TSっ娘が悲惨な未来を変えようと頑張る話   作:生クラゲ

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伏兵

「さて、どうしますポート様」

「ど、どうしましょうガイゼルさん……」

 

 イヴが出発し、1月ほどの期間が過ぎた。

 

 入ってきている北の戦線の状況は、あまり芳しくない。既に、僕らの国境線に築かれた砦は攻略されたそうだ。そして帝国軍は、そのまま順調に首都までの都市を占領していると聞く。

 

 首都では最終決戦に向け、着々と強固な要塞を建築しているらしいが……。戦況を聞いている限り、僕らと帝国軍では力に差がありすぎて勝負にならなそうである。

 

 装備の違い、練度の違い、将の違い。どれ一つとっても、帝国に勝っているところはない。

 

 聞けば帝国には10数人も『英雄』と呼ばれる人間がいるそうだ。北部戦線ではその英雄の中でも怪物と名高い『軍聖ミアン』を始め、『業火剣アリエ』『魔惑のフレザリド』など錚々たる面子が足並みをそろえて侵略してきている。

 

 特に、軍聖と呼ばれるミアンと言う男。このミアンが指揮した戦いにおいて、帝国は1度も敗北したことが無いらしい。軍略の申し子と呼ばれている傑物だそうだ。

 

「困ったですね」

「いや、これヤバいですって」

 

 帝国で『英雄』の称号は、たった一人でも戦争の勝敗を分けることが出来る人物に与えられるらしい。業火剣アリエはたった一人で100人以上の賊を火の剣で焼き払った化け物らしいし、魔惑のフレザリドも幻覚で敵を死地に誘導し千人単位の被害を出した悪辣な将だという。

 

 一方で、僕らの国の首都にそんな傑物は居ない。ゾラさんの話では、前の戦いでラルフに討ち取られたアマンダですら首都で大将軍になれるという。

 

 帝国にとっては使い捨ての尖兵でも、僕らの国では最強扱い。どれだけ国力に差があるのかと考えれば、絶望的ですらある。

 

「……うん。ごめんなさいガイゼルさん、ちょっとイヴに相談に行ってこなくちゃ。しばらく一人で仕事してて貰っていいですか?」

「ははははは、ポート様。隣の部屋いっぱいに書類積まれてるの知ってます? 俺に死ねって言うならはっきりそう言ってくださいよ、そんな遠回しな殺人予告をされても困ります」

「いや、これからはガイゼルさんも適宜休んでください。緊急性の高い奴はもう片付いたので、適度に休憩しながら書類を片付けても大丈夫です。後は1年以内にやればいいようなものばっかりの筈です」

「……そうなんすか?」

「ええ、ひと段落したからこそ僕もイヴのところに行く訳で。もしまた取り急ぎの案件があれば、お任せすることになっちゃいますが」

「まじっすか。俺、もう寝ていいんですか……」

「ええ、ええ。僕らは乗り切ったんですよ。後は、無限に積みあがっていく書類をコツコツ年度末までに片づけていくだけです」

 

 ────だけど、そんな遥か北の戦線の話なんかどうでも良い!

 

 戦争をするのはイヴであって僕ではない。僕はただ、目の前に山盛り積まれた業務と格闘し続ける事だけが仕事である。

 

 劣勢だという戦争についてはきっと、イヴが上手いことやるだろう。僕は、内政の話だけに集中すれば良いんだ。

 

 ……それで、良かったんだけど。

 

「確かに相談は要りますね。このまま改革進め切ると、領の貯蓄が消し飛びます」

「長期的に見たら元は取れるけど……そろそろブレーキかけてもいい気がしてきましたね。戦争中に貯蓄使い切って経済発展しても、補給難で負けて領内を踏み荒らされたら元も子もない」

「ちょっとやりすぎましたかね……。徹夜でハイになりすぎて」

 

 僕は、ちょっと調子に乗りすぎたらしい。改革に改革を重ねた結果、ちょっと支出がエラいことになってしまったのだ。

 

 具体的には、10年近くかけてイヴやイシュタール様がコツコツ蓄えてきた領の貯蓄が、この1か月で半分は消し飛んでしまった。

 

 この勢いで改革を続けてしまうと、資金難で戦争継続が困難になる可能性がある。

 

「イヴに、戦争期間の見積もりを聞いてきます。それを聞いてから、いくらほど残しておくべきか考えましょう」

「そうですね。良いんじゃないでしょうか」

 

