TSっ娘が悲惨な未来を変えようと頑張る話   作:生クラゲ

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悲しい恋

「……お、おおおちつくのポート」

 

 それはまさに、阿鼻叫喚。

 

 悪戯な笑みを浮かべラルフに抱き着いてみた僕は、即座にアセリオとリーゼに引き剥がされガクガクと肩を揺すられる羽目となった。

 

「だめ、それはゼッタイダメ!! あ、あああんたいきなり何言いだしてるのよ!!」

「しょ、しょうきにもどって、ポート……」

 

 ある程度予想はしていたが、二人からの反発がもの凄い。

 

 リーゼの気持ちは分かる。彼女は本来ラルフの妻になる人間だし、幼いころからラルフに惹かれていた節があったのでまぁ想定内だ。大好きな彼をぽっと出に取られたらそりゃあ面白くない。

 

 ……でも、アセリオの動揺は予想外だ。彼女のこの反応を見ると、アセリオもラルフに惹かれていたんだろうか。そんな素振りは無かったから、正直意外だった。

 

「あー、ポート? おまえ、なにいってんの?」

「なにって、ひどいなぁ。求婚じゃないか」

「……いや、何で?」

 

 そして。

 

 求婚された当の本人は、怪訝な顔で僕をにらみつけていた。……まぁ、今まで散々いがみ合ってきた相手にプロポーズされても混乱するわな。

 

 まぁ最も、僕も別にラルフが好きな訳ではない。というか、男を恋愛対象として見るのは多分一生無理だ。

 

 でも、それだと村長の家系が絶えてしまうわけで……。いずれ、僕は誰かと子を成さねばならない。その、僕の番いとなる男性は……現時点では彼をおいて他にいないだろう。

 

 リーゼ達には悪いが、ラルフの能力は今後の村に必要不可欠なのだ。

 

「今回の君の、山での行動は動物的で根拠の無い愚かなものだったけど……、僕じゃ到底たどり着けなかった最高の未来を手繰り寄せることができた。これは、きっと君にしかできなかった事だ」

「……はぁ」

「君に足りない知識や頭脳は、僕が全力で支えて見せる。君は、君の持つその『成功へのか細い糸を手繰り寄せるセンス』を僕に貸してほしい」

「……あー、と」

 

 そこまで言い切って。僕はラルフをまっすぐ見上げ、そして懇願した。

 

「村のより良い未来のため。僕と、結婚して村長になって欲しい。僕に足りないものを、君が全て持っていると思うから」

「……おまえって、おれのこと好きなの?」

「ん、別にそんなに。友達としては凄い好きだけど」

「つまり、お前はおれが好きなんじゃなくて村長やってほしいだけ?」

「ま、そーなるね」

 

 僕は包み隠さず、思いの丈をすべてラルフに打ち明けた。君に異性として興味なんぞ欠片も無いけど、その成功を手繰り寄せる超人的センスを僕に貸して欲しいんだ。

 

 さぁ届け、まっすぐなこの僕の想いよ!!

 

 

 

 

「あほかー!!! 誰がお前とケッコンするかぁ!!」

「あれー?」

 

 

 

 届きませんでした。残念。

 

「……ほっ」

「あ、あ、あたりまえじゃないの!! ポート、あああんたバカなの!?」

 

 僕がフラれて、何やら嬉しそうなリーゼ。むー、時期尚早だったかぁ。

 

 4歳程度。そんな幼児たるラルフに、村長という立場の重要性を理解してもらうのは難しいらしい。今は諦めて、もっと成長してから頼んでみるか。

 

 

「分かった。今は、引くとしよう」

「そーしてくれ……。てかさ。ポート、お前オトコだよな? オトコ同士じゃ結婚できんぞ」

「そーよ! ラルフは女の子とケッコンするの!!」

 

 

 ……む?

 

「え? ラルフ、君は何を言って……」

「オトコ同士じゃ、子供出来ないんだぞ」

 

 お? おお? 

 

 あ、そうか。ラルフってば、今まで僕と喧嘩しまくってたから僕が女って話もしてないじゃん。

 

 そっかそっか、一人称も『僕』だし僕は男と勘違いされてたわけね。そりゃあ、断るわ。

 

 これは面白い黒歴史になる。将来、ラルフ達をからかうネタにしてやろ。

 

「あっはっは。アセリオ、これは驚いたね」

「……驚いたのは、あたし。ポート、男同士なんて、だめ……」

「あれぇ?」

 

 ……え? アセリオ、さん? 君まで何をいってるの?

 

「あ、あの、アセリオ?」

「……なに?」

「えっと。僕の性別、知ってるよね……?」

 

 ……あれ? 嘘だろ、話したことあるよなアセリオには。僕と初めて出会った日も、母さんから『村長さんとこの娘』だって紹介されてたと思うし。

 

 違ったっけ? 『村長さんとこの子』って紹介だっけ? ま、まさかアセリオってば、僕を男と思ってる……?

