TSっ娘が悲惨な未来を変えようと頑張る話   作:生クラゲ

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奸計

 こうして、僕らの戦争は終わった。その結末はイブリーフ侯爵家による、最高の条件での和睦だった。

 

 一応は帝国に従属する形にはなるものの、自治や内政権を認められたままの降伏は事実上の勝利と言えた。何が一番大きな戦果かと言われれば、軍事内政権を掌握されなかった点に集約される。

 

 侵略され屈服した他国の扱いは『植民地』。しかし、僕たちの国は『従属した親国』として扱われる。

 

 従属したことにより僕らは何の権利も失わず、ただ帝国が僕らの国を攻める大義名分を失っただけの形だ。

 

「なのに、王様はカンカンなんですか?」

「勝手に属国にされた事に憤っている様子なのです。……はぁ」

「侯爵家が南部戦線を突破しなければ、首都は陥落し皆殺しになっていたのに?」

 

 だがしかし。

 

 このイシュタール前領主の交渉の価値が、僕らの王には伝わらなかったらしい。後方を襲撃し一転して有利な状況になったのに、何故降伏したのかと侯爵家に呼び出しがかかったのだ。

 

 僕はイヴと共に、王へ釈明すべく首都に向かう羽目となっていた。……僕は今回の政策のせいで彼女の腹心的立ち位置にされたらしく、今後は基本的にイヴに沿って行動することになるらしい。

 

 ……イヴ曰く僕から目を離すと何をしでかすかわからない、だそうだ。そんな事を言うなら最初から内政官に任命しなければ良いのに。

 

「ただし、別に私たちが下手に出る必要はありません。むしろ、讃えられてしかるべきなのに。それをしない王はただの暗愚な俗物です、へりくだる必要はありません」

「……それは、まずいのでは?」

「不味くないです。とあるお方が大改革したせいで、私たちの領土の商業基盤が首都とほぼ並んでしまっています。経済的には互角、軍事的には私達に分がある。王権や首都というのは名ばかりで、今や実質的な権力は侯爵家にありますもの」

 

 ふふん、とイヴは珍しく得意げな顔をする。

 

「私の配下達は、首都の人材よりはるかに優れておりますので。侯爵家3将軍はこの国トップクラスの指揮能力を持ち、経済商業に関しては貴女が加入し、未だ私のお父様も健在です。汚い権力争いばかりして本業の政治をおろそかにしている首都の面々がどう騒ごうと、私達に手出しは出来ない程に資金力と軍事力の差があるのです」

 

 ……それは、薄々感づいていた。ただでさえ軍事力は侯爵家頼りなのに経済基盤まで首都を抜いてしまったなら、事実上のこの国の首都は僕らの領になってしまう。

 

 この調子で経済成長を続けたら、イヴが事実上の王様になってしまうだろう。もしかしたら国王は、それを恐れているんじゃないか?

 

「もしも愚かな国王が私達をどうこうしようものなら、私達を護衛してくれているゾラ将軍が首都を攻め滅ぼしてまで助けてくださいますわ」

「……そうならないことを祈るよ」

 

 イヴはイヴで、王様を若干軽んじている節があるし。まぁ、実際話を聞く限りは小物っぽいんだけど。

 

「というか、まさか僕まで国王の前に出頭させられるんですか?」

「いえいえまさか、ポートさんはお留守番です。王様への弁明は、私自ら行いますわ。ポートさんは、その間に首都圏の商業基盤を掌握してください」

「えっ」

 

 ……えっ?

 

「首都の商業圏をポートさんが掌握できたなら、国王と言えど私には一生頭が上がらなくなります。無論、私達に手出しできませんわ」

「いや何言ってんですかイヴ様」

「首都には3日ほど滞在する予定なのですが、それで首都を掌握する時間は足ります?」

「出来るわけないでしょう、イヴ様はアホなんですか」

 

 3日で首都圏の商業掌握しろって、イヴはいきなり何とんでもない無茶振りするんだ。前世の悪癖が今出たのか?

