TSっ娘が悲惨な未来を変えようと頑張る話 作:生クラゲ
「ああ、チビリオな。あの娘に限らず、アセリオは大体チビっ子に人気だぞ」
「アセリオは、村に居る時と何も変わらないなぁ」
僕は背中に引っ付いたチビリオを連れて、屋敷の広間に顔を出した。
そこでくつろいでいたラルフに話を聞くと、どうやらこのチビリオは怪しい集団ASROのメンバーの娘さんらしい。謎の集団として奇行に及ぶ際、家に子供を一人残すのは不安だという親の為に、僕の屋敷で一時預かりするシステムを構築したそうだ。
ふむ。ASROは、育児福祉の行き届いた素晴らしい団体の様だ。
「アセリオ曰く、ASROは義賊みたいなもんらしいぞ。世のため人のためになることを積極的に行い、自己満足に浸る集団だとか」
「アセリオらしい」
「あいつはスゴいぞ。最初はただの一人の自己満足だったのが、次々に仲間が出来てあの人数になったんだ」
「僕も欲しいんだけど、そのカリスマ」
今世のアセリオには、人を惹き付ける魅力がある。思春期特有のハッチャケが高じて、変なカリスマを纏い始めている。
そのスキル、本来は僕に必要な能力なんだけど。僕に人望が無いから、反対派の貴族に狙われまくっている訳だし。
「……カリスマだー。わははー」
「よしよしチビリオ。あの人気も納得できるだけの積み重ねがあるんだよな、アセリオには。何でも悪徳貴族を成敗したり、迷子で居なくなった子供を見つけ出したり、無料で大規模なショーを開催したり」
「それで民心を掴んだのね」
「冒険者ギルドでも、ASRO派閥が出来てるくらいだ。実働してるのは数人だが、支援者含めるとかなりの勢力になってると思うぞ」
……うーむ。
結構無視できない勢力に育ってるな、ASRO。味方だから頼もしいが。
「ラルフはどうだった? 僕が従軍している間、何か変わったことはなかった?」
「いつも通りだったよ。リーゼやアセリオと、楽しくやってた」
「それは上々」
ラルフは、僕直属の私兵長やってもらってるからね。遠征中は、あんまり仕事もなかったんだろう。
「……」
この男を大将に推挙、か。ブラッドさんは、是非にともにと勧めていたが。
実際に僕が推挙したら、多分イヴは賛同してくれる。あの娘は、僕を過剰評価している節があるからだ。
おそらく『ポートさんの事ですから、深謀遠慮があるのでしょう』みたいな事言って、ポンと大将軍に任命してくれるだろう。
だが同時に、従軍してから何の手柄も立てていない彼を大将にしたら、周囲の反発が凄い筈。間違いなく『何の手柄も立ててないのに、何でアイツが』と嫉妬されてしまう。
よし、この男に1つ手柄を立てさせてやろう。
「楽しくやっていたところ悪いけど、ちょっと君に仕事を振りたい」
「……む。何でも言ってくれポート」
なるべく危険じゃなくて、かつ功績が大きい手柄。
そろそろ、あの災厄が降り注ぐ時期だ。
「ちょっと、お使いに行ってきてくれ」
「お使い?」
あの件について、もう動かないといけない時期に差し掛かってる。元々は僕本人が行くつもりだったけど、ラルフに頼んで交渉してきてもらおう。
忙しくて、僕自身が動けそうにないし。
「……あたし、帰還。元気にしていたか、我が半身」
「アセリオだー!!」
夕方になると、本物の魔女が帰ってきた。チビリオは大興奮して、アセリオ(本家)に抱き着いている。
……よく似てるなぁ。前にアセリオは子供生やせるとか言ってたし、実は隠し子だったりしないかな?