 領庫の半分を溶かしておいて今更相談は若干遅い気がするけど、実際相談に行くだけの余裕がなかったから仕方がない。

 

 うん、僕は悪くない。僕をこんな役職に任命したイヴが悪いんだ。

 

「……じゃあ、僕は準備していってきます。ついでに、第1陣の補給物資も届けてきます」

「了解。ご武運を」

「では、また」

 

 ……さて。後は戦線への道中で、イヴに対する言い訳を用意しておくのみである。

 

 流石に怒られるかなぁ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新たなる領主イヴの初陣。

 

 それは、持てる戦力全てを吐き出したまさに総力戦と言えるモノだった。

 

「お父様、あれを」

「ついに。見えてしまったのう」

 

 侯爵家3将軍うち2名、リーシャとゾラの2枚看板を両翼に控え。前領主イシュタールの助けを借りながら、イヴは帝国国境へと侵攻していた。

 

「敵です。奴等は山の間の谷道に柵を備え、見るからに強固な陣を築いて我々を待ち構えている様子です!」

「お手本通りの布陣じゃな。堅実なアーロンらしい」

 

 接敵したのは、まさに国境。谷間の通路を塞ぐように布陣し、敵はイヴを待ち構えていた。

 

「じゃが、陣の位置が少しおかしいのう。もう少し奥に設置した方が儂らから分かり辛く、より強固じゃろうに」

「……もしかして、罠でしょうか?」

「それもあるのう。あの陣は釣りで、両脇の山に兵を伏せておる可能性もある」

「何れにせよ、真っ正面からあの陣に挑むのは愚策ですね」

 

 その敵の布陣を見て、イシュタールとイヴは考え込む。正攻法の防御布陣にも見えるが、罠である可能性も否めない。

 

 今回の敵は普段相手取っている賊ではなく、正統派の英雄だ。流石というべきか、実に嫌らしい陣取りである。

 

「……山を、駆け上がるのはどうでしょう。敵が伏兵を用意していたなら、それを粉砕すれば良い。敵が居なかったのであれば、そのまま山を下ってあの陣を突き崩しましょう。坂道での戦闘は、高所の方が有利です」

「或いはその山で待ち構えておるやもしれん、敵影がないか斥候を飛ばせ」

「分かりました」

 

 イヴの指揮官としての長所は、思い切りの良い指揮と予想される危険のケア能力である。

 

 それは彼女が幼少時よりイシュタール前領主の軍勢に参加し、身に着けてきた技術。先達に学んだ彼女の努力の成果である。

 

 慎重でいて大胆に。豪快でいて繊細に。

 

 その2面を両立した指揮を身に着けたイヴは、このまま経験を積めば知勇兼備の偉大な領主として君臨していただろう。

 

「斥候からの報告です。やはり山上には、敵の陣が構築されていました。奇襲部隊の様です」

「成程、斥候を飛ばして正解でした。ではこちらから逆に奇襲をかけて山の陣を奪い、そして見下ろす形で谷間の敵陣に矢の雨を降らせましょう」

 

 だがしかし、今のイヴが本物の『英雄』と相対せるかと言えば、疑問である。

 

 聡明で才能あふれる彼女であるが、大将としての指揮は初陣。いざとなれば背後のイシュタールが指揮を飛ばせえるとはいえ、彼女はまだまだ未熟だった。

 

 いや、そもそもの話。

 

 今回の戦いは相手が悪すぎた、この一言に尽きるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「軍聖からの早文だ?」

「はい。ミアン様より、アーロン将軍へ密書が届いています」

 

 その男は、帝国の常勝を支え続けた戦の申し子。ミアンというまだ10代の男は、既に帝国の中枢となっていた。

 

「俺にしか開けられないように、魔法までかけやがって。随分厳重だが、どんな内容だよ?」

「ただの使者たる私には知らされておりません。ただアーロン様、どうか必ずお1人でお読みください、との事です」

「……ミアンはマメな奴だよ、まったく。戦争で忙しいと思ってたが、俺みたいな居残り組まで気をかける余裕があるんだな。こりゃ要は戦功をあげられなくて不満だろう俺のご機嫌取りだろ」

「さぁ、存じかねます」

「慰労金でも貰えるのかね? もし厄介ごとならこの場で引き裂いて捨ててやるからな」

 

