TSっ娘が悲惨な未来を変えようと頑張る話 作:生クラゲ
「早速、お手柄ですねポートさん」
イヴは、僕達が届けに来た書類をみてご満悦だった。
「やはり、そう言うことをなさりますか。私は部下を信用し、敢えて自己申告での請求を許可したのですが」
「山盛りの果実が目の前にあり、その数を正確に記載していないのであれば、善良な人間であろうと1つ位はつまみ食いをしてしまうモノです」
「そうみたいですね。残念な事です」
書類には、この自己申告制度が始まってから今までの横領額を纏めてある。どの人間が一番多く横領したかも、一目で分かるようにしてある。
僕達の2日がかりの努力の成果だ。
「以前は、まったく無記載で備品を購入していたんです。当時は横領されているかどうかすら分からなかった。これは不味いと私の代から記載形式に致しましたが、露呈する可能性が高くなったのに横領してしまうとは」
「経務長自ら、主導していたようですね。恐らく横領は、無記載の時代からの経務の悪しき風習だったのでしょう」
「ふむ、確かにセンジャス経務長の横領額が一番多いですね。組織のトップがこれでは、部下が真似をするのも道理です」
「センジャス氏を解雇し、その財産を差し押さえる懲罰を提案します。今まで部下が横領してきた額も含めて、センジャス氏に償わせましょう」
「それで良いです。そして経務全員を厳重注意し『今後横領するようなら重罰を与える』と警告するのですね。まぁ、丁度良い線引きではないでしょうか」
よし。イヴの許可が貰えたので、警備さんに依頼してセンジャスを逮捕拘束する手続きに移ろう。
いやぁ、疲れた。
「で。文官の仕事はいかがですか、ポートさん?」
「正直、もう辞めたいですね」
「あらあら。簡単には、辞めさせませんよ?」
割と本気で言ってみたのたが、あっさり辞職を拒否されてしまった。
余程、人手が足りていないのだろう。
「お疲れなら、ポートさんは指示を出す立場に就けば良いだけだと思います。そのような雑用は配下に任せて、貴女は領統府全体の指揮を執れば良い」
「僕には無理ですよ」
「絶対出来ると思いますけどねぇ。では自信がついたら、改めて私の下にいらしてください」
そんなこと言ったって……。何をすれば良いのか見当すらつかないのにどうしろと。
「今日は、もう帰られるのですか?」
「ええ。3徹明けでお休みをいただいています」
「それは良かった、お疲れ様でした」
と言うか、リーシャ以外は全員休みである。
リーシャは初日爆睡していたし、徹夜作業中も一人だけ仮眠を取ったりしていたので、今日は一人で居残りとなった。
私を見捨てるのかぁ!! と泣いていたので、後で様子を見に行こう。グレてバックレられてると困る。
「では、お先に失礼いたします」
「ゆっくりお休みください」
さて、職場をチラリと覗いて帰るとしますか。
「ズピー……」
「とまぁ、このようにリーシャ様は仕事をなさらず爆睡しておられます」
「起こすとキレて掴み掛かってくるので、誰も起こすことが出来ません」
「お蔭で、仕事が滞る一方なのです」
「ようし分かった」
やっぱりサボってるか。まだ数日の付き合いではあるが、何となくリーシャの人間性が理解できてた。
「まずは起こさないと。アセリオに貰った眠気覚ましを試そう」
「……それは、何です?」
「分からないけど、眠気が吹っ飛ぶらしい」
3将軍たるリーシャに寝ぼけて掴み掛かられると怖いので、アセリオの差し入れである眠気覚ましをリーシャの傍に設置する。
さて、どうなるんだろう。アセリオの事だから、怪我するような事態にはならないと思うけど。
『徹夜で眠い、そんな貴女に。アセリオの贈る超魔術、必殺えりくとりっく☆ぼんばー……』
「ぎにゃぁぁぁぁぁあ!!!?」
あ、電気が出た。静電気でも溜め込んでたのだろうか。
「寝起きに電撃浴びせるって何考えてんだ!!」
「静電気程度でしょう。そもそも、サボってるリーシャさんが悪いです」