 

 そんな出来っこない命令は即答で断ったが、断られたイヴはむしろホッとした顔で僕を見ていた。

 

 何なんだ。

 

「……よかった、流石に出来ませんわよね。正直、二つ返事で頷かれたらどうしようかと内心焦ってました」

「何なんですか、そのカマかけは」

 

 イヴも出来っこないと思っていたらしい。なら、そんな命令しないでよ。

 

「いや、ごめんなさい。まだポートさんの底が見えないので、時おり今みたいに無茶な命令を出していこうと考えまして。早めに部下の限界値を把握しておかないと、いつか本当の有事の際に無茶な命令を出してしまいかねませんもの」

「……いや、僕の底なんてすこぶる浅いですけど。試す必要なんて────」

「いや、そういう謙遜は要りませんわ」

 

 ピシャっと、イヴは僕の弁明を遮って捨てた。

 

 ……本当に、イヴの過大評価が過ぎる。それもこれも、こないだのまぐれパンチのせいだ。

 

 この前の『戦時免税』に関しては、確かに帝国商人を呼び込んで敵の弱体化までは狙ったけど、それが戦局を左右する様な大仕掛けな罠になるとか全く想定していなかった。

 

 しかしイヴは僕が神算鬼謀を働かせ、敵領地を騙し取ったみたいに考えている節がある。はっきり言おう、完全にまぐれだ。

 

 僕は無我夢中に領都の発展を目指していただけで、その発展の副次効果としてあんな展開になっただけだ。もし僕が全てを予測した上でそういう戦略を練ったなら確かにヤベー奴だけど、あのラッキーパンチを僕の実力と思われたらたまらない。

 

「まぁ掌握は無理にせよ、せめて首都の商人に顔は繋いできてくださいまし。今後経済関連の仕事はすべてポートさんにお任せするので」

「……僕が数年で辞める事、忘れてませんよね」

「今回の戦争中、ポートさんが主導で大改革を行ったのですわ。せめて侯爵家の貯蓄が戻り、貴方の主導した政策が安定するまでは貴方が指揮を執るのが筋ですわよ」

「それは、まぁ……」

「無論、それでも仕事を投げ出したいのであれば私は止めません。ですが、これでも私は貴女の事をよく理解しているつもりです」

 

 自称僕を理解しているというイヴは、僕の髪を撫でながらこう言った。

 

「貴女は自分が思っている以上に賢明で、自らを評価している以上に優秀で、そして誰よりも責任感が強い方ですわ。その根底にあるのはきっと、村の仲間────。いえ、貴方の大切な幼馴染でしょうか? そんな自分にとって大切な人への、この上なく深い愛情です」

「……」

「この国にとっての危機となれば、貴女の大切な人にとっても危機なので、貴女は絶対に立ち上がるでしょう。だから私は、ポートさんが今すぐ仕事を投げ出して村に帰っても文句を言いませんわ。来るべき時が来たら、貴女は絶対に力を貸してくれると分かっておりますので」

「それは、その」

「ただ、そうですね。貴女の本領は国の存亡の危機という状況より、平和で穏やかな日々でこそ輝く。安穏とした生活を、より高みへと導くのが貴女の力です」

 

 そこまで言うと、イヴは僕の髪から手を離して笑った。

 

「貴女は今までに、貴女の村で得て感じた知啓を生かしてください。それが、他ならぬ誰より大切な貴方の仲間のためになります。これからの貴女の手腕に、期待しておりますわ」

「参ったな。イヴ様にそう言われてしまったら、非才な身なれど精一杯頑張らなきゃって気になってくる」

 

 まったく、結構人を乗せるのが上手いんだ、イヴという少女は。確かに、村のみんなの為と言われたら僕は粉骨砕身頑張るしかないだろう。

 

 王としての器は、やはりイヴにもバッチリ備わっているらしい。部下をその気にさせるが上手い人間は、上司として優れている証左だ。

 

 せいぜい、僕がお役御免になるまでは少しでもこの領地に貢献するとしよう。

 

「分かりました。イヴが仕事をしている間にこの首都圏の商人さんと、上手くコネを作ってきます」

「よろしくお願いしますね」

「ただ掌握とかは無理ですからね。せいぜい、取引先になって貰う程度です」

「ふふ、あれは言ってみただけです。それで十分ですよ」

 

 よし。3日間という短い期間だが、今急進中の領都商圏の責任者という僕の立場を知れば、複数商社と契約は結べるはずだ。

 