 南部戦線の指揮官である、帝国の大英雄アーロンは1枚の手紙を受け取っていた。

 

「……攻めてくる? あの連中が? にわかに信じがたいが」

 

 その手紙には、隣国の侯爵家がおそらく宣戦布告と同時に侵略してくるだろうことが記されていた。

 

「本当に攻めてくれるなら、待ち構えておくだけで勝てるが……、むむ」

 

 そして、ミアンは敵の大将が若きイヴにすげ変わったことで戦況が変化することを恐れていた。今までとは違う奇想天外な策を実行され、南の戦線が突破されてしまうことを危惧していた。

 

 自分が敗北すると心配されている。その事実は少しアーロンを不快にしたが……。

 

「俺が負けるってのか? いや、敵がよくわからんから警戒してるだけだな。心配性なアイツの、いつもの事だ」

 

 流石にアーロンも英雄と言われるだけはあり、彼は感情よりも実利を優先した。

 

 ミアンの言う通り、本当に敵が侵略してきたらどう迎え撃つかを思案する。しかし、その2枚目の手紙には答えが記されていた。

 

「ミアンめ、もし敵が侵略してきたらこうしろって戦略まで用意してやがる……。むむ、アイツらしい嫌らしい手だな。敵の動きが分からねぇなら、こっちから敵を動かしてやればいいって話ね」

 

 大将軍たる彼に、こうしろと戦を指示するなんて本来であれば無礼極まりない。侮辱ともいえるだろう。

 

 しかし若き軍略の天才ミアンを、アーロンは認めていた。だから、彼は軍聖の指示した戦略に乗った。

 

「ミアンの言う通りに本当に敵さんが攻めてきたら、こういう布陣で行こう」

 

 こうしてアーロンは、本来の自分では採用しないだろう奇策を以て、イブリーフを迎え撃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヴ様、山を確保できました。敵兵は方々の体で逃げ出しています」

「上々です。では、このまま敵陣を見下ろして布陣の全容を確認しましょう」

 

 イヴは、山を登った。

 

 山に潜んだ伏兵に迎撃されぬよう、先んじて奇襲をかけた。

 

「……イヴ様。敵陣の様子がおかしいです」

「どこがどうおかしいのですか?」

「設置された砲門が全て山上に……山に居る我々に向かって設置されています!」

「はい?」

 

 それこそが、敵の本命の釣りだった。

 

「山下に、一斉に旗が上がりました! 伏兵の様です!」

「囲まれています! この山は、敵に包囲されています!」

「え、え!?」

 

 敵の伏兵を見つければ、大抵の将はそこを奇襲するだろう。そのまま混乱に乗じて、敵を壊滅させられるケースが多いからだ。

 

 敵に想定外の作戦をさせない為には、敵に分かりやすい勝ち筋を見せてやればいい。

 

 谷間の陣地を見て、何も考えず突っ込んでくるような馬鹿なら山に伏せた伏兵で誘い込み殲滅する。

 

 警戒して山を調べにくるような将なら、山に伏せた伏兵を囮にする。

 

 これはミアンの罠であった。

 

「イヴ様! このままじゃ下の部隊と分断されます!」

「ぐ、引き返してください! この山は死地です、私たちはまんまと敵の策に乗ったのです!」

「だめです! 下はそこら中に設置されていた魔道砲が火を噴いてます! 引き返したら凄まじい被害になりますよ!」

「────、ならば上ります! 山の頂を目指して!」

 

 伏兵が沸き、イヴの軍勢は大混乱。逃げようにも、退路を塞ぐかの様に敵がそこら中から怒声を上げている。

 

 逃げ場は、山の頂しかない。

 

「イヴ様に手を出させるなぁ!!!」

「ちっくしょう、嫌な予感がしてたんだよ私は!!」

 

 イヴの背後に控えていた両翼の部隊が、伏兵を見て慌てて突っ込んでいく。イヴが山で孤立してしまえば、討ち取られてしまうのみだからだ。

 

「ぬおおおん! イヴ様ぁ!!」

 

 2将軍の奮戦の甲斐あり、何とか両翼はイヴと合流に成功した。そしてイヴの軍勢は、そのまま魔道砲から逃げるように山を駆け上がった。

 

「被害は!?」

「まだ、軽微で済んでいます!」

 