「ただの仮眠だ!! ちょっとは寝ないと効率悪いだろ!」
「朝からずっと寝てるそうですけど」
アセリオから貰った微量の電流が流れる玩具に大層腹を立てたリーシャは、憎々し気に僕を睨み立ち上がった。
朝からずっと寝っぱなしを仮眠と言うのは如何なものか。
「え? あれ、もう昼過ぎてる?」
「もう、夕方に差し掛かる時間帯ですね」
「マジかよ、昼までに起こせって言ったじゃん。使えねー部下だ」
「起こしたそうですよ。そしたらキレられたと」
「……」
リーシャさんはやっぱりリーシャさんだ。
初めて会った時は大人びているように感じたけど、この人日常生活は割と駄目な感じの人らしい。ガッツリ仕事をサボってるじゃないか。
「……まぁ、ここ数日は忙しくて寝れなかったしな。主に、経務がくだらないことしたせいで」
「そうですね」
「わざわざ見に来てくれてすまんな。うっし、今からやるわ。お前等、書類持ってこい!! 急ぐ奴どれだ?」
「……はぁ」
ようやくリーシャはやる気を見せ始めた。だが、時刻はもう太陽が西に傾き始める時間帯だ。今からこの山盛りの書類をやるとなると、またリーシャさんは徹夜になるだろう。
そして、書類を待たされる他の部署の人も徹夜コース。さすがに、手伝っていくか。
「リーシャさん、ちょっと書類よこしてください。今夜は帰らせていただくつもりですが、少しの間お手伝いしますよ」
「え、マジか!? 良いの?」
「他の部署に迷惑が掛かりますから」
というか手伝わないという選択肢がない。ここで帰ると、きっと「こっちは待たされているのに何でお前は帰るんだ」という怒りが他の部署から沸いてくる。
ただでさえやっかまれやすいんだ。頑張らないと。
「……いつの間にか、ほぼ書類仕事覚えちゃったのなポート」
「リーグレットさん達に丁寧に教えていただきましたから」
2時間ほどかけて、取り急ぎの書類は全て片付け終わった。空は夕暮れの赤みを映し出してはいるが、今日はなんとか日の出ているうちに家に帰れそうだ。
残る書類は、明日の朝までに仕上がってないといけない書類のみ。これは流石に、リーシャさんに頑張ってもらおう。
「こりゃ仕事が楽になるなぁ。監督部は今までアイツらと私だけで回してたから、3人と4人じゃ大違いだ」
「……今まで、人員を増やそうとはしなかったんですか? 他の部から人員もらったりして」
「増やして、今の状況なのさ。計算が出来て、字が読めて、政治の知見がある人材ってあんまいないんだ」
え、じゃあ今まで3人もいなかったの?
「数年前まではリーグレットがイシュタール様の懐刀としてずっと1人で内政回してた。最近になって王都で留学を終えたガイゼルがリーグレットの副官としてここに配属されて、私も商社一発当てたからかイヴ様にいきなりここに連れてこられて3人になった。ここ数年の話だ」
「え、今まであの仕事量をリーグレットさんだけで? 物理的に無理では?」
「んにゃ、今まではあんなバカみたいな仕事量じゃなかった。最近になって、私らの仕事が爆増したの。どこかの誰かが有用な政治指南書を世に出したおかげで、それを実現しようとイヴ様があれこれした結果、人手が一気に足らなくなった訳。ぶっ殺したくなるよね、その本の作者」
「…………」
そうか、事の発端は僕の本か。つまりこれって、極論で言えば自業自得なのか。
解せぬ。
「ま、そのお陰で市民は肥えたし貧困も減った。市民全体は、その本に感謝してると思うけど」
「ごめんなさい」
「良い本だよ、ありゃ。文官に地獄を見せるってトコだけが唯一の欠点だ」
少し恨みがましい目で、リーシャは僕を見てくる。そんなこと言ったって、そもそも僕はあの本を世に出すつもりなんかなかった。イヴが勝手に興奮して広めただけである。
「私は武官も兼ねてるから、常にここに居るわけじゃない。繁忙期はこっちでの仕事がメインになるけど、ちょくちょく練兵場にも顔を出さなきゃいけないんだ。というか、私的には自分の本職は武官だと思ってる」
