チカチカと点いたり消えたりする明かりに照らされながら、椅子に手足を縛られて座らされてる男は目の前の
火がくべられてるドラム缶の中で赤くなるまで熱された先っぽが尖っている鉄棒を片手にハヅキは無邪気な笑みを浮かべながら、
「最近の雇われ連中は、いい声で鳴くわねぇ」
熱で真っ赤に染まる鉄棒を男の上半身に押し付ける。
肉を焼く音が部屋中を鳴り響かせ、焼く音と同時に男の悲鳴も甲高く響く。
「いぎゅがぁぁぁぁぁっっ!!!! や、やべでぐでぇぇぇぇぇぇッッッ!!???」
「そう言わずに。もっといい声で泣き喚きなさいな」
既に男の体中はハヅキからの拷問による火傷によって皮膚は爛れてボロボロの状態だった。
手足も爪が剥がされて血だらけで、口からも歯を幾つか強引に抜かれた所為で血が零れ落ちている。
机の上に置かれてる拷問道具に付着している血を見れば、どれだけ長時間の拷問を受け続けたか目に見えてわかる。
本来であれば目の前の男は第十七研究資料室に関する情報源として捕らえたのだが、金で雇われた傭兵でしかない男からは対した情報は得られなかった。
無論、そんなことは分かっていたハヅキは最初から期待などしていなかった。
だが、それでもこの男は妹のナオキに危害を加えようとした事実は変わらず。
「あははははっ!! ねぇ、どんな気分?
ただ単純に男が苦しむのを見ながら笑って煽り、痛みに苦しむ男への拷問する手を止めない。
鉄棒の熱が冷めてきたら火が焚かれてるドラム缶に戻して、机の上にある別の拷問道具で痛めつける。
竹べらを使い爪を剥がす、専用のペンチで歯を強引に抜く、熱した鉄棒を体に押し付ける。
それらを男が死ぬかハヅキが飽きるまで延々と続けられる。
もはや男には死ぬ以外の選択肢は残されておらず、それがハヅキが飽きて撃ち殺すか拷問の激痛で死に絶えるかは男次第だ。
「さぁ、ショーはまだまだ始まったばかりよ。お楽しみは、これからよ♪」
もっとも、そんな目に合うのは男の自業自得だというのを忘れてはならない。
「~~♪」
やるべきことをやり切って気分よく鼻歌を歌いながら拷問部屋から出てくるハヅキ。
時刻は既に夜中となっており、言うまでもないがさっきまで拷問を受けていた男はしかるべき末路を辿ったと言っておこう。
「長かったわね、指揮官? 待ちくたびれたわ」
拷問で血に汚れた手を布で拭きながらインカム越しに「あとはよろしく」と別の者に死体処理を任せて私室へと戻ろうとしたハヅキに、部屋の前で彼女が出てくるのを二体の人形が書類の紙を片手に待っていた。
「あら? ネゲブにウェルロッドじゃない。なにか用?」
「なにか用? じゃないわよ。
指揮官に頼まれた調べ物をまとめた報告書を持って来たのよ」
「……ああ、そういえば二人に任せてたわね。
ごめんごめん。それで? 例の情報源の所持品の中から第十七研究資料室に関する情報はあった?」
頼みごとをしていた本人が拷問に夢中で忘れてたことに呆れるネゲブに軽く謝り、結果はどうかと問う。
「いいえ、いつもと同じく大した情報は得られませんでした。
唯一、わかっているのは雇われの傭兵たちを雇ったのは『CISS』だという事以外は何も」
「そう、か。やっぱりこういう荒事はCISSが関わってるのね」
ウェルロッドMkⅡから手渡された報告書にはいつもの情報以外は何も書かれていなかった。
情報源の男が所持していた所持物の中からデータを保存できそうな物を片っ端から調べ、第十七研究資料室に関する情報を探させていたが、ただ金で雇った傭兵に与える情報などたかが知れており。
唯一、分かることは傭兵を雇う雇用主が『CISS』という組織だということ以外は何も得られていない。
「チッ、結局こっちに回されてくるのは捨て駒の傭兵どもだけ、か。舐められたもんね」
あのクソアバズレ女めと忌々しそうに吐き捨てるハヅキ。
第十七研究資料室に関する調査に携わると大抵はCISSがナオキを誘拐するために雇った傭兵連中と鉢合わせることが多く、その殆どが捨て駒として切られるトカゲの尻尾にしか過ぎない。
それだけこちらの優先度が低いと見られているなによりの証拠だ。
