TSっ娘が悲惨な未来を変えようと頑張る話   作:生クラゲ

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変わる未来

「なんでこうなった?」

 

 

 前世では、それこそ毎日のように仲良く遊びまわっていた幼馴染4人組。僕とアセリオ、リーゼ、ラルフの凸凹カルテット。

 

 今世でも、特に何かをしないでも同じように仲良く遊びまわれるものだと、僕は思い込んでいた。

 

 

「お前はゼッタイに、ぶっとばしてやる!!!」

 

 ラルフは憤怒の形相で、顔を真っ赤に僕を睨みつけ叫んでいて。

 

「……ぷいっ」

「……つーん」

 

 リーゼとアセリオは何やら無言で、苦々しくお互いを見つめあっている。どう見ても仲良しには見えない。

 

「おぼえておけよマジョの手先!! あしたこそ、コテンパンにしてやるからな!!」

 

 ちびっこラルフはそう捨て台詞を残すと、リーゼの手を引いて半泣きで立ち去った。その様子を、アカンベーしながら追い立てるアセリオ。

 

「……あいつら、ムカつくね。ポート、おっちゃんの店にいこ? あたし疲れちゃった」

「あ、う、うん。そうだね、アセリオ」

 

 ど、どうしてこうなった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ポートの方が、何もかも強かったの」

 

 いつもお世話になっている宿屋のご主人の前。甘いジュースを口に含みつつ、アセリオは頬を膨らませてぷりぷりと怒っていた。

 

「ラルフっていうランボーものがね、ポートに何やっても勝てないからハッキョーしたの」

「あー、鍛冶のランボさんとこの息子さんだね。ケンカしちゃったのかい」

「……ちがうの。ラルフがガキっぽいの」

 

 そんなアセリオの愚痴を、苦笑いを浮かべながら聞いてくれているご主人。

 

 僕がラルフにケンカを売られた結末は、こうだ。

 

 僕とラルフの決闘なので女の子組は座って観戦、僕とラルフは色々な『ゲーム』で勝負をすることになった。

 

 最初は『鬼ごっこ』『玉蹴り』など遊びながら勝負していたのだが、僕が大人のセコさというか戦略で圧勝。

 

 それで、少し機嫌が悪くなったラルフが相撲を提案してきた。体格では、僕よりラルフの方が一回り大きい。彼も、肉体勝負ならさすがに勝てると踏んだのだろう。

 

 だけど、僕は小さなころからラルフとそういった遊びを『死ぬほど』やり続けてきたわけで。どんなに体格に差があろうと、僕が負けそうになることはなかった。相撲の1戦目は、ラルフが何もできぬままに圧勝してしまった。

 

 ……これはマズイなぁ。相撲勝負になっても、僕が完勝したらラルフはきっと傷ついてしまう。

 

 そう考えた僕は、コッソリ手を抜いて2戦目からわざと負けだしたのだが────

 

 

 

「俺をバカにしてんのかぁ!!」

 

 

 

 うまいことやったつもりだったが、勝負に手を抜いたのをラルフに勘づかれてしまったようで。彼はそういった同情を非常に嫌う性格で、かつ同時に動物的な勘がものすごく鋭い少年なのだ。

 

 勝負で手を抜かれたと気付いた彼は激高し、半泣きになりながら走り去ってしまって。僕は唖然と、その彼を見送ることしかできなかったのである。

 

 

 ────一方で。アセリオとリーゼはというと。

 

 

『あんなにチビなのにラルフにかつのおかしい。ズルっこだ!』

『……ポートはズルっこなんかしてない。ラルフ、ざこ』

『あんたが何かマホーつかってるんでしょ!!』

『……遠吠え・負け犬・大爆笑』

『むきーっ!!』

 

 

 そんな感じでお互いの仲良し相手を擁護しようと煽り合った結果、喧嘩に発展してしまった様子。僕とラルフのケンカの余波で、彼女たちの仲まで険悪になってしまったようだ。

 

 しまったなぁ、幼馴染みと仲良くなるチャンスを僕のポカで不意にしてしまった。なんとか挽回する機会が欲しいけれど……。

 

「あんなのにかかわる必要、ない……」

 

 アセリオがガッツリ、彼らのことを嫌ってしまったようだ。いきなり魔女扱いされた上に喧嘩を吹っ掛けられたのだから無理もない。

 

「まぁきっと彼らも悪気はなかったのさ。また、話す機会があれば印象も変わるかもね」

「……むぅ」

 

 そんな感じで、中途半端なことを言ってアセリオを宥め。僕は前世の親友たちとの関係をこれからどうすべきか、頭を悩ませるのだった。

 

 ……子供の人間関係なんて単純と思っていたけれど、単純だからこそ難しいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、覚えてやがれコノヤロー!!」

「ま、またね~?」

 

 ……そのまま、半年ほどの月日が経った。僕たちは、やはり険悪な関係のまま日々を過ごしていた。

 

「ヒキョーモノ!! マホーを使うなんてズルっこい!!」

「……敗者・戯言・聞く価値なし」

「むっきー!!」

 

