Monster FrontLine   作:ストレート

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Day6. スペシャリストとしての矜持

「さぁ、ナオキ。こっちはいつでもいいわよ」

 

 ウェルロッドとの長く濃密な夜を明かして寝不足なナオキに追い打ちをかけるように

ネゲブとの模擬戦闘訓練が朝方から始まろうとしていた。

どれもこれも姉のハヅキが勝手に自分を対価に差し出した所為だと、内心恨みを吐き捨てる。

だが、時は残酷で目の前で準備万端と言わんばかりに愛銃のMG(IMI ネゲブ)を構えるネゲブを前にして逃げるという選択肢はない。

 

「……眠い、怠い、シャワー浴びたい」

 

夜は寝かせてもらえず疲れは取れない、トンプソンとウェルロッドの所為で体中がキスマークだらけでベタベタしている。

そんな最悪なコンディションで挑む模擬戦になんの意味があるのかと自問しながらも、

シグザウエル MCXのマガジンの中に入っている模擬戦用のペイント弾の弾数を手際よく確認して装填する。

 

模擬戦の内容は至ってシンプルで訓練所に設営されたCQB用の建物(キルハウス)で一対一で戦うというものだ。

本来であればCQBなので銃身の短いカービン銃やPDW、ナイフなどの近接戦用の武器でやるのが普通だが、ネゲブはMG(マシンガン)を扱う戦術人形なのでCQBにはあまり向かないはずだった。

しかし、ハヅキの状況によって上手く対応するためにできることは何でもやって勝ち取れというスタンスの所為でMG持ちの人形であろうが銃のストックなり己の拳を使って敵を倒せる手段を考えざるを得ず。

 

もはやそれはCQCの領分なのでは? と思われるだろうと思うが、ハヅキは銃やナイフだけが武器ではない。

不測の事態に陥って満足な装備がない状況でも、己の考えうる戦い方を模索して生き残る術を画策する。

それが本当の戦闘のスペシャリストの一歩だとネゲブにスペシャリストが何なのかという屁理屈を捏ねた結果、ネゲブは銃だけに頼らない己の持ちうる武器を使っての戦闘を心がけるになってしまった。

 

銃を最適に扱うために作られた戦術人形が専用の銃以外の武器を使うなどナンセンスだと、ほとんどの人がそう思うだろうが。

このS09基地に所属する人形は戦うこと以外の強みを求められるので必然的に戦い方にも色々とバリエーションを追求するようになっていった。

ネゲブもその中の一人でその為にナオキとの模擬戦を常に所望し、自身の戦闘スキルの上昇と新たな戦い方の確立を模索するようになった。

 

「ふぅ……、制限時間は一時間。

勝敗はペイント弾の被弾率が多い方か近接戦闘での制圧による一本勝ち、でいいよね?」

 

もはやコンデションが悪いからと断れる雰囲気じゃないことを察したナオキは嘆息しながら模擬戦のルールを確認する。

 

「ええ、それで問題ないわ。さぁ、本気でかかってきなさいよ、ナオキ」

 

「ん、じゃあ配置について」

 

模擬戦のルール確認と準備を終えた二人はそれぞれの入り口のスタート位置へと向かう。

位置に付いたナオキ、ネゲブは訓練所の吹き抜け二階にある模擬戦を観戦できるスペースにいるガリルに向かって合図を送ってタイマーをスタートしてもらう。

 

「よっしゃ。んじゃ、いくでー!」

 

スタートを知らせるブザー音が鳴り響いたのを皮切りにそれぞれの入り口から建物に突入していく。

いつ会敵してもいいようにエリアごとにクリアリングを欠かさずに慎重に進んでいく二人を観戦スペースで見守るガリルは「ホンマ、真面目やな~」と感心しながら見ていた。

 

「おっ、もうやり始めてるのか」

 

「ふむ、今のところどちらも特に目立った動きはなさそうですね」

 