「人の妹を勝手に実験に使っておいて、いい度胸じゃない……!」
傭兵程度の輩で手に入るなら行幸。
ナオキをその程度の価値にしか見ていない連中に腸が煮えくり返る思いで、手にしている報告書を握りつぶす。
奴らの求めている崩壊液によるコーラップス現象による分子構造の切断による物質崩壊からの逆コーラップス現象による特定の手順で再構成することで別の物を生み出す錬金術に似た能力を人の身に宿すというイカれた研究目的の為に妹の左腕がああなったと思うと。
第十七研究資料室に関わる奴らを全員、皆殺しにしなければ気が済まない。
「……ふぅ、何がともあれお疲れ様、ウェルロッド。
ネゲブも悪かったわね。通りがかったからって理由で手伝わせて」
「本当よ。
ただ通りかかっただけで手伝いをお願いされるなんて思わなかったわ」
本来であればウェルロッド一人に任せるつもりだった仕事だったが。
一人じゃ大変かなと思ったハヅキが偶然、通りがかったネゲブに有無を言わさず手伝わせたこともあって、少し申し訳なさそうにする。
「まぁ、その苦労に見合う対価を約束してもらったからいいわ」
「はいはい。ナオキとの訓練所の使用許可でしょ?
話は通してあるから、明日はみっちりとやり合いなさい」
「ええ、戦闘のスペシャリストとして常に本気で挑ませてもらうわ!」
手伝わせた対価としてナオキと一緒の訓練所の使用という別に優遇してもらう程のことではないだろうと思われるだろうが。
この基地でナオキと一緒に何かをするにも長い順番待ちが必要で、訓練一つでも多くの人形がナオキと共に行いたいと頼み込むことが多い。
その目的としては純粋に自身の強化に繋がるとネゲブのように考える人形もいれば、別の思惑で一緒に過ごそうとする考えの人形もいる。
「じゃあ、指揮官。明日はよろしくね」
「ん、ありがとね」
用事を済ませたネゲブはハヅキのお礼に手を軽く振りながら明日に向けての準備の為に宿舎へと戻っていく。
「ウェルロッドもご苦労様。あんたも何か欲しいものがあれば融通するけど?」
「いえ、私は特になにも」
「別に遠慮しなくていいのよ?
ネゲブたちみたいにナオキとやりたいことをやらせてくださいってお願いすればいいのに」
何か欲しいものはないかと聞かれて返答に詰まるウェルロッド。
そんな彼女にナオキとやりたいことをお願いすればいいと言われて、思いつくことは大してない。
トンプソンのように一緒に晩酌を共にしたり、ネゲブのように訓練に付き合ってもらいたいわけでもない。
「前線指揮官に何かをしてもらうだなんて、そんなおこがましいこと言えません」
「なにがおこがましいよ。
あんたには雑用みたいな役目を何度も引き受けてもらってるんだから、それくらい頼んだって罰は当たらないわよ」
「いえ、それでも私はなにも……」
「はぁー、なにを遠慮してんだか。少しは息抜きしても罰は当たらないわよ?」
良い意味でも真面目過ぎるウェルロッドの遠慮しがちな態度に嘆息し、どうしたもんかと考えるハヅキ。
すると、なにかをよい事を思いついたかのような悪戯っぽい笑みを浮かべて。
メモ用紙の紙を一枚取ってペンで裏表に何かを掻き始める。
突然のハヅキの行動に何をしているのか? と頭を捻るウェルロッドに何かを書いたメモを差し出す。
差し出されたメモの表面には「ナオキ」と前線指揮官の名前が書かれており、裏面には「SULRULWB WLFNHW」と不規則な文字列が書かれていた。
「これは、シーザー暗号ですか?」
不規則な文字列を見たウェルロッドは瞬時にこれが元の平文の文字を幾つかズラすのが特徴の暗号、シーザー暗号だと気が付いた。
常日頃から命令を暗号コードで求める彼女には朝飯前のことだろう。
そう思っていたハヅキも彼女の理解の早さに満足そうに頷いて、
「三文字よ。じゃ、今日は部屋に戻らないからごゆっくりと朝までお楽しみなさい」
「えっ、指揮官?」
三文字と今日は私室に戻らないという言葉を残して、そのままヒラヒラと手を振って去っていった。
悪戯っぽい笑みを浮かべて思いついた、このメモの内容になにが隠されているのか。