 

 まぁ前世の影響で、ほぼ男みたいな性格で振る舞ってたけど……。見た目は女の子に見えると思うんだけどなぁ。

 

 

「……ポート、何言ってるの?」

「いや、だから。その────」

「ポートは男の子、でしょ……?」

 

 ……。

 

 まじかー。アセリオに男の子と思われてたのかぁ。

 

 これは、悪いことした。嘘をつくつもりはなかったけれど、騙していたようなもんだし。

 

 ラルフ達と仲良くなっていなかったので、今世の親友と言えばアセリオである。彼女こそ、僕にとって一番大事な女の子だ。

 

 アセリオに嘘はつけない。仕方ない、この場ではっきり謝っておこう。

 

「アセリオ。ごめん、僕女の子……」

「……」

 

 そう言って僕は、アセリオにまっすぐ謝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれぇぇ!? ポート、おんなだったの!?」

「そーだよ。まったく、男扱いとは実に失礼だね」

「ええええええっ!? 男にしか見えなかったわよ!?」

 

 ラルフとリーゼが仰天し、ペタペタと体を触ってくる。いや、今の幼児体型な体触っても性別わからんだろうに。

 

「……ポート。おんな、の、子?」

「う、うん。そうだけど、アセリオ……」

「……う、そぉ?」

 

 そして、案の定というか。僕の性別を知ったアセリオがもの凄いショックを受けていた。

 

 違うんだアセリオ、僕は決して嘘をついていたわけじゃなくて。

 

「ごめん、嘘をつこうとしたつもりは無いんだ」

「……おんな、の子」

「てっきり。僕は、アセリオは知ってると思ってて」

「ポート、は。女の子……」

 

 アセリオは目を見開いて、ワナワナと震えている。よほど衝撃だったらしい。

 

 そ、そこまでショックを受けなくても。

 

「……あたし、は、女の子に……?」

「ど、どうしたのアセリオ。様子が変だよ?」

「……は、は、は」

「うわー!? マジョが白目向いて気を失ったぁ!?」

「ア、アセリオーっ!?」

 

 そのまま彼女は変な笑みを浮かべて、ふらりと倒れ失神してしまったのだった。

 

 あ、あれぇ? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後。

 

「……ポート、が、女の子……」

 

 僕達の必死の手当てで意識を取り戻したアセリオは、死んだ様な目でブツブツと呟くことしかしなくなった。どうやら、彼女のダメージは大きいらしい。

 

「ポートはおんなの敵ってヤツね!!」

「僕は女なんだけども」

「だまらっしゃい!! ちゃんとあやまって、アセリオがカワイソウでしょ!」

「……えぇ?」

 

 そんな可哀想なアセリオの傍ら、リーゼが目をつり上げて僕を罵倒した。さっきまでの不仲はどこやら、リーゼはアセリオを抱き締めて慰めている。仲良き事は美しきかな。

 

「このヒトデナシ!! オンナタラシ、ボクネンジン!!」

「え、えぇ……?」

 

 ただ、その仲良しを僕にも分けてほしいな。

 

 確かに男女を伝えてなかったのは悪かったけど。僕のこのウッカリミスは、そこまで罵倒されるほど巨悪だろうか?

 

「……おれ、おんなに負けてたのか」

 

 その端っこで、ラルフは地味に凹んでいた。彼も、プライドその他が色々ダメージを受けたらしい。

 

 この年頃は男女差なんて無いから気にしなくていいのに。

 

「そ、れ、に! いきなりラルフとケッコンとか意味わかんないし!!」

「それは、本気だよ。ラルフはスゴい奴だって、僕は心の底から思ったんだ」

「それはっ!! まぁ、そうだけど。……だからってスキでも無いのにケッコンって!!」

「あー、結婚ってのは形だけで、村長継いでくれたらソレでいいんだ」

 

 そして、唯一元気なリーゼが僕を激しく非難しつづけた。彼女は単に、ラルフに婚約を迫った僕に嫉妬しているのだろう。

 

 よし、なら安心させてあげるか。

 

「つまり、リーゼとラルフも結婚していいよ。二人奥さんにすれば解決でしょ」

「ふたっ、二人!?」

 

 別に重婚すりゃ良いじゃない。ラルフも貴族扱いになるから、重婚しても咎められないし。

 

「そ。僕は別にラルフ好きじゃないから、リーゼがラルフとイチャイチャしてなよ。好きなんでしょ?」

「ちっ、ちっ、違うし!! そんなんじゃないわよ、て言うかアンタそれで良いの!?」

 

 ……リーゼ的には、まだラルフが好きとは認めていないらしい。バレバレなんだから意地なんか張らなきゃいいのに。

 

 ま、そんなリーゼも子供らしくてかわいいけど。

 

「僕は別に構わないよ。僕、どっちかっていうと女の子の方が好きだし」

「にゃあああっ!?」

 