手すりに頬ずえ付いて観戦しているとプレッツェルを咥えたトンプソンと紅茶の入ったティーカップを片手に持ったウェルロッドの二人が観戦スペースに入ってくる。

 

「おぉ、二人ともわざわざ見学しに来たんか?」

 

「ああ。偶然、ウェルロッドと会ってお嬢がネゲブと模擬戦するって聞いたから、暇つぶしに見に来たぜ」

 

「私は手持ちの仕事がほぼ終わったので休憩がてらに見に来ました」

 

「そないなこと言って。ホンマはナオキ目当てで来たんやろ~?」

 

それぞれ暇つぶしや休憩という名目で模擬戦の観戦に来たという二人にニヤニヤとした笑みを浮かべながら、本当はナオキの雄姿をわざわざ見に来たのだろうとからかう。

ガリルのからかいにトンプソンはそんなこと言うまでもないだろう? と鼻を鳴らしながらドカッと観戦スペースの設けられたベンチソファーに座り、ウェルロッドも微笑を浮かべつつゆっくりと腰を下ろして紅茶を飲みつつ模擬戦の行方をジッと見守る。

 

「お嬢はカービンを使ってるのか。まぁ、CQBに適した模範的な装備だな」

 

「大してネゲブは軽機関銃( MG )

近距離戦闘には向かない装備ですが、そこは彼女なりのやり方でどうにかするつもりでしょうね」

 

「ただ、どうもお嬢は少しコンディションが悪そうだな。

どこかの誰かさんに寝かせてもらえなかった所為かな?」

 

「さぁ、どこの誰でしょうかね。

前線指揮官を夜が明けるまで寝かせずに身体の隅々全てを全部を独占したのは?」

 

白々しいと目で語るトンプソンに目を閉じて、何のことやらとわざとらしく言うウェルロッド。

二人がナオキをめぐる駆け引きを行っていると訓練の状況が動き出した。

クリアリングをしながら移動をしていたナオキに床に伏せてバイポッドで固定した軽機関銃を構えたネゲブの制圧射撃が襲い掛かる。

待ち伏せにあったナオキは遠回りして待ち伏せしているネゲブの横腹を突こうと銃声がずっと鳴り響くキルハウスを足音を殺しながら移動する。

 

時折、リロードの為に銃声が途切れたりしたが構うことなく持ち弾の全てを撃ち尽くす勢いで軽機関銃による制圧射撃が続く。

一か所に続けて制圧射撃を続けて弾の無駄遣いをしていることに違和感を覚えたナオキは警戒を緩めることなく制圧射撃を続けているネゲブのもとへと向かっていく。

 

射撃をしているポジションの近くまで接近したナオキは銃声を鳴り響かせてる場所にフラッシュバンを投げ込んで耳を劈く音と視力を奪う光の音が爆発したのを皮切りに突入する。

 

「……ッ!? やられた……っ!」

 

そこにはネゲブは居らず。バイポッドで固定されたネゲブのMGのトリガーをワイヤーのようなもので縛って勝手に撃つようにする仕掛けを施された囮があるだけだった。

ある程度リロードをしつつ撃ち続けていたネゲブはナオキがこちらに接近したであろうタイミングを見計ってワイヤーでトリガーを引き続ける仕掛けを施してその場から離れ、ナオキが横腹を突くのを陰で待っていたのだ。

 

「ははっ! 隙ありねッ!!」

 

瞬時にそれを理解したナオキだったが陰に潜んでいるネゲブの奇襲に対応するが僅かに遅れ、コンバットナイフを構えて襲い掛かって来た。

接近戦に持ち込まれたナオキは不意を突かれ、持っていたMCXを盾にコンバットナイフの攻撃をかわすがその反動で弾き落としてしまう。

 

「くっ!」

 

メインウェポンを失ったナオキは対抗するようにタクティカルベストから装備したコンバットナイフを抜き取りナイフファイトへと持ち込んでいく。

 