ハヅキが残した暗号解読の答えである三文字を使って、メモに書かれた元の文字から三文字ズレた暗号を元の平文に戻してみると。
「PRIORITY TICKET――――優先券? 前線指揮官の……優先、券。」
暗号化された文字の意味は優先券。表面に書かれたナオキと合わせて読むと、『ナオキ優先券』と直訳できる。
つまり、この紙切れ一枚でナオキと優先的になにかをできるということ。
「……」
たかが文字が書かれたメモにそんな効力があるとは思えない。
しかし、なぜかメモから視線が離せない。本人の承諾がないのに自分が彼女を独占していいわけがない。
だが、ハヅキの今日は部屋に戻らないという言葉の真意、
「私、は……」
それはつまり、今夜の指揮官の私室にはナオキ一人しかいないということ。
「……ふふ」
それを知っているのは今日、自分一人だけだということ。
気が付けば足が勝手に私室へと歩みを進めており、無表情だった彼女の表情はいつのまにか赤く染まった笑みへと変わっていた。
誰かに今の表情を見られていたら不審に思われていただろうなと内心自嘲しながら、私室の扉の前にたどり着いたウェルロッドは表情を引き締め、ドアをノックし、
「失礼します。……前線指揮官」
返答を待たずにドアを開けて私室へと入る。
そこにはトンプソンとの晩酌に付き合わされて疲れ切ってベッドに横になって寝てるナオキが下着の上にブラウスを一枚だけ羽織っただけという無防備な姿を晒していた。
開けたブラウスから覗き見える素肌から赤いキス痣がたくさん付けられているのが分かる。
恐らく、晩酌に付き合わされたトンプソンの為に『色々』と身体を使って接待をしたのだろう。
「ん、……誰?」
気配を感じ取ったナオキが寝ぼけ眼をこすってウェルロッドがいる方に頭を起こす。
そこには夜の闇で表情を隠したウェルロッドが立っていた。
ナオキが起き上がるのより早くベッドにまで近づいてきたウェルロッドは起きようとするナオキを手で制して、
「お疲れのところ申し訳ありません。
実は、指揮官からある贈り物を抱いたので今それを頂戴しようと思いまして」
ポケットの中からハヅキからもらった例のメモを取り出してナオキの手に握らせる。
手渡された紙に例の片面に暗号文とその反対面に自身の名前が書かれているのを見たナオキは、頭が覚めていない状態でなんのことなのか理解が追い付かなかった。
「優先券。前線指揮官―――ーナオキの優先券、ですよ」
普段は皆の前では前線指揮官と呼ぶウェルロッドだが、二人きりの場面ではナオキと呼ぶ時がある。
その名前を呼ぶ時の場面は限られている。それは、
「ナオキ。私は貴女がほしい」
彼女を自分だけが独占し体の隅々まで全部を自分だけのモノにできる時だけだ。
「えっ? ……んっ!?」
メモに気を取られていたナオキにウェルロッドがベッドに押し倒してきて唇をキスで塞がれてしまう。
両手を掴まれて逃れられないナオキは抵抗する暇もなく口内を舌で蹂躙されつくされ、舌と舌が絡み合うたびに生温い唾液の味を味あわされる。
「んんっ!! んっ、ぷはぁ!」
「んっ、ふふ。今夜は闇の中でたくさん戯れ合いましょう」
濃厚な口づけをし終えたウェルロッドはそのまま耳元で艶のある声で今夜は寝かせないと呟き、もはや抵抗する気力を奪われたナオキに抗う術はなく。
ただ、彼女になすがままにされるしかなかった。
「……やっぱり、これ以上の情報は期待できそうにないわね」
基地内の昼間はカフェで夜中はバーとして機能する場所にて。
考え事で夜を更かしてるハヅキが眉を曲げながら、バーカウンターの上に置かれた今までの報告書がまとめられたファイルを睨みつける。
第十七研究資料室に関する情報を今までの作戦で捕らえた雇われ傭兵から吐かせたり。
昔、組織の関連施設で保護されていた時に知り得たモノだけをまとめて分かったことは幾つかの事だけ。
『ミライ・キャロライン』。
十代半ばの頃に学会で発表した、崩壊液に関する研究レポートで脚光を浴び。
若年ながら政府公認の研究所の室長として抜擢される程の実績を持つ才女だ。
その政府公認の組織が第十七研究資料室で、表向きは崩壊液に関する研究を行うことを目的としている。