 王様への弁明は、どうせイヴが上手くやるだろう。僕は、僕に任された仕事をこなすことに集中しよう。

 

「そもそも、商社を掌握しようって発想が間違っています。確かに、商人は首根っこ掴んでおかないといつ裏切るか分からないですけど、本気で掌握しようとすると反発も凄いし時間もかかるでしょう。適度に泳いでもらうが一番です」

「ふふ、そうですね」

「大体この都の規模なら、少なくとも掌握に1月はかかります。こんな遠隔地の商圏にそれだけ時間をかける価値があるかは、分かりませんね」

「……」

 

 遠隔地になればなるほど、顔を合わせる機会も疎になる。となれば、あっさり掌握され返される可能性もある訳で。

 

 商人を掌握するのは権力の地盤がしっかりした地元だけで良い。

 

「じゃあ、行ってきますイヴ。少しでも顔を売ってきますよ」

「は、はい。頑張ってください」

 

 さてさて。この都で話が分かりそうで有力な商人って誰が居るんだっけ。

 

 こんなこともあろうかと、一応領都で見繕っていた資料があるはずだ。時間も限られているんだ、よく吟味してコネクションを作りに行こう。

 

 

 

「逆に1月あれば掌握は出来るんですね、ポートさん……」

 

 仕事をすべく駆けだした僕の背後で、どこか呆れたような声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リーグレットさん、次は何処の商社にアポ取れましたか?」

「ダラオマ錬鉄会の会長が、お会いになってくれるそうです」

「おお、鍛冶師の商業組合さんか。良いね、首都の錬鉄技術は欲しいと思ってたんだ」

 

 イヴと別れて、1日ほど。僕に任された仕事は、順調に進んでいた。

 

「商業に加えて技術まで首都に追いつくことが出来たら、イヴの言う通りに確かに僕らの領土と首都の力関係が逆転しますね」

「ええ、我らが国王からしたら気が気でないでしょうな」

 

 目をつけておいた幾つかの商会と、既に契約が取れている。この調子で一つでも多くの商社と、陸路を通じて通商関係を結ぶのだ。

 

 こちらには、帝国商人達が入って来たことにより新しい商品が結構ある。これらの流通ルートを首都にも伸ばすことが出来れば、ますます僕らの領は発展していく。

 

 それはもちろん、首都も同じだろう。これは、お互いに利益の大きい交渉だ。

 

「ところで。国王様がイヴ様を害する可能性はないですかね?」

「えぇ……。それは、流石にしないでしょう」

 

 リーグレットさんの懸念を、僕は笑って切って捨てた。

 

 国王は話を聞く限り小物っぽいけど、それでも王様を名乗っているのだ。ここでイヴに危害を加えたりする程、愚かではないだろう。

 

 ここでイヴに何かしたら、僕らの領と首都の間で戦争が始まる。そうなれば軍事力の差で結末なんて見えてるし、その『内乱』で得をするのは国王でも僕らでもなく、帝国だ。 

 

 『反乱を鎮圧する』という再侵攻の名目が立つし、ただでさえ戦力差が酷いのに主力の僕らが疲弊していたのでは敗北必至だ。

 

 国王の権力をもってしても、イヴに手を出すことは不可能。むしろ王は、イヴにゴマを擦るくらいの態度でないと厳しいはず。

 

 ────ただ、彼にも国王としてのプライドとか立場とかもあるだろう。本来の権威通りにイヴが1歩引いて国王を立てつつ、弁明の結果お咎めなしで終わらせるのがちょうどよい落としどころだろうな。

 

「そのあたりは、イヴが上手くやる筈です。彼女は怖がりですが聡明で優秀な人ですから」

「まったく、その通り。では、我々は我々の仕事をしましょうか」

 

 彼女の事だ、上手にやっているはず。僕達は早く仕事を進めて、より大きな成果を挙げねばならない。

 

 

 

 そう、思っていたのだが。

 

 

 

「失礼します。貴女は侯爵家の内務官、ポート様でいらっしゃいますか」

「え? は、はぁ。僕はポートです」

 

 僕達が次の商談へと向かおうとした矢先、正式装備の警護兵に話しかけられて囲まれる。

 

 ……え、これは何だ?