 まさに九死に一生、イヴの軍は壊滅を免れた。しかしリーシャ、ゾラの奮闘で極力被害は抑えられたものの、イヴの軍勢は山に孤立してしまう形となった。

 

 こうなってしまえば、逃げ場はない。

 

「まずは、水源の確保を! 川に関を築いて、貯水を始めなさい!」

「お前ら、木を切り倒して陣地を構築せい! 敵が攻めあがってきたら、迎い撃てるようにのう!」

 

 彼女は、まずは資源の確保を優先した。

 

 山下には、凄い数の魔道砲が設置されておる。下手に下れば、死するのみである。

 

 しびれを切らした敵が山の頂きに攻めこんでくることを願って、イヴは山上に陣地を構築した。

 

 もっとも。敵からすれば攻める必要はまったくなく、イヴ達の兵糧が切れて干上がるのを待てば良い。そんな事は、彼女にも分かっていた。

 

「イヴ様、ここで籠城してどうすんだ。どっか包囲の弱いところを切り崩さねぇと」

「わかっていますリーシャ!」

 

 兵糧は、一度に何ヵ月分も用意していない。適宜、領都から補給して貰う心積もりだった。

 

 補給が受けられぬこの状態だと、数週間で兵士が餓死するだろう。

 

 

「────機を見て、少数精鋭で突破します。都のポートさんに、助けを求めましょう」

「もう領都に、戦力はろくに残ってないのでは」

「冒険者に高い報酬を見せてあげれば、多少は募兵出来ます。最悪の最悪、戦時は徴兵が可能ですし」

「……それは、民から怨まれるでしょう」

「このまま私達が壊滅してしまえば、領は踏み荒らされてしまいます。それよりは、と納得して貰う他ありません」

 

 鬼の形相で、イヴは自らの腕の皮膚を充血するほどに握りしめる。

 

「……ああ、憎い。愚かで無様なこの自らの体躯を引き裂いてしまいたい」

「イヴ様、落ち着いてくだされ」

「このままだと、全軍での突破は困難です。私達の兵糧が残っているうちに、外から援軍を連れてきて貰わないと潰滅は必至」

「……」

「外から援軍が到着すれば、包囲も少しは弱まりましょう。上手くいけば、内外で応じて包囲を挟み撃ちに出来ます」

「それしか、無いでしょうな」

 

 まんまと、敵の罠に乗せられてしまった。その愚かさを悔やみながらも、彼女はまだ勝利を諦めていなかった。

 

「……リーシャ」

「分かってるよ、私だろ? 爺様の老体で都までダッシュは辛かろう。私が包囲を突破する」

「お願いします。これから決死の兵を募って、数名ほど供に付けます。どうかご無事で」

 

 外から援軍が来れば、まだ勝利の目はある。

 

 そして敵の重厚な包囲を突破する為には、隠れて密かにやり過ごすか、リーシャの様な豪傑が単騎で力押しで突破するしかない。

 

 リーシャは優秀だ。礼儀が適当だったりよくサボったりするものの、課された仕事はキッチリこなしている。

 

 だからこその、人選だった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ。……どうすっかなぁ」

 

 しかし。流石のリーシャをもってしても、今回の任務は無理難題と言えた。

 

 流石は歴戦の英雄の指揮だ、山の包囲に隙が見当たらない。ぐるり一周、綺麗に陣が立ち並んでいる。

 

 厳密にはちょくちょく陣が薄い所はあるのだが、そこに突っ込むのは妙に嫌な予感がする。敢えて包囲の弱い場所を作り誘ってるんだろうなと、リーシャは当たりを付けていた。

 

 となれば、逆に包囲の厚いところから突破した方がいいのか? いや、それは本末転倒だろう。

 

「……ま、なるようになるか」

 

 困った時、リーシャは難しく考え込まない性質だ。彼女はきちんと軍略は修めている反面で、割とノリや勢いも重視して行動する。

 

 それは、何故か。

 

 

「敵が色々考える頭の良いやつなら、逆にノリで行動してる人間の思考回路なんか読めっこねぇんだよ」

 

 

 そうぼやいたリーシャは適当に棒を放り投げた。そして、その枝の先端が示した方角へ突撃することにした。もちろん、特に意味はない。

 

 こうしてリーシャは、別に包囲が薄くもなければ、領都に近かったり兵士が少なかったりでもない、まさに適当と言える陣地を襲撃した。

 

 無論、色々と小細工を用意していた敵からしても想定外の位置への突撃だったらしい。

 

