模擬聖杯戦争 Foul/Scarlet Research 作:井ノ下功
ロンドンの片隅。集合住宅の一室で、少女はしかめっ面の男に、上機嫌で話しかける。
「事の顛末を聞いたかい、我が兄よ」
「ああ。だいたいのところはな」
「キミの言う“だいたい”は、私の遥か上を行くからね。まったく厭味な兄をもったものだ」
心にもないことを言いながら、少女は優雅な仕草で紅茶を傾ける。
「時計塔から派遣されたエリーヌ・ジオネは死亡。スペインに拠点を構えるシルベストレ家の当主も消息を絶った――ああ、そういえばあの家、敵対していたマフィアのサブリーダーが、シルベストレ家の長男だったんだってね。ディオニシオの失踪を機に、すっかり彼が覇権を握って、マフィアとは和解したって」
「そうらしいな」
「皮肉なものだね」
「それを見抜けなかった当主がぼんくらなだけだ」
「おっと、これは正論だ」
チョコレートを口に放り込み、しばしその味を楽しんでから、少女は続けた。
「アーキシェリの家もこれで完全に途絶えた。まったく、大人しくしていれば細々とであれ血脈を繋げたであろうものを。まぁ別に勿体なくもなんともないけれど。――生き残ったマスターは一人だけだってね。まるでどこぞのお兄様みたいだ」
「……」
「確か――
「そうだ」
しかめっ面の男は、眉間の皺をさらに深くして、呼んでいた新聞紙を彼女の手元に放り投げた。
それを手に取り、少女は首を傾げる。
「日本語?」
「ああ。ジェイムズ・メイブリックの名が載っている」
「――おや、本当だ」
小さな記事だ。――『二階で発生した小火の通報を受け、警官が踏み込んだところ、地下収納庫に遺体を発見。恋人であったサラ・メイヴィルを殺し、家の地下収納庫に遺棄した疑いで、英国籍の男性ジェイムズ・メイブリック(28)を逮捕』――
少女は形の良い眉を顰めた。
「彼は勝ち残って、聖杯を手にしたんじゃなかったのか? どうして逮捕なんかされてるんだろう」
「さぁ。生き残っても私のような場合もあるし……当事者でなければ真相は分からないだろう。――彼のサーヴァントが願いを叶えたかもしれないしな」
「自分のマスターの破滅を願った、って?」
「そういうことも無いとは言えない。己の楽しみのために、己のマスターを殺すサーヴァントだっているくらいだ。……何にせよ、無事に終わったならそれでいい――」
コンコン、と控えめなノックの音が、彼らの話を中断させた。
グレーのフードを深くかぶった少女が顔をのぞかせる。
彼女は室内の二人に深々とお辞儀をして、遠慮がちに申し出ると、窓を開けた。
――東の風が吹いてきた。
「嵐が過ぎ去った後は……か」
「突然どうしたんだい、お兄様?」
「いや、ふと思い出しただけだ、気にするな」
秋の訪れを感じさせる日の光が、中庭の木を暖かく照らしていた。
――嵐が過ぎ去った後は、輝く陽光の下、もっと美しく透き通った強い国が現れるだろう。さあ、エンジンをかけてくれ、ワトソン。出発の時間だ――
☆END
お付き合いくださいましてありがとうございました。
ここまで読んでくださった方々に、心からの感謝を申し上げます。
説明不足などいくらでもありそうですが、どうかご容赦を。
裏話といくつかの補足説明(および言い訳)は活動報告に載せてあります。よろしければ、そちらをご参照ください。各サーヴァントのステータスとか、何故“ジェイムズ・メイブリック”なのかとか、つらつらと書いております。
また、苦情文句その他もろもろもいつでも受け付けておりますので、お気軽にお寄せ下さい。
繰り返しになりますが、本当にありがとうございました。
またどこかでお会い出来る奇跡があることを祈っております。
井ノ下功