 

「国王様より、侯爵家に翻意の疑いがかけられております。申し訳ありませんが、侯爵家の方々の身柄を拘束するよう命令が下りました」

「────は?」

 

 翻意? 僕らが、翻意?

 

「帝国と内通し、国を売った。それが、イブリーフ侯爵に賭けられた嫌疑です」

「え、ちょ、はぁあ!?」

 

 何だそれは! まさか、本当に国王はイヴに手を出したのか?

 

 あの交渉は、イシュタール様だからこそ結べた値千金の講和だったじゃないか。国王は前世のイヴ並の白痴なのか!?

 

 そんなことをしたら侯爵家と首都で戦争になる、そして軍事力で劣る首都は廃墟と化す。そんな事すら、分かってなかったのか!?

 

「あなた方が無実であるならば、騒ぎ立てる必要はないでしょう。大人しくご同行願います」

「……」

 

 とはいえ、現状はすこぶるマズい。王が暴走してイヴや僕を害したとして、その先に不幸な結末しか残らないのだ。

 

 なんとか、この窮地を脱せねば。

 

 僕の装備は、腰に巻いたボーラ1個。ここは街中だ、付近に石は見当たらないので補充は出来ない。

 

 リーグレットさんは一応帯刀しているけど、周りを囲む警護兵は数十人いる。さすがに、この人数の相手は難しいだろう。

 

 ここは、おとなしくするのが賢明か。

 

「僕らの処遇はどうなるのです」

「それは、追って連絡させていただきます」

 

 いや、待てよ。これ、おとなしくしていたら殺されるだけとかそんなオチにはならないか?

 

 く、どっちが正解だ。こうなるんだったらラルフ達を護衛に連れて来るんだった。帝国領に侵攻していく主力軍に、幼馴染を組み込むのは躊躇って外してしまったが……。

 

 マズい。この首都には頼れるアセリオも、ラルフもリーゼも居ない。首都の城門外にはゾラさんが控えてくれているけど、そこまで逃げ遂せる手段はあるか?

 

「では、ご同行願います」

「……」

 

 落ち着け、冷静になれ。多分、今のこの状況が運命の分かれ道だ。

 

 本気の抵抗をするなら、成功率の高い手段を。抵抗しないのであれば、少しでも従順にして油断を誘わねば。

 

 どっちだ────

 

「エターナル・フリゾナルシュート!!」

 

 僕が必死に行動方針を考えていたその時、聞き覚えのある声と共に人の頭ほどの大きな氷の塊が数個かっ飛んできて兵を吹っ飛ばした。

 

「ポートさん、こちらです!」

「イヴ!!」

 

 その声のした方を見ると、そこに居たのは剣を抜いた僕らの主、イヴの姿だった。

 

 彼女は、まだ捕らえられていなかったらしい。

 

「王は駄目ですわ! 私を殺しても、侯爵家の配下全員が従順に自分に従うと思い込んでいました! 申し訳ありません、今代の王は愚物と聞いていましたがあれほどとは!」

「……い、居たぞ侯爵だ!!」

「私を取り逃がしたら、すぐにポートさん達の確保に向かうと思いましたわ。ポートさんは渡しません!!」

「イブリーフが居るぞ! アイツが本命だ、捕らえろ!!」

「にわか仕込みの都剣術で、私を倒せるものですか!!」

 

 聞くとイヴは自力で王から逃げ出し、僕達が狙われる可能性を考え助けにきてくれたらしい。

 

 間髪入れず彼女が撃ち込んだ魔法で、僕らの包囲網が乱れた。よし、今が好機だ。

 

「リーグレットさん!」

「了解です!」

 

 陣形の乱れに合わせて僕達は、二手に分かれイヴの傍を目指した。少しでもかく乱しようという、苦肉の作戦だ。

 

「く、逃がすな────」

「足元、見なくて大丈夫?」

 

 僕の正面に兵士が立ちふさがったのを見て、腰から抜き去ったボーラを兵士の足に投げ付けた。

 

 初見の武器に対応できなかったのか、兵士はボーラに足を取られ、そのまま地面に倒れこんだ。狙い通りだ。

 