「……ポートが居る。久しぶり」
「さっき会ったじゃないか」
「あれは、謎の美少女仮面……」
アセリオは、わざとらしく僕を見て驚いた。さっき再会したから家にいるのは予想がついただろうに。
だがアセリオ的には、あれは自分ではない別の存在らしい。そこを隠すことに意味はあるだろうか。
「僕はまた、しばらく王都で仕事をすることになった。あんまりアセリオに頼るつもりはないけど、もしかしたら力を借りるかもしれない」
「……? どうして、あまりあたしを頼らないの?」
「いやだって」
何もかもアセリオに任せたら上手くいきそうな気がして怖いんだもん。自分でできることは自分でやらないと、ダメ人間になっちゃう。
「アセリオは凄く頼りになるよ。けど、だからこそ最後の手段にしておきたいというか」
「ポートはもっと頼っても良いんだよ……? 幼馴染、だし」
「どうどう。アセリオって結構人を甘やかすよな、俺には冷たいけど」
うん、甘えすぎるとダメになっちゃいそうな気がするんだよねアセリオは。
前の改革の時、僕も結局アセリオに尻拭いして貰ってたから何も言えないけど。
「リーゼなんか甘やかされて、最近自堕落になってきた気がするし。前まで食器の片づけ位は自分でしてたのに、最近はアセリオが全部やってるだろ」
「あたしは一応、厨房も兼ねてるから……」
「家に帰ってから料理もしてるもんな、アセリオ。体力どうなってんだ?」
そう、陰ですっごい努力家なんだよアセリオは。手品1つにしても、僕らに見せる前に目茶苦茶練習してるらしいし。
その努力の成果を惜しげもなく僕たちのために使ってくれる。それはありがたい反面、頼りすぎちゃ良くないとも思うんだ。
そういや前世のリーゼ、結婚してからドンドン自堕落な性格になってったっけ。料理だの家事だのアセリオが手伝いすぎて、結局依存しちゃったんだ。
アセリオは頼られるとすごく嬉しがって、それを苦と思わない。
今リ-ゼはハキハキしてるけど、このままだと将来リーシャみたいな不真面目な性格になってしまうかもしれない。
うーん、テコ入れが必要だな。
「そっか。じゃあ、リーゼにもラルフと一緒にお使いに行って貰う。旅をしたら、多少は自堕落さも治るだろう」
「え、二人旅?」
「何かマズいの?」
「一応、新婚なんだよな俺達。いや、お前がいいなら良いけども」
「避妊はちゃんとしなよ」
「何もしねーよ!! そういう不安ゼロかお前!」
ああ、嫉妬するとか思われてんのか。僕がリーゼに嫉妬する訳ないじゃないか。
僕、前世はリーゼ好きだったくらいだし。何なら、むしろラルフに嫉妬する側だ。
「うーん、本気で全く異性として見られてないのね俺」
「そりゃあ、まぁ」
「いざ本番になったら顔真っ赤にして失神する癖に」
「うるさいな。それに関しては、解決策はもう見つけたから大丈夫。夫婦生活に問題は無いよ」
ラルフこの野郎、童貞の癖に人を初心だとからかいおって。
一応、もう解決策は思い付いてるんだ。二度とあんな無様は晒さないし。
「ラルフの代わりに、あたしがポートの相手するというのはどうだろう……」
「だから俺を排除しようとするな」
「それも一興だけどね。……僕は、家を守るために誰かの子を宿さないといけないから」
「……可哀想に、ポート。こんなエロバカに体を売るなんて」
「俺の性欲は普通だからな。女の子に特別興味がある訳じゃないらな」
いや、エロバカは間違ってないだろ。年中覗きしてた癖に、何言ってんだ。
「で、解決策って何? お前、気絶しないでエロい事できるの?」
「うん。もう、それは大丈夫」
「ほ、ほーん」
……。分かりやすいなコイツ。
「ラルフ、まさか期待してる?」
「え、まぁ、別に?」
「ポート、無理しちゃダメ。そう言うのは、正式な夫婦になってから……」
「アセリオは黙っていろ。これは俺とポートの問題だ」
ふんふんと、ラルフは鼻息荒く迫ってきた。
むー、貯まってるのか? こないだ覗き禁止令出したから、性欲の解消手段も少ないだろうし。
どうしよう。ブラッドさんを説得できた件もあるし、元々ご褒美の予定は有ったけど。
……ちょっと付き合っても良いかな。あの解決策も、試してみたいし。
「で、その解決策を使えばだな、その」
「まぁ、今度は大丈夫だと思う。今夜ちょっとご褒美あげようか」
「よっしゃぁ!!」
おお、喜んでる喜んでる。
正直、新婚なのに旦那放置しっぱなしだったのは申し訳ないと感じていたんだ。この程度でラルフのご機嫌取り出来るなら、安いもんさ。
「……本当に大丈夫?」
「うん、任せて」
さて、そっちの準備もしときますか。
「あの。ポート、これは一体」
「縄だよ」
ぐーるぐる。人を縛った経験はないけれど、こんなモノだろうか?