「まぁ、3将軍ですからね」
「だからこそ、ポートが加入して本当に助かってる。頼むから辞めるなんて言わないで、これからも頑張ってくれよな」
そうか。イヴの配下の文官事情はそんな酷いことになっていたのか。
まともな専業文官がガイゼルさんとリーグレットさんの二人って相当ヤバかったんだな。
「僕で良ければ、お手伝いさせていただきますよ。戦争が終わるまでは、ね」
「出来ればずっと居て欲しいんだがな。ま、お前にもお前の目的があるんだろう。無理強いはしないさ」
そういうことなら、多少過酷な職場ではあるが頑張ってみようという気が起きる。誰かに必要とされるのは、悪い気分ではない。
よし、残りの書類も手伝ってあげますか。リーシャは本業武官なのに、人手不足で連れてこられている形らしいし。早く帰らせて、寝かせてあげよう。
「じゃあ、もうひと踏ん張りですね」
「ありがとな」
さて、やりますか。
「……うめぇだろ、この店」
「ええ」
仕事が終わり、夜闇が町を支配したころ。
僕とリーシャは仕事を終えて、小さな露店に立ち寄っていた。
「このホットワインは体の芯からあったまる。ツマミの葡萄と合うんだ、コレが」
「ワインを頂くのは初めてですね。ウチの村で売っている酒は麦酒ばっかりでしたので」
「ジュースだと思えばいいぞ。そんなに強い酒じゃないし」
手伝ってくれたお礼だと、彼女は僕にワインのグラスを差し出した。
奢りの1杯だそうだ。これが噂に聞く、大人の付き合いという奴なのだろうか。
前世含めて、こういった経験はなかった。僕らの村にも酒場はあるが、基本的に僕の仕事に同僚とかそういうのはいなかった。
お酒を飲むといえば、誘われてみんなで仲良くという感じだ。仕事終わりに1杯、なんてノリではなかった。
「他の二人も、飲みに誘うのですか?」
「まぁね」
「……二人とも美形ですけど、良い雰囲気になったりはしないのですか」
「うーん。ガイゼルは既婚者だし、リーグレットに至っては結婚してる上に子供まで居るし。そもそも親と子くらい歳離れてるし」
「あー、あの二人はもう結婚してたんですね」
まぁ、二人とも性格よさそうだったし。そりゃあ相手いるか。
「文官どもと職場恋愛は出来ず、武官連中はイヴ様のファン。そして新入りは、女のお前」
「ははは」
「イヴ様は私に何処で出会えと言うんだろう。ちょっとくらい癒しを求めて、色町行ったっていいじゃないか」
「それは駄目ですよ。あの男の本音を聞いたでしょう?」
「……ぐすっ。ヒカル君……。結構、本気だったのにな」
「あの連中は、女の心を弄ぶ詐欺師です。ちゃんと、信用できる人間を見つける事です」
リーシャはまだ引き摺っているのか、あの男娼。よほど飢えていたのか、あの男がやり手だったのか。
「そもそも軍の連中はさぁ、基本的にマッチョでゴツくてあんまりタイプじゃないんだよなぁ。こう、私のさわやかで王子様的なのが理想でさ」
「ああ、そうなんですか」
「文官系はあんまりゴツくないけど、何というか性格がなぁ。陰湿というか、ねちっこい。特にあの二人とか!! リーグレットなんかいい歳して、説教が嫌みったらしいったら!」
「そ、そうは見えませんでしたけど」
それはリーシャのやらかし方に寄るのでは。僕と話している限りは礼儀正しい紳士って感じに見えたけど。
「ポートはどんな男が好み? ゴツい系はアリなの?」
「えっ……、僕ですか。えっと」
わ、急に話を振られた。どんな男が好み、かぁ。
まぁ、何度か冒険者さんにこの手の質問はされたことがあったけど、答えは決まっている。
「可愛い系の、女の子ですね」
「……えっ」
別に僕は同性愛を隠すつもりはない。というか、イヴが村で噂を集めていたそうだし、言わずとも時期にリーシャに伝わってしまうだろう。
同性愛宣言をしておくことで、男避けにもなるし。まぁ厳密には、男の時の記憶が残っていて男を対象と見れないだけだが。
「えっと。可愛い男の子の間違い?」