「背中失礼!!」

「いでぇ!!」

 

 僕はすかさずその兵士の背中を踏んづけ、包囲を突破した。骨とか折れてたらごめん、兵士さん。

 

「ぐ、応援を呼べ! イブリーフ侯爵は、本当に強いぞ」

「ぐああ! 腕が!」

 

 イヴはと言えば兵士相手に一歩も引かず切り結び、意気盛んに敵を押し返していた。本当に強いんだな、イヴ。

 

「ポートさん、リーグレット! 私の後ろに!」

「はい!」

 

 そのまま駆け抜けるように、僕とリーグレットさんはイヴの背後に逃げ込んだ。守るべき主を盾にするのも変な話だが、ここは彼女に任せるのが一番だろう。

 

「道の奥へ逃げますよ! 細い路地の方が、多人数相手に応戦しやすいですわ」

「はい!」

 

 あとは、イヴがどれだけ早く敵を追い払えるかがカギになる。応援を呼ばれて囲まれたらたまらない。

 

 頑張ってくれよ、イヴ────

 

 

 

 

 

 

「銀鎖の計」

 

 僕達が、細い路地に逃げ込んだその瞬間。

 

 ……何故か突然に多量のレンガが路地に降り注ぎ、路地の入り口を塞いでしまった。

 

「え?」

「あ、あれ? 何ですか、これは」

 

 路地に逃げ込むように指示した本人のイヴも、きょとんと降り注いだレンガを見ている。彼女の策略ではないらしい。

 

 だが、これは幸運だ。これで、追っ手はこの道を通れない。

 

 このまま路地を右往左往に駆け抜ければ、上手く兵士を撒けるだろう。

 

「イブリーフ侯爵閣下と、お見受けします」

 

 このレンガはイヴの仕込みではない。周囲を見渡すと僕とリーグレットさんとイヴと……、見慣れぬ服装の見覚えのない『少年』が居た。

 

 おそらくレンガの仕掛け人は、飛び込んだ路地の中にぼんやりと佇んでいたこの一人の『少年』という事になる。

 

「え、貴方は誰ですの? 通りすがりのお方……ですわよね?」

「まぁ確かに通りすがりなのですが、貴方の強力な味方だとお思いください」

 

 彼はそう言って丁寧にお辞儀し、イヴの足元で跪く。

 

「僕も色々と巻き込まれに巻き込まれて、こんなよく分からない立場になっちゃった可哀そうな人間なんです。ですがまぁ……、貴方の味方には変わりありません」

 

 その『彼』は、頭上に疑問符を浮かべているイヴの手を取って路地の奥を指さした。

 

「この先に、僅かながら僕の手勢を用意しています。彼らと共に、貴軍の待機する城外を目指しましょう」

 

 彼はそういうと、イヴの手を引いたままスタスタと路地の奥へ歩いて行く。口調と言い態度と言い胡散臭さが服を着て歩いているような印象の男だが、不思議と信用する気にもなってくる。

 

 誰なんだ、この男は。

 

「えっと。その、貴殿のご助力には心より感謝いたしますわ。ですが、貴方は一体?」

「ああ、これは失礼を。貴女は『一応』、女性なんでしたね。では、男の僕から自己紹介させていただきます」

 

 そんな、心にも思ってなさそうな謝罪を口にした後。

 

 僕と同い年くらいの、幼さすら残る顔をしたその男はこう名乗った。

 

「僕は今回の作戦においてペディア帝国軍の、総司令官をしておりました。『叡智の泉』『常勝無敗』等と、陛下から様々な称号を頂いております、まさにこの帝国一番の果報者」

 

 その名前は、ずっと領都で政治にいそしんでいた僕ですら聞き覚えがあった。無敗の男、軍略の申し子、そして今回の戦いでイシュタール様がやり込めた帝国の『英雄』。

 

 ましてや実際に前線で戦っていたイヴならもっとよく聞いた名前だろう。憎く恨めしく、何度も殺したいと思うくらいには。

 

「僕は『軍聖』ミアン・アルベールと申します。爵位なんてものは無いので、辺境自治区の大貴族たるイブリーフ様には呼び捨てていただいても結構ですよ」

 

 そこに居たのは、憎き帝国の大英雄だった。

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