「えー皆さん、お早うございます。今年度のFクラスの担任となりました…
…今の間の時、黒板を物色する様な仕草を見せていた辺り、黒板に名前を書こうとしたのだろうが…チョークすらないのかよこのクラス、どうやって授業しろと!?
と、今更ながら設備の酷さに突っ込む事になったのは置いて、今自己紹介したこのクラスの担任は福原先生、社会科を担当しているとのこと…某イギリス王室の家臣みたいな声からして世界史が得意そうだと言われているが、俺は某「粉砕!玉砕!大喝采!」な社長の声からして政治経済が得意そうだという説を支持したい…ってこんな話はどうでも良いか。
「設備に不満があったら何時でも申し上げて下さい。出来る限りの対処は致します」
…こんな設備で不満が出ないのが可笑しいと思うが。
「先生、俺の座布団に綿が入っていません」
「それは我慢して下さい」
「先生、俺のちゃぶ台の足が壊れているのですが」
「木工用ボンドがありますのでそれで直してください」
「先生、隙間風が入って寒いのですが」
「分かりました、後で窓にビニールを張って置きます」
クラスメートも同じ考えだったようで、続々と不備を指摘するも…それは応急処置って奴であって対処じゃねぇだろ。
「他に必要な物がありましたら各自で持参して下さい。それでは自己紹介に入ります。廊下側の席の方からどうぞ」
…酷いな、余りにも酷過ぎる。
確かにあのババア長の『努力している生徒とそうでない生徒が同じ設備で学ぶのはおかしい』という考えは理解出来るし、最高峰のAクラスがけた違いな程に豪華なのも別に構わない…だがこれは、このFクラスの設備は、幾ら何でも酷過ぎる…設備の差どうこうの話じゃない。
早急に、そして絶対に達成しなきゃならねぇ…『依頼』を、な。
「木下秀吉だ。演劇部に所属している。俺の事はシュウとでも呼んでくれよ」
『シュウちゃ「俺は男だ!ちゃん付けで呼ぶんじゃねぇ!」馬鹿なぁぁぁ!』
俺がそんな考えを巡らせている間に、シュウの自己紹介の番が来た様だ…まあ、予想通りの展開だな。
見た目や声は完全にヤンキー風の美少女、このFクラスの大半の連中は本気でシュウを女だと思い込んでいるからな…尤もシュウ本人は物凄く嫌がっているが。
[土屋康太だ。スイッチとでも呼んでくれ]
…音声合成ソフトで手早く済ませるな、スイッチ。
「…霧島翔子です。宜しくお願いします」
『お、女の子だぁぁぁぁぁぁ!』
『付き合って「…もう彼氏はいる」馬鹿なぁぁ!』
「誰だ!霧島女史と契りを結ぶ等と言う暴挙に出た裏切り者は!直ちに見つけて処罰せよ!」
『イエッサぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
…お前らなんかに翔子を渡してたまるか!そしてなんだ裏切り者って、俺はお前らと同志になった覚えは微塵も無いぞ!
「あれ、そういえば…はい!」
「…何?」
「何で此処に居るんですか?」
…おい誰だ、翔子に向かっていじめと受け止められかねない事を聞いて来る奴は?
まあでも、それも尤もだろうな、俺と翔子は『ビッグ3』の一角、此処Fクラスにいるのは余りにも不自然な存在なのだから。
「…熱を出して休んだ」
「ああ、そういえば俺も熱(の問題)が出て調子が悪かったんだよな」
「ああ、化学の問題だろ?あれは難しかったな」
「俺は弟が交通事故に会って動揺していて」
「黙れ一人っ子」
「彼女が前の晩寝かせてくれなく『裏切り者は排除ぉぉぉぉぉ!』すいません嘘でした!」
…想像以上にバカだらけだなこのクラス、翔子が嘘言っている事にすら気づかず、あからさま過ぎる言い訳に終始するとか…大丈夫かな、これ…
「坂本君、君は確かクラス代表でしたね。前にどうぞ」
「うっす」
あれやこれやと騒動が巻き起こった自己紹介も俺を残すのみとなり、福原先生に促されて前に出る…さあ、『戦争』の引き金を引くか…!