 アセリオとリーゼも、相変わらずの不仲っぷり。前世ではこの頃は二人でおままごととかしていたのに……。二人並んで仲良く泥団子を作っていた前世の光景を思い出し、悲しくて涙がこぼれそうだ。

 

 だが、ラルフが吹っ掛けてくる勝負に手を抜く訳にはいかない。彼は異常に勘が良いから、ちょっと手加減したらそれを機敏に察し激怒させてしまう。

 

 だからと言って手加減をしないと、まぁ経験の差で僕が圧勝してしまう。体格に微妙な差はあれど、同い年だし誤差みたいなものだ。

 

 前世はお互いに本気で勝負できてたから楽しかったんだな。むぅ、どうしたものか。親友と思っている人間に毛嫌いされるのは、やはり心苦しいものだ。

 

「やっぱり、ポートの方がかっこいい……」

「ありがと、アセリオ」

 

 こうしてアセリオが味方でいてくれるだけ、前世の最後よりははるかにましだけど。

 

 

 

 

 

 

 ……さて、友人関係に悩むのもこれくらいにしないと。僕の目的は人生をもう一度楽しく遊んで暮らすことではない。

 

 まもなく僕は4歳となる。つまりそろそろ、最初の僕の人生の分岐点……『母の命日』が近づいてきたのだ。

 

 

「ねぇ、父さん」

「何だい、ポート」

 

 母の死は突然だった。いつものように遊びまわって、家に帰ると母が死んでいることを知らされた。

 

 死因は……獣害。野良狼の群れが村の近くに住み着き、母がその最初の犠牲者となったそうだ。

 

 その後に冒険者に依頼し、1月後に狼の駆除を行ったのだが……その間に実に3名もの村人が狼の犠牲になったという。

 

「僕、アセリオにお花を摘んできてあげようと少し森に入ったんだ」

「なに? コラ、危ないから森に入っちゃダメだと教えただろう」

「ゴメンなさい、父さん。でも、聞いて」

 

 つまり。母の命日の5日前、狼の群れが山に潜む時期になった瞬間。

 

「黒色の狼が、数匹歩いていたよ。危ないから、村人に注意喚起した方がいいと思うな」

「────な!? なんだって!!」

 

 僕が自ら、狼を見つけたことにすればいい。それだけで、歴史は大きく変わるだろう。

 

 

 

 

 

 

「やあ。あれはまぎれもなく、Bファングだな」

「村の方たちは、夜間に出歩かないように。日中も決して一人にならず、複数人で集まって行動してくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 僕の狼の目撃情報を基に、まもなく冒険者が派遣されてきて。山を調査し、間違いなく黒狼の群れが山に居ついたことが報告された。

 

 村人は森に入ることを禁止され、専門の討伐パーティが派遣されるまで夜間は村内を移動禁止となった。

 

 まぁ、つまりこれで。

 

「母さん」

「大丈夫よポート、母さんはここにいますよ」

 

 母が死ぬ契機となった『不慮の事故』も起きうるはずがないということだ。基本的に外出は、日中の明るい時間に屈強な村の若者が武装して数人で固まって行う。それも、最低限の農作業をこなし食料や水など生活必需品を各家庭に配る時のみである。

 

 そして、数週間後。黒狼討伐のために結成された冒険者パーティにより山狩りが行われ、村は一人の犠牲者も出すことなく危機を取りきることができた。

 

 前世では二度と帰らぬ人となった『母さん』は、命日を過ぎてなおニコニコと僕を抱いて笑ってくれている。その事実が、僕の心をどれだけ明るく照らした事だろう。

 

 

 ────変えられるんだ。未来は、残酷で悲惨なあの景色は、きっと素晴らしいあるべき姿に導くことができるんだ。

 

 

 母親の命を救えた。それはつまり、未来というのは決して決まった運命をなぞるものではないということ。

 

 母が救えたなら、父だってきっと救える。何なら、これからの僕の行動次第でこの村全員だって救える。それが、はっきり証明されたようなものだから。

 

「村人が誰も死ななくてよかったよ。ポート、勝手に森に入ったのはよくないがよく知らせてくれたね」

「もし見つかってたらポートが食べられちゃったかもしれなかったのよ。もう、勝手なことをしちゃだめよ」

「ごめんなさい、父さん母さん」

 

 両親からそれなりに怒られはしたけれど、僕はうれしくて仕方がなかった。将来に希望が持てる、それだけで嬉しかった。

 

 未来は決まっていないのだ。僕はやり直す権利を得たのだ、未来は作り直せるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 そう。それはつまり────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 黒狼が冒険者たちによって全滅させられた翌日。村に活気が戻り、町では祝祭が開催され、狼肉の料理がそこら中でふるまわれている最中。

 

 1か月ぶりに顔を合わせた僕とアセリオは、香ばしい肉の香り漂う田んぼ道をいつもの様に歩き出した。

 