 上手く敵の隙をついたリーシャは、多少の兵を犠牲にしたものの、なんとか敵陣を突破して包囲の外に抜け出してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、ここからだよな」

 

 包囲を突破したリーシャは、都へ続く道を走っていた。上手く包囲は抜けだせたが、むしろここからが無理難題なのだ。

 

 どうすれば、包囲を外から崩せるだけの兵を募ることが出来るか。あるいは、別の勢力から援軍を得ることが出来るか。

 

「異民族は絶対交渉に応じてくれないだろう。かといって街で徴兵して頭数だけ用意してもあんまり戦力にならん」

 

 1つの案として、北の戦線に派遣したチャラ男ダートを引き戻すことがある。彼の軍が戻ってくれば、まだイヴにも十分に勝機はあるだろう。

 

 しかし、それは首都を見捨てるという行為に近い。ろくに実戦を経験していない首都兵のみで、どうやって帝国を追い返せばいいのか。

 

 そもそも、今から首都までダートに援軍を頼みに行っても、到着まで数ヶ月はかかる。あと数週間で兵糧が尽きることを考えれば、妙案とは言い難い。

 

「冒険者がどれだけ乗り気になってくれるか、だが」

 

 予備戦力として当てになるのは、やはり普段から戦いで飯を食ってる領都の冒険者だ。彼らは時に傭兵として、戦争に顔を出す。

 

 領都に戻ってから彼らをいかに早く募兵できるかが、今回の作戦のキモとなる。

 

「……かなり絶望感あるなぁ。勝てるかなぁこれ」

 

 だが、彼ら全員を集めることが出来たとして、どれほどの頭数になるだろう。そして、我が強く統制が取れないであろう冒険者をまとめあげるだけの技量がリーシャにあるだろうか。

 

 だが、やるしかない。国の存亡がかかっているのだ、なんとしても協力させて見せる。

 

 この先に待っているだろう苦労と重圧に頭を痛めながらも、リーシャは全速力で領都へ続く道を疾走し────

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 そして、彼女は出くわした。

 

「リーシャさん、そんなに急いでどうされたんですか」

「……ポート!?」

 

 のんびりとした口調で、数十人の護衛を指揮する新入りの文官に。

 

「お、お前なんでここに!」

「何で、って見ればわかるでしょう。補給の第一陣ですよ。あとイヴに相談したいこともあったので、領都を抜けてきました」

 

 どこからかき集めたのか。見るに、ポート率いる護衛部隊はそこそこ練度の高そうな傭兵部隊であった。

 

 実は彼らは元はクーデターを起こした中央貴族のお付き部隊だったのだが、「貴族と共に処刑されるか服従か」の二択を迫られ、今はポートの雇われ私兵となっている。

 

 ────渡りに船、とはこの事だった。

 

「……時間がねぇ。イヴ様がやべぇんだ、力を貸せポート」

「うーん、力は貸せないですかね」

 

 数十人の部隊とは言え、猛将リーシャが率いればそこそこの戦力になるだろう。特に、森林や山に囲まれたこの付近だと少数部隊でも奇襲をかけやすい。

 

「は、何言ってんだ?」

「僕はリーシャさんみたく強くありませんから。頭なら貸せますけど、力は当てにしないでくださいね」

「言葉遊びは良いんだよ」

 

 こうして都合よく戦力を確保できたリーシャは、状況を打開する知恵を求めポートに状況を説明した。

 

 イヴの部隊が囲まれ、非常にまずい状況に陥っていること。このままでは全滅を待つのみであること。

 

「……えー。それ、本当にやばい状況じゃないですか」

「だから焦ってんだよ」

「うーん。でも、そうなっちゃったらやることは一つじゃないですか」

 

 軍の状況を知り、眉を顰める文官少女。その目には、焦りと呆れが見てとれた。

 

「やることは一つ?」

「……少なくとも、僕には他に何も思いつかないですね」

 

 

 ────生まれて初めて経験する、本格的な戦争。

 

 ────その辺の雑兵とは違う、正真正銘の『英雄』を相手取る戦い。

 

 そして、この戦争で────

 

 

「じゃあ、ちゃっちゃとイヴ様を助け出しますか」

「ポート、お前そんな簡単に……」

 

 

 何処にでもいる普通の少女だったポートは、その名を世界に大きく轟かせることとなった。

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