「このクラスの代表となった、坂本佑助だ。気軽にボッスンと呼んでくれ」
俺の『もう一つの名前』を口にした瞬間、騒めく教室内…まあそうだな、結構知られているみたいだし。
「坂本佑助ってまさか霧島さんに並ぶ学力の…」
「いやいや待て待てその前にボッスンって、まさかあの…!」
「知っているなら話は早いな。俺と翔子、スイッチの3人で学園生活支援部、人呼んで『スケット団』って部活をやっている。良かったら相談してくれよ!」
学園生活支援部…文月学園に去年創部された、学生や先生達の相談や事件の解決を主な活動とした、いわば『何でも屋』みたいな物だ。
その活動は学園中で知られ、いつしか『スケット団』という渾名が付いた。
ちなみに俺の渾名、ボッスンというのは、ボスと誰かが言おうとして噛んでしまった時の発音が気に入ったので俺自ら名乗っている。
他に翔子は名字をもじった『キリエ』、スイッチは情報機械に通じている事からその名が付いた。
「スケット団!彼女が出来ないんだが協力して『裏切り者は処罰せよ!』すいませんでした!」
「はいはい分かった、後で相談に乗るぜ。まあそれは置いといてだ」
早速相談事を持ち掛け、その内容が原因でリンチに会いそうになったクラスメートに軽く対応しつつ、俺は教室内を隅々と見渡す…それにつられてクラスメート達も目を向ける。
建付けの悪い室内
傷んで腐った畳
かび臭い空気
ボロイ個人設備
「Aクラスはシステムデスクにリクライニング、ノートPCに個人エアコン、お菓子に飲物全てサービスらしいが…
不満は無いか?」
そして…引き金を引いた。
『大有りじゃぁぁぁ!』
その反響は物凄い音声だった…余程腹に据えかねていた様だな。
「だろう、俺もこの状況に危機感を抱いている」
「そうだそうだ!幾ら学費が安いからってあぁんまぁぁりだぁぁぁ!」
「というかAクラスの面子だって同じ学費だろ!不公平にも程がある!」
…最後の奴、入学前にババア長の説明聞いてなかったのか?まあ良い、此処まで持ち上がったモチベーションに水を差す真似はしない。
「そこで、このクラスの代表としての俺からの提案だが…」
一呼吸置き、そして、
「今日、Fクラスは試召戦争を仕掛ける。最終的な標的はAクラスだ!」
銃弾は、打ち出された。
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試験召喚戦争、略して試召戦争…それは『オカルトと科学の融合によって誕生した』人間の半分くらいの背丈の生物…みたいな物『試験召喚獣』を用いて行う、クラス間の戦争の事だ。
試験召喚獣は基本的に召喚者の特徴が反映され、特にテストでの成績によって身体能力が大きく変動するらしく、またその操作には脳内からの細やかな指示が求められている。
で、これを駆使した試召戦争に勝ったクラスは、相手側が上位の設備を有するクラスであればその交換が出来る(逆に設備的に下位のクラスが負けた場合は、その設備のランクが下がるが)。
一見すると今の状況を脱するに申し分ない程に画期的なこの制度だが、現実はそう甘くは無い。
召喚獣の強さは、召喚者の成績が関わって来る…つまり勝敗のカギを握るのはクラスメンバーの召喚獣の操作技能に、成績から来る召喚獣のスペック…特に召喚獣の操作の機会が少ない2学年の4月頃は、後者の重要性は極めて高い。
故に、
「何を馬鹿な事を」
「勝てる訳無い」
「霧島さんとシュウがいれば何もいらない」
俺の宣言が如何に現実味が無いかは、誰でも分かる…って今誰だ翔子とシュウに愛の告白みたいな事を言い出した奴は!?
「そんな事は無い。必ず勝てる。俺が成し遂げて見せる」
「寝言は寝て言え」
「何を根拠に」
「根拠?根拠なら大有りだ。今からそれを説明してやるよ」
そんな突っ込みをしたい気持ちを抑え、このクラスが最高峰であるAクラスにも勝てる要素を今から説明する…って、
「おいスイッチ、翔子のスカートを覗いてないでこっち来い」
[事実無根だ]
「…エッチ。見せないけど」
[相変わらずガードの固い…いや今のはタイプミスだ]
翔子のスカートを覗こうとするという暴挙に出たスイッチを窘め、こちらへと呼ぶ…相変わらずだな全く、まあコイツらしいと言えばそうだが…
「さっきも紹介したスイッチこと土屋康太。ムッツリーニと言えば知っているな?」
[事実無根だ]
「な…スケット団のスイッチが、あのムッツリーニだったと言うのか…!?」
「だが見ろ、頬の畳の跡を必死に隠しているぞ…」
「ああ、ムッツリの名に恥じない姿だ…」
ムッツリーニ(寡黙なる性識者)…文月学園の生ける伝説にもなっている、スイッチの裏の名前だ。
盗撮や盗聴、その他思いっきり犯罪レベルな行為の数々を、性的な欲望のままに行うその生き様から、男子からは畏怖、女子からは軽蔑を以て、そう呼ばれている。
その欲望の果てに得た知識や技能は、保健体育・技術・情報の3科目に限ってだがAクラスどころか教師にすら迫る程の成績を叩き出す程…尤も、他の科目は壊滅的だが。
かなり限定的だがチート級の強さに、情報収集の巧みさ…スイッチの長所にしてFクラスの『勝てる要素』の1つだ。
勿論、それだけじゃあ無い。
「翔子や俺の事は説明する必要も無いだろう。自慢に聞こえるかも知れないが、皆もその力は知っているだろう?」
「…私?」
「ああ、頼むぞ翔子、お前はこのクラスのエースだ」
「そうだった、このクラスには霧島さんがいたんだ」
「ああ、彼女がいれば何もいらないな」
…さっきから誰だ、翔子に愛の告白をしている奴は、翔子は俺の彼女だ、お前らには渡さん!