 久しぶりに並んで歩く、散歩道。アセリオは随分と寂しかったようで、僕と会えなかった時に家で何があったかを事細かにしゃべり続けた。

 

 そして、彼女は今日は特別に3つの超魔術を見せると宣言し。それは楽しみだなぁと寝ぼけたことを考えながら、はしゃぐアセリオに付き従って────

 

 

 

 

 ────アセリオが、黒い影に飲み込まれるその瞬間を目視した。

 

 

 

「────っ」

 

 それは、疾風のごとく。優しいほほえみを浮かべる彼女の右肩をガブリと噛み縛り、アセリオが悲鳴を上げる間もなく地面に叩きつけて昏倒させた。

 

 その、突然現れた『敵』の姿を認識して。僕はやっと、何が起こったかを悟る。

 

「こっ黒狼っー!!!!」

 

 僕の絶叫が、村に木霊する。

 

 アセリオに飛び掛かり、そして昏倒させたその敵は黒狼だった。

 

 冒険者たちにより行われた山狩りをやり過ごし、生き延びることができた熟練の狼だった。

 

 

 大きさからして成体であろう。目つきは鋭く、その瞳の奥には激しい憎悪が見て取れる。

 

 僕たちは、仲間の仇。群れを全滅させ、その血肉を焼いて宴をしている人間は彼にとってさも恨めしいだろう。

 

 

「アセリオを、返せっ……」

 

 幼い僕の体では、正面切って戦っても勝てるわけがない。黒狼に持ち帰られる肉が二つに増えるだけだ。

 

 だから、僕は石をぶつけて彼の注意を引くように画策した。怒った黒狼が僕を追いかけてくれば、そのまま大人達の元まで逃げ切ればいい。

 

 獣から逃げる術は、よく学んでいる。小さい体で不安ではあるが、決して分が悪い勝負ではない。何より、アセリオをこのまま連れていかれるわけにはいかない────

 

 

 

「返せ! 返せってば!!」

 

 

 

 ……だが。その黒狼は、そう甘くはなかった。

 

 石を必死で投げつける僕を1睨みして。放たれた石から逃げるかのように、黒狼はアセリオを咥えたまま森の中へと走り去って行く。

 

 頭部から血を流し、力なく引き摺られている非力な三歳の女児。それは、狼にとって食べ頃の『食料』。

 

 

 

「アセリオォォォォっ!!」

 

 

 

 僕は絶叫し、必死で石礫を掴んでは狼に投げ付ける。だが狼は動きが速い、とても当たる様子がない。

 

 そうだ。未来は確定なんかしちゃいないんだ。『前世ではアセリオが生きていた』からといって、今世でも彼女が生きているとは限らない。

 

 アセリオは。僕が『母さんを救うべく介入』した結果、あっさりと死んでも何もおかしくない────

 

 

 アセリオを咥えた狼が、森の中へと入っていく。僕の投擲は、結局一度も当たらない。

 

 追いかけるか? このまま何も考えず、一人でアセリオを追いかけて……、いや待て。

 

 追いかけてどうなる? 僕が、3歳の幼児である僕が黒狼と対峙してどうする。殺されるのが落ちだろう、彼からすれば餌が追いかけてきたようなものだ。

 

 アセリオが即座に殺されないことを祈って、大人を、冒険者さん達を呼びに行くべきか。

 

 ああ、そうだ。こんな時こそ冷静に、理論的に行動しろ。僕が狼が逃げた方向を覚えて、一刻も早く大人達に報告しにいかないと。

 

 

 

 

 

 

 ────そんな悠長なことをしていれば。アセリオは食い殺されるに決まっているのに?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はしれ!! この、おおばか!!!」

 

 

 ガツンと、一発。頭に衝撃が突き抜けて、誰かが僕を置き去りに森の中へと駆け抜けていく。

 

「リーゼ、おまえがパパ達よんでこい!!」

「う、うん」

「ポートォ!! なにのんびりしてんだ、おまえは走れ、ノロマ!!」

 

 その何かに怒鳴られ、僕は思わずビクリと立ち上がり。促されるままに、その何かと一緒に森の中へと駆け出した。

 

 正直、何が起こったのかよくわからない。僕はその怒鳴り声に命じられるがまま、アセリオを追いかけて森の中を疾走する。

 

 あの、獣の逃げた先へ。がさがさと大きな音を立てて、アセリオを咥え移動している怨敵の元へ。

 

「えっ……、あっ……」

「まだ追いつける。アイツ、重いものもってるからきっとおそいんだ!」

 

 突如、この絶体絶命の窮地に割って入ってきたその声の主は。

 

「ラル、フ? なんで君が」

「ごちゃごちゃうっさい!! とりあえず助けるぞ、あの性悪マジョ!!」

 

 茶色の短髪、鋭い目つき。幼いながらに、覇気のある声量。

 

 僕の前世の親友にして、動物的な勘と圧倒的な行動力で、幼い僕達のガキ大将だった頼れる存在。

 

 

 ラルフが、僕とアセリオのピンチに颯爽と駆けつけてきたのだった。


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