 ぽろっと、本音をこぼして見るとリーゼが僕を警戒して急激に後ずさった。

 

 子供だし、そんなに気にしないかとも思ったんだけど。

 

「え、え? アンタ、女の子が好きなの?」

「え、あ、うん」

「そんなのヘン!! 女の子は男の子とケッコンするものよ!!」

 

 いや、リーゼさん。幼い君は知らないだろうけど、世の中には色々な人が居るんですよ? 同性愛なんて別に珍しいことではないのさ。

 

 僕がラルフに求めるのは村長の役割だけで、男性としてなんぞ全く求めてない。彼が望むなら、むしろ積極的に僕以外にリーゼとかと重婚してそういう欲望は解消してもらいたいもんだ。

 

 あわよくば、お零れに預かってリーゼとエッチな関係になれるかもしれんし。今はそういう興味は無いけど。

 

 

 

「……ポート、は、女の子が、すき……。うご、うごごごごっ」

「うわぁー! マジョがまたもがき始めたぞ!? ダイジョウブか!?」

「ポートは女の子……、女の子が好きな女の子……、うごごごご」

「もの凄い苦悩を感じる!?」

 

 ……ところでさっきからアセリオは、何をそんなに苦しんでいるのだろう。

 

「とりあえず、あんたアセリオにめっちゃあやまっときなさいよ。ショーライ的に」

「……何を?」

「いいから!!」

 

 僕は、そのままリーゼにパコンと頭を殴られるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何にせよ。

 

 この1件以来、僕達4人は集って遊ぶようになった。20年来の仲良し4人組、結成の瞬間である。

 

 前世との違いは、男の子がラルフ一人で少し可哀想なくらいだけれど……。今のところ僕が男の子的な遊びに付き合っているので、さほど困ってはないだろう。

 

 そして僕も遊んでいるばかりではない。

 

 

 日中は、よく彼等と遊び。夜は、とうとう夢だった執筆作業を始めだしたのだ。

 

 

 執筆内容は曾祖父と同じく、旅人から聞いた話を纏めて書籍に残したモノ。

 

 以前聞いた湾岸都市などの文化や風習の話や、自慢げに語られた冒険者達の活躍譚、各地方の独自の技術など。

 

 ポート聴聞録、と題した僕の本はまだ文章量も内容も大したことはないけれど。これを積み重ねてくことがきっと未来の村の長の助けになるはず、そう信じて僕はコツコツと執筆を続けた。

 

 健康的で強靭な肉体と、理性的で豊富な知識。僕はこの2つを兼ね揃えた、立派な指導者となる。

 

 そこに、ラルフの動物的な勘の助けが加われば……。この村はきっと、どんな困難だって乗り越えられるだろう。

 

 そして、未来を変えて見せる。僕は固くそう決意し、今日も夜遅く微睡みを感じるまで執筆を続けるのだった。

 

 

 ────その未来を変えるための、最初で重大な転機が迫ってきていることにすら気付かずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 7歳になった。

 

 この年頃になると、流石にもう男の子に間違えられることはなくなった。

 

 見た目は、前世の僕の背を低くして目を大きくした感じ。髪をあまり伸ばしていないせいかボーイッシュな印象を受けるが、まあ10人に聞けば10人が女の子と分かるくらいの容貌に成長した。

 

 ラルフ達との関係は、相変わらずだ。毎日のように野遊びを繰り返し、時折悪戯をして叱られて。

 

 そんな平和で幸せな日々を過ごして居る僕は、ある日父からとある重要な知らせを聞いた。

 

 曰く、『今年の夏に領主様が視察に来る』とのこと。

 

 

 それは、僕の前世でもあった出来事だ。アホ領主の父である先代の年老いた領主様が、父さんと共に村を見て回ったのをほんのりと覚えている。

 

 僕も挨拶はしたけれど、基本は父に領主様の応対を任せて普段通りに過ごしたからあまり記憶に残っていない。

 

 そして僕は、その知らせを聞いて思い出した。確か、前世の記憶では────

 

 

 

『久しいな、村の長ポッドよ。改めて名乗ろう、俺はフォン・イブリーフ。この州の新たなる領主となった男だ』

 

 

 

 あの男も、領主と共に村を視察していた可能性が高いということを。前世の彼の発言からは、僕と面識があったと思われる。僕は覚えていないけれど。

 

 つまり領主が視察に来たその日、僕は何らかの形でフォン・イブリーフに会っていたのだ。

 

 彼に会えるということは、未来へ向けて何らかの介入が可能であるということ。例えばアホ領主を事故に見せかけて殺したり、洗脳して人格矯正したり。

 

 いや、そんな物騒なことをしなくとも最悪『農民とはどんなものか』を伝えたりするだけでもいい。彼に正しい知識を幼少期から植え付けることができれば、未来は大きく変わるはず。

 

 半年後に来るという未来の宿敵を頭に浮かべ。僕は、このチャンスをどう生かそうかと必死に頭を絞るのだった。


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