、ポート? だっけ」

「はい。ポートさんが、私の幕下に加わってくれることになりました。まずは女性のいる職場がよろしいかと思い、貴女に配属させるつもりだったのですが」

「え、えっ! 良いんですか!?」

「ポートさんに仕事を押し付けて、水商売の男に会いに行かれるとなると話が変わります。そもそも、爵位を持つ家の人間が風俗通いとは情けない」

「えっ、いや、違うんです! 私とヒカルは、ただの仕事での関係じゃなくて、その!!」

「はぁ……。分かりました、後で手を打ちましょう。リーシャ、貴族とはいえ自由恋愛するなとは言いません。しかしせめて、相手は信用できる立場の人間にしなさい。軍には沢山、素敵な男の人が居るのですから」

「そ、そんなコトいったって軍の男は!」

「これも貴女のためです。今後、その水商売の男に会いに行くのを禁じます」

「……うぅ。うわぁぁぁぉぁん!!」

 

 ……。その軍の人間は、イヴ様ファンクラブという謎の組織に所属して対象外なんだよなぁ。

 

 そっか、それでモテ無さすぎてお水に逃げたのか。

 

 流石にリーシャが可哀想にも思えてきた。少し、慰めてやろう。

 

 そしてあわよくば、この憐れな上司の人心を掌握し、影から操ってしまえ。うまくやれば、権力なんて野暮なものを持たずに済む。

 

「リーシャさん。僕はイヴ様から話は聞いています、貴女がとても優秀でがんばり屋さんだと言うことを」

「う、うぅ」

「誉めてほしい、認めてほしい。でも、周りにそれをしてくれる人が居なかったんですね。今まで、辛かったでしょう」

「ううう……?」

「だからって、お金を払ってまで耳障りの良い言葉を求めてはいけません。そんなコトをしたら、本当は誉めてくれる筈だった人もリーシャさんを侮蔑します」

「……」

「ほら、泣き止んでください。これからで良ければ、僕が誉めて差し上げます。リーシャさんも、辛かったんですよね」

 

 よしよし、とリーシャの頭を撫でて抱き締めてあげる。

 

 いくら能力があろうと、彼女はラルフやリーゼと同じ15歳。精神的には、まだまだ子供なのだろう。

 

「貴女が頑張っているのは僕にも分かりますし、イヴ様も理解しています」

「ほ、本当に……?」

「勿論です。さっきまでずっと、イヴ様はリーシャさんを誉めていたんですよ」

「……」

 

 だから、きっちり誉めるところを誉めて、正しい方向に導いてやる。それが、きっとリーシャの為になる。

 

「これからも、頑張れますか?」

「────うん、頑張る」

「その意気ですよ、リーシャさん」

 

 よし、懐柔成功。これで上手いこと胡麻をすって、僕たちの村にこっそり便宜を図って貰ったりしよう。

 

「うふふ、結構うまく行きそうで良かったです。ではリーシャ、仕事を抜け出そうとした罰則として、後で私のお散歩に付き合ってください」

「は、はい。散歩、ですか?」

「ええ、散歩です」

 

 イヴは僕ら二人の仲の良さを見て、少し安心した顔をしていた。

 

 リーシャって娘が悪い子でないのは想像がつく。彼女はちょっと、駄目な感じの娘と言うだけだ。

 

 僕達大人が矯正してあげれば、ちゃんとした大人に育つだろう。

 

「では、今からお散歩です。私とリーシャの、仲直りのお散歩に行きましょう」

「は、はい! イヴ様!」

 

 ……、まぁ。実年齢的には僕とリーシャは同い年で、イヴに至っては年下だった気がするけど。

 

 イヴ、まだ成人していない筈よな。なんでこんなに大人びてるんだろう。

 

「では、ポートさん。今日は顔合わせだけですので、もう帰っていただいて構いません。部下に貴女の家へと、案内させましょう」

「は、はい」

「明日から、よろしくお願いしますね。ではリーシャ、行きましょう」

「はーい」

 

 イヴはそう言ってクスリと笑うと、リーシャの手を握って何処かへと消えた。

 

 ……今日は、これだけか。一応、この部屋の人たちに挨拶して戻るとしよう。

 

 ところで、イヴとリーシャは何処に散歩に行ったんだろう。僕は、ついていっちゃいけない場所なのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、う、う。うぁぁぁぁぁああああん!!!」

 

 帰り道。イヴの部下の人に案内され、馬車に乗って街中を移動する最中、何処かで聞いた泣き声が聞こえてきた。

 

「何事でしょうか?」

「ポート様、ご覧ください。恐らく、アレでしょう」

 

 その悲壮な慟哭が何処から響いているのかと、馬車から顔を出して覗いてみると。

 

 地べたに座り込んでガン泣きしているリーシャと、なにやら男を這いつくばらせて微笑んでいるイヴが目に映った。

 

 ……あっ。

 

「私には、嘘は通じません。ええ、もっと正直な事を仰ってください。貴方が正直であればあるほど、貴方への報酬は増えていくでしょう」

「うっす!! 正直、チョロくて扱いやすくてラッキーって思ってたっす!! 貰ったプレゼントは全部換金か、欲しがってる子猫ちゃんに好感度稼ぎに渡しちまいました!」

「ええ。正直な人ですね、追加のチップをどうぞ。正直なところ、貴方からみてリーシャは魅力的でしたか?」

「小娘過ぎて流石に対象外っす!! でも金持ってる小娘とか、最高のカモっす!!」

「うふふふふ」

 

 そこからは、見るからにアホそうな男が金銭欲に染まった目でイヴから金貨を受け取っており。

 

「あ、あああ、うぁぁぁぁぁ!! ああああああっ!!!」

 

 その隣で、水商売男の本音を聞いた被害者(リーシャ)が、血の涙を流して泣き喚いていた。

 

 あれがリーシャさんが嵌まっていた男娼なのだろう。彼にお金を支払って、その本音を聞き出した訳ね。

 

 うっわ、荒療治……。

 

「重そうなんで手は出してないっす。ええ、身分聞いてるとそれはヤバそうだったんで、へい。あんま抱きたくなかったし」

「いい判断ですね。報酬を追加してあげましょう」

「あざーっす!!」

 

 しかし成る程、ある意味イヴらしい律儀な行動だ。将来性のある部下のため、わざわざ出向いて現実を教えてあげたのだ。

 

 きっとこれで、リーシャの男娼通いも収まるだろう。きっと、ここで目を瞑ってしまっていればリーシャの悪癖はこっそり続いていたに違いない。

 

「うああああん!! 二度と、二度と男なんか信じるもんかぁ!! あんまりよぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

 ……ただ、ただ。リーシャが、哀れである。


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