「縄なのは分かってる。何をしてるのかと聞いている」
「ラルフを縛ってる」
「なんでさ」
ぐーるぐる。うん、いい感じだ。
夜、僕の私室。ラルフは僕に手足を拘束され、ベッド上に転がされていた。
何とも情けない姿である。
「説明を求める、ポート。この状況は何?」
「ラルフにエロい事されたら気絶する。でも、僕がラルフにエロい事してあげる状況なら大丈夫と思ったんだ。僕って結構攻め気質だし」
「ちょっと待って」
むぅ、せっかくラルフが好きなエロい事をしてあげようとしたのに。
何が不満なのだろう。
「俺、何されるの?」
「逆に聞くけど、何をされたい? リクエストしていいよ」
「うわぁ。ポートが何か見たことない笑顔してる」
コイツは、これからリーゼと二人旅をする事になる。それで、先にリーゼで童貞卒業とかされたら僕の立つ瀬がない。
本番まではいかなくとも、一応ちゃんとエロい事をしておこう。男女の関係に楔を打つのも、夫婦としては大切だし。
「リクエストしていいなら、まず縄を解いててくれ。男としちゃ、ポートになすがままにされるのは結構屈辱なんだ」
「でも、君を解き放つと僕は失神するよ。良いのかい?」
「なんて斬新な脅迫」
まぁ、今日の所はそれで我慢しておきたまえ。ちゃんと籍入れたら、僕も腹をくくって好きにさせたげるから。
「じゃあ、どんなリクエストなら良いんだよ?」
「僕主導で動いていいなら、多分何でもいいよ」
「……。じゃあ、いっぺんお前に全部任せるわ」
お、成る程。それなら、僕の好きにさせてもらおうか。
「えっと……」
「頼むぞ」
ラルフは何かを諦めつつ、何かを期待している物凄く変な表情をしていた。
ちゃんと鼻の下が伸びているのが、面白い。
……さて、僕は何すれば良いんだろう。
「で? これからどうすんだ?」
「今考えてる。何すれば良いんだろう」
「えー……」
困ったな。せっかくラルフを縛り上げたは良いが、やることが特にない。
「ラルフって、ムチで叩かれたりしたら喜ぶ人?」
「いや、それは普通に怨む人だ」
「うーん、そっか」
ラルフにそっちの気は無いのね。じゃあどうすればいいんだ。
「その、例えばだな。ポートから触って貰ったりとか」
「うーん、僕が触る……ねぇ」
困っていたら、ラルフから『触ってくれ』とリクエストがあったので、取り敢えず頭を撫でてあげる。
うん、良い子良い子。
「……それは、違くないか?」
「だよねぇ」
ラルフは良い子ではなく、エロい子だしな。
「じゃあ、脇腹とかどう? それそれー」
「ダヒャヒャヒャヒャ! く、くすぐるなポート」
「……それそれー」
「ダーッヒャヒャヒャヒャ!」
うん、これも何か違うな。
「困ったな。万策尽きた」
「……万策尽きるのはえぇよ、はぁはぁ」
ラルフの息が乱れている。少し、くすぐり過ぎたか。
ダメだな。何やっても、エロい雰囲気にならない。
「あ、そーだ。じゃあ普通にマッサージしてあげるよ」
「マッサージ?」
「ラルフも疲れてるでしょ? 腰を解してあげる」
しょーがない。あんまりエロい事に拘らずに、普通にご奉仕してあげよう。
「結構、自信あるんだよ。この辺とかどう」
「お、おおぉ。効くな、それ」
「ぐーっ、とね」
「お、おおー」
書類仕事が多いと、肩が凝って仕方ないらしい。
これでも僕は、新入りの頃リーシャのマッサージをやらされていたのだ。
「縛られてるのを除けば、これは良い……っ、ふっ、ふっ」
「だろ? 結構自信あるんだ」
「う、うほぉぉぉ」
何か予定とは違ったが、これはこれでラルフも満足してくれてる。うん、よきかな。
「ここだろ? ここが良いんだろ?」
「お、おおぉ……。んほぉぉ」
声だけ聞くと、ものすごくエロい事してるみたいだし。
翌日。
「……え? 夜中ずっとラルフの喘ぎ声が聞こえてきてて、次の日の朝のラルフにクッキリ縄の痕が付いてた?」
「ポート……。ポートが、遠くに行っちゃった……」
「ラ、ラルフはそっちの趣味なのね。なるほど、頑張るわ」
僕はあのマッサージの後、普通に添い寝していただけなのだが……。幼馴染み二人は、何やらとんでもない誤解をしている様子だった。
「あの、二人とも。それは違くて」
「ムチを用意した方が良いかしら」
「……そもそも、どっちの趣味?」
違う。僕もラルフも、別にそういう趣味ではない。