「シュウだっている」
「へ、俺か?」
「演劇部のホープか!」
「そういえば彼女の姉って…」
「Aクラスの木下優子じゃないか?」
シュウも、学力面では余り有名じゃないし、そもそも素でFクラスに入るのだから総合的には『お察しください』なのだが、一方で演劇部での技量は凄まじく既に数々の劇団等からオファーが来ている程だし、それに引っ張られる形で音楽や倫理がトップクラス、地理と現代社会を除いた文系科目がBクラスとも互角の成績を叩き出している…他はスイッチよりはまだマシな感じだが。
そして彼の姉は、Aクラスでも上位に入る成績を持つ木下優子だ…が、まあ今ちょっと訳ありなんだよな…
「そして最後に…俺と翔子、そしてスイッチの召喚獣は、部の方針で『観察処分者』と同等の扱いとなっている」
シーン…
…あり、ミスった?
「…どういう事だそれ?」
「観察処分者って…バカの代名詞だよな?」
「それと同等の扱い…訳が分からないよ…」
流石に突拍子もない爆弾だったな、今から説明して、挽回するしかないか。
「観察処分者になった生徒は、先生の雑用などを主に義務付けられていて、その為に召喚獣が物理干渉出来る様になっている。俺達もスケット団の活動で先生達の依頼もこなす訳だし、学園長に申請して付けて貰ったんだ」
「へぇ、そんな経緯があったんだな」
「確か召喚獣って、僅か数点でもゴリラ並の力を発揮するんだよな」
「て事はビッグ3の坂本と霧島さんの召喚獣は…ゴリラ100体分!?テラフォーマーもびっくりだ!」
テラフォーマーもびっくりって…言い過ぎでも無いのが怖いな。
この前技術担任の孫先生の依頼で電鋸等の機械を運ぼうとした時、片手で持ち上げていたもんな…
「まあメリットばかりでは無いな。物理干渉が出来る召喚獣は同時に、受けたダメージの5%が召喚者にフィードバックされちまうデメリットもある」
「おいおい、それって召喚獣がダメージを受けると召喚者も痛いって事だろ?」
「だよな、高点数で力はあってもおいそれと召喚できない、諸刃の剣が3振りもあるって事だよな」
「甘いぜお前ら、観察処分者、及びそれと同等の俺らにしかないもう1つのメリットがある。それは今、2学年の4月という時期では最も重要だ」
『もう1つのメリット?』
「それは…召喚獣の操作経験だ!」
この試験召喚戦争の勝敗のカギは、さっきも言った通り召喚獣のスペック…つまり召喚者の成績に、召喚獣の操作技能を挙げたが、2学年の4月ではまだ召喚獣の操作機会が少なく、結果として技術の差は小さくなり、操作技能の重要性は埋もれがちになる。
だがしかし、俺達スケット団は依頼の関係で召喚獣を操作する機会が多く、同級生と比べて経験値は遥かに高い。
つまりそれは他より操作に手馴れていて、点数で劣っていても技能で圧倒できる、という訳だ。
「高い成績から来るスペックに、雑用で鍛えたテクニック、おまけに物理干渉…そう、一騎当千という言葉が似合うチートキャラが2人、状況によっては3人もいるという事だ!どうだお前ら、これでもAクラス撃破は出来る訳無い事か!?」
『いや出来る!これで勝つる!』
「ならばペンを持て!最終目標はAクラスだ!」
『おぉぉぉぉぉぉぉ!』
「俺達に必要なのはこのFクラスの設備じゃない!」
『システムデスクだ!』
「よしその意気だ!手始めにDクラスを倒すぞ!」
『イエッサ―!』
こうして、試験召喚戦争は始まりを告げた。