「女の子です。僕は男性より女性が好きなんですよ。ま、特殊な性癖と自覚してますけど」
「あ、そう。そうなの……」
リーシャは僕を警戒したのか、少し距離が開いた。そんなに怖がらなくても。
「いや、別に悪くないとは思うぞ? ちょっとビックリしただけで」
「まぁ、隠すつもりもないですし。そんなに警戒しなくても、嫌がる人に何もしませんよ僕は」
「あ、そう。ふふふ、にしても意外だなぁ」
だが、リーシャは少し悩むそぶりを見せたものの、すぐに元の態度に戻った。やはり、彼女はなかなか度量が深いらしい。
「言いふらす気はないけど、別にソレ隠してないんだな?」
「ええ、自分の好きなものを隠して生きるような事はしたくないので」
「なんか男らしいな。一人称も『僕』だもんなお前」
「そう見えますか? 僕にとっては、誉め言葉ですよ」
男らしい、か。僕はそういわれることに、抵抗はない。というか、むしろ嬉しい気がする。
僕の心のどっかに、男の部分も残っているんだろうな。
「なぁ、ちなみに。ポート的に私はストライクなのか?」
「……えっ? あー、うー、っと」
リーシャさんがストライクかどうか、か。
本人を目の前にして、それ答えるのは気恥ずかしいが。
「そうですね。僕は結構リーシャさん好きですよ、そういう意味で」
「そっか。あははは!」
うーん、勤務態度や人間性はともかく、異性としては結構リーシャはストライクかもしれない。
「可愛いタイプが好きなので、リーシャさんみたいな少し小柄なくらいが好みです。目も大きくて可愛いし、気風が良くて付き合いやすいのもあります」
「そ、そっか」
それに、これは口に出さないが僕は結構、頼られたがりなところがある。だからなのか、リーシャみたいに少し駄目な感じの娘の方が好みだったりする。
初恋だったリーゼも、ちょっとそんな所があるし。
「僕からすれば、どうしてリーシャさんが言い寄られないのか不思議で仕方ないですけどね。こんなに魅力的なのに」
「そ、そうだな。もっと軍の連中に言ってやってくれ」
「逆に、リーシャさんは僕が男だったとしたらどうでした? 見た目はともかく、付き合いやすさとして」
「え、私? えーっと、えっと」
まぁ、いきなりこんな質問振られてもリーシャは困るだけか。
「……私、割と知的な人が好きで。ポートが男だったら、有りだったかもしんない」
「お、それは嬉しいですね」
「男だったら!! 男だったら、だからな!!」
そうか。僕が男だったら、リーシャと上手くいっていた可能性が高いのか。
前世でリーシャと出会えていたら、また歴史は大きく違ったのだろうか。
「……やべぇな、割とガチ目に狙われてんのかこれ?」
「ん? 何か言いましたかリーシャさん」
「い、いや何も!?」
まぁ、こういう話を堂々とするのも職場関係を深める意味では重要だ。
特に、今後はリーシャの力を借りる機会も多いだろう。今世は女だけど、それでも彼女とは仲良くしておこう。
「またこうやって、2人で飲みに行きたいですね」
「そ、そうだなぁ」
今後は否が応にも、リーシャとは仕事で顔を付き合わせ続ける事になる。
敬遠しなければ、きっとすぐに仲良くなれるだろう。
「では、今日はこの辺にしましょうか。もう遅いですし」
「わ、分かった。じゃ、また明日な!」
「ええ」
こうして、何故か少し妙な態度になったリーシャと共に店を出た。
夜道に一人は危ないからと、一応は人力車を用意してもらっていた。リーシャはやることが男前である。
「私と違って、その。お前は武官じゃないしな」
「お心遣い嬉しいです、リーシャさん」
思ったより、文官勤めで人間関係は苦労せずにすみそうだ。リーシャさんが付き合いやすい人間で助かった。
「ただ、私はその、男が好きだからな?」
「……? わかってますよ?」
リーシャは一人で走って帰ると言う。危なくないかとも思ったけど、そもそも彼女とタイマンで勝てるだろう人間はこの国に数人程度らしい。
武官って凄い。