「ほぉ、自分のMGを囮にしてナイフでのCQCに持ち込ませたか。

本来なら戦術人形にあるまじき行為だ、と普通なら言われるだろうが」

 

「ありとあらゆる状況で不慮の事態に陥っても最善を尽くすためにあらゆる手段を模索する。

それが指揮官が私たちに求める必要最低限なもの、ですね」

 

「ああ、うちのボスは貪欲だからな。

一つだけしか得意分野がありませんじゃあ、ここでは通用しない」

 

銃だけを完璧に扱えるだけじゃ、いざというときに銃に不調が起きたり弾薬が不足した際に何もできなくなる。

そんな危機を乗り越える為に銃だけが戦う方法ではなく時にはあらゆる手段を使って生き残ることも念頭に置いておき。

戦局によっては勝つためにはいざぎよく撤退することを決断する判断力も必要になる。

 

「人形の性能も重要だが、これまでの戦闘で積み上げてきた経験を重要視する。

勝ち負けに拘らず様々な戦闘を通じて学んだことを活かすことが出来る人形を重宝する」

 

それがここS09基地に所属する人形に求められる必要最低限の能力だ。

己の実力だけを頼りにする人形は作戦に参加することはできない。

 

「まぁ、そのボスに認められさえすればその後は安泰だがな」

 

「ええ、指揮官は使えると判断した物には最後まで使い潰すほど愛着が湧く方ですからね」

 

「最高に良い上司に出会えて恵まれてるな、私たちは」

 

使えるものは何でも使う。それが道具であろうが人形だろうが関係はない。

ハヅキのお眼鏡に叶った人形は修復不可能になるくらい壊れない限りは何度でも修復してでも使い続ける。

その分、得られる信頼と功績は大きいし、愛情をもって大事にしてくれる。

 

「最初の頃はそうでもなかったんですけどね。

最近になって所属する方々に昔の指揮官たちの話をしても信じてはもらえないでしょうね」

 

「それは言うなよ。あの頃のボスたちはまだ幼かっただけさ」

 

昔のハヅキとナオキの話で盛り上がっていると模擬戦の状況は更に変化していく。

ナイフファイトによる近接戦闘を繰り広げていたナオキとネゲブは自力に勝る人形のネゲブに押されていた。

やはり人間と人形とでは力量差があるためか人間のナオキは不利な立場に陥っていた。

 

「……はぁっ!!」

 

しかし、そんな不利な状況を吹き飛ばせるくらいの力がナオキにはあった。

モーフィングマターによる物質変化能力で左腕を骨上の刃に変異させてネゲブに切りかかる。

本気を出し始めたナオキに不敵な笑みを浮かべて迫る刃にナイフで待ち構える。

 

「ぐっ! ……まだまだぁ!!」

 

ナイフで受け止めきれず壁に叩きつけられるネゲブ。

訓練用に硬質ゴムのような硬さの切れないように調整をしてある刃だが気絶するくらいには痛い。

しかし、そんな痛みなど感じてないと言わんばかりに体制を立て直して再びナオキに挑む。

 

「はぁぁッ!!」

 

「せやぁぁぁッ!!」

 

振り下ろされる刃を寸前で避けつつナイフで首を掻っ切る勢いで突くネゲブ。

それを首を逸らして避けて胴体を真っ二つにせんと刃を振りかぶるナオキ。

互いに攻撃を寸前のところで避けながら攻勢を繰り広げる二人を観戦スペースで見ているトンプソンたちも熱に惹かれて盛り上がる。

 

「いいねぇ、お嬢も盛り上がってきたな」

 

「両者どちらも譲らない攻防ですね。……次は私も予約を入れようかしら」

 

「ははっ! いったれ二人ともー!」

 

激しい攻防を繰り広げるのをソファーから立ち上がって見守るトンプソンの手すりを掴む手に力が入り。

次は私もとナオキとの訓練の予約を入れようと空っぽになったティーカップを横に置いて専用のPDAで予約の状況を確認し始め。

タイムキーパーをしているガリルもタイマーそっちのけで声援を送りはじめる。

ナオキとネゲブの激しい攻防は制限時間を大幅に超えた後も続いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上が今回捕らえた情報源から得られた第十七研究資料室絡みの情報よ。

