俺は親に捨てられたらしい。いわゆる捨て子ってやつだ。
明治の時代に入ったとはいえ、一地方の寒村の農家には子を養う余裕は無かったのだろう。よくあることだし、仕方がないこと。捨てた親を恨む気持ちは全く無い。
よく考えたら、俺がいま生きているのは奇跡のようなものだ。大抵は野犬の餌になるか、そのまま衰弱死ぬかのどっちかだ。
だが俺は運良く、もの好きな老人に拾われた。近所では「廃神社に住み着いた仙人」扱いされ半都市伝説化している奇人だが、俺を10年間養ってくれた。
どこで覚えたのかわからない剣術を指南されたり、怪しげな秘術を教えてもらったり、心踊るホラ話を語たられたり。たまに買い出しに人里に降りて、友人が出来たり、異国からの珍しいものに惹かれたり。山奥の神社での十年間は意外に充実していて、辛かったけど、楽しいものだったと思う。
そして十歳の誕生日の夜。俺は育て親に「大切な話がある」と呼び出されていた。
前々から、「村に働きに出たい!」と言っていたのだが、「まだ早い」の一点張りだったので、ついに許可がっ!と足取り軽く向かったのだが............
「来たか、弟子よ。」
全身に黒装束、その上に白い羽織(一という黒い文字が書いてある)を纏い、普段「命より大切」と豪語し触らせてくれない大太刀を帯刀した育ての親。
普段ボサボサに伸ばしている糞長い髭も、斜め十字に交差する紐で結われているし、白髪の髪も纏められている。
うん。なかなか様になっている。いつもの雰囲気とは違う独特の威圧が感じられる。うん。ちょっと待って欲しい。
「なにしてんすか師匠。てか鳥居から降りてください。てか、よくそこ登れまs「師匠ではなぁい!!山本源柳斎重国だぁ!!!」」
なにいってんだろこの人。
「とうっ」
掛け声とともに鳥居から飛び降り、俺に歩みよる山本なんとかさん(仮)。自分で師匠呼びにしたことを忘れたのだろうか。妄言癖っぽい言動は多かったけど、ついに完全にボケたかこの人。
「で、なにしてんすか師s「山本源柳斎重国じゃ。」....山本さn「名前もっ!」........源柳斎重国さん」
うん、会話が成り立たない。てかこの人昨日まで「名は簡単に名乗るものでは無い」とか言ってかたくなに教えてくれなかった癖になんでこだわってるんだろうか。
「時が来たのだ。山本源柳斎重国よ。」
肩を掴み鋭い目で俺を見つめる師匠。
なるほど..........いや、そんな神妙な面持ちで言われても、なにいってんのかわかんねぇし質問に答えてねぇし。
「山本なんちゃ「山本源柳斎重国ぃ!」......山本源柳斎重国は師匠のなまえじゃn「これからはぁっ!!」......こらからは?」
心底めんどくせぇこのじいさん。目ぇ血走っててちょっ
と怖いんですけどぉ?まぁ流しとけば話も終わるだろう。
「お前が山本源柳斎重国を名乗るのじゃあ!!」
「ちょっとまってわからないです」
前言撤回。俺の淡い希望もこうして一瞬で打ち砕かれる。そんな長くて意味不明な名前これからの人生で名乗りたくないんですけどぉ....。
「いやだから山m「そしてぇぇ!」..........めんどくせぇ(小声)..そしてー?」
「お前は今日ぅ力を手に入れるのだぁぁ!」
言うがいなや背の大太刀を引き抜き――――
「えちょまっ」
――――――――――そのまま俺の左胸を貫いた。
服にじわじわと染みてゆく血が、胸を貫いた大太刀が、そしてどこか満足そうな顔の師匠が、現状の全てが理解できない。
「なん......でっぇ..なんでだっ」
圧倒的な痛みが俺の意識を朦朧とさせ―――――――――そのまま俺の意識は闇へ落ちた。
山本源柳斎重国(偽)は令和時代からの転生者である。
死因は情けないことに歩きスマホによる交通事故。中企業に勤務する極一般的なサラリーマン(26)。あえて特筆するなら、いまだに中二病をひきずったオサレをこよなく愛するBLEACHオタクだったことくらいである。
転生が可能で特典も付くと知った彼は、「別アニメの世界でオサレな能力で無双してぇ!」というまさに中二病患者の考えに至り、BLEACH関連の特典をもりもりにして神に頼み込み、最近人気上昇中のジャンプマンガ「鬼滅の刃」の世界に転生したのだ。
神はそのあと激しく後悔した。
彼の溢れるオサレへの愛は暴走し、鬼滅世界が滅茶苦茶になってしまうことが容易に想像できたのに。なぜ彼に強力な特典を与えてしまったのだろうかと。そこで神は、厳重な「枷」をかけることにしたのだ。「原作と史実への介入不可」という枷を。
この枷はしっかりと機能した。彼は原作にも史実にも指一歩を踏み入れることが出来無い悲惨な状態に陥り、もはや「世界に嫌われた」状態となったのだ。神の目的は達成されたかに思われたのだが―――――
―――――唯一の誤算は彼のオサレへの愛が神の想定以上だったことだ。
彼は激怒した。ある時点で、神が自分を原作から遠ざけていることに気づいたのだ。これでは憧れの「流刃若火」が、「黒棺」の出番が無くなってしまうではないかそ れ だ け は 許 せ な い
そんなとき、彼はとある村の外れに捨てらていた、ボロ布で包まれて泣いている赤子と出会ったのだ。人としての一般的な良心を完全に失っているわけでは無かったので、どうせ一人だから拾って育てるかと赤子を抱き上げた時、彼はふとひらめいた。
「力を与えた師匠ポジなら神の枷を越えられるのでは」と。
――――こ れ し か な い !
彼は一人ほくそ笑んだ。この捨て子がオサレに活躍し、自分は師匠ポジとして物語に介入出来る。一石二鳥じゃないかっ!!
「捨て子設定........ククッ..オサレだ。」
「なん....でぇっ....なんでだぁ」
ついに計画は成功した。次に目覚めたとき、我が弟子は死神の力を手入れていることだろう。代わりに自分は力を失って死を迎えるだろうが、関係ない。本望である。
「ククッ......なんでだとっ!」
このために十年間。必死に英才教育を施したのだ。このためだけにっ!この瞬間のためにっ!
思えば長い十年間だった
剣術を教え......
「甘いわぁっ!太刀筋を読まれるなぁ!もっと早く打ってこぉいぃ!!」
「....っはい師匠ぉ!」
詠唱を覚えさせ......
「破道の九九の詠唱!!さあ言うのじゃっ!」
「師匠この呪文?の暗記になんの意味があr「つべこべ言うんじゃないっ!」....はい。這行する―」
身体能力を上げさせ......
「遅ぉい!とにかく走るんじゃぁ!そんなことで隠密機動になれるのかぁ!!夜一様の部下になれるのかぁぁぁ!!」
「隠密機動ってなんですかぁぁぁぁ夜一様ってだれですかぁぁぁぁぁぁ」
「そうっ!全てはこの瞬間のためにぃっ!我が転生に1片の悔いなぁしぃ!!!!」
――――――原作介入成功
転生特典の内容は
・流刃若火
・浅打
・斬術、鬼道、白打、瞬歩の技術
・死神としてのトップクラスのスペック
うわぁつよぉい