だが、実際にはキャロラインを中心にコーラップス現象による分子構造の分断からの逆コーラップス現象による特定の手順で再構成して別の物質を生み出すオーバーテクノロジーを人の身に宿す技術、『モーフィングマター』という研究を独断で推し進めている。
その研究の為に病院や保護施設などといった様々な公的機関から血液サンプルを集めて、少しでも耐性のあると判明した人を組織が運営する施設に様々な理由をつけて呼び出して実験を行った。
妹のナオキも左腕を切断するほどの重傷を負った際に病院経由でサンプルを得た第十七研究資料室が退院と同時に親を失い行き場のない自分たちの預け先となる組織が運営する保護施設に誘導した。
そしてナオキは左腕に何かしらの試験薬を投与されて、モーフィングマターの能力で紛い物の例の異常性がある左腕が再構成という形で生えた。
幾度の失敗を繰り返してきたキャロラインにとってナオキはようやく実現の目途が立った成功例で、様々なデータを取るために次なる実験へとフェーズを移そうとしたが。
そこに感づいたハヅキがナオキを連れ出したことにより、それは叶わぬこととなった。
そこまでがハヅキが独自に得られた第十七研究資料室に関する情報だ。
CISSに雇われた傭兵連中から得られた情報は雇い主のCISSに関すること以外は何もない。
CISSはCaroline Institute Security Serviceの略称で政府公認の下で崩壊液に関する研究をする第十七研究資料室直属の保安警察組織で、室長のキャロラインの研究している物の機密を守るために様々な汚れ仕事を主に請け負っている武装組織だということ。
主力は軍から派遣された人間と軍が採用している自律人形を中心とした混成で運用しており、実力的には正規軍と同等の装備を使っているのでかなり腕は良い方だとは思われる。
外部からも傭兵を雇って警備などに充てたりしているが、ほぼ雇われる傭兵は全員、捨て駒として扱われることがほとんどだ。
故に、件の情報源の男も捨て駒として扱われていたから大した情報を持ち合わせていなかった。
「雇われ連中だけじゃ大した情報は得られないし。別の路線を当たってみるかぁ」
これ以上。傭兵連中を捕らえても無意味だと理解したハヅキはCISSに雇われて誘拐を試みる傭兵連中は全員見せしめに始末するという方向に考えを改めて社長のクルーガーに提出する第十七研究資料室絡みの報告書のまとめを終えて、「疲れたー」と言いながらカウンターの上にだらしなく突っ伏す。
「ねー、まだ片づけ終わんないのスプリング?」
営業時間を終えてカウンターの奥で明日の準備と片づけをしているスプリングフィールドに急かすようにそう言う。
「もうすぐ終わりますから、待っていてくださいね」
「それ、もう何回も聞いたよ~」
口を尖らせて急かすハヅキに困ったように笑みを浮かべながらも作業の手を止めることはない。
「はぁ~。今ごろウェルロッドはナオキとイチャコラしてる最中なのかなぁ」
「ふふ、それで今日は私の宿舎で寝かせてって言ってるんですよね?」
「うん。まぁ、自分から部屋を使えって言っちゃったからねぇ。
だから、部屋に戻れないからスプリングの所にお邪魔するのよ。だから早く終わらせて」
「もう少し待っていてくださいね、指揮官」
「ぶー、意地悪……」
我儘な子供のように早くしてと急かすハヅキだったが、もう少し待つようにと軽くあしらわれてしまい、拗ねた様に頬を膨らませる。
普段は冷静沈着に物事をズバズバと容赦なく発言する大人びたハヅキとは違う、子供っぽく駄々を捏ねるという気を許した姿のハヅキを見れるのはスプリングフィールドを含めて僅かしかいない。
その見れる相手の特徴として一番に挙げられるのは、
「ん……。ふふっ、好きですよ。ハヅキさん?」
彼女、ハヅキに特別な想いを抱いているということだ。
「……ほんと、意地悪なんだから」
拗ねる自分の頬にキスをするくらいに好意を抱いてくれるスプリングフィールドにハヅキは頬を赤らめて、照れくさそうにそう呟く。
ナオキ、ハヅキのそれぞれの夜はまだまだ始まったばかりだった。