クルーガーのおじ様」

 

『うむ。やはり一筋縄ではいかんようだな。プライス指揮官?』

 

指揮官の執務室にてモニター越しに報告を行うハヅキ・プライスは腕を組んで満足な情報は得られなかったと社長のクルーガーに表情で語っていた。

そんなハヅキの表情を読み取ったクルーガーは片手に持ってる報告書を机に置いて微笑を浮かべながらそう言った。

 

「まぁ、捨て駒の傭兵に期待したのが間違いだったと気づかせてもらえただけでも収穫があったと思うしかないわ。

それで、そっちの方はどう? お上(政府)から嫌な圧力は掛かったりしてない?」

 

第十七研究資料室は政府が認めた公的機関だ。

その組織に対してCISSの捨て駒とはいえ攻撃を仕掛けてるとなればただでは済まない。

もしグリフィンが関わってると知られれば政府から圧力が掛かる可能性もあった。

 

『今のところその心配はない。

まぁ、この件はグリフィンだけが探っている訳ではないからな』

 

だが、件の組織はかなり違法な実験などを行っているせいかグリフィン以外のPMCや正規軍、国家保安局などの組織からもかなり疑われている。

政府の後ろ盾があるとはいえ表立った工作には踏み出しては来なかった。

 

「どうだがね。圧力を掛けるまでもないって舐められてるんじゃないの?」

 

『ふっ、構わんさ。相手が油断してるなら付け入る隙も大きい』

 

ハヅキの相手にするまでもないと舐められてるのでは? という発言にそれはそれで構わないと返す。

 

「ふぅ、まぁいいわ。

取り合えず今後は誘拐目的の傭兵は全員始末する方向性でいくからよろしくね」

 

『……あまり無茶はするなよ』

 

「あら? か弱い私たちを心配してくれるのおじ様?」

 

腐れ縁(アレックス)からの一生の頼み事だからな』

 

アレックス。

クルーガーから出てきたその名前にハヅキは目を伏せて笑いながら、

 

「ふふっ、そのことはちゃーんと感謝してるわよ。おじ様」

 

アレックス・プライス。

ハヅキとナオキに銃の扱い方と生き延びる術を教えてくれて、短い間だったが共に暮らしてきた恩人の名だ。

今こうしてグリフィンの戦術人形指揮官としていられるのは目の前のクルーガーとアレックス・プライスという人物が導いてくれたおかげだった。

 

『少しでも感謝してくれるならこちらの忠言を聞き入れてくれると助かるんだがな』

 

「大丈夫よ、おじ様。私もナオキもおじ様やアレックスからの教えは参考にしてるわ」

 

『ふぅ、奴の教えが全部まともだと思うならそれは大きな間違いだぞ? まったく、いいか、』

 

「はいはい、わかりました。じゃ、これにて失礼しますね。お・じ・さ・ま?」

 

『なに? おい待て、まだ話は終わってー――、』

 

今にも説教を垂れそうな気配を感じ取ったハヅキはポンッとモニター画面をタップしてクルーガーとの通信を強引に終わらせた。

あの歴戦を繰り広げてきて厳つくなった顔で説教されても気が滅入るだけだ。

 

「ふふ、大丈夫よおじ様。私たちはちゃーんと生きる為に最善の事をしてる。

それがもし間違いだったとしても。私たちは自分の信じる道をいく」

 

だから、心配することはない。

腐れ縁の頼みで自分たちを雇ってくれたクルーガーと自身ら助ける為に犠牲になった恩人にそう呟き、今できる事を精一杯して生きていく。

恩人の性であるプライスという偽名を名乗り始めてからずっと、生きるための教えを守って生きてきたのだから。

 

 

 

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